ハイスクールD×D~地双龍と混血悪魔~   作:木の人

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122話

 匙と共に八重垣さんと命を懸けた戦いから数日が経ち、俺は未だにシトリー領にある病院から出られずにいた。悪魔に対して絶大な威力を持つ聖遺物の炎に加えて八岐大蛇が持つ猛毒を浴びた俺と匙は八重垣さん、そしてディハウザー・ベリアルさんを捕えるためにやってきた人達によってこの場所に運ばれた。俺はと言うと匙による解毒とこの身体のお陰か比較的軽症であと何回か検査したら退院出来る……けど匙は別だ。

 

 全身火傷に加えて聖剣での一撃も有り今もベッドの上から動けないでいる。もっともただ動けないだけで意識ははっきりしているしきっと今もシトリー眷属女性陣から熱烈な看病を受けている事だろう。此処に運ばれた時は見て分かる通り、かなりの重傷で医者からも生きられるかどうかは彼次第です……なんて言われたにも関わらず恋人(仮)さんに名前を呼ばれた際に――

 

 

 ――ソーナとエッチするまで死んでたまるかぁっ!

 

 

 という魂の咆哮とも言える声をあげて意識が目覚めたからな! 最初は匙……! とかなり心配してたのにその言葉のせいで一気に気が抜けて泣きながら爆笑したのも言うまでもない! 今は八岐大蛇の毒と聖遺物の炎による火傷を少しずつ治している最中だが期間的に終業式には間に合わないようだ。イリナもかなり申し訳なさそうにしてたけど匙は「俺の我儘で動いた結果だから気にするな」と笑顔で言い放ってた……クッソ、カッコいいぜ!

 

 

『相棒、今日も行くのか?』

 

「あぁ。もう意識が戻ったらしいしな。少しでも話がしたいんだよ……」

 

 

 入院中の俺が今向かっている先は八重垣さんが居る病室だ。俺と匙によって八重垣さんも重症を負い、ディハウザーさんの願いもあって現在治療中というわけだ。昨日までも何度か足を運んだけど戦闘の疲れとダメージのせいか意識は無かったけど今日やっと目が覚めたらしいのでやっと話が出来る。

 

 

『そうか。相棒が決めたんなら好きにするが良いさ、少なくとも奴にとっては必要な事だろう』

 

 

 ドライグも反対する事は無いので八重垣さんの病室まで止まることなく進み続ける。そして特に何事も無く目的地にたどり着いたので目の前の扉をノックすると返事があった。その声は間違いなく八重垣さんの物だと分かったので中に入ると……復讐する事だけを目的としていた八重垣さんでは無く恐らく、いやきっとクレーリアさんと一緒に居た時であろう八重垣さんがベッドの上に居た。

 

 

「……赤龍帝」

 

「えっと……失礼します」

 

「……あぁ、どうぞ」

 

 

 声も穏やかで命のやり取りをしていたとは思えない空気が流れるけど俺は気にせずベッドの隣にある椅子に座った。

 

 

「僕が意識を失っている間も来ていたと聞いた……物好きだね。キミの大切な人を殺そうとしていた相手に何故そんな事が出来る?」

 

「……確かにイリナを泣かせて、イリナのお父さん達を殺そうとしたのは許せません。でも……だからと言ってちゃんと話もしないで終わりたくなかったんです。それに何もしないでいると親友にぶん殴られます!」

 

「ヴリトラか……確かに彼なら迷わず殴るだろうね。おかしな男だ……全く関係のない男の前に立ちふさがって、自分の言いたい事を言って……お陰で色々と思い出す事になった。赤龍帝、敗者の言葉ではないが少し聞いてもらっても良いかい?」

 

「――はい! いくらでも話してください! 何だったら俺の事や匙の事も聞いてくれていいです!」

 

 

 俺の言葉に最初はきょとんとしていた八重垣さんは静かに笑みを浮かべる。きっと復讐に囚われる前はこんな風に落ち着いた人だったんだろう……でもクレーリアさんを失って、自分も殺されて、生き返った後で愛した人が殺された原因が悪魔が隠していた事実を知ってしまったからと知って……色んな事があったからこそ止まれなかったんだ。止まってしまったら……愛した人を見捨てた事になるから……!

