ハイスクールD×D~地双龍と混血悪魔~   作:木の人

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影龍王と影の国
110話


「そう言えばもうすぐ終業式でクリスマスっすね」

 

 

 いつもの様に水無瀬が作った夕飯を食べていると思いだしたかのように犬月が呟いた。この野郎……平家とエロゲーやら寧音達との殺し合いやらで必死に気づかないようにしてた俺の苦労をたった一言で台無しにしやがった……いや別にそこまで重要でも無いからどうでも良いんだがな。てかこの煮物うめぇ……流石キマリス眷属が誇る料理人、いつもの不幸体質はどこ行ったと言いたくなるぐらいの腕前だ。橘やレイチェルも料理が出来るし偶に昼飯とか作ってくれるけど俺はやっぱり水無瀬が作った飯が一番美味いと思う。こればっかりは俺と過ごした時間の違いかねぇ?

 

 

「ノワール、明日から私がご飯作ってあげるよ。何が食べたい? お勧めは私の体だよ」

 

 

 隣に座っている平家が俺の心の声を読んだのかそんな事を言ってくる。相変わらず過ぎて何も言えねぇな。

 

 

「腹壊すから却下……いってぇ!? 器用に足蹴ってくんじゃねぇよ!」

 

「季節外れの蚊が居たんだよ」

 

「マジか。つーかお前の飯も美味いんだが俺は水無瀬が作った奴じゃねぇと明日以降も頑張れないんだよ。というわけで明日以降も頼むわ」

 

「勿論です。えぇ、料理は私の仕事ですから! あ、あとノワール君……恵、です」

 

「むぅ、悪魔さん! 偶には私が作ったご飯を食べてください! た、確かに水無瀬先生が作った料理には及ばないかもしれませんけど愛情なら負けてません!」

 

「き、キマリス様……わ、私はキマリス様の契約者ですから対価としてて、手料理を差し上げても構いません! ご希望のものをお作り致しますわ!」

 

 

 何故か知らないが滅茶苦茶笑顔になった水無瀬に対抗するように私がと橘とレイチェルが声を出してきたが……いやうん、必死過ぎない? たかが手料理を作るだけでそこまで必死になるもんなのかねぇ。まぁ……参加したくても出来ない少女趣味で処女な鬼(四季音姉)よりはマシだと思うけども。

 

 

「にっしっしぃ~みんなぁひっしだぁ~のわぁ~るぅのおんなったらしぃ~」

 

 

 俺様知ってる、嫉妬だろ? 料理出来ないから羨ましいと思ってるんだろ? おい平家、正解だったら頷け……デスヨネ!

 

 

「モテる男はつらいぜ。いやぁ、どっかの鬼は手料理披露してやるとか言って盛大に台所破壊した事があったからそれに比べたら全然マシというかむしろ最高だわ! いやー誰だろうねぇー?」

 

「んなっ!? あ、あれは違うかんね! そ、そう!! 調理器具が思った以上に脆かったから出来なかっただけで本当はちゃ、ちゃんと出来るんだよ!」

 

「ちなみに四季音姉、お前の妹はちゃんと料理できるぞ」

 

「……え?」

 

 

 信じられないような表情で四季音妹を見つめているがこれは本当だ。鬼の里で一回だけ昼飯作ってもらった事があったが普通に美味かった。定番の洗剤混ぜたりから媚薬混ぜたりするかと思ったがそんな事は無く普通に……そう普通に芹の言う通りに作ってました。結局それは芹の手を借りたんじゃと思われがちだが俺の視線の先にいる鬼さん(四季音姉)は調理機器を手当たり次第にぶっ壊してるがうちのマスコット(四季音妹)はそんな事は一切しなかったので何も問題は無い。セーフ! 圧倒的にセーフだ!

