ハイスクールD×D~地双龍と混血悪魔~   作:木の人

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遅くなりましたがあけましておめでとうございます。


101話

「キマリス様、お疲れ様ですわ」

 

「ん? あぁ、お疲れさん。つっても適当にやったから疲れなんざ全く無いけどな……コーヒーありがと」

 

「いえ! これも私のおしご、こ、この私がコーヒーを淹れるなんて滅多に無いのですから存分に味わってお飲みくださいませ!」

 

 

 人生で初めてとも言えるD×D学園での授業が終わった俺はレイチェルと共に休憩室へと訪れていた。先輩と姫島先輩は別の場所で授業のサポートがあるためこの場には居ない……本来なら俺も先輩達と同じように他の場所に向かってサポートだのなんだのをしなければならないかもしれないが水無瀬と橘という真面目な二人がガキ共相手に授業してるから特に必要はない。四季音姉妹も犬月を使ってガキ共相手に何かしてるだろうし平家はグラムの手綱を握ってるから恐らく大丈夫だろう……きっと! なんとなく外から剣同士がぶつかり合っているような音が響いているような気がしないでも無いがきっと大丈夫だろう! なんかあったら四季音姉が止めるだろうし。

 

 そんなわけで夜空が居ない今、特にやることも無いのでこうしてサボ……休んでいるわけだ! たゆんと駒王学園の制服を着ていてもなお揺れる大きなお胸に目が行きつつ、レイチェルが淹れてくれたコーヒーを一口飲んでみる。流石に高級なものを使っているからか味も美味いには美味いんだがどうも水無瀬やセルスレベルのものを飲んでいるとなんか物足りない。まぁ、素晴らしいほどのドヤ顔をした金髪美少女なお姫様が淹れてくれたってだけでも価値はデカいと思うんだけどさ!

 

 

「そ、それにしてもキマリス様が真面目に授業をするとは思いませんでしたわ。い、いえ! 疑っていたわけではありませんがその……一瞬だけですが目を疑ってしまいました」

 

「真面目に授業をした気は無いけどな。いつも通り、好き勝手な事を言って、適当な事を言ってただけだし。それにレイチェル? 忘れてるかもしれないが俺はあっち(ガキ共)側だぞ。最上級悪魔の影龍王とかなんとか言われてるが相棒の力が無い俺はその辺にいる混血悪魔と何も変わらねぇしな」

 

 

 妖怪の長と同格だの最強の影龍王だの最上級悪魔の混血悪魔だのと周りが好き勝手に言っているがその全ては相棒のお陰だ。俺の力なんざ相棒に比べたらちっぽけなもので純血主義の奴らにとってはさっさと消し去りたいぐらいウザい存在だろう。もっとも相棒の力無しでも血筋だけの悪魔には負ける気は一切無いけどな……何度も死ぬかもしれない状態までこの体を痛めつけて強くなろうと頑張ったんだ。簡単に負けちまったら親父やセルスに悪い気がするしね。それにそんな事が起きたら夜空にも愛想を尽かされちまう! それだけは何があっても阻止しなければならないから死んだら蘇ってでも特訓を続けるつもりだ! うーん、この一途な思いを早く受け取ってほしいね!

 

 俺の言葉を聞いたレイチェルはあっ……という表情を浮かべたが首を大きく横に振って返答してきた。すげぇ……おっぱい揺れたよ。

 

 

「……確かにキマリス様は混血悪魔、それは覆せない事実ですわ。ですけど今日まで行ってきた努力は嘘なんかじゃありません! キマリス様のお傍で見てきた私が言うのですから間違いはありませんわ! 光栄に思ってくださいませ! このフェニックス家の双子姫であるこのレイチェル・フェニックスがキマリス様が神器頼りの男性では無いと証明して差し上げます!」

 

「いや……別に証明しなくても何か言ってきたらぶっ殺すつもりなんだけど?」

 

「証明してあげますわ! 良いですわね!」

 

 

 どうやら目の前のお姫様は何が何でも俺が神器頼りじゃないと証明したいらしい。別にそんな事をしなくったって俺は困らないんだけどなぁ……だって神器頼りなのは事実だし。でもなんだかんだで神器頼りじゃないと真剣な表情で言われるのは悪い気はしない……誘拐されそうになったのを助けてからずっとこんな感じだったっけ? とりあえず言えるのはこのお姫様は悪い男に引っかかりそうで怖いという事は確かだな! フェニックス家というかライザー……悪いことは言わないから男は狼だって教えた方が良いぞ! もう教えてるかもしれないが何度も言わないとあぶねぇぞマジで!

