間違えました。次章からでした。申し訳ありません。
今章は4話で終わりますので、ご容赦ください。
瞬刹
マオはリリとのパーティーを一時解消し、【ロキ・ファミリア】の遠征に参加していた。
今回の目標は37階層の階層主ウダイオス討伐による団員のランクアップ。そして、ラウルの指揮能力強化が目的だ。規模としては小遠征。
全体の行程としては49階層のバロールたち階層主を撃破し、新たに生まれてくるまでにもう1度、記録更新用の遠征を行う予定だ。
マオたちは10名程度の班を組み、18階層までを一気に下る。
遠征組を班単位に区切る理由は単純で、遠征組が一団となって進むにはダンジョン上層・中層の通路に余裕がないことが上げられる。通路が狭かったり、他パーティーとの接触を避ける意味で通常のパーティー人数程度の班で18階層まで下り、そこで合流してから下層へ進むことになっている。
マオはその中でも1番最初に出発した班の中にいた。第一級冒険者を中心に編成されたその班はフィン、アイズ、ベート、ティオネ、ティオナ、マオ、ラウルとサポーター3名で構成されていた。
マオは背中と左胸に【ロキ・ファミリア】のエンブレム、『
武器は腰に赤と青の双剣、右手に白銀の槍だ。いつもの
そんなマオたちは今、17階層の『嘆きの大壁』の前にいる。
約2週間の間隔でこの大壁から生まれてくる階層主ゴライアス、その討伐が彼女たち1班の目的だったからだ。
しかし、ゴライアスはまだ生まれておらず、後続の班が目の前の18階層へと進むのを見送っている。18階層はモンスターの生まれない貴重な階層、その風光明媚な環境から『
「出てこないねー」
「もう他のパーティーが倒しちゃったのかもね」
「どちらにせよ、ガレスたちが抜けるまでここで待機だ」
両端が半円状の大剣を肩に担いだアマゾネスの少女、ティオナと彼女に良く似た容姿でククリナイフの双剣を腰に収納したティオネがこの嘆きの大壁のある大きなルームに迷い込んできたモンスターを狩りながら話をする。それに金髪の
『嘆きの大壁』からはゴライアスしか生まれてこない。しかし、ルームを形成する他の壁からは17階層のモンスターが生まれてくる。後続の団員たちを安全に18階層に送り出すにはここで撃破報告の無いゴライアスが生まれてくることに対して警戒し続ける必要があった。
「……で、こいつは何してんだ?」
ベートがフィンに問いかける。指差す先にはマオが踊っていた。槍の石突部分を地面に突き刺し、双剣を抜き剣舞を舞っていた。彼女の持つ
「さぁ? 聞いてみたら?」
フィンもマオの行動理由がわからず、彼女に聞けとベートに返す。ベートは面倒くさそうとばかりに息を1つ吐き、頭をガシガシと掻く。銀髪が手の動きに合わせてバサバサと跳ねる。
「チッ……おいチビ! 何やってんだ?」
マオは手を、足を止めることなくベートの問いに答える。
「何って、ゴライアスを呼んでるの。
ベートの欲しい明確な答えはなかった。
マオも半ば暇つぶしのようにモンスターを狩っていただけであり、まだまだ余裕のある階層だ。わざとらしく踊って見せるような動きで遊んでいたのだ。
「よく分かってないのかよ! バカかっ!」
「……ッ!? ベート、くるよ」
ベートの耳にはアイズの言葉が先か、それとも壁のビキリと割れる音が先か、良く分からなかった。しかし、ガレスたち後続の班が通り抜けるより先に階層主ゴライアスが現れた。それがわかっただけでベートにとっては十分であった。
ビキリ、ビキリと壁に亀裂が入る。ガラガラと破片となった細かい壁だったものが床に積もる。ゴトンと大きな塊が地面を震わせる。その隙間から褐色の腕が、胴が、頭が……全身が壁を越えマオたちの前へ露わになる。身長6
第一級冒険者たちが武器を手に構えなおす中、1人の猫人がずいと前に出る。
「ちょっと試したいことがあるので、皆さん下がっていてください」
マオは双剣を鞘に仕舞い、槍を手に後ろに飛び退きつつ皆に自分がやると主張する。
マオは漸く120
「使い忘れていたスキルがあるんです。 上手くいけば楽に倒せますので、10秒ください」
「……10秒だね。 わかった」
フィンの決断に皆、マオのやや後方に位置取りいつでも戦えるように警戒する。
ゴライアスの正面、最も近い位置に《
足元のマオを見下ろすゴライアスとマオの視線がぶつかった。その瞬間、マオの両目が紫色に光る。ゴライアスの目も虚ろな紫色に染まる。
「……もっと顔を近くに。 そう、いい子」
ゴライアスはその場に
「ティオナ、首お願いします」
マオが後方にいるティオナの方を向いて、止めを依頼する。その双眸が紫に輝くのを見て何となくマオが何をしたのか理解した。
「あ、うん! いっくよーっ!!」
ティオナが飛び上がり、
「よっし、魔石も取れたっす!」
ラウルが胸の魔石を抜き取り、全てが灰に還るその時までマオは頬を撫でるのを止めなかった。
「マオ、行こう」
「……うん」
フィンが呼びかけ、18階層へと足を向けるマオの目には涙がたまっていた。
「全く、嫌なら止めときゃいいものをよー!」
「マオだって、あそこまで懐かれるとは思ってもいなかったのよ、きっと」
ベートの憎まれ口にティオネがフォローを入れる。モンスターと言えど、正々堂々とした戦いでないマオのスキルに誰もが思うところがあり、空気が重くなる。
「うん……うん。 試してみたかったんだ。 《魅了》で従順になってるところを仕留めるのはちょっと気分良くないね、コレは極力使わないでおくよ……ラウルさん以外には」
唐突に話題に上げられたラウルは激しく狼狽する。
「なんで俺なんっすかーーー!!」
「なんでって、ラウルさんが私より弱いから?
「はっ!?」
ラウルが慌てて周りを見渡す。そこには第一級冒険者たちとラウル、それと自分より下位のサポーター3人だ。いわゆる弄られキャラなのは自分だけ。ラウルは自分がからかわれていることに気付く。
「や、やだなーマオちゃん。 俺を魅了したって面白くないっすよ」
「いやいや、ラウルさん。 魅了慣れしておけば、娼館でイシュタル様とばったり出くわしても大丈夫かも知れませんよ」
「やだー、ラウル不潔ーー」
ティオネがふざけてマオの冗談を囃し立てる。ベートはくだらないとばかりにそっぽを向き、ティオナとアイズは知っていてもどういう場所なのか、詳しく知らないために乗り切れない。
「行かないっすよ!? 何言ってんっすか!!」
「さぁ、ガレスたちも来たことだし、僕たちも18階層へ行こう」
パンパンと手を叩き、弛緩した空気を引き締める。
フィンはさりげなくラウルの横に行き、「重くなり始めていた空気を一掃してくれて助かった」と道化を演じざるをえなかったラウルを慰めた。