ハイスクールD×D~地双龍と混血悪魔~   作:木の人

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133話

「――では第一回、キマリス眷属緊急会議を始めたいと思います」

 

 

 真剣な表情と口調でその言葉を言い放ったのはレイチェル・フェニックス。お嬢様っぽさがある部屋着に髪型もポニーテールにして気合十分という様子でソファーに座っている。何故このような事になっているかと言うと俺も良く分かっていない……新年初日から今日まで影の国で夜空と一緒に、そう夜空と一緒に! スカアハにクロウ、オイフェと言った面々と殺し合いをしていたがウアタハたんより明日から三学期が始まるからと人間界にある自宅へと帰された。そこまでは良い……そこまではまだ許される! むしろウアタハたんマジ女神と拍手喝采で求婚を申し込むレベルだ! 問題は自宅のドアを開けて家の中に入ってからだ。

 

 出迎えてくれたのは目の前に居るレイチェルでイケメンすら見惚れるほどの笑みを浮かべたまま俺の腕を掴んでリビングへと通されたら……これでした。控えめに言ってなんだこれ状態なんだが? そもそもキマリス眷属緊急会議ってなんだよ……しかも第一回とかさ! 絶対違うだろ! 少なくとも十回ぐらいは水無瀬辺りが開いてるだろというツッコミを入れたいが周りの空気がそれを許してはくれなさそうだ。

 

 

「……平家。説明プリーズ」

 

 

 視線を右へと向けるとスマホでアプリゲームをしているであろう平家がこれまたどこから持ってきたか分からないパイプ椅子に座っていた。リビングに通された俺はそのまま有無を言わさず床に座らされたので視線の高さとしては平家の下半身辺り……しかも自宅だと言うのにスカートを穿いてるから太腿が良く見えます。夜空には及ばないがこうしてみると平家の太腿も素晴らしいと言えるのが何ともムカつく……あのスイマセン、見せつけるようにスカートを捲らないで貰えます? 周りに居る女性陣から瘴気が漏れ出してるんで! なんせ床に座った俺を取り囲むように橘と四季音姉が同じようにパイプ椅子に座ってるしな! 水無瀬? アイツなら台所で飯でも作ってるんだろうきっと。

 

 

「忘年会の時にノワールが女王は光龍妃以外で一人当てがあるみたいな事を言ったせいだよ。あと今穿いてるのは清楚系下着だけど興奮する?」

 

「当然だろ。やっぱり男ってのはスカートの中を見ると相手が誰であろうと興奮する生き物なんだなって再確認できたわ。つーかこの……何? キマリス眷属緊急会議が開かれた理由ってそれが原因かよ?」

 

「そもそもノワールが忘年会の時に光龍妃とイチャイチャしてお姫様達に何も言わなかったのが悪い」

 

 

 だって夜空とイチャイチャしたかったんだもん。まぁ、その本人は現在地下にある温泉でゆっくりしてるだろうけども……本来だったら俺も一緒に温泉入りたかったが有無を言わさず床に座らされたから出来なかったんだよね! 畜生……! 影の国ではウアタハたんが気を使って他の面々とは違う場所に温泉作ってくれたから誰にも邪魔されずに夜空と温泉入れたというのに!

 

 

「覚妖怪……何をしていますの?」

 

「見て分からない?」

 

「早織さん! 悪魔さんに下着を見せつけるのはダメです! 今は大事な会議中なんですから悪魔さんとイチャつかないでください! 不公平です!」

 

「志保さん……! えぇ、その通りですわ覚妖怪! いくらその……キマリス様と、……をしたとはいえ! 今はキマリス眷属の今後に関する大事な場! そのような行いはご遠慮願いますわ!」

 

「レイチェルさんの言う通りです!」

 

「二人共、心の中で自分だけ見ててほしいとか思ってるのバレバレだよ」

 

「それはそれ! これはこれなんです! あっ! えっと悪魔さん……? 最近、下着が合わなくなったみたいで新調したんですけど……後で見てもらっても良いですか……?」

 

「志保さん!?」

 

 

 レイチェルと橘は共闘して平家相手に言葉での戦いを挑んだと思えば橘様、渾身の裏切り行為。しかもご丁寧にご自慢のお胸を下から持ち上げるように見せつける仕草付きと来た……やっぱりおっぱいも素晴らしいね! 一番は腋だけど。橘からの裏切り行為っぽい何かを受けたレイチェルと引きつった表情になっている四季音姉の二人から断るよな的な視線が飛んでくるが男として、しかも悪魔で邪龍な俺としては断るわけがありません! 見ても良いと言うのであれば思う存分、見させていただきますけど何か?

