ハイスクールD×D~地双龍と混血悪魔~   作:木の人

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19話

「……マジ?」

 

「え、え? あの、えぇ!?」

 

 

 コカビエルとの戦いから数日が経った今日、駒王学園高等部、俺が所属しているクラスは困惑によって静まり返っていた。現在はSHRの開始時間、本来であればこんな空気になることなく担任のつまらない報告やら何やらを聞いて済む時間ではある。しかし今日に限って、いや今日のこの時間だけはそんな事にならなかった。何故なら――

 

 

「橘志保です。駒王町にはまだ不慣れでご迷惑をお掛けすると思いますが皆さんよろしくお願いします」

 

 

 ――アイドル橘志保、通称しほりんが転入してきたからな。

 

 いやぁ、周りの男連中の反応は面白いわ。夢か? いや幻か? みたいな顔をして橘を見てるけど残念……いや嬉しい事に現実なんだよね。俺の僧侶になった橘自身の強い希望によってアイドルを休業、俺が通う駒王学園に転入させたけど他の奴からしたらなんでしほりんが来るの? みたいな感じで思ってるだろう。犬月や匙君は橘が悪魔で俺の眷属という事を知っているから今回の件も知らされてはいた……けどアイドルとの学生生活を一緒に過ごせるためか非常に喜んでいる様子。おい犬月……お前は数日前の自分を思い出せ? ちょっと元に戻り過ぎだ。

 

 

「えっと、アイドルは学業優先という事で休業していますけどそういうのを抜きにして仲良くしてほしいです。あと、そのテレビより元気ないかもしれないですけど普段はこんな感じ、です」

 

「――良い、むしろ良い!!」

 

「元気なしほりんも良いけど落ち着いているしほりんもまた良い!!」

 

「いやぁ、げんちぃ。生きててよかったっすねぇ」

 

「ホントホント。生徒会入っててよかったとすら思える」

 

 

 どうやらテレビとは違う素の自分を見せた事で男子にも女子にも好印象を持たれたようだ。平家が居たらきっと「女子は妬みまくって気持ち悪い。男子はヤリてぇで五月蠅い」とか言うと思う。そりゃアイドルだもんなぁ……さて、いい加減現実逃避を止めようか。すまん……なんで俺の隣の席空いてるの? あれ? 前まで此処に別の誰かいませんでしたっけ?

 

 

「彼女は色々と大変だからお前らでフォローしてやれ。特にパパラッチなるものが出現する可能性があるが見かけたら生徒会まで知らせる様に。さて席だが黒井の隣だ、まさか()()()とは思わなかったが離れているよりは良いだろ」

 

 

 デスヨネ。いや、一緒に居てもおかしくない様に色々と設定を考えた結果が親同士が知り合いで俺と橘が幼馴染というよくありがちなものになった。個人的には最初の親同士が知り合いだけでよかったと思うんだが橘がどうしてもという事でこうなった……うわぁ、周りからの視線がウゼェ、マジウゼェ。

 

 

「……やりました」

 

「なにが?」

 

「あく、えっとえと、レイ君と一緒に学生生活できるなんて嬉しいなって♪」

 

「――犬月、ちょっと俺の隣にいる子が可愛すぎるんだがどうすればいい?」

 

「いや、良いんじゃねぇっすか? つか周りの野郎どもが嫉妬してますぜ?」

 

「知らん。あぁ、なんか有ったら聞け。一応幼馴染、だしな」

 

「はい。いっぱい頼りにしちゃいますね」

 

 

 可愛い、マジ可愛い。笑顔可愛いし反応可愛いしもう最高だな! ホント、どこかの酒飲みと引きこもりと規格外はこの可愛さを見習ってほしいわ割とマジで。だって女子ってこうあるべきじゃん! 流石俺の偽幼馴染、笑顔がもはや凶器ですね。

 

 そんなわけで男子の嫉妬染みた視線を浴びつつ時間は過ぎていき現在は昼休み、俺と犬月、橘と平家の四人はいつものように保健室に集まって昼飯を食べる事にした。いやぁ辛かった……何が辛かったかって橘の教科書がまだ配布されてないとかよく分からん理由で四時限目まで机くっ付けて授業受けてたんだよ。その際にですね……えぇ、はい、女の子らしい匂いとか地味に密着してきまして非常に困りました。男的にはすっげぇ役得だったけど……てかアイドルが一般男子と密着とか大丈夫か? 拡散とかされたりしない?

