ハイスクールD×D~地双龍と混血悪魔~   作:木の人

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113話

「クロム、俺と戦え」

 

 

 金色と黒色が入り混じった髪に同じように金と黒の瞳を持つ男――クロウ・クルワッハが腕を組みながら真剣な表情で俺達を見つめてくる。戦いと死を司るドラゴンであり相棒やグレンデル、アジ・ダハーカ達のような好戦的ではなくヴリトラ寄りの冷静で静かな性格……とドキドキ邪龍だらけの同窓会での印象だったが敵として向かい合うと迫力が段違いだ。纏うオーラの質は異常と言っても良いぐらい濃く、立っているだけなのに首元を締め付けられているかのような威圧感に俺はこう思わざるを得ない――強すぎると。

 

 静かに視線を犬月達へと向けると俺の予想通り冷や汗かきまくりで身動きが取れていない。ただ戦闘態勢に入ったまま目の前のドラゴンを見つめ返しているだけだ……犬月や橘、水無瀬にレイチェルは今までで一番ヤバいと思っているだろう。なんせ四季音姉妹、平家、グラムという頭おかしい勢力が無意識か意識をしてかは分からないが一歩下がったのを目にしたんだからな……ヤバイ。勝ち筋が漆黒の鎧発動しか見えねぇ……! というよりもそれ以前になんでお前が影の国に居るんだよ!?

 

 

『――おいおい冗談にもほどがあるぜクロウよぉ。なんでテメェが此処にいんだ?』

 

 

 圧倒的な威圧感により凍り付いた空気の中、相棒が問いかける。その声色は真剣そのものでこの接触は相棒自身も予想外だったらしい……そりゃそうですよね! だっていきなりスカアハに拉致られたと思えば邪龍の筆頭格として有名なクロウ・クルワッハが目の前にドーンだぜ? 俺は兎も角、犬月達は普段から俺と夜空に慣れてなかったら失神してもおかしくは無いっての!

 

 

「あの女王から妾の弟子と殺し合ってみないかと誘われてな。あれの行いは好かないがクロム、そしてノワール・キマリス、お前達と戦えるならば契約次第では付き合っても良いと判断した。その結果がこれだ」

 

『つまり……()達と殺し合おうって事か?』

 

「そうなるな。どうした? 素のお前になっているぞ。昔のお前ならば高笑いの一つを上げて嬉々として向かってきただろうに」

 

『あの頃とは状況が変わってんだ、少しは許しやがれ。チッ! あんのクソババアァッ!! 俺達の楽しみを此処で終わらす気か!! ふざけんじゃねぇぞ……! 宿主様、どうやら目の前の馬鹿は俺達と殺し合いを所望らしいぜ? どうするよ』

 

 

 普段のようなバカ騒ぎ大好きな声色とは違い俺、いや俺達全員を心配するように訪ねてくる。そう言えば同窓会の時でも今までみたいに喧嘩を売るような事は言わなかった気がする……確かユニアも同じだった。そうなると目の前に居るドラゴンは今の俺では勝つことが出来ないぐらい強いって事になる。いやそれ以前に生前の相棒達を超えてるとかも言ってたよな……恐らくだがこの場で戦えばまず敗北するだろう。俺自身は何が何でも蘇って見せるが犬月達は……確実に死ぬ。てかなんだろうな……今までだったらよし殺し合おうぜと笑っていたが脳内では「逃げろ」と悪魔である俺が訴えてきて「戦ってみたい」と邪龍の俺が訴えてきてる。珍しいこともあるもんだ……この俺が()()を心配するなんてさ。

 

 俺の答えを聞くために相棒もクロウも黙っている中、俺は相反する考えに板挟みにされながらも結局は一つの答えに辿り着いた――それはたとえどんな事があろうとも絶対に変わる事が無いものだった。

 

 

「クロウ・クルワッハ」

 

「なんだ」

 

「――お前は俺の楽しみを邪魔するのか」

 

 

 仮にこの場で戦って敗北、俺は相棒が持つ再生能力を意地でも発動して蘇ってみせるが他の奴らは……この場では再生能力を持つのはレイチェルのみだが圧倒的な実力差によって精神が折れたらそのまま死んでしまう。犬月達も同じだ……俺達が持つ再生能力なんて無いから蘇る以前に死ぬのは考えなくても分かる。もし、もしの話だ……コイツらが死んでしまったら俺の今後はどうなる……? 夜空は人間で精々あと数十年という短い時間しか生きられない。夜空が寿命で死んだ後の俺は何を楽しみに生きていれば良い……? 俺と夜空の息子、あるいは娘を大切に可愛がりながら一生を終えるのも悪くは無いし夜空が居なくなった悲しみを世界相手に八つ当たりするのも悪くない。何をするかはその時になってみないと分からないが俺は今と同じように笑えるのか、今と同じように楽しく毎日を過ごせるのか、昔の俺だったなら無理だなと思えたかもしれない。だけど()の俺はたった一つだけ言える事がある――

 

 ――夜空と居る時と同じようにこいつら(犬月達)と過ごす日々も悪くないってな。

 

 

「邪魔する気は無い。俺はドラゴンの行く末が見たいだけだ。この場に居るのもそれが目的だ――ノワール・キマリス、クロム、お前達が歩んできた道を戦いという名の舞台で感じ取りたい。これは俺の我儘……欲望のようなものだ。断る権利はお前達にある。あの女王が何か言おうものならこの力を持って叩き潰そう」

