オラリオのスタンド使い   作:猫見あずさ

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お披露目

マオの夢遊病に対処しながらも遠征は下へ下へと突き進み、深層を進む。

 

25階層からを深層と呼び、先ほどまでの樹の中を思わせる迷宮ではなく、広いルームが組み合わされて出来ていた。事故らしい事故が起こる事なく目的地の1つ37階層に到達していた。

 

そこは先ほどまでのダンジョンと様相を変えており、白濁色の壁面、ルームの1つ1つが広く、層を成す迷宮構造となっており、その雰囲気から『白宮殿(ホワイトパレス)』呼ばれていた。

 

フィンは最終確認を行う。

 

「今回は次回の遠征に向けた掃除だ。 迷宮の孤王(モンスターレックス)、ウダイオスの討伐。 作戦はみんな覚えていると思うけど、再確認させてもらうよ。 まず――」

 

フィンは全員の表情を確かめながら話を続けて行く。作戦はラウルたちLv.4の第二級冒険者がウダイオスが呼びだすスパルトイたちの討伐と後衛の防御、マオたち第一級冒険者がその間にウダイオスの注意を引き、後衛の魔法の一斉射でウダイオス、次に残ったスパルトイの殲滅という流れだ。

 

フィンは全体の、リヴェリアは魔法部隊の、ガレスは前衛のそれぞれ指揮と鼓舞が役割となっている。

 

そして、団員全体の余力次第ではここ37階層にある広大なルーム、闘技場(コロシアム)と呼ばれる特殊なルームにも向かうことになっていた。

 

闘技場(コロシアム)、そこは上限があるものの、モンスターが延々と生み出され続ける特殊な大型空間(ルーム)であった。

 

 

ここ、37回層の主なモンスターはヒューマンの骨格に良く似た骸骨のモンスター『スパルトイ』。

 

二足歩行するトカゲのモンスターの上位種『リザードマン・エリート』。

 

赤い体毛の下に見せる黒い体皮と捻れ曲がった大きな2本の角を持つミノタウロスのようなモンスター『バーバリアン』。

 

魔法の効果を打ち消す効果の黒曜石で出来た身体を持つ『オブシディアン・ソルジャー』。

 

 

どれもギルド推定Lv.4とラウルたちで同等、一部のサポーターたちでは太刀打ちできないモンスターたちだ。

 

だからこそ、第一級冒険者がそろっている今のうちに経験値(エクセリア)を溜め、次回の遠征に向けた布石にしようという腹積もりだ。

 

「――恐ろしく感じるかも知れない。 だが、それでも僕たちは冒険者だ。 さぁ、冒険に行こう!」

 

フィンが団員を鼓舞する。

 

身体の中から生まれる熱が体中を駆け巡り、声となって溢れ出す。

 

「お、おぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

拳や剣を持ったままの手を、大きく上へ突き出す団員たち。気合が満ちた表情を皆が見せていた。

 

「全体、前進!!」

 

フィンの指揮に隊列を戦闘用に組み直した団員が進む。ルームには腰から上のみの姿でありながらも10(メドル)を越えようかという巨大な漆黒の骸骨、『ウダイオス』とその配下のような無数のスパルトイがいた。

 

「後衛はまだ入るなよ、前衛がきっちり注意を取ってからだ!」

 

リヴェリアが魔法部隊とサポーターを中心とする後衛に注意を促す。ウダイオスは下半身が地中に埋まっている……というよりルーム全体がウダイオスと呼べるほど、地面から攻撃を繰り出すのだ。

 

前衛ならば足を止めずに動き回れば良い。しかし、動き回りながらの詠唱、平行詠唱はリヴェリアしか出来ないため、足を止めて詠唱するためにもまずは前衛にがんばってもらわねばならなかった。

 

マオは最前列の一番左に位置していた。いつものように髪と首と尻尾に鈴を付け、リンリンと響かせて周囲のスパルトイを《挑発》していく。青かった右眼を黄金(こがね)色に輝かせ、手には槍を持ち周囲のスパルトイを2、3体まとめて粉々に打ち砕いて行く。腰の背部には双剣の鞘だけが残っている。《不壊金剛(クレイジー・ダイヤモンド)》だ。マオは《不壊金剛(クレイジー・ダイヤモンド)》に双剣を持たせ、仲間に自分が対処できる範囲が目で見て分かるように工夫している。

 

「ドラァッ!!」

 

マオはランクアップを果たす(ごと)に《幽波紋(スタンド)》も能力を伸ばしていた。《不壊金剛(クレイジー・ダイヤモンド)》であれば展開可能距離が伸びており、半径約15MとLv.1の時の約2Mを大きく上回っていた。

 

「ったく、アイツはいつも無茶苦茶な能力(スキル)使いやがって……」

 

マオのすぐ右でスパルトイを蹴り飛ばしながらベートはマオの1人2役の戦いっぷりに卑怯だと言わんばかりにぼやく。

 

「もうちょっとしたら引っ込めますよ。 これ、視覚2人分で目が回るんで」

 

