ハイスクールD×D~地双龍と混血悪魔~   作:木の人

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28話

「到着しました☆ こちらがノワールさまと沙良さま、そしてハイネギアさまのご実家でっす!」

 

 

 馬車に揺られて数十分、ようやく目的地である俺の実家に到着した。揺れのせいで腰イテェし母さんと平家が引っ付いてくるしもう疲れた……やる事やったら今日は寝よう。馬車から降りた俺達の目の前にはデカく、そしてご立派な城が見える。周りには木々が植えられて自然の雰囲気を持たせつつ、笑いたくなるほど威厳に満ちた城は見る者を圧倒して感動させるだろう……家主である現当主が非常に残念だがな。

 

 初めて来た犬月と橘は目の前の城を見て絶句しているが何度も来ている水無瀬達はやっぱり大きいですよねぇみたいな表情をしているから対比が非常に面白い。そして馬車を降りてもなおくっ付いているお母様、そろそろ離れてください。四十代とは思えないおっぱいの感触でムラムラが止まりません。ノワール君のノワール君がもう大変なんですからマジでお願いします。

 

 

「――でっけぇ、マジでこれ家なんすか……家ってもっとこう、小さいモンじゃねぇの?」

 

「城だって家だぞ? まぁ、デカすぎて母さんが移動するのも一苦労なのが難点だな……初代キマリスはなんでこんな見え張った家を作ったんだ? 俺としては移動もめんどくさいからいい加減取り壊して新しいの作った方が良いと思うんだけどなぁ」

 

「元七十二柱だもん仕方ないよ。そしてそのセリフ、帰ってくるたびに言ってるよね」

 

「まぁな。んじゃさっさと中に入るか。ミア、母さんは俺が引き受けるからテメェは荷物を部屋まで運べ。中にはお菓子や菓子折の土産があるからそれは親父達の所まで持ってこい」

 

「了解でっす☆」

 

 

 荷物を蛇女に任せて俺達は玄関から中に入る。すると目の前には見た目通りと言うべきか豪華な内装でまさしく城だと思わせるような光景だった。そして幻覚だろうか……メイドと執事がお出迎えしてるんだけど? いや平家が到着早々、うわぁみたいな表情をしてたから予想はしてたがあのクソ親父、ここまでするか。態々廊下の端に一定の距離を置いて配置させて立たせるなよ……俺程度にこの歓迎はいらねぇしこんな事させるぐらいなら休みかそれぞれの仕事でもさせておけってんだ。まぁ、現当主の命令ならこいつらは喜んでやるだろうけども。

 

 

「奥様、ノワール様、眷属の方々。おかえりなさいませ」

 

 

 目の前の光景に呆れる、または圧倒されている俺達に並んでいる執事やメイドの中でも別格の雰囲気を放つ男が歩いてくる。長い黒髪をポニーテールのように後ろで結んでいる細目の男、服装は執事服で当たり前だがキマリス家の執事の一人……ただし執事長という立場の男だ。これも予想はしていたがテメェまで出迎えとはホント暇なんだな?

 

 

「よぉ。テメェまで出迎えとはそんなに暇なのか?」

 

「ハイネギア様のご指示ですので暇ではありませんよ――本来ならば私もこの時間は別件の仕事をする予定でしたが急遽、ノワール様がお帰りになるに当たって早めに終わらせる羽目になりました。後で主にきつく言っておいてくださるとこちらは助かります」

 

「了解。ぼっこぼこにして泣かせとくから並んでる奴らを元の場所に戻していいぞ。どうせあのクソ親父の事だ、こうした方が歓迎している事が分かってもらえるとでも言ったんだろ?」

 

「はい。私は彼らの仕事もありますから程々にとは言ったんですがハイネギアが聞かなかったのです」

 

「おい素が出てんぞ。まぁ、変に畏まれてもこっちが困るから別にいいけどよ……親父は?」

 

「ダイニングルームでお待ちです。さぁ、こちらへどうぞ」

 

 

 並んでいた執事、メイドを一声で元の仕事場へと戻してから目の前の男は俺達を案内し始めた。後ろにいる犬月と橘から誰だみたいな視線を感じるけど後で紹介してやるから黙ってついてこい。

 