 

 

「に、にしし! の、のののノワールも面白い事を言うね……い、イバラ……? で、出来ない、よね?」

 

「言われた通りなら出来るけど考えたりしながらは出来ない。主様にご飯を作った時は母様の言う通りに作った。だから出来た」

 

「ち、ちなみに包丁とかまな板とか鍋とか食材とか握りつぶしたりは……?」

 

「伊吹、ちゃんと加減すれば壊れない」

 

「――」

 

「つーか酒飲み……お前、マジで飯食う酒飲む以外出来ねぇとか女として――スイマセンデシタァ!!!」

 

 

 普段冗談半分で放つ殺気では無く俺と本気で殺し合ってる時の殺気を浴びた犬月は即座に謝った。分かる……分かるぞ……! だってコイツ、マジで飯食う殺し合う酒飲む寝るしかやってねぇし。いくらヤンデレすら許容範囲な俺でも料理のりの字すら知らないのは……普通ならアウトっぽい気がするがどんな代物が目の前に出てくるんだろうと考えるとそれはそれで面白いから許すだろう。料理下手な合法ロリ、有りだと思います!

 

 ちなみに夜空が手料理を作ってくれた場合は何が何でも胃の中に入れるのは間違いない。たとえそれが劇物が入っていたり洗剤、虫、その他諸々が混ざっていたとしても夜空の手料理ならば問題無く食べれるだろうね! むしろ残すわけがない! ただ俺の欲望を叶えてくれるなら腋おにぎりを生きている間に作ってくれると嬉しい! それを食べたら魔王ぐらいは鼻歌交じりで殺せるだろうし。

 

 

「私が作ってあげようか?」

 

 

 夜空が作ってくれた後でならいつでもウェルカム。

 

 

「了解、光龍妃がやったら毎日作ってあげる」

 

「……また早織さんと内緒話してます。ズルいです! 私ともいっぱいお話ししてください! 志保、悪魔さんとずっとお話ししたいな♪」

 

 

 そんな可愛い笑顔を向けないでください。惚れてしまいます。

 

 

「アーウラヤマシイナーオウサマヤッパリモテルナー! いやそれより酒飲みが女としてダメだってのは今更なんで置いとくとして……んな殺気向けんな!? マジ怖いっての! 兎に角! クリスマスですよクリスマス! キマリス領の復興も鬼や妖怪達が気合入れてやってるお陰で順調ですしこう、パーっと派手にやりません?」

 

「ん? まぁ、それぐらいは良いんじゃねぇか? 言っちゃなんだが母さんが皆で集まってご飯食べましょうとか言い出すんで毎年パーティーもどきはやってるが流石に今回は見送りっぽいしな。このメンツだけなら騒いでも文句は言わねぇだろ……いやそれよりもクリスマスが近づいてくるとか悪夢だな」

 

「なんでっすか?」

 

「いやお前……考えてみろ? 一年の中で恋人同士が確実にイチャイチャでラブラブなエッチをする日だぞ。今年こそ夜空とエッチする予定だったのに色んな事があり過ぎてエッチどころかまだ腋舐めしか出来てねぇ……いや考えてみればあの夜空の素敵な腋を舐めたって事は距離は近づいて行ってるに違いないな! まぁ、とりあえず夜空とエッチ出来ないクリスマスなんて無くなれば良いと思う」

 

「いやいやそんな理由で無くなれば良いとか言われましても……というより王様が妥協すれば付き合えるんーースイマセンダマリマススイマセンスイマセンスイマセンアーゴハンオイシイナー」

 

 

 四季音姉、橘、水無瀬、レイチェルという笑顔が素晴らしい女性陣からの圧力に屈した我がキマリス眷属のパシリは死んだような眼をしながら飯を食い始める。今の発言を気にしていないのは俺が夜空と付き合おうと傍に居られれば問題無しな平家、そもそも恋愛知ってるのか分からないがそこが可愛い四季音妹、絶対に恋愛なんて知らないが剣として使われれば何も問題無いチョロイン(グラム)の三人だが……まさかグラムにすら癒しを感じる事になろうとは眷属にした時には考えられなかったね!

