オラリオのスタンド使い   作:猫見あずさ

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品評会

東のメインストリートから少し北に入ったところに、今回の感謝祭(神の宴)の会場はあった。

 

【デメテル・ファミリア】を含め、全ての農業系ファミリアはオラリオの郊外に土地を所有しており、そこを耕地としているため、ファミリアに所属していてもほとんどが【神の恩恵(ファルナ)】を与えられていない。これは運営方針ではなく、迷宮都市オラリオにおける武力の流出を防ぐ意味が大きい。

 

今回は特に探索系や商業系のファミリアを巻き込んでの感謝祭とあっては、市壁の外で行うわけにもいかず、ギルド所有の迎賓館の1つで行う事になった。

 

マオ、ロキ、フィン、ガレスの4人は大きな木箱2つを積んだ馬車に揺られ会場へと向かっていた。

 

手配はフィンが行ったが、マオはそれをそっくり真似てソーマたちにも馬車を手配しており、ほぼ同時刻に到着できるようにしていた。

 

「お、待たせたな」

 

「それほど待っても無い。 だが、もう少し遅ければ帰るところだった」

 

【ソーマ・ファミリア】の方が先に会場へ到着しており、少々待たせてしまっていたようだ。そして、宴会よりも酒造りに精を出したい神ソーマは早くも帰りたいと洩らしている。

 

「マオ、もしかして時間そのままで依頼したんじゃないかい?」

 

「あっ!」とフィンの指摘に声を出すマオ。

 

会場は東のメインストリート沿いである。同じメインストリート近くにホームを構えているソーマたちのほうが先に着くのは当たり前である。

 

マオがソーマたちに詫びを述べ、一団となって受付へと向かう。コンペへの登録を済ませ、会場に入ってしまえば後は自由行動である。早々に【ソーマ・ファミリア】は分散していく。

 

取り残されたのは主神ソーマとリリ。ソーマはロキにの手によって神々の元へと連行されてい行かれ、話の種にされてしまっている。

 

「ナーゴ様、改めてこのドレスありがとうございます」

 

リリは入り口近くに同じく取り残されたマオに向かって謝意を述べる。

 

リリは髪色と同じピンクのドレスに白い肘まであるグローブ、ラインストーンで要所に飾りの入ったハイヒール、鈴蘭の花の髪飾りとマオとロキによってコーディネートされた衣装に身を包んでいた。

 

マオも同じ柄で色違いの青いドレス。フリルの部分は白色で波を思わせるようなドレスとなっており、髪飾りも魚をモチーフにしたものになっていた。歩きにくいからとマオの靴にはヒールはほとんどない。

 

「ううん。 一度、こういう御揃いの格好とかやってみたかったんだ。 私のほうこそ、無茶な誘い方でゴメンね。 一緒に来てくれて嬉しかった」

 

「もう! 本当ですよ……ですが、どうして私なんですか?」

 

「それは、アレよアレ」

 

「……アレ?」

 

灰かぶり姫(サンドリヨン)にカボチャの馬車と綺麗なドレスを用意して、舞踏会で王子様に見初められて欲しいから、かな」

 

「な、な、何を言っているんですか!」

 

「まぁ冗談に近いですが、現状を打破してくれる人に出会うチャンスかも知れませんよ」

 

「……美味しいもの食べて帰るだけですけどね」

 

「とりあえず、それでいいよ」

 

入り口近くでキャッキャッとはしゃいでいる様に見える2人は続々と入ってくる神々やその眷属たちの好奇の視線を集めているとは露にも思わないのであった。

 

「付いて来ないと思ったら……いつまでも入り口の横に突っ立ってないで来てくれよ。 マオの方がロキの扱いは上手くなってるんだから」

 

フィンがそんな2人を呼びにやって来る。「はーい」と声をそろえる。そんな様子を見てフィンは思わず「姉妹みたいだね」と笑う。

 

「姉妹でしたら、リリの方が年上ですし、お姉さんですね」

 

「いやいや、私の方がレベルが上なんだから、お姉さんでしょ」

 

「いーえ、リリがお姉さんです」

 

「私の方が面倒見いいし、お姉さんだもん」

 

「リリです!」

 

「そんなに言うんだったら、ビシッと踊って見せてよ。 ほら、フィンさんもいるし、身長が合わないなんてこともないでしょ!」

 

