「アスタロトの次期当主さん? いきなり兵士五人も撃破しちゃって悪いねぇ。でも魔王の血筋のアスタロト家次期当主様だからまだ余裕だよねぇ? 俺みたいな混血悪魔の眷属に負けたら恥だもんな。しかも俺の眷属ってそっちより少ないからマジで負けたら色んな所から見捨てられるぜ? 頑張れ頑張れ。負けるにしてもせめて俺が出場できるように6の目を出してから倒されてくれよ」
「……っ」
犬月と橘、キマリス眷属新入りコンビが倍の戦力を相手に勝利したせいか敵陣地側の台に立っている優男の表情が変わっていた。引きつった笑みで先ほどから俺の煽りを無視してるけど内心はイライラが溜まってるだろう。出来ればもっと怒って我を無くしてほしいんだよなぁ……なんせ五人を撃破したと言ってもまだ倍近い戦力差があるから相手のミスを誘うためにこうして煽ってるわけなんだが流石に乗ってこないよなぁ。
審判役のセルスの指示により俺達は再度ダイスを振る。モニターに映し出されたダイスの目は俺が「4」で相手も「4」、合計は「8」だ。俺と四季音以外は出れるか……さてどうすっかな。仮に四季音が出れた場合でも相手の女王を軽く葬ってもらいたいから待機させる予定だったからなぁ。連続出場有りとはいえ連戦は避けたいから手は一つか。
「8って事は王様と酒飲み以外は全員出れますね。確か連続出場オッケーだったはずなんで俺は準備万端っす!! 何時でも出場出来るっすよ!!」
「私も大丈夫です! 先ほどの試合では余裕を残していましたから全然問題ないです!」
ダイスを振り終わって自分の陣地に戻ってくると先ほどの試合で大暴れした二人がやる気、いや殺る気十分の表情で出迎えた。確かに連続出場が有りが今回のルールだから問題は無いし仮にさっきのような人数で来られたとしても犬月や橘が居れば余裕だろう……でも残念だがそんな状況であっても俺は別の選択肢を選ぶ。初めての試合で連続出場なんてしたらこいつ等の負担が増えるだけでこっちにメリットが無いしぶっちゃけると気負われると困る。ついでにアスタロト眷属に圧勝するのが目的だってのに疲れで倒されましたとかになったら洒落にならん……と言うわけで新入りコンビはお休みで先輩方に頑張ってもらおうかね。
「了解。恵、行くよ」
「へ?」
「おい。せめて俺の言葉を待ってからにしろよ……平家がバラしたが次の試合は平家と水無瀬の二人で行け。出目の合計は8だがご丁寧に丁度にする意味もない。犬月と橘は待機だ」
「自分でも感じない疲れが原因で倒されたら嫌なんだってさ。ノワール、本気でやるから引かないでね?」
「え? 無理」
「……」
今の言葉にイラっと来たのか俺の足を軽く蹴ってきやがった。分かってる、冗談だっての。どんな事になろうと引かねぇよ――ただし橘が拳を握って殴りに行く光景をもう一回見たら俺の心は死ぬと思うけどな!!
「あ、あの! わ、私ですか!? しかも二人だけですか!?」
「そうだ。平家とコンビを組んで出場って言っただろ? 別に犬月も一緒に出場させても良いが念には念をってな。安心しろ……お前達二人でも楽勝だから遊びに行く感じで勝ってこい。もし負けたら……そうだな、駒王学園の制服着て俺の部屋で撮影会な。しかもムラムラするようなエロいポーズで」
「……」
「恵が心の中で葛藤してるよ? 無事に勝ってエッチな事はしなくて済むようにしたいってのと負けてノワールに命令してもらいたいってドМ心で揺れてる。ノワール、恵に頼まなくてもそれぐらいなら私もしてあげるよ? ちっぱいでもエロいポーズとか余裕だもん。きっとオカズになる事は間違いなし」
「だ、ダメですよ早織! ノワール君!? ち、違いますからね!! 全然そんなノワール君に命令されて写真撮られたいとか全然思ってないですから!! さ。さぁ! い、行きますよ!! 絶対に勝ちますよ!」
「いーやーはーなーしーてー」
平家の首根っこを掴んだ水無瀬は転移魔法陣の中に入っていく。ふむ……これは勝っても負けてもとりあえずは俺の部屋で写真撮影会を開催すっか。問題ねぇよな? だって水無瀬って隠れМだし! 楽しみだなぁ!! どんなポーズ取ってもらおうか今から考えて――やめよう。橘様から破魔の霊力が漏れ出しているからこれ以上変な事を言えば殴られる。 流石の俺でも滅せられるのだけは勘弁だからもう黙って試合を観戦しようか! とりあえず家に帰ったらガチムチハゲは殴る!
