Fate/another   作:常に寝る人

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※この小説はFateの設定を借りて作っている二次創作です。作者の趣味全開ですが許せる方は見てみてください。



1話 早朝の日常

 ────足が重い

 

 何かが後ろから迫って来ている。

 流れる景色はいつも通りの自宅の筈なのに、この異常な状況は何なのだろうか。

 何が悲しくて、何が辛くて、家中を走り回っているのだろうか

 

 硝子の反射でチラリと自分を追っている者が視界の端に入った。現代ではあまり見慣れない、民族的?な衣服だろうか。どちらにせよ普通ではない

 走っても、走っても、この状況が終わる見込みはない。

 

「ぁ────はぁっ、はぁ」

 

 断続的に続く息継ぎはさらに状況を悪化させていく。

 こちらはもう限界が近いというのにあちらは全く疲れていない。

 それどころか鼻歌を歌いながら、コツコツと靴音を鳴らして近づいて来ている。

 

 ────殺される。間違いなく

 

 自分の得た情報が確かならあれはサーヴァントという自分のような魔術師が太刀打ちできる相手ではない。

 自分は魔術師だ。それも魔術師の中では上位の方だと自負している。

 しかしダメだ、後ろの奴には挑んではダメだ。

 それほどまでにサーヴァントと人には絶対的な差がある。闘った先の死のビジョンがはっきりと視えている。

 

 撃退したいのなら、あの手段しかない。

 

 頭に過ぎったある「手段」。それを希望に今、自分は走っている。勝てる勝てない関係無しに、もはやそれしか手段がない。

 

「よぉ、もう懲りたか?小僧」

 

 奴が、脅威が喋っている。恐怖からか、口内が乾いてきた。汗のせいか頬を撫でる風がやけに冷たく感じる。

 返事をしている暇があるなら息継ぎをしなければ、振り向く暇があるなら数ミリでもここから離れ、あそこに向かわなければ、

 少しの気の迷いが己を殺す────

 

「────ちっとは反応しろ」

 

 何かが後方で紅く光った。轟轟と音を立て、それは接近────そう思った直後には、既にそれは後方から前方へ、僕の腕を掠め、着弾していた。

 

 右腕に火が灯る。

 いや、灯るという表現は適切ではない。自分の右腕そのものが炎に包まれた。不思議と熱いとは感じない。

 その訳は明白。僕の腕だったものは黒に染まりとっくに地面に落ちている。

 

「ぃ────っ!!」

 

 声にならない叫び声が口からあがった。自分の声ではないみたいだ。咄嗟の判断で自らの腕を切り落としたが間違いではなかったらしい。それは足元の「腕だった物」が物語っている。

 

 肉の焦げた匂いが嗅覚を刺激する。

 

 色々なものに意識が向いている間に自分は走る事に頭が回っていなかったらしい。バランスを崩し、身体が地面に叩きつけられる。右腕に比べれば何ともないのだが、痛いものは痛い。

 二つの痛みに悶えながら地面を転がり回る。

 

「────はぁ、情けねぇな」

 

 奴は自分の無様な姿を見て呆れたようだ。だがそんなこと知ったことではない。見るなら見て、勝手に呆れていれば良い、それが僕を見逃す時間となるなら尚更。

 即座に残った左腕と両脚で体勢を立て直す。が、再び身体が地面に叩きつけられる。片腕がないだけで随分とバランスが取りにくい。不思議と喉の奥から、絶望という感覚から笑いが込み上げてくる。

 

 容赦が無い、後方がさっきと同じように光り始める。烈火の弾頭の向く先は言わずもがな。僕の体に当たれば、胸に直径15cmの穴くらいはできそうだ。

 口から飛び出そうな叫びを噛み殺し、必死に我が身を動かした。半ば飛び込むように下の階への階段へと身体を回避させる。

 鈍い音を立てながら身体中を階段の角に打ち付ける。その音に合った鈍い痛みが体を巡るが、焼死体になってないだけましだろう。

 

「ひっ、ひっ、ひいぃ、」

 

 先に火が付いている靴を必死に脱ぎ、適当な所へ投げつけた。チリチリとその身を焦がしながら、靴は灰となり消えた。これからの自分の姿の暗示と思うと汗がドッと吹き出てきた。

 

 体の節々が痛むが五体満足なだけ良しとしよう

 それに、もう目的の場所はすぐそこだ

 痛みを後に、必死に残った方の腕で金属の扉を開けた

 

 

 

「────チッ、めんどくせえ」

 

 男は長い青髪を揺らしながら階段の方へと向かう。

 主からの命は他のマスターの偵察だが、隙があれば始末するよう言われている。

 もうほとんどの陣営が揃っているが、まだ召喚すら行っていないでくの棒がいるとは思いもしなかった。

 

 己が探った情報によれば、残りのサーヴァントの枠は騎兵と弓兵だったか...

