ハイスクールD×D~地双龍と混血悪魔~   作:木の人

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112話

「――そんで? なんでお前がこんな場所に居るんだよ。あっ、地味に美味いなこれ」

 

 

 先ほどまで戦っていた怪物……正式に言うなら獣っぽい何かを殲滅した俺達はその場で焚火をしながら肉を焼いていた。どこから調達してきたかと言われれば先ほどまで戦っていた獣っぽい何かを食いやすい大きさにカットして俺が生み出した影で貫き、そのまま火で焼くという原始的なものだ。塩胡椒やタレと言った調味料関連は無いのでそのまま食うしかないから女子力のある女性陣(水無瀬と橘とレイチェル)はえぇ……本当に食べるんですかと困惑してるが肉食系女子(四季音姉妹と平家とグラム)と犬月は何事も無いかのようにモグモグしている。流石は鬼と覚妖怪と剣だな! ただ肉を焼いただけとはいえ気にせず食べるとは男らしい!

 

 そんな事は置いておいて俺の質問に答えるために目の前の男――曹操は肉を食べるのを止める。この男、何の迷いもなくモグモグし始めたから恐らく俺達よりも前に此処に連れてこられてサバイバルしてたんだろう。原始的とも言える漫画肉を食べる姿もイケメンとかさっさと死んでくれねぇかなぁ。

 

 

「影龍王、キミは既に察しているはずだが?」

 

「まぁな。どーせスカアハに拉致られたとかだろ。何時からだ?」

 

「そうだな……キミがハーデスを殺害した頃と言えば良いか。キミ達が作ったD×D学園襲撃という事件に駆けつける事が出来ず止む無く人間界を放浪していたら英雄派……いや既に禍の団自体が崩壊寸前だから元英雄派だな。それの構成員と再会したら突然現れてね。俺達全員、此処に飛ばされたと言うわけさ」

 

「……全員?」

 

 

 曹操の言った言葉に疑問を覚えた俺は周囲を見渡してみる。山のように積んである怪物は勿論死んでいるし今も少しずつ犬月や四季音姉妹、グラムというメンツに食える部位を捌かれて焼かれている。そこは良い! だって現に美味いし。俺の膝の上に座る平家はお淑やか……お淑やか? 全く似合わない仕草でちょっとずつモグモグし、俺の横に座ったレイチェルと橘も豪快に食べる面々を視界に入れながら同じようにモグモグ、水無瀬に至っては肉を焼く作業で忙しい様子だ。うん、この場には俺達キマリス眷属とレイチェル、そして曹操しか居ない。離れた場所で待機しているのかと思ったがそれもなさそうだ……あぁ、そういう事か。

 

 

「なるほど、生き残ったのはお前だけか」

 

「――あぁ。俺以外は殺されたよ。この影の国を支配する女王様が与えた試練にね。このようにサバイバルをしていたら再度目の前に現れてそのように告げられた……だがもしかしたらそれは嘘で本当は生きている可能性もある」

 

『残念だがそれはねぇな。あのスカアハが殺したと言ったなら既に死んでるだろうぜ! どうせあのクソババアの事だ、軟弱な奴らだから鍛えてやろうという身勝手な行動によるものだろうぜ。俺様達ですらあの女からすれば弟子らしいからなぁ!』

 

「なるほど。キミ達が此処に飛ばされた理由は影龍王、キミが原因か」

 

「らしいな。レイチェルと一緒に家に帰ってきたら誰も居なくてビビったわ……まさか平家が居て拉致られるとは思ってなかったしな。おい、サボってたわけじゃねぇだろうな?」

 

「サボってないよ。自慢じゃないけど誰かが侵入しようものならすぐに気づくもん。今回の件に関しては私や花恋が気付く前にいきなり現れて転移させられた。私達は空から地上に落下で済んだけどノワールとお姫様は……あぁ、大変だったね。慰めてあげようか?」

 

「はいはい後でな。いやマジで大変だったわ……いきなり部屋の中に転移されて廊下に一歩出てみれば串刺しだぜ? 夜空の腋舐めてパワーアップしてなかったら危なかったわ! んぁ? どうしたそんな顔して……もしかして知らなかったか?」