 

 それにしても他の四人は最近グイグイと来てる気がするのは気のせいか? 橘はまぁ、いつも通りとして四季音姉と水無瀬は距離が何だか近くなってるしレイチェルに至っては契約者だからという理由で常の傍に居ようとしている。犬月からレイヴェルはおっぱいドラゴンで有名な一誠のマネージャーをしていると聞いたがそれの真似事か? 別に構わないんだが橘と一緒にベッドに潜り込まないでください。とても素敵なお山の感触でノワール君のノワール君が大変になります!

 

 

「にしし~ぱっしりぃはあっとっでつっぶすぅ~!」

 

「シュンさんは乙女心を知るべきですわ」

 

「犬月さん、そんなに急いで食べたら喉が詰まっちゃいますよ?」

 

「瞬君、まだまだありますから急いで食べなくても良いですよ。ノワール君、ご飯のおかわりはいりますか?」

 

 

 

 やべぇ、怖い。この四人の笑みが怖い。助けてくれ相棒!

 

 

『ゼハハハハ。俺様、空気が読める邪龍として定評があるからめぐみんのご飯を食べ続けているぜ!』

 

 

 テーブルの上に座りながらもぐもぐと水無瀬が作ったご飯を食べている相棒が親指を立てながらダンディな声色で返答してきた。すまん相棒……いくら人妻ですら誘惑できそうな声でも見た目(ぬいぐるみ)のせいで可愛いとしか思えないぞ! カッコよくもあり可愛くもあるとか流石だぜ!

 

 

「あーとりあえず貰うわ。そう言えば橘、クリスマスという一大イベントでアイドル活動は無いのか? 休業してるとはいえ今でもファンレターとか貰ってるんだろ?」

 

「はい! えっと実は一日だけ再開出来ないかとプロデューサーさんから連絡があったんですけど……参加しても良いでしょうか? あと悪魔さん! 志保だよ♪」

 

「別に参加するしないはたち、たちば、志保が決める事だしな。まっ、俺としてはアイドルなお前を見てみたいって気持ちは有るけどさ! もし参加することになっても毎日レッスンしてるし殺し合いの最中でも歌ってるんだから今更攻撃してこない観客を前にして緊張するわけがないだろ?」

 

「勿論です! じゃあ、一日だけアイドル橘志保として復活してみます! 悪魔さん、絶対に魅了しちゃうから覚悟しててね♪」

 

 

 キャーしほりーん! 可愛いよー! よし良いぞ! 淫乱アイドルから清純アイドルにジョブチェンジする時が来たから是非とも頼む!

 

 

「――元から淫乱だったけどね」

 

 

 それを言ったらおしまいだろうが。

 

 

「伊吹。志保が嬉しそう。アイドルをすれば主様は喜んでくれる?」

 

「どうだろうねぇ。ノワールの場合、楽しければ問題無いって性格だしあれはしほりん専用のアタック方法だからイバラが真似しても意味無いよ。そ、そもそもイバラがアイドルをやったら色々と大変だからね……絶対に真似したらダメだよ」

 

「分かった。伊吹の命令は絶対」

 

「まぁ、茨木童子がしほりんと同じくアイドルし始めたら王様が熱中するだろうね。てかアイドルというか芸能界って結構裏があるっぽいから騙される恐れがあるしやめた方が良いっすよ」

 

「アイドルにとって枕営業は基本」

 

「しません! 少なくとも私の事務所は真面目です!」

 

「志保ちゃんが所属しているところは大手ですからその手の話題はあまり無いと信じたいですね……いえそもそも早織が言ってる事はネットの噂話ですし志保ちゃんの傍にはキー君が居ますから何かあっても安心でしょう。最悪の場合はノワール君が何かすると思いますしね」

 

「のっわ~るぅのでばんがあっればぁ~みなごろっしぃ~」

 

 

