ハイスクールD×D~地双龍と混血悪魔~   作:木の人

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29話

「おらぁ! 立ち止まんじゃねぇ!! 態勢立て直して即行動! ぶっ殺されてぇか!!」

 

「い、いやですぅ!!」

 

「嫌ならさっさと禁手しろよぉ! 何日同じ事してると思ってんだ!!」

 

「すいませぇぇんっ!! ひぃっ!? い、いやぁぁっ!?」

 

 

 俺は禁手状態となり影人形を先行させて逃げ惑う水無瀬に向かって拳を放つ。当然死にたくないという気持ちが強いためか水無瀬は自身の前方に三重結界を展開、そして足元には神器――逆転の砂時計(ロールバック・ストーン)を配置して迎え撃つ構えを見せる。影人形の拳が結界に触れたタイミングで能力を発動、結界の力を奪おうとするがそれよりも前に影人形は霧散した……性質を逆転させて「霊子の集合」を「霊子の放出」にでも変えたんだろう。全くよぉ、この芸当が出来るまで一日、鎧を纏った俺の攻撃に対応できるまで一日、そして先ほどの行動を同時に行えるまで三日……つまり五日掛けてこの様だ。加減してるんだからもうちょっとはマシになれっての。

 

 自分を襲ってきた影人形が消えた事で安心したのか一瞬だけ隙を見せたので一気に接近して水無瀬の真横から蹴りを叩き込む。そんな事をすればどうなるかなんて誰だって想像できる――生身の体にはかなりのダメージだろうな。

 

 

「くぅ……うぅ……!」

 

「消えたからって油断すんな。敵が一瞬の隙を見逃すわけねぇだろ? 軽く蹴っただけで骨に異常なんてねぇからさっさと立て」

 

「……は、い!!」

 

「それでいい。この五日間、何とか前よりはマシになったがまだまだ弱い。クソみてぇに弱いんだよテメェは……このままだとキマリス眷属の弱点になりかねない。それぐらい自分でも分かってんだろ?」

 

「……はい!」

 

「お前の取り柄は性質を逆転させる神器と後方支援、たったそれだけだ。犬月や平家、四季音のように前線に出られるわけでもなく橘のように器用でもない。お前、このままだと橘に追い越されるぞ? 雑魚、お荷物、昔の不幸な人生に逆戻りしたくねぇなら死ぬ気で神器を向かい合え!!」

 

 

 影人形を生成、即座に水無瀬に接近させる。流石に迎え撃つのは得策じゃないと今までのやり取りで学んだんだろう……悪魔の翼を生やして宙を飛びながら魔力を変化させた炎や氷柱、雷などを放って弾幕を張ってきた。それらを影人形のラッシュで粉砕しながら追いかけるのと同時に()の影人形を生成、実体を持たせず影として地面を這わせて水無瀬の真下へと移動させた。

 

 追いかける方の影人形――こっちをAとでも呼称しようか。影人形Aが飛んで逃げる水無瀬に追いついて拳を叩き込もうとラッシュの構えに入った――瞬間、先ほどのように形状を維持できずに霧散した。どうやら弾幕として放った氷柱に砂時計を取り付けて反転結界を形成したらしい。へぇ、面白い使い方するじゃねぇの……でも残念ながら下ががら空きだ。

 

 

「――つぅ!」

 

 

 自分の真下から接近してきた影人形Bの拳を二重結界を展開して防ぐ……二重? 今までは三重や四重の重ね掛けだったはずだ。なのにここにきて……あぁ、そういう事か。

 

 

「私はっ! 必ず禁手に至って見せます!! そのためなら痛いのも、辛いのも! 我慢します!! 反転結界!!」

 

 

 微かに見えただけだが水無瀬の指先から砂時計まで細い糸のようなものが繋がっているらしい。なるほど、魔力を糸のように変異させて遠くに放った砂時計を移動させて広範囲に展開、内部の性質を一気に逆転させたってわけか。やるじゃねぇの……でもまだだ、全然足りねぇな。禁手に至るには世界の流れに逆らうほどの強い思いと決意が必要だからこうして俺と殺し合っていれば発現しやすいだろうなぁ、とか思ってたけど案外そうでもねぇのか? いやまだ始まったばっかだしこれからかねぇ。

 

 影人形Bを消失させた水無瀬は砂時計を手に強い意志を感じさせる眼差しで俺を見つめてきた。やる気十分か……良いぜ、とことんやってやる――と言いたいところだが時間切れだ。

 

 

「水無瀬」

 

「はい!」

 

「鬼ごっこは終了だ。家に帰るぞ」

 

「……え?」

 

 

 まさかの展開に困惑する水無瀬と共に実家へと戻ると特訓終わりの犬月達が勢揃いしていた。予め師匠役の奴らにこの時間には家に戻る陽にも伝えていたから当たり前だが……約一名ほど死にかけてるけど大丈夫か?