ケンカが始まったかと思いきや、ニヤニヤと笑って挑発してみせるマオと意図が分かってグヌヌと悔しがるリリ。フィンは周囲の注目を集めていることにいい気はしていないが、ことを治めるならと、流れに任せていた。

 

「お、踊りくらい踊って見せますとも! でぃ、ディムナさん一曲踊ってくださいませんか?」

 

腕を組んで様子を眺めていたフィンは、おずおずと差し出された右手に対して姿勢を正し、恭しく一礼してからその右手を取った。

 

「よろこんで、お嬢さん」

 

丁度曲が終わり、2人は空いたスペースへと向かう。フィンは悠々と足を進めているのに対し、リリは緊張で今にも転びそうなほどカクカクと動いていた。

 

「改めて名前を、僕はフィン・ディムナ。 お嬢さんの名前を教えてもらってもいいかな?」

 

「これは失礼しました。 リリルカ・アーデです。 ディムナ様」

 

「フィンでいいよ。 僕もマオと同じようにリリと呼ばせてもらってもいいかな?」

 

「ええ、構いませんよ。 フィン様」

 

様付けにフィンが苦笑していると丁度次の曲が演奏されはじめる。フィンとリリもリズムを取って踊るのだが、リリが緊張から上手く踊れないでいた。

 

「リリ、焦らなくていい。 僕の目を見て、呼吸を読むんだ。 冒険者なら、サポーターならそれでいけるよ。 僕に任せて」

 

「は、はい!」

 

アワアワとパニックになり始めていたリリをフィンが励まし、引率する。リリも彼の言葉に正気に戻り、呼吸を合わせされるがままと言わんばかりに踊りをあわせていく。

 

ガチガチに緊張していたリリのせいでチグハグだった踊りが綺麗なものになっていく。

 

それはフィンという第一級冒険者とリリという磨きのかかったサポーターの息のあった動きのなせる技であった。

 

周りからもクスクスという笑いが起こっていたが、いつしか驚嘆の溜め息へと変わっていった。

 

マオはロキたちと合流し、フィンとリリの踊りを満足気に眺めている。

 

「マオ、ティオネにバレたらヤバイんちゃうか?」

 

「ええ、ですから秘密にお願いしますね。 少なくとも本人の耳に進んで入れることの無いようにお願いします」

 

ロキの一言にマオは上ずった声で答える。フィンに女性を紹介した。この事実がティオネ・ヒリュテの耳に入ろうものなら間違いなく『黄昏の館』はどこかが壊れているだろう。ロキも被害が自身に及ぶのは困る。ガレスもその狂乱ぶりは想像に難くないので口を閉じる。

 

曲が終わり、2人が戻ってくる……かとお思いきや、リリだけがマオたちと合流する。フィンはーっと見渡すと、別の女性を踊っていた。

 

「私と踊り終わった後、他の女性のみなさんがフィン様に殺到されまして……」

 

「あー……誤魔化す意味でも丁度いいですね。 もう2、3曲したら助けに行きます」

 

「せやな。 1人だけと踊ったってなったらリリも危ないからな。 主にウチのアマゾネスのせいで」

 

拉致にも等しいフィン争奪舞踏会を遠い目をしてながら見守る4人。マオがもう一仕事とリリを誘う。

 

「リリ、ソーマ様の所にも行こう。 ほら、せっかくの宴なのに1人で飲んでる」

 

リリがマオの指差す方を見ると、バーカウンターで様々な酒を延々と1人で飲んでいるソーマの姿があった。 時々、神が声をかけているようだが、ソーマは無視に近い形であしらっていた。 2人はそんなソーマを挟む形で席につく。

 

「ソーマ様、せっかくの宴です。 もっとお話などを楽しまれては?」

 

「……興味が無い」

 

「もっと美味しいお酒の飲み方も知りましょうよー」

 

「飲み方ではなく、ただ純粋に美味い酒があれば良いのだ」

 

「ここのお酒は気に召しませんか?」

 

マオの呼びかけてにそっけなく答え、最後のリリの問いかけに首を縦にコクンと振る。今にも溜め息を吐きそうなリリとは対照的に、マオは悪戯を思いついたような人相の悪い笑みを浮かべていた。――もっともそれに気付けるのはリリしかカウンターには居なかったが。

 

「ソーマ様はお酒を冷やして飲んだり、温めて飲んだりはしていますか?」

 

「……なんだそれは?」

 

