TVでは朝から謎の化け物と戦士が現れたと騒いでいる。それを休憩室で見る慶次は興奮した様子で「正義のヒーローだ」と騒いでいた。
しかしそれが何者なのかという話に移ると真琴はいたたまれず席を立った。
先日の騒ぎの中で変身してしまった真琴は何も考えずに化け物を倒してしまえている。
しかしそもそも化け物と戦うのは医師である自分の役目ではないと思うのだ。
できれば警察関係者などにこの役目を任せたい。
考えながら廊下を歩いていると前方からどこかで見たような男が歩いてくる。
男が現れるとともに窓の外で聞こえていた蝉の声が遠ざかる。
チューリップハットと真夏のこの季節にもかかわらずコートをまとった男は真琴の前で足を止めた。
「この世界にも仮面ライダーが生まれてしまったか」
「……仮面、ライダー?」
なんだそれはと疑念を抱く真琴の目の前で男は舌打ちしながら階段へ向かってしまう。
足早に階段を降りる男を追いかけて真琴も階段を駆け降りた。
踊り場を曲がったところで真琴は正面から人にぶつかってしまいバランスを崩す。
だが相手に支えられたことでなんとか転倒は防げた。
「すまない」
「なに急いでんだよ。徳川せんせ?」
院内は走らないでくださいよと茶化すように言うのは真琴の上司である光秀だった。
「光秀、コートを着た男を見なかったか?」
支えられた状態のまま問いかける真琴に、光秀はその手を離して肩越しに振り返る。
わずかな沈黙の後に光秀は真琴へ目を戻した。
「このクソ暑い季節にコートを着たヤツなんているか?」
「……いたんだ。チューリップハットにコートを着た男が」
「幻でも見たんじゃねぇの? もしかして夏バテかしら?」
そう言いながら光秀は真琴の額に手を当てる。真琴はそんな光秀から顔を背けると半歩引き下がるように距離を取った。
「悪い、なんでもない。ぶつかってしまってすまない」
謝罪のために頭を下げた真琴はそのまま目を合わせずに階段を降りていく。
そうしてひとり残った光秀の表情が一転した。きつく顔をしかめると腕を組み階段下を睨み付ける。
「鳴滝のヤロウ……真琴になんかしやがったのか」
コートの男は見つからず、真琴は仕事に戻ることにした。真琴の本職は医者であり、ライダーだの化け物だのとは無縁の場所にいる。
ならばやはり化け物退治は自分以外の人間に任せたいと思えた。
診察を終えて中庭へやってきた真琴はそこで遊ぶ小児科の患者と慶次を見かけた。
楽しげに遊ぶ子供たちを眺めていると不意に視界の隅から何かが涌き出る。
植木の隙間から現れたのは芋虫のような背中が丸く膨らんだ化け物だった。
「慶次!」
避難を促すべく走り出した真琴の声に気づいて慶次が目を向ける。そのため化け物を指差して逃げるようにと叫んだ。
逃げる子供の悲鳴を聞きながら真琴は中庭に駆け込む。近くにいた看護師たちも悲鳴をあげながら患者を逃がそうとしている。
それらを尻目にしながら真琴は変身すべきか悩んでいた。
自分は医者であり、医術を用いて人を救うために努力してきた。何かを倒すための手段など今まで一度も学んだことがないのだ。
それでも耳に届く子供の泣き声に真琴は奥歯を噛み締めた。
白衣のポケットから金属製の四角い物体を取り出す。そしてそれを腹部に掲げればたちまちに光を帯びてベルトに変化した。
「……変身!」