 当然だな。一応、名目上というか立場上は王ですしー? 眷属に何かあれば解決しないといけないからな! 分かる……分かるぞ! だって橘って美少女だしおっぱい大きいしコミュ障で性格が悪い俺にすらフレンドリーというかおっぱいを使ったボディタッチをしてくるから手を出したい気持ちは良く分かる! だがもしも手を出したならば殺害からの一族全て惨殺は確定だ――と言っても俺が対処するよりも先に普段はオコジョ、正体は狐な神器の雷によって殺されるだろうけどな。

 

 ちなみに橘のボディーガード的な役割を持つオコジョは相棒の近くでお食事中だ。見た目だけなら可愛いオコジョだが本性を知っている俺からすれば可愛くもなんともない。むしろ相棒の方にしか目がいかないね!

 

 

「大丈夫ですわ! 今の志保さんなら神器とキマリス様が助けに来る前に体術で鎮圧できますもの!」

 

「性的な目的で襲い掛かったら一本背負いされて気絶させられるとか普通にありそうだな。マジでアイドルってなんだよ……! とりあえず元凶のガチムチハゲは殴っとくか」

 

「し、しません! ちょ、ちょっとえいっ! とする程度です! 危なくなったら悪魔さんを呼びますので助けてほしいです!」

 

「安心しろよマイビショップちゃん! 俺様、お前が相手を気絶させた後で登場してドン引きするから!」

 

「安心できません!」

 

 

 だってどう考えても俺が助けに入る前に終わってる未来しか見えねぇしな。だってお前……この前起きたD×D学園襲撃時を思い出してみろ? 殺し合いと認識したら即行動とか余裕だったからその程度でビビるわけないだろ。

 

 

「むしろ今日までノワールの傍に居て暴漢程度で驚いてたら眷属失格だよ」

 

「それっすよね……なんせ王様との殺し合いから始まって邪龍と戦ってるんだし今更殺人犯とか暴漢とかに襲われても小動物扱いっしょ。いやホント……慣れちまったなぁ」

 

「シュンさんが遠い目を……! あ、安心してくださいませ! これから先、まだまだ今以上の事が起きますもの!」

 

「姫様……それフォローじゃないっすよ!? いや当然の事だけどさぁ!!」

 

『ソれのなニがいけないと言ウのダ? 我ガおウが戦うのナらバワレらのでばンがあるというモの。わレらは我がオうの剣なり! たタかいがあるのナラば喜ンで殺しあオう! ソシておカわりだ』

 

「あ、はい」

 

「つーかお前、さっきから黙ってたくせに殺し合い関係の話題が出た途端に話し出しやがって……相変わらず過ぎて安心したわ。これからもその路線で頼む」

 

『よク分かラヌがこコろえた! 我が王ヨ! つギにあのおニ達と殺し合ウ日は何時だ!?』

 

「少なくとも数日以内にはまた特訓という名の殺し合いをやるだろうぜ」

 

 

 そんないつもと変わらない食事を過ごした後、俺はレイチェルと共にオカルト研究部の部室へと足を運んでいた。本来ならば平家を連れてくるのが安心なんだがイベントで忙しいと拒否られた結果、女王代理と自称しているレイチェルが同伴する事となった。何故か知らないが水無瀬達がぐぬぬ顔になってたような気がするが気のせいだろうし隣にいるレイチェルが滅茶苦茶ドヤ顔になってるのも気のせいだろう。この場所に呼ばれた理由だが普通にアザゼルからちょっと面かせやと呼び出しがあったからだ……まさかハーデスをぶち殺して冥府を崩壊させた件で説教か? あれに関しては水無瀬達から説教されたから勘弁してほしいんだけどなぁ。

 

 部室内へと転移すると先に待っていたであろう先輩と生徒会長、そして女王二人にアザゼルが椅子やソファーに座っていた。ちょっと待って……アザゼル、お前の前に置かれている胃薬って文字がデカデカと書かれた瓶は何だ? ツッコミ待ち? いやでも先輩達はスルーしてるし……まさか俺にしか見えないとかそんな感じ? マジでぇ。

