ハイスクールD×D~地双龍と混血悪魔~   作:木の人

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大変お待たせいたしました……!
今回は一誠sideです。


117話

「――流石に昨日今日で戻ってこないよなぁ」

 

 

 黒井達が居なくなった事を除けば特に何も変わらない一日を過ごした俺は自分の部屋に向かう途中でボソリと呟いた。

 

 ケルト神話に登場するスカアハという人に連れ去られたらしい黒井達キマリス眷属は風邪やら親の都合やらという理由で休みとなっているがこれが長く続くようなら誤魔化すのも厳しくなると匙が言っていたが……流石の黒井達もすぐには戻ってはこれ無いみたいだ。昨日の龍門での会話でアザゼル先生は胃に穴が開いたとかでシトリー領の病院に緊急入院しちゃって対策とかも出来ないしリアスも相手側があまりにも立場が上のため何も出来ないとか言ってる始末……まぁ、黒井に関しては片霧さん(あの人)が居るみたいだから大丈夫だろうけど問題は犬月とかしほりんとか水無瀬先生とかだよ!

 

 確かに黒井の傍に居るせいか荒事には慣れてるだろうけども今回ばかりは心配にもなる……! 特にレイヴェルの妹のレイチェルは早く戻ってきてもらわないとレイヴェルが元気にならないしな! あと犬月……お前は死ぬなとしか言えねぇぜ! 帰ってきたら何か奢るからな!

 

 

『流石のクロムの宿主でも相手が相手だ、そう簡単には戻ってこれないだろうさ。俺達が出来るのはただ待つだけと言う事だろう』

 

「……だとしても友達が滅茶苦茶危険な目に合ってるのに黙ってるのは出来ねぇって。なぁ、ドライグ? 何か手はないのかよ?」

 

『無いな。仮に手があったとしても俺は何もする気は無いさ相棒……影の国、それもスカアハが絡んでいるならば猶更だ。下手をすると相棒だけでは無くリアス・グレモリー、周りの眷属達すら巻き込まれるぞ』

 

「……マジか?」

 

『あぁ。あのクロムとユニアが心の底から毛嫌いしている女にして邪龍を含めた全ドラゴンが関わりたくないと思っている女だからな。一度ヤツの前に出ようものなら弟子として鍛えてやろう! とでも言って影の国へとご招待される……その場合、待っているのは訓練とは名ばかりの殺し合いで生き残るか死ぬかの二択だけ。当然、普段相棒達が行っているような無傷で終わらせるなどという甘いものでは無いぞ? 腕が折れようが体の一部が無くなろうが関係無く続くからな』

 

 

 怖すぎるわ! 確かに昨日もドライグにアルビオン、ヴリトラがやべー奴発言してたけどそこまでかよ……いやルーマニアの時も似たようなこと言ってた気がする! あの時は黒井にボコボコにされてたから記憶曖昧だけども……と、とりあえず関わるなフリじゃないぞ絶対に関わるなって事だな?

 

 

『そうだ。俺としてもあの女とは関わりたくないからな……相棒もまた死にたくは無いだろう?』

 

「……ま、まぁな。でもなぁ……なんとかならねーもんか」

 

 

 ドライグと話しをしながら部屋の扉を開ける。いつもと変わらない……というかやっと慣れてきたと言っても良い光景が目に入るがどうやら先客がいたらしい。

 

 『働いたら負け』という文字が書かれたTシャツが歪むほどの巨乳に思わず飛び掛かりたくなる太ももを晒す短パン姿、右へ左へと揺れている尻尾を生やした人物――黒歌だ。

 

 

「赤龍帝ちんおかえりー、お邪魔してるにゃん」

 

 

 ベッドの上で寝そべりながらポチポチと携帯ゲームをしている黒歌を見るのは初めてじゃない。というよりも俺の家に居候するようになってから結構な頻度で見かけるほどだ……ふむ、今日も素晴らしいおっぱいで心が落ち着くな!

 

 ちなみに黒歌が着ている服は自前では無く黒井の騎士、つまり平家さんが渡したものらしい。何かしらの戦いがあって結果的に受け取る事になったとか黒歌が愚痴っぽい事を言ってた……その時は全身切傷とか戦闘が行われたっぽい痕があったけどな! 特に首とおっぱいが重点的に狙われてた! ま、まぁ……首は置いておいておっぱいに関しては平家さんは小猫ちゃん並みだから嫉妬するのも無理はない。ヤバイ殺される気がするから早く忘れよう!

