109話~パシリの普通な一日~
「どうした由良っち! その程度じゃ俺は倒れねぇぞ!」
戦っている相手である由良っちに挑発するように叫ぶ。上はTシャツ、下はジャージ姿で若干だが息を切らしている姿はなんというかドキドキするけど今は殺し合い……じゃなかった模擬戦の真っ最中だから気を抜けば負けちまう! なんせ相手は由良っちだけじゃないしね!
「……はぁはぁ、あれだけ打ち込んでいるのにまだ倒れないのか」
「いやちょっとあり得ませんって……私も結構蹴り入れてるのにまだ元気とか自信無くすんですけど!?」
由良っちとは反対方向、俺の真後ろには太腿まで覆う脚甲型の
「ハッハッハー! いくら人工神器込みの威力でも俺をダウンさせたかったら王様か酒飲みか茨木童子か鬼の四天王レベルのパワーじゃねぇと無駄っすよ! この程度で沈んでたらとっくの昔に死んでるしな! 割とマジで」
最後の言葉だけトーンを落とす。きっと今の俺の眼は死んでるだろうが気にしない。
確かに由良っちは
「目が死んでる!? というより最後の言葉でもう泣きそうなんですけど!? あ、あの犬月先輩! き、きっと良いことありますよ!」
「ありがとう仁村っち! ホントにその言葉だけでこれからも頑張れそうっすよ! んじゃ、続きすっか!」
右腕と左足に妖力、左腕と右足に魔力を纏わせて駒のシステムを
戦場を駆けるように走ると仁村っちが騎士状態の俺を振り切るために全力を出す。ちっ、モード妖魔犬状態なら問題無く追いつけるが素の状態での機動力はあっちが上か……騎士の特性とアザゼルが開発したという人工神器、その恩恵って奴かね? まっ! ただ速いだけなら引きこもり相手で慣れてるし問題ねぇ!
「っ、追いつかれそう……! でもまだまだ! てぇい!」
高速で移動する仁村っちを追っていると突如として軌道を変え、真横から仁村っちの蹴りが飛んできた。週に何回かシトリー眷属と訓練する事はあるけど見た感じ、やっぱり仁村っちは戦車や僧侶なんかより確実に騎士が向いてるな。あの速度でこの機動力はシトリー眷属の中でもトップクラスだろう――引きこもりの方が速いし殺意も高いけど。
放たれた蹴りを胴体で受ける瞬間、左足から攻撃が当たる箇所に纏った妖力を移動させる。女とは思えない威力の蹴りが俺を襲うが衝撃の大部分は妖力で防いだからまだまだ怯むことは無いだろう……へへっ! これぞあの地獄の中で生き抜くために編み出した防御術! 例えダメージを受けようと脳と心臓さえ無事なら骨が折れようが引き千切られようが関係無いしね! というより躱すより受けた方がすっげぇ楽!
ちなみにこのピンポイントガード術は酒飲みと引きこもりに即効で真似されたのは言うまでもない。一回見ただけで俺以上に操るとかちょっと納得いかねぇ。
「うっそ!? まだ倒れないの!?」
「よっしゃ! 捕まえたっすよ!!」
「させない!」
背後から由良っちが近づいてきて拳を放ってくるが当たるよりも早く仁村っちの足を掴む。今からやろうとしている事を止めれば余裕で回避出来るが折角のチャンスを捨てるのはもったいない……というわけで左腕に纏っている魔力を拳が当たる場所へと移動させて衝撃を軽減! 流石は戦車……軽減したとはいえ女の拳とは思えない威力だ。まぁ、酒飲みと比べると滅茶苦茶軽いけど。
「ハッハッハー!! それお返しだ!」
ジャイアントスイングの要領で仁村っちを背後にいる由良っちへとぶつけて体勢を崩す。勿論、高速移動が可能な仁村っちの足は離さない! 何やら察したらしい仁村っちが顔を青くしているが気にしないでおこう。だってししょーや鬼の四天王が言ってたもんね……殺し合いに卑怯もクソも無い、利用できるものは何でも利用しろって! それは俺も思ってる事だからやめる気は無い! そもそも俺以外だと王様、酒飲み、引きこもりの頭おかしい三人衆はこの程度ぐらい普通にやるだろう。
そんな事を考えながら武器扱いとなった仁村っちを由良っちに叩きつける。勿論、駒のシステムを騎士から戦車に変えたから威力倍増させるのも忘れない! 相手を武器にする手は当たろうがが外れようが武器となってる人物にはダメージ入るから利用しない手は無い。捕まる方が悪いんだ! さてさて戦車に昇格した俺の力に加えて仁村っちの体重――ドンぐらいあるか分かんねぇけど――が加算された強力な一撃は由良っちに大ダメージを与える結果となった。何故か観戦している他のメンバーからうわぁって感じで見られてる気がするけど安心してほしい! 俺はまだ優しい方だから!