 

 

「ノワール、パシリが死んでる」

 

「死んで、ねぇ、っすよ……いや、死ぬ、しぬぅ」

 

「にししぃ! だっらしないねぇ! 男ならもっとシャキッとしな! いやぁ~ドラゴンとの何度も戦えるなんてさいっこうだよ! 加減しなくて良いなんてこれほど良いものだったんだねぇ」

 

「凄いです……五日前より妖力が上がってます。犬月さんも前よりもずっと高く……ま、負けていられません! もっと頑張らないと!」

 

「志保も頑張っていると思うよ。でも一番辛いのは恵だよね? どう? 何回死んだ?」

 

「――もう何回も死んでますよぉぉ!! 怖かったぁぁ! ノワール君は手を抜かないし影人形は複数襲ってくるし蹴ってくるし殴ってくるしぃ! 痛いですぅ! うわーんっ!」

 

「恵、おっぱい押し付けてくるか泣くかどっちかにして」

 

「ごめんなさぁいぃ!」

 

 

 先ほどまでの鬼ごっこが辛かったのか水無瀬は平家のまっ平らな胸に抱き着いて泣き始めた。おぉ! 美乳がちっぱいに押し付けられて形が変わってやがる! 何と言う弾力! 俺の胸に抱き着いてきても良いんだぜ?

 

 まぁ、そんな事は置いておいてたった五日、されど五日だ。犬月はセルスとガチの殺し合い、四季音もドラゴン共とガチの殺し合い、平家も東雲との殺し合いで水無瀬も俺との殺し合い……うん。一番平和なのは橘だけだな。いやぁ、別に殺し合いさせても良いがそれをやるのはもっと先だな。今は自分なりの戦い方を学ばせた方が効率が良い。

 

 

「おい、どうよ? 俺の師匠は?」

 

「……つえぇっす。何度気絶させられたか分かんねぇし……こっちの攻撃が当たりもしねぇ、あんなのに勝てる王様ってやっぱ別格っすね」

 

「当たり前だ。セルスは純血悪魔の中でも珍しい自己鍛錬を行ってんだぞ? それに強くなかった俺の師匠なんてやらねぇよ――ただ誇れ。五日間、あいつと戦って音を上げないお前は強くなってるよ」

 

「……褒めるのはまだ、先っすよ! まだ、まだ俺はししょーに勝ってねぇんすからね!!」

 

 

 やっぱこいつは面白い。諦めの悪さと勝利の渇望のみだったら邪龍並みになりそうだ……セルス、マジで強くしろよ。こいつは俺の兵士として頑張ってもらわないといけないからな。

 

 

「あの悪魔さん? 今日は用事があると聞いたんですけど……何かあるんですか?」

 

「うん? あぁ、若手悪魔の会合があるんだよ。時間的に今から向かえば一時間前には到着って所か? とりあえず風呂でも入って正装……学園の制服とか仕事服とかそこらへん着てまた此処に集合だ」

 

 

 俺は犬月を連れて風呂場で汗を流す。たった五日とはいえセルスもガチで鍛え上げる気満々のようだ……橘が言った通り前よりも妖力と魔力が高くなってるのに自分では気づいてないのが笑えてくるな。こいつは才能があるのに今までそれに気づかないで普通に過ごしてきてたんだもんなぁ、いきなり自分の変化に気づけって言っても無理か。

 

 風呂から上がり、学園の制服を着て入り口で犬月と共に待っていると奥から風呂上りの女性陣がやってきた。うん! 風呂上りのためか頬が少し赤いのは何とも言い難い魅力がある。そもそもアイドルの風呂上り姿とかファンの奴らすら見られないお宝映像だもんな……橘が休業してもファンレターとかが届いてるらしいしそれを読んでやる気を出してるとかミアが言ってた気がする。ファンの力で自分を高めるか……根っからのアイドルだな。

 

 

「若手悪魔の会合って前に言ってた気がしますけどどこでやるんすか?」

 

