九条蔵人にとって、川神という街は非常に過ごし安い街であると言えるだろう。
街を歩く人の中に武道に携わる人間の多さは、日本の武術の総本山と呼ばれる川神院があることもその要員といえる。
そして何より、武神、川神百代という存在。
彼女の常識外の戦闘能力のおかげで、多少あり得ないことがあっても、何でもないかのように受け入れてしまう気質。
そう言った意味で、世界規模での異邦人である蔵人にとって、多少なにかぼろが出ても、個性だとか、気合いだとかそんな単語で簡単に納得してくれるこの街はこの上ないほど、蔵人が現代日本に馴染むには都合の場所だった。
この世界に来て、いや、正確には”戻って”きてはや4年が立っている。
その中で、幾人かの友人と、家族とも言える程に近しい人々も出来た。
一人であればどのようにでも生きていく自信があった。
だが、ミクがいるとなると話は別だ。
未だ幼いミクではあったが、4年前といえば更に幼く、人に頼らなければ生きてはいけなかっただろう。
今考えてみれば自分は非常に恵まれていたのだろう。
九鬼という希有な一族に拾われ、居候としての身ではあるが今に至るわけであるから。
「おっはー、くろー」
蔵人が変態橋を渡り始めて暫くすると、脳天気な明るい声で挨拶をされた。
「こら、ユキ。自分の鞄くらいちゃんと持って行きなさい」
「ユキ、人が多い所でいきなり走ってはいけません」
ユキと呼ばれた少女―榊原小雪に遅れること数秒、スキンヘッドの男と、色黒の優男が近づいてきた。
井上準と葵冬馬。
葵紋病院の跡継ぎと、その幹部の息子。
そこへ、小雪を足すとSクラスでもとりわけこゆい部類にはいる三人組になる。
まるで小さな子を諭す夫婦のような会話だ。
けっして健全な高校生男子がするものではない。
小雪はそんな言葉に頬を膨らませて抗議しながらも、俺の背へ隠れてしまった。
「おはよう小雪、って、おい。なんで隠れる」
「冬馬うっさい!ハゲまぶしい」
どうやら、反抗期らしいこの白ウサギは、人をバリケードか、日よけか何かと勘違いしているらしい。
「やれやれ、すっかり反抗期ですね。クロウ、おはようございます」
「あ、あぁ」
もうこの子ったら仕方ないわねとでもいうかのように、ため息を漏らす冬馬。
「いやいやいやいや、皆さんちょっと待って。明らかに、俺に対しての扱いがおかしくねー?小言言われて眩しいって、反抗期の暴言にしてもあれすぎやしませんか?ていうか、クロウも若もなんか受け入れちゃってますけどぉ」
なにやらねちねちしたしゃべり方で準が近づいてきた。
言いたいことは解るがなぁ。
「随分とご機嫌ななめじゃないか。小雪、何があったかおっちゃんに話してみ」
「準が朝っぱらから変態なせいで間に合わなかった」
明らかに精神的に幼いこのアルビノの少女は、幼い時に何処か壊れてしまっていた。
いや、正確には壊れてしまっていたというか、自ら壊れることでなんとかこの日まで生きてきた。
今から丁度三年半前。
俺がこの世界に戻ってきて、漸くこの世界へ順応し日々の生活を順調に送り出したばかりのころ。
俺と小雪は出会った。
出逢ったと言うにはあまりにドラマチックでない出会い。
ただ、今でも印象に残っているのは、俺を見つけるなり、なりふり構わず追いかけてきて、俺を見つめ、少し話をしただけで、俺の事を可哀想だと泣き始めた小雪。
人の心の動きに敏感なこの純白の少女は、一目見ただけで俺を哀れみ、そして号泣した。
周囲から、綺麗だけど壊れた人間。
気の触れた白雪姫。
そう謂われ避け続けられた少女は、過去のトラウマから自信を守る最後の防波堤として気の触れた自分を作り上げた。
たしかにそんな行動は、他人から見れば酷く歪にみえるのだろう。
だが、ふと思う。
人の為に泣くことの出来るこの白い少女の何が壊れているのだろうか。
こと、この邂逅にいたるまでこの少女の受けた他人からの待遇は、
そしてそれを良しとした周囲の人々の心は、この少女以上に歪なのだろうか。
その考えに至るとようやく自分はこの少女が何故、自分にすがりついて泣き始めたのかに思い至った。
外国に一人放り出されて、孤独に耐えていたところ初めて同郷の人間を見つけたような。