 

 

「そもそもお兄様も今はマシになりましたが昔は酷かったですのよ! フェニックスの能力があるから無敵だと言って修行もせずにハーレムだのと……お兄様の眷属になったお姉様が何度も陰口を言われていたのは今でも覚えています! 今の冥界は生まれ持った才能だけで満足する悪魔が多いのは事実……そしてキマリス様やシュンさんのように強くなろうと努力すれば皆で集まって笑う事自体がおかしいのですわ! その人達は一度完璧なまでに敗北を知るべきだと私は思います!」

 

「……あーレイチェル? 分かった、分かったからとりあえず落ち着こうか!」

 

「大丈夫です、落ち着いていますわ! その、私はキマリス様と契約した身……他の方からキマリス様がバカにされるのは我慢なりません! 一途で不器用な優しさを持つキマリス様だからこそ私はす、な、なんでもありませんわ! と、兎に角! キマリス様を悪く言う輩はこの私が焼いてしまいますから安心してくださいませ!」

 

 

 全然安心できませんけど大丈夫ですかお姫様! あれおかしいな……一途なのは夜空が好きだから否定しないけど不器用な優しさなんざ微塵も持ってませんけど? 本当に大丈夫か! 一度病院に行った方が良いんじゃないだろうか……それよりもなんでこんな状態になったんだ? 平家か! あの引きこもりがイジリまくったせいで此処まで歪んだんだなそうだなきっとそうだな! よし後で説教するか! あっ、ダメだご褒美になって喜びかねない……なんてめんどくさいんだあの引きこもり系覚妖怪は!

 

 まぁ、そんな事は置いておいてチラチラと何かを期待している目で見てくるこのお姫様をどうしようか……なんか可愛いなおい。

 

 

「レイチェル」

 

「は、はいですわ!」

 

「……あんがと」

 

 

 何故か知らないがパアァと一気に笑顔になったけど本当に大丈夫か……将来、変な男に引っかかりそうで本気で心配になるわ。そもそもなんで好き勝手に生きて、気にくわなかったらとりあえず殺すかと本気で思う超絶危険人物を好きになるかねぇ? いや恋愛は自由というけどその辺はもう少し危機感ぐらいは持とうぜ!

 

 

「あーなんか金髪美少女のお姫様が褒めてくるからやる気出たわー! 仕方ねぇなぁもう! 他の所の手伝いでもするか。レイチェル、お前はどうする?」

 

「勿論ご一緒させてもらいます! 私はキマリス様の契約者ですもの、常に一緒に居るべきですわ!」

 

「お、おう……まぁ、その辺はどうでも良いが――お前はどうする?」

 

 

 レイチェルの方ではなく反対側、誰も居ないはずの場所へと問いかける。レイチェルはキマリス様? と首を傾げているが俺には分かる……居るんだろ? いい加減隠れてないで出て来いよ!

 

 俺の言葉は周囲に響いた瞬間、真上から何かが落ちてきて後頭部と頬に素晴らしい感触が現れた。モチモチでぷにぷにの舐めまわしたくなるぐらい最高な太ももを持つ奴なんてこの世に一人しかいない……俺が大好きな片霧夜空ちゃんですね分かってます! いやぁ~毎度素晴らしい肌触りで俺のテンションがヤバい! 今すぐ帰ってオナニーしたいぐらいには興奮状態だ! 突然現れた存在にレイチェルは口をパクパクと驚いているが俺にとってはいつもの事なので驚くことは無い――むしろ大歓迎だ!

