ハイスクールD×D~地双龍と混血悪魔~   作:木の人

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大変……大変お待たせいたしました!


121話

「――ここなら問題無いだろう」

 

 

 八岐大蛇……いや八重垣さんと共に向かった先は広い空き地のような場所だった。辺りには長い間放置されていたのかボロボロになっている木刀のようなものから槍、まぁ……言ってしまえば武器のようなものが多数散らばっている。

 

 歩いている間は俺も匙も八重垣さんも無言……かなり空気が重かったように感じたけどこれから殺し合うと思うと何も感じなくなった。俺は勿論、匙に至っては鎧を纏って表情は見えないが覚悟完了だと宣言してるように堂々と歩いている。くっ……! いつの間にかドンドン実力をつけてるよな! 黒井と殺し合って禁手に至って、触れたら死ぬと分かってる八重垣さんの炎に自分から飛び込んで……そして今は命のやり取りをしようとしてる。

 

 シトリー眷属の女性陣も言ってたな……匙の顔つきが昔と違うって。多分、自分の夢――いや欲望って言えばいいのか? それがあるから真剣に、そしてドンドン強くなってるんだろう。歩いている姿を見るだけでグレモリー対シトリーのゲームで戦った時とは全く違うってのも理解できるぐらいだ! 俺も強くなってると思いたいが……きっと今戦えば俺は負けるかもしれない。なんというか……そんな気がする。

 

 

「『……ここは?』」

 

「僕がまだ教会の戦士だった頃に訓練で使用した場所さ。もっとも僕とクレーリアの一件があってからは使用されなくなったみたいだけどね」

 

「へぇ、そうなのか……って!? 此処って教会から近いだろ! イリナの母さんが居るのにこんな近くで戦ったら――」

 

「『――いや、心配なさそうだぜ兵藤! 居るんだろ! ラードゥン!!』」

 

 

 匙が空に向かって叫ぶと俺達が居た場所が何かで覆われた。この結界みたいなものは見覚えがある……! D×D学園で戦ってた時に襲ってきた邪龍が使ってた! 確か名前はラードゥン!!

 

 

「えぇ、よくお分かりですねヴリトラ。ルーマニアに居た頃よりも強くなっているようで何よりです」

 

 

 結界のような壁の奥から現れたのは長めの茶髪、見た感じ何も食べてないと思いたくなるほどのガリガリ体型のお、女の人……? が居た。あれ……ラードゥンって確か巨大な木のドラゴンだった気がするんだが本当にあの人がラードゥンなのか?

 

 

『間違いないぞ相棒。あれは単に人型になっているに過ぎん。力があるドラゴンならば人に近い姿になれるのを忘れたか?』

 

「その通りですよドライグ。この姿の方が何かと都合が良いんですよ。この姿でも私自身の力を発揮できますのでご安心を……しかしヴリトラ、気配を消していたはずですが何故私が居ると気が付いたのですか?」

 

「『こんな場所で戦うならお前が居ないとおかしいってので気づいた。外れてたら俺もまだまだって事にすればいいだけ……まっ、今回だけは感謝する。これで全力で戦っても問題無いからな!』」

 

「親しくもない私をそこまで信用するとは。えぇ、邪魔はしませんよ。これはドラゴン同士の戦い、それも八岐大蛇と貴方達による闘争! 結界に手を抜いたとあっては邪龍の名に傷がつきます。だから思う存分、殺し合ってください」

 

 

 出来れば殺し合いたくは無いんだが……でもラードゥンの結界って確か黒井の戦車の人ですら壊せなかったぐらい硬かった気がする。つまり俺と匙の力じゃどのみち破壊する事なんてまぁ、無理だ……下手するとあの壁を壊す前に俺の腕が折れる気がするし。

 

 俺と匙がラードゥンに意識を受けていると八重垣さんの体から炎が漏れ出す。それは辺りに広がる事も無くドラゴンの首のように変化した。

 

 

『キィヒッヒヒヒッ! おいおいラードゥン! 随分物分かりが良いなぁおい! そんな性格じゃねぇはずだろうがぁテメェはよぉ!』

 

「これでも現世を楽しんでいる身ですので。それに邪魔をすればグレンデルのように怒るでしょう?」

 

『当然よぉ! ひっさしぶりのドライグとヴリトラとの殺し合いだぜ? 譲れよ枯れ木野郎! オレの復活祝いとして受け取ってやるからさぁ!』

 