 

 

「毎回毎回なんで居るんだ? 小猫ちゃんの部屋にいれば良いだろ?」

 

「だって白音の部屋じゃ赤龍帝ちんをゆーわくできないっしょ? かげりゅーおーを誘惑しようとしたらあの覚妖怪にボッコボコにされてターゲット変更せざるを得なくなったんだし。にゃん♪ 襲うなら今の内にゃん♪」

 

 

 くっ! Tシャツの裾を指で摘んで下乳を見せてきても俺は襲わないぞ! だってそんなことしたらリアスに殺されるしアーシアも悲しむからな! それに小猫ちゃんに見られたら殴られる気がする! だから襲わず脳内メモリーに記憶しておこう! それぐらいは許されるはずだ!

 

 

「ほらほら~この素敵おっぱいに顔を埋めたくない? 揉んでも良いし吸っても良いにゃん♪」

 

「……そ、そんな事を言われても俺は屈しないぞ!」

 

「鼻の下伸びてるしすぐにでも襲いたいって顔してるけど?」

 

「気のせいだ!」

 

 

 というよりも健全な男子高校生なら黒歌レベルの美女が目の前に居ておっぱい見せてきたら俺みたいになってもおかしくは無いはずだ! きっと黒井も同意するだろうしなんなら何か奢るからエロいポーズしてくれとか言うと思う! 皆が居る前でレイチェルの腋をなんたらとか言ったぐらいだからこれぐらいは当然するだろう……! 頭おかしくなかったら滅茶苦茶仲良く出来そうな気がするんだけどなぁ。

 

 

「と、というか誘惑するなら今は居ないが黒井にすれば良いだろ? 平家さんと何があったか知らないけど諦めるとかお前らしくないぞ?」

 

「あの覚妖怪変異種と二度と戦いたく無いにゃん! 分かる!? かげりゅーおーに近づこうと思ったら雌猫発見したから駆除するねとか刀持って切りかかってきてマジのマジで首落とそうとしてくるあの恐怖! 妖術仙術魔術総動員しても放つ前から対応された上に何個か真似されるあの屈辱感! やっぱり常日頃かげりゅーおーの精子飲みまくってる奴はなんかおかしいにゃ……普通の覚妖怪はあんなんじゃないし」

 

「……えっと、平家さんって他の覚妖怪と違うのか? 小猫ちゃんもあれはおかしいとか言ってたけどさ」

 

「違うに決まってんでしょ!! 普通の覚妖怪は人間……というか男の傍に居ようとしないし刀は持たないし戦闘能力自体も結構低いの。ただ心の声を聞いてそれを口にして嫌がらせするような種族だからもし他の覚妖怪に出会っても同じように見ない方が良いにゃん」

 

 

 かなり遠い目をしながら愚痴るように呟く黒歌だが俺としてはボソリと言った言葉が気になって仕方がない……常日頃精子飲みまくってるってなんだよ! い、いや……前々からその、羨ましい事してるしされてるんだろうなと思ってたけどそこまでなのか!? あいつ片霧さん(あの人)一筋じゃなかったのか!? 待て落ち着け兵藤一誠! なにも経験してるとかそういうわけじゃないはずだ……きっと口とかそんな感じだろうな! 羨ましいぜ全く影の国から帰ってこなくても良いぞ! あっ、犬月達は帰ってきてくれよ!

 

 黒歌が言うには黒井が持つ神滅具、影龍王の手袋の影響で血液やらなにやらにドラゴンの力が宿ってるがその中でも精子は特に強いらしい。そんなものを毎日摂取すれば何かしら変化してもおかしくないとか何とか……確かにリアスや朱乃さんも俺のドラゴンのオーラが影響で色々出来るようになったから否定はできないな。やっぱり黒井は影の国から戻ってこなくても良いんじゃないだろうか……? う、羨ましいぜ!

 

 

「まっ、諦めるとかこの黒歌様の辞書には無いけどね。あんな妖怪好みの空気纏ってる超超超優良物件をそう簡単に見逃さないにゃ。でも光龍妃が出てきたら即撤退するけどね」

 

「やっぱりお前でも片霧さん(あの人)は怖いのか」

 

「あったりまえでしょうがぁ! あのねぇ、言っちゃなんだけど曹操やアーサー以上の出鱈目生物よ!? 何がどうしてどうなってあんなのが生まれたのかわっかんないぐらいおっかないんだから! 私達の中で勝手に決めてる最強の人間リストの中にも含まれてるんだから」

 

「……なんだよそれ?」

 

「人間の中で誰が一番強いのかって話し合ってるものにゃん。ほら人間でも結構強い奴とかいるっしょ? それでヴァーリが戦いたいとか言うから美猴とかとそれじゃあ勝手に決めちゃおう的なノリで色々とちょーさしてるってわけよ。ちなみに光龍妃は現在トップ独走中にゃ」

 

 

 だろうな! 俺からしても片霧さん(あの人)は人間定義して良いか分からないし……というかD×D内最強の黒井と片霧さん(あの人)が本気を出したにも関わらず勝ったらしいスカアハってどんだけ強いんだよ!?