「ちょ!? 犬月先輩!? 女の子にこれってあんまりだとおもうんですけ、いったあぁい!? ぎゃああぁぁぁぁ!?!? はやいはやいはやいぃぃぃ!!! しぬしぬしぬぅ!!!」
「大丈夫っすよ仁村っち! 転生悪魔とはいえこの程度で死にはしねぇっす!」
「死ぬ云々じゃなくてこれいったぁ!? むりむりむり!? たんこぶできるというかそもそもけがしますってぇぇぇぇ!! いやぁぁぁぁ!! しぬぅぅぅ!!」
「死なない死なない! それに骨が折れる程度は怪我の内に入らねぇって! まだまだ行くっすよ!」
「相変わらずどうなってんのよキマリス眷属ううぅぅぅ!!」
俺達にとっては普通だからセーフだと思う!
そんなこんなで殺し合い……じゃなかった模擬戦は進んでいくが泣き叫ぶ仁村っちが限界に達したことにより休憩を取ることになった。なんというか……由良っち、いやシトリー眷属と訓練するのは良いんだけど気絶しないし大怪我しないから何か違和感があるな。いや良い事なんだろうけどなんかなぁ……後で王様と殺し合いでもすっかね。
「訓練するたびに思うんだが……やっぱりお前もキマリス眷属なんだな。仁村を武器扱いとかマジかお前」
「え? 普通やるっしょ?」
「やらねぇよ! いや実戦なら分かるけどさ。お前……黒井に影響されすぎだろ? 仲間が武器扱いされて泣き叫んでる姿とか痛々しくて見てられねぇっての!」
「いやいやげんちぃ……殺し合いにアウトもセーフも無いんすよ。だから全然問題無し!」
「アウトだよ! 思いっきりアウト! しかも殺し合いじゃなくてこれ模擬戦! も・ぎ・せ・ん!! 分かってるか!? いや分かるぞ! お前が普段何やってるのか黒井の傍に居るから色々と理解してるけど頼むから普通に! 普通に頼む! 俺は兎も角、他はトンデモな力なんて無いんだからさ!」
「う、うっす! な、何とか出来るようにはしてみるっすけど……とりあえずげんちぃは仁村っちの所に行った方が良いっすよ? ほらほら早く早く! きっとげんちぃが行けば元気になるから!」
「お、おう? なんか良く分からんがまぁ、行くけど……頼むぞ犬月! 半常識人のお前まで頭がおかしいグループに入ったら水無瀬先生やしほりんが苦労するからな!」
心配無用っすよげんちぃ! この犬月瞬、大天使水無せんせーとしほりんのためなら火の中水の中鬼の中どこで駆け付けるつもりだからな! もっともここ最近はおっかないけど。普段はもう素晴らしいぐらい可愛いし美しいし優しいけど王様が絡むとマジで怖いんだよな……光龍妃が原因で目に光が宿ってなかった時なんて――ワスレヨウ、モウワスレヨウ。オレ、ナニモミテナイ。
「犬月、飲み物を持ってきたが飲むか?」
げんちぃが離れていった後、缶ジュースを持った由良っちが近づいてきた。首にタオルをかけて汗を拭いている若干だが汗の臭いがする。こればっかりは半分犬妖怪だから仕方ないと言えば仕方がない。俺も男だから嫌じゃないんだけどね!