『……やはり話せるまでに回復しているのか。ヴリトラと言いお前と言い、しつこいにもほどがあるぞ』

 

『邪龍ですしぃ! キィヒッヒヒヒッ! しつこいのがいけないのかよドライグぅ! 余裕ぶっこいてるようだがテメェ、オレの肉体様にボコられてんの忘れたのか? 今のテメェは二天龍なんつう大層な異名持ちじゃねぇって事をいい加減理解しろやボケ!』

 

『生憎だが八岐大蛇。俺の相棒を甘く見ては死ぬぞ? 俺の相棒こそ世界で最高の赤龍帝になった男だからな! 良いか! 最初から全力でなければ今度こそ死ぬぞ!』

 

 

 分かってるさドライグ! 八重垣さんの体から炎が出てきたって事は前と同じように目に見えない小さな炎が周囲に舞ってるって事だ…時間が経てば経つほど俺達が不利になる! だからこそ――最初っから全力全開! 真紅の鎧で行くぜ!

 

 

「おう! 我、目覚めるは! 王の真理を天に掲げし赤龍帝なり! 無限の希望と不滅の夢を抱いて王道を往く! 我、紅き龍の帝王と成りて――汝を真紅に光り輝く天道へ導こう!!」

 

 

 俺の鎧がリアスの髪色と同じ真紅に変わる。それを見届けた八重垣さんは身震いするほどの殺気と共に得物である聖剣――天叢雲剣を強く握った。

 

 対する俺達も放たれた殺気に対抗するように気を引き締める。俺は即座に連続で倍加して力を高め、匙は自分の体から周囲全てに向かって黒炎を放つ。恐らく八重垣さんが放った目に見えないほど小さなの炎を自分の炎で消滅させようとしてるんだろう……が俺からすればどっちも怖いってもんだ! 相手は悪魔の天敵ともいえる聖遺物から放たれる炎で触れたら猛毒、匙のは触れたら激痛間違いなしの呪詛の炎! 味方である俺には無害になるようにしてると思われるがそれでも怖いものは怖い。

 

 

「なるほど。前と同じように炎で対抗しようとしてるのか――だが前の僕とは違うよ」

 

 

 聖剣を握った八重垣さんは体から放出される炎を器用に変化させながら俺達に向かってくる。最初は膨大な炎が放出されていたが今の八重垣さんからは小さな炎しか出されていない……でも向かってくる速度は下手をすると木場以上だ!

 

 俺を殺すべく間合いに入って八重垣さんは人間とは思えないほど速く聖剣を振るってきたがそれをどうにか魔力を放出して躱す……ちっ! やっぱり戦闘、それも殺し合いに慣れてる相手だから剣を振るのが上手い! 躱したと思っても体捌きと踏み込み、そして恐らくだが体から出る炎による推進力みたいなものを利用して先読みされた!

 

 

「っ……ただでやられるかっての!」

 

 

 籠手の先からアスカロンの刃を出して腕を振るも空振りに終わる。速い……! 聖剣の威力に神滅具の力を無駄なく利用してる! 完全なテクニックタイプ……俺みたいなパワータイプとは相性最悪だぞ!?

 

 

「無駄が多いぞ赤龍帝。力を高めるのも良いがそれは相手に行動を教えているようなものだ」

 

「……英雄派の曹操にも同じこと言われたぜ。でも悪いが俺って馬鹿だからさ! 考えるよりもこうして――殴る方が似合ってるんだよ!」

 

 

 背中より魔力を放出して八重垣さんに向かう。全てを見通していると錯覚するほどの視線が俺を射抜くが臆せず突撃していくと……いきなり地面から炎が噴き出した。悪魔に対して絶大な威力を誇る聖遺物の炎が俺の身体に纏わりつくが俺は止まる気は一切無い! 何故なら俺は一人じゃないからな!

 

 俺が炎を受ける直前、背中に匙が得意とするラインが一本くっ付いている。猛毒が付加されている炎を受け続けたらいくらグレートレッドとオーフィスの力で作られたこのハイスペックボディでさえ死に至るだろう……だが俺の身体を蝕む猛毒は匙によって外に排出されている。俺は知ってるからな……あれだけ真剣に、そしてぶっ倒れても続けた特訓をな!

