ハイスクールD×D~地双龍と混血悪魔~   作:木の人

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2話

「もうヤダ帰りたい」

 

 

 昼休み、俺の隣にいる平家がぐったりとした様子で言い出した。

 

 場所は駒王学園保健室、つまり水無瀬の職場でもある場所に俺と平家は集まっている。理由なんて大したことじゃない……ただ飯を食いに来ただけ。たったそれだけの理由――と言いたいが半分以上は平家がかなり疲弊していたため休ませる意味合いも兼ねてこの場所にやってきていた。

 

 

「女子は辛いなら帰ればいいのにとか可哀想とか彼氏の所行けばいいのにとか心の中で言うし男子は病弱サイコーとかヤりてぇとかここで話しかければ好感度アップとか下種な事しか思わないしもうヤダ帰りたい」

 

「……意識しなかったら心の声は聞こえないんじゃなかったのか?」

 

「そんな事で聞こえなくなるなら最初からやってる……それが難しいから悩んでるんだよ。自分のクラスだけじゃなくて他のクラスからも聞こえるし――何より変態三人衆の心の声が一番キツイ」

 

「だろうなぁ」

 

 

 変態三人衆。それは駒王学園始まって以来の所謂スケベな三人の学生の事だ。俺は別のクラスのため離れた所で顔を見る程度だがエロ本やAVを持ち込んでいたり女子の着替えを覗いたりとやりたい放題のようだ。俺は男だから危害は全くと言って良いほど無いけど女である平家は心の底から辛い事もあるだろう。

 

 そして最悪な事にこの変態三人衆の中に、赤龍帝と呼ばれる二天龍の一体が宿っている事はどうしたらいいんだろうか。

 

 

「放っておけばいいよ。天龍だろうと変態は変態……」

 

「確かにあの子達はやりすぎてますから……学園でも処分を検討していますので近々彼らに通達されるかと思いますよ。それから早織、辛ければベッドで横になっていても良いですよ」

 

「そうするけどできれば早退したい……でも単位が足りなくなる、辛い。病弱設定なのに休めないとかおかしいよ」

 

 

 こいつ(平家)のいう通り、学園では病弱の設定で通している。平家自身の事情によって毎日通学することが困難なためやむなくこの設定をすることになった。

 

 何故なら平家は(サトリ)妖怪の一人で他人の心の声が聞こえてしまうからだ。意識しなければ大丈夫との事だがそう簡単にはいかず出会って眷属にしてから今日まで自分の能力に苦しめられている。確かに他人の心の声なんて最悪で吐き気がするような事ばかりだろう……平家自身の容姿が良いからなおさらそれに拍車がかかるのも事実。隣で水無瀬が作った弁当を食べてはいるが顔色がかなり悪い……此処に通わない方が良いんじゃないだろうか?

 

 

「……自分で通うと言った以上は卒業まで頑張る」

 

「そうは言うが毎回その顔色だろうが」

 

「人混みは慣れてない、だから慣れれば大丈夫。大丈夫だ問題ない」

 

「そ、その顔色で言われても説得力がないですよ? 次の授業まで時間はありますから横になってください。もし無理そうなら担当の先生に事情を説明しますからね」

 

「水無瀬、俺も体調が悪いから説明よろしく」

 

「ノワール君は五体満足で体調不良なんてこれっぽっちもないでしょう? サボリはいけません」

 

「ケチだなぁ」

 

「当たり前の事を言っているだけです。そもそも早織は良いとしてノワール君は自分の教室で食べなさい」

 

「俺様、友達いない、そして此処俺達の部室、何も問題ない」

 

「何時からここは同好会の部室になったんですか……」

 

「最初からだよ。ノワール、友達がいない者同士仲良くサボろう」

 

「そうだな――はいはい、嘘だよ。友達いないのは確かだが自分の眷属が辛そうなのを見て放っておけるか。平家も俺の心の声だけに絞れ、それぐらいならできるだろ?」

 

 

 隣にいる平家は小さく頷いた。他人の心の声を完全に聞こえないようにするのは難しいが特定の人物にだけ的を絞るのは案外簡単な方らしい。ただしその場合はその人物の深層心理や過去の記憶まで覗いてしまうのが難点との事……もっとも俺はその辺りを覗かれた所で嫌悪したりなんてしない。読みたければ勝手にどうぞ状態だ、と前に平家に言ったらバカだよねと真顔で言われたのは今でも覚えている。

 

 

「バカだよ。覚妖怪なんて妖怪の中でも嫌われ者なのに眷属にして好きなだけ心を読めとかキチガイとしか言えない。だからノワールはバカ、大馬鹿だよ」

 

