「キンジ、大丈夫か?」
キンジの性格が突如変わったアレはヒステリア・サヴァン・シンドロームと言い、性的興奮によって、βエンドルフィンが一定以上分泌されると神経伝達物質を媒介し大脳・小脳・精髄といった中枢神経系の活動を劇的に亢進させ、その結果、思考力・判断力・反射神経などが通常の30倍にまで向上する。
遠山家の人間が持つ特異体質だ
キンジの家系、遠山家は代々この力を使い、正義の味方を生業として来た一族だ。
時代と共に、その仕事は違って生き、今は、武偵としてその力を使っている。
だが、キンジはこの力を嫌っており、今ではかつて夢見た正義の味方になることも嫌っている。
だからこそ、コウはキンジに声を掛けた。
「ああ、まぁ大丈夫だ」
「でも、キンジがあんなチビで興奮するとは思わなかったよ。もしかして、そう言う趣味でもあるのか?」
「んなわけあるか。アレは不意打ちだったからだ」
そう言って誤魔化すキンジだったが、本当の事は言えなかった。
コウとアリアが自分の上にのしかかり、アリアのクチナシの様な匂いと柔らかい体、コウの意外と逞しい体と中世的な顔だち、そして、周りから見れば可愛い女の子と男の子。
そんな要素があり、キンジは性的興奮に陥り、ヒステリアモードになったなどと、言えば、コウとの友人関係がどうなるかは目に見えていた。
だからこそ、キンジは本当の事は言わずにいた。
「そんなことより、早く教室に行くぞ。くそっ、事件に巻き込まれて遅れたなんて言い笑い者だ」
「大丈夫だよ。これぐらい、武偵じゃ日常茶飯事だし」
そんな会話をしながら、二人は教室に向かう。
「よぉ、キンジ!コウ!今年も、
教室に入ると二メートルほどの身長がある男が二人に声を掛ける。
武藤剛気。
車輌科のAランク武偵で、乗り物と名のつくモノならなんでも乗りこなすことが出来る武偵で、コウとキンジの友人でもある。
キンジは武藤を無視し、自分の机に座ってうつ伏せになる。
「どうしたキンジ、星伽さんと一緒のクラスじゃなくて悲しいのか?俺は悲しいぜ」
「………武藤、今の俺に女の話をするな」
そう言ってキンジは何も話さなくなった。
「武藤、僕の席は何処?」
「コウは俺の左隣だぜ」
「ありがと」
お礼を言って、席に座る。
席はコウ、武藤、キンジと言う順になっている。
「やぁ、コウ君」
するとコウの左隣の生徒、不知火亮が声を掛ける。
不知火亮。
コウと同じ、
格闘・ナイフ・拳銃どれも信用できるバランスの良いスキルの持ち主で、対テロ活動にも優れている為、コウもよくクエストなどでは手伝ってもらったりしてる。
「不知火か。おはよう」
「うん、おはよう。なんか大変だったみたいだね」
「まったくだよ。キンジの家に泊まりに行ったら、このザマだよ」
「何があったか知らないけど、お疲れさま」
不知火に労われ、コウは取り敢えずキンジ同様机にうつ伏せになって倒れ込んだ。
「先生、私、あの二人の間が良い」
突如そんな声と共に、クラス中が騒がしくなる。
何事かと思い、コウは顔を上げると、そこには今朝あった少女、神崎・H・アリアがそこにいた。
アリアはコウとキンジを指差し、そう言った。
コウとキンジは何故こうなってのかを考え、口を開けてると、武藤が騒ぎ出す。
「よかったな、コウ、キンジ!よく分からんが、お前らに春が来たぞ!先生!俺、神崎さんと席変わります!」
「あらあら、最近の子は積極的ね。じゃ、武藤君、席を変わってあげて」
担任の高天原ゆとりはおっとり笑いながらそう言う。
アリアはすたすたと歩き、キンジにベルトを投げ渡す。
「キンジ、ベルト返す」
そして、今度はコウの方を振り向く。
「コウ、アンタにはこっち」
コウの机の上に、コウのナイフを置く。
コウは腰のナイフホルダーに手を伸ばし確認すると、そこにあるはずのナイフが無いのに気付いた。
コウが投げ飛ばされた時、ナイフを落としたていたらしい。
「どーも」
コウはそう言い、ナイフを仕舞う。
「理子分かった! 分かっちゃった! これフラグばっきばっきに立ってるよ」
その時、一人の女生徒が、がたんと席を立つ。
「キー君ベルトしてない!そして、ベルトをツインテールさんが持ってた!これ謎でしょ!謎でしょ!でも理子には推理で来た!できちゃった!あれ?コーちゃんのナイフは何かな?あ、そっか!分かっちゃった!」
大体アリアと同じくらいの小柄の少女の名前は、峰理子。
制服もゴスロリ風に改造している
キー君やコーちゃんは理子が命名でもある。
「キー君は彼女の前でベルトを取る何らかの行為をした!そして、彼女の部屋にベルトを忘れてきた。でも、コーちゃんがそこにを乱入!そして、彼女と!3P!つまり、3人は彼女を挟んでドロドロとした恋愛の真っ最中なんだよ」
「き、キンジとコウがこんな可愛い子といつのまに!」「キンジは影の薄い奴だと思ってたのに」「3Pなんてふけつだわ!」「コウ君が汚された!」「キンジ×コウだと信じてたのに!」「でも、ロリショタもいいかも!」
武偵高では、専門学科のお陰で、多くの知り合いがいたり、学科同士の繋がりで仲が良い者もいる。
そのため、まるで事前に打ち合わせしたかのように息がぴったりだったりする。
「たっく……!」
キンジが周りのアホさ加減に呆れて溜息を吐いてると三発の銃声が鳴り響く。
キンジが銃声の方を見ると、ガバメントを抜いたアリアと、AMTを抜いたコウが発砲していた。
二人は顔を真っ赤にして叫ぶ。
「れ、恋愛だなんてくったらない!」
「恋だの愛だの、そんなことしてる暇があったら特訓でもしろ!」
武偵高の校則では射撃レーン以外での発砲は必要以上にしないとなっている。
つまり、決してしてはいけない訳ではない。
将来的に武偵として銃撃戦が日常茶飯事になる生徒達の為に、常日頃から発砲音に慣れさせるためでもある。
しかし――――――――
「全員憶えておきなさい!」
「次、そんな馬鹿げた事言う奴は!」
「「風穴開けるからな(わよ)!」」
新学期の自己紹介で発砲をしたのは後にも先にも、コウとアリアが初めてである。
(しっかし、息がぴったりだな。二人とも………)
そんな事を思いながら、キンジは再び溜息を吐く。