 

「……まぁね。なるほど、俺が旅をしている間に影龍王と光龍妃の仲が深まっていたようだ。驚愕の事実だが一つ気になる事がある――いつ結婚するんだ? 可能であれば結婚式には参加させてもらいたいのだが」

 

「マジか。別に構わねぇぜ! 夜空との結婚式なぁ……そりゃもう決まってんだろ! 俺がちょっと頑張れば今すぐにでも――イエナンデモナイデスゴメンナサイウソデスハイ。つーか曹操、お前なんでその槍使ってんだ? ご自慢の聖槍があるだろうが」

 

 

 マスコット枠とチョロイン二名以外の女性陣から少しダマレ的な視線を浴びたので話題を変える。ナニコレ怖い……もしかして俺が夜空と結婚したら「ノワールは私と結婚するの!」とか言って殺し合いに発展しないだろうな? 俺的には大歓迎だからドンと来いだ! なんだったら寧音に芹に八坂という人妻勢の乱入でも良いぞ! 迫りくる集団を相手に新郎新婦による共同作業……最高だな! うんうん! もういっその事、殺し合い有りの結婚式でも良い気がしてきた。今度夜空にどんな結婚式が良いか聞いてみるかねぇ。

 

 そんな大事な事は置いておいてだ……俺の視線の先には何かの骨で出来た槍がある。確かに曹操の得物は槍なのは分かるがこんなのを使わなくても神だろうが魔王だろうが普通に殺せる神滅具こと聖槍があるはずだ。仲間が殺されている状況で縛りプレイをしてる暇は無いだろうに……それとも使えない理由があるのか?

 

 

「――ないんだよ」

 

「んぁ?」

 

「聖槍は既に手元に無い。女王スカアハに抜き取られてしまってね……「英雄とは何かと知りたいならばこのような玩具は必要ない、しかし取り戻したいというならば生き延びて妾の前に現れろ」とね。反論する間もなく気が付けばこの森の中だ。亡霊や獣、怪物の類を相手にただの人間が素手で相手できるわけがないから逃げ回っていたら偶然落ちているのを目にし、武器として使用したお陰で今日まで生き延びる事が出来た……これが無ければ俺は既に死んでいたよ」

 

 

 若干死んだような眼になった曹操とかレア過ぎるんで写真取りたい。

 

 

「あのさー曹操ちゃん? いくら聖槍有りだったとはいえ俺や一誠と正面から殺し合って五体満足かつ生き残ってる時点でただの人間とは言わねぇぞ?」

 

「キミ達と比べたらちっぽけな人間さ。だからこそ英雄に憧れた……今は自分探しの旅で忙しいけどね。天帝に捕らえられているゲオルグ、レオナルド、三大勢力に捕らえられているジャンヌには申し訳ない気持ちはあるしまた会う事があれば殴られたり斬られたりする覚悟はしているがやめる気は今のところは無いな」

 

「あっそ。まぁ、好きにすれば良いんじゃねぇの。人間なんざ欲望の塊だ、あれがやりたいあれが欲しい、あの女を抱きたいとかその時の気分でコロコロ変わるしよ。夜空を見てみろよ? あれこそ一番人間らしいぜ? あーしたいこーしたいでもあれしたくなーいとか普通に思って実行してるしな! ゼハハハハハハ! もしお前が英雄になったら殺し合おうぜ! どうせあと数十年後には……あぁ、そうか。お前もあと数十年しかないんだったな」

 

 

 俺や一誠、ヴァーリというドラゴンと正面から戦えるコイツも夜空と同じ人間だ。数十年後には寿命で死んでしまう……夜空と同じく曹操も人間として生きたいと思ってるはずだから俺達のような異形にはならないだろう。普通に人間らしく生きて、人間らしく死んでいく……これだから長生きできる俺は嫌になる。他の悪魔共は長生きできるよ! 凄いでしょとか言ってるが実際には長寿なんざ呪いみたいなもんだ……楽しく殺し合ってる相手がたった数十年後には死んじまうけど俺は生きているとか本当に死にたくなる。