バトルフィールドを見ると俺達は平家と水無瀬の二人、アスタロト側も二人で出場してきたようだ。片方は先ほどの兵士同様に素手の女、もう片方は槍を携えた女……どっちも美人だ。あの野郎……女の趣味だけは良いじゃねぇの! 恐らく出目の合計からして戦車と騎士ってところか? 俺と同じく合計より少なく出してきた可能性もあるけどさっきの煽りで勝ちを狙ってきてもおかしくない。もっとも――俺達の勝利は揺るがないけどな。
『恵。片方は任せていい?』
『はい! 最初から全力で行きます!』
『そうした方が良いよ。ノワールはきっとAVでも見ないようなすっごいの言ってくるから』
『うぅ……絶対に負けません!!』
あのさぁ……人を変態のように言わないでくれない? せめて、せめて年頃の男の子って感じで言ってください!
『先ほどの様に勝利できるとは思わない事だ!』
『ディオドラ様のために勝たせてもらうわ!』
『無理。だって私もノワールに褒めてもらいたいから――殺す気でいくもん』
一歩、また一歩と敵の二人に近づいていく。今の平家の雰囲気は今まで見せていたような引きこもりたいなどと言うものではなく――確実に殺すというものだ。自分の手元に魔法陣を展開して一本の刀を引き抜いた……それは四季音と犬月が修行として相手をしていたドラゴン達の内の一体が自分の鱗や折れた牙、爪を素材に態々作ってくれたお土産。その刀身は凍土のように冷たい印象を感じさせる一本の日本刀、その名は龍刀「覚」。名付けたのは持ち主である平家自身だが……ドラゴンの素材でできた刀に自分の種族の名を入れるってどうなの?
そもそもドラゴンが鍛冶仕事するんかいと言うツッコミは無しだ。今のドラゴンは昔とは違うらしい……こっちとしてはありがたいけどな!!
『――っ! 何という殺気だ……これが、これがキマリス眷属の騎士か!』
相手は視線でどっちを相手にするかを決めたようで槍を持った奴が平家、拳オンリーの奴が水無瀬と対峙するらしい……俺の眷属の情報は既に知られているから平家が騎士、水無瀬が僧侶で神器を持っている事も分かっているだろう。でも残念ながらその情報は古いぜ? 今の水無瀬も平家も前以上に成長してるんだ。さっさと勝って次に回してくれ。
試合開始の合図と同時に平家と槍女の姿が消える。騎士同士による高速戦闘のため見えない奴からしたら何をしているのか分からないだろう。もっとも俺達全員は見えているようだけどな……しっかし流石平家だな。相手からの執拗な突きの連打をまるで先読みしているように躱して小さな魔力弾を指弾で撃って相手の顔面に当てる。そうして意識を軽く逸らした後はその隙を狙って足を刺突、的確にふくらはぎを狙った所を見ると相手の機動力を削ぐ作戦か。理に適ってるし騎士の速度はバカに出来ないから当たり前か……まぁ、敵も馬鹿だよな。覚妖怪相手に真正面から挑むなんて無謀だぜ?
『くぅ! あ、足を……!』
『これで移動は困難。早く死んで?』
『まだぁ!』
騎士同士の戦いも良いが離れた場所で行われてる戦いも面白い事になってる。拳や蹴りといった体術による近接戦を避けるため水無瀬は魔力を炎や水に性質変化させて弾幕を張りながら距離を取っている。敵の一撃で地面が抉れている所を見るとマジで戦車確定だな……しかも魔力攻撃が当たってもビクともしてないから敵自身の耐久力はかなりのものだろう。ここだけ見たら水無瀬が防戦一方と勘違いされかねないが――実はそうじゃない。そもそもあいつの特訓相手は俺だ。あの程度の攻撃なんて優しすぎて止まって見えるだろう……ついでに言うと既に水無瀬の罠にハマってる事も気づかねぇなんて笑えるわ。
『よく躱す! しかしどこまで持つかな!』
『いえ! これで終わりました!』
『何が終わっただ! お前の神器は知っているぞ! 砂時計を用いた性質逆転だろう? それさえ気を付けていれば僧侶の貴様には負けん!』
『――違います!』
体術女から距離を取った水無瀬は静かに息を整えた。逃げることも無く、堂々とした態度に敵は警戒したけど既に遅いんだよ……見せてやれ。お前の新しい力を!