 

「……そっか。なら正直に言うぜ、悪魔としての俺はこの場から逃げろと言ってきてドラゴンとしての俺はお前と戦いたいと言ってんだ。つーか逃げろという選択肢を俺がまだ提案出来てるって事に俺自身がビックリだ……いやマジで。それぐらい今の俺達が戦えば勝ち目が無いんだろうなぁ~とは一瞬だけだが理解した――でも言わせてもらうぜ」

 

 

 全身からオーラを放ち、一歩前に出てクロウ・クルワッハを見つめる。

 

 

「だからなんだ。残念だが俺は喧嘩売られて怖いので逃げますごめんなさい許してくださいなんざ言えるわけねぇんだよ! そもそもテメェ程度に勝てなかったら夜空に勝てないんでね! ついでにな……後ろにいるコイツらは夜空が死んだ後、何をどうして良いか分かんねぇぐらい狂うしかない俺が持つ楽しみの一つなんだよ! テメェ如きに奪わせはしねぇし殺させもしねぇ! だから殺し合うなら俺だけ――と言いたいんだがなんだろうな、おいこら独り占めすんなって言いたそうだなお前ら?」

 

 

 チラリと犬月達を見ると当たり前だろと犬月、四季音姉妹、グラムが笑いながら拳を握り、平家はどうでも良いという表情を浮かべ、橘、水無瀬、レイチェルはいつもの事ですねと覚悟を決めていた。その様子を見た相棒は満足そうに笑いだす……心の底から嬉しく思いながら盛大に、高らかに声を上げる。

 

 

『ゼハハハハハハハハハハハハハハッ! そうだ、そうだよなぁ!! 今まで宿主様と一緒だったテメェらはクロウ程度に逃げるわけねぇんだよな! 最高だ! あぁ、最高だぜ宿主様! おいクロウ、俺も覚悟は決まったぜ……殺ろうや。テメェがドラゴンの行く末が見たいって欲望があるなら宿主様の欲望は一つだ! 惚れた女を手に入れてイチャイチャしたい! たったそれだけよぉ! 傑作だ! だけど歴代影龍王の中じゃ最高に突き進んでんのよ! しっかしクロウを程度と呼ぶとはよぉ……宿主様の怖いもの知らずっぷりには恐れを抱いちまう! ゼハハハハハハハハ! どんな気分だ? 好き勝手に生きてる人間より格下に見られた感想はよぉ?』

 

「思う事は無い。言葉など不要だろう? 全ては戦いの中で分かるのだからな」

 

「そりゃそうだ! さてと……一応聞いておくが俺はあいつと、最強の邪龍と呼ばれてるクロウ・クルワッハと殺し合おうと思ってるがお前達はどうする? 」

 

 

 再び犬月達の方を向くと聞くまでもないだろと言いたそうな表情を浮かべていた。圧倒的な実力差がある事は対峙した瞬間に理解しているはずなのに誰一人として怖いとか逃げたいという表情を浮かべずに戦えることを楽しみにしている顔だった……全くさぁ、馬鹿だよなぁお前ら! 普通は嘘だろとか言って逃げるはずなんだがねぇ? 流石、俺の眷属だ!

 

 

「馬鹿言ってんじゃないよ。楽しい戦いになりそうなのに逃げるわけないじゃないか! にしし! 尻尾巻いて逃げるぐらいなら此処で死んだ方がマシさ」

 

「伊吹が戦うと決めた。なら私も戦う。主様と伊吹と一緒に戦う。相手は強いのは分かってるけど逃げたくない。強い相手と戦うのはダイスキ!!」

 

 

 強い相手と戦えることが一番の楽しみだと言わんばかりに四季音姉妹は笑みを浮かべて拳を握る。

 

 

「しょーじきノワールと花恋以外勝ち目無いけどこの私がノワールの傍から離れると思ってるの? 残念だけど未来永劫ノワールの傍に居るもん。たとえ死んでも幽霊になってでも傍に居てあげる。まっ死なないけどね」

 

 

 戦う戦わない以前に私はノワールと一緒に居ると宣言した平家は龍刀「覚」を握りしめのらりくらりとクロウ・クルワッハを見つめる。

 

 

『いラぬしんパいをすルな我が王ヨ! わレらは我がおウの剣なり! 共に戦オう!!』

 

 

 実力差がある以前に俺の()だから戦うに決まってるだろうと宣言したグラムは両手を刃に変えて笑みを浮かべる。

 

 

「いやー正直なところマジで逃げたいっすね、ホントのホントに。もうすぐクリスマスだってのにいきなり影の国に飛ばされるわなんか知らないけど王様より強いっぽい邪龍と殺し合いするとか俺の運勢どうなってんだと思いたい……まっ、気にしてねぇっすけど! だっていつもの事ですし! ついでに王様!! 逃げろと言われても俺は逃げねぇっすよ! だって俺は王様のパシリっすからね!!」

 

 

 化け犬状態へと変化した犬月は闘志放ち、殺気を格上であるクロウ相手に向ける。

 

 

「もう、慣れました。この不幸体質と一緒に過ごしてきてここまで運が悪くなるとは思いませんでしたけども……私はノワール君と一緒に居ると眷属になった日から決めてます。逃げろと言われて分かりましたとは絶対に言いません! そもそもノワール君とエッチどころかラッキースケベイベントしてませんし! あとどうするとか聞かれてもいつもの事ですから……としか言えません!!」