「魔王領にあるルシファードって都市だ。名前ぐらいは知ってんだろ?」

 

「いや、旧魔王ルシファー様が住んでたとかっていう場所ってのは……うへぇ、そんな所に集まるんすか? 王様とグレモリーとシトリーと……あとどんなのが居るんです?」

 

「グラシャラボラス、アガレス、アスタロト。まぁ、この辺りは雑魚だが――バアル、前に会った事あるだろ? サイラオーグ・バアル。この人も若手悪魔だから今回の会合にも顔を出す予定だ」

 

「うわっ、魔王を輩出した家に大公、大王っすか。そんなのと会うなんて前までだったら考えらんねぇっすわ」

 

「私もです。退魔の仕事でも有名な悪魔さんとはお会いする事はありませんでしたから……あの、どんな人達なんですか?」

 

「残念ながら詳しくは知らねぇよ。そもそも混血悪魔の俺が純血悪魔と仲良くできるわけねぇだろ? まぁ、個性豊かな奴らだってのは分かるな。先に言っておくけど会場で俺が何を言われても反応すんなよ? どーせ混血悪魔の癖にとか神滅具頼りの分際でとか言われまくるから反応するだけ無駄だ。右から左に受け流せ」

 

「と言ってる本人が影人形のラッシュタイムを叩き込むにコーラ十本」

 

「おさけぇ~ひゃっぽぉん!」

 

「賭けにならねぇこと言ってんじゃねぇよ」

 

 

 そもそも馬鹿にされたなら殺気放ってぶちのめすからこいつ等の賭けは成立しない。だって俺に勝てるのってサイラオーグ・バアルぐらいだしなぁ……いや、流石にやり過ぎない程度に収めようとは思うけど再起不能にさせちゃったらごめんねテヘペロとかして許してもらおう。

 

 犬月達を率いて汽車にて魔王領へと移動、そこから地下鉄で会場を目指すんだが……面倒なのに捕まった。

 

 

「キャー! 影龍王様よ!」

 

「ノワール様ぁ! 応援してまーす!!」

 

「影龍王! 期待してますぜー!!」

 

「……なんすかこれ?」

 

「ノワールって混血悪魔だけど(キング)になった存在だから下級悪魔、混血悪魔から支持されてる。皆今の冥界特有の純血主義なんてクソくらえって感じなんだけど表立って言えないからノワールを応援して変えてもらおうとか考えてるんだよ」

 

「凄いですねぇ……あ、悪魔さんがどこかめんどくさそうな顔をしています」

 

「キマリス領でも今のように大騒ぎ、と言って良いんでしょうか? 似たような事になりますしノワール君自身もこういった事には慣れていませんから」

 

「そう言えば悪魔さんって蔑まれる事には慣れてますけど褒められると反発するツンデレ属性持ちでした! だ、大丈夫です悪魔さん! 私! ちゃんとわかってますからっ!」

 

「その優しさが痛すぎて泣きそう」

 

 

 別の意味でな!! そもそもツンデレ属性って何だよ!? 俺はヒロインか! そんなのは平家か四季音辺りにでも言っておけばいいんだよ。

 

 

「残念。私はヤンデレ属性持ち」

 

「心読むなっての。あぁ、とりあえず邪魔だからぶっ殺されたく無かったら道開けやがれ。応援ありがとう!」

 

 

 そんなこんなで無事に地下鉄に乗って会場前まで移動できた。はぁ……疲れた。もう帰りたいし水無瀬いじめたいし帰りたい。これが引きこもりの心情なのか……確かに今なら理解できる! 家がどれほど素晴らしい場所なのかとな!!

 

 会場に入ると使用人らしき人物が会釈をしてきた。どうやら他の若手悪魔がいる場所まで案内してくれるようだ……平家から目の前の使用人は心の中で見下してるよとか言ってきたけど当たり前だろ? 混血悪魔が他の純血悪魔と混じって会合に参加だぞ? 此処に来るまでの住民は兎も角、こういう真面目な場所で働いてる奴は大抵そういう奴さ。

 

 

「――どういう状況だよ」

 

 

 使用人に案内されてデカい扉の先に入ると生徒会長と同じように眼鏡を掛けたクールビューティーな印象を持つ女悪魔と顔とかにタトゥーを入れて緑色の髪を逆立てているヤンキーが一触即発の雰囲気で向かい合っていた。少し離れた場所には人の好さそうな優男が眷属と共にテーブルで飲み物を飲んで観戦してるが……マジでどういう状況だよ。いやそれよりもサイラオーグ・バアルや先輩、生徒会長はまだ来てないか……どうでもいいけど。

