ハイスクールD×D~地双龍と混血悪魔~   作:木の人

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気が付いたら三ヶ月ぐらい経過していました……!


115話

「クハッ! なんだなんだ、お主を此処まで招待した覚えは無いがどうやってきた? とは聞かんぞ。大方、ブリューナクの奴めが入り口を教えたのだろう? しかし……この(わたし)の肌を焼くか。やはりお主は歴代光龍妃とやらの中でもトップクラスの存在だなぁ! 良いぞ良いぞ、それでこそ鍛えがいがあると言うものだ! しかしなんだ? この(わたし)が直々に誘いに行った時は逃げた癖に弟子(こやつ)を鍛えると知った途端にやってくるとは……そうかそうか! 恥ずかしかっただけか! ブリューナク、今やユニアであったか? どちらでも良いがお前は性に関しては随一というのに根っこはまだ乙女な奴よな! クハッ! それがまた可愛いのだが生憎だがお前の相手は後だぞ。今の妾は弟子に夢中だからな! それが終わってからゆっくりと相手してやろう」

 

「は? あのさ……そいつは私の(もの)なんだけど勝手に自分の男扱いすんな。つーか勝手に現れて師匠面した挙句に私の男を攫ってくとか度胸あるじゃん――だから死ね」

 

 

 何故か機嫌が良くなっているスカアハを見て夜空はさらにブチキレたのか犬月達が居たならば即座に気絶するだろう殺気を放ちながら雷光を放つ。「Glow!!!」「Tonitrus!!!」という音声と同時に放たれた雷光は射線上の床を簡単に削りながらスカアハへと向かって行く……ハーデスと殺し合いした時も思ったけど破壊力あり過ぎじゃありませんか?

 

 雷――それが夜空に宿っている神滅具「光龍妃の外套」に封じられているユニア、いやブリューナクが生前保有していた能力だ。効果はその名の通り、自由自在に雷を生み出す事で身近だと橘が持つ神器と被っているようにも見えるが性能はトンデモナイの一言だ……ありとあらゆる防御、雷に対する耐性等々を完全に破壊するとかマジヤバイ! 俺がどれだけ防御を極めても女神以上に可愛い夜空の笑み一つで無意味になるからな! ハッキリと言わせてほしいんですけど……俺涙目じゃね?

 

 なお余談だが相棒曰く神器無効化能力を持つリゼちゃんにすらダメージを与えられるらしい。マジ理不尽。

 

 

「ふむ、元から有った雷に会得した光を合わせたか。妾ですら直撃すれば死にかねんがお前達の師匠たるもの弟子の一撃を防げぬわけが無かろう」

 

 

 どこからともなく何かの骨で作られた槍を手に取ったスカアハは玉座に座りながら突きを放つ。マジかよ……! 自分へと向かってきている雷光を槍の一突き、ぶっちゃけて言うと衝撃破的なもので弾き返しやがった。しかも大して腰が入っていない軽い一突きでだ……! 人間界で語り継がれているケルト神話でセタンタやコンラという存在を鍛え、相棒やユニアという最強の邪龍ですら頭おかしいと言わせるだけはある。てか見た感じ簡単そうに放った一突きで背後の扉が吹き飛んだんですが? うわぁ、マジでぇ。

 

 

「……ちっ。何でも無いように防がれたんだけど……むかつくぅ~!! てかノワールゥ!! なんで見てるだけなのさ! この超絶美少女にして女神と言ってもおかしくない夜空ちゃんを手伝えよぉ!」

 

 

 プンプン怒る夜空ちゃんマジ可愛い。結婚して!

 

 

「俺だって手伝いたいが残念な事に現在進行形でガス欠中なんだよ。さっきまで眷属総出でクロウと殺し合ってたしな」

 

「――は? この私がすっげぇ心配しながら一直線で飛んできたってのに何してんの?」

 

「仕方ねぇだろ! あそこにいる自分可愛いおばさ――だから腹から槍出す技使うんじゃねぇよビックリすんだろうが!! えー夜空には及ばないが出会った女の中ではトップ10入りするんじゃないかってぐらい美人なおししょーさまがクロウと殺し合えとか抜かしやがって別の場所に飛ばしやがってな……楽しかったけど一歩間違ってたら眷属死んでたぞおい」

 

「へー」

 

 

 なんだろうか。今の夜空が考えている事が手に取るように分かるぜ……この私が助けに来てやったのになんでテメェは別な事に夢中になってんだ? とかこの私抜きで何楽しいことしてんだこの野郎! とかこんな感じだろうきっと。おいおい夜空ちゃん……嫉妬か? おいおい嫉妬してるのか? 全力で助けに向かっていた自分よりもクロウに夢中になってたことに嫉妬してるのかい夜空ちゃん! いやーモテるって辛いわー! イケメンって本当に辛いわー!