 

「……本当はすっごく怖いですよ? こうして向かい合ってるだけでも勝てないと思っちゃってます……でも私は悪魔さんを魅了するって決めてます! だからこんな所では死ねません! 死にたくないですしまだ悪魔さんとエッチなことしてませんから絶対に死ねないんです! だからキー君と一緒に頑張ります! それに――勝てないなら魅了しちゃえば良いんです♪」

 

 

 キマリス眷属が誇る二大僧侶が頼もしい表情を浮かべながら黒衣のドレスと電気を放つ獣人となる。

 

 いやぁ、うん。分かってはいたけどさ……馬鹿だろお前ら。すっごく頼もしいとしか言えねぇわ! 流石俺の眷属……常日頃から無茶ぶりやらなにやらを経験してきただけの事はある! きっとこの場面を先輩達が見たら絶句するに違いないね! だって天龍や双龍よりも上と相棒が断言した存在と嬉々として殺し合う構えとか馬鹿だと思う。でも――そこが良いんだよなぁ!

 

 内心……まぁ、平家にはバレてはいるが喜びつつレイチェルを見つめる。普通だったらお前は逃げろと言うんだろうが残念な事に俺は頭がおかしいらしいからな! レイチェル自身の言葉で判断させてもらう……だって逃げる気一切無いんだもん! もしここでお前は逃げろとか言ったら逆切れされかねない! お姫様っていったいなんでしたっけ? 何時からそこまで逞しくなったの?

 

 

「愚問ですわね。心配無用ですわ! このレイチェル・フェニックス、キマリス様の契約者になった女ですわよ? この程度ならギリギリ……えぇ、ギリギリのギリギリですが許容範囲ですの! そ、それに……えぇいもうヤケですわ! 将来的にはキマリス様の女王(クィーン)になるのですから修羅場くらいドンと来いですわ!!」

 

 

 覚悟決めてるのに大変ゴメンナサイ……女王は夜空で決まってるんです。

 

 

「すげぇ姫様……言ったっす」

 

「レイチェルさん……言っちゃいました」

 

「レイレイって意外に度胸あるねぇ」

 

「主様の女王になる? 頑張れ頑張れ」

 

「死ねば良いのに」

 

「早織……」

 

 

 水無瀬、諦めろ。このノワール君依存率ナンバーワンな覚妖怪様が素直に祝福すると思いますか? いいえしません。むしろ邪魔者として立ちはだかります。はいはい正解ですよね! ドヤ顔しなくても良いぞ!

 

 

「――クロム」

 

『なんだぁ? やけに嬉しそうじゃねえか』

 

「当然だ。長く生きていると対峙した瞬間に降伏する者が多くなった。このように笑みを浮かべ、闘志を燃やし、勝つことを疑っていない者達と戦えることに俺は喜びを感じている! 良い仲間を持ったなクロム……そしてノワール・キマリス! これ以上の言葉など不要――やろうか」

 

 

 圧倒的な威圧感、馬鹿じゃねぇのと叫びたくなるほどのオーラを纏ったクロウ・クルワッハは俺達を見つめて笑みを浮かべる。やっべぇ……超楽しい! 戦う前からこんなにワクワクドキドキ下のは何時ぶりだ……少なくとも初めて夜空と殺し合った時並みにワクワクドキドキしてる気がするぞ! さて、相手は最強の邪龍と名高いクロウ・クルワッハ! 殺し合いで手を抜く事なんざ出来ねぇから全力全開で行かせてもらうぜ……と言いたいがぶっちゃけ漆黒の鎧になって初めてスタートラインだろう。平家……聞こえてるな? 悪いがちょっと別の事に集中するから少しでも良いから時間稼いでくれ。

 

 周りに気づかれないように僅かに頷いた平家を見た俺はゼハハハハハと高笑いを上げてオーラを高めると初手は貰ったとばかりに四季音姉が飛び出した。他の面々も一か所に集まらないように散開と手慣れた様子……じゃねぇな、かなり警戒しながら動き出す――その直後、耳をふさぎたくなるほどの轟音が鳴り響いた。

 

 

「……凄いね」

 

 

 一番手に飛び出した四季音姉は真っすぐ拳を放ったがクロウも同じように拳を放っていた。その光景を見た俺はマジかと言わざるを得なかった……キマリス眷属が誇る怪物にしてパワー最強の四季音姉が拳の威力で負けて押し返されたんだからな。うわぁ、一発喰らったら死ぬなこれ。

 

 

「鬼と拳を交えるのは久しぶりだ。鋭い一撃だ……だが俺を倒したいならば足りないぞ」

 

「そのようだね……腕が痺れるほどの威力とは恐れ入ったよ。にしし――遠慮はいらなそうで助かるね」

 

「あぁ。どんな攻撃だろうと俺は逃げも隠れもしないぞ」

 

「こっちもそのつもりだよ!」

 

 

 正面から殴り合いをしに行く四季音姉を援護するために四季音妹が雄たけびを上げてクロウへと接近する。鬼二人相手でも持つかどうか分からねぇって初めての経験でちょっとだけどうして良いか分かんない……まっ、だからと言って見てるだけなんて真似はしねぇけど!