 

 

「――」

 

 

 ヤバイ。四季音姉が俺の心を読んだのかどうか分からないがマジギレしてるんですけど? もしかして嫉妬か? 自分が幼児体型でちっぱいだからキマリス眷属一の巨乳な橘に嫉妬してるのか伊吹ちゃん! 安心しろよ……お前あったら普通に抱けるから。合法ロリを嫌いな男は居ないからそこだけはマジで安心でも良いぞ!

 

 

「花恋。とりあえず下着ぐらいはエロいの買った方が良いよ」

 

「な、なにを、言って! いるんだい!? に、にしし……お、鬼さんはさ、さおりんみたいな物はか、かわないんだよ?」

 

「ノワール好みのやつ教えても良いけど?」

 

「……ちょ、ちょっとさおりん? あ、後で……話があるんだけど良いかい?」

 

「りょーかい。暇人だから何時でも良いよ」

 

 

 なるほど……これは難聴主人公みたいにえ? なんだって? をする場面か。良いだろう! 一回ぐらいは真似したかったし聞かなかった事にするとして……そう言えばこの会議的な何かが始まってから犬月のツッコミが聞こえない気がする。試しに周りを見渡しても携帯のマナーモードのように震える段ボールが見当たらない……まさか、犬月の奴……!

 

 

「パシリなら胃に穴が開いて入院中だよ」

 

「マジで倒れたか」

 

 

 予想はしていたがついに倒れたか……まぁ、死んでないなら良いが。どうせこの先、何度も修羅場は勿論、女性陣達による視線での殺し合いが幾度も行われるだろうから倒れる事に慣れておいた方が良い。頑張れ犬月、負けるな犬月。お前が居ないとこの家が肉食獣と化した女性陣によってヤリ部屋的な何かに代わってしまうから可能なら早めに復活してくれ! そして倒れるなら俺が居ない時で頼む!

 

 あっ、なんか知らないけど理不尽すぎるとか言われた気がする。まぁ、今の俺は難聴系主人公だから聞こえなかった事にするけどね!

 

 

「ちなみに明日から三学期始まるがアイツ、どうするんだ?」

 

「明日には治るってさ。意地でも治すって言ってたよ」

 

「なるほどな」

 

「……コホン。き、キマリス様……? そろそろ本題に入ろうと思うのですけどよろしいでしょうか?」

 

「本題……あぁ、俺の女王の件か」

 

「そうですわ! 光龍妃……いえ、あのお方以外でキマリス様はいったい誰を女王として眷属に加えようとしておりますの! そ、それは私達も知っている方で間違いないでしょうか!!」

 

「いや誰も何も……俺の目の前に居るけど?」

 

 

 その言葉にレイチェルは勿論、橘達もポカンとした表情になった。数秒間、ポカンと言う感じになったと思えば俺が見ている方向へと顔を動かした。当然、俺が現在見ているのはレイチェルだが……当の本人は自分の後ろへと顔を向けると言う若干コントのようなことをし始めた……おいおいマジか。え? そこまで信じられないの? ノワール君ちょっとショックなんですけどー!

 

 

「……キマリス様、誰も居ませんわよ?」

 

「いや気づけ、普通に気づいてくれませんかねぇ……まぁ、良いか。レイチェル、突然だが俺の女王になってくれないか?」

 

「――え、えっ、えぇぇぇぇぇっ!?!?」

 

 

 レイチェル・フェニックスちゃん渾身の叫びがリビング中に響き渡った。台所で料理をしていたであろう水無瀬は何事かと言った感じでこっちへと顔だけ出したが何だろうな……あの新妻感。いや年齢的にはそろそろ結婚も視野に入れないとダメな感じではあるから間違っていないと言えば間違ってはいないんだが……よし。後で夜空にエプロンを着てもらって同じ事をしてもらおう! それを見たならばきっと一週間ぐらいは何も食わなくても生きていける気がするし!

