オラリオのスタンド使い   作:猫見あずさ

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注意

赤い瞳の少年は出てきません。


二兎を追う者

リリルカ・アーデと別れたマオは、【ロキ・ファミリア】のホーム『黄昏の館』へ無事に帰る事ができた。

 

リリ対策として行った変装により、街の人々にすら気づかれずに済んだのだ。

 

顔を覆っていた面をはずし、館の門番をしている団員たちに挨拶をする。

 

「ただいま帰りましたー」

 

「おかえり。 リヴェリア様が待っていますよ」

 

「遅くなっちゃったもんね。 仕方ない仕方ない……お兄ちゃんもお姉ちゃんも頑張ってね」

 

「「おう!」」

 

マオは門番をしている2人に挨拶を交わし、ホームへ入る。私室に装備品を置きに向かうが、部屋は暗く、同居人のレフィーヤの姿が見えなかった。そのまま談話室へ向かう。

 

「リヴェリアさんを見かけていませんか?」

 

「リヴェリア様ならレフィーヤの勉強を見てるはず。 第2図書室横だって言ってたよ」

 

男性団員が行き先を把握していて、教えてくれる。マオは謝意を述べ、談話室を後にする。

 

「失礼します。 リヴェリアさん、私を待っていたとのことですが……」

 

「あぁ、それにしても随分と遅いじゃないか。 夕食に間に合わないほど深く潜っていたのか?」

 

「いいえ、ソロでは18階層まで。 破っていませんよ、ちょっと面白い子がいたのでちょっかいを出しているところです」

 

リヴェリアは額に手をあて軽く頭を振る。そして大きな溜め息を1つ()く。

 

「お前の面倒をロキに見せるんじゃ無かったよ。 どんどん悪戯(いたずら)好きになっている」

 

「そ、そんなことありませんよ。 ね? レフィーヤ」

 

「ふ、ふぇ?! 私に聞かないでよ……じ、実害は無いかもしれないけど、マオちゃんの悪戯は心に悪いよ」

 

先ほどまでしていたリヴェリアの講義内容を頭に叩き込んでいたレフィーヤは突然話を振られて動揺し、本音を漏らす。

 

「レフィーヤまでそんなことを……まぁいいです。 それで、何か御用があるとお聞きしたのですが」

 

マオはレフィーヤのまさかの告白(カミングアウト)に若干心が折れそうになりながらも表向きは平然と話を続けようとする。

 

「そうだったな。 探していたのは私ではなくロキでな、何でも『神の宴』に関してらしい」

 

「『神の宴』……に私が関係するとは思えませんが、とりあえず聞いてきます」

 

「私も行く。 が、レフィーヤの指導(これ)が終わるまで待ってくれ」

 

マオはダンジョン帰りであることから、その間にとお風呂にサッと入る。《人魚之首飾(アクアネックレス)》を使えば石鹸の泡も体の汚れも効率よく落とせる。湯上りにマオが身体をブルブルと振れば、もうタオルで拭くまでもなく乾いているのである。――便利なものである。

 

リヴェリアも指導が終わったようで、待っていてくれた。2人で揃ってロキの部屋へ向かう。

 

「ロキ、遅くなったな。 マオを連れてきた」

 

「マオだけで良かったのに、アイズたんのときもそうやけど、リヴェリアは過保護やない?」

 

「アイズは放っておくと1人ですぐダンジョンに行こうとするから目が離せん。 マオは、お前が原因だ」

 

そうリヴェリアはロキを指差しながら言い放つ。心外だとばかりにロキは非難の表情を浮かべる。

 

「ウチが?」

 

「そうだ。 マオはロキの言うことは全て聞くからな。 あくどい事を教えられては溜まった物ではない」

 

「ウチそんなこと教えてないで。 たまたまマオが近くにいて見てしまうだけでな」

 

冗談にもならない言い訳をするロキ。マオは苦笑いし、リヴェリアは深い溜め息を吐く。

 

