ハイスクールD×D~地双龍と混血悪魔~   作:木の人

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10話

「――なんだこの空気」

 

『ゼハハハハ。見事なまでに静まり返っておるわ』

 

 

 夜空が開いた転移穴を通って殺し合いをしていた特設会場から元のパーティー会場へと戻ると拍手喝采――という事にはなっておらず絶対零度と表現できるほど静かになっており、誰一人として言葉を発してはいなかった。どうしてこうなったと思いたくもなるが恐らく先に行われた下級悪魔(赤龍帝)とこのパーティーの主役であるライザー・フェニックスの戦いで見事赤龍帝が勝利。その後に行われた俺と夜空の試合、いや死合いともいえる殺し合いが悲惨過ぎたか……でも普段キマリス領で殺し合ってる時って大体あんな感じだからなぁ。覇龍まで使う事態になるのは久しぶりだけども。

 

 パーティー会場の空気に戸惑っていると平家が一歩、俺に近づいてくる。その表情は何故か分からないが真剣そのもの……例えて言うならゲームで激レアキャラがドロップでしか出ない時に手に入れるために本気を出すときに似ている。なんという無駄な本気を出すなんだろうか。

 

 

「おかえりノワール。早速だけど怖いから鎧解除して」

 

「うん? あぁ、忘れてた――っ」

 

 

 禁手化を解除すると頬に痛みが走った。理由なんて簡単に説明ができる……目の前の平家にビンタをされた。普段ならばあまり目立つような事はしないが今の平家の顔は涙目で若干ではあるけど体が震えていた。多分、いや確実にさっき使おうとしていた覇龍(ジャガーノート・ドライブ)に対して怒っているんだろう。

 

 

「バカ、バカじゃないの。大馬鹿……遊びで死ぬ気なの? 何で使おうとした、ねぇ答えてよ」

 

 

 あまり見ないであろう怒りの感情が含まれた声。そんな姿を見たことがないであろう犬月はあっけにとられ、水無瀬や四季音はその言葉に同意するように強い眼差しで俺を見ている。

 

 

「……お前も俺の眷属なら分かってるだろ。俺も夜空も邪龍、地双龍を宿す存在だ。普段はふざけていようと根っこの部分は互いを殺したくて仕方がないんだ、どっちが強くてどっちが弱いのか。たったそれだけを決めるために俺達は殺し合う。そういう運命なんだよ……だから諦めろって言っても無理だよな」

 

「当たり前。私も恵も花恋も瞬もノワールの眷属。勝手に死ぬことは許さないし私達を受け入れたんだったら最後まで責任取ってよ」

 

「――悪かったよ。平家も、四季音も水無瀬も、犬月も。軽率だった」

 

 

 確実に俺が悪いから素直に謝る。恐らく平家が言った事は水無瀬と四季音も同じ思いなんだろう……犬月は何だかよく分からないような様子だけども。

 

 覇龍(ジャガーノート・ドライブ)、それは俺や夜空、赤龍帝や白龍皇が持つドラゴンを宿した神器を持つ者が発動できる禁じられた力。一度使えば神を殺せる力を手に入れる代わりに運良くて寿命の大半を失い、運が悪ければ暴走して死に至る。そんな危険中の危険、禁忌とも呼べるモノを俺と夜空はさっきの殺し合いで使おうとしていたからな。多分だけど覇龍発動時に漏れ出す歴代影龍王と歴代光龍妃の思念を感じ取ったんだろう……いくら別空間とはいえ平家は覚妖怪、耳を塞いでいても邪悪に満ち溢れた声を聞いてしまう。

 

 

「き、キマリス様! う、腕を見せてください!」

 

 

 冷え切った空気を一刀両断するようにフェニックス家の双子姫の片割れ、レイチェル・フェニックス。それがハッとしたような態度で一目散に俺の腕、先ほどの戦いで夜空に一度切断された腕に触り始めた。うわっ、今気づいたけどスーツの腕部分が無くなってやがる……切断されて再生したからかぁ。これ高かったのにどうすっかな。夜空に弁償しろとか言ってもあいつ金持ってないしそもそも「はぁ? いやに決まってんじゃん。まさか体でとか言わないよねうわきっもぉ」とか言いかねん。