 

 

「変態」

 

「開口一番がそれかよ? そもそもなんで機嫌悪いんだよ?」

 

「別に機嫌悪くないし。ただノワールが変態で呆れているだけ。そんなに巨乳が良いか、巨乳なんて年取っていくたびに垂れていく体重増加の原因だよ。貧乳の方が良いよ」

 

「ただの僻みじゃねぇか? 橘もさっきみたいなのはアイドル活動に支障でないか? 結構ギリギリアウトレベルだぞ?」

 

「そうなったら悪魔さんに責任を、その取ってもらいますね? あとアイドルでしたら冥界のアイドルを目指しますから問題ありません♪」

 

 

 責任って結婚ですか? はい喜んで!

 

 

「鬼畜、外道、女たらし」

 

「……テメェマジで帰ったら虐めてやる」

 

「いやー犯されるー」

 

「二人はいつもの事なんで放って置くとして……きっとしほりんなら冥界のアイドルでも通用するっす! 俺達が保証しますよ!」

 

「ありがとうございます。犬月、さん? 犬月君? どちらで呼べばいいですか?」

 

「どっちでも!! なんならパシリでもオッケー!」

 

「おいパシリ、飲み物買ってこいよ」

 

「あぁん!? 引きこもりの分際で俺に命令すんじゃねぇよ!」

 

 

 なんだろう……この保健室も騒がしくなったもんだ。前までは俺と水無瀬と平家の三人だけだったのに今では犬月と橘を加えて五人、俺が作った心霊探索同好会にも所属してくれているから結構な大所帯になったな。大所帯と言えばグレモリー先輩の所にあの聖剣使いの片割れ――ゼノヴィアが騎士として参加したそうだ。聞いた話では禿司祭と俺がバラした神は死んだ発言で教会から異端扱いされて追放された所をグレモリー先輩がスカウトしたらしい。なんという漁夫の利! せこすぎるぜ先輩!!

 

 

「その聖剣使い、まさかのデュランダル持ちだったよね。これはノワール的にはちょっと悔しい?」

 

 

 平家の言う通り、あのゼノヴィアって奴は聖剣デュランダルを持っていたようだ。なんでも今代の担い手だとかなんとかで先のコカビエル戦でも使用しようかと思ってたらしいが俺があまりにも簡単に倒してしまったので使う機会が無かったとの事。これを聞かされた時にもう少し遊んでおけばよかったと思った俺は悪くないと思う。

 

 

「別に。騎士はお前がいるし今の所は増やす理由が無い。もうしばらくは騎士はお前オンリーだよ」

 

「――そうなんだ」

 

 

 だからってどうして笑顔になるんだ? ホントよく分かんねぇ奴だな……さっきまで怒ってたかと思えば今度は嬉しそうになりやがる。可愛いから良いが情緒不安定すぎやしないか?

 

 

「王様の手に残ってる駒って女王に騎士に兵士六個すよね? 騎士と女王は置いておいても兵士ぐらいは増やしても良いんじゃねぇか?」

 

「面白い奴がいたらスカウトするが……今の所、そういった奴がいないんだよ。橘が加入した事で水無瀬とダブル僧侶で後方支援が捗るし前線は俺とお前(犬月)、平家に四季音と充実してるだろ? だから増やす予定はない」

 

「悪魔さんって少し変わってますよね。悪魔業界の事を勉強したんですけど王は女王(クィーン)を先に手元に置くみたいですけど……ここまで手を付ける気は無いですよね?」

 

「当たり前だよ。だって女王候補――もがもが」

 

 