 

「キャスターとして現界したってのに何やってんだか」

 

 術者なら術者らしくちまちまとやっていた方が効果的だと男は思う。

 術者に偵察とは。そういう暗殺者の仕事を押し付けるのは勘弁して欲しい。

 どうやらこちらのマスターは変わり者らしい

 

 階段をゆっくりと降り始めて、男は気づく。

 この階段の続く先は、おそらく────

 

 

 

「────天秤の守り手よ」

 

 何でも良い。何でも良い。この状況を打開する手ならば、何の英霊でも良い。

 俺はまだ死ねない、

 まだ始まってもいないというのに、

 あの男にお膳立てまでしてもらって、この結果はあまりにも、あまりにも、

 

 目映い光、おもわず目をつぶる。

 目の前に微かに見える何か。手応えはあった、自分は何かを呼んだ。

 呼び出されたそれが、何かで身を包んでいる事はわかった。思わず、笑みがこぼれた。

 

 しかし、その瞬間に生まれた安堵という虚が、自分の死ぬ原因となるとは思いもしなかった。

 

「......?」

 

 自然と浮かんだ素朴な疑問。

 あれ、無かったのは左腕だったろうか。いや、右腕もない。ていうか────

 これ、全身無いんじゃないか。

 

 実にあっさりと、意識は途切れた。

 

 

「サーヴァント、アーチャー。召喚に────」

 

「よぉ、見た感じ弓兵ってとこか?」

 

 緑衣の弓兵は目の前の焼死体を見て数秒、硬直した。

 無理もない、どんな英霊であろうと今の状況を瞬時に理解するのはなかなか難しい。その様子を青髪の術者は面白そうに眺めている。術者は期待していた。この弓兵はどんな行動を取るのか、気になっていた。

 

 諦めるのか、知った上で挑んで来るのか、それとも...

 

 

 

 いつだろうか、6年....いや、もっと前だろう

 雲が月をすっぽりと覆っていた、そんな夜だ。

 父、土御門 海叶は珍しく夜にどこかに行こうとしていた。パタパタと忙しなく動かす様子を見て、幼い頃の私はそれを察した。

 母が不慮の事故で亡くなってから娘である私を1人にするのだけはずっと避けていた父にしては珍しい、きっと何か大事な用なのだろう。

 

 その頃はそう思っていた。

 母が亡くなってからの父は何かに憑かれたように、魔術だの聖杯だのの研究に取り組んでいた。食事をとってはすぐ帰ってきて、いつもの部屋でそれに没頭する。

 その背を見る度に、父がどこかに行ってしまいそうな、そんな不安が私の中で生まれていた。

 

 冬の夜の事。玄関で見送りをしようと私は立っていた。開けられたドアから冷たい冬風が流れてきた。

 

「真矢。暖かくして寝ろよ。────大丈夫だよ。」

 

 不安な表情をしていた私を父は慰めるように言った。それも、震える声で言った。

 

「─────僕は明日には戻って来ているだろうから」

 

 母が亡くなった事を父は私にはっきりとは言わなかった。でも、流石に私も解っていた。母はもう戻っては来ないのだと。

 そして今回も。

 

「はい。お父さん」

 

 その生気の失せた声に答える。

 父は返事を確認すると、バタンと、ドアを閉めた。

 父はもう戻っては来なかった。

 父の死因をまだ、私は知らない。

 

 

 

「............っ」

 

 目を覚ますと見慣れた部屋。

 この時間帯なら聞き慣れた、甲高いベルの音。騒騒しい。もう少し加減というものを知るべきだ、この時計。

 

「う.....るさ、いなぁ。もぅ」

 

 音声認識とかいう最近の技術なら今の一言で止まっているだろうが、生憎家にはそんな高性能な目覚まし時計は存在しない。

 右手を枕の下から出し位置の確認もせず、必死に上から下に振り下ろす。

 ひたすらべしべしと。

 

 5、6回くらいで何かにヒットしたと思うとベルの音は止まった。

 聞き慣れた音だと思うのだが、毎回毎回聞く度にイラッと来るのは何故だろう。

 私は手を止めるつもりは無い、まだ叩く、さらに叩く。親の仇のように。

  べしべし、ひたすらべしべしと。

 

「う、ぅ....」

 

 手が痛みを認識しだした頃に私の意識は覚醒する。今日は何故か手の甲まで痛い、叩きすぎたか。

 これが私の、土御門真矢の日課である。

 

 ガバッとベッドから身体を跳ね起こす。時計を見る。

 確認、確認、まだ私には10分の猶予がある。まだ10分寝れる。

 

「────ってバカ、私のバカ」

 

 一瞬、止まった自分の身体を自ら叩く。打ち勝つのだ眠気×冬の寒さに。

 

 ......勝った。約45秒の激闘の末、私は怠惰というラスボスに勝ったのだった。

 私は淡々とした感じでベッドから出た。

 

 

 いつも通りの朝食。ハム、エッグ、パン。

 もう慣れてしまったが、1人の食事というのは寂しいものだ。モソモソとパンを口に入れ、飲み物の用意を忘れるのはその時。1人で用意、1人で完成、1人で出来栄えに感動、 1人でその他諸々...