「あんがとっす。くうぅ! やっぱり炭酸はサイコーだね」
「そうだな。しかし……うん、やはり鍛え方が違うのか。一応、全力で来いと言われたから加減無しの拳を放ってたんだが何も無かったようにされていると仁村では無いが自信を無くしそうだ」
「まぁ、常日頃から骨折れたり気絶したりしてるしねぇ。由良っちはパワー自体は問題無いと思うし俺達以外が相手なら何とかなるんと思うっすよ? ついでに今回は人工神器を使ってないからそれ使われてたら結果が変わってたかもしれないし」
「この前、飛ばした盾を利用したのを忘れたのか? まさか戻ってくる性質を利用して接近してくるとは思わなかったよ」
「いやだって勝手に動くから楽そうだったしな。あーでもとりあえず俺達の鍛え方は真似しない方が良いっすよ? 安全第一! 由良っちも女の子なんだから自分の身を大事に!」
「先ほど、仁村を武器扱いしていた男のセリフとは思えないな」
「殺し合いだし何も問題無いっしょ?」
実際問題、殺し合いしてるのに相手が怪我するから加減するとかマジで論外。それやるなら引っ込んでろってのが俺の考えだ……いやげんちぃの言う通り王様に影響されすぎとか思うけどそもそも俺って元はぐれだしな。王様の兵士になる前だって俺を喰うために襲ってくる奴らとの殺し合いとか普通にしてたもんな。あと相手は殺す気で来てるのにこっちは加減するとかあり得ねぇ……もし殺さなかった事で後々大惨事になったら絶対後悔する。だから殺せるなら確実に殺す。こっちを殺しに来てるんだから死ぬ覚悟ぐらいは出来てるだろうしね。
そう考えると今の環境って悪くない。王様は当然として酒飲み、茨木童子、引きこもり、グラム、鬼の四天王、ししょーと手加減何それ美味しいのと普通に思ってる人達との戦いは本気で強くなろうと思えるからね! その分マジで遠慮ないけど。
「実際の殺し合いは何があるか分かんねーしこういう扱いされたって体験は必要……とししょーや鬼達も言ってたぜ。まぁ……由良っち達シトリー眷属は基本裏方だからあんまり気にしなくても良いかもだけどさ」
「そうなんだがな……ほら、この前起きたD×D学園襲撃で敵の大半をキマリス眷属やグレモリー眷属に任せていたのが少しな。犬月、お前から見て私達はやはり弱いか?」
「まぁね。水無せんせーやしほりんならまだ……いや微妙か。でも酒飲みと引きこもりが相手なら瞬殺されるかな。あの二人、王様を除けば俺達の中じゃ二強状態だし」
力の酒飲み、技の引きこもりと表現できるぐらい俺達の中じゃ群を抜いて強い。勿論、王様を除けば最強は酒飲みなのは言うまでも無いけど「さおりんとは戦いたくないねぇ」と言うぐらいあの引きこもりは強い。そもそも茨木童子が一発も当てる事無く敗北したしな……俺も何度も戦ってるが気が付いたら斬られてる。鬼の里で特訓相手だったぬらりひょんからちょっと技盗んできたとか言ってたけど大妖怪相手にやるなよ……マジでお前覚妖怪か? 別の妖怪ですって言われた方がまだ納得できるぞ。
そんなわけでもしシトリー眷属が俺達と戦うならまず勝ち目はない。というよりも王様自体がどう倒せばいいのか分かんねぇぐらい強いし酒飲み、引きこもりというパワー最強、技術最強が待ち構えてるからなおさら無理だろう。鎧を纏ったげんちぃならまぁ……勝算はあるか? いやでも引きこもりが相手だと開始早々知らない間に斬られているし酒飲みが相手だと遠くから軽く腕振るうだけで災害起こすから……その時の状況次第か。
「実際、俺達とゲームしたら辛いと思うぜ? 王様の前に辿り着くには酒飲み、引きこもり、茨木童子、グラムというアホじゃねぇかってレベルの面々を相手にしないとダメでそれらから逃げ切ったとしてもしほりんと水無せんせーという支援兼テクニック&ウィザードコンビが遠距離からドーンだ。
下手するとこのメンツに光龍妃が加わる恐れがあるからマジでムリゲーが加速するぞ。現状でまともに殺し合い出来るのってグレモリー眷属ぐらいじゃね?
「思ってはいたが改めて聞くと攻略はほぼ不可能か。難しいな」
《そもそもあっしの鎌で影龍王の生命力を奪い取っても意味無いでしょうしね。ハーデスさまと戦って生きてる上、逆に殺害なんてした相手ですぜ? こっちの戦力じゃ正面から挑むのは文字通り死を意味するんで得策じゃねーですよ》
俺と由良っちの会話に混ざってきたのは髑髏の仮面をつけたニーアっちだ。特訓している最中も髑髏の仮面を付けてるけど息苦しくないのかねぇ?