 何を勝手にバラそうとしているのかなぁ? それは俺とお前だけの秘密だろうに。

 

 平家が何かを口走ろうとしたのを止めた事で犬月達は疑問に思ったらしいがいずれ明らかになる的な事を言ってお茶を濁す。別に言っても良いんだがなんだか恥ずかしい……あんだけ常日頃から殺し合ってる夜空を女王に加えようとしてるとか知られたらなんか嫌だ。とりあえず何か別の事で話を逸らさねぇと……あぁ、良いの有ったわ。

 

 

「そういや家帰ったらお前ら驚くぞ」

 

「なんでっすか……あぁ、そういや今日でしたっけ? 家の改装というか増築というかそんなの」

 

「おう。お前らのリクエストした部屋も付くからマジでデカくなるはずだ……てか平家! お前のあの引きこもり特化の部屋は必要か?」

 

「必要。暖かいベッドにディスプレイ複数装備、漫画とエロゲーを納める棚、これで引きこもっても生きていける」

 

「……マジでこの引きこもり如何にかした方がいっすよ。あの、俺のリクエストした部屋もあるんすよね?」

 

「当然だ。水無瀬がリクエストしたキッチン周りは今までよりも高価で使い勝手の良いものになるし犬月がリクエストした特訓室も勿論ある。橘の歌ったり踊ったりしても迷惑にならない防音室もな」

 

 

 ちなみに四季音の場合は酒を補完できる場所、俺の場合は現状維持だ。特に思い浮かばなかったし広い部屋って落ち着かないんだよ……広いよりも狭いのが良いし手の届く範囲で済むならなお良い。

 

 

「ありがとうございます。でも、悪魔さんと一緒に住めるなんて夢のようです! えっと、ご飯とか用意した方が良いですか?」

 

「是非おね――」

 

「い、いえ!! ご飯でしたら私が作りますので志保ちゃんは作らなくていいですよ! もうこれは私の、私の仕事ですから!」

 

「恵……必死すぎ」

 

「気持ちわかりますけどねぇ」

 

 

 何が必死なのか全然分からんが眷属間での仲が深まっていくのは良い事なんだろう。しかし現役アイドルの手料理とか食べてみたいと思うのは男の性というもので……昼飯ぐらいは作ってもらおう。勿論誰もいない時にな! いやぁ楽しみだなぁ! メシマズという属性でもないしマジで楽しみだわ! 何故なら眷属になる前に夜食を作ってもらった事があるからな! 勿論それは対価としてありがたく食べましたとも。

 

 そんな騒がしくも楽しいと言える昼休みも終わって再び授業に入る。五時限目は体育だったので体育館に集合となったけど……男子は大盛り上がりでした。だってアイドルの体操着姿だぞ? デカかったぞ、マジでデカかったぞ。動くたびに揺れるのを見てたら誰だって盛り上がるわ。俺だって揺れるおっぱいを目に焼き付けたレベルだし……きっとクラスの男子共は目に焼き付けてオナニーのネタにするんだろうなぁ。あっ、そう言えばオナニーで思い出したけど先手打っておかないと色々拙いのを思い出した。流石に盗撮とか覗きとかされると橘も嫌だろうし言っておくか。

 

 

「よぉ、兵藤にその他二名。今良いか?」

 

 

 時間は飛んで放課後、俺は犬月と一緒に赤龍帝にクラスを訪れていた。転入してきた橘は生徒会メンバーと一緒に必要な書類やらなにやらがあるとかでこの場にはいない。それは俺的にはかなり好都合だ……流石にこの場に居られるとちょっとめんどくさいしな。周りも俺が赤龍帝に話しかけた事でなんだどうした的な空気を出しているけど安心してほしい……普通に警告に来ただけだから。

 

 近くに居るのはシスターちゃんと橘と同じく転入してきたゼノヴィア、そして変態二人……よし目的の人物は揃ってるな。

 

 

「お、おぉ! なんか用か?」

 

「イケメンのお前が俺達になんのようだ!!」

 