今までずっとお酒の注がれたグラスにしか目を向けていなかったソーマがマオの方を向く。マオはそんなソーマにニコリ(ニヤリ)と笑みで返し、言葉を続ける。

 

「そのままの意味ですよ。 お酒のソーマをキンキンに冷やしてお飲みになられたことはありますか?」

 

「……ないな。 特に冷やしたり温めたりはしない」

 

「試しに、ここのお酒でやってみましょうか。 バーテンさん、グラスを2つ。 ガラスが薄いものと厚めのものを2つずつお願いします」

 

マオの注文にバーテンダーはワイングラスを2種類用意する。マオは赤葡萄酒(ワイン)をボトルごと受け取り、2つのグラスに味見程度の量を注ぐ。

 

「まずは通常の温度、いわゆる常温ってものですね。 これでも味に違いが出るんですよ」

 

そういって、ソーマの前にグラスを2つ置く。ソーマは詰まらなさそうにその2つのワインを飲み干す。

 

「……!!」

 

2つ目のグラスを飲み干した表情は驚きに満ちていた。

 

「味が……違うだと!?」

 

「ふふふ……さ、次は同じワインを冷やしたものです」

 

マオは右眼を金色に光らせながらワインを注ぐ。グラスの外側には結露が見てとれ、注がれたワインが冷えていることがわかった。

 

ソーマはこれも順番に飲み干す。しかし、先ほど2つのグラスに味が変わったように、冷やしただけでも変化があるものと注意しながら飲み干す。

 

「……猫人(キャットピープル)、何をした?」

 

「《スキル》を使って冷やしただけです。 ワインそのものに何かを混ぜたりはしていませんよ」

 

「ならば、何故こうも味がかわる」

 

「人も神も体の構造(つくり)は同じだそうですから、きっとこうなると思っていました。 味を感じるのは舌ですが、それぞれ甘みや辛みといった味を感じる部分は異なるんです」

 

ちょうど、この『神の宴』の会場のように、ひとくちに宴会場と言っても踊る場所や飲む場所、食べる場所とそれぞれテーブルやイス、カウンターなどで役割分担がされているように、とマオは例えを交えて説明する。

 

「そして、温度は香りと味の順番を入替える要素ですね。 冷やせば味が先に、温めれば香りが先にきますから」

 

「……ふむ、良いことを聞かせてもらった。 お主、名は何と言う?」

 

「ロキさまにお仕えしております、マオ・ナーゴ、2つ名を【水鈴嫁(アプサラス)】と申します」

 

「アプサラスか……なら【酒守(ガンダルヴァ)】の嫁に来ぬか?」

 

ソーマの何気ない一言に周囲ザワッとなる。

 

『おい、ソーマがナンパしてるぞ』

 

『なんだって?! (リン)ちゃんじゃないか!!』

 

『何? (リン)ちゃんはダメだ』

 

『ちょっと待ったー!って俺、行きたい』

 

『あ、俺も』

 

『俺も』

 

「ちょっと待ったーーっ!!」

 

神々の本気とも悪ふざけとも取れる言動に、女性の声で本当に待ったがかかる。

 

「私のマオちゃんに手を出さないでくれるかしら」

 

声の主は艶のある黒髪と夜でも輝く金色の眼を持つ女神、バステトであった。ゆっくりと歩み寄ってくるバステトの後ろから駆け寄り、そのまま頭を(はた)くもう1人の神が現れる。

 

「いやん!」

 

「何が「いやん!」や!! 誰のマオや、誰のー!! ウチに決まってるやろ! アホぬかせ!!」

 

「ロキさま、落ち着いてください」

 

「なんや、マオ。 ウチが悪いんか」

 

「まぁまぁ、みなさん。 せっかくですので、感謝祭を楽しみましょうよ。 ね、ロキさま」

 

「まぁそうやけど……」

 

「そんなロキさまにとっておきの1品です」

 

マオはバーテンダーからカクテルグラスと極東産の純米酒をボトルごと貰う。そして、ボトルを一気に凍るほど冷やしてからグラスに注ぐ。過冷却の効果で注がれた先で凍っていく純米酒にロキも周囲の目も釘付けになる。純粋なお酒だけで作るカキ氷だ。最後にスプーンを添えてロキに差し出す。

 

「度数が高くなっているので食べすぎ注意してくださいね」

 

恐る恐るスプーンですくい、匂いを確かめて口の中へ運ぶロキ。口の中で氷が溶け出し味と香りが広がる。

 