 

 だからこそ――

 

 

「ううおおおぉぉぉぉっ!!!」

 

 

 雄たけびと共に炎の壁を突破。猛毒さえどうにか出来れば残るのは滅茶苦茶痛い炎だけ! そんなのは俺なら耐えられる! なんせサマエルの毒を味わってるんだ! それに比べたら聖遺物の炎程度! 問題ねぇ!

 

 

「まさか……! 突破してくるだと!」

 

「俺一人じゃねぇんだよ八岐大蛇ぃ!!!」

 

 

 溜めに溜めまくった魔力を拳前に集めてぶっ放す! 炎の壁と八重垣さんとの間には結構な距離があった……もし殴りかかっていったらさっきと同じように躱されると判断したからだ!

 

 極大の魔力砲が真っすぐ飛んでくるのを見た八重垣さんは背から複数のドラゴンの首を模した炎を盾代わりに放つ。俺が放った魔力の塊程度なら恐らく防がれる……がさっきも言った通り俺は一人じゃねぇ!

 

 

「『兵藤!!』」

 

 

 匙の言葉を聞いた俺は即座に背中にくっ付いているラインを握る。行くぜ匙! 俺の力を受け取れ!!

 

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!』

 

『Transfer!!!』

 

 

 一瞬で高められた力の全てを匙に譲渡する。なんでこんな事をしたかと言えば簡単だ――匙はもう八重垣さんを攻撃してるんだからな!

 

 

「――なっ!?」

 

「『兵藤にした事……そっくりそのままお返しだぜ!!』」

 

 

 俺の目の前で黒炎の柱が現れる。あれは匙が得意としている呪詛の炎……ラインを通すか自分の体からしか放たれないであろう炎がなんで匙から離れている八重垣さんの所に現れたのか――文字通りやり返しだ。

 

 恐らく俺をサポートしながら八重垣さんと同じように地面に向かってラインを伸ばしていたんだろう。そして辿り着いた瞬間に俺からの譲渡を望んだ……ってところか。へへっ! 打ち合わせ無しの一発勝負だったが正解してよかったぜ!

 

 黒炎の柱を見ながら地面に着地すると背中のラインが外れる。そして次の行動に入ろうとした俺だったが喉や体から痛みが走った。いくら匙に解毒を頼んでも聖遺物の炎だから悪魔の俺には効果抜群ってか……! でもイリナやイリナの父さんが受けた苦しみに比べたら全然耐えられる! こんなので痛がってたら俺は……八重垣さんと向かい合えない!!

 

 

「――な、め、るなぁぁっ!!!」

 

 

 全てを憎むほどの声と共に黒炎の柱は別の炎に飲み込まれた。その炎はある姿へと変化していく……8本の首を持つ一体のドラゴン、俺もゲームとかやるからイメージしやすいその形は紛れもない八岐大蛇そのものだ。炎で形作られた口が大きく開かれ、咆哮されると俺の身体に震えが走る。巨大な姿からのその咆哮は反則だろ……!

 

 

『キィヒッヒヒヒッ! おいおい肉体様ぁ? テメェ自分の体どうなってるか分かってますかぁ? 焦げてんぜ? それはもう尋常じゃねぇぐらいになぁ!』

 

「だ、からなんだ……! こんなもの……クレーリアが受けた苦しみに比べれば! 八岐大蛇……僕は自分の命なんか惜しくはない! ただ――この戦いに勝利するなら体が焦げようが構わない!!」

 

『――良いぜ。良いぜ良いぜ良いぜぇ!! 気に入った! これが宿主ってものかよ! ユニアのクソ女がなんで封印されてんのに大人しいか今分かった! 肉体様、いや八重垣正臣! このオレ! 八岐大蛇がお前を真の宿主と認めよう! テメェの怒りは俺の怒りだ! オレの楽しみはテメェの楽しみだ! だからよぉ……オレ以外の意識なんざいらねぇよな』

 

 

 8本の首全てが炎の中心に居る八重垣さんの向かって行き――その巨大な口で噛みついた。いきなりの事で俺も匙もその場に硬直してしまう……けどそれはチャンスを不意にしたのだとすぐに気づくことになった。

 

 炎の中で苦しんでいた八重垣さんに噛みついた首達はその体に吸い込まれるかのように消えていく。それは放出されていた炎も例外じゃなくまるで最初から無かったかのように消えた……何が起きた? 八岐大蛇はいったい何をしたんだ!?