「心配してるのに失礼な奴だなぁ」

 

「……嘘冗談。ありがとう」

 

「……ノワール君って早織に対しては過保護ですよね」

 

「そうか? 自分の眷属の事を考えるのは普通だろ。それに俺も混血悪魔で平家ほどじゃないが昔から純血悪魔の嫌な部分とか見てきたし苦労もしてきた。だから辛い奴を放っておくことは出来ねぇよ。水無瀬も何かあったら言えよ? 一応俺様、お前の主様だから」

 

「クスッ、はい。そうさせてもらいますね。ですがクロムの物まねはやめましょう、俺様とかノワール君には似合いません」

 

「えっマジで?」

 

『ゼハハハ! 俺様と言って似合うのはこの俺様、クロム様のみなんだぜ宿主様よぉ。似合うようになるまでざっと見て数千年後って所か、頑張れ宿主様。俺様、期待して待っているぜ』

 

 

 何故俺様と言うのに数千年も待たないといけないのか理解不能だが確かに自分で言ってみてこれはないわ、と思ったから反論はしないでおこう。

 

 この後は弁当を食べ終えた平家をベッドに寝かせてから保健室を出る。一応出る前に俺の心の声だけ聞いていろよと言っておいたがちゃんとやってるんだろうな? とか思っていたら携帯に『聞いてるよ』と言う一文だけのメールが届いたから問題ないらしい。てかこの部分だけ見ると盗聴している女子からのメールっぽくて怖いな。実際には心を盗聴しているから間違ってはいないが。

 

 

「黒井零樹君。少し良いかしら」

 

 

 何をするわけでもなく教室へと向かっていると珍しく話しかけられた。その人は平家と同じ長い黒髪で眼鏡をかけている真面目そうな美少女、いや美女? とりあえず駒王学園の中でも男女問わずに人気があるのは見た目通りの性格と容姿によるものだろう……あとついでに女の園として有名な駒王学園生徒会の副会長と言う理由もあると思う。

 

 しっかし自分でつけた偽名だが安直だな。ノワールだから黒井、霊気を操るから零樹。うん安直だ。でも生徒会長も似たような感じの偽名使ってるし問題ない問題ない。

 

 

「……構いません。でも真羅副会長が俺に何か用ですか?」

 

「はい。生徒会長から『心霊探索同好会』の活動目的、及び実績などでお話があるようです。放課後に生徒会室まで来ていただきたいのですがよろしいですか?」

 

「分かりました。あと、俺程度に敬語はいらないですよ……では放課後に伺います」

 

 

 会釈をして副会長から離れる。しっかし同好会の活動目的に実績ねぇ……特にやることなんてないんだがなんて説明するべきか。心霊現象なんて簡単に起こせる上、単に平家と水無瀬と一緒にいてもおかしくはないように作った適当な同好会でそこまで力を入れているわけじゃない。となると形式上は同好会に関する事で実際にはまた別の話、かねぇ。

 

 歩いていると平家から『副会長の心を読んだけど悪魔絡みの話をしたいみたい』というメールが届いた。凄くありがたい情報だが他人の心を読むのは苦痛じゃなかったのか覚妖怪。でもあれだよなぁ~まさか美女と美少女が揃っている生徒会がまさか全員俺と同じ悪魔だなんて誰も思わないだろう。しかもトップが現魔王の妹なんだからさらに驚きだ。だからと言って変態という文章のみのメールはどうかと思うぞ引きこもり。

 

 

「おぉ、今日も嫁さんの看病かい? 羨ましいねぇこのこの~」

 

「そんなんじゃねぇよ」

 

 

 教室に戻ってくると特に仲が良いと言いうわけでもない……強いて言えば去年も同じクラスだった男子生徒から冷やかしなのか冗談なのかよく分からないことを言われた。確かに平家が入学してからほぼ一緒にいるがどうしてそんな風に思われるのか謎なんだが? まっ、男子生徒数が女子生徒よりも少ない上、そういった話がこの学園ではあまりないからだとは思うが。

 

 

「いいよなぁ。黒井はあの幻のお姫様と付き合ってるし匙の野郎は男子の夢の生徒会入り……どこで差がついたんだ」

 

「うんうん。どうすればそんな風になるのか教えてほしいんだが?」

 

「知らん。と、生徒会に新しく入った奴いるのか?」

 

 

 それが本当なら驚きだ。なんせ生徒会は全員悪魔、ただの一般人が入れるような場所じゃない……あぁ、だから悪魔絡みの話がしたいのね。そういう事か。あと――匙って誰だっけ?