 

 

「あん? これはこれは混血悪魔の影龍王さまぁだったか? 良いご身分だな! 神器だけで眷属を持てる権利を貰えるなんてよぉ! どうせ後ろの女どもと毎晩アンアンしてんだろ? テメェのちいせぇ物じゃ満足できねぇだろうから俺が一発シコン――がはっ……!」

 

 

 なんかウザいし橘が怯えたから影人形のラッシュタイムを叩き込んで遠くの壁までふっ飛ばす。それを見た奴の眷属は一瞬だけ唖然とするも俺の方を見て弱い殺気を向けて襲い掛かってきた。だからこれは正当防衛という事で夜空をガチで殺し合う時に放つ殺気と共にラッシュタイムを叩き込んで主と同じ所までふっ飛ばす。威力はちょっとだけ加減したからこの後の会合も参加できるだろうが……うちの癒し枠を怖がらせた罪は重いぜ?

 

 

「ぐあぁ……!」

 

「弱いくせにキャンキャンと吠えんな駄犬風情が。うちのパシリでも見習ってろ、あと俺の女をその腐った眼で見ないでもらえますかねぇ……抉り取ってやろうか? あぁん? おらおら、さっきまでの威勢はどうしたんだよ」

 

 

 ラッシュタイムと壁にぶつかった衝撃で動けなくなっているヤンキー悪魔の(キング)の顔を足で踏みつけながら殺気を放つ。踏みつけられる痛みと殺気に怯んで何も言えないようだが……全くよぉ、怯えるぐらいなら最初っから喧嘩売ってくんじゃねぇよ。

 

 

「――影龍王、お礼は言いませんわ。あの程度の輩でしたら私でも対処出来ましたし」

 

「はぁ? なんでアンタから礼なんて言われないといけねぇんだよ。家のメンツなんかに拘ってっからあんな雑魚にいいように言われんじゃねぇの? まっ、アガレスのお姫様の危機を救ったって事で後始末お願いしますよ」

 

「私に命令ですか? 混血悪魔の分際で図々しいにもほどがありますわ。自分でした事なら貴方自身で片づけなさい」

 

「そうするとあいつ等がこの世から消えますけど良いんですか?」

 

 

 壁際の方でヒィッという声が聞こえる。恐らくさっきのヤンキー悪魔の眷属の誰かだろう……確か情報ではグラシャラボラスの本来の次期当主は事故死だったかなんかにあってあいつが代理って聞いてたけど弱すぎる。クソ弱いし王の権力で成り上がっていくタイプ……俺の嫌いなタイプだ。

 

 目の前の女――シーグヴァイラ・アガレスは冷ややかな目で俺を見てくるが冷汗が出ているのが丸分かりだ。流石の俺もアガレスの姫に拳を叩き込むような鬼畜じゃねぇし放って置くけどな。

 

 

「――静かだと思ったら影龍王殿が治めてくれていたか」

 

 

 入ってきた扉から声がする。その声の主こそ若手最強、紫の瞳と鍛え上げられた肉体を持つバアル家当主――サイラオーグ・バアル。その後ろには先輩達の姿もあるがそっちはどうでもいい……が流石若手最強、眷属の質も他とは比べもんにならねぇな。そこのヤンキー悪魔の眷属なんて霞んで見えるし現状、まともに戦えるのは俺か四季音ぐらいか。平家に水無瀬、橘に犬月はまだ成長段階だからギリギリ勝てるか普通に負けるかの二択って感じかねぇ。

 

 

「此処に入って来たらいきなり喧嘩売られたんでぶっ飛ばしました。お久しぶりです、フェニックスの婚約パーティー以来ですね」

 

「あぁ。あれからのご活躍、耳に入っている。堕天使の幹部コカビエルを苦戦無く倒したと聞いた、やはり影龍王殿は強いな」

 

「幹部って言っても雑魚でしたし。これが雷光の異名を持つバラキエルだったら話は違ってましたよ。とりあえずあれ(ヤンキー悪魔)は気絶させましたけど放って置いて良いですかね?」

 

「もうすぐ行事が行われる。スタッフを呼んで手当てぐらいはさせた方が良いだろう。おい、スタッフを呼んで来い! あとはリアスと影龍王殿と茶を飲むからテーブルと飲み物も用意しろ!」

 

 

 流石バアル家次期当主、気迫のある声で空気を一気に変えやがった。俺が吹っ飛ばしたヤンキー達はスタッフに連れられて別室で手当てを受けるらしい。大丈夫大丈夫、加減したからきっと参加できるって! なんか後ろの方で犬月達がドン引きしてる気がするけど気のせいだな!!