 

 

「――もっちろんいくぅ! てかぁ! さっきまで覗いてたけど真面目に授業とか笑えるんだけどぉ! あははははははははは! ドヤ顔で話すノワールとか気持ち悪くて笑いが止まらないんだけど!」

 

「おいおい夜空……どっからどう見てもイケメン教師だっただろうが! キモくねぇし! お前あれだぞ! 俺が教師になったらモテモテ確実だからな! なんせイケメンですしぃ~超絶分かりやすい授業で人気教師間違いありませんけどなんか文句あんのかゴラァ!」

 

「ばっかじゃねぇの。ノワールが先生になんてなったら手当たり次第にセクハラして捕まるに決まってるっしょ。つーか自分でイケメンとか言って恥ずかしくねぇの?」

 

「事実だろ?」

 

「まーイケメンだけどさぁ~自分で言うと空しくね?」

 

「それはある」

 

「なら言うなし」

 

「言いたくなるんだよ察しろ!」

 

 

 真上を向きながら話しているが後頭部に硬い何かが当たっている感触しかないのは何故だろう……あの平家でさえほんの少しだけ山があるというのに全くと言って良いほど柔らかい感触が無いんですけど! これは仕方ないな……あぁ、仕方ないから揉むしかないだろう! 男に揉まれるとおっぱいが大きくなるとか言うし夜空のバストアップのためにも意地でも揉んでやるのが俺の優しさってものだろう! もっともちっぱいのままでも何も問題無いけどね! むしろそれが良い!

 

 

「潰されてぇの?」

 

 

 なんで俺の心の声が分かるんですかねぇ?

 

 

「アンタが分かりやすいだけだつーの。よっと、にへへ~どう? どうっ! この超絶美少女の夜空ちゃんが制服着てやったんだから見惚れても良いんだよぉ?」

 

 

 俺の肩から飛び降りた夜空はくるりと一回転して自分の姿を見せつけてくる。たった一瞬、ヒラリと舞う長い茶髪にスカートの奥から見えた健康的な太もも、パンツが見えるか見えないかのギリギリに調節された絶対領域は言葉すら失うほどの代物だ。そして普段から羽織っているマント(神滅具)を消しているせいか目の前に居るのが光龍妃、規格外なんて呼ばれている女の子なのか分からなくなる……屈託のない笑顔で俺を見つめてくる夜空はどこからどう見ても普通の女の子にしか見えない。

 

 だからだろう……言葉が出ない。普段だったら可愛いぜ夜空! とか最高だぜ夜空! とか付き合ってくださいという言葉が飛び出るであろう口から言葉が出てくる気配が無い。ただひたすらに目の前に居る片霧夜空という女の子を見つめる事しか出来ない……もし、たった一つだけ言葉にするならば――今まで生きてきてよかったという事だけだろう。

 

 

「……」

 

「……おい、折角さぁ~この夜空ちゃんの制服姿を見せてやったってのに無言とか喧嘩売ってんの? おい、ノワール? ちょっと聞いてんの! 黙ってねぇでなんか言えよぉ!」

 

「……あ、いや、悪い……その、なんだ、あーと、見惚れてた……悪い。その、似合ってる、じゃない……可愛い、あぁと違うな……似合ってるし可愛いのは当然だ……えーと、悪い、なんかカッコよく言えそうにない」

 

 

 目の前の女の子に見惚れてうまく言葉が出てこないなんてカッコ悪いったらねぇな……!

 

 

「……ばーか。マジな反応すんなし」

 

「仕方ねぇだろ……普段も可愛いのにさらに可愛くなったら言葉なんて出せるかよ」

 

「ふーん、へー、ほー。まっ、仕方ねぇよね! だって私って超絶美少女だしぃ~童貞のノワールが見惚れちゃうのも分かるね! にへへ~そっかそっか……ねぇねぇノワール! 見学したいから案内してくんね?」

 

「断るわけねぇだろ。んじゃ、行くか……レイチェル? お前は……お前は……あ、あの、大丈夫でしょうか?」

 