 

 

「悪いなキマリス、いきなり呼び出したりしてよ」

 

「別に構わないが……なぁ、アザゼル。そのテーブルに置かれている存在感バリバリな瓶ってなんだ?」

 

「これか? どっかの頭がおかしい若手悪魔が惚れた女の腋を舐めただけで異常な力を発揮したり冥府襲撃したりハーデス殺したりと好き勝手にやってるお陰で胃に穴が開くんじゃねぇかってぐらい辛くなってな。最近はこれが無いとロクに寝る事も出来ん」

 

「マジか。誰だよそんな素敵イベント引き起こしてる奴は? きっと品行方正で真面目で性格が良いイケメンに違いないけどな。とりあえずお大事にとは言っとくぜ。きっとこれからもノリが軽くて身内にクソ甘い魔王絡みで苦労するだろうが頑張れよ! 応援してるぜ!」

 

「むしろお前が大人しくしてくれるだけで解決するんだがな!」

 

 

 それは無理だな。だって好き勝手に生きて好き勝手に殺し合って好き勝手に死んでいくのが俺だし。そもそも俺は夜空と殺し合って、イチャイチャして、今を楽しく生きて居られればそれで満足なのにお前らがあーだこーだと喧嘩売ってきたりなんだりするから面倒な事になるだけだ。まぁ、相棒を宿しているんだから厄介事に巻き込まれるのはどうしようもないんだけどね!

 

 

「もうっ、ただでさえ周りから色々と言われているのにあんな大事件を起こしたのよ? 少しぐらいは大人しくした方が良いわ。自分の領地に住んでいる悪魔達のためでもあるのよ?」

 

「そんな事言われましても……うちの領地に住んでる悪魔達って俺と夜空の殺し合いで慣れ切ってるんで魔法使い達が襲撃してきても驚くことなく対処してたぐらい頼もしいですし大人しくなくても問題無いんですよ」

 

「えぇ……キマリス領に住んでいる方々はキマリス様と光龍妃が殺し合う以上の事が起きなければまず驚きませんわ。恐らく冥界内でもっとも荒事に慣れ切っている方々だと思いますわ……褒めて良いのか分かりませんけども」

 

 

 レイチェルが呆れ口調で先輩達に言うが当然だろ? なんせ俺と夜空の殺し合いを何度も見てるんだぜ? 今更襲撃程度でビビるような連中じゃねぇよ。

 

 

「ついでに言うと四季音姉妹や平家に分け与えた土地に鬼や妖怪が住むから今後、今回のように襲ってきた場合は察してくれ。うん、ヒャッハーし返しだーと襲ったら力自慢の鬼や妖術得意な妖怪が出てくるとかある意味で怖いからな!」

 

「キマリスの悪名も合わせて冥界内で一番安全な場所だろうな。安心しろ、ハーデスを殺害したお前に喧嘩を売るような奴はリゼヴィムのような連中ぐらいだ。手を出せば殺されることは魔法使い達の件で理解してるだろうしな……しかし何度も思うが神滅具所有者が本当に神を滅ぼす事になろうとはな。キマリス、神器研究家の俺から言わせればお前はかなり危険な状態だぞ」

 

「いきなりなんだよ?」

 

「通常の神器とは違いお前が持つのは世界で十五種類しか存在しない特別な物だ。少し専門的な事になるが通常の神器と神滅具の違いは拡張性の違いだろうと判断している。所有者の才能や想像力……いやお前の言葉を借りるなら欲望か、それら全てを受け止めつつ研磨次第ではさらに成長出来るのが神滅具――だからこそ神すら滅ぼせるとされているわけだ」

 

 

 なにやらいきなり神器に関する授業が始まった件について。

 

 