 

 

「あぁ。悪魔でも天使でも堕天使でも妖怪でも無いちっぽけな人間だからね。光龍妃は……仙術が使えるから長生きできそうだが俺は聖槍が無ければその辺に居るタダの人間だ。長生きは出来ないし病にかかれば倒れる……だから今が楽しいとも思える。それはキミも同じだろう?」

 

「おう。今が楽しくて仕方がねぇ! 夜空、ヴァーリ、一誠、元士郎、そんでお前という最高で最強な奴らが近くに居て! 俺の眷属が日々成長してる今が楽しい! もっとも俺は夜空と殺し合って、どうでも良い事をあーだこーだと話して、リア充すら羨むようなイチャイチャが出来ればそれで満足だけどな。だって俺は――夜空が好きなだけの悪魔だからな」

 

 

 恥ずかしがらずに言うと曹操は静かに微笑み、肉をかじる。あぁ、そうだよ……俺は夜空が好きだ。その思いに嘘偽りなんか一切無いし今後も変わることは無い。だからこそあの呪文が生まれたんだ……もっともこれに気が付けたのはヴァーリのお陰なんだけどな! なんかあの銀髪で天才なイケメンに気づかされたと思うとちょっと……いやかなりムカつくけども! すっげームカつくけど!

 

 でも()()が楽しい。俺が前に進めば他の奴らも同じように自分の道を進んでいく。決して交わる事のない自分だけの道を突き進んで馬鹿じゃねぇかってぐらい強くなる現在(いま)が楽しい! 夜空とバカやるのが楽しい! 夜空と殺し合うのが楽しい! 夜空とイチャイチャするのが楽しい! それ以上の事なんざ望まない……俺は夜空と現在を楽しく過ごせればそれで満足なんだから。あっ、でも現在空いている女王(クィーン)にはなって欲しいし俺の子供を産んでほしい! はい! というかいい加減エッチしません? そろそろ童貞捨てたいんです! あと真面目な話……そろそろ俺の女王になってください。だって女王が空いているとフェニックス家というかレイチェルの母親から娘は現在フリーですよとかなんとか言ってくるんだよ! 契約者であり女王であるとかこれはもう夫婦以外ありえませんよね! いやぁ、フェニックス家怖い。マジ怖い。

 

 

「――羨ましいよ」

 

「あん?」

 

「そこまで自分に正直になれるのが羨ましいな。俺は何がしたいのか、これからどうしたいのかすらまだ未確定だ……いつか、俺も影龍王のように一つの事に人生を賭けられる日が来ると信じたいが今は此処から出る、いや聖槍を取り戻す事が先決か。流石にあれが無ければ今後も戦い抜くことは出来そうにない」

 

「ぶっちゃけその槍より安心できるだろうしなぁ。だって神滅具だぜ? しかも最強と言われてる聖槍を捨てるとか馬鹿かってアザゼル辺りからツッコミが来るぞ。いやそれよりも先にスカアハに盗られましたって伝えたら胃に穴が開くかもな……よし試してみるか!」

 

「ストップ! マジでストップ! 言っておきますけどアザゼルせんせーの胃はマジで崩壊寸前ですからね!? 流石にちょっとは優しくしてあげましょ!? ねっ! ねっ! てかそれよりもさっきからすっげぇツッコミたいんすけど……聖槍盗られたって結構マジでヤバくないっすか? あれ、王様が持ってる神器と同じで神や魔王すら殺せるやつでしょ!?」

 

「そうだな」

 

「神滅具だしな」

 

 

 普通に持ってるだけで他勢力と殺し合っても余裕で滅ぼせるだろうからかなりヤバいぞ。

 

 

「――いやいや!? 待って待って! なんで落ち着いてるんすか!? 普通はやべぇ、どうしよう……とかになりません? 王様はいつも通りなんで良いとしてアンタも持ち主なんだからもうちょっと焦ろうぜ!?」

 