「あん? 警告だけど?」

 

「……け、警告ってなんだよ?」

 

「いやぁ、いっちぃ? 俺達のクラスにしほりんが転校してきたのって知ってるっしょ? 実は黒井っちの幼馴染でさぁ~いっちぃは別としてテメェら二人に変な事されるんじゃないかって心配、いってぇ!? なにすんだよ!?」

 

「なんか言い方がムカついた」

 

「ヒデェ!?」

 

 

 赤龍帝は橘が悪魔だって事は知っているし幼馴染と言う設定も犬月を通じて伝わっている。だから今回の警告は変態三人衆の残った二人、眼鏡とボウズ頭に忠告しに来たってわけだ。赤龍帝も常日頃からおっぱいおっぱいとエロいのは確かだが覗きとか盗撮を率先的にしない事はこっちでも分かってるから一応除外するけど……この二人はなぁ。多分赤龍帝の変態疑惑の大半はこいつらが原因だろうに。

 

 

「犬月も言ったが橘とは一応幼馴染でな。しかもアイドルやってて色々と大変なんだよ……そんな状態なのにお前等に覗きだの盗撮だのされるとどうなるかぐらい分かるだろ? ついでに言わせてもらえば俺の心霊探索同好会にも入部してる……これはどうでもいいか。一応部長でありあいつの幼馴染として警告しに来た。別に仲良くするなとか話しかけるなとは言わねぇけど――あいつ泣かせたらぶっ飛ばすから覚悟しとけよ」

 

「あぁ~ちなみに俺も黒井っちど同じだからそのつもりで……いっちぃは流石にしねぇとは思うけどさ」

 

「黒井貴様! 幻のお姫様だけではなくアイドル橘志保までも独占する気か!」

 

「幼馴染だと!? うらやまけしからん! 彼女持ちのお前がしほりんを独占など許されるはずがない!! それは全クラスの男子がそう思っているぞ!!」

 

「松田、元浜……落ち着けって!」

 

「イッセー! こればかりは落ち着けるはずがない!」

 

「そうだぞ! あのおっぱいをお前は見ているはずだ!! あれを独占しようとする奴を許せるわけがないぞ!」

 

 

 目の前の二人が騒がしくなるも周りにいた普通の方々は静まり返っていた。なんでだろうねぇ? きっと今の俺の表情はウザすぎて殺してぇとかそんな感じだろう。多分周りに方々もそれを察してくれたのかな?

 

 

「……黒井っち、まずは落ち着こう。はい深呼吸!! い、いっちぃ!? ちょ、ちょっとそいつら黙らせてくんね!? このままだとそいつらの命がやべぇ!!」

 

「お、おぅ!」

 

 

 犬月が何か慌てだしてるけどなんでだろうねぇ? ただ普通に殺そうと思ってるだけなんだけど何か悪い? と言うかこいつ等も自分の言ってる事がおかしい事ぐらい気づけよ……ちゃんと言ったぞ? 話したり友達になっても構わないって。なのに何で独占とかって言う事になるんだか……ヤバい本当に殺したくなってきた。流石に赤の他人ならともかく俺の僧侶、身内に対して何かする可能性があるこいつ等だったら居なくなっても問題ないだろう。よし殺そうか。

 

 

「そ、そうだ! 生徒会にいる匙から聞いたんだがしほり、橘さんに何かしたら問答無用で警察に通報されるらしいぞ! だからマジでやめとけって! 黒井も話しかけたりするなって言ったわけじゃないんだし!」

 

「そうだぜ! 黒井っちはちゃんと友達になってもオッケー! 話しかけてもオッケー! でも迷惑かけるなこの野郎と言っただけだからな! はいと言うわけで俺達は帰るぜ!! じゃあないっちぃ!!」

 

「お、おぅ! またな犬月!!」

 

 

 背中を押されて赤龍帝のクラスから退出させられた。まだ言いたい事あったんだが……良いか。今回は赤龍帝の説得に任せるとしよう。

 

 

