Divaな私の人生は自動でハードモードらしいので頑張ります 作:霞身
あるところに一人の青年がいました。
その青年は昔から体が弱く、二十と少々という若さでこの世を去ってしまいました。
しかし少年は、死の間際まで努めて明るく振舞っておりました。
その様子を見ていた神様は、その青年を哀れに思い、死後彼の願いを聞くことにしました。
そして青年は言いました。
「ご都合主義とアイドル適性を持ってアイマスの世界へ行かせてくれ!」
青年は極度のオタクだったのです。
しかし、すべてがうまくいくわけではありません。
日本など特にそうですが、神なんてわりとそこら辺にいるし、ある哲学者は「神は死んだ!」と言いました。
神様の世界も意外と世知辛く、下っ端だったその神様では青年の要求を全て聞くことは叶いません。
そこで神様は言いました。
「人生ハードモードになるけどいい?」
青年はその要求を渋々飲むことにしましたとさ。
それが、私の生まれるまでのお話。
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さて、ご都合主義的な事もありましたが、ひとまず私が生まれ変わるまでの話の整理も付いたところで。
改めて、もし私が本当に二次創作の世界へ転生していたのなら、これを読んでいるであろう読者諸君への挨拶をばさせていただきます。
わたくし、前世では病弱で病院からほぼ出られない代わりに、毎日のようにアニメを見て育った元男ですが、今世では女性として生まれ変わらせていただきました『
ええ、早速ご都合主義の発動です、私今世ではあの如月千早の姉として生まれました。
ところでなんでお母さんも、私も、千早ちゃんも、名前に数字が入ってるのに、優ちゃんだけ名前に数字が入ってないんですかね、まあ、いいんですが。
転生者の大部分が、様々なチート的な能力とか、あるいは無条件でご都合主義とか、ニコポとかナデポとか習得してるんでしょうが、私はそんなことありません。
なにせ私が引き当てた神様は、零細事務所の下っ端ですから、転生する前に愚痴にまで付き合わされましたから。
しかも、時々発動するご都合主義を手に入れる代わりに、私は人生の大部分をハードモードで過ごすことになるそうです、というか小学生時代はひどかった。
アイマスの世界に転生し、そしてアイドルとしての才覚を得た私の器量はもちろん高く、小学生の時はクラスどころか学校中の男子に告白され、その数に比例するように、女子生徒たちから敵視され、ひどいいじめにあったものです。
しかも男子に気づかれないように陰湿なものを……前世ではあまり学校に行ったことなかったし、何より男だったこともあって、こんなに恐ろしい世界だとは知らなかった、女って怖い。
まあ、それはいいんです。
私は中学校に上がって、しばらくした頃になっても友達がいなかったので、日課のように街へ出かけてゲームセンターに入り浸り、あらゆるゲームのハイスコアを塗り替えたり、クレーンゲームで景品を乱獲したりしていました。
え、泣いてるのかですって?
何を言ってるのかわかりませんね、これは心の汗です。
とにかくゲームセンターに入り浸っていたのですが、ある日、そろそろ警戒されそうだし、他のゲームセンターに移ろうかと思って、街を歩き回り次の巣穴を探していたのです。
そのとき後ろから声をかけられました。
「そこの君」
「?私ですか」
声の方向を振り向くと、どこか子安武人に似た声をしている、なんとなく黒い痩身の男性が立っていました。
え、私こっちなんですか?
「ふむ……顔も悪くない……」
人のことを観察するように見つめ、顎に手を当ててなにか納得している黒井社長(仮)、まさかこのままスカウト……?
なんて推察する必要もなく、彼はスカウトする気満々だろうことは顔を見ればわかります。
「あぁ済まない、私はこういうものなのだが」
そう言って黒井社長(仮)は一枚の名刺を渡してきました。
「はぁ……」
ひとまず受け取って確認してみると、やはりというかなんというか、『961プロダクション社長黒井崇男』と書かれていました。
ですよねぇ、わかっていましたとも、あなただろうと。
「えっと、芸能プロダクションの社長さんが私に何のようですか?」
しかし黒井社長には申し訳ないが、私は765プロに入って、765プロのみんなとキャッキャウフフすると既に心に誓ってしまっているので、断らざるを得ないですね。
というか961プロに入ってしまったら、みんなに絡みづらいじゃないですか、どう考えても本来のストーリー開始まであと8年はあるので、黒井社長の元でアイドル活動してたら、その頃には超有名なアイドルになってしまってる可能性もある。
なにせ私は、アイマスのメインストリーに絡める程度には、アイドル適性をもらってますから。
「ふっ、年齢の割にそこまで冷静に対応できるほどの君が、わざわざ口にしなくては私の目的がわからない、などというのかね?」
口調はきざったらしいことこの上ないが、こうして相対していればわかるが、本当に頭の切れる人だ。
確かに私は、前世の記憶もある分普通の子供以上に大人びているし、ある程度感情を抑える術も知っている、何より考える力もある。
それを今目の前にいるこの男は、私が転生者であることを除いてこの一連の会話だけで理解していた。
恐ろしいとしか言い様がありませんねこの男……伊達にDIO様と同じ声じゃないということですか。
「スカウト……ですよね」
「その通りだ、君は正しくアイドルとなるべくして生まれた存在だ、私の目が君の持つ輝きを見間違うはずもない」
しかも目までいいときた、なにせ私は本当に『この世界でアイドルになるため』に生まれてきたわけですから。
そりゃアイドルになるべくしてなるに決まってします。
「そんなことないと思うのですが」
でもやっぱりお断りします。(AA省略)
「いや、君からはあの日高舞と同じオーラさえ感じる、まだ荒削りだが、磨けば
……この人引き下がるつもりはさらさらないですね。
この調子だと家にまで押しかけてきかねないですし、そうすると今度は、千早ちゃんや優ちゃんがこの男の毒牙にかかりかねないですか。
なんというか、本当に私の人生ハードモードですね。
「……分かりました、そこまで言うのでしたら」
「わかってもらえて嬉しいよ」
「ただし、条件がひとつあります」
ただ、普通に認めたらなんか負けたような気がするので、少しだけ抵抗してやるとしましょうか。
「ふむ、何かね、出来る限りは約束させてもらおう」
「私、ずるをするのって嫌なんです、なので『表沙汰にできない接待』とか『賄賂』みたいなのは嫌です、やるなら全部自力でどうにかしてみせます」
この人が具体的に何をするのかは知りませんが、やるなら正々堂々、真正面から全部叩き伏せると宣言してやります。
「ふっ、そこらへんのクズ共ならともかく、君ほどの逸材ならば私が手を回すまでもないだろうからいいだろう、ただし仕事はこちらの言うとおりにこなしてもらうぞ」
「はい」
意外というかなんというか、あっさり引き下がりましたねこの人。
というかそれってつまり私ってもしかして本当にそんなにすごい才能を秘めているんですかね?