「いや、最初は焦ったが……今までどれだけあの聖槍に頼っていたかを悟ってしまってね。身体能力は若干だが低下してしまうし槍捌きも聖槍の威力頼りで幼稚なものだった。この槍を武器にして怪物達と命のやり取りをしていて自分の技を磨くのも悪くない、此処の怪物達を相手に今の自分がどこまでやれるか試したくなった気持ちの方が強いんだ。人間なら当然だと思うが?」

 

「いやそれはあたまおかしい」

 

「……そうか?」

 

 

 コンコンと槍で地面を叩きながらキメ顔をする曹操に対して犬月が真顔でツッコミを入れる。まぁ、普通に考えれば身体能力は化け物でも人間だから一発でも攻撃を受ければ死ぬのに自分の実力がどこまで通じるか試したいとか言ったらそうなるわ。俺としては大変素晴らしいと思いますけどね! だがちょっと気づいちゃったことがあるんだよ。此処って影の国ですね! 影の国で有名なものと言えば骨から出来た槍ですよね! うん! なんか気づいちゃいけないものに気づいちゃった気がするんですけどこれはスルーしといた方が良いかなぁ! よしスルーしておこう!

 

 

「……なにかの骨で出来た槍のようですけど武器として機能するのですか? 神滅具の頂点である聖槍と比べると天と地の差があると思いますけど……? いえ、影の国で骨、槍……?」

 

「お姫様、下手に考えると正気度が減るよ」

 

「だな」

 

『ム、何故気ヅかぬ? そノ槍はゲいボ――ムがむガ!!』

 

「はいはいそこのチョロイン、黙ろうか!」

 

 

 影人形を生み出して答えを口走ろうとしたグラムの口をふさぐ。抗議するような目で俺を見てくるが知った事か! 俺もどう考えてもあれしか思い当たらないのにそれを言ったら色々とアウトだろ! ケルト神話というか影の国と言えばこれ的な感じで有名な槍がその辺に放置されてたとか苦情案件だしな!

 

 

「――あぁ、なるほど。これ()の正体に気が付いたか。いや俺もまさかとは思ったが()()以外思いつかなくてな……だが仮にこの槍があれだったとしてもその辺に捨ててあるなどあり得ないし武器としてなら聖槍の方が断然上なんだ。しかし使いやすいのは間違いないぞ? 強大なパワーを受け止めても折れないし切れ味も中々だ」

 

「でしょうね。俺達と共闘してた時も普通に怪物ぶっ殺してましたし」

 

「いかに強大な敵だろうと相手の防御が薄い箇所を的確に狙えば倒せるし影龍王みたいに再生する存在でなければ頭部と心臓を貫けば誰だろうと殺せる。ようは戦い方次第さ、今まで異形相手に研究してきたかいがあったよ」

 

「やっぱりあたまおかしい」

 

 

 おい、なんで俺も見るんだよ?

 

 

「にしし、正直に言うと人間で言うなら化け物レベルだね。さっきの戦いを見てたけど隙が無い、私やイバラ並みのパワーがないと倒せないよ。前にノワールと殺し合ったって聞いたから一回手合わせしてもらいたいね!」

 

「止めてくれ。流石に聖槍抜きで酒呑童子、いや影龍王の影響を受けているキミ達とは戦いたくはない。特にそこの覚妖怪は俺達英雄派の中では覚妖怪から進化、あるいは変異した全く新しい種族じゃないかという認識だからな。流石に今の状態でキミ達と戦えば俺は普通に死ぬよ」

 

 

 だろうな。四季音姉と殺し合うなら確実に聖槍が手元に無いと無理だ……だって軽く腕を振るえば地面が抉れ、本気で殴れば周囲が吹っ飛ぶレベルのパワーだし。いやそれよりも英雄派の中での平家ってそんな認識だったことにビックリだわ。まぁ、覚妖怪と言われたら俺だって覚妖怪……だよ? と疑問形で返す自信はあるけどさ!