 

 慣れましたけどね。

 もし、もしも1人でも同居人が居れば、この生活は賑やかなものになるのだろうか。もう1人でも居れば、この寂しさは拭えるのだろうか。

 

 食器を洗った後に洗面所へ向かい、顔を洗う。そして、身支度を整える。

 寒い朝、冷えた洗面所。私は割と好きだ、冷えた水は自分の頭、精神を引き締めてくれる。ていうか暑くてどうにもならない夏よかマシだ。

 

 鞄よし、服よし、スカートよし。もうほとんどの準備は済んだだろう。時計を見るとまだいつも家を出る時間より15分は、早い。

 

「何ならもうちょっとくつろいでからでも....」

 

 発言が途中で途切れた理由は自分に何の暇つぶしもないからだ。

 やる事はあるにはあるが....

 

「.....やめやめっ!今日はいつもより早めに出ちゃおう!うん」

 

 頭に浮かびかけた物をかき消すように家の扉を開けた。しっかりとドアに鍵をかける。

 

 家に来るのは私くらいのため、戸締りはしっかりしなくてはならない。家だけは無駄に大きいので泥棒の標的になったりするかもしれないから。

 

 家から出るとすぐに住宅地になっている。

 今日はいつもより早く出たからか、周りにはスーツを着た人や自分とは違う制服を着た人がチラホラと見られるくらいだ。

 いつもならもう少し人気があるのだが。

 

 住宅地を出ると街の中心地である交差点に出る。いくつもの分岐の中から、通いなれた学校への道へ迷わず進む。ここで道を変えれば行きつけの洋菓子店があるが、学校の登校中に行くバカがいるだろうか。

 

 やはりいつもより早く出たおかげからか、人はいつもよりめっきり少ない。今見えている生徒達は全員、部活の朝の練習という所だろうか。

 

「ん?あれ?土御門先輩ですかっ!土御門じゃないですか?!」

 

「えっ、」

 

 自分でも驚くくらい腑抜けた声。それと同時に声のする方に振り返る。

 

「おはようございます!こんな時間に会うとは思いませんでしたよ、先輩!」

 

 聞いているこっちが元気になるような声、彼女は藤村十花。一つ下の学年、1年生で剣道部に所属している。

 

「おはよう、十花ちゃん。いや〜今日は何かいつもより起きるのが早くってさ」

 

 十花はなるほど と何かに納得した様子。

 彼女とは何かと縁がある。彼女の入学当時、高校の広さに慣れないのか、それとも彼女自信に問題があるのか。学校内で迷っているのを助けて以来、何度か交流もあってか友達くらいの関係にはなっている。

 

「安心しましたぁ。私が遅れているのかと.....」

 

「んん?その言い方だと私は普段から遅刻しているみたいな言い方だけど?」

 

「え?あっ、ちが、違います!私は朝練でっ、その、周りとは学校に来る時間が違うからっ!」

 

「あはは、冗談だよ。冗談」

 

 彼女は安心した様子で肩をほう、と撫で下ろす。

 彼女は純粋で真面目で良い後輩だ。呼び慣れてない先輩と言うのを聞く度に少しドキリとするのだが。

 

「それじゃ。朝練もあると思うし、じゃあね」

 

「はいっ!先輩も頑張ってください!」

 

「おーう。」

 

 深々とお辞儀をすると踵を返し、パタパタと学校の方へと消えていった。頑張れ。とは何のことだろう。私は何の部活にも入っていない筈だが。

 謎の言葉に頭を無駄に回転させながら、校舎へと身体を進めていった。

 

 

 校内に入ると、イマイチ慣れない静けさが一帯に広がっていた。やはり私が早いのか、廊下を見回すなり生徒の姿が見当たらない。

 すると、

 

「おはよう、土御門さん。」

 

「────。おはよ、う?」

 

 本日2度目の突然の声にとりあえず挨拶を返す。が、

 

「今日は早いんですね。」

 

「え?ああ、はい。」

 

 彼はそうとだけ言うとつかつかと階段を上がって、どこかへ消えていってしまった。

 

 誰、だったろうか。

 見覚えのある顔ではあった。見覚えのある顔であったのだが、全くもってどんな名前だったか出てこない。違うクラスなのでたまにしか見られないあの顔。

 

 ──────。

 

 思い出した。数秒の長考の末、やっと手掛かりらしきものが頭に浮かぶ。

 彼は整った顔立ちをしていたから、周りの女子達がコソコソと彼の事をよく話していたのだ。

 確か、名字は

 

「.....遠坂、君。だったかな?」

 

 目覚まし時計の時の手の甲の痛みはまだ残っていた。

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