 

 

「相棒!」

 

『ゼハハハハハハハハハ! 偶には配下と共に戦うのも悪くねぇもんだ! 死ぬ気で行くぜ宿主様!』

 

「おう!」

 

 

 俺自身はパワー特化というわけじゃないから四季音姉妹並みのパワーを出せるかと言われたら微妙だ。なんせその役目は夜空だしなぁ……だからこそ俺は俺の役目をさせてもらうとするか! 全身から影を生み出して即座に影法師(ドッペルゲンガー)を生成する。今までと同じように影人形(シャドール)出してラッシュタイムだオラァという戦法はクロウ相手だと厳しいだろう……四季音姉妹と殴り合って押し返している時点で壁にすらならねぇ! というわけで大変不本意ではありますがこの場だけは四季音……いや伊吹とイバラの盾にでもなるとすっか!

 

 戦車(ルーク)の酒呑童子と同じ戦車に昇格した茨木童子との殴り合いをしていたクロウは僅かに距離を取り、オーラを纏わせた拳をドラゴン並みにデカく変化させて殴る動作に入った。あの拳の威力は桁違いだろうとは受けなくても理解できたがそんな事は関係無いとばかりに俺は射線上に割り込む形で二人の壁となりその一撃を受けた。

 

 

「――ゼハハハハハハハハハハ!!!!」

 

 

 一番前に俺、背後には影法師複数配置して俺自身を()という形にして拳を受けたら尋常では無い痛みと体中の骨という骨が砕け散る音が鳴り響いた気がした……よし死んだ! 再生再生! この流れもいつもの事だ! てか衝撃だけで背後の地面が抉れた件について! うわぁ、出鱈目すぎる!

 

 護られた二人は俺を心配する――という女の子らしい優しさすら見せずに妖魔放出状態へと移行し再びクロウへと接近した。人間並みの姿でありながら片腕がドラゴンの巨椀というアンバランスな姿となったクロウは静かに笑い、再び拳を放とうとするが犬月が腕に噛みつき、平家とグラムという素早さ全振りコンビが周囲を動き回って翻弄する。頑張ってるところ誠に申し訳ないがせめて誰か一人ぐらいは心配してくれても良いんじゃないですかねぇ!

 

 

「ぐるるるぅぅぅぅっ!!!!」

 

「犬に噛まれるなど久しぶりだ! だがその程度のパワーでは抑えにもならんぞ」

 

「知ってる。花恋と祈里相手でも止められない相手を私達が止めれるわけがない」

 

「ならばなぜ向かってくる?」

 

「ノワールが戦うから。それ以上の理由は無い」

 

 

 のらりくらりと先読みしているような動きでクロウの拳を躱しながら刀で斬りつけるも皮膚……いや鱗が硬すぎるのか出血すらさせられていない。そのような状態でも平家は怖がる様子も無く接近して翻弄し続ける……相変わらず度胸あるなおい! いくら影法師の護衛が居ると言っても一発喰らえば即死亡だってのによ!

 

 

「流石に硬いね。でも――グラム」

 

『こコろえた!!』

 

 

 両腕を刃に変えて満面の笑みを浮かべたグラムが騎士(ナイト)の特性である速度を駆使し、舞う様に動きながらクロウを切り刻む。平家が持つ刀はドラゴンの鱗から作られたという以外は至って普通の刀……だがグラムは違う。あんな見た目でも元は魔剣、それも帝王なんて呼ばれていたほどの代物でドラゴン相手には絶大な威力がある龍殺しの呪いがある! つまり邪龍であるクロウ相手に唯一通用する攻撃だろう……本来なら俺が剣を握ってゼハハハハハと影龍破連打すれば良いんだろうが今の俺がどこまで通用するか試してみたいからまだ使わない。と言ってもすぐに使う事になるだろうけどな……!

 

 

『ふハははハ! こノ様にして龍トたタかう事になるトはな!』

 

「龍殺し……グラムか。まさかこの時代で剣という存在自体と戦う事になるとはな! しかし何故剣として使わない? 魔獣騒動という事件があった際は使用していただろう」

 

「悪いがまだ使う気はねぇよ……それにだ! ソイツばっかりに集中してて良いのか?」

 

「花恋、祈里」

 

「分かってるよ!」

 

「下がって!」

 

 

 二人の言葉に平家とグラムは即座に距離を取るが犬月はと言うと腕に噛みついたまま動く気配はない。何してんだと普通の奴なら思うだろうが普段から一緒に居る俺達はその行動の意味を理解している……その目は俺ごとやれという決意に満ちているから気づくなって言う方が無理だ。迫りくる鬼の拳に対してクロウは焦ることなくドラゴンの巨椀となっている腕で防ごうとするが足に力を入れて踏ん張っている犬月によって動かし辛いと感じたのかもう片方の腕をドラゴンの巨椀にして防御の体勢に入った。

 

 俺以上は勿論、夜空並みの威力を持つだろう拳を防御したクロウは犬月ごと少し背後へ飛ばされる。体勢を立て直す暇なんて与えるわけないから全身に影を纏い突撃すると平家も同じように続くとクロウは微かに笑いながらドラゴンの尻尾を出現させて薙ぎ払いに来た。威力、速度共に馬鹿じゃねぇのと言いたくなるほどの代物が読心能力で先読みしているはずの平家に躱す暇すら与えずダメージを与えやがった。ちっ、直撃の瞬間に影法師数体を動かして盾にしたがそれごとかよ……見た感じ、影法師によって威力軽減されたとは直撃したならばかなりのダメージだろう――もっとも普通ならばだがな。