 

 

「……これ、は……?」

 

『――あぁ~まっずい味だぜオイ! なぁ肉体様、気分はどうよ?』

 

「……何をしたんだ?」

 

『何をしたか……ねぇ。オレの入れ物でありテメェが持つ神滅具紫炎祭主による磔台(インシネレート・アンセム)つったか? そいつの中にあった()()をオレが喰っただけのこと。前々からウザかったしな、勝手に離れようとした挙句、オレの肉体様を焼き殺そうとしてやがった。だから逆にオレが喰ってこの神滅具を正真正銘オレの入れ物にしたわけよぉ! キィヒッヒヒヒッ! さっぱりさっぱり! 喜べ! オレ完全復活だ!』

 

「……何が何だか、僕は理解できないが……少なくとも先ほどまでよりは、体が軽いのは分かる」

 

『そりゃそうさ! 邪魔者は居ない! オレはお前を気に入った! 認めた! なら後は勝つだけだぜ! オレの肉体様は世界最強だとテメェの敵に知らしめよう! そのためにはこの入れ物の名も変えねぇとなぁ……なんにすっか? おい肉体様、テメェなんかいい案ねぇかよ?』

 

「……あまりその手の事は得意ではないが……そうだな、これはどうだ? 狂炎龍主の聖十字架(ウェネーヌム・カリドゥス・クルクス)と言うのはどうだろう?」

 

『安直すぎるが……まぁ、良いか。分かってんなオイ、敵はまだピンピンしてるがテメェはボロボロだ。勝ちたいなら、欲望を満たしたいなら! お前が今するべきことぐらい理解してんだろ?』

 

「――あぁ、僕の欲望(ねがい)は復讐だ! 此処で終わってたまるか! 負けるわけにはいかない!!」

 

 

 八重垣さんから途方もない力を感じ始める……拙い、この感じを俺は知っている! だってこれは――俺も体験した事だから!!

 

 

「クレーリア! たとえキミが僕を許さなくても……僕は君の仇を討つ! その為ならたとえ神であろうと! 魔王であろうと! その全てを燃やし尽くそう!!」

 

『オレの楽しみを邪魔するなら殺す! オレはオレの意思でこの男に力を貸そう!』

 

「『禁手化(バランス・ブレイク)!!』」

 

 

 溢れ出る炎を纏った八重垣さんの姿が胸に十字架が逆さまになった模様がある全身鎧へと変わる。背中からは8本のドラゴンの首は各々の意思を持つかのように動き続け、その眼は俺達を見ている。

 

 

憎悪の(マーレボルジェ・)狂炎龍主(ヴェノム・ブラッド・アクセプト)。赤龍帝、ヴリトラ。先ほどまでのようにはいかないよ――僕は僕の意思で、僕のやり方で復讐を叶えよう。この身は既に限界だとしても邪魔をするならその身、その魂を燃やし尽くす」

 

「『……悪いけどさ、はいそうですかって言えるか! むしろ勝負はここからだろ! 兵藤! まさかビビってねぇよな!?』」

 

「……へっ! まさか! むしろリアス達の嫉妬の方が怖いね! 匙……行くぜ!」

 

「『おう!』」

 

「……あぁ、来るが良い! 僕の全身全霊を持ってキミ達を殺す!」

 

 

 決意を新たに即座に倍加! 力を高めていると八重垣さんが動き出す。背中から放出されている8本の首を炎だけに変化させ器用に宙を舞う。その動きは先ほどまでとは別次元と言っても過言では無く炎を羽のように展開し、弾丸に変化させた炎を飛ばしてくる。上空から降り注ぐ聖遺物の炎は匙が自身の炎で応対するのを分かっていたので俺は八重垣さん本体へと突撃した。

 

 

「『兵藤! 構わず突っ込め!』」

 

「分かってる!」

 

「悪いけど――先ほどまでの僕とは違う!」

 

 

 ドラゴンオーラ全開で突っ込むと突然目の前が眩しくなり目を瞑ってしまう。その一瞬を狙ったのか炎の推進力を利用した斬撃を受けてしまった……離れていたのに目くらましからの一撃! 戦い方が一気に変わった!?

