Fate/another   作:常に寝る人

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4話 マキリ

「えーっと、教会教会......ここでいいかな」

 

「到着みたいだね。じゃあ僕はここで待っておくから」

 

 坂を上がりきった途端に一瞬で広がる無駄に平らな広場。向こうにみえるこれまた無駄に豪勢な教会は来た者達を脅すように、高くそびえ立っていた。

 

「え?遠坂君はついて来てくれないの?」

 

「僕は土御門さんをここに案内するだけだよ。僕、ここの教会の神父好きじゃないんだよね」

 

「あ、うん。わかった」

 

 私は遠坂君が傍にいなくなるのを内心少し嬉しく思う反面、1人で行ったことの無い場所へと足を運ぶ不安を感じていた。目の前の教会が私を威圧するように、睨んでいる気がする。

 

 私は遠坂君と同盟を結んだ。

 正直、まだ信用しきれていないが心強い味方がいるのは頼もしい。あの後、遠坂君は自分のサーヴァントの全てを私に明かしてくれた。まぁ、聞いても分からないことばかりだったが。「知識」があるといってもまだ魔術師としての右も左も解らないのだから、こうでもしなければ──────

 

「はぁ」

 

「どうしました、主殿」

 

「いや、何だかなあ」

 

「やはりあの男と同盟を組むのは間違いだったのでは?今からでも遅くありませんよ、奴との同盟を破棄しましょう!奴の首落としましょう!首!!」

 

「なんかライダーは遠坂君に対してはきつく当たるよね。どうして?」

 

「奴は信用なりません!」

 

 ハッキリと武者娘は言った。

 どうもライダーは無断で私の家に侵入した遠坂君の事が気に入らないらしい。いや、まぁ確かに無許可で人の家に上がり込むのは問題ありだが、話をしている感じではそこ以外はそんなに悪い人ではない気がするのだ。

 

「まだ遠坂君との同盟は破棄する気無いからね。出来るだけ仲良くしてくれると嬉しいな」

 

「ですが!」

 

「マスターからの命令ですっ!」

 

「......主殿の命令なら」

 

 少し納得のいかない表情をしながらもライダーは了承してくれた。─────妹がいるってこんな感じなのだろうか。

 

 

 ギィィと軋ませながらドアは開かれた。

 広がる白の礼拝堂は多くの席で埋められていた。他に教会なんて見たこともないが、立派な礼拝堂だと感じた。席の多さから察せるように、私がここを知らなかっただけで、それなりに訪れる人はいるようだ。

 

「良い夜だ。君もそうだと思わないかね?レディ」

 

 礼拝堂の丁度、ど真ん中から金髪の男は靴音を鳴らして歩いてきた。胸に下げられた十字架が礼拝堂の照明に反射して一瞬の光を放った。

 

「こんばんわ。そうですね、今日は月が綺麗な────」

 

 思わず1歩、足を退いた。

 

「何かね」

 

「いや、その、思ったより」

 

「体が大きい、かね?」

 

 その巨体に息を呑んだ。遠くから見れば背が高く大きな体は見て取れたのだが、近くで見るとさらに大きく見え、その男の雰囲気は今いる教会を彷彿とさせるような佇まいだった。威厳というか、貫禄というか。

 しかし、それ以前に彼の私を見る目には何か特殊な感情が込められているような気がしたが気の所為、であってほしい。

 

「すいません。まだ名前も聞いてないのに失礼な事、思っちゃって」

 

「気にすることは無い......君が7人目だね。遠坂の男から聞いているよ。私はデイア・レイモンドだ」

 

 表情一つ変えず、デイアと名乗った男は淡々と喋る。機械のような男だ。

 

「土御門真矢です。その、まだ7人目になったって私、実感できてないんですけど。マスターになった者はここに届けに出るんでしたよね」

 

「ああ、そうだ」

 

「遠坂君からマスターやサーヴァント、令呪の事については聞きました。大体、この聖杯戦争がどんなものかというのは分かりました」

 

 分かったというより分かっていた。遠坂君からある程度の事は聞いたのだが、どの情報も私の「知識」が既に知っていた。この「知識」は私を聖杯戦争で生き残る上で役に立ってくれそうだ。しかしそれを嬉しく思って良いものか。

 私はこの「知識」の代理として聖杯戦争に参加している、そんな感じがする。

 

「ならば教えることはあまり無いな────それに君を見る限り、もう聖杯戦争に参加する条件は十分満たしているように見えるが」

 

 鋭い視線が私を刺す。彼の目線は私を透かして別の誰かを見ているようだった。

 

「──────。」

 

「御三家の話でもしようか」

 

「────この聖杯戦争の成り立ちには三人の魔術師が関与している。

 1人目はアインツベルン。聖杯の宿る器を用意した魔術師だ。

 次は遠坂。この魔術師は聖杯が現れるべき土地を用意し、サーヴァントを象るシステムを用意した。

 最後にマキリ。サーヴァントのシステムを考案し、令呪を編み出した者だ。」

 