 

 

「あれ、あ、あれ……治って、いますわ……?」

 

「さっきの殺し合いを見てなかったのか? 再生したんだよ。流石に切り傷やら擦り傷は治ってないけどな」

 

「そうなのですか……? そ、そのお恥ずかしながらキマリス様の腕を治すために涙を取りに行っていたので、見ていないんですの」

 

 

 俺の腕を触りながら恥ずかしそうに返事をするレイチェル。やべっぇ凄く可愛いなにこの可愛い生き物。純粋すぎないか? お兄さんこの子が悪い人に攫われたりしないか心配に――痛い痛い痛い。わき腹抓るな、冗談に決まってるだろ。だってこの子は既に中級悪魔でその辺の奴には負けないだろうし普通の冗談だよ。ほ、ホントだぞ?

 

 

「ノワール・キマリス君」

 

 

 奥からサーゼクス様が近づいてくる。それを見て先ほどまで俺の腕を触っていたレイチェルは手を放して俺からやや後ろ、平家達と同じ所に移動した。何故だろう……平家とレイチェルから不穏な空気が流れている気がする。

 

 

「サーゼクス様……あ、あの、特設会場を壊してしまってスイマセン」

 

「気にしてはいないよ。見事な戦いだった、これからも冥界の……いや悪魔社会を引っ張っていってほしい」

 

「ありがとう、ございます」

 

 

 頭を下げる。魔王様にそんな事を言われてしまったらふざけた事なんて言えるわけがない。

 

 その後、サーゼクス様は紅髪をしたダンディーな男と一緒にどこかに行ってしまう。あれ? そう言えば今頃気づいたけどライザーもグレモリー先輩もいないな……あぁ、先輩はもしかして赤龍帝が連れてこの場所から離れていったのか。ライザーは……公衆の面前でボコられたから恥ずかしくて引きこもったってところかねぇ。でもそうなるとこの後はどうなるんだ? なんせ婚約しますと言った二人の内、片方は下級悪魔にボコられてこの場にいない、もう片方は下級悪魔に連れられてこの場からいなくなった。こんな事があったらパーティーどころの騒ぎじゃないだろう――どこぞの規格外も乱入してきたしな。

 

 視界の端、夜空に処刑宣言をされた男は酷く取り乱しており精神状態が異常だと察することができる。きっとあいつの事だ……有言実行するだろうしすぐに治るよ。消滅すれば怖いものなんてないだろうし。

 

 

「なぁ、この後どうなるんだ?」

 

「……お恥ずかしい話ですがリアス様も連れ去られてしまいましたので今回のパーティーはお開きとなるでしょう」

 

「まっ、そうだよな。それじゃあさっさと帰るか。此処に居ても場違いなだけだし……今回はご招待いただきまして誠にありがとうございました。この礼はいつか必ずお返しいたします」

 

「そ、そうですか……い、いえ! その通りでございますわ! この私に招待される事など光栄なことなんですわ! で、ですからそれ相応のものでなければ、お、怒りますわよ!」

 

 

 フェニックスの双子姫が納得するほどのものってなんだよ。高価な物とかは興味なさそうだし……よし聞かなかったことにしよう。冗談だ、だから何もしなくていいよみたいな表情はやめろ。流石に招待されて何もお返ししないのは混血悪魔、いやキマリス家次期当主としてダメだろ。おい、誰に言ってんだみたいな顔止めろ。もちろん心を読んでるお前(平家)に決まってんだろ。

 

 パーティーどころの騒ぎじゃなくなったようなので眷属を連れて自宅に転移する。普通だったらこのまま着替えて一息つくところだが少々用事を思いついたので自室の本棚から数冊ほど本を手に取ってから水無瀬達に出かけてくることを伝えて再び転移。向かう先は駒王学園オカルト研究部――つまりグレモリー眷属の根城だ。不在だったら無駄骨だったがそんな事は無く、全員部室内に居たので俺が転移してきたことに驚いた様子だった。

 

 

「く、黒井!?」

 