「かーっ! なんやこれ、めっちゃ旨い! 米だけ!? めっちゃフルーティーやで、これ!!」

 

ロキの感想に他の神々も「自分にも」とマオに要求する。マオはグラスとスプーンを用意してもらい、すぐに作り渡していく。ソーマもそれを受け取り口に運ぶ。リリはお酒がトラウマだと避けていたので、ジュースで代用して渡す。

 

皆がマオのつくる一品に舌鼓を打ち、会話に華を咲かせている。

 

「ソーマ様、みなの様子を見てどう思いますか?」

 

「……楽しそうだな」

 

「これがお酒の持つ力です。 上手く引き出してあげてくださいね」

 

「私が作る酒は美味く無いと言うのか?」

 

「違いますよ。 腰が抜けるほど美味しいのは聞いています。 楽しい雰囲気にできるお酒だともっと良いってことですよ」

 

「楽しいか……私にはよくわからんな」

 

「おや、神様でもわからないことがありましたか」

 

「ふふっ、そうだな。 神でもわからんことがあったな」

 

「ソーマさまの眷属の多くは酒飲みですよ。 知っている人もいるでしょうから、聞いてみては?」

 

「そう……だな。 ……たまには話をしてみるか」

 

ソーマのその言葉に一歩前進とマオは満足し、リリも何かが変わるのではと希望を抱くのであった。

 

……そして、そんなやり取りを憎憎しげに睨む男の姿もあった。

 

マオはロキのもとへ行くと、ガレスだけでなくフィンも戻ってきていた。先ほどの騒動の隙に抜け出したらしい。

 

「ロキさま! 飲んでばかりだと後でしんどくなりますよ。 食事もしてください」

 

品評会(コンペ)でどうせ美味しいもん出てくるんやろ? だったら今の内に飲んどかんと」

 

「そういってロキは飲み続けるんだろ。 ほどほどにしておかないと味わかんなくなるよ」

 

「それもそうやなぁ……この辺で一旦休憩しとこか」

 

「ロキも分もわしが飲んでおいてやるわい。 がっはっは!」

 

会場内にアナウンスが響き渡る。品評会(コンペ)参加ファミリアの代表は隣の部屋で盛り付けなどの指示と聞き取りに応じて欲しいと。

 

そのアナウンスにフィンがマオを呼ぶ。

 

「僕とマオで行こう。 ガレスはこのままロキに付いていてくれ」

 

「フィンさん、リリも連れて行きましょう。 聞き取りに必要かもしれません」

 

「そうだね」とフィンはマオの要望を了承し、カウンターでソーマの面倒を見ているリリを呼び、隣の部屋へ向かう。

 

部屋の中では他の参加ファミリアの団員たちで熱気に包まれていた。「おもしろそう」と主神の一言で参加を決めたマオたちとは比べ物にならない真剣さで盛り付けなどを指示していた。

 

マオたちも担当のスタッフたちに使った材料とケーキ1本の値段と1人前の値段を伝え、味のアクセントや保存方法と保存可能期間などを伝え、ケーキを1C幅にカットし、数本分だけ飾りつけ用に残したりもした。

 

準備が完了した所から順番にワゴンで運ばれ、会場のテーブルに並べられていく。先程までの料理は全てバーカウンター脇のテーブルに移されており、先ほどまで料理が乗っていたテーブルは綺麗に直され、番号がどの角度からでも分かるようにクロスに貼られていた。

 

魔石拡声器が唸り(ハウリング)を上げて周囲の注目を集める。

 

「失礼しました。 これより『旨い保存食!品評会(こんぺてぃしょん)を始めます。 司会進行は私、【デメテル・ファミリア】のジョージ・トロバイロンが務めさせていただきます」

 

『うぉぉぉぉぉぉぉおおぉぉぉぉぉ!!』

 

拍手と雄叫びで迎えられる品評会(コンペ)は今回1番の演目(出し物)なのは間違いない。

 

ルールの確認がなされる。『日保ちのする物、1人前100ヴァリス以内』だ。それと今回は50人前を持って参加となっている。

 

参加ファミリアは全部で17。参加申請したものの間に合わず、勉強のためにと眷属を連れて参加をねじ込んだ神もいるが、デメテルたちは「感謝祭だから」とその無茶を全て受け入れたのである。

 

机に並べられた17種の料理が並べられているが、保存食とあって全体的にテーブルの上を茶色く染めている。

 