「……王様、流石に一般人にあんな殺気はダメですって! 他の奴らビビってましたよ?」

 

「いや俺の本気に気づくかなぁと思ってな。盗撮やら覗きやらをする可能性があるのはあいつ等だけじゃねぇけど一応言っておかないとな……アイドルの生着替え写真とか出回ったらあいつも困るだろうし。俺の我儘で眷属になったからこんな風になったんだ、やりすぎなぐらい対応しねぇとダメなんだよ」

 

「言いたいことは分かりますけど……そういや認識阻害の術を家周辺で使うんでしたっけ? あれって大丈夫なんすか?」

 

「俺と水無瀬、橘の三人が共同で組み上げた術式だぞ? 夜空レベルには効かないだろうが一般人相手なら余裕で通用するよ。グレモリー先輩の許可を貰って現在デカくしている俺の家周辺にその術式を展開したし生徒会長の許可を貰ってある年齢を超えた奴限定かつ悪意とか下心を持った奴が近づきにくい結界も張らせてもらった。その辺りの心得があるなら別だが普通の記者やパパラッチ程度なら十分だろ……構築するの疲れたけどな」

 

「王様ってホント器用っすよね」

 

「これぐらいできないと王としてやっていけないんだよ」

 

 

 本当なら悪意やら下種な感情を持っている奴を全て近づけない結界を張りたかったがそれをしてしまうと学生すら近づけなくなるからかなり弱めなものにするしかなかった。外出や登校時には同じ効果を持ったペンダントを身に付けて気づかれない様にしたし多分大丈夫だろう……平家にやりすぎて逆にキモイとか言われたけどその言葉を甘んじて受けよう。だって俺もキモイと思ってるし。でも術式構築関連を昔に親父やセルスから教わっててよかったわ。そうじゃなかったら今回のような時に水無瀬と橘に任せるしかなかったし……サンキュー親父達。

 

 教室に戻ってしばらくすると橘が戻ってきたので保健室で寝ていた平家を拾って一緒に下校。いつものように平家を自転車の荷台に乗せて俺が押している姿に橘はまだ困惑しているが早く慣れれば気にしなくなるぞ? 帰宅途中で橘の姿に気づく奴がいるかなとか周りを見渡してみたが予想通り誰も気づかない様子で少しだけ安心だ……まぁ、帽子と伊達眼鏡を掛けているから分かりにくいのかもしれないけど気づかれないならそれで良い。

 

 そして我が家に近づくと改装、改築、とりあえずデカくなった新しい我が家が見える。おぉ! 中々普通の家っぽい外見だ! これで城とかいう外見にしやがったら四季音を全裸にひん剥いて拘束からの放置プレイをする所だったがそんな事をしなくても済みそうだ。そんな事を思いながら玄関の鍵を開けて扉を開けて中に――

 

 

「おかえり、ノワール」

 

 

 ――入らず扉をすぐに閉める。あれ? なんか変な奴がいた、具体的には高校二年生の息子がいる見た目ホスト風の男がいた。いやちょっと待て……あれ? はぁっ?! 何でいんだよマジで何でいるんだよふざけんじゃねぇよ!! 後ろの方で平家は何かを察した表情を浮かべているが他は頭の上にハテナマークが浮かんでるだろう。俺もそうだ! もう一回開けてみよう……そうだ、きっと夢に違いない――

 

 

「……おかえり、ノワール」

 

 

 ――扉を閉める。これは不審者がいるという事で良いな。そもそもなんであの野郎が此処に居るんだって話だ。もう今日は遊びに行こうか! よしそうしよう!!