「よっ、赤龍帝。さっきの試合だが結構面白かったぞ。アポなしでの転移、誠に申し訳ありません」

 

「気にしなくても良いわ。何か用事かしら? それとも私を連れ戻すようにフェニックス家に頼まれたとかならこちらも対処させてもらうわよ?」

 

「生憎そんなめんどくさい事はしない主義ですしパーティーは主役二人が居なくなったんんで終わりましたよ。今回は個人的な用事でして――赤龍帝、お前のその腕を如何にかできると言ったらどうする?」

 

 

 俺がそういうと赤龍帝は驚いた声を上げる。それだけじゃなく他の奴も同じような反応だ……後ろのシスターちゃんなんて今にも泣きそうなんだけどそこまで嬉しい事だったか? な、なんかハードルが上がったような気がするぞ。

 

 

「確かに神器のに宿るドラゴンに献上した部位は決して元には戻らない。だけどその部位を覆うドラゴンの魔力を散らせば数日間は元の状態に戻る。それを繰り返していけば日常生活は問題ないだろう。ほら、これがドラゴン関連の書物だから先輩方にやってもらえ」

 

「お、おう……あ、ありがとな!」

 

「気にするな。面白いものを見せてくれたお礼と夜空に目を付けられた同情だ。あっ、先に言っておくけど俺はその腕の魔力は散らせないからな。相棒とお前のドラゴンは性質が真逆で何が起こるか分かんねぇし」

 

「……ありがとう。このお礼は必ず返すわ」

 

「いりませんって言わなかったですか? 面白いものを見せてくれたお礼と夜空に目を付けられた同情って。だからお礼とか入らないんで……どうしてもっていうなら赤龍帝が強くなったら俺と戦わせてください」

 

「ふ、ふざけんなぁぁ!? お前たちの戦い見てたけど俺より圧倒的に強いじゃねぇか!? 戦ったら確実に死ぬって!?」

 

「大丈夫だ。加減しないから」

 

「しろよ!?」

 

 

 

 この部屋に笑いが起きる。冗談を言ったつもりはなかったが何か面白かったらしい。

 

 でも災難だよな……対の存在で戦う宿命を持っている白龍皇(ヴァーリ)、自分の欲望優先で他人の都合なんて知らない規格外こと光龍妃(片霧夜空)、そして影龍王()。可哀想に……望んでいなくてもこんなにドラゴンを宿す存在に囲まれてる……でも弱い。弱すぎるから強くなってくれ、もっと強く。

 

 

『――何を考えている。影龍よ』

 

 

 声が響く。それは俺や相棒、グレモリー眷属の誰のものでもない声だ。威厳に満ち溢れ、強者を思わせるようなそれは兵藤一誠の腕、赤龍帝の籠手から放たれた。

 

 

『――おやおや、これは宿主の片腕を奪い取った極悪非道の赤蜥蜴ちゃんじゃねぇか。起きてたんだなぁ』

 

『兵藤一誠が俺の声を聞けるぐらいまでには成長したのでな。そして極悪非道は貴様の方だろう』

 

『ゼハハハハハ。何を当たり前な事を言ってるんだぁ赤蜥蜴ちゃんよぉ? 俺様、邪龍だぜ?』

 

『知っている! 貴様……()()俺と白いのの戦いを邪魔する気か?』

 

「お、俺と黒井の手から声が聞こえてくる!? と言うよりこの声って夢の中に出てきたドラゴン!?」

 

「イッセーの中に眠るドラゴン……まさか赤龍帝なの?」

 

「と、いう事は彼から聞こえる声は……!」

 

「――影龍王」

 

 

 

 兵藤一誠、グレモリー先輩、イケメン君、そしてロリっ娘がそれぞれ思った事を言う。周りの驚きを他所に相棒と兵藤一誠の中に眠るドラゴン――赤龍帝は会話を続け始めた。それは知り合いに会った、というよりも宿敵に会ったような……今にも殺し合いが発生しそうなほどの空気を放ちながら。

 

 

『またぁ? 邪魔なんてしてねぇぜドライグぅ、あれは女の取り合いに負けたお前、お前の所有者が悪いだけだろう?』

 