 

 

「……僕がクレーリアと出会ったのはほんの偶然だった。悪魔と気づいていたけど何か困っている彼女を見た時……つい、手を貸してしまった。教会の戦士としては失格と言っても良い行為だったけど少なくとも僕は後悔は無かった。彼女も教会の人間だと気づいてたはずなのに笑顔でお礼を言ってきてね……悪魔から礼を言われるとは思わなかったけど不思議と嫌では無かった。そこからだ……街ですれ違った時に話をして、連絡先も交換して、周りにバレないようにいろんな場所へと向かって……気づいた時には彼女が、クレーリアを愛していた……どうしようもないぐらいにね」

 

「……俺も、リアスの兵士になった時はハーレムを築ける! って風にしか考えて無くてなんで俺がとかは二の次でした。でもいつからかリアスの顔を見ていると力になりたいとかって思う様になって……多分、その時にはもう好きになってたんだと思います」

 

「あぁ。僕もそうだ……誰かを好きになるなんて誰にでもできる。それこそ悪魔であろうと教会の戦士であろうとね……でもキミには力があって僕には力が無かった。悪魔の中でも貴族と呼ばれる立場に居る人を愛した事は同じでもそこだけが違った……! 神滅具という大きな力が僕には無かった……! それ以外はキミも僕も、そしてヴリトラも同じだった」

 

 

 うん。八重垣さんの言う通り俺はリアス、匙はソーナさん、八重垣さんはクレーリアさんと身分が上の人を愛している。似た者同士ってわけじゃないけど……時期さえ合えばこうして似たような話題で話せる友達になれたに違いない。

 

 でもそれが出来なかった。八重垣さんとクレーリアさんは悪魔と教会の身勝手な理由で殺され、俺と匙は少なくとも否定されず祝福された。その差が神器や神滅具だとしても俺達は祝福されてしまった……! 否定された人が居たのにも気づかずのほほんと今日まで生きてたんだ!!

 

 

「赤龍帝、キミにも文句を言ったのを覚えているかい?」

 

「……はい。勿論です」

 

「そんな事を言ったせいか……先ほどまである夢を見ていたんだ。彼女と隠れて会っていた場所に僕が居て目の前にはクレーリアが居た……きっと僕は死んだんだと思ったけど実際は違ってね――彼女におもいっきり殴られた」

 

「ゆ、夢の中ですよね……?」

 

「そうだと思う。でもあまりにリアルな痛みで思わず固まってしまったよ……そして僕を殴ったクレーリアがなんて言ったと思う? 神器が目当てで貴方と結ばれたかったわけじゃない……そんな事を言う口はここかって頬も引っ張られて……ロマンチックな夢からほど遠くて、逆に説教に満ちた夢だったよ」

 

 

 呆れたように話す八重垣さんだったけどどこか幸せそうだった。多分だけど復讐に囚われていた自分をちゃんと叱ってくれた事が嬉しかったんだろう……たとえそれが夢だったとしても今の八重垣さんには絶対に必要な事だったに違いない。

 

 

「そんな中でクレーリアが言ったんだ……折角生き返ったんだからこれからは生きなさいってね。死ぬなんて許さないとも……赤龍帝、僕は……これからどうすれば良い? 復讐は止められた……死ぬ事すらクレーリアが許してくれない……! 僕は、何をして生きれば良いんだ……!」

 

「――分かりません。でも、俺が言うとあれかもしれないですけど……クレーリアさんが生きていて欲しいと願っていたと思います。だから……何をすれば良いかなんて今から考えれば良いと、俺は思います!」

 

「……バアルを殺した僕が生きられるわけもない。この傷が治れば恐らく悪魔は僕を殺すだろう……それほどの事をしたんだから当然だ」

 

「……その事なんですけど多分大丈夫です。八重垣さんが寝ていた間に冥界でも色々とあったんですよ」

 

 

 ここからは俺が八重垣さんに説明する番だ。

 