 

 そんなわけで御呼ばれをしてしまったため、俺と先輩、後から来た生徒会長、観戦していた優男とアガレスの姫、そしてサイラオーグ・バアルとテーブルを囲んで茶を飲むことになった。今更ながらスッゲェメンツ、魔王の妹二人に大公の姫、大王の次期当主、魔王を輩出した家出身……影龍王って肩書が無かったら俺は場違い筆頭だな。

 

 

「シーグヴァイラ・アガレスです。大公、アガレス家の次期当主です」

 

 

 一番手に挨拶をしてきたのはアガレスの姫、なんというか本当にクールビューティーだな。その冷たい視線で何人のドМを興奮させてきたのやら。

 

 

「リアス・グレモリーよ。グレモリー家次期当主です。以後お見知りおきを」

 

 

 ドヤ顔の先輩は放って置こう。

 

 

「ソーナ・シトリーです。シトリー家次期当主です」

 

 

 お堅い生徒会長が珍しくドレス姿だ……いやぁ、先輩の巨乳と比較するとあまりの壁っぷりに涙が出てくる。姉のセラフォルー様は揉みたくなるほどの巨乳だってのにねぇ、大丈夫だ! きっと成長するさ!

 

 

「僕はディオドラ・アスタロト。アスタロト家の次期当主です。皆さん、よろしくお願いします」

 

 

 先ほどまで離れた所で喧嘩を観戦していた優男だが俺の後ろに居る平家がうえぇと吐きそうな顔をしてるから心の声は酷いものなんだろう……というかなんとなく視線が先輩のシスターちゃんに向いてねぇか? 何一目惚れなの? うわぁ、ご愁傷様。

 

 

「ノワール・キマリス。キマリス家次期当主、よろしく」

 

 

 適当な挨拶をすると約数名ほど苦笑する事態になった。別に良いだろ? 仲良くする気ねぇし。

 

 

「俺はサイラーグ・バアル。バアル家の次期当主だ」

 

 

 そして最後は我らがバアル家次期当主のお方。いやぁ、見事な覇気と堂々とした態度は尊敬したいほどだ。それに……フェニックスの婚約パーティーで会った時よりも強くなっている気がする。流石若手最強、自己鍛錬は欠かさないって事か。

 

 

「しかし影龍王殿がグラシャラボラスの凶児ゼファードルを叩きのめしていたのには驚いた。そのような事になるならばもう少し此処に居るべきだったな」

 

「もうっ、ただでさえ貴方は注目を浴びるんだからもう少し大人しくしても良いと思うわよ?」

 

「俺がそんな事できるわけないでしょう? 先輩だって赤龍帝にデュランダル、聖魔剣と色々と注目を集める存在が多いんですし大人しくしお嬢様してたらどうです?」

 

「お生憎様。私は私よ、お嬢様なんて柄じゃないわ」

 

「ははっ! リアスは確かのお嬢様と呼ぶにはお転婆すぎる。それが良いと言えるんだがな」

 

「もぅ! サイラーグも何を言うの!」

 

 

 和気藹々の自己紹介兼お茶会の時間もすぐに終わり、俺達は別室へを案内された。先ほどボコったヤンキーも何とか回復したようだけどダメージが抜けきっていないのかふらふらな状態だ……そこまで強く殴った覚えは無いんだけどねぇ。

 

 使用人に案内されて通された部屋は異質な空気、よく言えば厳格で悪く言えば見栄っ張りで権力にしがみ付く老害が俺達を見下している空気。個人的には後者の方が正しいと思う。俺達が立っている床よりも高い位置にある席には上役の奴ら、そのまた上には上層部の方々、そして頂点には我らが魔王の姿。今回は四大魔王勢揃いという素敵仕様だ……噂では怠惰な性格のファルビウム・アスモデウス様が居るのは驚きだ。てっきりめんどくさいとか何とか言って欠席するかと思ってたし。

 

 