 

 

「あの……どうしたんですか?」

 

「え、あ、えぇっ!? えとっ、えぇっとぉ!?」

 

「水無瀬先生! 大変です! レイチェルさんが悪魔さんの女王になっちゃいます!」

 

「……はい?」

 

「にしし。なるほどね……時にノワール。それは光龍妃も知ってるって事で良いのかい?」

 

「んぁ? そんなの当然だろうが……つーか夜空直々の指名みたいなもんだぞ」

 

 

 もっとも自分が知らない奴が女王になるくらいなら……と言う感じっぽいがな。俺としてもレイチェルが嫌ですとか無理ですとか他の人にしてくださいとか言うなら諦めるつもりだ……なおその場合はキマリス眷属は俺が死ぬまで女王という役職が不在で平家か四季音姉がその代わりを務める事になります。なんせ実質女王(仮)みたいな平家と根っこはアレだがカリスマなら多分俺以上のキマリス眷属最終兵器な四季音姉なら何があろうと問題無いからな……そう考えると女王いらなくね? いや一度言った以上はレイチェルの返答を待つとしよう!

 

 

「お姫様。嫌なら断っても良いよ。むしろ断るべきそうすべき」

 

「さおりん……そこは許しても良いと鬼さんは思うな~にしし! 先に言っておくけどあの光龍妃が認めたなら私は異論は無いよ」

 

「女王不在だと私か花恋のどっちかが代わりを務める事になるとしても?」

 

「……お、鬼さ、鬼さんはい、いいい一度言った事は取り消さない、よ……?」

 

 

 伊吹ちゃん伊吹ちゃん。手が震えてるぞ? なんかアル中みたいに手が震えまくってるし顔も言わなきゃ良かったとか言いたそうな感じなってますけど?

 

 とりあえずうちの最終兵器のメンタル的な何かがヤバそうなのでキマリス眷属が誇るマスコットこと四季音妹に介護を頼んでおく。多分だが明日には回復してるだろきっと……仮にダメだったら一日付きっきりで話しでもしてれば治るだろ。

 

 

「――しょ、少々お待ちを! い、家に連絡してきますわぁッ!!」

 

 

 真っ赤な顔でレイチェルはリビングを飛び出していった。行先は恐らく自分の部屋だろうが……フェニックス家に報告されるとなるとやっぱりアレをやらないとダメだよな。仕方ない! レイチェルの両親に娘さんを私にくださいと言ってくるか! 寧音や芹のように事後報告になったら面倒な事になりかねないしな。でもちょっと待て……ヤバイ、少しだけテンション上がって来た! いやー男だったら一度くらいはそのセリフを言いたくなるし返しの言葉としてお前なんかに娘はやれん! みたいなやり取りもしたい! ただ俺の本音を言わせてもらうと最初はレイチェルの両親じゃなくて夜空の両親に言いたい。

 

 まぁ、既に夜空が殺害してるから言えないけども。

 

 そんな大事なようで大事じゃない事を考えていると風呂上りの夜空がリビングへと入って来た。ちょっと待って! ちょっと待ってくれよ……! ワイシャツ姿とかエロ過ぎませんか夜空ちゃん!! 大きさの合わないぶかぶかなソレを何も言わずに着てくれるとか……! いくら払えばいい? 言い値で払おう。あとオプション的な奴で谷間とか見せてくれても良いんだぞ? 絶壁だけど。

 

 

「死ねば?」

 

 

 うーん、ゾクゾクする。いや最高だね!

 

 

「お前が寿命で死ぬまで死ぬ気はねぇよ。つーかお前……ワイシャツ姿にテンション上がって見落としたが髪ぐらいちゃんと拭けよ? 殆ど濡れてるじゃねぇか」

 

「メンドイ。何? 気になんの?」

 

「そりゃ気になるだろ。お前の髪って綺麗だし」

 

「ふーん……ん、ん!」

 

 

 俺の返答に何か思ったのかペタペタとこちらへ歩いてきた夜空は俺の膝の上へと座った。そして視線でさっさと拭け的な感じ事を言いながら頭を俺の胸板に押し付けてくる……あのさ、なにこの可愛い生き物! おいおいこんなに可愛い仕草されたら軽く百万ぐらいはポンっと出せるぞマジで! でも知ってますか! この子……俺の彼女なんですよ!! 普段はツン二百ぐらいだが偶にね! デレ三百ぐらいになる時あるの! くっそ可愛いい……マジ可愛い! さてさて夜空ちゃん……拭けと言うのであれば仕方がないね! 彼氏として全力で拭いてやろう! なんならいつか夜空の髪を手入れする時が来ると信じて平家に調教……教えられた事を見せてやるぜ!