「あのキマリス様が見惚れたと正直に告白するなんてあり得ませんわしかし目の前で実際に言われたのも事実しかしまだチャンスはありますあるはずですわきっとあるに違いありません私はキマリス様の契約者という立場で光龍妃はまだ恋人でもありませんそうですまだ勝つチャンスはあります」

 

「……夜空、気づかれないように外に出るぞ」

 

「うっわ。息しねぇでボソボソ話すとかキモ。つーかチャンスも何もノワールは私の(もの)だっつーの。ん? 外に行くん? べっつに良いけどあれどうするん?」

 

「残念だが置いていくしかねぇだろ……今の状態で外に出たらガキ共が泣きかねん」

 

「ふーん」

 

「最悪覚妖怪と結託してキマリス様の意識を私に向けさせるしか……はっ! 私はいったい何を……? あ、ま、待ってくださいキマリス様! わ、私も一緒に行きますわ!」

 

 

 俺と夜空が部屋を出ようとした瞬間、我に返ったレイチェルがダッシュで追いかけてきた。夜空を肩車しながら水無瀬と橘が教師をしている場所まで向かう途中に軽く話したがどうやら先ほどまでの記憶が無いらしい。無意識で病むとかレベル高すぎませんかねぇ……? 流石えっちぃの禁止委員会に所属しているだけはあるぜ! だって委員長の橘となんか同じ感じがするしな! なんだろうな……四季音姉の場合は物理的な危険性があるのに橘とレイチェルは精神的な危険性があるんだよ。水無瀬? アイツは両方だ。

 

 そんなこんなで夜空とレイチェルを引き連れて水無瀬と橘が居る場所へと向かう。そこではガキ共が必死に魔力を炎や水といったものに変換させようとしていたり一誠のように直接魔力を前方に放とうと頑張っているのが見える。確か他の場所ではヴァルキリーちゃんが魔法を教えてるんだっけか? 一緒に教えれば良いのに分ける意味あんのかねぇ?

 

 

「よっ、頑張ってんな」

 

「あっ、ノワールく……ん。えっと頑張っていると思います、よ? そ、それよりも……その」

 

「夜空の事は気にすんな、いつもの事だ。それよりガキ共に魔力の扱い方を教えてるって話だがどんな感じだ?」

 

「え、えっとですね。早織さんや花恋さんに協力して作ったお札を子供達に渡して魔力を使う感覚に近いことを体験してもらったんですけど好評……? だと思います。子供達は炎が出たとか水が出たとか喜んでますから! あ、あの……その、悪魔さんに褒めてもらったら志保、もっと頑張れると思います! はい!」

 

 

 百点以上のアイドルスマイルで俺を見つめてくる橘だがなんか怖い。昨日までの状態を知っているから笑顔がなんか怖いです! 別に褒めても良いんだがそうなると平家が五月蠅くなりそうだ……橘を褒めたんだらグラムの手綱を握っている私も褒めるべきそうするべきとかなんとかって感じでな。まぁ、でも頑張っているのは事実だし褒めるぐらいはしても良いか。

 

 というわけで橘からの期待の眼差しに応えるべく、ガキ共の面倒は大変だが頑張れよと言うと何故か分からないが一気に笑顔になった。おかしい……自分で言っておいてなんだが褒めてない気がするんだが? 聞く奴によっては聞き流したとか思われてもおかしくないと思う言葉だったはずなんだがなぁ! でも喜んでるなら良いか……だから夜空ちゃん! 嫉妬するなよ! 滅茶苦茶太ももを押し付けてきてるけどご褒美なのでもっとお願いします! いやマジで柔らかいなぁおい! これで風呂に入ってないとかだったらなおさら良いんだが珍しく石鹸の匂いがするから風呂に入ってきたんだろう……そう言えばかなり前になるが風呂に入らない状態で腋の匂いを嗅げという素晴らしいイベントが起きた気がする。よし! それをもう一回再現してくれ! それが俺のクリスマスプレゼントで良いからさ!

 

 

「一回死んでみる?」

 

「お前に殺されるなら本望だな。もっとも簡単には殺されるつもりはねぇけど」

 

「知ってるっての」

 

 

 デスヨネ!