 

 この後はアーシアや小猫ちゃん達が部屋にやってきてあーだこーだと世間話をしながら夜に備えて準備を行う。黒井達のこともあるが俺達は俺達でやることがあるからな……イリナの父さんが今日の夜に日本に到着するから護衛も兼ねて迎えに行かないといけない。D×D学園襲撃事件の際に現れてイリナに対しかなり殺意を抱いていた八岐大蛇が襲撃してくる可能性があるからな……サイラオーグさんの家もそいつが原因で色々と大変みたいだしなによりイリナの父さんが襲われてイリナが悲しむことは絶対に阻止しないと!

 

 

「ロスヴァイセさん、ここで待ってれば良いんですよね?」

 

 

 時間は進んで夜中、結構遅い時間帯に俺、木場、ゼノヴィア、イリナ、ロスヴァイセさんは空港に訪れていた。普通ならこんな時間に高校生の俺達が空港を訪れたら怪しまれるけど今居る場所は三大勢力や各神話関係者が利用する特別区域だから問題無い。

 

 本当ならアザゼル先生も一緒に居るはずだったんだが現在シトリー領の病院に緊急入院しているから俺達グレモリー眷属だけだ……リアスはサイラオーグさんの家の事と黒井達の事で忙しくて、ヴァーリ達は面倒の一言で拒否、デュリオ達は何やら天界勢力内でいざこざが有ったのかそっちの処理で忙しいという滅茶苦茶大変な事になってる。もうすぐ冬休みでクリスマスも近いってのになんかなぁ……まぁ、仕方ないけどさ。

 

 

「えぇ。もう少しすれば到着するようですね……影龍王がアザゼル先生の胃を破壊してしまったために私達だけでの護衛ですが頑張りましょう」

 

 

 アザゼル先生の胃はもう限界寸前だったもんなぁ。黒井達がやる事全ての処理をしてたせいで最近は胃薬が無いと寝られないとかも言ってたし……というよりも忘れてたけど影の国に曹操が持ってた聖槍があるんだったな! その一言を隠すなとは言わないがもう少しだけ言うの待ってくれても良いと思うんだよ! 最後に見た黒井の笑みは絶対に狙ってたとしか思えないし!

 

 

「……流石に聖槍が奪われたともなれば驚くしかないさ。影龍王と光龍妃が負けたと同じくらい私も言葉を失ったぐらいだ」

 

「ははは……うん、曹操が影の国に居たと言う事だけでも驚きなのに聖槍が盗られたともなればね。早く回復できるように後でお見舞いでも行こうか」

 

 

 ゼノヴィアも木場もアザゼル先生の胃を心配しているらしい。いきなり血を吐いて倒れたしなぁ……後で何か持ってきますね!

 

 

「――おぉ、イリナ! パパがやってきたぞ!」

 

「パパ!」

 

 

 周りを警戒しながら待っていると牧師服を着た栗毛の男性が護衛と思われる人と共にやってきた。イリナがパパと呼んだと言う事はお父さんだろう……俺もなんか見覚えがあるし。

 

 

「はっはっは! 元気そうで何よりだマイエンジェル! そして……久しぶりだね兵藤一誠君。私の事は覚えているかな?」

 

「あーえっと……おぼろげですけど……でも昔遊んでもらったような事があるのは分かります」

 

「あの時はまだ幼かったし仕方ないさ。こちらの事情で護衛なんてしてもらって申し訳ないよ……積もる話もあるだろうがまずは移動しようか。いつ襲撃してくるか分からないからね」

 

「あ、はい! じゃあロスヴァイセさんの車で――」

 

 

 俺の言葉を遮るようにゼノヴィアと木場がデュランダル、聖魔剣を握りしめ護衛としてやってきた人物の一人に斬りかかった。騎士としての速度を最大限生かした速度で接近しての斬撃であわや大惨事! と思ったが現実は違った。

 

 帽子を深くかぶった人物は二人の斬撃を容易く躱し、距離を取った。体格的に男の人らしいがあまりにも鮮やか過ぎて切りかかった二人も驚いているようだ。

 