 

 チラリを平家を見ると離れた場所に吹き飛ばされてはいるが立ち上がる事は出来ていた。影法師諸共吹っ飛ばされそうになった瞬間、手に持っていた刀と自分の片腕を犠牲にして自分から飛ばされる方向に飛んでダメージを軽減したからだ! 相変わらずの度胸っぷりに俺様、珍しく惚れそうになったぜ! てか死ななきゃ安い安い! どうせアイツの事だから片腕でも参加するだろう……今ので武器が折れたからどうやって戦うかは知らんけども。

 

 まっ、何とかするだろうと思いながら俺は俺の仕事をするためにクロウと接近した。

 

 

「ゼハハハハハハハハハ! 見てるだけなのも暇なんでな! 近くまで来てやったぜクロウ・クルワッハ!」

 

「俺と接近戦をする気か! 良いだろう!一瞬で終わってくれるなよ?」

 

 

 犬月が噛みついている腕に力を入れて殴りかかってきたので影法師を生成して受け止める。先ほどまで放っていた威力とは桁違いのパワーが発揮されているらしく俺が生み出した影法師は簡単に破壊されて俺に拳が叩きつけられ、犬月は勢いに耐えきれずに遠くへ投げられるように飛んで行った……よし! これで後ろの奴らが攻撃しやすくなった! てかあとちょっとなんだがなぁ!

 

 思考の大部分を()の事に割きながら影法師を再度生成してラッシュタイムを放つもオーラを纏わせたクロウの拳によりダメージを与える前に破壊される……夜空以上のパワーは確実だな。放たれるたびに空間が軋んでるし衝撃破で後ろに飛ばされそうになる……! まぁ、この程度ぐらいは耐えられなきゃ夜空に勝てないから意地でも食らいつくけどな!

 

 

「おいおいその程度で俺が死ぬとでも思ってんのか! なめんじゃねぇぞ!! 俺はな……夜空とエッチするまで! 童貞捨てるまで死ぬわけにはいかねぇんだよ!」

 

「ふはは! どうやらそのようだ! なるほど……確かにクロムの言ったことは本当のようだ! その行く末がどのようなものになるか俺は確かめたい! 俺に見せてくれ……ノワール・キマリスッ! クロム!!」

 

 

 勢いが増した拳は意識を失いそうになるほど強力なものだ……でも残念ながらこれぐらいなら夜空で慣れてるから気絶させたかったらこの数千倍は無いと無駄なんだよ!!

 

 

「キマリス様! 申し訳ありませんが耐えてください! 我が不死鳥の業火! 存分と味わってくださいませ!」

 

 

 炎の翼を生やしたレイチェルがクロウと接近戦を繰り広げている俺ごと焼き尽くすように業火を放つ。この容赦なさっぷりに成長したなと感動したくなったけど一つだけ言わせてほしい――滅茶苦茶熱いんですけど! うわぁ、火傷というレベルを超えてるなぁこれ! なんか同じように業火を浴びてるクロウは涼しい顔してるのがすっごくムカつくけども!

 

 

「フェニックスの炎か。だがこの程度では俺にダメージは与えられんぞ?」

 

「えぇ、知ってますわ。このレイチェル・フェニックス、兄とは違って相手との実力差は理解できてますの。これは次なる一手のために放ったのですわ! 水無瀬先生!」

 

「はい! 反転結界!」

 

 

 後方で待機していた水無瀬が影時計を返すと周囲を燃やしていた業火が一瞬で氷へと変わり俺とクロウの身体を拘束する。なるほど……俺が生み出している影と自分が生み出している影を連結して反転結界を発動しやがったか。それは別に良いんだが熱いと思ったからって今度は凍えるほど寒くしなくても良いんだぜ? 滅茶苦茶寒いんですけど!

 

 

「反転か。ふんっ!」

 

 

 無駄な事だと言わんばかりに自分を拘束している氷を軽く動いただけで破壊したが水無瀬達の表情に焦りは見えない。むしろ分かっていたと言いたそうだ……炎、氷、反転、あぁ……そういう事か! ヤバイ、この次に来ることが分かったんだけど!?

 

 

「捕らえておけない事ぐらいは分かっています! 今のは広範囲に氷を生み出すためです! まだまだ行きます! レイチェル、お願いします! 反転結界!」

 

「えぇ! 行きますわ!」

 

 

 レイチェルは上空に業火を放つと即座に氷へと変わる。固形物となった事で俺達へと落ちてくるが水無瀬の狙いはそこじゃない……落下する途中で氷が水へと変わり俺とクロウの体をびしょ濡れになる。水も滴る良い男とか言いたいけど次は橘様のターンですよね! 知ってます! これだけ広範囲が水浸しかつ俺達の体がびしょ濡れなら雷はよく通りますもんね!

 

 

「橘志保! 全力全開でいっきま~す♪ 悪魔さん、ごめんね♪」

 

 

 三尾状態の橘が満面の笑みで極大の雷を俺達へと落とす。デスヨネ! 炎、氷、水と続いた後は雷だってのは常識だし! ゼバババババババババ!? すっげぇ痺れる! すっごく痺れる! しかもこれタダの雷じゃなくて破魔の雷じゃねぇか!? なんという容赦のない攻撃……ちょっと惚れそうになるからやめてくれませんかねぇ!