「よく集まってくれた。この場は次世代を担う貴殿らの確認するための場だ……まさかそのような場で早々に騒ぎを起こす輩がいるとはな。しかも貴様か、ノワール・キマリス」

 

「喧嘩売られたんで買っただけですよ。殺さなかっただけ感謝してほしいものですね」

 

「……まぁ、良いだろう。サーゼクス様、お言葉をお願いします」

 

「忙しい中、集まってもらってありがとう。キミ達は若手悪魔の中でも家柄、実力は申し分のない次世代の悪魔達だ。だからこそ互いを認め、競い合ってもらい力を高め合ってほしいと願っている。既に耳にしている者もいるだろうが現在、禍の団と名乗るテロリストが各地を襲っている。何時になるか分からないがキミ達も戦に投入する事態になるかもしれない……それだけは覚悟しておいてほしい」

 

「――今すぐ、ではないのですか?」

 

 

 踏み込んだ質問をしたのはサイラオーグ・バアル。堂々としていて流石だなと言いたくなる。というか何時になるか分からないがって言ってたけどアザゼル普通に俺達を投入する気満々だったんだけど? まぁ、堕天使の総督と魔王じゃ話が違ってもおかしくないけどさ。

 

 

「敵の戦力はいまだ未知数だ。その状態で未来あるキミ達を戦に投入し、失う事態になってしまっては私達にとって大きな損失になる。だからこそ今は力を付ける事だけに専念してほしい」

 

「……分かりました」

 

「ありがとう。では互いを高め合うとして此処に居るキミ達でレーティングゲームを行ってもらおうと思う。勿論プロが行うルールでだ。今からその説明をさせてもらおうと思う――アジュカ」

 

 

 そこからはレーティングゲームの基礎理論を作り上げたアジュカ・ベルゼブブ様によるレーティングゲームの説明が始まった。もっとも聞かされた内容は王として悪魔の駒を与えられる際に勉強させられたものだったけど……というか魔王の話は聞くけど老害共の話なんて聞きたくねぇんだよ。いい加減さっさと隠居して死にやがれ。

 

 長い、クソ長いとも言える話も終わって魔王サーゼクスが俺達の今後の目標が聞きたいと言ってきた。目標、目標ねぇ……特にないんだけどどうしようか?

 

 

「――俺は魔王になる事が目標です」

 

 

 一番槍は我らがサイラオーグ・バアル。その堂々とした物言いに老害共も驚きながらも否定する雰囲気を出さずに頷いていた。まぁ、この人はアンタらよりも強いしな。

 

 

「――私はグレモリーの当主としてレーティングゲームで優勝する事が目標です」

 

 

 まぁ、当たり障りのない目標。先輩らしいと言えば先輩らしいな。俺もその線で行ってみるか……うんそうしよう。

 

 

「――私は冥界にレーティングゲームを学べる学校を作ることが目標です」

 

 

 空気が凍った。ゲームを学べる学校……生徒会長は老害から学べる学校は既にあるだろうと言う指摘に上級悪魔が通える学校ではなく、俺のような混血悪魔や転生悪魔、下級悪魔が通える学校を作ると堂々と宣言した。正直……侮ってた。すげぇの一言しか出ない。だって面と向かって私は今の冥界を変えるって言っているようなもんだしなぁ。俺としては応援したい目標でなんならキマリス家がシトリー家と協力してでも叶えさせたい目標だ――俺も混血悪魔だからその夢は非常に興味がある。

 

 他の若手悪魔、具体的に言えばサイラオーグ・バアルは少しだけ驚いた表情をしながら生徒会長を見ていた。俺と同じで老害共からいじめられた経験があるからだろう……興味を示してもおかしくはない。しかし現実は非情で最悪だ。

 

 

「ハハハハハハハハハ!」

 

 

 老害共が一気に笑い出す。そりゃそうだ……こいつらは純血主義で自分の権力しか興味のない奴らだ。心の中では魔王すら見下しているだろう。だから俺は――

 

 

「――ぷっ、くくっ、あははははははは!!!」

 

 

 笑いが止まらなかった。全員の視線が俺に集中して匙君や赤龍帝なんかは怒りの表情だ……安心しろ、俺は生徒会長に嗤ったわけじゃねぇから。

 

 

「ほぅ、流石に今の夢物語は貴様でも笑うか。そうだろうな、今の冥界は――」

 