「通常の神器と神滅具が至る禁手の種類は三種類ほど有るとされているがお前の場合は深淵面(アビス・サイド)と呼ばれるものだろう。これは簡単に言っちまえば異常なぐらい神器と向き合う奴が至る可能性だな。封印系神器を宿した奴が深淵面に至った場合は封じられている存在の力を最大限発揮できる代わりに無意識化で何かしら失ってもおかしくは無い……俺が危険と言ったのはこの部分だ。ただでさえお前は歴代所有者の呪いを受け入れ、影の龍クロムと同化してるんだ。ミカエルが言ってたぜ? 今のお前からは常人ならば発狂しているほどの呪いを感じているってな」

 

「まぁ、ハーデス殺す前に片っ端から魔法使いの魂を影龍王の手袋にぶち込んだしな。それが原因だろうぜ」

 

「やっぱりか……よくもまぁ意識を保ってられるもんだ」

 

「だって何があろうと俺は俺だしな」

 

 

 アイツよりも偉くなりたい、アイツよりも強くなりたい、アイツを殺したい、あの女を抱きたいという欲望を抱くのは生きているなら必ず思う事だ。俺だって夜空が欲しいし夜空と殺し合いたいし夜空とエッチしたいとか普通に思ってるからそれを否定する気は無い。だからリゼちゃんが蘇らせた魔法使い達の魂を神器の中にぶち込んでも俺にとっては何も変わらない……なんせ呪詛の類の言葉を言ってくるのは歴代達も同じだしさ。

 

 確かに前までの俺だったらちょっとだけきつかったかもしれないが徹夜して自分の事を見つめ返した結果、夜空が好きなだけの悪魔だと自覚できたからこれから先、歴代達や魔法使い達の魂が何を言おうともそれを貫き通す。だってこれが俺――ノワール・キマリスという一人の男なんだから。

 

 

『ゼハハハハハハハハハハ!! その通りよぉ! 元総督ちゃん、テメェの心配なんざ宿主様にとっては全く意味のねぇ事なのさ! 俺様から見ても宿主様の精神力は異常なんだぜぇ? 俺様という邪龍すら受け入れ、歴代共の戯言すら許容し、自分という存在を自覚してるんだ! たかが呪い程度で狂うわけがねぇのさ!』

 

「というわけで危険だなんだと言われましてもこれが俺だから……としか言えねぇよ」

 

 

 俺と相棒の言葉に先輩を始めとした面々が絶句……というか俺の頭の上に視線を向けて言葉を失っている。あぁ、そう言えば復興作業中は殆ど相棒はこの姿だったけど先輩達には初めて見せるか。

 

 

「……相変わらずねと言いたいのだけれど一つ説明してもらえないかしら? キマリス君の頭の上に現れたそれは何?」

 

「声から推測すると影の龍……というのは理解できますが今まで手の甲から聞こえていましたよね? まさかサジと同じ……でしょうか?」

 

『その通りよ! ゼハハハハハ! 初めましてと言っておこうか? 俺様、影の龍クロム様だぜ! 宿主様が聖書の神の封印を内部から破壊してくれたおかげで得意とする影人形に俺様の意識を移せるようになったってわけだ! 今度この姿のぬいぐるみが発売されるから是非買ってくれよ!』

 

「……おいおい待て待て。噂で聞いてた話す影人形ってのはそれか!? あの聖書の神の封印を破壊しただと!? 腋舐めた程度でそんなもんやられるとこっちが困るぞ!」

 

「だって嬉しかったんだもん」

 

「男がだもんとか言うんじゃねぇ気持ち悪い! な、なぁキマリス……うちの女堕天使共とエロエロな事させてやるから一度影龍王の手袋を見せてくれ! 神器研究家としてはお前と光龍妃のデータが圧倒的に足りてねぇんだ! 頼む!」

 

「ダメですわ! いくらアザゼル先生とはいえキマリス様をそのような場所に行かせるわけにはいきません! これは契約者である私の命令ですわ……勿論、受けてもらえますわよね?」