 

 てか三尾? あれ……尻尾増えてね? まさかこのまま九尾になるとか言わないよなと感電しながら考えていたがそれ以上に正直しんどい件について。だってあのクロウの体から煙出るぐらいの威力だぜ? 僧侶の駒ブーストに加えて禁手ブースト、さらに倍とばかりに破魔の霊力込みとかマジで殺しに来てるとしか思えねぇ……お怒りですか橘様! スカアハの腋舐めたいとか思ったから怒ってるんですか橘様! やめてください死んでしまいます!

 

 

「……これでも大したダメージにはなりそうにありませんわね。ならば次の手です、キマリス様!」

 

「なんだ! 悪いがドSなアイドルによる感電死から逃れてる途中に加えてクロウと接近戦中だ! なんかあるなら手短に頼む!」

 

「グラムは使いますか?」

 

「まだ使わねぇよ!」

 

「分かりましたわ――覚妖怪!」

 

「しょーがない。グラム、ちょっと()になって」

 

『――致シ方なし。だガ狂っテもワれらは知ラぬゾ!』

 

「ノワールが好き過ぎて狂ってるから問題無い」

 

 

 何をとち狂ったか分からないが平家が剣状態のグラムを握って接近してきた。おいおいマジか……俺が簡単に使ってるせいで誤解されがちだが普通に魔剣だぞ? しかも心の声を聞く覚妖怪がそんなもの握りしめたら発狂するっての――まぁ、俺で慣れてる平家なら問題無いだろうが。

 

 のらりくらりと千鳥足のように歩き、折れていない腕でグラムを握り、右へ左へと大きく動かしながら近づいてくる。傍から見れば隙だらけで剣士としては最低の構えだろう……だがあの動きにはちゃんとした意味があるからなぁ。目の前に居るクロウも龍殺しの魔剣であるグラムを振るう存在に興味を持ったのか視線を平家に向ける……その間も俺に攻撃を仕掛けてるのは恐ろしいわ。

 

 近づいてくる平家からは殺気を感じられない。ただゆっくり歩いていると言われれば納得しそうになるぐらい静かだ――そして気が付けば斬られていた。グラムによる斬撃は俺の身体ごとクロウの皮膚を切り裂き、その余波が真っすぐ遠くの森を吹き飛ばす……やっべぇ、俺まで釣られた!

 

 

「……視線誘導か。面白い!」

 

 

 平家が何をしたかと言えばクロウの言った通り視線誘導……もっと別の言い方をすれば意識を自分以外に集中させた。前に鬼の里でぬらりひょんと修行した際にぬらりひょんという妖怪の性質を真似た芸当を覚えてきやがったんだよなぁ……殺気を消し、武器を大きく振りながらのらりくらりとゆっくり動いたのは自分以外、いや正確には自分の()()に意識を集中させ……自分から意識が外れた瞬間に騎士の速度を最大限発揮して接近、そして斬る。殺し合いしてる最中で狙うのは難しいはずなのに相手が何を考え、何処を見ているかを手に取るように分かる覚妖怪だからこそ簡単にやってのける……これのせいで犬月は開始早々、ぶった切られてるもんなぁ。

 

 先ほどの一撃を入れた平家は即座に距離を取り、その場に座り込む。流石にグラムを振るった弊害が出てきたらしい……まぁ、他の奴らのお陰で時間は稼げた。此処からは俺のターンってな!

 

 

「辛い……体力の殆ど持ってかれた……こんなの毎回普通に使ってるノワールって頭おかしい」

 

「テメェだって頭おかしいだろうが! どこの世界に魔剣握る覚妖怪が居るんだよ!」

 

「此処に居るよ? 覚妖怪なんて覚悟決めたら魔剣ぐらい握るし普通に使うよ」

 

「全世界の覚妖怪にまず謝っとけ! そんでテメェら! 時間稼ぎご苦労様ってなぁ! ゼハハハハハハハハハハハハハハッ! クロウ! 見せてやるよ――俺の欲望(ねがい)をな!」

 

 

 全身から影を生み出し、高笑いしながら呪文を唱える。

 

 

「我、目覚めるは! 万物の理を自らの大欲で染める影龍王なり! 獰悪の亡者と怨恨の呪いを制して覇道へ至る! 我、夜空を求める影龍王の悪魔と成りて! 汝を漆黒の回廊と永劫の玉座へと誘おう!!」

 

『PuruShaddoll Fusion Over Drive!!!!!!』

 

 

 鎧が黒から漆黒へと変わり、全身から醜悪な呪いが一気に放出――されずに全身から霧のような瘴気が静かに僅かに漏れ、繭のようなって俺を包み込む。この姿に驚いているのは呪文を唱え始めた瞬間に、距離を取ろうと動いていた眷属の面々だ……デスヨネ! だって今までだったらこの辺り一帯が影と呪いに包まれてたんだしさ。この殺し合いの最中、ずっと思考の大部分を割いていたのはこれのためだ……前々から夜空以外との共闘時に使用するためにはどうすれば良いかと頭の片隅も片隅、多分あり得ねぇなというレベルだが考えていた答えがこれだ。コイツは元々、影龍王の再生鎧・影人形融合2が進化したものだ……だったらあの時と同じく余計な力を外に放出せず、俺の身体の中に凝縮するようにすれば問題無いんじゃないかってな!