言ってしまえば、理由や建前などをすっ飛ばしてシンパシーを感じてしまうような人間。
其れが俺だったというだけの話なのだろう。
そこに気が付いてしまった以上、自分はすがりつくこの少女をふりほどく事が出来ず、ただされるがままにあやすしかなかった。
その後、何故かこの少女は時折、俺の所に現れては、俺に、話をするように促した。
それは毎日、寝る前の童話を親にせびる子供のようで邪険に出来ず、いつの間にか喧嘩と和解を繰り返し、年の離れた友人という関係になって居たミクとの兼ね合いもあり、そのままずるずると今の関係にある。
家ではミクがおり、学校では小雪がいる。
常に自分より年下の子供の面倒を見ているような気がしてならないが。
「準が小学生の集団登校を見守っていたせいで、朝の限定販売に間に合わなかったんですよ」
俺のちょっとシリアスなモノローグをぶちこわすような残念な理由を冬馬が教えてくれた。
駅前にある「グリム」というベーカリーでは毎朝一番に限定販売を行っており、
その中でも奇跡の食感と名高い「スノーホワイト」というパンなのにマシュマロ食感という
謎のパンが売られている。
噂が噂を呼び、かの食通である熊ちゃんでさえ見たことがあるだけで、食べたことはないという。
朝一番で店に入ってもある人には見つけられず、またある人は、販売時間ぎりぎりでも購入できるという
都市伝説もかくやというしろものを普通に購入できるのは俺のしる限り小雪だけである。
週一という希少性もさながら、自分の好物をハゲのロリコン趣味のせいで駄目にされたとあればいくら
仲の良い友達でも、いや、むしろ仲が良いからこそ許し難いだろう。
「有罪(ギルティー)」
俺の判決を聞くと共に、小雪はハゲの額に「熟女愛」という刺青シールを貼り付けた。
「うをおお、やめろお、ちからが、ぬけ、る……ぐふ」
お札を貼られたキョンシーの如く、顔の濡れたあんパン男の如くへろへろになるハゲ。
「今度また焼きマシマロサンド作ってやるから機嫌直せって、な?」
「ホント?……でも、すのーほわいとがぁ」
一瞬復活したかに思えたが、やはり週に一度の楽しみは捨てがたいらしい。
「ほら、肩貸してやるから学園行くぞ」
「くろー、慰めてぇ」
「うわぁあ、これ全然おちねえぞ」
「あー、はいはい、残念だったな小雪。それでも学校にいくお前は偉いよ」
腕にすがりついてくる小雪の腰に手を回し、何とか学園へ誘導しようする俺と、
断末魔のような準の声。
其れを遠巻きに見る一般生徒と、其れすら気にしない生徒。
まさに、カオスというに相応しい光景だった。
「やれやれ、準には悪いですが、私も小雪とクロウと一緒にいきますか」
それにしても、と早足で蔵人達を追いかけながらも葵冬馬は思う。
蔵人との出会いによって、小雪の中の時間は進みだとしたと言えるだろう。
現に今のようなスキンシップを彼に求めているのは、彼に父性を感じているからであるとも考えられる。
しかし、反抗期と共に芽生えるのは異性への関心。
「ユキが今の自分の気持ちに気づいたときに、一波乱ありそうですね」
ふと宙を見上げれば、どこかの武神に打ち上げられた不良が飛行機雲を作って光り、星となった。
清々しいほどに、今日も変態大橋からみる青空は澄み渡っていた。
相変わらず日常メインです。
もっと話のテンポを上げなきゃ行けないと思いつつも、もうしばらくはこんな感じが続きます。
蔵人が介入していることにより、原作に変化が起きております。
また、原作テキストと大量に文を同じにすると、コピペ扱いされて、ハーメルンの運営さんや、みなとそふとの方達にも迷惑が掛かるので、そのまんまの文章は殆ど残さないつもりです。
なんで、「ここの受け答えが違う」とか、「ここの展開が違う」みたいな展開があっても気にしないでください。
そういう世界なのだと思って頂ければ幸いです。
基本的にヒロインは九鬼家の方々がメインになるつもりですが、小雪や板垣三姉妹などそっちの方面の方々とも絡みを大きくしていきたいです。
メインヒロインたちもふれはしますが、どうせ二次小説かくなら、本家であまり
クローズアップされていない方々を、巻き込みたいなと。