 

 あとちょっと気になったんですけど……橘様? 何故、神器の狐に水を運ばせてるんですか? てか凄いなおい……どこからそのバケツ持ってきたのかというよりも結構重いであろうその重量を口で咥えて持ってきてる事にビックリだ。いやまぁ……今の俺は夜空以外鈍感な主人公設定だからスルーしておきますね?

 

 とりあえず平家がこんなこともあろうかとって感じで持っていたドライヤーと櫛、バスタオルを受け取る。マジでどっから持ってきたとかツッコミはしないぞ……!

 

 

「てかさーあの焼き鳥に何言ったん?」

 

「俺の女王になってくれとな。いやホントに長いな……痛くないか……?」

 

「もんだいなしーてかマジで言ったん?」

 

「まぁな。レイチェルにお情けで女王に指名されたとか思われるだろうけども……反論は出来ねぇな」

 

「いいんじゃねーのー? ぶっちゃけ嫌なら断れば良いだけだし。ん……ちょっと上手くない?」

 

「こんなこともあろうかと……! 平家で練習しまくったからな!!」

 

「チッ」

 

「マジな舌打ちやめてくれません?」

 

 

 一瞬にして機嫌が悪くなったようだが……これは嫉妬と言う事で良いでしょうか! 嫉妬ですよね? 自分が最初じゃないのが気に入らないとかそんな感じですよね夜空ちゃん! いやーマジ可愛い。ふっつうに可愛い! 女神よりも女神なくらいクッソ可愛い! というか夜空の髪を拭く事に全力だったけどこれさ……ノワール君のノワール君が反応しても文句は言われませんよね? いやだって風呂上り、ノーブラワイシャツ姿で膝の上に座るとか反応するなって方が無理です。あと目の保養ですね。うん。控えめに言って最高です。

 

 そんなこんなで数分が経過し、何故か橘と四季音姉、あと夜空から飲み物の催促を受けてこっちに来た水無瀬の三人が血涙を流しているというカオスな状況になった所にレイチェルが部屋から戻って来た。先ほどまでのテンパり具合は無くなっておりいつも通りなお嬢様っぽい感じになっている……そしてその表情はドヤ顔に満ちていた。もっとも俺と夜空を見た瞬間に引きつった笑みへと変わったが。

 

 

「ただいま戻りました……わ。こ、光龍妃……な、なんてうらやま、うらやま……!」

 

「あ゛? なんか文句あんの?」

 

「ナンデモアリマセンワ!」

 

 

 レイチェル……何か言いたそうだけど多分平家じゃないと無理だぞ。あとどう頑張ってもこの上下関係だけは覆せないと思う。

 

 

「……コホン。き、キマリス様……先ほどの件ですけども! 勿論、お受けいたします! このレイチェル・フェニックス……キマリス様の女王としてこれからもお世話いたしますわ!!」

 

「この焼き鳥、女王の所だけ強調したんだけど?」

 

「それを言うしか勝ち目無いからだよ。でも光龍妃、本当に良いの?」

 

「知らねー奴よりはマシだし――コイツの真の女王は私だから。お情けの女王で満足しとけば良いんじゃねーの」

 

 

 聞きましたか……この夜空ちゃん、真のという部分を強調しましたよ! これはマウント取ってますね! その効果は絶大で周りの女性陣が崩れ落ちております。まぁ、俺はそんな事よりも夜空の髪を手入れする事に全力を尽くしているが……女の髪は命よりも重いとか言うし彼氏としては当然ですよね! ね!