 

 

「現実逃避はその辺にしたら? 泣き始めるよ?」

 

「知らん。泣かせておけばいい……あぁ違う、俺の目には何も映らなかった」

 

「……王様? 家の中に誰か、なんだこれ……今気づいたけど結構デケェ魔力を持ってる奴がいやがる……! 近づくまで気づかねぇだと!!」

 

「今まで悟られない様に消していたのかもしれませんね……悪魔さん? 先ほどから慌ててますけどお知り合いの方ですか?」

 

「サードウダロウネー」

 

「ノワール。現実逃避も良いけどあの人が中で泣いてるよ?」

 

 

 平家がさっさと覚悟完了決めて中に入れよと言いたそうな視線を向けてきたからもう諦めよう。橘の何も分かっていなさそうな表情が可愛いからもう少し見ていたかったが流石にこれ以上は……その、なんだ、身内の恥を晒すことになる。

 

 扉を開けて中を見ると先ほどまで入り口付近で待っていたであろう男、俺命名ホスト野郎がガチ泣きしていた。あははははは……死ねよマジで何で泣いてるんだよふざけんじゃねぇよ。

 

 

「おいこら。勝手に家に入って泣いてるとはどういう了見だ? あぁん?」

 

「だってノワールが! ノワールが僕の顔を見ただけで扉閉めるんだよ!? 二回も!! 二回もだよ!? ()()()()悲しいよ!!」

 

「……今、なんかトンでもねぇこと言いませんでした?」

 

「お父さんってもしかして……悪魔さんのご両親ですか?」

 

「……あぁ。みっともなくガチ泣きしてやがるこいつが俺の親父でキマリス家現当主のハイネギア・キマリスだよ」

 

 

 とりあえず玄関先で泣かれていると邪魔だから影人形で首根っこ掴んでリビングまで運ぶ。家がデカくなったからリビングまで遠いかなとか思ったがそんな事は無かった。荷物と不審者を適当な場所に放ってソファーに座る……おぉ、落ち着く。ふかふかで座り心地最高だ。

 

 目の前に放り投げた男の名はハイネギア・キマリス。腰元まである長い茶髪を後ろで一本に束ねて優男の印象がありながらもどこかホストっぽい雰囲気を持っている。見た目がこんなでも母さん一筋で毎日毎日イチャイチャと非常にウザイ。

 

 

「んで? 何でいんだよ?」

 

「う、うん。ノワールの家を新しくしたからどんな風になったのかなと気になってね。デザインとか全部沙良ちゃんとセルスに任せたんだけど中々良いんじゃないかな? 気に入ってくれると嬉しいなぁ」

 

「そんな事は聞いてねぇんだよ。なんで此処に居るんだって聞いてんだ……まさかマジでそんな事のために態々人間界にやってきたわけじゃねぇだろうな? 仕事しろよ」

 

「ちゃ、ちゃんと仕事は終わらせてきたよ! それに息子の家にお父さんがやってきちゃいけない?」

 

「うん」

 

「……即答されたぁぁぁ!」

 

 

 目の前ですっごく落ち込まれると反応に困るんだけど……でもこいつ相手に別の対応とかできねぇしな。

 

 俺の隣に座っている橘が俺の服の袖を引っ張って可哀想ですよと言ってきたから普通の対応にしよう。仕方ねぇなぁ! 我が家の癒し枠にそんな事言われたらこれ以上外道染みた事は出来ねぇよ! 俺の膝を枕にしている平家から変態と言う視線が飛んできてるが無視だ無視。

 

 

「……あぁ、その、だ。ちゃんと何時来るとか言ってくれりゃぁ、まぁ来て良いぞ」

 

「本当かい! だったら今度からちゃんと連絡するよ。でもサプライズはダメだったかぁ、沙良ちゃんにも伝えておかないと」

 

「お義父さん。私は兎も角、他は初対面だから自己紹介した方が良いよ」

 

「あれ? 自己紹介してなかった? こ、コホン。初めましてだよね? 僕はハイネギア・キマリス、ノワールの父親でキマリス家現当主をしているよ。早織ちゃんや恵ちゃん、花恋ちゃんから二人の事は聞いているよ。犬月瞬君と橘志保ちゃんだよね?」

 

「え、あ、はい! 犬月瞬っす!」

 

「橘志保です。よろしくお願いします……あの、お義父様とお呼びしても良いですか?」

 

「勿論! 早織ちゃん達もそう呼んでるし好きに呼んでいいよ。今後もノワールをよろしくね」

 

 

 なんでか知らないが自分の父親でもないのにお父さんと呼んでるんだよなこいつ等……てか親父だけだよな? セルスとか母さんとか蛇女とかいねぇよな?