 

 

「自分でイケメンとかキモ」

 

 

 お前は平家か? 毎回思うんだがなんで俺の心の声が分かるんですかねぇ? いや……これが噂に聞く愛の力か! いやだからその蔑んだ目をやめてください興奮してしまいます。

 

 

『クフフフフフ! 中々楽しい事をしていたのですねノワール・キマリス。あのクロウと殺し合うなど……なんて羨ましい! ノワール・キマリス、分かっているとは思いますが夜空は貴方を心配して此処までやって来ました。この影の国に通じる入口から一直線で突き進み、性根が腐っているとさえ言える罠を突破して……えぇ、渡るためには自分が教えた歩法でなければ無理とか渡らせる気がゼロのあの橋と上からゲイボルグの雨が降ってくる通路等々険しい道のりを得てこの場へとたどり着いたのですから夜空を褒め称えても罰は当たりませんよ』

 

「マジか。なんだかんだでお前の事だから簡単に来れたんだなぁって認識だったがそこまで辛かったのかよ……ユニア様、そんなの言われなくたって褒め称えるどころか夜空に結婚を申し込むっての! というわけで夜空ちゃん! いや夜空様! 悪役に攫われたヒロインの気持ちが理解出来ました! 俺と結婚を前提に付き合ってください! そしてあそこの玉座に座ってるキチガイよりも先に俺の童貞を貰ってください!」

 

「ノワールの童貞を貰う事や結婚は当然だけどさ、今はあのババアをぶち殺したいんだけど? 勝手に私の男を連れ去った上……自分の男扱いとか見たら我慢できねぇし。つーか殺されても文句言えねぇっしょ」

 

 

 うわぁ、ガチギレ状態だこれ。殺意しかない感じさせない目とか感情が抜け落ちてるとしか言えない無表情っぷりは心の底からキレてるんだろう。俺が囚われのお姫様になったらこの状態になるとか夜空……お前って俺の事好きすぎだろマジで。俺としては嬉しいけどな!

 

 そんな事を思っていると夜空が手を俺に向けて光を放ってきた。それはダメージを与えるものでは無く心の底から力が湧いてくるような温かいもの……目の前に居る夜空とは真逆な印象を持つ光を浴びた事により完全復活出来ました! あれだけ疲れ切ってたのに一気に全快とか……相変わらず先輩の所に居るシスターちゃん涙目な代物だなおい。

 

 

「――うっし! 完全回復! ぶっちゃけ犬月達と違ってドンだけ死のうが気合で復活もとい再生出来るから体力さえ戻ればこっちのもんだ! というわけでおししょーさまー? 弟子からの殺意(こころ)を込めたプレゼントだ! 喜んでくれよ!」

 

 

 即座に鎧を纏い、周囲全てを黒に染めるように影を生成する。そこからいつもの様に影人形を生み出してラッシュタイムを放つためにスカアハへと近づける。傍から見たら数の暴力とか何とか言われそうだが先ほどの光景を見たら手加減なんざ出来るわけがない……あの夜空の雷光を片手で弾きやがった女だ! 恐らくこの程度は殆ど無駄に終わるだろう。

 

 

「――甘い」

 

 

 俺の予想通り、槍を握ったスカアハは玉座から立ち上がりその場で舞った。上へ下へ、右へ左へと世の男が見惚れるような槍捌きにより俺が生み出した影人形を難なく切断した……分かってはいたが泣きたくなるな。これでも北欧の魔法やらルーン魔術やら霊力やらで防御力底上げしてるんだが全く意味ねぇとか死にたくなる。

 

 その光景を見て黙っているわけにはいかないのでオーラを高めてスカアハに接近。妖艶な笑み、またの名を肉食獣のように狙った獲物は逃がさないと表現できる顔をしているスカアハに背筋が凍りつつも全身から影を生み出す。それらが周囲を染めるよりも早く見事な槍捌きで俺の四肢や首、頭部と言った部位全てがみじん切りにされる……早すぎて見えねぇが! 俺()の狙いはこっちだ!

