「……ぁ……どこだ……ここ……?」
目が覚めると俺はどこかの部屋で寝かされていた。いったいどれだけの時間寝ていたのかは分からないが少なくとも自分の体が滅茶苦茶重くなっているのを考えると結構な時間、意識を失っていたのは確かだ。
「あぁ……クソ……なんで俺、寝て……?」
自分がどこかの部屋で寝ている事を思い出そうと両手で顔を覆いたかったが何故か左腕が何かに固定されているように動く気配も無かったので残った右腕で顔を覆う。瞼が必死に閉じようとするのを右手で何とか止めつつつい先ほどまでの事を思い返す……そもそもなんで俺は気を失って……? あぁ、そう言えば夜空と正真正銘、本気の本気の殺し合いをしてたんだったな。ヤバイ……全然記憶にない。結構大事な事だったはずなのに途中までしか思い出せん。とりあえず漆黒の鎧を使った所までは辛うじて……なんとか思い出せるがその先が全然全くこれっぽちも記憶に無いんだが?
眠気がドンドン迫ってくる。あれ……俺が意識を失ってたって事はこれってもしかして――負けた? いや違う。負けてないはず。うん、負けてない。だってほら……記憶に無いけど夜空ぶん殴って倒したような気がしないでもないし。うんうん勝った勝った勝ったんだよ。よっしゃ! 俺の勝ちって事で良いな!!
「……俺が勝ったんだな」
「んなわけねーじゃん」
どこからともなく愛しの夜空ちゃんの声がした。ついでにどうも左側から吐息っぽい感じで生暖かい風がするし心地良い温度をした何かに包まれている気がする……そんな風に気になる要素満載だったので体が重いのを我慢して首を動かして自分の左腕付近を見ると――女神が居た。
俺の視線の先には左腕を抱き枕代わりにしている
「あの覚だったら此処に居ねぇよ」
なんで俺の思ってることが分かるんですかねぇ?
「仙術」
「お前、何かあったらそれ言えば解決するとか思ってないか?」
「ん~割と思ってるけどぉ?」
「ア、ハイ」
左腕にスリスリと猫のようにマーキング行為擬きをしている夜空を見たせいか先ほどまでの疲れが一気に無くなった気がした。可愛い。可愛すぎる……! 猫耳付けたい。平家相手にした雌猫プレイしたい割と真剣に。確かあれって水無瀬の部屋からパクってきたんだっけか……? 税抜き九千九百八十円の結構高めのコスプレセット的な何かを持ってた事にドン引きした記憶があるが今ほどあれがある事を知ってて良かった気がする! 良し! 此処がどこだか分からないが今の俺だったら空間ぶっ壊して水無瀬の部屋に突入できるだろうからこの可愛い生物基女神にはちょっと待っててもらおうかな!?
「殺すぞ」
この女神様は俺と離れたくないらしい。可愛いかよ。
「いやだってお前……そんな可愛い仕草を見せられたらちょっと猫耳付けたくなるんだよ」
「いつだったか忘れたけど覚が付けてたアレ? キモ」
「キモイ言うな。男としては健全な……夜空、そう言えば全く記憶に無いんだがお前の目とか潰した気がするんだが……ふっつうに治ってるな?」
ぐるりと寝返りして夜空と向かい合う。触れたら壊れそうなほど小さい……そう色んな意味で小さい夜空の顔を見つめるが傷一つ無かった。漆黒の鎧を纏った状態で正面から全力かつ加減せずにぶん殴りまくったらどこか怪我しててもおかしくないんだが……全くそんな感じがしない。
「ん? 怪我ならあの男女が治したみたい。つっても私も気を失っててさっき目覚めたばっかだから良く分かんねーけどさ」
「男女……あぁ、ウアタハか。確かにアイツなら怪我一つないのは納得だ」
影の国が誇る唯一無二の女神ことウアタハたんは体術得意、魔術得意、そして治療大得意という高スペックの持ち主だ。あのスカアハの息子だから当然と言えば当然なんだが治療が得意になった理由がスカアハとオイフェがキチガイ過ぎて弟子達の命がヤバかったのでそれを護るためという優しい……そうとてつもなく優しい理由がある。まぁ、俺は相棒から聞いただけだからその辺は詳しくは分からないけど少なくとも影の国から俺以外の眷属全員が死なずに戻ってこれたのはウアタハたんのお力が大きい。
普通にグレモリー先輩の所に居るシスターちゃん以上の治癒力、下手すると夜空すら超えると言えばその凄さが分かるだろう。相棒も毎回治療してもらってたらしいからな……そんな事を何度もされていれば惚れるのも分かる。俺もウアタハたん相手だったらたとえ男と分かっていても普通に抱けると思いますし。
「あの男女、回復作業させたらこの夜空ちゃん以上だしね。なんかユニアが言うには此処もルーンだったかなんかで直して私らを寝かしたらしいよ」
そう言えば此処っていったいどこなんだという疑問があったので軽く周りを見渡してみるとどこか見覚えがある家具とかがある……いやこれ俺の部屋じゃん。人間界じゃなくて冥界の方だがこのクソ豪華な感じは間違いなく俺の部屋だわ……! ウアタハたん、俺と夜空の殺し合いで吹き飛んだと思われる実家を直してくれたのかよ……! 女神か。女神だったわ。
「ウアタハたん……俺の実家直してくれたのかよ」
「あ゛?」
「ナンデモナイデス」
なんという事でしょう……目の前に居る夜空ちゃんはウアタハ"たん"と呼んだだけで震えるほど濃い殺気を飛ばしてきましたよ。これは嫉妬ですね? 嫉妬と断定しても良いですね? 何故か相棒は神器の奥底に引っ込んでるから聞けないけどこれは嫉妬と思っても良いと思うんですよ! なんだよ可愛いかよ! 可愛いんですけどぉ!! 何この可愛い生き物!! クッソ可愛い!