 

 リビングで親父と話していると仕事終わりらしい四季音が帰ってきた。いつものように酒を飲みながら見取り図みたいなものを渡してきたので確認すると確かに俺達がリクエストした部屋などがちゃんと付いており一般家庭と比べてをかなり広い面積となってた。そりゃ、周りのご家庭を引っ越しさせて面積を広げたんだし当たり前だよな。

 

 

「俺の部屋の隣は平家と水無瀬……あん? 全員の部屋が一カ所に集まってんのかよ」

 

「うん。沙良ちゃんがノワールの部屋の近くの方が皆喜ぶんじゃないかって言ったからそうしたんだよ。やっぱり王と眷属という関係であってもコミュニケーションは大事だと思うんだ。流石沙良ちゃんだよ!」

 

「完璧ですお義父様! ありがとうございますお義母様!」

 

「良い仕事。流石だね花恋」

 

「にしし~わたしぃ~をもっとほっめろぉ~」

 

 

 見取り図的に見るならば部屋順は犬月、水無瀬、俺、平家で俺の手前が橘、平家の手前が四季音か……他の部屋が余っているからこれは今後増える可能性がある眷属分って事だな。にしても母さん……めんどくせぇ事をしてくれたな。別にどうでも良いが俺の部屋の近くでなんで喜ぶと思ったか聞かせてほしい。まさか俺がオナニーしている音とか聞けるとかか? そんなんで喜ぶのは平家ぐらいだろう。

 

 他の部屋は訓練室が地下三階、地下二階には温泉とプール、地下一階には橘がリクエストした部屋とかが付いている娯楽施設。地上一階はリビングで二階は俺達の部屋、三階は来客専用室とかその辺り……結構デカいな。掃除とかが大変そうだ。

 

 

「掃除とかだったら定期的にうち(キマリス家)のメイドがしてくれるから安心して良いよ」

 

「……なんで分かった?」

 

「だってそんな事を思ってそうな顔だったから。ノワールはそういう所を気にするしね」

 

「ちっ。とりあえず家をデカくしてくれてあんがと……これからどうすんだ? 時間あるなら晩飯ぐらいは水無瀬が作ってくれるぞ?」

 

「それは良いね! それじゃあお言葉に甘えて夕飯をごちそうになっちゃおうかな。あっそうだノワール?」

 

「なに?」

 

「今度の授業参観なんだけど沙良ちゃんが見に行くって張りきってたよ? 僕とセルスは仕事で行けないけど護衛でミアも来るから泊めてあげてね」

 

 

 俺の時が止まった。蛇女が来るのは別にどうでも良い、あいつは楽に対処出来るからな……問題は授業参観に母さんが来る? 母さんが人間界に来る? マジで何しに来るわけ? あんの馬鹿野郎!? 自分が人間界に来てどんな目にあったか忘れてんじゃねぇだろうな!? つかなんでそれを知って……平家貴様ぁ!!! そのドヤ顔で全てを察したわ! テメェか! テメェが情報を流しやがったな!!

 

 

「お義母さんに媚びを売るのは当然」

 

「……ま、負けません!」

 

「しほりん! 引きこもりに負けちゃダメっす! 俺はしほりんの味方っす!! とりあえず王様は爆発した方が良い、いってぇぇぇ!? ちょま!? ラッシュタイムは無しっすよ!!」

 

「――ふふっ、ノワールの周りはやっぱり楽しい子が揃うね。良かったよかっ、ぶへぇ?!」

 

 

 このイライラを発散させるために犬月と親父をボコった俺は悪くない。

 

 とりあえず……母さんが来たらちゃんとしないとな。また襲撃とかされたら嫌だし……その、大事な母親だしな。




影龍王と聖剣使い編終了です。
観覧ありがとうございました!

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