●前回のあらすじ●
遠征で溶解液を吐き出す芋虫に襲われ、主武器を無くしたティオナ。
その後の怪物祭での植物型モンスターとの戦闘で、代替品の剣を壊したアイズ。
彼女たちの資金集めとフィンたちの息抜きを兼ねて潜ったダンジョン。
その18階層リヴィラの街で殺人事件に関与し、再び植物型モンスターに襲われるも撃退。
その際、マオが【ディアンケヒト・ファミリア】のイケメン猫人と一目惚れの相思相愛になる。
夜の
もっとも、【ロキ・ファミリア】のホーム『黄昏の館』では上を下への大騒ぎがようやく落ち着き始めていた。いや、主神ロキ以外は驚きこそすれど、慌てるような素振りはなかった。ロキに振り回された結果、夜になってようやく本来の調子を取り戻した。
「あかん! あかんでぇ!!」
ビリビリと窓ガラスを震わせるほどの大声で叫ぶはファミリアの主神ロキ。怒気を
場所はロキの執務室を兼ねた私室。物が乱雑に積まれた机に手を組んだまま肘をつき、大きなため息を吐いて話をどう続けようかと思案するロキ。その脇に椅子を並べて腕を組んで事の推移を見守るフィン、リヴェリア、ガレスの幹部3人。マオの背後、ドアの脇に脱走防止用にとティオネが立っている。2次予防策と野次馬を追い払う意味でも扉の外にはティオナとアイズが控えている。四面楚歌な状況にマオは、小柄な姿をより小さくして座っているしかない。
ロキに対しては従順素直なマオに逃げるという選択肢は元より存在していない。それでも、これほど厚い包囲を敷く意味があり、それだけのことをマオはしでかしたのだ。
――他ファミリアの人間と恋仲になる
それは他部族の人間、他国の人間と結ばれる以上に困難で問題があった。神を頂点に、
今、マオは初めて生まれた恋心を、恋人を諦めるようにとロキから諭されている真っ最中であった。
「ウチの子はどこにも嫁になんか出させへん! それに……」
「……それに?」
ロキが感情のままに何か重大なことを口走りかけて慌てて口を
「あ、いや! 何でもない。 と、に、か、く!! マオは、
思いつくと同時に言葉にする。良い案を思いついたと手を叩いてご満悦な様子のロキに対して、マオはそれ以上の反論を述べる気にもなれず泣く泣くロキの命令を受け入れる。
「うう、せっかくの出会いがぁぁぁ」
頭を抱え、何かこの窮状から脱する方法はないかと思考をめぐらせようとするも感情の高ぶりがそれを許してくれそうにもない。眠れそうにもないが、今日はこのまま大人しく寝てしまうほうが得策のようにも思える。
とぼとぼと部屋に戻り、ベッドに横になるが寝返りを繰り返すばかりで一向に寝付けそうにない。何気なく開いた目は真っ暗な部屋を映し出す。暗闇にじわりじわりと目が慣れると反対側のもう1つのベッドが視界に入る。
息を殺すように静かにじっと見つめていると微かな呼吸音とそれに合わせて上下する毛布。同じ寝具のはずなのに向こうには全てを包んでくれるような温かさがあるように見える。誘惑に抗えるほど大人ではないマオは、ストンと自身のベッドから降りるとスススと足音を殺して向かいのベッドへ近寄ったかと思えばそのままスルリと毛布の中へ潜り込んだ。
潜り込んで感じるは予想されていた温かさ。頭上から聞こえる柔らかい寝息も安心感を与えてくれる。1人では全くやってこなかった眠気が一気に押し寄せ、あっという間に意識を手放すことができた。
翌朝、腹部の異様な温かさで目が覚めたレフィーヤ。そこに在る違和感に微睡んだ意識のまま腹部にそっと手をやる。妙な温かさと毛の感触に意識は一気に覚醒し、手を引っ込める。そっと毛布を持ち上げ中を覗き込む。
スウスウと気持ちよさそうに寝息をたてている姿を見ていると、驚かされたことに腹が立ってきたレフィーヤ。
「ヒニャァァァァァ!」
「ッ!!」
気持ちよさそうな寝顔が一転、激痛による苦悶の表情に変わるも一瞬のことで、Lv.3とLv.6の差による力の差はあっという間に耳から手を振りほどいてしまう。否、むしろその身震いによって振り回されたレフィーヤの手首は確かに悲鳴を上げ始める一歩手前だった。
「ヒトが気持ちよく寝ているというのに何をするんですか!」
「勝手に人の布団に入り込んでおいて何を言っているの!」
マオは自分がレフィーヤの布団に潜り込んだことをすっかり忘れており、指摘されてようやく思い出す。そして怒り顔のレフィーヤに対して申し訳なさそうに言い訳を始める。
「それは、その……なかなか寝付けなくて、そんな時にレフィーヤの方を見たら気持ちよさそうに寝ていたので、一緒に寝たら寝られるかなーって、つい……」
つい、で済まされるほど簡単な話ではない。エルフは他人との肌の接触を極端に嫌がる人種だ。オラリオでの影響からマシになったとはいえ、レフィーヤもエルフの1人。就寝中という無防備な所に、それも勝手に入り込まれてはその怒りは
そんな特別待遇をしていて頬を膨らませるのが
そうなると張り切るのがマオ。ましてや昨晩きびしい言いつけを言い渡されたばかり。ここで点数を稼いでおこうという邪な考えもよぎる。そのよぎった思考の尾を掴み引っ張り込む。そうだ!スイーツで色々溶かしてやろうと。
「どんなに旨くても外出禁止は取り消さへんでー」
そうと決まれば!!そう意気込んだマオにロキの冷ややかなツッコミが入る。その棒読みのセリフはどれほど心動かされようと変えないと決めた確固たる信念がうかがい知れた。ガックリと項垂れるマオは気を取り直して要望通りの冷菓を用意する。
待ちわびていたロキの前に出されたのはアイスキャンディー。皿に並べられた一本をひったくるように勢いよく手にしたロキは大口を開けてかぶりつく。サクッサクッと歯の入っていく様子は程よい硬さに固められたことが、そしてロキのキーンと響く頭痛に苦しみながらも浮かべる笑顔は美味を物語っている。
そんなロキの様子を遠巻きにみていた団員たちは口々にマオとロキに断りを入れ、一本また一本と手に取っていく。こうなることを予想して多めに用意していたが、あっという間になくなってしまった。
「あーっ! ウチのアイスがぁ~……」
「一度にたくさん食べたらお腹こわしますよ。 夕食後にまた作りますから、とりあえず今はそれで我慢してください」
おいしい、うまいと声に出しながら皆が食べている様子を見渡していると、1つだけ作っておいた2本の棒を刺して作った分け合う用のアイス。後でレフィーヤと食べようと思って作っていた物だが、それが見当たらなくなっている。その存在の意図を酌むに狙ったのは恋人、またはそうなりたい現在片思い真っ最中の誰かだろう。
マオは記憶の中からゴシップネタを引っ張り出してここにいる団員と照らし合わせていく。そうやって探すと丁度食堂の端の方で金髪で小柄な男に話しかけている長髪のアマゾネスの姿が見えた。
深いため息をつくと、その様子に皆がマオの視線の先の光景を見る。そして、皆が皆、同様に息を漏らし何かを諦めたような表情になっていった。
明日でちょうど1年になります。
ここまでお付き合い頂きありがとうございます。
この話はこれからも続けて完結させるつもりですので、お付き合いいただける方は気長にお付き合いいただけると嬉しいです。