 

 

「――死ね」

 

 

 見えないが殺意レベルMaxの夜空が雷光を放つ。スカアハの目の前で影を生み出したのは視界を遮るため……あとは俺に意識を集中させるためだ。さっきまでの話だとこいつは俺に執着してるらしいから接近してくればほんの少しぐらいは夜空から意識が逸れるだろうという考えだ。まっ、無意味だったっぽいけどな。だって自慢の防御力を難なく破壊してスカアハへと向かって行った鋭い杭のような雷光は目にも止まらぬ刺突の連続で簡単に逸らされたんだからな。しかもただ逸らしただけじゃなく俺、そして背後にいる夜空にダメージを与えやがった……!

 

 鋭い突きの連続によって生じた衝撃で俺と夜空は見るも無残に破壊されたドア付近まで吹き飛ばされる。俺はいつもの様に再生して立ち上がり、夜空も腹部や肩、足といった部分を刺されたため血を流しているが回復効果を持つ光と仙術を使用して俺と同じように立ち上がる……もお互い、思う事はきっと同じ事だろう。

 

 

「……」

 

 

 強い。北欧の悪神が使役していたフェンリル、そしてクロウに匹敵するレベルの化け物が目の前に居やがる。さっきの攻撃も明らかに手を抜いたものだ……的確に夜空を狙えたんなら心臓を貫けたはずなのにあえて別の場所を刺しやがったからな。どうした、もうお終いかと言いたそうな表情のスカアハを見て俺は、俺達は――嗤った。純粋な子供のように、新しい玩具を得た子供のように、辛いやら苦しいやら逃げたいやらという考えよりも先に楽しさが心の奥底から湧き上がってきた。

 

 

「なぁ、夜空」

 

「何さ?」

 

「今の俺の心境さ、滅茶苦茶楽しいんだよ」

 

「こっちも同じ。すっげぇ楽しい!」

 

「だから夜空」

「だからノワール」

 

 

 ボロボロの鎧を復元しながら顔も見ずに次の言葉を言う。

 

 

「攻めは任せた」

「守りは任せたよ」

 

 

 コツンと互いの手の甲同士をぶつけて呪文を唱える。鎧のあちこちから老若男女の声が響き渡る……心を汚染するほどの呪詛の声が俺の鎧から流れ、心を浄化するほどの純真な光が夜空から放たれる。

 

 

「我、目覚めるは――」

《勝ち誇る貴様が気に入らん》《我らを見下しすぎだ》

 

「我、目覚めるは――」

《舐められたものですね》《あぁ、気に食わん》

 

「万物の理を自らの大欲で染める影龍王なり――」

《実力差があれば従うとでも思ったか》《否、それは逆に我らを狂気の道へと進ませる》

 

「八百万の理を自らの大欲で染める光龍妃なり――」

《かの悪魔への愛はこの程度では止まらん》《何人たりとも二人の間に入る事は許されん》

 

「獰悪の亡者と怨恨の呪いを制して覇道へ至る――」

《我らが覇王、いや我らが悪魔は決して止まらん!》《一途な欲望を抱く我らが悪魔は止められん!》

 

「絶対の真理と無限の自由を求めて覇道を駆ける――」

《世界が終わるその時まで我らは見届けねばならない!》《我らが女王とかの悪魔が見せる未来を見なければならない!》

 

 

 俺の鎧から漏れ出す瘴気が周囲を染めるが夜空の鎧から漏れ出す炎のような光がそれを浄化する。

 

 

「我、夜空を求める影龍王の悪魔と成りて――」

「我、闇黒を射止める耀龍の女王と成りて――」

 

《だからこそ我らが悪魔の欲望を阻む貴様を殺そう!!》

《だからこそ我らが女王の未来を阻む貴様を殺そう!!》

 

『PuruShaddoll Fusion Over Drive!!!!!!』

『Juggernaut Queen Over Drive!!!!』

 

 

 漆黒の鎧と黄金の鎧が並び立つ。なんだろうな……クロウと殺し合ってた時以上に力が湧いてくる。それこそ無限にと言っても過言じゃないぐらいだ! 確かに最強の邪龍と呼ばれているクロウ相手に眷属達やレイチェルと共に戦った時も楽しかったし普段以上の力が出せた……でも今はそれすら簡単に超えてると思う。さっきまでの戦いと今の戦いで何が違うかなんてのは言うまでもなく分かってる――隣に夜空が居るからだ。夜空が隣に居て、夜空の盾になるこの状況だからこそ力が湧いてくる!!