 長い廊下を母さんの足取りに合わせて進んでいき、ようやくダイニングルームに到着。やっぱり広すぎて母さんの足に負担がかかるだろ……早急にリフォームを要求する! せめて床が目的地まで動くとかその機能を付けろっての……その方が母さんも俺も楽だ。なんせ別の部屋に移動するだけでも数分とかかかるんだぜ? それぐらいしてもらわないとめんどくさくて困るんだよ。

 

 執事服を着た男がダイニングルームの扉を開けて俺達は中に入る。今までと同じく豪華な内装にシャンデリア、歴代当主の顔写真が並んで窓の外には木々による自然の光景が一望できる。そんな中で長テーブルの先にある椅子に座っているのは前に人間界にある我が家に侵入してきた不審者こと我が親父の姿があった。椅子も人数分、いや下手をすると人数以上のものが置かれておりテーブルには夕食という事で一般家庭ではお目に掛かれないであろうごちそうが乗っていた。確かに時間的には合ってるから文句は言わねぇけど普通で良いぞ? 毎回毎回こんなもん食ってたら母さんが太ったとかで大泣きするからやめた方が良い……過去にそれで俺と親父が母さんのダイエットに付き合わされたのを忘れるわけがない。あれは……辛かった!

 

 

「おかえり。長旅で疲れたでしょ? ご飯を用意しているから席に……あれ? ノワール、何その微妙そうというか何か言いたそうな顔は? あ、あれ……もしかして執事とメイドのお出迎えは嫌だった?」

 

「ほぉ。テメェにしては良く気づいたな? 嫌に決まってんだろ……マジでああいうのはやめろ。ウゼェし待っている時間だけアイツらの仕事が長引くんだから今度からは必要ねぇぞ。次に同じことをしたらラッシュタイムを叩き込むからな。セルス、これで良いか? 要望があるならもっと言うけど?」

 

「いえ満点ですよ。ノワール様」

 

「ダメよノワール。ネギ君を泣かせたらメッなのよ? セルスもダメよ? 私の旦那様なんだから困らせたら怒るわよぉ? おこよ、おこ」

 

「これはこれは……申し訳ございません。奥様」

 

「沙良ちゃん!!」

 

「ネギ君!」

 

 

 俺達の目の前で超ド級の年の差夫婦が周りの空気も読まずに抱擁を交わしている。はぁ……ウゼェ。結婚してから何年経ってると思ってんだよ? いい加減倦怠期が来てもおかしくねぇのに新婚の空気が抜けねぇのはある意味スゲェよ。犬月達も何と言うか微妙そうな表情をして俺を見てくるけど今の俺の態度を見て察したらしい。そうだ、これがキマリス家の日常なんだよ。

 

 呆れた様子で全員を席に座らせると橘が持ってきた土産を届けに来たのかミアと別の男がこの場に現れた。短めの茶髪で目が鋭く、見るからに寡黙という雰囲気を持つ奴だ……確かに俺の用事で呼んだけどまさかコイツまで食事の場に来るとは珍しいな。普段なら人が集まる場所には決して来ないのになぁ。

 

 

「コホン。では改めて自己紹介しようかな。僕と沙良ちゃんはもう知ってると思うから省いて……僕の後ろにいるのがセルス、僕の女王だよ」

 

「セルス・ハルファスです。キマリス家に仕える執事でハイネギア様から執事長と言う立場を任されています。主、奥様共々よろしくお願いします」

 

「……ハルファス? あれ? それって元七十二柱の名前じゃなかったですか?」

 

「確かそうだったはずです……悪魔さん?」

 

「お前らの疑問はごもっともだ。そこに居るセルスは元七十二柱ハルファス家の()次期当主だった男だ。あぁ、先に言っておくが今の次期当主じゃなくて昔の次期当主な。ハルファス家はセルスの弟が継いで今は後継者待ちだったか? こいつは純血悪魔の癖に珍しく純血主義が嫌いで家に絶縁状を叩きつけて親父の眷属になった変人中の変人だ。ついでに言うと俺の師匠の一人だがこっちに関しては今はどうでも良いな」

 

「マジで!? 王様の、師匠!? あっ、えっと……そんな事してハルファス家と喧嘩とかなんなかったんすか……? 上級悪魔で次期当主だったんならそれぐらいあってもおかしくねぇっすよね?」