『どの口が言うか! 殺し合う事を進めたのは貴様、いや貴様の所有者だろう! 白いのとの対決も出来ずに死に、新たな宿主に転移した俺の気持ちが分かるか!』

 

『知らんなぁ? 弱いのが悪いんだろう? ゼハハハハハハ! ムカつくなら殺し合うか? テメェの宿主じゃぁ俺様の、歴代最強の宿主様には勝てねぇがなぁ!!』

 

『貴様ぁ……!!』

 

「……おい、仲悪すぎねぇか?」

 

『この赤蜥蜴は数代前の所有者を同じ時代に生きていた俺様の所有者に殺されてなぁ。その事を根に持っていやがるのよ』

 

「大方、赤龍帝の言う通りお前が唆したんだろ? お前が悪いじゃねぇか」

 

『その通りだ今代の影龍王。お前は今までの所有者とは違い理性はまだ保っているようだな』

 

「まぁ、はい。何時まで保てるか分かんないですけど今は保ってますよ」

 

『良いか。そのドラゴンは所有者を殺す。自分を保つんだ――そして俺と白いのの戦いを邪魔するな』

 

『うるせぇ赤蜥蜴ちゃんだなぁ』

 

 

 邪魔するも何も……既に白龍皇に会ってるんですが? 一回殺し合った仲ですけど?

 

 この部屋の空気はドラゴンの会話によって最悪なものになってきたからそろそろ退散しよう。俺は助言もどきをしに来たのであって喧嘩をしに来たわけじゃないしな。

 

 

「……あの、なんかすいません」

 

「い、いえ……これが伝説のドラゴン同士の会話なのね。面白い経験だわ……ふふっ、イッセーに助け出されてドラゴンの会話を聞いて……今日は凄い日ね」

 

 

 眷属の方々が頷いている。確かに凄い日だよなぁ、結婚しようと思ったら助け出されるとか映画の世界の話だよな。

 

 全員に会釈をしてから転移をして家に戻る。そのまま風呂に入って自室でベッドに横になると戦いの疲れが一気に来たのか身体が重くなる。禁手化は呼吸するのと同じだから違うとして……やっぱ影龍王の再生鎧ver影人形融合の使用の反動か。でもあれって影人形を構成する霊子と神器から生まれる影を同時に纏うだけの代物で危険性なんかこれっぽっちもない。

 

 でも実践投入してみて中々使えるな。今後も強い相手には使っていくとしよう。でも可能なら覇龍を昇華、または同じようで違う力を編み出したいがまだ無理だ。俺自身の実力が低すぎる……もっと強くならないとなぁ。

 

 

『恐らく霊子を全身に流し、身体能力を飛躍的に向上させたのもあるだろうが一番の理由は覇龍だ』

 

「だよなぁ。全身に霊子を流した程度で疲れるわけないし……相棒、あのまま覇龍を使ってたらどうなってたと思う?」

 

『考えるまでもないだろう。俺様とユニアが殺し合うだけだ。宿主様かあの女のどちらかが死ぬまでな』

 

 

 平然と答えてくるがその通りの事になっただろうな。どっちかが死ぬまでは終わらない戦い……二天龍のように戦い続ける。めんどくさいようで辛くもない、そんな変な感覚だよホントに。

 

 ベッドに横になっていると扉がノックされた。入ってきたのは飲み物を持ってきた水無瀬、寝間着姿だから地味にエロい。二十代の寝間着姿とか最高じゃね? はい冗談です。

 

 

「水無瀬?」

 

「疲れているんじゃないかと思ってホットミルクを持ってきました」

 

「……あんがと」

 

 

 俺はベッドに座ったままマグカップを受け取る。水無瀬は近くにある椅子に座って自分の分のマグカップを口に付ける……俺も飲んだけど暖かい。熱くもなく冷たくもない、ちょうどいい温度だ。

 

 

「――何か言いたいから来たんだろ?」

 

「――分かっちゃいましたか」

 

「何年お前と、いやお前達と一緒にいると思ってる? パーティー会場で平家にビンタされた時にお前等の顔を見たが平家と同じ顔だったしな」

 