自分を中心に展開する場合であれば、自身の視覚で操作すれば問題ないのだが、今は前線を押し上げるためにマオは自身と平行に《不壊金剛(クレイジー・ダイヤモンド)》を出しており、2ヶ所を同時に処理していた。そのため、槍も双剣も力任せに振り回している印象が強く出ていた。

 

部屋の3分の1ほど押し込んだ時、ようやく後衛が部屋に陣を築く。マオはそこで《幽波紋(スタンド)》を戻し、ウダイオスとの距離を詰めながら詠唱を始める。

 

「【父、マナナン・マクリルより賜りし黄の魔槍。 その黄は如何なる生も断ち切らん】! 【ゲイ・ボウ】!」

 

マオの持つ白銀に輝く槍が黄色い光に包まれる。

 

「えっ!! マオちゃん並行詠唱できるの?」

 

「つーかアイツ、魔法使えたのかよ」

 

「そんなこと今はどうでも良いでしょ! ティオナ、左手やるわよっ!」

 

「わかった!!」

 

ティオナが驚き、ベートが憎まれ口を叩き、ティオネがそれを締める。多数のスパルトイと階層主を前にしても第一級冒険者は余裕を見せていた。

 

マオは魔法を誰にも見せてこなかった。

 

ロキとフィン以外に知る者は無く、並行詠唱に至っては誰にも知らせていなかった。単に秘密にしておきたかったのではなく、単独でダンジョンに潜るときにだけ練習を重ねていたため、たまたま知られることが無かった。

 

マオはウダイオスの左脇の下で飛び上がる。しかし、誰が見ても高さが足りていなかった。だが、その次の瞬間、マオの足元から逆杭(パイル)が打ち出される。

 

マオは器用にその逆杭(パイル)を踏み台にさらに大きく飛び上がる。槍の穂先を天に向け、肩と腕の間――関節を突き抜ける。

 

骨だけで肉の無いウダイオスの間接を繋ぐ魔石のように輝くそれをマオは一撃で打ち砕き、左腕を斬り落とすことに成功する。

 

そんなマオに向けてウダイオスの口が開く。――咆哮(ハウル)だ。

 

「させるかっ……よっ!!」

 

肋骨を踏み台に駆け上がり、(あご)を蹴り上げるベート。蹴られた勢いのまま口は閉じられ、首が後ろに仰け反る。そして、閉じられた口の中で咆哮(ハウル)が暴発する。

 

口はだらしなく開き、顎に力が入っていないのが見て取れる。その脱力した瞬間にティオネとティオナが連携してウダイオスの右肘から先を斬り落とす。

 

「リル・ラファーガ!」

 

止めとアイズが風の付与魔法(エンチャント)をかけて魔石めがけて突撃していく。その様は1本の矢のようでもあった。……が、魔石を守るかのように並んでいる肋骨に阻まれ、肋骨にキズをつけるにとどまる。その突撃の勢いでウダイオスは大きく仰け反る。

 

「全員戻れ!!」

 

フィンが叫び、マオたちは一斉にウダイオスから距離を取る。体勢を戻そうとするウダイオスの視界に入ったのはリヴェリアたちの無数に輝く魔方陣(マジックサークル)咆哮(ハウル)逆杭(パイル)で阻止しようとするが既にリヴェリアたちの詠唱は終わっていた。

 

「焼きつくせ、スルトの剣――我が名はアールヴ】【レア・ラーヴァテイン】」

 

ルーム全体に響き渡る大爆音。巻き上がる土煙でウダイオスの様子はまだ見えない。しかし、襲いかかってくるスパルトイは1体も居ないことから、魔法の一斉射は大きな効果があったといえる。

 

「【目覚めよ(テンペスト)】」

 

土煙が収まろうと言うとき、アイズが飛び出す。

 

「エアリアル」

 

かろうじて見える大きな影とその手前に少女の影、ウダイオスとアイズだ。

 

――パキンッ!!

 

魔石の割れる音と大きな物体が崩れ落ちる音。そして、サァーと細かい粒が流れていく音だけがルームに響く。誰もが息をすることさえ忘れたのではないかと言うほどの静寂――そして塵が晴れた時、大歓声が響く。

 

「やったーーー!」

 

「これだけいて、楽勝じゃなきゃ屑だろ」

 

「いいじゃん、勝ったんだから素直に喜ぼうよー」

 

「うっせぇ! まだ49階層のバロールがいるだろうがっ!!」

 

「あ、そうだったそうだった。 じゃあそっちも楽しもう」

 

「けっ、言ってろ」

 

ティオナとベートの言い合いを無視してフィンは真っ二つに割れた魔石の前で佇むアイズのそばに来ていた。

 

「アイズ、危ないじゃないか。 どうしてあんな無茶を?」

 

「マオもティオナも、腕を斬り落としたのに、私はできなかった」

 

ティオナはその2つ名(大切断)が示す通り、超重量かつ超硬度の大双刃(ウルガ)と《スキル》で何でも真っ二つにする力の持ち主だ。しかし、マオはそうではない。アイズから見てマオは様々な武器を使う、器用貧乏タイプ、奇抜な技で相手を翻弄する。良くも悪くも剣技一本でやってきたアイズとは対極にいると思っていた。