心の中で可愛い連呼していたせいか夜空を抱きしめてしまう。左腕が夜空専用の抱き枕になってるから右腕だけ夜空の背中側に回すという感じになったが俺的には満足だ……あ、ちなみにこれは故意です。よくある無意識でつい……とか言うエロゲ主人公的な感じではありません。割と真剣に可愛いと思ったから抱きしめようとしたんです。とりあえず平家辺りに説明してみたがアイツ聞いてんのか?
「……何してんの?」
「可愛いから抱きしめてみた」
「……あっそ」
なんという事でしょう。左腕を抱き枕にしていた夜空ちゃんがモゾモゾと動いたかと思えば俺の胸へと飛び込んできました……クッソ可愛い。何この生き物、クッソ可愛い。ウアタハたんと呼んだだけで嫉妬して殺気出してきただけでも可愛いのに抱きしめたら胸に飛び込んでくるとか可愛すぎるんですけどぉ……!
これはきっと俺が勝ったからだな! お前を守れると理解したからこその反応と言う事で間違いないですよね? いやったぁぁぁっ!!! 勝ったぁぁぁぁ!!! よくやった意識を失う前の俺!! よく頑張った意識を失う前の俺!! 流石だぜ意識を失う前の俺!! その褒美として今の俺が夜空とイチャイチャするぞ! 文句は受け付けません!
「あのさ……心臓動き過ぎじゃね?」
「……お前を抱きしめてるに加えてこの状況だからな、仕方ないんだよ」
「……ふーん」
あーダメです夜空様! その可愛らしいお鼻を俺の胸に押し付けて匂いを嗅ぐなんていけませんいけません! 何時だったか忘れたけど一緒の布団で寝た四季音姉も同じような事してたけど可愛さが段違いなんですけど……? やはり見た目がロリなだけの鬼とは違うと言うわけだな。夜空からそんな事をされてはいくら紳士な俺でも我慢の限界というわけですよ……目の前には夜空の頭部があるのでおもいっきり顔を埋めて匂いを嗅がせてもらいましょう。
控えめに言ってこれだけで一年ぐらい生きていける気がする。
「何してんの?」
「お前の髪の臭い嗅いでる」
「……今日風呂入って無いと思うんだけど?」
「それ言ったら多分俺もなんだが? 意識失ってどれぐらい寝てたかは知らんけど」
「臭くない……?」
「ぶっちゃけこれだけで生きていけるぐらい良い匂いがするから安心しろ」
何で見たかは覚えてないが相手の臭いで興奮するならそれは細胞レベルで相性が良いとか何とかとだった気がする……割と当たってるなこれ。正直、すげぇ興奮する。あれ……夜空ってこんなに良い匂いしたっけ? いやそもそもこんな風に匂いを嗅ぎ合うなんて事をしてないからか。うん。しゅき。
何秒、いや何分くらいそうしていたかは分からないが少なくとも俺も夜空もやめる気は無かった。そして不意に俺の脳裏にある言葉が浮かび上がる――これいけるんじゃね? と。割と真剣に今以上の雰囲気は今後起きない可能性が高いからこそ今しかない! むしろ今じゃね! 今こそ童貞卒業のチャンスだと心の奥底から次々と語り掛けてくる。つーかこれ如何考えても歴代共じゃねぇか!? お前らこんな時でも平常運転だなおい!!