 

 

「いやお前も去年から同じクラスだろう。匙だよ匙、今は生徒会室に行ってるみたいだがまさか名前知らないとかじゃないよな?」

 

「そんな奴いたっけ?」

 

「……お前、もう少し愛想よくした方が良いぞ」

 

 

 失礼な奴だな。クラスメートとしては軽く話す程度の奴にそんなことを言われる筋合いは無いんだが……どこからかコミュ障乙とか聞こえたような気がする。もっと具体的に言えば保健室で布団の妖精とかしている引きこもりがそんな事を言ったような気がする。お前一度鏡見ろ、きっと俺と同じコミュ障の自分が映っているぞ。

 

 適当に名前も忘れた集団と会話をしていると昼休みが終わった。メールを見た限りでは平家は自分のクラスに復帰したようで少しだけ安心だ。きっと今も適当に授業を聞きながら俺の記憶でも盗み見ているんだろう……ロクな記憶はないと思うが楽しいのかねぇ。まっ、あいつがいいならそれでいいんだけども。

 

 

「失礼します」

 

 

 そして時間は進んで放課後、俺は約束通り生徒会室までやってきていた。扉をノックし、どうぞとの声が聞こえてから中に入ると生徒会役員全員が待ち受けていた。此処だけ見ると俺が何か悪さをしたようにも感じるが品行方正かつ真面目だからそんな事をするわけがない……うん、自分で真面目とか言ってみたけど全然真面目じゃないな。そして品行方正でもない。

 

 副会長の真羅先輩に案内されてソファーに座らされる。目の前には駒王学園生徒会長が綺麗な姿勢で座っている。そしてその後ろには役員が……あれ? 男がいる。あぁ、噂の生徒会入りをした奴か……何故驚いた顔をしているんだ?

 

 

「突然お呼び出しをしてしまってごめんなさい」

 

「生徒会長に呼び出されれば来ないわけにはいかないですよ。心霊探索同好会の活動目的と実績についての話でしたっけ? それに関してはうちの部員の体調が安定次第に心霊スポット巡りをするつもりです――という話をするために呼ばれたわけじゃないですよね?」

 

「えぇ。何かしらの理由がなければ騒がれそうでしたから。今回お呼びしたのはここ最近の駒王町に関する事と……私的だけれども新しく入った子の紹介ね」

 

「態々俺なんかに紹介をしていただけるとは光栄ですね」

 

「同じ学園に通う私と同じ王、キマリス家次期当主、そして影龍王ともなれば紹介しなければシトリー家の名に傷が付きます」

 

「別に傷は付かないと思いますが……そのご厚意には感謝いたします」

 

 

 目の前の女性――支取蒼那、またの名をソーナ・シトリー。俺と同じ元七十二柱シトリー家の次期当主で純血悪魔、そして現魔王の妹の一人。そんな人がただの混血悪魔である俺に眷属を紹介してくれるとは他の奴に知られたら反感を買いそうだ。もっとも手を出して来たら問答無用で再起不能にするけど。

 

 しっかし影龍王、ねぇ。その名は俺じゃなくて相棒を表す異名だからあんまり呼んでほしくはないんだよな。だって相棒が俺なんかと同列に見られててなんか嫌だし……相棒の経歴からすれば俺なんかはその辺のゴミと一緒なんだから。

 

 

「それじゃあ紹介するわ。私の兵士(ポーン)の匙よ」

 

「匙元士郎、って同じクラスだから知ってるよな? でも驚いたぜ……会長からお前も悪魔で王だって聞かされた時は嘘かと思ったぞ――って何だその顔? 初めて会ったような顔だがまさか忘れたとかじゃないよな!?」

 

「すまん。マジで誰だ?」

 

「去年も同じクラスだっただろ!? なんで忘れてるんだよ!? 去年の学祭とか体育祭とかで絡んだだろ!!」

 

「昔の事は忘れることにしているんだ。悪いな――と言うのは冗談半分、今日の昼に初めて知ったよ」

 

「どっちみち忘れてるんじゃねぇか!?」

 

「匙……クラスメートと言えど彼は――」

 

「ただの混血悪魔なんでこのままでいいですよ。生徒会長のように年上ならともかく同い年で畏まってるのもなんか変ですし。それと名乗り返すよ、ノワール・キマリス。生徒会長と同じ元七十二柱キマリス家次期当主で一応王になってる。黒井零樹は学園に通う都合上名乗っている偽名。今は席を外しているが心霊探索同好会に所属してる平家と顧問の水無瀬は俺の眷属、あと一人は実家の領地で大工仕事中だ。日を改めてこちらから紹介に伺わせてもらいますよ」

 

「……マジ? あの大天使水無せんせーが黒井の眷属!? ついでに幻のお姫様も!?」

 