 

 

『タスケテ』『ラクニナリタイ』『シナセテクレ』『ナンデオレガコンナメニ』『ダレノセイダ』『オマエノセイダ』『ソウダオマエノセイダ』『オマエノセイデオレハクルシンデイル』『シネ』『コロシテヤル』『シネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネェッ!!!!!!!!』

 

 

 俺の身体の内側から呪詛のように魂達が騒ぎ出すとこの部屋全体に広がり続けている影に触れた床や壁が瞬く間に腐敗していく。おいおい……クロウの時には何も言わなかったのに夜空と一緒に戦う時に騒ぐとかもしかして祝福してるのか? 何だよお前ら空気読んでるじゃねぇの! 良いぜ良いぜ! もっと声を出せよ魔法使い共(雑魚共)!! 頑張ってその程度の呪いなら俺は何時まで経っても死なねぇぜ? なんせその程度ならグラムで毎回味わってるからな! 俺を呪い殺したかったら――世界が滅びるレベルまで跳ね上げてみせろ!

 

 

「……良いぞ、良いぞ良いぞ弟子よ! なんだなんだ!? クロウと殺し合っていた時よりも出力が上がっているではないか! そんなに(わたし)に鍛えてもらえるのが嬉しいか! 良かろう! このスカアハ、弟子の期待に応えてやろうではないか! オイフェが食事を作って待ってはいるが……なに、これほど昂るのは久しぶりだからな! 奴も納得するだろう! むしろ納得させようか! よし、では行くぞ弟子よ。この妾を高ぶらせたのだから一息で終わってくれるなよ」

 

 

 先ほど夜空が放った雷光によってヒビ割れた槍を自ら砕き、新たな一本を手にしたスカアハが接近してくる。たった一歩、音も無く正面まで移動してきたことに俺は驚くこともせず、そして考える事も無く槍を受け止める。先ほどは俺の身体を難なく切り刻んだ槍の攻撃力は健在で腕を切り落とし、足を切り落とし、背後にいる夜空へと槍先を届けようとしてくる――がさせるわけがない。濃厚な影を背後に展開しながら迫りくる鋭い刺突を嬉々として口を開けて飲み込むように槍先を咥えて勢いよく噛みつく。

 

 

「ほう」

 

「『そんなほんはよ(そんなもんかよ)!!』」

 

 

 槍先が脳に達しているだろうが死ぬ気は一切無い。そもそも夜空とエッチしてないどころか童貞のまま死ねるわけがない! そんなくだらないようで実はかなり重要な考えを一瞬で切り離し、槍によって切り落とされた部位を影に変化させ、不気味な動きをしながらスカアハを捕えようと動くも即座に槍を手放して距離を取られる……流石に同じ場所に居続けるとかはしてくれないよな。知ってたけどよ。そのまま口に刺さっている槍を噛み砕き、影の中へと落とすと身に纏う瘴気のせいかどうかは知らないが見るも無残に腐敗――いや、もっと正確に言うならば俺達の身体の中へと溶け込んでいくように消えた。

 

 何故ならスカアハが使っている槍、ゲイボルグは元を辿れば相棒の肉体の一部……だからこそ魂レベルで融合している俺達の中へと戻ってきてもおかしくはない。まっ、相棒が出来ると言ったからやってみただけなんだけどな!

 

 

「『ゼハハハハハハハハハハハハ!! 夜空ァァァァッ!!!』」

 

 

 俺の叫びと同時に全身を光へと変化させた夜空がスカアハと変わらない速度で接近して蹴りを叩き込む。勿論、全身が防御絶対貫くとさえ言える雷も合わせた一撃だから防ぐ事なんざ不可能。現にスカアハも往なすために触れた手が焼けたしな……マジで化け物だな。今のタイミングで大ダメージどころか最小限レベルで抑えやがった!

 

 

「ちっ!」

 

「良い動きだったが妾を蹴り殺したいならばもっと速度を上げよ」

 

 

 ダンスをやっているかのような体捌きで夜空を蹴りを放つ。勿論、ただの蹴りなんかじゃなく馬鹿じゃねぇかってぐらい無数のルーンが込められているらしいからまともに受けたならば人間なら即死だろうと相棒から教えられたが忘れてねぇか? 俺は今、夜空の盾になってんだぜ!!