「はぁ? なに勝手に同族扱いしてんの? 俺が笑ったのはテメェら老害のクソみてぇな脳みそ加減に笑いが止まらなかっただけだぜ? いやぁ、スッゲェわ。流石実力はカスなのに権力だけで成り上がった奴らは頭の回転が全然足りねぇ! さいっこぉ! 冥界終わってんな。ホントこれだから旧魔王派が離反すんだよ」

 

「き、貴様ぁ! 言わせておけば神器しか取り柄のない混血悪魔の分際で我らを愚弄――ひぃ!?」

 

「ちょ!? 王様!?」

 

 

 刃の腕をした影人形を数十体生成して魔王以外の老害の首元に突きつけた。余りの出来事に他の若手悪魔はドン引き状態だけど仕方ないねーだって侮辱されちゃったし―面白いし―。

 

 

「だからなに? 神器しか取り柄のない? ハハッ! 面白い事言ってくれるじゃねぇの! じゃあ聞くけどさ……先のコカビエルの事件、あれ解決したのはどこの誰ですか? 誰が殺してあげたんですか? 老害の脳みそでも分かるだろ――俺だろ。本来ならばテメェらが兵隊引き連れてでも止めるべき案件を俺が、俺達が解決してやったんだ。それに神器しか取り柄のない混血悪魔程度に王の地位と悪魔の駒を渡してきたのは誰だったかなぁ? お前等だろ? それともそんな事も忘れるぐらい頭が悪いのか?」

 

「き、貴様……我らにこのような事をして、どうなるか……!」

 

「どうなるの?」

 

「な、なにぃ……!」

 

「だからどうなるのって聞いてるんだけど? なに? 身内に手を出す? それとも王の位を剥奪? 別に良いよ。身内に手を出すっていうなら今ここでテメェらを殺すし王の位を剥奪するなら禍の団に移籍、いや堕天使勢力に行くのも良いな。それにさ……シトリー家次期当主の目標、俺は素晴らしいと思うんだよ」

 

 

 一歩前に出ると老害共は怯んだ。当然だ……ガチで殺す気の殺気を向けてんだしな。

 

 

「だって三大勢力が手を取り合ってるんだぜ? 冥界ではやっているレーティングゲームにそれぞれの勢力が興味を示してもおかしくはない。でも参戦できるのが悪魔、しかも上級悪魔だけってのは各勢力から色々と反感を買いかねないんじゃねぇの? だったらシトリー家次期当主が作った学校で天使、堕天使、悪魔の勢力が一カ所に集まってお勉強、素質のある奴を見出してゲーム参加を許すとかにすれば面白いと思うんだけどさぁ? 多分この程度はバアル家、アガレス家、グレモリー家の次期当主や魔王様も考えれると思うよ? だって神器頼りの混血悪魔の俺でさえ考えれるんだからな。あと下級と言っても俺の兵士のように才能の塊が埋まってる事もある……だというのにやれ伝統だの血筋だのとどうでも良い戯言で若手悪魔の夢を潰すなよ――分かってる?」

 

「な、なにが、だぁ!」

 

「お前らの言葉なんて誰も聞いてないんだよ。今は魔王様に俺たち若手悪魔の目標を伝えているだけだ……自分たちの真上に馬鹿にした女の子の身内が居るのにまさか爆笑するとは恐れ入るよ。いやぁ、お前達って魔王よりも偉いんだな」

 

 

 多分今の言葉の最後には(笑)が付いただろう。喉元に刃を突き立てられながら老害共は真上の席に居る魔王、具体的にはセラフォルー様を見つめ始めた。するとどうでしょう……笑顔だけど激おこ状態のセラフォルー様がいらっしゃるじゃないですか。だっせぇ。雑魚の分際で図に乗るからだよ。

 

 

「ち、違いますセラフォルー様! こ、これはですな……」

 

「じょ、ジョークです! 私達もあの混血悪魔が言った、いえ仰った事は考えていましたとも!」

 

「ソーナ・シトリー! 貴殿の目標は素晴らしいものだ! 是非叶えられるように頑張りたまえ!」

 

「あんなに爆笑してたのに掌返しスゲェな。シトリー家次期当主さん、その目標は俺は応援するよ。もし力が必要ならキマリス家は全力で支援するから考えておいてくれ」

 

「え、えぇ……ありがとうございます」

 

 

 魔王にぺこぺこと謝罪し始める老害共に呆れながら影人形を全て消失させる。と言うより順番的に俺の番か……今ので目標が決まったしさっさと行って次に繋げようか。それにしても周りからのドン引きな視線は何故だろう? 事実を言っただけなんだけどねぇ。

 

 

「色々とお騒がせして申し訳ありませんでした。まぁ、若気の至りって事で許してください。俺は今の生活で満足してますので老害、じゃなかった俺達よりも実力があって頭も良いお偉い方々も尊敬していますから。ちなみにですが俺の目標は老害が消え失せた冥界を作る事です。はい次どうぞ」

 

 

 言ってしまえばお前等邪魔だからさっさとどっか行けと言ってるようなものだが誰もが思ってる事だし別に良いよね。だって魔王様たちも止めなかったし!