「まぁ、いい……マオに話があるのだろう。 『神の宴』に関係すると聞いたが?」

 

「せやった。 いっつもこの時期はデメテルん所が収穫祭を兼ねて『神の宴』を催すんやけど、今年は他の農業系ファミリアも巻き込んで、料理のコンペを行うんやって。 で、マオにその料理を作ってもらおうかと思ってな」

 

【デメテル・ファミリア】を含む複数の農業系ファミリアは普段はライバル関係にこそあるが、毎年初夏と晩秋の2回、収穫祭を行っており、『神の宴』としてではなく、眷属と一体となってお祭り騒ぎを起こすのである。

 

(ゆかり)のある飲食店や食品加工店などの非眷属などにとっては招待されるだけで店の箔付けとなっており、それが知れると客足は大幅に増える。だが、それを自慢するような店に次は無い事でも有名だった。

 

今年は加工食品を多く扱っている【バステト・ファミリア】の提案として、料理の競技会(コンペティション)が演目の1つに加えられた。そのため、招待状を持っていなくとも、このコンペに参加申請することで収穫祭への参加資格を得ることができるのだ。

 

暇をもてあました神(ロキ)はそこに目をつけ、この宴に参加しようとマオを巻き込んだのである。普段から当番で無い日でも調理場に立って、手伝いをするほどにマオは料理が好きである。当然二つ返事で了承するのであった。

 

「料理は何でもいいのですか? 条件などあるかと思うのですが……」

 

「待てロキ、そのコンペとやらは何だ?」

 

リヴェリアは初めて聞く言葉のようであった。そう、オラリオではカタカナ語の多くは神のみが主に使っており、それ以外のものは影響を受けたものくらいしか使わず、今回のコンペと言う言葉も使われる機会がなく、リヴェリアほどの知識人ですら知られていない言葉であった。

 

ロキとマオは簡単に説明し、話を続ける。

 

「えーと、待ってや。 この辺に……あったった。 料理の条件は日持ちのするもの、1人前100ヴァリス以内で当日は50人前を用意すること。 農産物は最低1種は入れること、参加に当たって調理担当者他3名まで参加可能……」

 

「ロキさまと私と後2人は参加できるという訳ですね。料理のほうは農業系ファミリア主催らしいですね」

 

「日持ちするという点は、どちらかというと探索系ファミリア向けのような気もするが、どういう狙いだろうか」

 

「簡単ですよ、リヴェリアさん。 このコンペでの優秀作品のレシピを買い取って売るつもりなんです」

 

なんだと!とリヴェリアは憤慨するが、マオはどこ吹く風と言わんばかりに料理について考え出していた。

 

「リヴェリアさん、考えても見てくださいよ。 どうせならダンジョンでもおいしいもの食べたいでしょ?」

 

「それは、まぁ……そうだな」

 

腕を組みながら理解は出来るが納得はしかねると言った態度を見せている。マオはさらに説明を重ねる。

 

「そうなると、これはチャンスなんです。 ファミリアが別々に作ってもせいぜい1、2種類でしょう。 それも美味しいかと問われたら難しいはずです。 このコンペでは美味しいと自負するものが複数出てきます。 店舗から買うことになったとしても、損は無いですし、自前の物は作れば良いわけですからね」

 

ダンジョン探索系ファミリアに所属する以上、粗食にも慣れているリヴェリアではあるが、やはり美味しい物が食べたいという欲求はある。マオの考えは理にかなっていると思えた。

 

「で、マオ。勝算はあるか?」

 

「収穫祭はいつですか?」

 

ロキの問いかけにマオは期日の確認を行った。ロキは丁度1週間後だと告げた。

 

「んー…となると、加熱調理したものになりますね。 今から発酵させるとなると時間が足りません。 ペミカンかパウンドケーキか……」

 

マオは一度、料理本を取りに出て行き。再び戻ってきたときには羊皮紙にペンを走らせていた。ロキとリヴェリアを置き去りに、マオは必要な材料を書き出した。

 