 

そんなマオがウダイオスの右腕を肩から斬り落として見せたのだ。逆杭(パイル)の勢いを使ったかも知れないが、アイズだってエアリアルで勢いをつけている。自分とマオの違いが何なのか、考えようとするほど焦れて我慢できなくなったという訳だ。

 

そこへ団員たちの治療を終えたマオがやってきた。アイズとフィンのやり取りを改めて聞いてマオは笑い出す。そして、アイズの胸部を覆うプレート、肋骨、お腹を順番に押して尋ねる。

 

「この3ヶ所ならどこが一番硬いですか?」

 

「そんなの、ここに決まってる」

 

アイズは意図が分からないまま胸部のプレートを指す。マオは大きくうなずく。

 

「つまりはそういうことです。 ウダイオスは肉だけの無防備なところはありませんから、肋骨なのか、プレートと肋骨なのかの違いです。 私が斬ったのは骨だけのようなもので、アイズさんが斬ろうとしたのはプレートまであったという訳ですよ」

 

魔石が見えているからこそ、そこを守る肋骨はより強固なのだとマオは説明する。アイズはその説明に納得し、フィンにもわかったことを伝える。

 

「もう1つ教えて。 あの黄色い光は何?」

 

付与魔法(エンチャント)【ゲイ・ボウ】です。 効果は斬った箇所の回復無効……キズが治らなくする魔法です。 今日使ってわかったことは武器の性能も1段階上がっているみたいですね」

 

「効果が凶悪で、うっかり味方を巻き込んだら危ないからね。 マオはあまり使いたがらなかったから僕が使わせた」

 

フィンはその能力の高さから、Lv.2になったばかりのマオの遠征参加を計画していた。だが、リヴェリアが反対派に回ったことで参加は霧消しかけていたが、ロキがリヴェリアの主張する睡眠時間さえどうにかできればと横槍を入れたことでフィンがマオの警備計画から外すことで参加を取り付ける。

 

リヴェリアもマオの能力の高さは買っていた。だからこそ食事や睡眠はしっかりと取らせておきたかったのだ。そこを最大限考慮した遠征計画であるならば、リヴェリアとしても反対する理由がなくなった。

 

そのため、マオはアイズの打ち立てたLv.3からの最年少ランクアップ記録を上書きしていくこととなっていた。

 

「荷物はまとまったかい。 そろそろ出発しようか、今日は46階層あたりまで行くよ」

 

フィンが全体に指示を飛ばし、隊列を組み直し、40階層へと足を向ける。

 

マオがウダイオス討伐後にフィンのもとに来る。それは治療完了の合図であり、あとはスパルトイやウダイオスの魔石やドロップアイテムの回収、使用したアイテムの整理が残るのみだ。アイズたちの会話しながらも、カーゴを運ぶ団員たちの様子を見ていたフィンに取って、号令のタイミングを計るのは容易だった。

 

 

 

その後も遠征は順調に進み、49階層では階層主バロールの討伐にも成功し、50階層で休んだ後、帰路につく。【ロキ・ファミリア】遠征は当初の予定どおり階層主討伐を達成し、来月の到達記録を伸ばす遠征に向けて準備を始めるのであった。

 

 

ゴライアスの《魅了》、ウダイオスへの一番槍かつ右腕切断、バロールの魔眼破壊と階層主との戦いにおいて特に顕著な功績を見せたマオは――Lv.6にランクアップしていた。

 

 

 

【ステイタス】

マオ・ナーゴ

Lv.5

    遠征前   遠征後

力 C 682 →B 741

耐久E 437 →D 502

器用B 715 →B 795

敏捷B 701 →B 784

魔力C 688 →B 777

 

挑発 F

耐異常G

精癒 H

調合 I

 

《魔法》

【ゲイ・ジャルグ】

付与魔法(エンチャント)

・詠唱式【父、アンガス・オグより賜りし赤き魔槍。その赤は如何なる魔も打ち破らん】

 

【ゲイ・ボウ】

付与魔法(エンチャント)

・詠唱式【父、マナナン・マクリルより賜りし黄の魔槍。その黄は如何なる生も断ち切らん】

 

【】

 

《スキル》

幽波紋(スタンド)

・精神力で力ある像を造りだす。

不壊金剛(クレイジー・ダイヤモンド):モノをなおす力がある。

人魚之首飾(アクアネックレス):液体を操る力がある。

医食同源(パールジャム):料理が美味しくなる。体調不良を治す。

炎手品師(マジシャンズレッド):炎を生み出す。炎を操る。

隼氷術士(ペットショップ・アルバム):氷を生み出す。モノを凍らせる。

 

 

女神の息吹(プノイティスティアーズ)

・【神の恩恵(ファルナ)】をより強く受ける。

・女神に対する想いが強いほど効果が大きくなる。

・女神に対する想いが続く限り有効。

 

魅了の鈴(チャーム・ベル)

任意発動(アクティブトリガー)

・自分より強いものには効かない。

・耐魅了

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