オラリオのスタンド使い   作:猫見あずさ

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幼妻

戦争遊戯(ウォーゲーム)当日、円形闘技場(アンフィテアトルム)

 

【ニヌルタ・ファミリア】のホームが近くにある、東のメインストリート。その端に円形闘技場(アンフィテアトルム)はある。

 

2年前から始まった怪物祭り(モンスターフィリア)や、今回のような決闘の際に使われている。怪物祭り(モンスターフィリア)も再来月に始まるとあって、できるだけ壊さないよう言い含められている。マオは少々派手に壊れても《不壊金剛(クレイジー・ダイヤモンド)》で直せばいいと思っているようだが……

 

観客席には今か今かと待ちわびる神々とその護衛の団員達ででひしめき合っていた。その観客席の最上段の両端に【ロキ・ファミリア】と【ニヌルタ・ファミリア】の両陣営がそろっていた。

 

闘技場には1人。ギルド職員がぽつんと立っていた。

 

【ロキ・ファミリア】側、マオが出てくるであろう登場口の近くには大きな樽が置かれていた。この樽はギルド職員立会いのもと、ただの水が満たされている。そのことはアル・タユにも説明済みであり、了承も得ている。

 

「どんな策を用いようともLv.4に対してLv.3と1とでは(くつがえ)すことなど出来はしない」

 

それがアル・タユの意見であり、それはここに居る者達だけ出なく、迷宮都市オラリオの全冒険者と神――【ロキ・ファミリア】を除く――の考えでもあった。

 

円形の観客席の丁度真ん中に解説席と思しきテーブルとイスが用意され、そこには神ガネーシャとその眷属と思われる人間(ヒューマン)、その2人を挟む形で神ロキと神ニヌルタが座っている。

 

「さぁ、ついに始まります【ロキ・ファミリア】と【ニヌルタ・ファミリア】の戦争遊戯(ウォーゲーム)! 司会は私、【ガネーシャ・ファミリア】の【火炎爆炎火炎(ファイアー・インフェルノ・フレイム)】ことイブリ・アチャーが、解説は我が神ガネーシャ様でお送りいたします。 ガネーシャ様、一言お願いします」

 

「俺がガネーシャだ!」

 

「はい、ありがとうございました。 では、両陣営決闘者の登場です!!」

 

アナウンスに促されるように先ずはアル・タユが登場する。

 

赤銅色にそろえられた防具と丸い盾(ラウンドシールド)長剣(ロングソード)。歴戦の兵という雰囲気が全身から漂っていた。

 

アル・タユの登場による騒ぎが治まると今度はマオの番となるわけだが、登場に合わせて音楽が鳴り響く。

 

結婚行進曲だ。

 

Lv.3の男性団員がタキシードを着用してウェディングドレスを纏ったマオをエスコートする。

 

その姿はヴァージンロードを歩く花嫁そのものであった。武器も防具も身につけず、手にはブーケを持っているだけだ。

 

男性団員と腕を組み闘技場中央へ、一歩一歩ゆっくり進む。首のチョーカーとブーケに付けられた鈴が歩くたびにリンリンと鳴り響く。

 

今から決闘だというのにそんなふざけた真似をしているのだ。アル・タユの表情は怒りに満ちていく。それに反するように観客席の神々は今にも決闘場に降りて来そうなほど興奮しきっており、団員たちが必死で席に押し止めている。

 

『マオちゃんかわいいー!!』

 

『(結婚しよ)』

 

『天使だ、天使が居る』

 

きっと何人かの男神はニヌルタの元へといくマオを次は自分がと考えているのだろう。ニヤニヤと見つめている。ニヌルタに至ってはもう手に入れたかのようだ。

 

「おぉ、花嫁衣裳とはロキも祝福してくれるのか」

 

「アホぬかせ。 あれはマオの単なる御粧(おめか)しや」

 

「情報によりますと【ロキ・ファミリア】のマオは槍をよく使っているとのことですが、武器も防具も持っていないようですね。 また助っ人と思われる男性は……あれ?帰ってしまいましたよ。 ガネーシャ様、どう思われますでしょか?」

 

「……かわいい」

 

「ガネーシャ様?」

 

「はっ、俺がガネーシャだ!!」

 

『おい、ガネーシャが魅了されたぞ』

 

『あの歳でもう魅了するか。 大人になったらやばいな』

 

『俺も今度挑もうかな。 せめてお話したい!!』

 

『『『ノータッチは基本!』』』

 

『そうだった。 ニヌルタはルール違反者だった』

 

