ミラーワールドは鏡の向こうに存在する世界である。そのため現実世界から音が届くことはない。
だから街の喧騒というものもここには存在しない。しかし風や水は流れるためそれに触れることはできる。ただそこから発生する音は極端に小さく、耳を澄ませても聞こえにくい。
そこまで教えてくれた長政は何かを探すように中庭を歩いていた。仮面ライダーに変身した真琴もそんな長政の後ろを進む。
「長政にこの世界のことを教えてくれたのも仮面ライダーディケイドなのか?」
「最初はそうだよ。ここで戦えるのはオレだけだから、ここを任されたんだ。鏡の外は伊達川先生が守ってくれるから、こっちはおまえが守れって」
「そうだったのか」
仮面ライダーディケイドという名前は初めて鳴滝と会った時から耳にしていた名前だ。だがきっと彼はそれ以前から世界を守るために戦ってくれていたのだろう。
そう思いながら真琴は周囲に目を向けた。すると長政が問いかけを向けてくる。
「ねぇ、真琴は化け物と戦いたい?」
「戦いたくないに決まってる」
前を歩く長政からの問いかけに真琴はすぐさま返していた。
「俺は医者で人を救う仕事をしてるんだ。何かを倒すなんてそもそも柄じゃない」
「……そうだよね」
「だけどみんな戦ってるのに俺だけ何もしないというのも性に合わない」
みな医師であるにもかかわらず仮面ライダーとして戦っている。しかし自分は必殺技がないという理由で皆に守られていた。それこそ自分の性に合わないし、心苦しいだけだ。
「俺は今までひとりで生きてきた。誰かに守られるなんてなかった。だから守られることには慣れてないし、調子が狂う」
「真琴はひとりじゃなかったよ」
自分の不甲斐なさに怒りすら抱きつつ言い放った先で長政が足を止めた。
「オレはずっと真琴のそばにいたよ」
「……あ、ああ。そうだよな。だけど……」
「オレは真琴を戦わせたくないと思ってた。真琴の手は化け物を倒すためにあるんじゃない。たくさんの人の命を救うためにあると思うから」
そう言いながら、長政はカードデッキから数枚のカードを取り出す。そしてそれを真琴に差し出してきた。
「これは仮面ライダーナイトのカードだよ」
「……つまり俺の?」
「そう。オレが隠し持ってたんだ。あのね、オレたちの必殺技には召喚獸が必要なんだ。だけどそれを使役すると、定期的に化け物を倒さなければならなくなるんだ。化け物を倒して召喚獸にエネルギーを食べさせる必要があるから」
驚きのままカードを受け取る真琴へ長政が説明を向けてきた。
「だけど真琴に戦わせたくなかったから、ずっと持ってたんだ」
「おまえも勉強や実習で忙しいだろ」
「そうだけど…」
「でも、気遣ってくれてありがとう」
この幼馴染みは今までも周囲を気遣っていた。もちろん医学生と医師という関係では礼儀の上でも気を使うのは当然の事だろう。しかしそれ以外の場でも、優しい幼馴染みはいろいろと気遣っていたのかもしれない。
ただ真琴はそんな幼馴染みに目を向けることをしてこなかった。だがきっとそれは幼馴染みのことだけではないのだろう。仲間にすら目を向けず、ひとりですべて対処しようとしたため怪我をしてしまった。
自分の過ちを認識したところで前方に銀のヴェールが現れる。そのため長政は自然と真琴をかばうように前へ立ちはだかった。