「……では言わせてもらいます。ノワール君、貴方は私の主です」

 

「そうだな」

 

「貴方は私を、この不幸体質と神器で嫌われていた私を受け入れてくれました」

 

「……そうかもな」

 

「ですか、いえ、だから消えないでください。私の前から居なくならないでください」

 

 

 その声は消えそうなほどに小さかったが俺の耳にはハッキリと聞こえるものだった。手に持っているホットミルクが入ったマグカップをもう一度口にする。そのまま昔の――俺の水無瀬の出会いを思い出してみた。

 

 あれは気分が滅入るような大雨の日、何かに導かれるようにこの町よりも遠い、遠いとある町の路地裏に足を運ぶと数人の男に囲まれている女――水無瀬がいた。ただの暴漢と襲われる女、たったそれだけだったはずなのに気が付けば暴漢を叩き潰して女を助け出していた……なんで、どうしてと言いたそうな眼差しをする水無瀬を今でも覚えている。

 

 

『……なんで、助けたんですか』

 

『理由がいるか?』

 

『私は……不幸を招く女です、いてはいけない存在なんです……だから、犯された方がよかったはずなんです……好きにしてください。初めてですけど楽しませるぐらいは出来ます』

 

 

 瞳には諦めの感情を宿し、どこの誰とも分からないガキに抱かれようとしていたのも覚えている。だから着ていたコートを逆に羽織らせたら驚いてたな……あの時の水無瀬の顔は笑えたぞ。

 

 

『なん、で』

 

『泣いている奴を抱くほど趣味悪い性格はしてねぇんだ。不幸、不幸か――あぁ、確かに凄いな』

 

 

 ピンポイントで真上から鉢植えが降ってくるなんて滅多にないはずなのに落ちてた。それも複数だぞ? あり得ないだろってぐらいだ……思い返してみても凄かった。降ってくる物体を影人形で防ぐと座り込んでいた水無瀬はさらに驚いた顔をしたけどいきなり足元から変なのが出て来たらそりゃ驚くわ。でも俺も水無瀬の不幸体質全盛期の凄さに驚いてたぞ。

 

 

『宿主様、この女。神器を宿してやがるぜぇ』

 

『なるほど。それが原因か……俺にまで降りかかるほどの不幸体質か、くくくっ! 面白いな』

 

『面白い……?』

 

『お前みたいなのが居たら楽しめそうだ。あっ、楽しめるってのはそういう意味じゃねぇからな? 日常が非日常になるかもしれないとかいう方の楽しみだ。勘違いするなよ? ついでに言うと俺はお前の不幸だろうとなんだろうと気にしねぇ。むしろどんどん不幸になれ。俺みたいな奴には幸運よりも不幸が良いらしいしな。あと処女は好きな奴にでも取っておけ』

 

『……』

 

『宿主様、この女をどうする? 眷属にするかぁ? 俺様的には面白ければそれでいいんだぜぇ』

 

『そうしたいがなんか諦めてる奴を眷属にしてもなぁ』

 

 

 どうしようかとポケットから僧侶の駒を取り出してあれこれ悩んでいた時だ。諦めの瞳だった水無瀬が突然立ち上がって俺が持っていた駒を取った。あの時ほど何が起きたと思った事は無いな。なんせいきなり瞳に光が、生きる活力を得たとかそんな感じのものが宿ってた……だからだろう。こいつは面白い奴だって思えたのは。

 

 

『いきなりどうした?』

 

『す、いません……でも、これが、呼んでいたように聞こえて……ご、ごめんなさい』

 

『――そっか。なぁ、俺はお前の不幸を受け入れよう、どれだけ不幸が続こうと俺は気にしない。さてニンゲン、ここが分岐点だ。化け物で異常で悪魔な俺と来るか、いつもと変わらない日常を生きるか……お前はどっちを選ぶ?』

 

 

 水無瀬が選んだのは――俺と共に来る方だった。そうじゃなかったら今も俺の目の前にいないしな。しかし思い返してみた思った事なんだが……この時の俺ってカッコつけ過ぎじゃね? なに最後の方のニンゲンと言うセリフ? バカじゃねぇの。なに半裸状態の女を目の前にしてカッコつけてんだよマジでバカじゃねぇの……過去に戻れるなら思いっきり殴りたい。マジで殴りたい。

