潮風が流れる中で真琴はじっと幼馴染みを見つめる。そのそばで幸村が周囲に目を向けていた。
「こっからどうやって戻れば良いんだろうナ。世界を移動できるのはあいつだけだろ」
「そうですね。迎えに来ていただかないと…」
幼馴染みを見つめる真琴の頭の上でふたりが言葉を交わす。しかし新たに銀のヴェールが現れたことでふたりは反射的に真琴を守るべく動いた。
幸村の背に隠された真琴はそんなふたりに驚きながらも、脇から前方をのぞきこむ。
銀のヴェールは消えることなくその場に存在して、中から仮面ライダーが現れる。それは真琴がこの世界に来る直前に出会った仮面ライダーだった。
すらりと背の高いその仮面ライダーは真琴たちを手招きするとヴェールの中に戻っていく。
「全力で守れって言ったくせに、真琴の無事は確認しねぇのかヨ」
幸村は愚痴りながらも真琴の腕をつかみ歩きだす。腕を引かれた真琴は珍しく強引な幸村に驚きながらも歩を進め幼馴染みを見上げた。
「あの仮面ライダーは何なんだ?」
「仮面ライダーディケイドだよ。月城で最初の仮面ライダーで、大ショッカーを阻んでくれてる人。オレはあの人からカードホルダーの使い方を教わったんだよ」
長政は幼馴染みということもあり、他の皆よりも話しやすい。そして長政は隠し事をしようとしない性格だった。そのため真琴の質問には素直に答えてくれる。
「それで…長政はずっとひとりで戦っていたのか」
銀のヴェールへ入る直前に真琴はひとつ質問を向けた。すると長政は首を横に振って返す。
「ひとりじゃないよ。だって、真琴も戦ってくれていたでしょう?」
そう告げた長政は外見こそ仮面ライダーだが、中身は優しい幼馴染みのままだった。
銀のヴェールを抜けてたどり着いたのは夜の月城医大だが、そこには何の音も存在しない。
確かに夜の病院は静かではある。それでも街の喧騒というものは少なからずあるはずだ。
それにここは風が流れてもそれが木々を揺らす音すら聞こえない。
一抹の不安とともに真琴は幼馴染みを見上げた。
「ここはどこだ?」
「ミラーワールドだと思う。ここにいる化け物は鏡を通して現実世界の人を襲うんだ。現実世界の人をこの世界に引き込んで食べてしまう」
「……食べる?」
「そのままの意味だよ。人を補食してエネルギーに変える化け物もいるから。だけどミラーワールドに来られるのは一部の仮面ライダーだけなんだ。だから……」
言葉の途中で長政は真琴の隣を指差した。そこで初めて真琴は自分の腕をつかんでいたはずの幸村がいないことに気付く。
世界のおかしさに戸惑うあまりそばにいた人が消えたことにも気付けなかったのだ。
「幸村は?」
「別の世界にいるんだと思う。あのヴェールは鳴滝も使えるから、移動中にこういう妨害をしてくることもありうるって」
先に言われていたから予測できていたと長政は言う。
そんな長政はいつものような気弱さがかけらも見られなかった。むしろその声色にも、幸村がいた時のような穏やかさが感じられない。
その変化に戸惑いを覚えながらも真琴はそれを全力で封じ込んだ。
仲間と引き離されたのなら、ここには自分と長政しかいないのだろう。だとしたら自分は守られているだけではいけない。
そう考えた真琴はカードデッキをポケットから取り出した。