ある夏の晴れた日。月城医大一階正面玄関はいつものように賑わっていた。
診察を受ける者。診察を終えた者。退院する者。見舞いに訪れた者。様々な人が行き交う空間にふらりとひとりの男がやってきた。
チューリップハットを深くかぶった男は真夏にもかかわらずコートを羽織っている。
「おのれディケイド!Wの世界も破壊されてしまった……」
眼鏡をかけ直しながら男は憎々しげに言い放つ。
そんな男を会計待ちをしていた少女が呆然と眺めていた。
しかし少女は主治医の姿に気付くとすぐに視線を移す。
濃紺の髪を揺らして颯爽と歩く若い医師は少女にとって命の恩人である。しかし愛想があるとは言えない彼は少女の母親が例を言おうとしても「忙しいから」と去ってしまっていた。
ならばいま言えば良いのではと考えた少女は慌てて立ち上がる。
しかしそのためにちょうどそばを歩いていた男と激突してしまった。
男はなんら影響も受けない様子だったが、少女は勢いに負けて尻餅をついてしまう。
すると騒ぎに気付いたらしい主治医が走ってきてくれた。
「大丈夫か」
駆け寄る主治医と入れ違いにチューリップハットの男は歩いて行ってしまう。だが少女と主治医は、そんな男が物を落としたことに気付いた。
主治医は少女に立てるかと問いかけながら落とし物を拾う。
その瞬間、正面玄関のほうで何かの激突する音が聞こえた。
ガラスの割れる音が何度か響き人々の悲鳴が重なる。
「……次は月城の世界か」
悲鳴の中で男の声が主治医の耳に入り込む。
振り向いた主治医は男が銀のヴェールに包まれて消えるのを見た。
銀のヴェールはすぐに消えてしまい、男の姿はどこにも見当たらない。
そんな中で正面玄関から黒い装束をまとい白の面をかぶった集団が現れた。
主治医はとっさにテロリストか何かかと思い、少女を椅子の下に隠す。
しかし集団と共に現れたのは末期の獣症患者のような獣だった。
ただ末期患者と違うのはその獣が西洋の甲冑のようなものをまとっていることだろう。
そしてその獣は、片腕を振るってそばにいた人を簡単に殴り飛ばした。その人にあらざる力は獣症の症状とはまったく違う。
そう認識した主治医はふと椅子の下に隠している少女に目を向けた。
相手がテロリストでないのなら、このままここに隠れていては危険なだけだ。
「君はここから逃げろ」
主治医は少女に手を差し伸べ椅子の下から出すと背中を押して走らせた。
同時にそばの人々にも逃げろと声をかける。
そうして人々を避難させる中で主治医は手元の塊が光っていることに気付いた。
金属製らしい四角形の何か。濃紺のそれは光を帯びたまま消える様子がない。
しかし主治医はその意味を考えることなく多くの人々と共に避難した。
走り逃げる間に黒装束の男が棒を振るって襲いかかってくる。
主治医はとっさに棒を避けたが足がもつれて転んでしまった。手元の物をかばうように腹へ抱えて床に転がる。
その瞬間、塊から紐状の物が伸びて主治医の腹部を包んだ。
ベルトへと形状を変えたそれは光を強めて彼を包み込む。
騒ぎを知り駆けつけた警察が正面玄関を封鎖する中で唐突にそれは起こった。
ガラスを割りながら鎧をまとった獣が吹き飛ばされ外に放り出される。
そしてその獣と戦っているのか、院内から濃紺の装備に身を包んだ戦士が現れた。