 

「えぇ。一時期はキマリスとハルファス、両家の喧嘩にまで発展しましたが私自身の言葉でそれを治めましたので問題は無いですよ。私の弟が当主を継いで今は息子、または娘が生まれるのを待っている状態ですし今更私程度に構っている暇もないでしょう。ノワール様の師匠ではありますがノワール様が禁手に至り、私とハイネギア様を超えてからは教えることも無くなってしまいましたので一時的にと言う言葉が妥当でしょう。今では勝つ事すら難しいですからね」

 

「にしし。ノワールよりも弱いって言ってもこの男は強いよ。この優男とはねぇ、過去に一回だけ手合わせしてもらったけど楽しかったよ。またやりたいね」

 

「鬼の貴方と戦うのはこちらの身が持ちません。ノワール様で満足してください」

 

「さらっと俺を売るなよ」

 

 

 細目、落ち着いた雰囲気を持つセルスだが偶に毒を吐くことがある。主な対象は親父、幼馴染と言う関係だからかプライベートでは主と執事と言う立場じゃなくて幼馴染同士の立場で過ごしている。親父もセルスも次期当主として交流が有り、学校でも同じクラスと言う腐れ縁だもんな。二人とも今でも珍しい純血主義に疑問を持つ悪魔同士だったがセルスの方が両親からのしきたり等に耐えきれなくなって親父(ハイネギア)に頼み込んで女王になったほど純血主義嫌い。まぁ、そのせいでキマリスとハルファスの間で小競り合いが発生したけど本人が絶縁状を叩きつけて下級悪魔と同じ扱いで構わないと断言した事で終了したけども……本当に変人だよな。俺が言うのもあれだけどさ。

 

 ちなみに過去、セルスと四季音が戦ったがそれは酷いものだった。互いに全力を出し合った結果、周囲が崩壊してあの四季音の片腕が折れてセルス自身も大怪我を負う事態になったしなぁ……二人とも満足そうな表情だったけど。

 

 

「あ、あの……お義父様。あちらの方は……?」

 

「あぁ、紹介するよ。僕の騎士、東雲志月(しののめしづき)だよ。ちょっと無口な所もあるけど皆も仲良くしてほしいな」

 

「……東雲志月、よろしく」

 

「ども。犬月瞬っす」

 

「橘志保です。よろしくお願いします」

 

「……」

 

 

 二人の挨拶に東雲は軽く会釈をする程度で済ませる。あのさぁ……まだ人見知り治ってねぇの? 女が苦手なのは分かるがせめて人見知りぐらいは治そうぜ。俺でさえ他人と偶に話す事があるってのに俺より年上のお前がそれじゃあカッコつかねぇだろ。

 

 

「仕方ないよ。人見知りって結構辛いんだよ」

 

「お前が言うと説得力あるなぁ……二人にはバラすけど東雲は無口で不愛想で何考えてるか全然分からねぇ奴だが単に人見知りで女が苦手なだけだ。悪い奴じゃねぇし実力も保証する――俺が騎士枠で欲しいと思ったほどの奴だしな」

 

 

 これは本当だ。結構前だが模擬戦で戦った時、いつものように影人形を生成して向かわせたら一本の刀で真っ二つに斬られた。手を抜いていたわけじゃないがいきなり縦に真っ直ぐ斬られているのを見た瞬間は笑ったなぁ。人が居なければ強いんだが人見知りと女嫌いのせいで普段は半分程度の実力しかだせねぇのは如何にかしろよ……いや割とマジでトレードも考えてたんだからそこは治してくれ!

 

 

「……俺は、親父の騎士として誇りを持っている。ノワール様の元へは、行けない」

 

 

 こいつも何故か俺の親父、まぁこいつ(東雲)からしたら主を親父呼びするんだよな。口数が少ないとはいえ親父の眷属として誇りを持ってるから俺程度には従わないのは分かってる。だからそんな顔するなっての。

 

 

「だろうな。冗談だよ冗談」

 

「あはは。僕としても志月はトレードできないかな、セルスと同じくらい強いし最近のテロのせいで忙しいからね。他にも眷属が居るんだけど全員その対応に追われて出払っているんだ。ごめんね」

 

「い、いえ! お義父様とお義母様にお会いできただけで十分です!」

 