 まずディハウザー・ベリアルさんが何をしたかと言うと王の駒及び王の駒使用者、現レーティングゲーム運営の闇、過去の教会側との取引などなど隠されていたであろう出来事や情報を全て公開したんだ。勿論、普通に公開するだけだったらもみ消されたりすると思うけどディハウザーさんは冥界で人気の動画配信サイト「デビチューブ」という物に顔だしで動画投稿、それと同時に各神話にも同じように動画を送り付けたようだ。冥界のTV局とかだと圧力がかかってダメみたいだが動画配信サイトならば一度上がってしまえば後はもう人間界と同じだ……止めようにも次から次へと色んな所に飛び火する! しかも内容が内容なだけにそれは尋常じゃない速度だったようだ。

 

 そしてトドメに現魔王のアジュカ様もノリノリで動画投稿して王の駒関連の情報暴露により今でも冥界上層部……特にゲーム運営はヤバい事になってるそうだ。

 

 

「……と言う事がありまして。ディハウザーさんも動画の中で八重垣さんは被害者でバアル家初代当主って人を殺したのは自分だとも言ってました」

 

「……あの人は僕に隠れて何をしているんだ。そんなものを信じるほど悪魔は甘くは無いはずだ!」

 

「えーとそれなんですけど……ぶっちゃけます。黒井と光龍妃(あの人)、そして邪龍達が滅茶苦茶満面の笑みを浮かべて便乗してまして……!」

 

「――は?」

 

 

 それは影の国という滅茶苦茶ヤバい所に連れ去られていた黒井達が戻ってきた時の話になる。

 

 二日ほど前にキマリス眷属全員五体満足で死者無しという状態で帰って来たんだがその時にはもう王の駒関連の情報が全神話に広がってたわけで……その事を平家さん経由で知った黒井がこんな事を言った。

 

 

『え? 俺が夜空のお手手でオナニーして夜空の女神級に素敵な腋に液体ぶっかけるという素敵イベントしてる間に何面白い事やってんだよ? はぁ!? ちょっと待て……普通に炎上案件だろこれ。マジか! 炎上も炎上! 大炎上じゃねぇか! クッソ乗り遅れたぁぁっ!! あれちょっと待て……うーんそう言えば最上級悪魔という肩書だったよな俺って……よっしゃ! 偶には最上級悪魔らしく動くとすっか! グラム、ちょっと剣なれ!』

 

『王様、一応聞きますけど何するつもりっすか?』

 

『は? 見れば分かんだろ。ゲーム運営に影龍破ぶっ放すんだよ。ネットで大炎上してるのにリアルで炎上しないとかおかしいじゃん? だったら最上級悪魔らしくね! TV局にも映像という意味で貢献しなきゃダメだろ』

 

『最上級悪魔ってそんなんでしたっけ?』

 

『そんなもんだぞ。おーいよっぞっら~! 今冥界で素敵イベントしてんだけどちょっとデートしませんか! デートしてくださいお願いします!!』

 

『は? ヤダけど』

 

『……あのな夜空ちゃん。俺達影の国でエロイことした仲まで進んだだろ? 普通のデートぐらいしても良いと思うんだよなー! あ、亜種禁手絡みでは大変お世話になりました!』

 

『は? 未だに童貞の分際で何言ってんの? ぶっちゃけさ~アレで禁手変化するとかマジ爆笑もんなんだけど! まーでもいっかー! ちなみにどこ行くん?』

 

『レーティングゲーム運営が居る場所だな。ちょっとリアル炎上させようぜ! 大丈夫だ夜空! 今なら誤射って事で魔王辺りも許してくれる!』

 

『マジで! やっべー魔王って良い奴じゃん!』

 

 

 うん。改めて思い返してみるとひっどいなこれ。特に黒井のセリフ辺りが本当に酷い……! 俺と匙が真面目に! そして凄く真剣に八重垣さんと向かい合ってたのにお前何してたんだよ!? と言うかなんで亜種禁手が変化してんだよ!? 犬月から聞いた時は思わず二度見しちゃったじゃねぇか!! ついでにそんな事を聞かされたアザゼル先生の胃をこれ以上壊さないでくれよぉ!! 一瞬で白髪化した挙句、血吐いたんだからな!!