 

 まぁ、心当たりは有るんだけどね。

 

 

「えっへん」

 

 

 無い胸を張ってドヤ顔しなくて良いからな。てかマジで思い当たる事が多すぎてヤバい……というよりも答えに気づいてるからマジでヤバい。だって何回コイツの手やら腋やら髪やら太腿やらでオナニーしたと思ってやがる! 何年も一緒に居る四季音姉や水無瀬辺りは察してるだろうがその答え的なものを今この場で言ったら俺は死ぬ。橘とかレイチェルというえっちぃの禁止委員会からのお仕置きによって肉体的にも精神的にも死ぬだろう。ぶっちゃけた話、平家(コイツ)は夜空よりも先に俺が出したアレの味知ってるし……毎回オナニーして出したアレさんを舐めてたり飲んだりと何年も続けてたらどう考えても変異ぐらいするだろ。

 

 つーか満面の笑みというか素晴らしいほどのドヤ顔を見てたらなんかムカついてきた。あとで放置プレイしてやろう……はいはいご褒美ですよね! 知ってるわ!

 

 

「まぁ、俺からしても覚妖怪? ハッ、嘘つくんじゃねぇよと言いたくなるっすからね。いやまぁ、王様と過ごしてる姿を見てたらなんでこうなったかという原因は察してますけども」

 

「シュンさんは分かっているのですか? 良ければこの覚妖怪がどうしてこうなったのか教えて貰えないでしょうか……な、なんですの覚妖怪! その勝ち誇った顔は!!」

 

「別に。ただ夢見がちなお子様には刺激が強いと思っただけ」

 

「……な、なんですってぇ……!!」

 

「アーハイハイイツモドオリデスネ。アトスイマセンヒメサマ、オレノクチカラソレヲイウトシヌンデイエマセンハイ」

 

 

 当然だな! だって教えたら俺は死ぬので絶対に教えません。自分で気づいてください! 常日頃、俺達が過ごしている光景を見ればわかるはずだぜ!

 

 

「……あ、あの悪魔さん? 話が変わるんですけどこれからどうするんですか? あと悪魔さん、帰ったらお話しをしましょう♪」

 

 

 周囲の光景、というよりも四季音姉と水無瀬が血涙を流しかねないほど悔しがっている空気を変えるためか橘がおっぱいを押し付けて上目遣いで聞いてきた。ヤバい可愛い! 流石アイドル! おっぱいの感触が素晴らしいですね! いやマジで同学年でこれ、しかも成長中とか女子力が無い鬼とチョロイ覚妖怪に謝った方が良い気がする。だってこいつら、いや平家はマジで一つ下だが四季音姉に至っては俺より長生きしてるくせに壁だからな! 母親の寧音からも大きくならないと断言されてるし……少しぐらい分けてあげても良いと思うぜ!

 

それはそれとして橘様、笑顔になるんだったら目も笑ってください。深淵の瞳とか表現出来そうなぐらい目に光が宿ってませんが大丈夫ですか? 怖いです。あと掴んでる腕に爪を突き立てるのもやめてください痛いです。おい狐……! テメェも指をかじるんじゃねぇよ! こんな時だけ肉食になりやがって!

 

 

「……すまない。失言だったようだ」

 

 

 あの曹操がドン引きするとか俺の眷属って凄くね?

 

 

「んぁ? 気にすんな、いつもの事だ」

 

「そう、なのか? いやジャンヌからも俺は色恋沙汰には疎すぎるとは言われたが流石の俺でも……いや影龍王がいつもの事というならそうかと言っておくしかない。巻き込まれるのはご免だからな」

 

「そうしておけ。よし! 飯も食ったしやる事やるか……橘、これからどうするかだったよな? んなもん決まってんだろ! 勝手に弟子認定した挙句こんな場所に連れてきやがった美熟女ことスカアハに文句言いに行くんだよ! よしグラム! 飯食ったな? さっさと剣になれ!」

 

『でバんだな! 出番なノダな! よカろう! 思うぞンぶん振るうがイイ!!』

 

 

 満面の笑みでいつもの剣の姿へと変化したグラムを握り再度鎧を纏う。俺の発言の意図を察したらしい四季音姉はまるで美少女の様に笑い、四季音妹はグッと拳を握り、平家は知ってたと言わんばかりの表情になる。やる気ならぬ殺る気に満ち溢れた面々とは対照的に犬月、橘、水無瀬、レイチェルはデスヨネとガクリと諦めの表情になったが安心しろ! いつもの事だから!