 

 無理なら無理でいつも通りに使う、出来たならラッキー程度だったが思いのほか上手くいった! これなら……まぁ、今後も犬月達と一緒に戦ってても使える。だけどこの姿はまだ通過点だ……もっと先に、もっともっと突き進まねぇと夜空には勝てねぇ! 残念だが覇龍融合如きで俺は満足するわけねぇんだよ!

 

 

「『ゼハハハハハハハハハハハ!! 待たせたなクロウちゃんよぉ! なんだなんだぁ? 滅茶苦茶楽しそうじゃねぇか!』」

 

「あぁ。俺は今、この戦いが楽しくて仕方がない! お前達に影響された者達との戦い! そしてノワール・キマリスとクロウ! お前達との戦いにだ! 見せてくれ……お前達の本気を!」

 

「『仕方がねぇなぁ! だったらお望み通り見せてやるよ!』」

 

 

 即座に影法師を生成してクロウへと突撃する。今までと違って呪いの放出などが無くなった事で出力が下がった……というわけでは無くむしろ上がってる! 夜空の事が大好きな悪魔だと再認識した事で俺の自我が強まったのかどうかは知らないが前以上に強化されたのはありがたい! でも制限時間だけは伸びないのが解せねぇ……せめて一分とかそれぐらいは伸びても良いんじゃないかなぁ!

 

 そんなどうでも良い事を思いながら()()はクロウに向かってラッシュタイムを放つ。先ほどまでと同じようにオーラを纏わせた拳を放ってきたが数体の()()で受け止める……ゼハハハハハハハハ! 今度は壊れる事は無かった! よし、複数の()()だったら受け止められる! これが分かれば問題ねぇ!!

 

 

「先ほどまでよりも防御力が上がっているか。それにこの気配……そうか、そういうことか」

 

「『――ゼハハハハハ、気づきやがったか。その通りよぉ!』」

 

 

 ()以外の口から俺の声が聞こえてくる。その発生源は先ほど生み出した影法師からだ……そいつらは楽しそうな声色で次々と声を出す。

 

 

「『さてクロウちゃんよぉ? どれが本物か分かるかな?』」

 

「『俺が本物だぜ?』」

 

「『いやいや俺様が本物だぜ?』」

 

「『ゼハハハハハハ! 全員本物なんだけどなぁ! なんせ俺の魂が宿ってるしよ!』」

 

「『いやいや俺様の魂だろぉ! ゼハハハハハハハ!』」

 

「……ヤバイ、王様がドンドン人外化してってる」

 

「いつもの事だよ」

 

 

 何故か背後からドン引きしてる奴らの視線を感じるが無視だ無視! だって今は目の前の邪龍との殺し合いが楽しくて仕方がねぇからな!!

 

 

「『ゼハハハハハハハ! さぁ、もっともっと楽しもうかクロウ・クルワッハッ!!!』」

 

 

 

 

 

 

 ノワール・キマリス率いるキマリス眷属が影の国にて三日月の暗黒龍、クロウ・クルワッハと殺し合いを繰り広げている中、とある男が冥界――バアル領内のとある城を訪れていた。殺意に満ちた男が通った道には幾多の死体があり、彼らの者と思われる赤い血液が手に持つ剣に付着している。一歩、また一歩と進むごとに剣を握る力が強まっていく。

 

 男――八重垣正臣は最後の扉を力強く開ける。彼を待っていたのは紫色の双眸、貴族服を纏った初老の男だ。その男の名はゼクラム・バアル、初代バアル家当主の悪魔であり隠居した今であってもバアル、いや大王派と呼ばれる者達のトップとして君臨している。

 

 

「来訪にしては聊か物騒だ。何故私の城へとやってきた?」

 

「――復讐するためだ」

 

 

 ハッキリと告げた八重垣の言葉にゼクラムは呆れた表情を浮かべる。その姿を見た八重垣は今にも飛び出しそうになっている体を僅かに残った理性で抑え込む。相手はバアル、しかもルシファーが生み出した初代悪魔の一人である滅びの始祖と言える存在。考え無しに飛び込めばいかに邪龍となった身であろうと滅ぼされる……八重垣はそれを理解しているからこそ真っすぐ、そして殺意を秘めた瞳でゼクラムを見つめる。

 

 

「その顔は……あの時の戦士か。蘇ったとは聞いてはいたがまさか本当とはな。復讐と言ったが貴様が死んだあの件の事を言っているのか?」

 

「そうだ」

 

「ならば話は終わっている。あの時代に置いてお前とクレーリアは結ばれるべきでは無かった。今の時代に出会わなかった自分達を恨むべきだろう」

 

「……確かに僕とクレーリアが出会い、恋をした時代でお前や天界の奴らが行った事は間違ってはいなかったのだろう。でも――本当に僕とクレーリアが結ばれるのを阻止したかったならの話ならな」

 

「どういう、意味かな?」

 

「――()の駒」

 

 

 八重垣がポケットから取り出したのはとある駒。現魔王、アジュカ・ベルゼブブによって製作された悪魔の駒だが兵士、騎士、僧侶、戦車、女王といって物を象徴する形ではない。元となったチェスにおいて八重垣が持つ駒の形は(キング)を意味する形をしている。本来であれば王の駒などは存在しないと言うのが現冥界内では常識だが八重垣は嘘のような代物を実際に手に持っている。

 