「あら、志保ちゃんはやっぱり良い子よねぇ。そうだ、お風呂で外のお話しを聞かせてちょうだい。外の話をしてくれるのは恵だけで花恋も早織もあまり外に出歩かなくて話してくれないのよぉ」

 

「覚妖怪は引きこもりだもん……外は地獄……!」

 

「外だと酒が飲めないしねぇ。この見た目だと職質されるから家に居るしかないのぉ~にしし、ごめんよ」

 

 

 そんなこんなで夕飯を食べ終えた俺達は各々に割り振られた部屋に向かう。明日から特訓に入る予定だから今日一日はゆっくり休んでほしいよ――地獄が待ってるから疲れましたって言っても無駄だしな!!

 

 

「お待たせしました。コーヒーをどうぞ」

 

「サンキュー」

 

 

 自室に戻った俺はセルスを読んでコーヒーを淹れてもらっていた。こいつが居れるコーヒーは結構美味いから俺は好きなんだよなぁ。セルスの他にも東雲も呼んで俺と同じようにコーヒーを飲んでいる。周りに人がいないからか凄く楽そうだ。

 

 

「……俺を呼んだ理由はなんだ?」

 

「明日から俺達の特訓を始めるのは親父を通して聞いていると思う。お前には平家の相手を頼みたい」

 

「……俺が、か」

 

「あぁ。平家は所謂天才肌で何をやらせても人並み以上にはできるがそれまでだ。もう一個上の段階まで持っていきたいからひたすら二人で殺し合ってくれ。遠慮はいらねぇし殺しても俺は文句は言わねぇよ。それにテメェも覚妖怪のアイツなら少しは楽だろ?」

 

「……分かった。殺したらすまん」

 

「別に良いって。セルス、お前には犬月の相手を頼む。こっちも遠慮はいらねぇし壊しました、殺してしまいましたとかになっても問題はねぇ。親父にも俺から時間があれば犬月の面倒を見ろって脅しとくから二人で徹底的に鍛え上げろ。せめて昔の俺並みまでは使えるようにしてくるとスッゲェ助かる」

 

「畏まりました。ノワール様の兵士と聞いてどのような人物かと思っていましたが――確かに伸びしろはありそうです。貴方が期待するのも分かりますよ」

 

「だろ? 完成された奴よりも未完成で放置されてた奴の方が面白い。あと忙しそうだったから呼ばなかったけどミアに橘の相手を頼むって伝えておいてくれ。アイツは犬月達のように前線タイプじゃなくて水無瀬のような後衛タイプ、その辺りの戦い方と魔力の使い道を教え込んでくれとな」

 

「分かりました。水無瀬様はノワール様がお相手するとして……四季音様はどうします?」

 

「そっちは今から交渉する。もしダメだったら……俺が面倒みるよ。普通に毎日殺し合ってればあいつも成長するだろうしな」

 

 

 流石に水無瀬の相手をしながら四季音もとなると俺の修行時間がかなり減るかもしれないが……殺し合いの相手としては夜空よりもちょっと劣るが他よりはマシだ。それに基本的に俺の特訓は神器に潜るか影人形融合形態を維持するかの二択ぐらいだしいつでもできるしな。

 

 俺の言葉を聞き終えたセルスと東雲が部屋から出て行ったのを確認して通信用の魔法陣を展開する。連絡相手は俺の使い魔がお世話になっている存在で俺よりも高い地位に居る――ドラゴンだ。

 

 

『――久しいな影龍王。冥界に戻ってくるとは聞いていたが早かったな』

 

「お久しぶりです。タンニーン様」

 

 

 連絡相手は魔龍聖(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)と称されるドラゴンであり最上級悪魔の一体、タンニーン。その実力は非常に高く、気性が荒く己の道しか進まないドラゴンを纏め上げるほどの存在。正直な所……ドラゴンとしてはかなり先輩だから普段のような口調では絶対に話せない。無理無理、流石の俺でも敬語を使わざるを得ないわ――相棒は別だけど。

 

 

『久しいなぁタンニーンちゃんよぉ。なんだ? まだ死んでねぇのかよ。死にたくなったらいつでも言えよなぁ? 宿主様と俺様が殺してやんよ』

 