 

 俺達の様子を見ていた曹操はイケメン特有の不敵な笑みをしながら槍を握り立ち上がる。流石は英雄派を率いていた男だ……分かってる!

 

 

「ゼハハハハハハハハハハ!! まずは邪魔な森をぶっ飛ばすかぁ!!」

 

『おうよ! 遠慮なんかすんじゃねぇぞ宿主様! あのクソババアをぶっ殺す勢いでぶっ放せ!』

 

「あったりまえだろうがぁ!!! つーかレイチェル巻き込んだ罪はマジで重いからな! 全裸になって腋見せてくれねぇと本当に許さねぇぞ!!」

 

『――やめとけ、吐くぞ』

 

 

 全身を蝕む呪いを放出するようにグラムを振るった瞬間、相棒がマジなトーンで止めてきた。いやいや吐くか吐かないかは俺が決める事だから問題無いぜ相棒!

 

 そんな大事な事だが一度置いておいて……はい! いつもの様に影龍破をぶっ放して影の国までの道作成終了です! うーん、影龍破が通ったルート上の森が見るも無残な姿になってるけど別に良いよね? だって相棒が気にするなって言ってたし!

 

 

「相変わらず出鱈目だ。ジークフリートが絶句するのも頷ける」

 

「てか王様……あれぶっ放すときにトンデモナイこと言いませんでした?」

 

「んぁ? あ~スカアハの腋見たいって奴か? いやだって見たいだろ! 夜空の腋舐めてから今までよりも腋好きになっちまったからな! だからそんな目で見ないでくれませんか橘様! 怖いです!」

 

「許しません♪」

 

「マジかよ。帰ったら俺死なないよな……? ここ最近、相棒の再生能力があっても死ぬ未来しか見えねぇんだよなぁ。まぁ、良いか。とりあえず二発目行くぞぉ!」

 

 

 背後から感じる威圧感から逃れるために再度グラムを振るう。影龍破が進行ルート上の障害物を破壊していくのを見ながら俺達はダッシュでスカアハが居るであろう城へと戻る。道中、騒ぎを感じたらしい怪物や亡霊が襲ってきたがグラムぶっぱや背後にいる恐ろしい鬼さんやアイドル達により即行で殲滅……おかしい、曹操の出番が無い。敵が現れた瞬間に戦闘態勢に入ったのに俺の眷属達が気合入りまくってるせいで動く前に決着がついてしまってます! おかしい……そこまでしてスカアハの腋見るのを阻止したいかお前ら! 俺の眷属ならば逆に応援しろよ!

 

 怪物達の首を容赦なく切り落としている平家から死ねば良いのにという視線を浴びながらこれと言って時間もかからず城へと到着。なんか門番らしい奴らが襲ってきたが……うん、俺を殺そうと気合入りまくりな鬼さんがワンパンで殺しちゃいました。マジで「邪魔」という一言で叩き潰すとか流石酒呑童子ですね! なんでお前少女趣味なんだ? 今のお前って普通に鬼してるってのによ!

 

 

「……おい四季音姉、マジ切れし過ぎだろ。そこまでして阻止してぇのか?」

 

「にしし。別に阻止したいわけじゃないさ――ただ無性にノワールを潰したいって欲が出てるだけだよ。あとい、いい、伊吹! いい加減そっちで呼ばなきゃマジで潰すかんね!!」

 

「なんで呼ばなかったら潰されるんだよ……あん? どうした四季音妹?」

 

「伊吹が怒ってる。主様が伊吹と読んだら凄く嬉しそうにはしゃいでた。私もイバラと呼ばれると凄く嬉しい。何故か分からないけど嬉しい。だから呼んでほしい」

 

「――イバラ、お前はやっぱりマスコット枠に相応しいわ」

 

 

 流石キマリス眷属が誇るマスコット枠! こんな場所でさえ俺を癒してくれるとは……てか四季音姉、本名呼ばれただけではしゃいでたのかよ。なんでその場面を俺に見せない! 盛大にからかってやるのにさ!