 

 そんな事で騒いでいるとどこからともなく人間体になったグレンデルとラードゥンが俺達の前に現れて襲撃か? 良いぜ良いぜやろうぜ! とノリノリで外に出て――宣言通り、レーティングゲーム運営及びそれ関係があった場所が更地になりました! 一応苦情対策で偶然邪龍達の殺し合いをしていた場所がそこだったという感じにしたっぽいけど周りからすれば明らかにわざとだと分かるほどだった。うん、やっぱり黒井って頭おかしいよな?

 

 

「……そんな事があったので八重垣さんにもし何かあれば……また黒井達が何かしでかす可能性もあるんで……サーゼクス様達も事情が事情なのでとりあえず捕虜という扱いで命までは取らないと言うのも決めたみたいです」

 

『あとオレの一声のお陰だぜ肉体様よぉ!』

 

「八岐大蛇……?」

 

『オレの肉体様になんかしやがったら完全復活してテメェら全員殺すって言ったんだよぉ! キィヒッヒヒヒッ! アジ・ダハーカもアポプスもグレンデルもラードゥンもそん時は呼べって言ったからなぁ!』

 

 

 ちなみに黒井と片霧さん(あの人)は殺し合いと言うなら参戦せざるを得ない、開催日何時? と平常運転だった。ニーズヘッグはどうやら興味無いらしいけどさ……犬月、お前良く一緒に居られるな。俺ならまず真っ先に胃に穴が開くと思う。今度なんか奢るとしよう!

 

 

「……は、はははははは! なんだそれは……なんなんだそれは……!! 僕とクレーリアを殺した悪魔達が……僕より年下の、しかも同じ悪魔に振り回されるなんて……! はは、はははははは!!!」

 

 

 あまりにも馬鹿げた内容のためか八重垣さんは笑い出した。それもまるで子供のように笑い続ける……暗い空気が一気に変わったけど改めて見て黒井……やっぱアイツおかしい! 絶対におかしい!!

 

 

「こんなに……笑ったのは久しぶりだ……! 赤龍帝、面白い話をありがとう。笑い過ぎて傷が開きそうだ」

 

「ちょ!? それって駄目じゃないですか! えっとい、医者呼びますか!?」

 

「必要無いよ。あぁ、必要ないさ。ただ笑い過ぎて少し疲れた……僕から話してなんだけどもう休んでも良いかな?」

 

「はい! 全然構いません! それじゃあ俺はこれで!」

 

 

 勢いよく立ち上がり扉の前まで移動する。そして取っ手を握り外へ出ようとして――再度八重垣さんの方を向く。

 

 

「……八重垣さん」

 

「なんだい?」

 

「もし、もしですよ? また辛い事があったら……その時は言ってください。どんな事でも俺と匙が力になります! だから……一人で抱え込まないでください」

 

「……はは。あぁ、その時はお願いしようかな」

 

「はい! じゃあ、今度こそこれで失礼します!」

 

 

 八重垣さんの病室から出て自分の病室へと向かっているとお菓子の類を持った犬月とすれ違った。どうやら匙のお見舞いに来たらしいので俺も一緒に付いていくことにした。

 

 

「そう言えば犬月、黒井って今何してるんだ? あんな事したから結構騒がれてただろ?」

 

「あー王様ならいつも通りっすよ? 文句云々は昔から変わらねぇとか実害あるなら殺せばいいとか……うんいつも通り。確か今日はあーなんだっけ……煽られたのに仕返ししないのは悪魔的にも邪龍的にもダメだからちょっとバロールにマイクロビキニ着せてくるとか言ってた」

 

「おいちょっと待て! うちの後輩に何しようとしてんだアイツ!? というかギャスパーは男だぞ?」

 

「美少女に見えるなら男でも構わんという領域に至ってるしなぁうちの王様。現にウアタハっちにも普通に抱けるとか言ったし……そのせいで女性陣の目が、目が……! クライコワイミエナイナニモキコエナイガガガガガガガガガ!」

 

「落ちつけ犬月! マジで落ち着け!!」

 

 

 体が震え始めた犬月を落ち着かせるけどこれは仕方ないと思う。だって話しを聞いてるだけでも黒井が色々と爆弾的なものを積極的に爆破してるようにしか見えないしな! 影の国で片霧さん(あの人)とそのなんと言うか……ちょっと先に進んだらしいから余計に色んな所に影響が出てるっぽい。

 

 頑張れ犬月! 何かあったら泊りに来て良いぞ!!