 

 匙の体から伸びる無数のラインも8本のドラゴンの首による火炎で燃やし尽くされる。だけど匙も負けずにこの結界内に入っている地面全てに炎を流し、ラインを生み出した。いくら俺の譲渡があったとしてもこれほどまでの力は匙自身に負担がかかり過ぎているはずだ……でも気にしていないのはそれほどの覚悟で八重垣さんと戦っているからだ。地面より生えるラインより黒炎が放たれるもその全てを防ぎ、手に持つ聖剣で両断していく。だとしても匙は諦めない……自身の解毒すら無視してるのか喉が裂けるほどの声を上げながらも八重垣さんを攻撃していく。

 

 

「数が減らない……!」

 

「『逃がすかよ……! 逃がすわけねぇだろ……! アンタが限界だって言うなら俺も限界まで! その先まで使ってアンタを倒す!! 前に言ったよな……? 俺はしつこいんだよ! いくら切ろうが防ごうが! 俺とヴリトラは諦めねぇ!!』」

 

「――あぁ! 知っているとも!! キミは、そういう男だとね!!」

 

「『知っててくれてありがとよ!! 俺はクレーリアさんの事はしらねぇ! でもここで止めなきゃ俺は……俺の欲望(ゆめ)は叶わねぇんだ!! 友達一人救えない先生になんか――なりたくねぇぇっ!!』」

 

 

 黒炎を放ちながら叫ぶ匙は自身のラインを巻きつけ空へと向かう。その数は尋常では無く傍から見ればそれは蛇の下半身にも見える……俺が居る場所以外は全て匙の領域、黒炎の中で俺はあるサインを見た。

 

 

 ――任せろ、兵藤。

 

 

 言葉は聞こえずとも魂で理解した。だからこそ俺は心の中で号泣しながら覚悟を決める。俺の全力を持って八重垣さんを倒す! だからドライグ……ちょっとは覚悟してもらうぜ!

 

 

『――気にするな相棒! 思うがままに戦え!』

 

 

 サンキュー! なら思いっきり行くぜ!

 

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBB!!!!!!』

 

 

 全身の宝玉から今までに聞いた事のない「B」の音声は親友の思いに応える為には発せられたのだと理解した。その聞いた事のない音声に警戒したのか八重垣さんも匙の攻撃を捌きながら俺達を見下ろす高度まで飛ぶ――がそれは俺の親友が許さない。

 

 

「『逃がすか……逃がすか……! ニガスカァァァァァッ!!!』」

 

 

 ラードゥンが張った結界すら既に匙の領域と化しており八重垣さんが逃げれるスペースは次々と消えていく。無数の触手と黒炎に支配されたのを見て八重垣さんは迷わず匙へと標的を変える。近づけば捕らえられると分かっているからこそ自身の炎による攻撃……だが匙はそれすら構わず八重垣さんを追い続ける。聖遺物の炎で体が燃えようが関係無いとばかりに八重垣さんだけを見続ける。

 

 

「――しまっ!?」

 

 

 匙に意識を向けたのが悪かったのか死角から迫る触手に反応できず……ついに匙は八重垣さんを捕えることに成功した。引きはがそうにも力を吸われ、次から次へと纏わりつく触手の数に抵抗できず迫りくる匙の止める事は出来なかった。

 

 

「『やえ、ガキィィッ!!』」

 

 

 執念の鬼、いや邪龍と化した匙は黒炎を纏った拳で八重垣さんを殴る。何度も、何度も、何度も。自分の考えを伝えるように叩き込む。

 

 力を高めている俺はそれを見続けているが……既に周りは地獄そのものだ。熱さのせいで体の水分がもう無くなりそうで何時倒れてもおかしくは無いだろう。でも俺は倒れない……倒れたらダメだ! チャンスは一瞬……それに全てを込める!

 

 

「ぼく、を捕えたつもりかヴリトラ!! 僕はまだ終わらない!!!」

 

 

 全身より炎をを放出し纏わりつく触手を燃やし尽くす。その熱量故に攻撃の手が止まった匙に対し手に持つ聖剣で一閃……悪魔の身には即死レベルの一撃だろうと匙は止まらない。地面へと落ちる中で最後の力を振り絞り――八重垣さんを再び拘束した。

 

 

 ――決めろ、親友。

 

 

 あぁ、決めるぜ親友。

 

 

「受け取れ……俺達の思いをなぁっ!!」

 

 

 背中の翼に格納しているキャノンと鎧の胸部と腹部が変形した一つの砲台を上空に居る八重垣さんに向ける。防げるもんなら――防いでみやがれぇ!!