神々が好き勝手に騒いでいる。観客席の【ニヌルタ・ファミリア】の団員も勝った気でいるようで、マオの花嫁衣裳に好奇的な視線で見つめている者ばかり。

 

一方の【ロキ・ファミリア】側は全員が作戦を知ってはいるものの、一抹の不安がぬぐいきれない表情の者、策がどのようにはまるのか高みの見物として笑みを浮かべるものと様々な表情が見てとれる。

 

「武器も防具も無いようだが、棄権するつもりですか?」

 

アル・タユが怒気をはらませて訊ねてくる。対してマオは平然とドレスのスカートを摘みクルリと回転して見せる。

 

「いいえ。 ダンジョンではなく神の前での決闘ですからね。御粧(おめか)ししてみたのですが、お気に召しませんでしたか?」

 

「ふざけるのも大概にしなさい」

 

アル・タユが剣を抜き構える。マオはブーケの中から真っ赤な宝石のように光る石を取り出し、樽の中へ入れる。

 

「貴方たちの方こそ、私を甘く見すぎです」

 

マオの右眼が黄金色に輝き、樽の中から槍を構えた人魚(マーメイド)(かたど)った水が飛び出す。胸のところにはさっき落とした赤い石が見える。

 

『おぉーーー!』

 

『マオちゃんすげぇな!』

 

『あの水で出来た人魚も可愛いな。』

 

「さ、さぁ準備ができたようなので、始めましょう! ガネーシャ様、合図をお願いします」

 

「俺がガネーシャだ!」

 

ガネーシャが叫びつつゴングを鳴らす。マオは飛び退き、その間に入るようにして水の人魚がアルに向かって襲い掛かる。

 

「弱点丸出しで!! 舐めるなぁ!!」

 

アルは、人魚の胸にある赤い石を一刀の元斬り捨てる。石が真っ二つに割れ、人魚は形が保てず崩れていき、そのほとんどは勢いそのまま飛びかかってきたアルに掛かり、アルは水浸しになる。

 

「さあ、武器が他に無いようなら諦めて降伏しなさい」

 

「どうしてですか? 私はまだ負けていませんよ?」

 

「武器も無く、先ほどの水ももう(かけ)っ、ぐっ……がっ!!」

 

突然アル・タユが苦しみだす。マオは飛び退いた位置からまだ一歩も動いていない。

 

「おぉーと突然、アル・タユが苦しみだしたーっ!!」

 

「俺がガネーシャだ!」

 

苦しみもがきながらもアル・タユはマオ目掛けて剣を振るう。

 

呼吸がままならなず、集中を欠いた剣戟はLv.1のマオであっても難なく避けることが可能だ。

 

そうしてドレスをつまみ飛ぶように、跳ねるように回避する。その度に首とブーケからリンリンと鈴の音が鳴り響く。もう誰の声も聞こえない。それほどまでに皆が見入ったのだ。

 

マオは《人魚之首飾(アクアネックレス)》で人魚を模った際、わざとモンスターの魔石と同じようなモノであるかのように赤い石を胸に入れたのである。

 

アルはものの見事に引っかかり、もう水は脅威でないと油断したのである。その隙を突き、マオは《人魚之首飾(アクアネックレス)》で水を操りアルの気道を塞ぎつつ四肢の自由も奪いにかかっていたのである。息を止められての動きであってもマオが余裕をもって避けてみせる訳は四肢の拘束(そこ)にあった。

 

必死に剣を振るうアル・タユが滑稽に見えてしまうほど、内心はどうであれマオは周囲を魅了してみせた。

 

そして、終わりが来る。

 

アル・タユがついに倒れた。白目を向き、四肢は痙攣している。口からはどろりと水がとめどなく出て行く。

 

その水が再び人魚の形を作る。しかし、その大きさは半分ほどになっていた。

 

人魚はマオと向かい合い、一緒にお辞儀をする。人魚はただの水に戻り、地面へと染み込んでいった。

 

マオはアル・タユの心臓が動いていること、呼吸が戻っていることを確認すると、ロキに向かって一礼し手を振る。

 

ギルド職員がアル・タユの状態を確認し、マオの勝利宣言をする。

 

「勝者、【ロキ・ファミリア】マオ・ナーゴ!!」

 

「俺がガネーシャだ!!」

 

『Lv.1でLv.4に勝ちやがった』

 

『あの水は何なんだ。 魔法か? スキルか?』

 

『マオちゃん可愛いなぁ』

 

大番狂わせの出来事に【ニヌルタ・ファミリア】の団員も神ニヌルタも、そしてニヌルタ側に賭けていた神々も有り得ないという顔をしていた。

 