 

 

「ほう」

 

 

 ()()の影から即座に再生して蹴りを受ける。マジでイテェ……こんなの喰らったら普通に死ぬわ。てか死んだわ! 普通に夜空の盾になって死んだから即座に生き返ってやったぜスカアハちゃん!! ゼハハハハハハハハ!! 影から影の移動なんて()()出来るわけねぇと思ってたがやれば出来るもんだな! いや違うな……今の俺達なら生前の相棒レベルの事すら出来る! あぁ、分かってるさ相棒……! 俺達は一心同体! 好き勝手に生きて好き勝手に殺し合って好き勝手に死んでいくことを信条にしている悪魔で邪龍だ!! 上から目線で師匠面しやがる女程度に負けるわけにはいかねぇ!!

 

 

「『おいおい忘れちまったのかスカアハちゃんよぉ! 俺が最も得意とするのは盾役なんだぜ? 惚れた女を護れるチャンスを逃すわけねぇだろうが!! 影法師!!!』」

 

 

 部屋中に広がった影から無数の俺達が現れる。どれもがゼハハハハと高らかに嗤いながら拳を握りスカアハへと殴りかかる。クロウとの戦いで見せたこの芸当の原理は簡単だ……自分の魂を分割して影法師の核にする。相棒の魂を影龍人形に埋め込む経験を元に編み出した漆黒の鎧状態でのみ発動できる絶技! 俺が指示しなくても埋め込まれた俺達の魂が勝手に判断して動いてくれるからこっちとしては滅茶苦茶楽だ! もっとも魂を分割するから下手すると死ぬ。精神的に死ぬ。てか普通に考えて邪龍以外に出来るわけがないと思うが――死ななければ良いだけだ。

 

 俺は死ねない。死にたくない。夜空を手に入れるまで、夜空とエッチするまで、夜空の子供を見るまで、夜空が笑って一生を終えるその時まで俺は何があっても死ぬわけにはいかない。例え何があっても生き返る……生命力を奪われようと影の国へと誘われようと肉体が滅ぼされたとしても何があっても生き返ってやる!

 

 ――だって俺は心の底から片霧夜空という女の子が好きだから!!

 

 

「『ゼハハハハハハハハハハハ! 俺様復活だ! 殴るぜ殴るぜちょー殴るぜぇ!!!』」

 

「『逃がしはしねぇぞスカアハ!! 積年の恨みを纏めて喰らいやがれ!!』」

 

「『夜空ちゃんの腋舐めたい』」

 

「『むしろエッチしたい』」

 

「『は?』」

 

「『は?』」

 

 

 よし、スカアハ諸共こいつらも殺そう。夜空とエッチしたり腋舐めたりして良いのは俺だけだ!

 

 なんか同士討ちが始まってるような気がしないでも無いが気のせいと言う事にして分割し過ぎて小さくなった魂を再生。てかなんだかんだで出力も上がってるんだけどなぁ……どこからともなく槍を出現させたスカアハの乱舞でみじん切りになってるのを見たら言葉も出ないわ。

 

 

「あのさぁ、その技キモいから二度と使わない方が良いんじゃね? 欠点多すぎっしょ」

 

 

 それは一途な愛の力って事にしてくれ。

 

 

『夜空。誰かを愛する力とは時にオーフィスやグレートレッドを凌駕するものです。歴代達も頷いています! ですから夜空も我慢しなくていいのですよ? 覚であろうと鬼であろうと人間達であろうと夜空の敗北はあり得ません』

 

「……知ってる! だって私が一番ノワールを愛してるし! つーわけで一発デカいのいっくぜぇ!!」

 

「『あったりまえだ! 俺様を護ってくれんだろ?』」

 

「――とーぜん!!」

 

 

 背後から身を焦がすほどの光と何物も貫くであろう雷が一か所に集まる。夜空が持つ絶技の発動を見たのかスカアハは笑みを浮かべて群がり続ける影法師を槍捌きとルーン魔術で殺害しながら接近してくる。狙いは恐らく無防備になっているであろう夜空への攻撃。だけどそれをやらせるわけにはいかねぇ……なんせ俺は夜空の盾だ、ここではいどうぞと通したら護るなんざ二度と言えない!