 

 

「……すまない犬月瞬。普段からこれなのか?」

 

「そうっすよ。毎回毎回王様が地雷踏み抜いて爆発させるから滅茶苦茶胃が痛い」

 

「そうか……俺からは頑張れとしか言えない」

 

「その言葉だけで充分っすよ」

 

 

 なんか男同士の友情が生まれたようだがそれは置いておいて……そういえば廊下に出れば串刺しだったな。ゼハハハハハハハ! さっきまではグラムが無かったから破壊力が足りなかったが今はこうして持ってる……つまり破壊し放題ってわけだ!

 

 場内に入る前に強くグラムを握り意識を落とす。龍を愛する(殺す)呪いが俺の身体に流れてくる……腕が震え、吐き気を催し、視界が赤くなるが構わず呪いの出力を跳ね上げる。確かにこの城は強固で破壊するのは困難だ……でも例外ってのは存在するんだぜ? 今にして思えばこのチョロインを手に入れて良かったとさえ思える。分かってる、全力も全力! お前の全てを俺にぶつけてこい! 俺は逃げる事無く受け止めてやる……お前は俺の剣だ。その言葉に嘘偽りはねぇよ! だから――切り刻んでやれ!!

 

 

「――!!!」

 

 

 声にならない叫びを放ちながらグラムを振るう。正面、空間、ありとあらゆるものが高濃度の呪いの波動によって切り刻まれていく。背後で平家が呪いに耐えきれずに吐いてる気がするが気のせいとしておこう。うん! なんか後で怖い気がするが今は無視だ無視!

 

 

「――よう、やっと会えたな」

 

「よもや(わたし)の城をここまで破壊する輩が居ようとはな。セタンタやコンラですらやらんかったぞ? しかし……うむ、一応は合格点と言うべきか」

 

 

 豪華絢爛っぽい城がたった一撃で更地になり、残っているのは玉座に座っている女――スカアハのみだ。漆黒の長髪、漆黒のドレスとヴェールと黒一色な女王様は自分が住む城が破壊されたというのに怒りの表情になるどころか次はどのような修行をと首に指をあてて考え込んでいる。嘘だろ……普通はよくもやってくれたなとかじゃないわけ? なんでそこで次の修行とか考えんだよ!

 

 

『ゼハハハハハハハハハハッ! 久しぶりだなクソババア!! どんな気分だ? 自分が住んでた城が劇的なリフォームされた気分はよぉ!! いやそれより言わせろや……誰が弟子だってぇ!? 何時から俺様達がテメェの弟子になったってんだよ!!』

 

「そんなもの最初からに決まっていよう。貴様は(わたし)の城で生まれたのだ。つまりは妾の所有物同然でありその貴様が宿っている存在ならば妾の弟子と言えるではないか。うむ、ふむ。鬼を見るのも久しいがそこの覚、なんだ貴様は? 面白いぞ。クハッ、長生きはしてみるものだな。しかしクロム――」

 

 

 美熟女ことスカアハの視線が俺を射抜いたかと思えば突如として腹の中や口の中、いや正確に言うならば体内から槍のような鋭い刃物が生えてきた……おいおいマジか! 夜空に吹き飛ばされたりなんだりしてるからこんなのは慣れてるがいきなりだと……! 地面からとか空中からとかじゃなくて俺の体内からなんざ馬鹿げてやがる!

 

 流石に身動きが取れないので影人形を生成して首を落として即座に再生。だってあのままだと息出来ないから仕方ないよね! あとレイチェル? そんな顔を青くしなくてもいつもの事だから気にしなくて良いぜ?