「えー……盛り付けが完成した順に並べていますので、紹介の後に試食となります。1番テーブル、【タケミカヅチ・ファミリア】で、干飯(ほしいい)です」

 

「あ、タケミカヅチ様も参加されてたんだ……干飯か。 確かに保存食だけど、受けは悪いだろうなぁ」

 

マオはお世話になっているタケミカヅチとその眷属たちを遠目に見つけ、テーブルの上に盛られた干飯にさらに遠い目を向ける。

 

『かたっ!』

 

『味が……塩辛い』

 

普段、米を食べ慣れていない人に対しては少々ハードルが高かったかもしれない。

 

順番に紹介されていくが、塩漬けや干し肉と野菜の酢漬けなどがほとんどで、神たちは普段は食べないそれらを口にしては「寂しい」「しょっぱい」「くさい」「硬い」「変な味がする」とそのボルテージを着実に下げていった。

 

極一部の神々は眷属がこのような粗食に耐えながらダンジョンに潜っていることに感謝の言葉を口にしていた。

 

マオたちの番がとうとうやってくる。

 

「17番テーブル、こちらが最後ですね。 【ロキ・ファミリア】と【ソーマ・ファミリア】でパウンドケーキです。 フルーツとナッツの2種類がそれぞれ25人前ずつあるそうです」

 

『最後にケーキか……もう響きだけで嬉しい』

 

『ロキとソーマだと、珍しい組み合わせだな』

 

『この香りは神酒(ソーマ)ではなく、ラムか。 酒ってとこがソーマとロキらしいな』

 

『中のフルーツも……酒に漬け込んであるのか、美味いな……』

 

『ナッツも風味があって、いけるぞ』

 

『でも、口の中の水分取られるな』

 

『それは今までのも変わらんだろう』

 

『『『確かに』』』

 

反応は上々だが、漬物や干し肉たちに比べたらというもので、他にもレベルの高い料理もいくつか出品されており、油断はできなかった。

 

 

 

「最後に投票となります。 記名投票となっておりますので、無記名は無効となりますので、お名前とテーブル番号のお間違えの無いようにお願いいたします」

 

決めきれない神や眷属たちがいくつかのテーブルの前で右往左往しては頭を抱えるという行動を繰り返していた。コンペに参加したファミリアは早々に投票を済ませ、それぞれの料理の感想を述べたり、コンペ前の料理で貧しくなった心を癒したりと各自で時間を潰していた。

 

マオは門下生ということもあり、タケミカヅチのもとへと挨拶に行っていた。

 

「タケミカヅチ様、今回参加されていたんですね」

 

「おぉ、マオか。 タダ飯とタダ酒にな。 それに、保存食を持ってくるだけで眷属(こども)たちも3人連れてこれるとあっては1も2も無く参加をきめてしまった」

 

「桜花さんと命さんと飛鳥さんですか、みなさん容器持ちなんですね……今度のお中元は、もうちょっと良い物もって行きますね」

 

3人ともマオの憐憫の眼差しに心を痛めるが、ホームに残された仲間のためにとせっせと容器に詰めていくのであった。

 

「ところで、タケミカヅチ様。 どうしてお餅にしなかったのですか?」

 

そう、マオの中では餅も候補の1つであり、火を通せば美味しく楽に食べられ、膨らむ様子は見ていて楽しいと知らない人からすればパフォーマンスに優れた1品だろうと思っていたからである。

 

ただ、マオはヨモギや大豆(きな粉)しか野菜を入れた餅料理が思い浮かばず、諦めたという経緯だ。

 

腕を組み、大きく頷き返すタケミカヅチ。狙いは一応あったようだ。

 

「うむ。保存と携行に適した物をと思ってな。 そうなると干飯(ほしいい)の方が味や食感はともかく適していると思えたのでな」

 

マオはそのままタケミカヅチと他の出品料理の意見などを交わす。ホームに残された団員たちのためにとタッパーに詰めていた桜花たちも戻ってくると丁度集計が終わったのか、拡声器から声が響く。

 

「大変長らくお待たせいたしました。 結果発表です」

 

マオはタケミカヅチの輪から外れ、ロキたちと合流して結果発表を待つ。主催神の1人、デメテルが手に羊皮紙を持って壇上に現れる。司会がデメテルと頷きあい、司会者が声を上げる。

 

「それでは、第3位の発表です!」

 