『相変わらずだなクロム。いや、昔よりは丸くなったか? 生前のお前ならば俺の言葉を待たずに殺しに来ていただろう』

 

『ゼハハハハハハ! その通りだぜタンニーンちゃん! 俺様、どうやら弱くなっちまったようでなぁ。もう大変なんだぜぇ? 雑魚の相手をしたり魔王のクソ加減を目の当たりにしたりと鬱憤が溜まりっぱなしよぉ! まぁそれはそれで楽しいけどなぁ!!』

 

『そうか。して影龍王、俺に何の用だ?』

 

「明日からうちの鬼、酒呑童子をタンニーン様の領地に居るドラゴンと戦わせたいんです。勿論ドラゴンは殺さず瀕死の状態で留めるように言いますしうちの鬼が戦闘で死んでも何も問題はありません」

 

『なるほど。長期休みを利用して眷属を鍛えようという事だな。良いだろう、俺の領地に居るドラゴン達も大きな争いが無くなった事で退屈しているから酒呑童子ほどの存在ならば相手にとって不足は無いだろう。思う存分戦うが良い』

 

「ありがとうございます……でも自分の領地に住んでいる領民が大怪我するかもしれないのによく許可できますよね?」

 

『それがドラゴンというものだ。闘争こそがドラゴンとしてあるべき姿とも言える。奴らも久しぶりに同族以外と戦う事が出来て興奮するだろうが……中には発情期に入っている者もいる。だからだな、そう言う事になっても恨むなよ?』

 

「全然問題ないんで遠慮なく子作りさせてください。ただ体がちっちぇし胸も無いんで欲情できるかどうかが問題ですけどね。あとあれ(四季音)を簡単に屈服させて抱けるんだったら俺はここまで苦労しませんよ」

 

『だろうな。他の奴にも伝えておこう――久しぶりに話せてよかったぞクロム、宿主を大事にしろ』

 

 

 その言葉を最後に通信が切れる。はぁ、緊張した! 流石に最上級悪魔の一体、しかも先輩ドラゴンで尊敬できる人物と話すのは辛い。主に敬語が辛い! でも四季音の件はこれで解決。あいつもドラゴンと喧嘩できるなんて知ったら嬉しくて股を濡らすんじゃねぇかな? 俺って良い奴だよなぁ! うんうん! 流石影龍王と呼ばれるだけの事はある! 個人的には俺がドラゴンと戦いてぇが今回は譲ってやるんだからマジで感謝してほしい。

 

 そんなわけで時間は進んで翌日、冥界だと太陽が無いから朝だという事が分かりにくいがちゃんと人間界で言う朝の時間帯になっている。魔王達が人間ベースの転生悪魔の事を考慮して時間経過を人間界と同じように調整してくれてるお蔭で俺達は浦島太郎状態にはならないわけだが……せめて太陽の光ぐらいは再現してほしい。朝か夜か判別しづらいし……魔力による光だったら大丈夫だと思うんだがなぁ。

 

 

「よし、全員集まったな」

 

 

 どうでも良い事は置いておいて今からする事に集中するとしよう。目の前にはジャージ姿の犬月達が横一列に並んでいる。その表情はこれから地獄が始まる事を察しているのかかなり真剣なものだ――約一名ほど真っ青になってるけど。

 

 

「前々から言ってた通り、今日からお前らのレベルアップのために特訓をしようと思う。まずは犬月!」

 

「ういっす!」

 

「お前はセルスとの殺し合いだ。キマリス領内にある森の中で朝から晩まで寝ても覚めても殺し合え。セルスにはお前を殺しても良いって言ってるから死ぬ気でやらねぇと二度とアリス・ラーナを殺せなくなるからそのつもりでやれ。あと付け加えるなら親父も偶に参戦するから覚悟しておけ」

 

「――上等! ぜってぇ強くなってやる……絶対に!!」

 

「よし。次は橘」

 

「は、はい!」

 

「お前は基本的にはミアに僧侶として戦い方や魔力の使い方を学べ。退魔絡みで戦闘には慣れてるだろうが悪魔としての戦い方はまだ未熟だ。霊力と魔力、どっちも今より使えるレベルまで高めろ。あとこれは俺からの宿題だが……教科書通りの魔力の使い方じゃなくて自分なりの使い方を見つけろ。いいな?」

 