 

 

「あーとなるとフェニックス家に挨拶しとくか……レイチェル、お前の両親って何時頃暇とか分かるか? 俺としては眷属に加えるってことを伝えてから転生させたいんだが……?」

 

「そのように仰ると思いまして既に確認済みです! お父さまもお母様もキマリス様の予定に合わせてくれるそうです……今すぐでも構わないとも――」

 

「よし! だったら夜空の髪の手入れが終わったら向かうか。水無瀬、飯作ってると思うが先に食っててくれ」

 

「あ、はい……えっと、レイチェル。おめでとうございます……?」

 

「レイチェルさん! おめでとうございます! 眷属としては私は先輩ですけどいつもと変わらずに接してください!」

 

「ん~にっしっしぃ~わったしぃもぉ~せんぱいだぞぉ~! だから存分に頼っても良いよ。にしし」

 

 

 あのすいません。確かにレイチェルは"眷属"としては後輩になるとはいえいきなり先輩方面でマウント取らないで貰えます? え、何こいつら……口では祝福してるけど目が笑ってないんだけど。凄く羨ましいと言ってるよなこれ……よし、スルーしておこう。なーに! なんかあっても犬月が倒れるだけだ! 問題無い!

 

 というわけでそこから十分ぐらい掛けて夜空の髪を手入れした後、風呂上がりの夜空の体臭を嗅ぎまくって気持ちを落ち着かせてからレイチェルと一緒に冥界にあるフェニックス家の実家へと向かう。いきなりの来訪にも拘らずレイチェルの両親は嫌な顔をせず、満面の笑みで出迎えてくれた……流石貴族。てっきりいきなりやってくるとはこの礼儀知らずが! とか言われると思ったのに! 全くそんな感じが無いんですけど?

 

 そして通された一室に俺、レイチェル、レイチェルの両親が集まり本題へ入る。本来ならばレイチェルを持ち上げるような発言をすれば良いと誰もが思うだろうけど夜空絡みで嘘は言いたくありません。なので! 普通に"何年も前から夜空を女王にしようとしていた事"と"長年の夢が叶わず女王は空席にしようと思ったが夜空の後押しもあったのでレイチェルを眷属に加えようとしている事"など隠しておいた方が良い事を包み隠さずぶっちゃけました。我ながらこれは外道だなと思ったがレイチェルの親父さんはそれを聞いて大爆笑、レイチェルの母親もあらあらまぁまぁと怒る気配なし……いやそこは怒ってください。怒る場面だと思うんだが?

 

 

「なぁ、お前の所の両親って変わってるとか言われない? えーと、こうか」

 

「いやむしろ変わっているのはお前の方だと思うがな。それは悪手だぞ」

 

「げ」

 

 

 俺が考えた一手を目の前の男――ライザー・フェニックスは平然と対応しやがった。いやチェスに関しては勝ち目無いから当然と言えば当然なんだが……やられた身としてはちょっとムカつくのは言うまでもない。

 

 結局、レイチェルを眷属に加える発言は反対されるどころかこれからもよろしく頼むという感じで終わり、なにやら"女王"としての仕事を教えるとかでレイチェルは両親……主に母親と別の部屋に行ってしまったので暇になった俺はこの騒ぎを聞きつけたらしいライザーとチェスをする事にしたわけだ。結果? 普通になんども負けたけどなんか文句あるか?

 

 

「そもそも……妹を女王にすると聞いた時は驚いたものだ。てっきり、光龍妃をその座に置くと思ってたしな」

 

「普通に無理だったんだよ。駒が消えたり砕け散ったりする事も無くな……まっ、後悔はしてないけどな。つーか俺としては「お前なんかに娘はやれん!」とか言われると思ったんだが全く反対しないとか大丈夫か? 一応、悪名だけは広がりまくってるんだぞ?」

 

「少なくともお前以外の奴に妹を任せる方が怖いと言う事だ。わざわざ家にまで来た上、眷属にしますと挨拶に来てる時点でかなりマシなんだぞ? それぐらいは分かるだろ」

 

「いや普通じゃね……とか思ったけど貴族からしたらおかしいか。えーと……この私の眷属になったのだ、誇っても良いぞって感じか? 流石にガキの頃、しかも初期の方しか見た事無いけど実際どうなんだよお義兄さん」

 

「お義兄さん言うな気持ち悪い! まっ、家柄しか取り柄が無い奴なら本気で言うだろうとだけ言っておくが……しかし、良いのか? フェニックス家としてはキマリス家、しかもお前との仲が深まるから反対どころか大賛成になるが光龍妃が怒り狂ったりしたら……?」