「とりあえず、これで3~5人前になるので、多く見積もって17倍が必要予算になります。 明日にでも材料を買って試作してみますが、大量購入の際は多少安く抑えられると思います」

 

「たのんだで! 試作品はいくらでも食べたるからな!!」

 

勝ったも同然といった態度を見せるロキに、本当に上手く行くのか?といぶかしむリヴェリア。マオはレシピの見直しに頭を捻っている。

 

このまま何時間も思案に没頭しそうなマオを、子供は寝る時間だとリヴェリアは休むよう促した、言われるがまま、マオは早々に部屋へと戻り、就寝する。

 

 

 

 

 

 

翌朝、まだ日も昇っていないどころか、夜の店も方々で静かになり始める午前3時。マオはベッドからそっと起き出し、向かいのベッドで寝ているレフィーヤを起こさないように、誰にも見つからないようにと音を立てずにコソコソと館から抜け出すのであった。

 

向かう先は以前マオがお世話になったパン屋。そこは菓子パンや惣菜パンだけでなく、ケーキなども扱う種類の豊富なお店であった。

 

マオはコンペに向けてレシピの確認を行うため、抜け出してきたのであった。

 

店の裏口をノックし、元気に挨拶する。

 

「おはようございます。 おじさん手伝いに来ました」

 

「おぉ! マオじゃないか、どうした急に?」

 

「ちょっと相談したいことがありまして、私自身の時間もなかったので押しかけてしまいました」

 

「そうかい。 じゃあそっちのサンドイッチに使うトマトとレタスをカットしてくれ」

 

了解!とマオはエプロンを身につけ、三角巾で頭髪を覆い、手を念入りに洗って調理を始める。

 

「……こうして中に入るのは3年ぶりか。 こうやって見ると改めて大きくなったなぁ」

 

パンを捏ねる(かたわ)らパン屋のおじさんはしみじみと感想を述べる。

 

店頭を掃除していたおばさんも調理場にいるマオに驚きながらも昔を懐かしんでいた。

 

踏み台が無ければ届かなかった魔冷庫の上の段や調理台に対してマオは、踏み台を使う事無く時々背伸びしながら(何の苦も無く)作業を進めるのであった。

 

店の準備が落ち着いたころ、おじさんがマオに用件を尋ねる。

 

「で、相談ってなんだい?」

 

「保存食の競技会があるのですが、そこでナッツやドライフルーツを使ったパウンドケーキを焼こうと思っているのです。 注意点やコツがあればと思いまして……」

 

コツなぁ……とうめく様に呟いて腕を組み視線をやや上に向けるおじさん。同じように組んだ腕の片方の手を頬にあて、思案するおばさん。

 

「天敵は湿気と温度よ。 しっかり油紙で包んであげればすぐに悪くなるということは無いわ」

 

「あとはブランデーをたっぷりだな。砂糖と酒は保存性を高めると聞いたことがあるから、ケチらず使えばいいと思うぜ」

 

「「あと、出来たら持ってきて、味見してあげる」」

 

おじさんとおばさんの声がきれいに重なる。それだけでマオは嬉しくてたまらなくなる。懐かしい思い出が頭の中を駆け巡る。

 

それをぐっと押さえ込み、マオはただ面白かったとばかりに笑いあう。

 

そのまま開店直前まで準備を手伝い、みんなが起きてくる前にと塀を飛び越え館に戻る。

 

今起きてきましたといわんばかりの演技で食堂へ向かう。

 

「あらマオ、当番でも無いのに準備万端じゃない」

 

「あっ……えっと、なんだか早く目が覚めてしまいました。 せっかくなのでお手伝いに来ました」

 

準備万端――そう、マオはエプロンと三角巾を身につけたまま移動していたのである。

 

マオのしどろもどろな言い訳に調理場にいる団員は若干違和感を感じ取るが、寝ぼけているのだろうと気にしないままマオを迎え入れた。

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