 

 

「誰がクソババアだ。師匠に向かってその口の聞き方は見逃せんぞ? そこは流石お師匠様と褒め称える場面であろう」

 

『ざけんじゃねぇ!! テメェを師匠だなんて認めるわけねぇだろうが! セタンタの野郎が自分から離れたってだけで俺様を殺し! ゲイボルグを作るから骨寄こせと俺様を殺し! その目は魔術の質を上げるから寄こせと殺しやがって!! 言い出したらキリがねぇくらいこっちはムカついてんだよ!』

 

「何故だ? 師匠である妾のためを思う弟子の鑑のような行いだったが怒る理由がどこにある? そうか……そうか。もしやクロム、貴様は修業を付けてほしかったのだな? クハッ、なんだなんだそうであったか! 全く、お前は昔から恥ずかしがり屋よのぉ」

 

『んなわけねぇだろうが!! そもそも()が不死身だからと言って殺しすぎなんだよ! どこをどう飛躍したら修行付けて欲しいという考えに至るんだこの痴呆野郎が!!』

 

「事実であろう? 毎日毎日稽古をつけてくれとせがんでいたではないか。師匠たるもの弟子の我儘にも付き合わねばならん。この寛大な心に感謝はあれど罵声を浴びる覚えはないが?」

 

『どっこまで自意識たけぇんだテメェはぁぁぁっ!!!! 宿主様! ぶっ殺すぞ!! この自意識高い系頭おかしいクソババアをこの世から消し去ってやろうぜ!!』

 

 

 相棒の怒りの叫びを耳にしたスカアハはため息をつく。すると先ほどと同じように体内から槍のような鋭い何かが飛び出してくる……マジでなんなんだこれ? まさか俺が知らない間に術式を埋め込まれた?

 

 

「妾との再会が嬉しいのは分かるが少し静かにしろ。今は次の修行について考えているのだ、お前との修行はその良く分からん檻から出てからだ。何が良いか……なにやら機嫌が悪いオイフェの元で修行させるか? いやあれに妾の弟子を取られるのは我慢ならん。やはりここはあ奴と競い合わせるのが良いな」

 

「……なぁ、頭おかしい頭おかしいと言われ続けてきた俺だけどなんか目の前に居る女の方が頭おかしい気がするんだが?」

 

「そっすね。王様の方が百倍以上はマシっすわ……てか大丈夫っすか?」

 

「慣れてるから問題ねぇよ。あん? どうした曹操?」

 

「……いや俺の前に現れたのは彼女ではないと思っただけだ。見た目は同じだが着ている服が違っていた……どういうことだ?」

 

『あぁ、なるほどな。曹操ちゃんよぉ! テメェの前に現れたのはオイフェだな。目の前に居るクソババアの双子の妹で見た目が瓜二つだから弟子相手によく入れ替わりゲームをやってんだ。んで間違えたら崖の下に落とされて修行再開、正解してもクソババアかオイフェのどちらかと殺し合いってな。正直言うぜ、スカアハと話すぐらいなら俺様はユニアが孕むまで子作りしてたほうがマシだ』

 

 

 デスヨネ。だって俺もうわぁと思ってるし! というよりもさっきから串刺しにし過ぎじゃね? いくら不死身と言えどもこう何回もやられたら我慢できずにグラムぶっぱするぜ?

 

 とか思っていると何かを思いついたらしいスカアハが指を鳴らすと俺達の視界が黒く染まり、別の場所へ飛ばされた。犬月達に無事かと尋ねながら振り向くと曹操の姿が無かったから恐らく俺達とは別の場所に転移されたんだろう……死なないよな? 流石に俺が殺すなら良いけど赤の他人がぶっ殺したとかなったらマジギレするぜ?

 

 

『弟子よ、自らが率いる軍勢と共にこやつと戦ってみろ。なに、話はついている。久しい旧友からの頼みとあらば妾とへ無視できん。さて、いつもの様に妾を楽しませてくれよ――弟子』

 

 

 頭の中に聞こえてくる声とかマジでどうでも良い。そんな事よりも俺達の目の前に居る存在の方が重要だからな……ちょっと待ってくれない? なんで居るんですかねぇ? なんであんな奴と関わってるんですかねぇ? マジで分かんないし下手すると犬月達が此処で死ぬかもしれん。いや割とマジで。

 

 

「――クロム、俺と戦え」

 

 

 相棒と同じく邪龍の筆頭格、三日月の暗黒龍ことクロウ・クルワッハが静かに口を開いた。




次回、影龍王眷属+レイチェルVSクロウ・クルワッハ。

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