 

「その夜空ちゃんのご指名だったから安心しろ」

 

「……俺の妹は光龍妃から指名されるほどになったのか」

 

 

 目の前に居るホスト風お義兄ちゃんは若干、いやかなり遠い目をし始める。まぁ、気持ちは分かる。あの夜空が直々に指名したとなったら俺は嬉しいけど周りからしたら死刑宣告みたいなもんだしな。もっともレイチェル本人はまったく気にして……気にしてないのかは知らないけどとりあえず意識はしてないっぽいが。

 

 

「ところでライザー、一つだけ聞いて良いか?」

 

「なんだ?」

 

「お前の事はお義兄さん、お義兄ちゃん、お義兄ちゃま、お義兄たま、どれで呼べば良い? リクエストもありだぞ!」

 

「普通で良いわ!? お前にそんな風に呼ばれたら吐き気がする! その手の呼び方はロリ系美少女が一番似合うと知ってるだろうに!」

 

「知ってるわ。俺だって夜空からにぃにとか兄さんとか呼ばれてぇんだよ! てかさー! なんでハーレム築いてるのに修羅場ってねぇんだよお前!! こっちは……犬月の胃に穴が開いて入院する程度には修羅場ってんだぞ!」

 

「……混血悪魔君。いや未来の弟よ……女と言うものは色んなもので素顔を隠している生き物なのさ」

 

 

 あぁ……なるほど。

 

 

「修羅場ってんだな」

 

「……見えないところでな」

 

「死ぬなよ?」

 

「死んでも蘇るから問題無いさ」

 

 

 キャーイケメーン! くっそ使えねぇ。ハーレム築くコツとか聞こうと思ったのに結局は刺されても復活するから好きにさせるが正解じゃねぇか! いや良いけど! 別に監禁しようが両手両足切断しようが殺傷沙汰になろうが受け止めますけども! 少しは年上らしくまともなアドバイスぐらいは教えてくれませんかねぇ?

 

 なんか苦労するよな俺達みたいな空気になったがそれをぶち壊すように扉がバーンと開かれる。入って来たのは勿論、ライザーの妹でありキマリス眷属女王のレイチェルだ。その笑みはなんだろうな……なんか勝ち誇ったと言うか勝利は決まったも同然と言いたそうな感じだ。ちょっと未来のお義母様……何を吹き込んだんですかねぇ? 内容によっては夜空がマジギレすると思うんで教えてもらえません?

 

 

「お待たせいたしましたわ! このレイチェル・フェニックス! お母様より女王としての必要な事を伝授してもらいました……えぇ! これからもキマリス様のお役に立ちますので――よろしくお願いいたします」

 

「お、おう……おいライザー、なんかお宅の妹さん、ちょっと見ない間に怖くなってんだけど……?」

 

「……恐らくだがロクでも無い事を教えられたんだろうが、未来の弟よ。まぁ、頑張るが良い」

 

「そんなお義兄たま! 見捨てるなんてひどい!」

 

「えぇい気持ち悪い!! 普通に呼べ普通に!!」

 

「仕方ねぇな……さて、どうでも良い事は置いておいてだ。レイチェル、こんな何しでかすか分からない夜空狂いの男だが……うん、よろしく頼む」

 

「はいですわ! どんとお任せくださいませ!」

 

 

 この日、空白だったキマリス眷属の"女王"がついに誕生した。

 

 とりあえず……母さんにレイチェルを眷属にしたと言わないとな。なんせ言わなかったら拗ねて何してくるか分かんねぇし……あーめんどくせぇ。




・「犬月瞬」
ノワール達が影の国に行っている間、自宅内の空気がヤバかったらしく胃に穴が開いた事で入院中。
日頃のお礼と言う事でシトリー眷属が見舞いに来てくれている。
恐らく今後も倒れる。

・「レイチェル・フェニックス」
予想されていたであろうキマリス眷属「女王」枠。
母親より今は側室で落ち着き、夜空の死後に本妻を狙えと言うありがたい言葉を聞き、将来に向けてプランを考え始める。
なお似たようなことを考える者達が居る事には気づいていない。

観覧ありがとうございました!

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