ま、まぁ! それはとても大事な事だけど俺としてはまず確認しなければいけない事があるわけで……! 決して日和ったわけではない。ヘタレでも無い。とりあえずお前ら、後で覚えてろ。
「……夜空」
「……なに?」
「勝敗なんだが俺の勝ちで良いんだよな?」
そう確信しての発言だったが――
「は?」
何故か夜空が何言ってんのお前と言う表情になった。
「……俺の勝ちだよな?」
「は?」
「俺の勝ち」
「は?」
「……」
「は?」
「いや何も言ってないけど……いや待て待て、待ってくれ夜空ちゃん! 俺の勝ちだろ!? この状況的に考えてさ! どう見てもお前が屈服してる感満載じゃん!! 俺の勝ちでしょ! 俺の勝ちと言えよオラァ!!」
「はぁぁっ!? ふっざけんなよマジで!! 誰が屈服したってぇ!? してねーじゃん!! つーか私の勝ちだけど? 覚えてないけど最後まで立ってた気がするし私の勝ちですけどぉ!!」
「いやいや俺の勝ちだろ!? 覚えてないけど俺が勝った気がするし! 後屈服してないとか言ってるがお前鏡見ろ! 十人が十人とも屈服判定下すぐらいの屈服っぷり晒してるぞ!!」
「してねぇし!! そっちこそこの夜空ちゃんの色香に惑わされてんじゃん! これ私が勝ったからっしょ!! とりまさー! 私の勝ちですって言えよ? ほら早く」
「おいおい……お前の色香に惑わされるなんざとっくの昔からですけどぉ!! お前から貰ったパンツで何度もオナニーしたし妄想でも何度もお世話になってますがぁ!? とりあえず夜空、俺の勝ちですって言えよ。優しいノワール君は少しだけ待ってやるからほら早く」
「……」
「……」
互いに満面の笑みで向かい合う。相変わらず可愛いな……少なくとも夜空以上の美少女は見た事無いと断言できる。
「「ぶっ殺すぞ」」
いくら経ってもノワールの勝ちですという言葉が聞こえないので思わずその言葉を言ってしまったが俺は悪くないと思う。だってどう考えても俺の勝ちじゃん? この状況的にさ。全く覚えてないけど。もしかして夜空ちゃん……負けたのが悔しいだけか? あぁ、そうかそうか! 恥ずかしいだけか!! なんだよ可愛いなぁおい! やっぱり可愛いわマジで! これは所謂わからせをしろって事だな? そのプレイだけは平家相手でも全く興奮しなかったからちょっと楽しみである。
まぁ……本番無しだったからと言うのもあるだろうが少なくとも常時屈服状態のアイツがメスガキ風味になっても全くエロくないのが原因だろう。他の男共は知らんけど。
「夜空……俺の勝ちだよな?」
「ノワール……私の勝ちっしょ?」
自分の勝ちを疑わない強い瞳が視界一杯に広がる。ゆっくりと、そして着実にその瞳に吸い寄せられるように夜空の顔が近づいてきて――
――チュッ。
気が付けばお互いの唇が軽く触れあっていた。
「……」
「……」
俺は勿論、夜空も今自分は何をしたって表情になっている。あれ……俺今何した? え、ちょ、えーと、えーと……あーえーあー……うん。
――ちゅっ。
もうどうでも良いや。
「……なぁ、夜空」
「……ねぇ、ノワール」
「俺の負けか?」
「私の負け?」
同時に同じような事を言い放った俺達の脳裏には先ほどの行為しか存在しない。うん、普通にキスしちゃいましたね。しちゃいましたね……うん。あの……夜空の唇なんですけど柔らかすぎるんですけど? 毎日ケアしてるんじゃないかってぐらいの代物だったんですけど。ほぼ毎日のように平家の唇触り続けてて良かったと今になって思う……平家、ささやかな礼としてはあれだが課金額増やしていいぞ。
「……負けたわ」
「うん……負けた」
「俺も夜空も勝って、そして負けた……にしとくか」
「今のところはそれで良いんじゃねーの……?
「……決着はまた何時かって事で。なぁ、夜空」
「何?」
「――俺の、
なけなしの魔力で手元に呼び出した未使用の
「……」
夜空は俺が持つ女王の駒を受け取る。そして平家達にしたように強く、強く願うと――
「あのさ、ノワール」
「……ナンデスカ」
「なんも変化ねぇけど?」
――夜空の手元には女王の駒があり、いくら経っても吸い込まれたり消えたり砕け散ったりという変化が起きない。起きる気配が無い。全然全くこれっぽっちも!! あぁ、なるほどなるほど……うん、知ってた!!