 

 

 アッハイ。行きませんのでその笑顔をやめてください怖いです。

 

 

「悪いなアザゼル。うちの契約者がお怒りだから無理だわ。つーかいい加減本題に入ろうぜ? なんで呼んだんだよ」

 

「お、おうそうだった。この場には居ないD×Dのメンバーにも伝える予定だが少し厄介な事が起きてな」

 

「厄介な事……ですか?」

 

 

 生徒会長が疑問に満ちた声でアザゼルに尋ねると真面目な表情で頷いた。厄介事ねぇ……まさかまた夜空が何かしやがったか? そうだったら俺に内緒にするなよな! ちゃんと言ってほしいぞ!

 

 

「あぁ。先日起きたD×D学園及びキマリス領を襲撃した事件は当事者であるお前達も知っているだろう? 実はな……その陰でリゼヴィムが秘密裏に動いていたことが判明した」

 

「……なんですって?」

 

「本来ならば早めに判明してもおかしくは無かったんだが……各地を転々としながらリゼヴィムの名を叫び怒り狂うグレンデルとその補佐をするラードゥンの対処、地双龍の二人が冥府を襲撃してハーデスを殺害した事件に追われて発見が遅れた……いやそれら全てリゼヴィムの計画の内だったんだろうな。何があったか説明しよう――アガレス領内にある空中都市アグレアスで盗難事件があった。お前達もあそこがどういう場所か分かっているだろう?」

 

「悪い、なんだっけ?」

 

「キマリス君、流石に冗談よね……? 王としてアグレアスがどのような場所かは知っていて当然。常識よ?」

 

「だって興味無いんで。あーでもなんか王になるために通ってた学校とかで言ってたような気がする……悪いレイチェル、説明頼む」

 

 

 というわけで始まりましたレイチェル・フェニックスによるアグレアス説明会! 若干ドヤ顔で説明しているレイチェルが可愛いけど残念な事に知ってるんだよね! だってここで知ってますとか言うよりも先輩達困らせた方が面白そうだったし……仕方ないね!

 

 確か悪魔の駒の原材料が内部にあるとか無いとか旧魔王時代からの遺産だとか何とかだったはずだが……そこで盗難事件ねぇ? もしかして原材料が盗まれたとかか? あり得るな。だってリゼちゃんだし。ルシファーの名前って悪魔の中では特別中の特別で今の魔王よりもリゼちゃんの方が良いって悪魔も存在するだろうから可能性として考えるなら内部から手引きしたと判断するのが自然か。

 

 あとついでに別にリゼちゃんの掌の上でしたとか言われても何も思う事は無い。だって次にあったら殺すからね。

 

 

「――というわけで王であるならばアグレアスがどのような場所か知っておくべきですわ。し、仕方ありませんわね……このレイチェル・フェニックスがキマリス様のためにも今日から王としての常識を教えて差し上げますわ」

 

「えー」

 

「えーではありません! これは決定事項ですわ!」

 

「別に良いが対価は貰うぞ?」

 

「か、構いませんわ……」

 

 

 よっしゃ! 今更勉強なんざしたくは無いがお姫様の腋が見れるんなら安いもんだ!

 

 

「おうおうイチャつくのは後にしろっての。さて察している奴もいるだろう……盗まれたのは悪魔の駒の原材料だ。と言っても全部というわけじゃなく一部分だがな」

 

「リゼちゃんったら優しいな。全部持って行かなかったのかよ」

 

「流石にデカい上、あんなもんを保有してたら自分の場所を教えるようなもんだ。戦力に乏しいリゼヴィムはその辺も考えてるんだろうぜ……中身はお子様でもルシファーだ、頭の回転ならサーゼクスやアジュカすら上回るだろうしよ。原材料である結晶体を何に使用するかは分からんが今後はいつも以上に気を付けた方が良いだろう……話はそれだけだ」

 

 