 

 

「コホン。ノワール君、志保ちゃんを褒めるのも良いですけど子供達にこのお札を渡して体験させるということを考えたのはレイチェルですのでそちらも褒めてあげたらどうですか?」

 

 

 俺と夜空のやり取りを見ていた水無瀬が話を戻すように手に持っている札を見せながら話を続ける。水無瀬が持つこの札には平家と四季音姉妹の妖力が込められており、使用者のイメージによって先ほど橘が言った炎やら水やらに変化させることが可能だが欠点として一度使用すればただの紙切れになってしまう上、込めた相手の妖力の性質によって差異が生じるってことか。例えば平家なら基本的にバランスが良いから何でも変化可能、四季音姉なら平家よりは火力寄りだがこっちも基本的にはバランスが良い、四季音妹の場合は……変化とかそれ以前の問題で破壊力特化というか細かい事が出来ないって感じになる。まぁ、簡単に言ってしまえば一回限りの妖術使用アイテムって感じだな……水無瀬も橘も鬼の里で参曲(まがり)という猫妖怪に妖術を教えてもらったが平家達と違って「魔力」しか宿していないからこれを使う事でしか妖術を使用できないらしいが歌を歌って俺達を支援する橘は兎も角、水無瀬にはこの札がある事でさらに応用が利くようになってこっちとしては助かってるけどね。

 

 なんせテクニックタイプとして成長している水無瀬の攻め手が増えたのはかなりデカい。魔力を消費しないから逆転する砂時計による性質反転を連続で使用できるし魔力と妖術を組み合わせれば火力不足を若干だが補えるときたもんだ……良い女ってのは何でもできるってのが世の中の常識だからこれからも俺を楽しませてくれるだろう!

 

 

「い、いえ! こ、この程度であれば誰でも考える事が出来ますからほ、褒められるまででもありませんわ! し、しかしき、キマリス様が褒めたいというのであればこのレイチェル・フェニックス! 甘んじて受けたいと思います!」

 

「褒められたくねぇなら褒めなくて良いんじゃねーの」

 

 

 夜空ちゃん、思った事を口にするのは良い事だし、自分が褒められないからって嫉妬するのはいいが苦労するのは俺なんだからちょっとだけお口にチャックをしようかぁ! 見ろよレイチェルのあの顔を! 言い返したいけど言ってしまうと褒められたいというのがバレるから何も言えないって顔をしてるんだぞ! 仕方ねぇなぁもうっ!

 

 

「……まぁ、俺だったら適当に魔力使わせろとか殺し合って理解しろとかお前らに任すとかしか言わなかっただろうしレイチェルに任せて正解だったな。よし! こんな面倒な事が起きたらレイチェルに任せるからこれからも頼むわ」

 

「お、お任せあれですわ! キマリス様の恥にならないように全身全霊を持って臨ませていただきます!」

 

「チョロ」

 

「夜空ちゃん! シー! 思ってても言わないのがお約束だ!」

 

「マジで? んじゃ黙るぅ~! つーか此処にいるガキ共ってホントになんも出来ねぇんだ? 悪魔の癖にって言ったらノワールは怒る?」

 

「さぁな。俺だって霊体生成と霊体使役に極振りで水無瀬や平家のように炎やらなにやらに変化は得意じゃねぇしなぁ。てか出来る出来ないなんざ本人次第だろ? やれると思ったんならやれるし出来ないと思っても意地でもやるってのが悪魔っていうか魔力だしな」

 

 

 言ってしまえばどれだけ本気で想像や妄想をして全力で取り組めるかが魔力を上手く使えるか使えないかの差だろう。例として挙げれば一誠か……アイツは洋服崩壊と乳語翻訳という技を持ってるがどちらも自分の欲望を実現したいという強い思いがあったからこそ発現というか使えるようになったはずだ。それ以外だと基本的に魔力をそのまま砲撃として撃つぐらいしか出来てないしなぁ……そもそも女の服を弾き飛ばしたいと思い続けたら実現できるとか魔力万能すぎるだろって話だ。

 

 話を戻すが現に俺だってそうだ……自分の魔力をキマリスの固有能力の霊操に極振りしてるからそれ以外の事をやれと言われてもちょっとだけ困る。まぁ、普通に炎やら水やらには変化させれるだろうが影人形を生み出したりすること以上の事は出来ないだろう。だから魔力なんざ自分が何をしたいか、どうしたいかを心の底から思い続ければ勝手に発現するんだよ……きっと、タブンネ!