「おっすニーアっち。そっちも特訓終わりっすか?」
《そうですぜ。いやはや右を見ても左を見ても強い相手しかいないんで特訓のし甲斐がありやす》
「そりゃよかった。あと……うちの王様がまた冥府にご迷惑をかけて本当にごめん! ほんっとうにゴメン!!」
数日前に起きたD×D学園襲撃事件の後で王様が光龍妃と共に冥府に殴り込みした上で冥府の神ことハーデスをぶっ殺すという大事件は冥界中、いや全世界に広まった。当然、和平を結んでいるとはいえ他所の勢力の神様を殺した王様は投獄される――わけではなく全くの無罪で今も家で引きこもりと積みゲーを崩している。なんでと言われたら引きこもり曰く「下手に投獄したりすると妖怪勢力が離れるし何より十数年しか生きてないのに古くから生きてる神を殺したノワールが怖いんだよ」とか言ってたがそれで他勢力が納得出来てるのはある意味凄い。
そんなわけでハーデスが殺された事で管理者が無くなった冥府は三大勢力、北欧といった勢力が代わりに死者の魂を選別してるっぽい。なにやら一部の面々で王様に管理させた方が良いんじゃないかと言ってるみたいだがやめた方が良いと思う……だってどう考えても第二の地双龍の遊び場になる未来しか見えねぇし! 死者の皆さんに大変ご迷惑をおかけするんで本気でやめましょう!
《……気にしてないとは言えればどれだけ楽なんでしょうね。そもそもの発端はハーデスさまが影龍王相手にちょっかい掛けた事で起きた事件、そっちが謝る事でも無いですしこうしてあっしの特訓に付き合ってくれてるだけでも感謝ものですよ》
「別にそれぐらいなら誰でもやるっしょ?」
「それは犬月だけだ。ベンニーアとの特訓はちょっと複雑だと前に話しただろう? 犬月との特訓で使っている鎌はダメージの他にも生命力まで奪い取るから普段は似た形状をした別の鎌を使ってるんだ。犬月のように生命力を奪われること覚悟で特訓は……うん、ちょっと考えられない。私も犬月が殺す気で来いと言いだした時はちょっと熱でもあるのかと思ったよ」
《あっしは気楽で良いですけど流石キマリス眷属。ぶっ飛んでます》
え? なんでそんな頭がおかしい人みたいな視線を受けないとダメなんだ!? だって……あーそう言えばシトリー眷属と特訓するようになった時に殺す気で来いとか言った気がする。でも普通っしょ? たかが生命力奪われた程度なら安い安い! だってあれ仙術で治せるっぽいから特訓後にグレモリーの所に居る猫又とか白龍皇の所に居る猫又とかにお願いすればプラマイゼロだし。確かに言われてみると初めて頼みに行った時のいっちぃ達の表情がありえねぇって感じだった気がする……え? 俺がおかしいだけ?
「……由良っち、ニーアっち。俺っておかしい?」
「少なくとも普通では無いな」
《仕方ねーですけどね。あの影龍王の傍に居たら普通が普通じゃねーと思いますし》
マジか……俺って常識人ポジションでこれからもやっていこうと思ってたのに頭がおかしいグループに入ってたか。前に水無せんせーからも半身ぐらいはドップリ浸かってるとか言われてたけどそうか……そうか……き、気にしてないし! だって俺って王様以上に人脈というかコミュ力あるし! というよりもグレモリー、シトリーと協力してるのって俺としほりんと水無せんせーと姫様ぐらいじゃね? 仕方ないね! 王様も酒飲みも引きこもりも茨木童子もグラムも頭おかしいしコミュ障だし! 何だろう……帰ったら斬られる気がする。具体的に言うと王様の傍に居る覚妖怪辺りに。
「そう落ち込むな。その程度で嫌いはしないよ……まぁ、嬉々として人を喰うような真似を何度もしなければの話だが。流石に友人がそのような事をしていると……な」
「あーそれに関しては殺すと決めた相手以外はやらねぇっすよ。少なくとも味方相手にはやらないと誓っても良い!」
「是非そうしてくれ」
安心したような表情でジュースを飲む由良っちはマジでイケメンだと思う。生まれる性別間違ってんじゃないかってぐらいのカッコ良さだ。そもそも性格がどっかの少女趣味な酒飲みとは違ってサバサバしてるし。
《前々から思ってたんですが二人は付き合ってるんですかい?》
二人並んでジュースを飲んでいるとそれを見ていたニーアっちがそんな事を言ってきた。何やら離れた所に居る他のシトリー眷属達がてんやわんやしてるけどなんで?