 

 

「どうしました?」

 

「いや、出会った時は『好きにしてください。初めてですけど楽しませるぐらいは出来ます』とか言ってた水無瀬が今では学校の保険医なんだよなぁと」

 

「っ!? い、いやあれはその、えっと、えっと!? の、ノワール君だってカッコつけてたじゃないですか!! それはもう今とは全然違いすぎるぐらいに!!」

 

「水無瀬。人間には中二病という必ず発症してしまう病気があるんだよ。きっとその時の俺はその病にかかっていたんだ。だから忘れろ」

 

「だ、だったらそのセリフも忘れてくださいよぉ!!」

 

「いやぁ……思春期中の男にお前みたいな美女が言ったら忘れられないだろう悪魔的に。だから俺が生きている間はずっと覚えてるぞ」

 

「へ、変態!!」

 

『ゼハハハハ。男はみんな変態なんだぜぇ』

 

 

 その言葉には同意しかねるけど反論するのはめんどくさい。そんなやり取りをしたせいか二人して笑い出したけどこれはこれで悪くないと思う。

 

 

「ふふっ、ノワール君。戦うのも殺し合うのも良いですけどちゃんと私たちの所に帰ってきてください。じゃないと私も困りますし……一番ノワール君に依存している早織も困りますから」

 

「……善処するよ。飲み物あんがとよ、今日はよく眠れそうだ」

 

「それはよかったです。それじゃあ私もそろそろ休みますね、マグカップを持っていきましょうか?」

 

「頼む――やべっ!?」

 

「えっ――きゃ!?」

 

 

 立ち上がってカップを渡そうとしたら思いのほか疲れが来ていたのか足にガクンとなり思いっきり水無瀬に突っ込んだ。幸い飲み終わっていたから零れる事は無かったけど……事態はそれどころではない。

 

 椅子に座っていた水無瀬に大勢を崩した俺が突っ込んだ。えぇ~はい、俺の顔に水無瀬の程よい大きさの胸が当たってます。柔らかいですマジで柔らかいです俺が思っていたものそのものです。マジで夜空のとか壁か地面かって言いたくなるほど硬かったからな……! これが、胸!!

 

 

「悪い……思いのほか疲れてたらしい――おい?」

 

「――キ」

 

「き?」

 

「キタァァァァァァァァ!!!!!」

 

「うわっ!?」

 

「ラッキースケベイベントキタァァァァ!!! ようやくですよやっとですよやりましたよ私の不幸体質さん! これをどれほど夢見てたことか! 夢を見過ぎて現実に起こらないんじゃないかって思っちゃってましたがそんな事はありませんでしたよ!」

 

「……」

 

「こ、このまま私は自分の不幸体質に逆らえずあんなことやこんなことを……あ、あれ? 何で影人形を――ま、まさかそれを使って私に変な事を!? 良いですよドンとこい、あ、あれ? 何で首根っこを掴んで扉の方に? の、ノワール君!? ノワール君?!」

 

 

 なんだか壊れたようなので落ち着かせるために影人形を使って俺の部屋から出て行ってもらった。しかし柔らかかった、柔らかかった。何度も言おう――柔らかかった。

 

 

「相棒」

 

『なんだぁ?』

 

「女って、不思議だな」

 

『ゼハハハハハ。女とは季節のように移り変わっていくんだぜぇ。昨日、今日、そして明日の顔は違う生き物なのさ』

 

「マジかよ」

 

 

 何だかどっと疲れたのでベッドに横になって眠ることにした。外から聞こえる声なんて知らない、全然知らない。俺様は寝る。疲れたから寝るんだ。

 

 そして翌日、起きた俺の耳に飛び込んでくるように入ってきた事は――冥界でとある貴族悪魔とその一家が家もろとも消滅したというものだった。流石規格外、有言実行かよと思った俺は悪くないだろう。ざまぁとも思ったけどね。




これで影龍王と不死鳥家族編が終了です。
観覧ありがとうございました!

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