 

「お、おい木場! ゼノヴィア!」

 

「イッセー君……気を付けて。この人、昔の僕と同じ目をしている」

 

「あぁ。隠しているようだがほんの一瞬、殺気が漏れていた……それにだ、その体から影龍王と同じ感じがする……お前は邪龍だな?」

 

「は?」

 

「――はぁ、凄いな。これでもアジ・ダハーカの術を纏ってるんだけどね」

 

 

 やれやれといった様子を見せながら深くかぶっていた帽子を脱ぐ。露わになった顔は悪そうな事をしない印象を持っていたが突如として亀裂が入り、固まった土が砕けるように皮膚が落ちていく。そして現れたのはD×D学園襲撃事件で襲ってきた男――邪龍の八岐大蛇だ。

 

 

「千の魔術を操るアジ・ダハーカの術でも感覚で見破られるか……いや露見しないように抑えていたからか。後は僕自身が殺気を抑えきれなかっただけ……本来ならもう少し待つつもりだったんだけどね」

 

「……や、八重垣君……なのか?」

 

 

 イリナのお父さんが驚いているけどまさか知り合いなのか?

 

 

「えぇ、お久しぶりですね局長。貴方を殺すために地獄より蘇りました……現在の名は八岐大蛇です。正体がバレた以上、長居をする気はありません……この地を汚すような真似はしたくは無いですしね」

 

「逃がすと思っているのか?」

 

「逆だよ、見逃してあげると言っているんだ」

 

 

 目の前の男、いや八岐大蛇は全身から紫色の炎を放出し紙のようなものを破って剣を出現させた。やべぇ……あの時は匙が戦ったけど正面に立つとヤバさが全身を貫いてきやがる! 確か平家さんがあの炎を浴びたら黒井レベルじゃないと即死とか言ってたな……! どうする……どうする!

 

 

「あ、あの! 最初に会った時から聞きたかったんですけど……どうして私を殺そうとするんですか!? それにパパもなんで狙うの!」

 

「復讐だよ。僕とクレーリアを殺した局長たちに対するね。既に初代バアルは殺した……次は貴方の番だ。いやはや僕が死んでから色々と幸福そうで何よりです……擬態していた僕に娘が可愛い妻が可愛いと自慢していましたよね……何度、何度殺そうと思った事か……! 僕達を殺しておいて!!」

 

「……違うんだ八重垣君……! 違うんだよ……! ま、待て! 彼は! 先ほどまで居た彼は……!」

 

「殺しました。アジ・ダハーカの術の生贄になったので既に遺体もありませんけどね」

 

「八重垣君……そこまでして私を……分かった、キミの好きにするが良い。だが……娘だけは! 私の命だけでどうか許してほしい! この通りだ!!」

 

 

 土下座の体勢で謝罪をするイリナのお父さんに対し、怒りからか炎の放出を強める八岐大蛇。俺は既に鎧を纏っているしロスヴァイセ先生も戦闘時に来ているエロい鎧になってるし木場、ゼノヴィアは言うまでもない……が何かおかしい。なんと言うか……息苦しい、気がする……あと、目が霞んで……!

 

 体の不調を感じていたのは俺だけでは無く術式を展開しようとしていたロスヴァイセさんが突然膝をついた。首を抑えて何やら苦しそうだ……なんだ、なんで!? 俺が疑問に思ったのと同時に木場、ゼノヴィアの二人も剣を落とし息をする事すら苦しそうにもがき始める……俺はまだ、大丈夫みたいだが……なんなんだよ!?

 

 

 

「皆!? な、なん……ゴホッ! あ、あぁ、ぁ……くる、しいぃ……!!」

 

「イリナ!? 木場! ゼノヴィア! ロスヴァイセさん!! 何がどうなって……! おい! 何しやがった!!」

 

「……あぁ、すまない。怒りのあまり炎の濃度を上げてしまった。いや逆に好都合か……僕はこの地で血を流すような殺しをしたくは無いし離れるにはもってこいの状況だ。あぁ、今ならまだ治療すれば死にはしないよ」

 

「なん、だと……!」

 

「少しばかり戦闘に関して学ぶことがあってね、教えと言うものは馬鹿には出来ないらしい。僕が持つ紫炎祭主による磔台による炎(インシネレート・アンセム)には八岐大蛇の魂が埋め込まれている。それによって聖遺物でありながら魂すら汚染する猛毒を会得しているわけだ……分かるかな? 悪魔の身では耐えきる事すら困難な聖遺物の炎と猛毒がキミ達の前に広がっている。当然、目には見えないほど小さな炎も例外ではない」

 

『っ! そういう事か……! 相棒! 息を吸うな!! この男は怒りのあまり炎を広げているわけではない! 八岐大蛇が持つ猛毒を宿した極小の炎を散布し相棒達に吸わせるのが目的だ! 相棒はサマエルの毒を浴びた経験がありその体はグレートレッド、オーフィスにより作られユニアの宿主によって生命力を高められているからまだ問題無いが……他は違う! このままでは死ぬぞ!』

 

 

 嘘だろドライグ!? さっきから感じてた体の不調はアイツのせいかよ! クッソ! こんな戦い方……有りかよ!!