 

 

「そんなもんなん?」

 

「そうなんじゃねぇの? 現に俺だって影人形生成やらに極振り状態だろうが……今だから言うがお前に追いつこうと考えたらそれしかなかったんだよなぁ」

 

「なんでさ?」

 

「なんでってあの時の俺って真面目にお坊ちゃんしてたんだぜ? お前に助けられてから強くなろうと親父やセルス、相棒に手伝ってもらったのは良いが即効で理解したよ――俺には才能が無いってな。サイラオーグのように体を鍛えて強くなれるかと言われたら無理だなと普通に思ったし、水無瀬達のように魔力を変化して戦えるかと言われたら微妙と答えれる。それぐらい、あの時の俺は弱かったんだよ……それこそ今も魔力を変化させようと頑張っているその辺のガキ共と同じくらいな」

 

 

 周囲を見渡しながら軽く昔を思い出してみる。母さんが殺されそうになったあの日、俺が影龍王となったあの日、相棒と出会ったあの日、夜空に一目惚れしたあの日、誰も信じないと決めたあの日から親父とセルスに鍛えてもらったが結果は散々だった……貴族らしく振舞おうとしてた真面目なノワール君だったからこそ普通に弱かったのは今でも覚えている。セルスと戦えば痛みで簡単に涙を流したり逃げ出したくなったりと黒歴史認定するぐらいに無様だったなぁ……でも夜空の笑顔を見たい、強くなりたいと本気で思っていたから諦めはしなかったけどね。あと弱かったお陰で気づけたんだ――自分を鍛えても夜空に追いつくには時間がかかり過ぎるってことにな。

 

 

「良い機会だから水無瀬、橘、レイチェル。お前らにも教えておいてやるよ。俺が影人形を使役する事に特化してる理由だが……「自分自身」は無茶をすれば簡単に壊れるが「自分以外」だったら簡単に壊れないって考えを抱いたからだ」

 

「自分以外……ですか?」

 

「おう。悪魔も人間も簡単に腕は折れるし無茶をすれば再起不能になる。親父やセルスも俺を鍛えてくれたが自分の子供だからって理由で殺すようなことは出来なかったんだよ……何回も死ぬ一歩手前で止めやがる。その時の俺はそれが我慢できなくてなぁ、こっちは死んででも強くなりたいのにこれ以上は危険だの死んでしまうだのと言ってやめるんだぜ? ふざけんなって話だ。だから馬鹿な頭で必死に考えたり相棒に聞いてみたりして今の戦い方を思いついたってわけだ。我ながら天才だと思ったね! 影人形だったらどれだけ無茶しても俺の肉体は傷つかねぇしさ!」

 

『ゼハハハハハハハハハハハハ! 肉体は傷つかねぇが精神の方は死にかけてたけどな! ガキが自分の行動と影人形の行動を同時進行すりゃぁどうなるかなんざ分りきってるだろう? つってもあの頃の宿主様はとっくの昔にぶっ壊れてたからその辺は気にしちゃいなかったけどなぁ! テメェらは理解できるか? 両手両足が折れ、息をすることすら困難な状態のガキが「まだやれる」って本気で言うんだぜ! 最高に狂ってたな!』

 

「いや狂ってたって言われてもな……だってまだやれると思ってたから言っただけだぞ?」

 

『だからこそ宿主様は壊れてたのさ。それが気に入ったんだけどな! ゼハハハハハハハハハ! どうだユニア! テメェの宿主がどれだけ強かろうが俺様の息子は周りが引くレベルな事を平気でやってきたんだぜぇ! これはもう俺様達の勝ちって事で良いんじゃねぇか?』

 