 

 

「と、とりあえずさ! もう少しで終業式にクリスマスだ! しほりんもイベントでクリスマスライブするんだろ? だったら匙と一緒に行こうぜ! 偶には男だけで騒ぐってのも悪くないしな!」

 

「――あ、ごめんいっちぃ。それ、無理」

 

「え? なんでだ?」

 

「いやだって――」

 

 

 犬月が何やら言い辛そうに俺の方を向いて。

 

 

 「――王様、クリスマスの日に光龍妃と決着付けるみたいなんだ」

 

 

 とびきり巨大な爆弾を放り込んできた。

 

 

 

 

 

 

「……一人で抱え込まないでください、か。本当に……お人好しだ」

 

 

 出会って間もない上、殺し合った相手に対してのその言葉は正気を疑うものだ。でもどこか悪くないという思う自分が居る事に心底驚いている。

 

 

『まさにその通りだぁ! 馬鹿じゃねぇかアイツ! だが――悪くねぇ。少なくともオレはそう思うぜ肉体様』

 

 

 背中から生えている1本の首が話しかけてくる。僕が持つ神滅具に封じ込まれた……いや違う。魂を入れられた八岐大蛇だ。

 

 

「……そう、だな。僕からすれば眩し過ぎる」

 

『抱えてたもん全部なくなったもんなぁテメェ! キィヒッヒヒヒッ! んで? 怪我治ったら何するよ?』

 

「僕から離れる気は無いのか?」

 

『ばーか! ばーかーもーのーめー! オレが気に入った、力を貸しても良いと思った、なら後は一緒に好き勝手にするだけだ。少なくともテメェが死ぬまでは離れる気はねぇ!』

 

「……そうか」

 

 

 討伐された邪龍、日本において知名度の高い八岐大蛇ともあろうドラゴンが僕のような人間を気に入るとはね。何が切っ掛けかなんては分からない……でも僕も悪くは無いと思えている。

 

 

「なら、そうだな……駒王町を見て回りたいんだが付いてきてくれるか?」

 

『良いぜぇ! 美味いもん食って! 面白いもん見て! 精一杯生きようじゃねぇの! あーオレあれ食いてぇ! 寿司!! アポプスの奴が食ってたのを見て滅茶苦茶食いてぇんだ!』

 

「そうか。なら、寿司屋にでも行こうか」

 

 

 もっとも金が無いから行くのは結構先になりそうだけども。

 

 そんな事を思っていると扉がノックされた。今日は来訪者が多い……がいったい誰だと思いながらも返事をする。そして入って来たのは――

 

 

「――局長」

 

 

 僕が殺したかった相手、その人物が入って来た。牧師の服装では無く比較的ラフな私服だ。

 

 

「はは、や、やぁ……八重垣君。今、良いかな……?」

 

「……えぇ、構いませんよ。先ほどまで赤龍帝が来ていたので少し疲れてはいますが話す程度なら問題ありません」

 

「お、おぉ! 彼が! そうか……そうか」

 

 

 なにやら嬉しそうにしながらも先ほどの赤龍帝と同じく椅子に座り始める。こうして顔を合わせて話をするのはいつ以来だろう……クレーリアの一件で僕と局長は話すということすらあまり出来なかったから約十年ぶり……かな?

 

 

「今日は、どんな用件ですか? 教会の人間、しかも貴方のほどの立場の人間が冥界までやってくるとは随分暇なんですね」

 

「……いやー手厳しいね八重垣君。その件だが安心したまえ――今の私は無職だ」

 

「――は?」

 

「今回の一件、そしてキミを守れなかった責任を取って教会を辞めてきた。此処に居るのはこれから職を探す事になる中年おじさんというわけだ」

 

「ば、馬鹿ですか貴方は!! 責任!? そんなの……それは!」

 

「私の責任だ。キミの件が有ったに関わらず自分の娘にそれを伝えずにいた馬鹿な親として……そして娘が愛している男とその友人にキミの事を任せてしまった。しかし……久しぶりに見たよ。八重垣君が驚くところ」

 

「なっ、ぁ、ぐぅ……! 本当に貴方は変わらない! 本当に……!」

 

 

 昔も今のように突然驚くような事をしては周りを明るくしようとしていた。そんな貴方だから……僕はついて行こうと思えた。後悔もした……クレーリアを愛してしまった事で巻き込んでしまったと。悪いのは全て僕だというのに貴方に責任を押し付けたにも拘らず何故そんな風に笑えるのですか?