 

 夜空を中心とした影迷宮(シャドー・ラビリンス)を展開。これで発動までの時間を稼がせてもらおうか! 正直、漆黒の鎧を保てる制限時間なんざとっくの昔に過ぎてるから何時倒れてもおかしくはないが……残念な事に俺達の肉体が休めとは一言も言ってこない。むしろその逆で良いから目の前に居るムカつく女をぶっ殺せと叫んでやがる! だったら行けるところまで行くだけだ! ここまで楽しい殺し合いは二度と無いかもしれないしな!!

 

 床に広がる影を通じて全ての影法師を回収、自らの力へと変換する。この状況下でさらなる影法師生成は視界を遮る恐れがある……だからこそ俺自身で迎え撃つ!

 

 満面の笑みで放たれた突きを拳で受け、影を槍に流す。よしまた俺達の中に帰ってきやがった!!

 

 

「『ゼハハハハハハハハ! その槍は元々俺様の肉体の一部だろうが! 影法師なら兎も角、俺様本人にはもう効かねぇぜ!』」

 

「ならば拳だ」

 

 

 その宣言通り、殴打の雨が俺達を襲う。極限までに強化されたであろう防御力すら難なく粉砕する破壊力は女を止めているとさえ思える。てか何回死ぬんだ!? さっきから何度も再生しまくってるが問答無用で殺される! だけどそのお陰で――捕らえたぞ!!

 

 

「ふむ、殴り続けた事で肉体が全て影になったがそれを利用するか。夜伽では無く戦闘の最中にこの妾の体に触れた奴は数えるぐらいしか居らん。誇ってよいぞ」

 

「『全然誇りたくねぇよ!!』」

 

「そう照れるな。しかしこれでは満足に動けんな――ならばその魂を絞め殺そう。うむ、そこか」

 

 

 その言葉を言い放ったスカアハは自分の両腕を影となった俺達の体へと突き立てると何故か息苦しくなる。おいおいマジか……! ピンポイントで魂を見つけ出したってのかよ!! 指に力を入れているのか呼吸すら出来なくなっていき意識が遠のいていく……視界が暗くなっていく中で鮮明に映っているのは妖艶な笑みを浮かべているスカアハの姿。死ぬ、死ぬ……? 殺される……? この女に……こんな女に!!

 

 もはや原形すら保っていない体から片腕だけを再生してスカアハの首を掴む。ふざけんじゃねぇぞ……! 俺を殺していいのはお前なんかじゃない!!

 

 

「夜空以外に殺されて、たまるかよ」

 

 

 もはや意地、執念と言うべき感情で体を再生する。その光景を見たスカアハはさらに嬉しそうな表情になるが――時間だ。

 

 

「ノワールを殺していいのは世界中で私だけだっつーの」

 

 

 崩れ落ちる影迷宮から放たれた一筋の流星は俺の身体を包み込みながらこの部屋を、いやこの影の国自体に亀裂を入れたと表現できるほど遠く離れた地表すら抉った。何もかも投げ捨てて眠りたいと思えるほど暖かい空間から逃れるように意地と気合と根性で再生する。相変わらずトンデモナイ威力だが……クソがぁっ!!

 

 

「――いやはや、危うかったぞ。逃れるのが遅ければ死んでいたな」

 

 

 この影の城自体が崩壊している中、その主とも言えるスカアハはほぼ全裸という状態だが隠す事も無く降り立った。夜空の一撃が放たれる瞬間、俺の腕をねじ切ってルーンで転移しやがった……! あの余波で服は吹き飛んだらしいが傷は殆どついていない。マジで言葉が出ない……!

 

 それはそれとして堂々とし過ぎじゃねぇか? 露出狂なのかこの女? 目の保養になりましたありがとうございます! ちゃんと毛の処理とかしてるんですね!

 

 

「嘘でしょ……あれ躱すとかありえないんだけど」

 

「つーか殆ど無傷だぜ? 夜空……動けるか?」

 

「……無理。今ので全部使い切った。そっちは?」

 

「見ての通りだ」

 

「そっか」

 

「おう」

 

 

 俺達は寄り添いながら同じ言葉を言った。

 

 

「負けか」

 

「負けたぁ」

 

「師匠たるもの、弟子に負けるわけにはいかんからな。当然の結果と言うものだ弟子よ」

 

 

 この日、俺達は完膚なきまでの敗北を知った。




ノワール「我、夜空を求める影龍王の悪魔と成りて」
夜空「我、闇黒を射止める耀龍の女王と成りて」
ここで互いにお前の事が好きだよと言っている相思相愛っぷりです。
EX編書きたい(

観覧ありがとうございました!

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