「さて、ベート。 感想は?」

 

「俺がやられたんだ。 あいつが勝つのは決定事項だ」

 

これ以上は聞くなとばかりにそっぽを向くベート。フィンはベートとの模擬戦でこの策は十中八九はまると思っていたが、予想以上に華麗に勝ったマオがいた。

 

(ベートの時もそうだったけど、相手の心を乱すのが上手い)

 

大きいファミリアともなると、モンスターとの戦いだけでなく、闇討ちなどの冒険者同士での戦いも起こるようになる。マオはそういった対人戦でも卒が無いことを示して見せたのだ。

 

「リヴェリア、マオには何を教えているんだっけ?」

 

「今は【神聖文字(ヒエログリフ)】と今はもうダンジョン下層についてだな。 本人は料理と【神聖文字】に今は関心があるようだ。 あぁ、後……」

 

「あと?」

 

「魔法と料理が似ているかも知れないと、魔法にも関心を持ち始めているな」

 

フィンは少し考えた後、ラウルを呼ぶ。

 

「ラウル、マオをロキに次ぐ最重要人物に認定する。 今回のように奪われることが無いように注意してやって欲しい。 もちろん僕らも気をつけるようにする」

 

「わ、わかりました」

 

「フィン、何を考えた?」

 

「マオは綺麗に勝ちすぎた。 これに興味を持たない神はいないと言えるくらいに可愛く、綺麗にね」

 

リヴェリアはフィンの言葉を受け、まだ闘技場で手を振っているマオを見つめる。

 

「ティオネー!!」

 

マオがティオネを呼ぶ。そして背を向けてブーケを投げる。ブーケは弧を描きながらティオネの元へ飛んでいき、そのまま無事ティオネによってキャッチされる。

 

何がしたかったのか意味がわからないティオネは首をかしげ、頭の上に疑問符を浮かべている。

 

「本物の花嫁からじゃないけどー!! 早く結婚できるおまじないーーっ!!」

 

大きな声でマオが説明する。周囲もブーケを投げた意図がわかり、ティオネに視線が集中する。

 

ティオネも顔を真っ赤にしてすぐ後ろにいたフィンに話しかけている。

 

そんな中、解説席ではロキとニヌルタが最後の話し合いを行っていた。

 

「ニヌルタ、1週間や。 1週間で眷属(こども)たちの就職先を見つけてあげ。 ウチを希望するもんおるんやったら面接してやってもええ。 1週間が過ぎたら天界へ戻ってもらうで、待たへんからな」

 

「あぁ……あぁ、そうだな。 あの眷属()たちには迷惑をかけた。 それくらいはしてやらんとな」

 

「あとは無いか?」

 

「無い訳ではないが、1週間でやるべきことが山のようにある」

 

「ほうか……それなら、マオ!!」

 

呼ばれてマオがドレスの裾を持ち上げ、小走りにやってくる。

 

「はい、なんでしょう?」

 

「お別れや。 ニヌルタに何か言ったり」

 

「なっ!!」

 

驚いたのは神ニヌルタの方だった。マオはロキの顔をじっと見つめ、しばらくしてからニヌルタの方を向く。

 

「じゃあ……行ってきます、お父さん」

 

マオは深いお辞儀のあとに微笑みかけ、ゆっくりと踵を返し去って行った。

 

ロキは自身の意図を汲んだマオに満足してウンウンと頷きながらニヌルタの様子をうかがおうとして、その上下に動かしていた首をピタリと止めた。

 

ニヌルタはただただマオの後姿を見つめ、滂沱(ぼうだ)の涙を流してた。

 

「……に……し…」

 

「え? なんやて?」

 

「我が生涯に一片の悔い無し!!」

 

「お前、そんなキャラちゃうやろっ!!」

 

ロキが思わずつっこむも、お構いなしに男泣きするニヌルタ。そして、その解説席周辺で聞き耳を立てていた神々もまたマオのあざとさにやられていた。

 

『うん、俺だってそう言っちゃうよ。』

 

『俺、正面から見ちゃった。 もう…あれは…ダメだぁ!!』

 

『お前まで泣いてどうするんだよ!』

 

『結婚して田舎に帰った元眷属のこと思い出しちゃった……あとで手紙書こう』

 

 

 

 

1週間後。ある中堅ファミリアが1つ、無くなった。

 




力が足りないので、四肢拘束は精々、重石を付けた程度の効果しかありません。

ですが、その程度に落しこむことで避けられた。と思ってください。
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