 

 

「セキリュウテェェェッ!!!!」

 

「トリニティ……クリムゾンブラスタアアァァァァァァァッ!!!!!!!!」

 

『Trinity Crimson Blaster!!!!』

 

 

 八重垣さんが身に纏わりつく触手を燃やし尽くし、全ての炎を1本のドラゴンの首へと変化させる。そこから放たれるのは八重垣さんが持つ力の全て、最強と思われるドラゴンのブレスだろう。それが俺に向かって放たれるけど俺も今持ちうる最強の一撃で迎え撃つ。

 

 

「――」

 

 

 真紅の極砲が目の前全てを飲み込み、ラードゥンが張った障壁すら突き抜けて空へと消えていく。

 

 そこからは無音が続き、その数秒後に何かが地面に落ちる音が響く。それは鎧姿では無く生身の状態の八重垣さん。一瞬防がれたと思ったけど右腕と右足が吹き飛んでいるのが見えた……躱されたのか……! 今の一撃を……!

 

 

『――安心しろや。負けだ。もう戦う力すら残ってねぇ』

 

「……八岐大蛇」

 

『本当なら全て受けなきゃいけねぇ一撃だ。でもな……オレの楽しみなんだ。わりぃなドライグ』

 

『気にせんさ。お前がしたいのならばそうすればいい。それが邪龍だろう』

 

『……あぁ。今の一撃を持ってオレ達の負けだ、テメェらの軍門に下ると誓おう。それで良いな――おい!』

 

 

 既に瀕死に近い状態の八重垣さんを庇う様に1本の首がある方向を向く。俺も倒れそうな体で無理やり同じ方向に向けると先ほどまで居なかった人物がそこに居た。

 

 灰色の髪をしたその人を俺は知っている……だってあまりにも有名だったからだ。リアスからも教えられていて顔ぐらいは知っていた。

 

 

「勿論だ。これ以上、彼を苦しめたりはしない」

 

「……ディハウザー・ベリアル……?」

 

「いかにも。どうやら何故私が此処に居るか分からないという様子だね」

 

「え、えぇ……まぁ、はい」

 

「なら答えよう。八重垣君と私は契約関係にある。冥界を騒がせているバアル家初代当主殺害、あれは私も手を貸していると言えば……何を意味するか分かるかな?」

 

「は?」

 

 

 思わず素で返した俺だったがこればっかりは文句言われたくはない。だっていきなり現れたレーティングゲームの王者がサイラオーグさんの所の事件に関わってると言ってきたんだぜ? 驚くなって言う方が無理だ。

 

 

「警戒しなくても良い。私の仕込みは既に済んでいる。そもそも影龍王の眷属である覚妖怪が居る以上、隠していても仕方が無いからね。此処に現れたのは――彼を、八重垣君を殺さないで欲しいという事を言いに来ただけだ」

 

「……そのため、だけに、ですか?」

 

「あぁ、その為だけだ。たとえベリアルの名に傷が付こうともクレーリアが愛した男をまた死なせるわけにはいかない。既にアザゼル氏にもこの件は伝えているからもうじき救出班がやってくる。私は抵抗せず捕まる事を約束しよう」

 

 

 その一言を持って俺と匙が命を懸けた戦いは驚きの最後で終わった。




・狂炎龍主の聖十字架《ウェネーヌム・カリドゥス・クルクス》
八岐大蛇が自らの意思を持って炎祭主による磔台に宿る「意識」を喰らいつくした事により変異した神滅具。
独立具現型であったがこの一件により封印型になったとも言える。
能力は「聖遺物の炎を生み出す」「生み出される炎に魂を汚染する猛毒を付加する」

・憎悪の狂炎龍主《マーレボルジェ・ヴェノム・ブラッド・アクセプ》
狂炎龍主の聖十字架の亜種禁手とされているがそもそも色々な事情により変異した神滅具の禁手のため亜種かどうかも不明。
形状は逆十字の模様がある全身鎧、背中から炎で作られた8本のドラゴンの首が出ている。
首自体はそれぞれ独立しているので使用者以外、つまり八岐大蛇によって自由に動かせる。



恐らく次の一誠sideでこの章は終わりかと思われます。

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