 

 

「そんな事を……そんな事を言うためだけにやってきたのですか?」

 

「そうだね。ちゃんと言わないといけないと思ったからここまでやってきた。そしてこの言葉もキミに言いたくてね」

 

 

 局長は椅子から立ち上がり姿勢を正す。そして僕の目を見ながら――

 

 

()()()()()! 紫藤トウジと申します! 生まれてこのかた教会での常識しか知らず無職のためこれから新たな職を探す旅に出る男です! どうか……そんな私の()()になっていただきたい!」

 

 

 ――頭を下げた。

 

 

「……なにを、馬鹿な事を……」

 

 

 いきなり何を言い出しているのだこの人は……なんでそんな馬鹿げたことを真剣に言えるんだ。

 

 何時まで頭を下げるつもりだ。これほど迷惑を掛けて、貴方の娘を殺そうとしたこの僕に何故……!

 

 断る事は簡単だ。無理だと言えば良いだけだ。だが――それはどうやら出来そうにないらしい。

 

 

「――()()()()()。八重垣正臣と言います。僕も職が無く当てのない旅に出ようとしている男です。こんな……僕で良ければ新しい友人になってください」

 

 

 逃げる事は簡単だ。でも……キミは望んでいないだろう?

 

 そうだろう――クレーリア。




俺はお前の事が好きだ――「影龍王」ノワール・キマリス

とある悪魔はある一人の女の子に恋をした。

さーて色々忙しくなるよ――「覚妖怪」平家早織
にしし! とうとう決着をつけるつもりかい……誰にも邪魔なんてさせないさ――「酒呑童子」四季音花恋
とりあえず……ご飯大目に作っておきますね――「常識人」水無瀬恵

ノワール・キマリスという男を理解している女達は動き出す。

うひゃひゃひゃ! マジで決める気だよノワールきゅん♪ おじちゃん、興奮しちゃう!――「超越者」リゼヴィム・リヴァン・ルシファー
これが地双龍同士の戦いですか。勉強になります――「全ての悪魔の母より生まれた者」ユーグリット・ルキフグス

どうやら彼らはただの観戦者となったらしい。

ふれー! ふれー! 悪魔さーん!――「アイドル」橘志保
ふ、ふれー! ふれーですわ!――「双子姫」レイチェル・フェニックス
主様、がんばれ。がんばれ――「茨木童子」四季音祈里

どこから見ても真面目な戦いのはずなのに何故チア服を着ているのか。

割とマジな感じなのになんでこんなに周りの空気が緩いんすかぁ!!――「パシリ」犬月瞬
我が王よ! 何故我らを使わん! 今こそ我らを使う時だろう!――「魔帝剣」グラム

安定のポンコツ枠で不憫枠である。

ゼハハハハハ! とうとう決着の時だぜユニア! 勝つのは俺様の宿主様だ!――「影の龍」クロム
クフフフフフ! そのセリフ、そっくりそのままお返ししましょう!――「陽光の龍」ユニア

全ては自らの宿主が最強だと証明するために。

クハッ! 良いぞ良いぞ! お前の強さを証明してみせろ我が弟子よ!「真なる師匠」スカアハ
おいおい姉さん。今回は邪魔は無しだぜ?――「師匠」オイフェ
だからなんで僕を女装させようとするんだぁー!!――「影の龍の嫁」ウアタハ

章名が影の国というのに途中から八重垣ストーリーになったために出番が少なくなった彼らは……!

ノワール、さようなら「光龍妃」片霧夜空


遂に彼らの決着が――


次章「影龍王と光龍妃」


※予告通りになるかは作者次第。

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