あれ、というか普通にこの人いい人?
「では、早速君のご両親と話をしたいのだがいいかね?」
「母なら家にいると思います」
しかもちゃんと、両親へと挨拶に向かい筋を通そうとしている。
やはりアニメで見た印象より、普通にいい人に見える。
うーん、接してみるとよくわからない人だ。
ひとまず、千早ちゃんと優ちゃんを隠さねば。
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それから一週間後、私は961プロが居を構えるビルにあるトレーニングルームで、黙々とトレーニングに集中していた。
こういっては悪いかもしれないですが、961プロは予想以上にいい待遇でした。
まだあくまでもアイドル候補生でしかないので、仕事はまだないのですが、毎月少額ながら基本給を出してもらえるらしいです、そして候補生にも一人にひとりとはいかなくとも、全員にしっかり目が届くよう、多くのトレーナーがいるため候補生たち自体のレベルも非常に高いものになっている、しかも格安食堂付き。
あれ、私このままでもいいかもしれない、このままでも幸せになれそうな気が……って、いけないいけない、危なく黒井社長に洗脳されるところでした、おのれ汚いなさすが黒井社長きたない。
さて、しばらくはトレーニング漬けらしいですし、頑張りますとしますか。
もしかしたら将来、千早ちゃんに目標と言ってもらえるかもしれないですし、うん、そうなったら全力で敵になってあげなくてはいけませんね、手を抜くのは失礼ですし。
よし、その時のために今日もトレーニングが始まるお……
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『如月百恵電撃デビュー!』
先月961プロダクションから一人のアイドルが誕生した。
彼女の名前は『如月百恵』弱冠12歳、中学一年生でありながら961プロダクションよりデビューした。
その鮮烈なデビューは、先月初頭の961プロダクション定例ライブのトリとして、サプライズでの登場だった、そして瞬く間に口コミで彼女の噂は広がっていき、一躍ときの人となった。
そしてデビューよりわずかひと月という期間で、デビューシングルは10万枚の大ヒットを飛ばし、各地のCDショップでは常に品切れ状態という事態となっていた。
年齢相応に可愛らしい見た目と、その若さを感じさせないポーカーフェイスとドライな性格、そして何者にも勝る歌声。
アイドルとなるべくしてなった彼女の活躍はとどまるところを知らない。
──週刊誌より一部抜粋
『日高舞の再来か?!如月百恵セカンドシングルで早くも初動セールスミリオン!!』
ファーストシングルがミリオンに届いてまもなくといったタイミングで発表された、如月百恵のセカンドシングルが、発売からわずか一週間という短期間でミリオンセラーを達成してみせた。
業界のいたるところで、彼女のことを第二の日高舞だという声が上がっており、あるいは日高舞のカムバックもあり得るのでは、という噂まで出回っている。
太陽のように眩しく輝いていた日高舞、そして月のように静かに、しかし確かな存在感を持って周囲を照らす如月百恵、彼女らの熱狂的なファンからは、是非とも二人に共演して欲しいという願いが、様々なインターネット掲示板などで見られている。
──週刊誌より一部抜粋
『如月百恵完全引退。彼女を襲った不幸な事故』
先日起こった暴走車による事故から、弟を助けようとし自らが轢かれることとなってしまった如月百恵、先日まで一命を取り留めたことを除き、情報が一切発表されていなかったが、新たな情報が公式ホームページに公開された。
弟は軽傷で済んだものの、彼女自身は右足の膝より下を切除という、アイドルとして致命的な怪我を負っていることが発表され、本人の強い希望により芸能界を去ることが決まった。
彼女は「961プロダクションの皆さんにも、ステージに立たなくても仕事はできると言われましたが、私自身しばらくゆっくりと、この先のことを考えたい」と我々のインタビューに簡潔に答え、これ以降の活動は一切しないことを公言した。
デビューから一年にも満たないという、短い間を眩く輝いた彼女の伝説は、ここにピリオドを打たれた。
──週刊誌より一部抜粋