「……まぁ、無理ですよね」
少なくとも覇龍を昇華させた辺りでなんとなく察してはいた。そもそも夜空のスペックに神滅具、覇龍昇華やら生命の実の力等々をたかが女王の駒程度が受け止められるわけがない。グレモリー先輩が一誠を眷属にしても影響的な事が一切無いのは魔王辺りがなんかしたからだろうし、何もされてない俺の駒が夜空を眷属に出来るほどのスペックを持ってるとは思えない。
分かってはいた……理解も出来ている。だけど悔しいと思うのと同時に眷属に出来なくて良かったと思えるのは何故だろう。俺の夢だった、俺の願いだった……でもそれは人間として生きたい夜空の願いを潰すもの。だから……この結果でも後悔は無い。
「……知ってたん?」
「知ってたというよりも本能的な奴で理解してたって感じだな。そもそもお前ほどの存在をこれ程度が受け止めきれるわけもねぇってな。俺の夢は潰えたが……これで良いんだよ」
「ふ~ん。んで? これどうするん?」
「どうすっかなぁ……別に女王不在でも問題無いしこのまま未使用のままってのも有りか」
「だったらあの焼き鳥に使えばぁ?」
「は?」
今コイツ、なんて言った? え、今なんて言ったの? レイチェルに使えって言った? うっそだろぉ!? 俺に近づく女は気に入らない態度してたくせにそこ許すの!?
「いや……は?」
「ぶっちゃけ今更知らない奴に使われるよりはマシだし。アイツ、影の国で私に喧嘩売ってきた度胸あるからまーうん……ギリギリのギリ程度で許しても良い」
「マジかよ」
「だけどその代り――」
「ん?」
「――抱け」
なんか今、凄く男らしいセリフが聞こえたんですけど?
「……ホワイ?」
「慰め目的じゃねぇから。まー……うん……クリスマスだったし、いい加減処女捨てたいし……あとそんな駒で得られる地位とかじゃなくて、さ……お前の真の女王は私って証が欲しい。だから抱け」
「――すーはー」
深呼吸した事により俺は落ち着いた。落ち着く事が出来た。さて神器の奥底に引っ込んだ相棒、そして歴代共。今の俺が絶対にやらなければならない事は何だと思う? 目の前で男らしいセリフを言い放った夜空を抱くのが一般的な男子高校生の思考だと思う。だが待て、待つんだ歴代共。心の奥底で調教の時間じゃと騒ぎまくる所を大変申し訳ないが……お前ら、ちょっと奥底に引っ込んでてくれます?
覚悟を決めた表情をしている夜空をそっと……そっとベッドに寝かせた俺は勢いよく押し入れまでダッシュする。と言ってもそこまで遠くは無いんだが目的はその中にある段ボール! ウアタハたんならきっとこういう所も直してくれていたはずと信じて勢いよく押し入れの扉を開けると――そこにはなんと目的の段ボールが存在した!
それを掴んだ俺は中身が飛び出る事を承知でベッド近くまで放り投げる。ゴロンゴロンと中身を飛び散らせながら放り投げられた段ボールを夜空は何だという顔をして見つめている。中身? 何時でもこんな状況になっても良いように定期的に買い続けた避妊具ですけどなんか文句あります?
「……なにこれ?」
「避妊具」
「……大量にあるんだけど」
「定期的に買ってたしな」
「……てか、使うん?」
「それがマナーですし」
よく考えろ夜空。俺は最強の影龍王だのと言われてるがまだ学生です。少なくとも母さんが大学ぐらいは行った方が良いとか何とか言ってたから高校卒業後は大学進学する気な高校生です。あと一年程度は駒王学園に通わないといけないしお前養うにもまず当主にならないとダメな経済力皆無の高校生なんですよ夜空ちゃん。安心しろ、結構な頻度で平家が薄い本とかでよくある使用済みな奴をスカートっぽく腰辺りに付けた奴を俺に見せていたからな! 使い方はバッチリです。しかも新品なので穴も開いてないから安心しろ。
「……あのさ、処女相手にこれ全部使うん? 頭おかしくない?」
「むしろ足りるか分からん」
「……キモ」
意気揚々と避妊具さんの箱を開けていると俺の枕で顔を隠している夜空が居る。あのな、そんな仕草をするから興奮すると何故分からん? いや良いけど。別に良いですけど。ヤバいなこれ……マジで足りるかどうか分からん。処女だから遠慮? 理性さんが頑張れば多分してくれるんじゃないですかね?
「――ただ、最初は優しくしろよ……?」
理性さんお亡くなりになりました。
「頑張ってみるが……無理だったらすまん」
そして次に意識が戻ったのは――三日後でした。
女王の駒「原作18巻目にしてようやく出番があるかと思えばそんな事は有りませんでした」
???「そんな貴方に朗報ですわ!」
これにて「影龍王と光龍妃」編終了です。
長かったなぁ……(しんみり)