 やはり、どれも聞き覚えのある言葉ばかりだった。アインツベルンも遠坂も。ただマキリという名前だけは少し聞き慣れない感じだったのが気掛かりだったがそこまで気にすることではなさそうだ。だが──────

 

「しかし、この聖杯戦争には一つ問題があるのだよ」

 

「問題、ですか」

 

 途端にデイアの纏う雰囲気が変わった。感じて取れるその雰囲気は、目の前の敵を殺さんとするまさに必殺の覇気だ。当然、その覇気が向けられる先は一人しかいない。

 

 生唾を飲む。

 

「この聖杯戦争、第5回目から十年後で終了しているはずなのだよ」

 

「────この聖杯戦争は何回目なんですか?」

 

「9回目だ」

 

 デイアは口の端を高くし、不気味に笑った。その笑みが向けられる者も当然一人しかいなく。

 

 さらに緊張が研がれる。

 

「何者かが、聖杯を修復したのだ」

 

 目線を私に向けたまま、デイアは続けた。

 

「どうやらアインツベルンでも、遠坂でもないらしいのだ」

 

「となると残るはマキリですね」

 

「──────私は前回の、第8次聖杯戦争を知っているのだよ」

 

「は、はぁ──────」

 

 明らかに空気が変わった。先程までの静かな緊張が走る雰囲気ではない。確かな殺気が、憎悪が、酸素を伝わり喉の奥まで。比喩表現ではなく息が詰まる、という感覚が私を襲う。

 

「だから聖杯がどういう物かよく知っている。あれは人の手には余る物、人が持ってはいけない物なのだよ。なぁ!?」

 

「........」

 

 彼の様子がおかしい。

 ここから離れるべきだ。今すぐ遠坂君の所へ戻るべきだ。私の「知識」がそう警告している。教会から出るために踵を返そうとするが、その行動をとる前に私の体は止まった。

 

 彼の、デイア・レイモンドの後ろに影、何かが潜んでいる。それは間違いなく、人の枠を外れた者。何度か感じたサーヴァントの気配。

 彼はこの聖杯戦争の監督役のはずでは─────

 

 ────ある言葉を思い出した。ライダーから伝えられた、青髪の男を通じて来た伝言。

 

『この聖杯戦争は既に破綻している。』

 ルールなどない、管理する者がいないのなら

 

「それを狙う輩、許してはおけない。その輩が『奴』だ。これを知っているのは私だけだろう?!そうなのだろう!?」

 

「調べた!『奴』があの聖杯戦争の後どうなったのか────答えは死亡。だがおかしいぞ?死体、死体がなぁい!」

 

 目には黒い渦が蠢いている。狂ったように彼の口は、眼は、狂々、狂々と廻り続ける。歯止めが効かない、壊れた玩具のようだ。精密な歯車の仕掛けは小石一つが混入しただけで不具合が生じる。何故かその話が頭を過ぎった。

 頭を掻き毟る姿は聖職者の姿には思えない。見ているこっちが恐怖を感じる程だ。

 

 ライダーが身構えた。

 

「私は考えた。あの聖杯戦争の勝者である『奴』は聖杯で何か叶えたのだと。次の聖杯戦争のために何か叶えたのだと」

 

「探した!監視した!関係ある輩の全てをぉ!しかしまだまだまだまだ『奴』は尻尾を見せない!当然だぁ!『奴』は用心深いからなぁ!何処かに身を潜めているに違いない!」

 

「そこで貴様だ、土御門真矢ぁ!急な魔術師への目覚め!『奴』と同じ種類の魔術!それに『奴』と同じ名字!関係無い訳が無い!!」

 

 同じ名字。その言葉が一瞬気になったが、それどころではない、一刻も早く逃げたい。が、動くなと警告するかのようにサーヴァントが私を見張っている。

 

 足が竦んで動かない。

 

 こちらはライダーがいるというのに、戦おうという選択肢が頭に浮かばない。ひたすら逃げろ、逃げろ、と警笛が頭の中で鳴り響いている。

 

「用心深い『奴』だ。私の前にノコノコと出てくるわけがないっ!見え見えの罠にかかるわけにはいかない。しかしこいつが『奴』ならっ!だから、私は迷いに迷った───」

 

「迷って迷って迷って迷って迷って迷って迷って迷って迷って迷って迷って迷って迷って迷って迷って迷って迷って迷って迷って迷って迷って迷って迷って迷って迷って迷って迷って」

 

「迷っ──────ああ、もういいか」

 

 レイモンドは笑って右腕を上げた。

 瞬間、彼の背後に潜んでいた影が私に向かって飛び出した。どんな姿かも分からないが、その超人的なスピードで察する限り、この状態では私が死ぬのは確定だ。

 

「やっちゃってくれぇ!アヴェンジャァァァアー!!」

 

「ライ──────」

 

 言い終える前に、刃と刃が交じり火花が咲いた。

 

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