「あぁ、先日、彼女にシトリー領にある病院の破損個所を治していただきました。この場を借りてお礼を言わせてもらうわね」

 

「あいつの仕事なんで気にしなくていいですよ。今後も大工仕事があればいつでもご連絡を……あいつを働かせないと酒代がヤバいんで」

 

 

 俺と平家は学生、水無瀬は教師としてこの学園にいるが四季音は冥界で大工関係の仕事に就いている。そもそもあいつは見た目が小学生だから働くことも出来ず、かといって酒を飲むから学生として通わせることも教師として働かせることも出来ないから仕方がない。それにあいつは鬼の種族で怪力の持ち主だから力仕事はまさに天職と言ってもいいだろう。噂では酒飲みながら働いてるみたいだが仕事はきっちりとこなしてるらしい……真面目なんだか不真面目なんだかよく分からん。

 

 余談だが鬼故のカリスマなのか働き始めて僅か数時間で同僚や上司、部下を纏め上げて必要不可欠な存在になってるらしい。どうしてこうなった。

 

 今なお混乱中の匙君を放っておいて次の話題に移る。今の駒王町の事らしいがなにかあったか? 個人的にはあの規格外が何度も出入りしてるという事と堕天使が潜入している事しか知らないぞ。

 

 

「キマリス君、ここ最近だけれども駒王町に堕天使が潜入している可能性があるわ」

 

「あっ、やっぱりですか。前にうちの眷属の一人がそれらしいものを感じたと言ってましたけど……まだ対処されてないんですか?」

 

「えぇ。基本的に駒王町を治めているのはリアスだから彼女が見つけ次第対応するんだけれど……でも知っていたのね。とすると既に居場所も分かっているのかしら?」

 

「さぁ。あいつが感じただけらしいんでどこにいるかまでは分かりませんよ。それに分かっていたとしても俺は関与しませんから教える意味もないです」

 

 

 知らないというのは嘘だ。実際には既に平家が堕天使の一派が隠れている場所を見つけている……でも言わない。此処は俺が治めている場所じゃないし勝手な事をして怒られたくもない。俺も平家も水無瀬も四季音もごく普通の生活をこの町でしているだけだしな。そんな事を言ってみたら生徒会長が複雑そうな顔をしたけど気にしない、だって事実だし。

 

 

「……まぁあいつ等に手を出す、俺の目の前で誰かを襲うなんて事になったら問答無用で殺すんで安心してください」

 

「戦争の火種にならない程度にお願いね……噂では光龍妃が他勢力相手に暴れまわっているようだから何が発端で戦争になるか分からないもの」

 

「あの規格外、単に暇だからあそぼぉ~みたいな思考でやってるんで気にするだけ損ですよ」

 

 

 確か夜空の奴、北欧からギリシャ、インド、とりあえず手当たり次第に遊びと言う名の襲撃をしてるから他勢力も対策を練ってるらしいな。あんの馬鹿……ちょっとは自重と言う言葉を覚えろっての。そして主神や神相手に死なずに生き残ってるあいつってやっぱり規格外だわ。俺なら普通に数百回は死んでる。

 

 

「……とりあえずこの地域で何かあれば言ってください。俺の力でどうにかなるなら手を貸しますから」

 

 

 先ほどの発言で俺以外の全員が何とも言えない表情をし始めたから話を打ち切る。ついでに言うとそろそろ帰宅時間だ――なんでも平家が遊んでいるゲームのイベントが開始されるとかなんとかで早めに帰るぞとお達しがあった。あいつ一応俺の部下だよな? 何で上司を顎で使ってんの? 別にいいけどさ。

 

 

「え、えぇ。頼りにしているわ。それと同じクラスという事で匙とも仲良くしてもらえるとありがたいわ」

 

「それはお約束はできないかもですね。それでは失礼します」

 

 

 全員に会釈をして生徒会室から出る。そして向かう先は引きこもりが引きこもっている保健室……まっ、今日一日頑張ったんだから許してやろう。水無瀬に先に帰ることを伝えて平家と共に学園を出る。荷台に乗っているというのに早く早く、ハーリーハーリーなどと急かし続けてくるこの引きこもりをどうしてやろうか……!

 

 

「胸なら揉んでもいい。それ以外だと要相談」

 

「それやったら変態発言し始めるだろ」

 

「当たり前」

 

「……全く、困った眷属だよ」

 

 

 だが、何度も言うが頑張ったんだからこれぐらいは許してやろうか。




影の龍クロム →影龍王
陽光の龍ユニア→光龍妃

オリジナルドラゴンの二つ名は以上です。
観覧ありがとうございました!

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