「【ロキ・ファミリア】・【ソーマファミリア】、2種類のパウンドケーキ」

 

上位に食い込む自信があっただけに、早々と呼ばれてしまい意気消沈するマオとロキ。それをフィンとガレスが励まし、壇上へと誘導する。壇上にロキとマオ、ソーマとザニスが並ぶ。

 

「3位の賞状と記念のトロフィー、それと特典の『10%割引券(1年間・無制限)』チケットの贈呈です!」

 

デメテルが順番にトロフィーと賞状、チケット2枚を渡して行き、最後にインタビュー役をデメテル自身が務める。

 

「どちらも探索系ファミリアだけど、誰がこの料理を考えたの?」

 

「ウチのマオや。 ソーマんとこには仕入れの方でだいぶ助けてもらったんや。 それにな、マオの料理はいつも美味しくてな…………」

 

一番近くにいたロキがペラペラと聞かれてもいないマオ自慢を始める。

 

貰う物もらったらさっさと帰りたいオーラを出すソーマとザニス、それと顔を真っ赤にしてうつむいてロキが話終えるのをひたすら待つマオ。

 

それを下からニヤニヤとしゃがみ込んででも眺めようとする男神たち。その男神たちの存在に気付いたロキがようやく話終え、一同壇上からようやく下りることになる。

 

「ロ、ロキ様の眷属愛に満ちた貴重なお話ありがとうございました。 続きまして第2位の発表です!」

 

商業系ファミリアが2位を、農業系ファミリアが1位を受賞した。

 

評価としては探索系ファミリアながら3位入賞を果たしたロキとソーマが話題の中心になりながらも、みな改めて入賞作品に舌鼓を打ち、感謝祭はお開きとなった。

 

それぞれの馬車の前で別れの挨拶を交わす。

 

「ソーマも今日はありがとうな。 たまにはこういうのもエエやろ?」

 

「煩いし、馴れ馴れしいし、面倒だ。 ……だが、たまにはいいな」

 

ソーマのぼそりと呟くような言葉に苦笑を浮かべていたロキとザニスだったが、後半を耳にするや目を見開き驚きを露わにする。

 

「な、なんと! ソーマ様がそのようなことを仰るなんて……」

 

「なんや、無理矢理でも誘った甲斐が有って良かったわ」

 

「……帰る」

 

ほんのりと頬を赤く染めたソーマが馬車に乗り込む。続いてザニスらが乗り込んでいく。

 

「リリ、今日はありがとうね。 ソーマ様のお世話で疲れたでしょ? 明日はどうする?」

 

「はい、今日はもう本当に疲れました。 よろしければ、明日はお休みを頂きたいですね」

 

「じゃあ、明日は休みで。 遠征あるからあと2日分、よろしくね」

 

「はい、ナーゴ様。 それではおやすみなさい」

 

「おやすみ」と挨拶を交わし、【ソーマ・ファミリア】の馬車を見送る。ガレスがマオを呼び、マオたちも馬車に乗り込みホームへと帰る。

 

 

 

「ホームに帰ったら口にできへんから先に聞いとくわ。 フィン、あの子どうやった?」

 

「マオの友人の小人族(パルゥム)()かい? 別に。 可愛い子だとは思うけど、それ以上の感想は特にないよ」

 

「さよか。 でもマオはあの子をフィンの嫁候補にしたかったんやろ?」

 

ロキはマオに話を振る。

 

「そうですよ。 あの子はね、灰かぶり姫(サンドリヨン)なんです。 だからついつい手助けしたくなっちゃって、彼女にとってフィンが王子様になったらいいなーって」

 

「ガッハッハ! フィンに女を紹介するなんて、ティオネが怖くてワシですら出来んというのに、マオは中々に豪胆じゃわい」

 

「私も戦々恐々ですよ。 だからホームではロキさまと同じ様に口に出すことは無いと思います」

 

「まぁ僕が彼女の王子様になってあげられるかは、今後の彼女次第だね。 【勇者(ブレイバー)】の嫁も小人族(パルゥム)の象徴となってもらわないといけないからね」

 

「お、着いたみたいやな。 この話は終わりでええか?」

 

「もちろん」

 

フィンとマオの声が重なり、ガレスが大きな声をたてて笑う。

 

帰って来た4人はそれぞれ自室に戻り、普段着に着替える。

 

 

 

マオは夜も更けてきているということでお風呂に入って早々にベッドに入った。

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