「ハッハッハー! ニーアっち? 邪龍宿ってる上にカリスマ持ってる王様と違ってこの俺が由良っちみたいな美少女と付き合ってるわけないでしょーが。やべぇ、泣けてきた……ただの仲間で気の合う友達? そんな感じだぜ」
「そうだな。ただ私は犬月みたいな男は好きだぞ? 自分の意地を貫き通すところや何事にも全力なところはグッとくる。犬月は私みたいな女はどうだ?」
「やめて由良っち! 俺って彼女いたこと無いから勘違いする! ま、まぁ? 由良っちみたいにスパッと言ってくれたりするのは気が楽で良いし嫌いじゃない……か。やめよう! 何かマジで勘違いしそうだから!」
とりあえず離れた所に居るシトリー眷属! キャーキャー騒ぎすぎっすよ!? どんだけ恋愛系の話題が好物何すか! あっ……そう言えばしほりん達も大好物でしたね。さっさと話題変えたいのに由良っちが若干嬉しそう……? 嬉しそう……? 分かんない! 王様みたいに鋭くないから分かんねぇ! 頼む引きこもり! 後でゲームぐらいなら買ってやるからアドバイスというか答え的な事をくれ!
あっ、絶対にめんどくさいとか思われた気がする。デスヨネー。
「あーあーあー! なんか今すぐ死ぬ一歩手前まで特訓したくなった! じゃっ! そういうわけでちょっくらうちの酒飲み辺りに喧嘩売ってくるから離れるぜ! 由良っち、ニーアっち、今度はしほりん達と一緒に特訓しようぜ!」
なんだか滅茶苦茶恥ずかしくなったんでダッシュでこの場から離れる。確かに彼女欲しいのは本当だ……でも王様みたいに強いなら兎も角、弱い俺にはまだ早すぎる。憧れって言うかなんというか……王様があの時言った護りたいって事を俺もやりたい。だから護るためには今よりもさらに強くならねぇとな! もっとも護る以前に彼女出来るかどうか分かんねぇけど!
「酒飲み! 復興作業中で忙しいだろうが暇なら相手頼む! 今滅茶苦茶特訓した……げぇ!? 四天王!? なんで居るんすか!?」
冥界へと転移して酒飲み達が復興作業している場所へと向かうとちょうど休憩中だったのか鬼や妖怪達と一緒に酒を飲んでいた。ちなみにこれは鬼勢力達が自前で持ってきたものだ……他にも妖怪勢力からは野菜やらなにやらが持ち込まれて被害にあった場所に住んでた悪魔達のご飯として提供されている。これらを頼まずに持ってくる辺り、王様の事をよく理解している気がする。
「うぃ~? なんだ~いぱっしぃり~? 騒がしいぞぉ――人が折角、楽しく飲んでるのを邪魔するんじゃないよ。潰すよ?」
「王様なら良いかもしれないが俺のはやめろ! 未使用で再起不能とかマジで勘弁! てかホント、なんで居るんすか……? 四天王の方々って忙しいはずじゃ……?」
「ガハハ! そりゃ伊吹譲の手伝いするために時間作ったからな! おっしゃ! 特訓してぇなら俺らが相手してやるぜ!」
「頼むよ
酒飲みの声に休憩していた鬼や妖怪達が一斉に声を上げる。そんな中、俺は近づいてきた金髪の大男に担がれて別の場所に連れていかれることになった……このお方、星熊童子こと星さんで俺のししょーの一人。見た目通りというかなんというか考えるぐらいならとりあえず殴っとけみたいな感じだから俺としても楽といえば楽だ――ただし俺は死ぬ一歩手前辺りまで行くけど。
「……え? マジで? マジっすか?」
「遠慮すんなっての! ほれ金に虎に熊も付いて来いよ! 伊吹譲の旦那に仕えるってんなら精々俺らレベルまでは強くなってもらわねぇとな! よし! やる気満々そうだから全力で行くぜ!」
あっ、死ぬなこれ。
「――上等! もっと強くなりたいしな!」
王様に頼られる最強のパシリになるために! そしていずれ出来るであろう彼女を護るために! 今よりも強くなる!
観覧ありがとうございました!