 

 

「貴様……! どこまで我らを愚弄するか!!」

 

「何時馬鹿にしましたかぁ? 俺様、事実しか言ってないですよぉ? それに若手悪魔の目標をあそこまで馬鹿に出来るくらいお強いんですし俺程度の殺気にビビるわけないですよね? ただの混血悪魔の殺気程度、鼻で笑って無視できるはずですが?」

 

「……くっ!」

 

『ゼハハハハハハハハ!!! 傑作だ!! 面白れぇ! 面白れぇぞ宿主様!! さて――初めましてだったかぁ? 雑魚の顔なんざ覚えてねぇから初対面か二度目かなんて知らねぇがまぁ、良いだろう。俺様、影の龍クロム様だ。宿主様にビビってるクソ悪魔ども、よぉく聞けよ?』

 

「――影の龍」

 

「へぇ、あれがそうなんだ」

 

 

 相棒が話し始めた事に魔王様、特にアジュカ様とファルビウム様が興味を持ったようだ。話すのは良いけど空気を凍らせるなよ?

 

 

『俺様達は好きで此処に居る。テメェらのルールにも好きで従ってるに過ぎねぇんだよ。雑魚が俺様達を見下すのは我慢ならねぇ! 覚えておけ――悪魔風情が影龍王の邪魔をするな。それさえ守ってればお優しい宿主様はテメェらを殺さねぇから安心しろやぁ! ゼハハハハハハ!! あまりにも脳みそが足りねぇんで俺様からのお優しいアドバイスだ! アバヨ!』

 

『相変わらず空気を読まん奴だ。相棒ももう少し実力があればクロムのように言えたんだが……仕方あるまい』

 

 俺と赤龍帝の手の甲から伝説のドラゴンの声が聞こえたけどまぁ、スルーしよう。俺の素晴らしい目標を聞いて激おこ状態の老害共は魔王に処罰を等と言い始めたけど流石の魔王様、それほど自らの実力に自信があるならばゲームで見せてもらおうと華麗にスルー。きっと苦労してるんだろうなぁ……ちょっとだけ好感度アップだ。

 

 そんなこんなで俺が愉しかった会合は終わり、自宅へと帰る。いやぁ、疲れたね。

 

 

「疲れたね、じゃない。私達の方が疲れた」

 

「ほんとっすよ! マジで何してるんすか王様ぁ!? 上層部に喧嘩売ったらどうなると思ってんすか!? 最悪牢屋行きっすよ!?」

 

「ならねぇよそんなもん」

 

「何でそう言い切れるんすか……影龍王って言っても普通の上級悪魔でしょ?」

 

「ノワールは敗北さえしなければ悪魔側から見捨てられることは無いよ。だって光龍妃を抑える事が出来るのはノワールだけ。それがもし居なくなったら……どうなると思う?」

 

「……冥界が、消滅?」

 

「そうだ。あの規格外のお蔭ってのは癪に障るが先輩たちのようにバックには魔王ってな感じで俺の背後には夜空が居るんだよ。前に冥界の上級貴族が一族もろとも消滅した事件があっただろ? そんな事が起きても冥界は夜空を捕らえようとかはしなかった……恐れてるんだよ。冥界上層部は普通の人間である夜空にビビってる。そしてそれを抑える事が出来るのは俺ぐらい。まぁ、サイラオーグ・バアルも問題ないと思うけどアイツは今の所俺以外では満足しないっぽいし此処から俺が居なくなったら切っ掛け次第では冥界消滅だ」

 

「光龍妃はその場のノリと勢いで行動するからね。だからノワールの存在は大事。でもよかったね? 初戦の相手がバアルじゃなくて」

 

「俺としてはバアルが良かったんだけどなぁ」

 

 

 若手悪魔同士によるレーティングゲーム、その初戦の相手は――アスタロト家だった。




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