「――はい。悪魔さんの僧侶として、お役に立てるように頑張ります!」

 

「んじゃ次、平家」

 

「了解」

 

 

 恐らく既に俺の心を読んでいたんだろう……でも一応説明しとかないと周りが分かんねぇからな。特訓中もあいつはあんな事をしてる、だから負けられないとか対抗意識を持たせるのも大事だし。

 

 

「説明ぐらいさせろ……お前は東雲と一対一で殺し合いだ。言っておくが気を抜くと犬月と同様に死ぬからそのつもりでな」

 

「分かってる。ちゃんと生き残るから終わったらご褒美頂戴」

 

「終わったらな……さて四季音」

 

「うぃ~? わたしぃ~はなにするんだぁい?」

 

「お前は特別メニューだ。譲ってやった俺に感謝しろ」

 

 

 魔法陣を展開してとある存在を呼び出す。それは黒い鱗に一本角が目立つ龍の顔、胴体は蛇のように長く手足は存在しない代わりに巨大な翼が生えている一匹のドラゴン――ワイアームと呼ばれる種族にして俺の使い魔。それが出現した瞬間、犬月と橘が唖然とし始めたが恐らくなんでドラゴンが現れてんのって思ってるんだろう。俺の心を読んだ平家は呆れて四季音はそれを見て――笑った。だよな! お前はそういう奴だし!

 

 

「俺の使い魔のヴィルだ。お前は今日からドラゴンの棲み処……タンニーン様の領地に住んでる血の気の多いドラゴンと戦ってもらう。勿論制約として殺すまで戦えとは言わんが相手はお前を殺しに来るし性的な意味で襲いにも来る。処女失いたくなかったら勝ち続けろ」

 

「――にしし! 良いね良いねぇ! そういうの大好きさ! ドラゴンとの勝負なんて私を喜ばせる事をしてくれるじゃないか!」

 

「……てか使い魔って言いましたけどこれぇ!? 使い魔じゃなくて眷属の間違いじゃないんすか!? そりゃ俺達が使い魔をゲットする際に呼ばないわけっすよ!! てか、えぇぇ!?」

 

「お初にお目にかかる。私はワイアームのヴィルと言うものだ。ノワール様、クロム様、お久しぶりです」

 

「おう。今日から四季音を頼むぜ」

 

「分かりました」

 

「ドラゴンさんを使い魔にするなんて悪魔さんって凄いんですね……びっくりしました」

 

「グレモリーの所のシスターもドラゴンを使い魔にしたらしいよ。例外みたいだけど」

 

「そ、そうなんですか!?」

 

「はいはい。無駄口はそこまでだ……最後、水無瀬」

 

「は、はいぃ!!」

 

「お前は今から俺と一緒に別の場所へ移動だ。そこで特訓内容を説明する。他の奴らは師匠の言う事を聞いてちゃんとやれよ? 四季音は……頑張れ」

 

「とーぜん! 思いっきり暴れてくるさ!」

 

 

 説明を終えた俺は水無瀬と共に別の場所へ転移する。その場所とは普段、夜空と殺し合っている場所……さて、始めるか。

 

 

「……ここは、ノワール君と夜空さんがいつも戦っている場所ですよね……?」

 

「そうだ――水無瀬」

 

「はい――ひぃ!?」

 

 

 影人形を生み出して水無瀬の頭の横に拳を突き出す。いきなりの事で水無瀬は反応できず拳が通った後でそれに気が付いた……そして今から行われることも察したんだろう。顔が真っ青に変化していくがそんな事は知った事ではない。

 

 

「あ、あの……ま、さか……」

 

「お前は禁手に至るまで俺と鬼ごっこ(殺し合い)だ。言っておくが加減しねぇぞ? 死んだらまぁ、墓ぐらいは立ててやる。生き残りたかったら自分の神器を変化させろ、出発点に至れ、自分の思いを形にしろ――じゃあ、始めるか」

 

 

 俺達の特訓は水無瀬の悲鳴から始まった。まぁ、頑張れよ……俺の僧侶ちゃん。




ノワール・キマリスの使い魔
名前 ヴィル
種族 ドラゴン(ワイアーム)
見た目は遊戯王「始祖竜ワイアーム」が黒くなった感じです。

観覧ありがとうございました!

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