 手にするだけで破壊したくなる衝動に駆られながらも必死に理性で抑え込む。此処で破壊してしまえば狡猾な悪魔であるゼクラムに逃げ道を与えてしまうからだ……しかし頭では分かっていても心が、体がそれを否定してる。彼が持つ駒こそ自分と愛する女性――クレーリア・ベリアルが殺害される原因となったのだから。

 

 

「こんな物のために彼女はお前達に殺された。ただ純血悪魔という理由だけで富と利権を貪っている貴様らにクレーリアは殺された! 乾いた笑いしか出ないよ……許されない恋の結果だと思っていた事がこんな物を知ってしまったために殺されたなんてね」

 

「……話は分かった。それで? 知らなくても良い事を知った愚かな女のためにわざわざ蘇ったと? そのような事を言うために私の前に殺されに来たとは馬鹿としか言えないな」

 

 

 玉座に座りながらゼクラムは八重垣を見つめる。その目、その表情は愚か者を始末すると発しているようなものだが殺すと宣言したにしては何かをするという動作は行わない。僅かな無音が広がる中、ゼクラムは突如として立ち上がり、八重垣を睨み付けた。私に何をしたと、答えろと騒ぎ出す。

 

 

「……大王派と呼ばれる奴らを纏める悪魔にしては頭が回らないな」

 

「なんだと……?」

 

「この僕が一人で此処に来られたと本気で思っていたのか?」

 

 

 八重垣の言葉の後、足音が響く。コツコツと近づいてくる音の正体は灰色の髪で貴族服を着ている男――ディハウザー・ベリアル。冥界内で行われているレーティングゲームにおいて最強と呼ばれている悪魔。その男が八重垣の隣に立ったのを見たゼクラムは理解し、さらに激怒する。

 

 

「お久しぶりですね、このように会うのは何度目でしょうか? おや、普段の態度からは想像もできないほど激怒している様子。初代悪魔と呼ばれた貴方には屈辱的なものだったかな?」

 

「……若造が! この私に無価値を使ったか! 何を使った……? 王の駒か! 皇帝とまで呼ばれたお前が不正をしたと知れば民衆は落胆するだろうな!」

 

 

 無価値――それはベリアル家に伝わる固有能力。バアルの滅び、キマリスの霊操とその血筋を引く者が使用できる能力をディハウザーはゼクラムに使用したのだ。無価値の効果は一次的な特性の無効化、この力によりゼクラムが持つ滅びは一時的に消失している。

 

 自らの能力を封じられたゼクラムはディハウザーが王の駒を使用したと思い込み罵り始める。初代悪魔である自分が若造の力如きで能力を封じられた事実を認められないからだ。

 

 

「何を勘違いしているのでしょうか?」

 

「どういう意味だ……?」

 

「この私が王の駒という玩具を使うと本気で思っていたのですか? 考えが甘いですね。これは貴方達が捨て去った鍛錬によるものだ。現魔王、アジュカ・ベルゼブブ様に誓おう。しかし……こんな男のためにクレーリアが死んでしまうとはな。自分の力の無さに涙が出そうだ……八重垣君」

 

「分かってる」

 

 

 一歩前に出た八重垣の体から炎が放出される。胸には十字架の炎が灯り、背からはドラゴンの顔と首を模した炎が現れる。八重垣が持つ神滅具、紫炎祭主による磔台に宿っている八岐大蛇の影響によってこのような姿となっている……その炎に触れれば魂すら汚染され、聖十字架であるため悪魔の身には絶大な威力を誇る代物を前にしたゼクラムは僅かに体を震わせて声を上げる。

 

 

「……待つが良い。あの女の件は私だけの責任ではない。私も命が惜しいからな……話そう。誰が主犯な――」

 

 

 言葉は続かない。聖十字架の炎を纏わせた八重垣の剣、天叢雲剣の一太刀によってゼクラム・バアルは二つに分かれ、背から生えるドラゴンを模した炎に噛まれ魂すら汚染されながらその身を燃やされる。彼にとって誰が主犯かを知るのは興味など無い……関わった者全てをこの手で殺すのだから今さら誰が主犯だろうと問題無いのだから。

 

 

「……ありがとう。キミのお陰で僕の復讐がまた一つ終わった」

 

「礼を言うのはこちらの方だ。しかし……このようなやり方は彼女に怒られそうだ」

 

「僕もだよ。前に悪魔であり邪龍でもある男に言われたよ。今の僕を見ているクレーリアの気持ちを考えてみろとね。復讐なんて彼女は望んでいないのかもしれない……だけど、それでも僕は復讐しなければならない! 彼女を殺した者達全てをこの手で殺さなければこの心が……体が納得しないんだ!」

 

「……キミがクレーリアの事を心から愛している事は分かっている。八重垣正臣君、いや八岐大蛇。私と契約してほしい……キミ達邪龍の目的はトラキヘイサとの戦いだとは知っている。だが……クレーリアを大切に思っているキミの力を貸してほしい。お願いだ……!」

 

「……邪龍としてはまだまだ未熟だがそれでも良いのなら」

 

 

 肉が燃える匂いが充満する一室で二人の男が固い握手を交わす。




全く関係無いですがアニメでグラムの形状が判明してちょっとテンション上がりました。あんな形してたんだ……あと聖槍って案外デカいんですね。自分のイメージでは小さい感じだったんでビックリしました。

あと八坂が美人、ジャンヌ可愛い。

観覧ありがとうございました!

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