 

 

「正体がバレた以上、僕は帰らせてもらうよ。本来ならば隙を見せた瞬間に紫藤イリナを人質にするつもりだったが……上手くはいかないようだ。局長、先ほどの言葉ですが許すつもりはありませんよ。ただし……僕の言う通りにしてくれれば考えますがね」

 

「……なんだ……なにを、すればいい……!」

 

「自分の娘を殺してください」

 

「っ!!」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、俺の身体は八岐大蛇へと向かいだしていた。限界まで力を高めアスカロンに力を譲渡し殴りかかるが八岐大蛇が持つ剣によってそれが阻まれる。猛毒を宿す炎に近づいたせいで体中に尋常じゃないほど痛みが走るが関係ねぇ! 此処で倒さなかったらイリナが悲しむ!

 

 

「ふざけんじゃねぇぞテメェ! 何があったか知らねぇけどイリナを殺す!? そんな事はさせねぇぞ!!」

 

「何度も言っているだろう……僕は局長を、そして紫藤イリナを殺したいだけだ。自分の欲望を優先して何が悪い? しかし……ヴリトラといい赤龍帝といい怖いもの知らずか」

 

 

 剣によって拳を弾かれた俺は一瞬の間に全身を斬られていた……見えねぇ……! 剣技は木場達以上かよ……!

 

 

『相棒! 奴が持つ剣は恐らく聖剣だ! あの形状は……天叢雲剣か!』

 

「正解。正真正銘本物の聖剣で悪魔のキミ達には天敵だ。赤龍帝、怒りを露わにするのは良いが長居されて困るのはキミ達の方だろう? 仲間が死ぬよ」

 

 

 ハッと周りを見渡すと苦しみ続けている仲間達の姿があった……畜生……畜生!!

 

 悔しさのあまり涙を流していると八岐大蛇が放出している炎が突如として形状が変わりだした。それはドラゴンの首のようなもので凶悪な印象を抱かせるものだ。

 

 

『――ブザマ、トシカ、イえねぇなぁ』

 

『……その声は八岐大蛇か』

 

『だいせーかいだ! キィヒッヒヒヒッ! 喋るのなんざ久しぶりで忘れちまってたぜ。ドライグよぉ、無様だなぁ、ぶーざーまーだ! オレの肉体様に為す術もなく殺されるなんざ笑いが止まらねぇぜおいおい! おう雑魚共、良かったなぁ! オレの肉体様は殺さねぇってよ! キィヒッヒヒヒッ! ほらほら泣け泣け! オレを笑わせろ!』

 

「……話せたのか」

 

『ん~ん? あぁ、一時的にだがな。普段の行動はテメェに全任せしてやらぁ。まだ完全復活じゃねぇしな、それにオレはテメェの事が気に入ってる。適当に話しかけることもあるだろうが勝手にしろ』

 

「……感謝する」

 

 

 八岐大蛇は懐から取り出した紙のようなものを破る。すると足元に魔法陣のようなものが展開された……逃げる気か……!

 

 

「宣言通り、離れるとしよう。あぁ、そうだ局長……僕が殺されたあの場所で待っています。紫藤イリナを殺したらそこで会いましょう……証拠は首でお願いしますね。もし自分の娘を殺さずに現れたならば貴方のもう一人の大事な人が死ぬだけですので……そのつもりで」

 

「……ま、さか……妻を! 頼む妻に手を出さないでくれ!! 頼む……八重垣君……八重垣君……!」

 

「無理ですよ。だってこれが僕の復讐ですから」

 

『盛り上がってきやがった! オレは楽しみにしてっからな! また会おうぜぇ!』

 

 

 八岐大蛇は消え、この場にはイリナのお父さんの叫び声だけが響き渡った。




勘を取り戻すべく1話から見返してみた上、今回の話を書いて思いました。
この作品、グレモリー眷属絡みに厳し過ぎる(

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