 そんなわけでアザゼルの話が終わったので自宅へと戻ってきたわけだが……気を付けろと言われても今まで通りの事をすれば良いだけだろ? だったら特に考える事でもねぇな。つーかリゼちゃん絡みの件を考えるよりも先に目の前で起きている異常の方を考えるべきだしな――ちっ、まさか堂々と何かしてくる奴が居るとは思わなかったぜ。

 

 

「……おかしいですわね。水無瀬先生や花恋さん達の声が聞こえませんわ」

 

「部屋にいるってわけでもねぇな。そもそもこの時間帯なら四季音姉妹はリビングで酒飲んでるはずだ……相棒、どう思う?」

 

『どうもこうもねぇさ。分かっているんだろう? 俺様達が元総督と話している間に此処に居た連中が姿を消したって事によ! そもそも潜入しようがあの覚妖怪が居る以上、即効で対処できるはずだ。あれを欺くほどの術者となれば世界にそうはいねぇはずよぉ』

 

 

 だろうな。平家の感知能力は俺が信頼できるほどのものだ……引っかからないのはまだ良いがいくら何でもおかしい。キマリス眷属最強の四季音姉が居たんだぞ? アイツが居て連れ去られたとかちょっとあり得ねぇ……まさか神レベルか? いや、それなら色々と面倒事が起きるはずだ。とりあえず散策するしかねぇか。

 

 隣にいるレイチェルに傍を離れるなと伝えると静かに頷いた。ここで何かあったらフェニックス家に申し訳ないしな……悪いが全力で護らせてもらうぜ。

 

 周囲の警戒を怠らないままリビング、地下室、風呂場、各々の部屋を探してみるも誰一人として存在しなかった。マジか……ここまで堂々とした誘拐とか初めてすぎてテンション上がってきたぞ。とりあえず犯人には悪いが死ぬことすら生温い地獄を見せようかねぇ?

 

 

「……どこにもいませんわね。キマリス様……一度お義父様方にご相談した方が良いかもしれませんわ」

 

「だな。ちっ、夜空の悪ふざけってわけでもなさそうだ……アイツでもこんな事はしないだろうしな」

 

 

 家の中を片っ端から散策しても犬月達の姿を確認できずリビングに戻ってきた俺はレイチェルの不安そうな表情を視界に入れながら親父達に連絡をしようとする――といきなり床に魔法陣が展開された。色は真っ黒で何かの影と言われたら納得するようなものだ……なんだこの術式? いや待て……これって!!

 

 

「相棒!?」

 

『あぁそうだよ! あんのクソババアァァァァァッ!!!! 俺様達の家に土足で入り込みやがったな! ぶち殺してやる……あぁ、殺してやるぞ!!! 宿主様!』

 

「分かってる!」

 

 

 即座に鎧を纏い、全能力をフルに使って取り囲んだ転移術式を破壊しようと影人形のラッシュタイムを叩き込むが……ヒビすら入らなかった。マジかよ……だったら漆黒の鎧でぶち破、いや近くにレイチェルが居るからあんなもん使ったら下手すると死ぬな。くそったれ!!!

 

 怒りを力に変えるように目の前の壁を殴り続けていると突如として女が現れた。膝裏まで伸びている漆黒の長髪で目に光が宿っていない深淵の眼、透明な黒のヴェールと漆黒のドレスを纏った黒一色な美女だ。ソイツは俺達の姿を見てどこか呆れているような表情になり――声を発した。

 

 

「――この程度も破壊できぬか。ふむ、やはりこの(わたし)が鍛えてやらねばダメだな。ほれ、修行するぞ馬鹿弟子よ」

 

『誰が弟子だクソババアアァァァァァァァァァァッ!!!!!!!』

 

 

 その言葉の直後、俺達は視界は真っ黒に染まった。




「影龍王と影の国」編の開始です。
最後に登場した美女はいったい誰なんだろなー(棒)

観覧ありがとうございました!

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