『クフフフフフフフフフ。確かにノワール・キマリスが壊れているのは事実ですが夜空も負けてはいませんよ。有り余る才能を戦闘だけではなくノワール・キマリスを見ていたいという思いだけで監視できるように術を開発する! あまりに見当外れな方角への全力投球はこちらの勝ちで良いと思いますけども?』

 

『言うじゃねぇのくそビッチが! 良いか! 俺様の息子はなぁ!!』

『良いですか! 夜空はですね!』

 

 

 なんか知らないが地双龍同士によるうちの子自慢が始まってるがスルーしておこう。

 

 

「……まぁ、これが影人形が生まれた理由だよ。だから結局、魔力の扱い方なんざ自分次第なんだよ。さっきも言ったが自分がやれると思ったらそれは出来るし、出来ないと思っても死ぬつもりでやれば出来るんだ。というわけで夜空! 俺を褒めても良いんだぞ!」

 

「え? ヤダ」

 

「褒めても良いんだぞ!!」

 

「ヤダって言ってんじゃん」

 

 

 泣いて良いですか?

 

 

「……水無瀬、橘。とりあえずガキ共には人間界のゲームや漫画を読むように言っとけ。魔力の使い方のヒントぐらいにはなるからな」

 

「あ、はい。分かりました……ノワール君」

 

「んぁ?」

 

「ちゃんと子供たちの事を考えてるんですね」

 

「……さぁな」

 

 

 それを言い残して水無瀬と橘、レイチェルから離れて肩車状態の夜空と一緒に他の場所を回った。特に何かを話すわけでも無く学校という空気や風景を共に味わうように歩き続けた。

 

 

「ノワールってさぁ~やっぱり馬鹿だよね」

 

「いきなり何言ってんだ?」

 

「だって私に追いつきたいからって無茶するとか馬鹿じゃん」

 

「好きなんだから当然だろうが……良いか、恋愛ってのは命がけなんだぜ? 好きになった奴を手に入れたいから死んででも努力するもんなんだよ」

 

「知ってる。うん、ねぇノワール」

 

「あん?」

 

「好きだよ」

 

「知ってる。夜空、俺もお前が好きだぜ」

 

「んなの言われなくたって知ってるっての。だからさぁ~次に私が言いたい事は分かるっしょ?」

 

「分かるに決まってんだろ……逆に聞くが次に俺が言いたい事も分かるよな?」

 

「うん」

 

 

 考えるまでもない……俺も夜空も次に言うことは決まってる。

 

 

「――早く私に殺されろ」

「――早く俺に殺されろ」

 

 

 俺が上で夜空が下か、夜空が上で俺が下か、俺が夜空を護るのか夜空が俺を護るか、周りからすればどうでも良い事でも俺達にとっては重要な事だ。今日まで色んな事に巻き込まれたり自分から参加したりと忙しかったような気がするがもうすぐ一年が終わる……人間である夜空と過ごせる時間がまた減ってしまうからこそその言葉を言うしかない。互いに同じ言葉を言うと一瞬だけ無音になるが俺も夜空も何かがおかしかったのか一緒に笑い出す……やっぱり俺は夜空が好きなんだ。それだけは何があろうと変わらない。

 

 

「あはははははははははは! うっける! ちょっ! マジウケるんだけど!!」

 

「それはこっちの言葉だっての! ぷ、あははははははは! なんで学校の中で私に殺されろって言ってんだよ! エロゲでも中々ねぇぞ!」

 

「そっちだって同じこと言ったじゃん! つーか女の前でエロゲとか言うなし! さっきもマジな顔して語ってたけど本気でウケるんだけど!! あはははははははははは! 腹イテェ! もうっ、笑わせないでよノワール!」

 

「テメェが勝手に笑ってるだけだろうが! つーかドヤ顔で話して何か文句でもあんのか!?」

 

「べっつにぃ~あははははははは! うん! やっぱりノワールと居ると楽しい! すっげぇ楽しい! ねぇノワール、学校って案外悪くねぇかも!」

 

「……なら良かった」

 

 

 その言葉に俺は誘ってよかったと本気で思えるぐらい嬉しかった。




観覧ありがとうございました!

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