『確かに私の神器は砂時計を使わなければ発動しません。でも、それは昔の事です――
手元にある三つの砂時計が黒く輝いた……それは影のように水無瀬を包み込み、私服に白衣と言う衣装から黒のドレスを纏った姿へと変化する。妖艶であり不気味な印象を持つこれこそ俺の僧侶、水無瀬恵が至った亜種禁手――
『
『禁手化だと!? そんな情報は――な、なにぃ!?』
水無瀬の足元から影が伸び、体術女と繋がった。驚く相手を気にせず水無瀬は手元に影のように黒い砂時計を出現させる……もっとも中は砂じゃなくて液体だけどな。体術女は何かを察したのか距離を取るけど影は繋がったままで離れる事は無い。だから何かをされると焦った表情で水無瀬を見つめるが返ってきたのは冷徹な笑みだった。
『先ほど、私が終わりましたと言った意味を教えます。貴方には何度も炎や水に変化させた魔力を当てました。勿論あなただけではなく周りにもです』
『……ま、まさかぁ!?』
『そのまさかです! 反転結界!!』
水無瀬が手元の液体時計を反す。するとどうだろうか……影で繋がった体術女の足元からどんどん凍り付いていくじゃねぇか。あははははは!! やっぱ最高だわ!! 俺と相棒、つまり影龍王と殺し合いをしていのが影響して亜種禁手した際に発現した能力は面白い!! 前までなら砂時計を設置しなければいけなかったが禁手中ならば影に触れただけで性質逆転が可能。だから俺との相性は最高なんだよな……俺が生み出す影に水無瀬が生み出した影を混ぜれば広範囲を対象に性質逆転が可能だ。やっぱいい女だよなぁ。
『凍り付く……熱を冷気に、水を氷に変えているのか!?』
『その通りです! そして動きが止まった今なら!! 反転結界!!』
体術女の真上から大量の水が降り注ぐ。それは女の体を濡らすだけではなく冷凍庫に入れられた食材のように凍り付いていく……そして出来上がったのは美女の氷像だ。そんな状態になったならこの後に行われる事なんて誰だって予想できる。
『ディオドラ・アスタロト様の戦車一名、リタイア』
凍死させないために撃破判定が下る。レーティングゲームにおいてプレイヤーはそれぞれのタイプに分けられるが水無瀬は完全なテクニックタイプと言ってもいいだろう。俺や四季音のようなパワー馬鹿なら確実に罠にはめられる戦い方だしな。
早々に戦車を倒された事で槍女が焦りを見せ始めた。突き、薙ぎ払いといった行動が雑になっている……あらら、これは平家の圧勝だな。
『く、くぅ!』
『突き、次は後退からの回転薙ぎ払い。足が痛くて思うように動けない? だから狙ったんだよ』
『私の心を……これが、覚妖怪!!』
『本当だったらノワール以外の声なんて聞きたくない。だってノワールの心の声って正直で私好みだもん。ノワール以外の奴の声は醜くて聞きたくない。へぇ、貴方って教会出身だったんだ? うわっキモイ……やっぱり私はそっちの王は好きになれないね』
『ディオドラ様を……侮辱するなぁ!!』
渾身の突き、それすら平家は先読みしているように最小限の動きで躱す。そして槍女の背後に回る途中で相手の槍を持っている腕を斬り落とし、流れる動作で膝裏も斬る。うわぁ……徹底的に動きを封じ込める作戦か。タイマンだと平家に勝つにはかなりの技量が必要だからあの程度じゃ勝ち目は最初っからねぇな。なんせ覚妖怪の読心をフルに発揮して考えを先読み、そのまま対処するのがあいつの戦い方だ。もっとも心が最初から無い相手か読心に動揺することなく突っ込んでくる馬鹿は相手をするのは辛いらしい。
『さようなら』
『ディオドラ・アスタロト様の騎士一名、リタイア』
膝をついた槍女を問答無用で一閃。無事に今回の試合も圧勝する事が出来て何よりだ……あははははは!! さて今度はどんな風に煽ってやろうかなぁ!
「ただいま。頑張った」
「も、戻りました!」
「水無せんせー! マジでカッコよかったっす! 引きこもりは……どうでもいいや」
「パシリに褒められても嬉しくない。ノワール、褒めて褒めて」
ぐいぐいと自分の頭を押し付けてさっさと撫でろアピールをしてきた。仕方ないから頭を撫でるとそれを見ていた水無瀬が小さく良いなぁと呟いたのが聞こえたので代わりにおっぱいを揉む。驚いてる様だがこの捻くれている俺様が素直に頭を撫でるわけがないだろ……あのね、このおっぱいの揉み心地が最高なんだわ。マジですっと揉んでいたいぐらい。あぁ、癒されるぅ。
マシュマロおっぱいを堪能してから再び台の上へと移動する。気のせいじゃないかもしれないが相手はかなりイライラしてるっぽい。ざまぁ。魔王の血筋って言っても現魔王と同じ才能を持ってるわけじゃないんだから当然と言えば当然だ。
「おやおや~? 戦車と騎士を投入してうちの眷属にボロ負けしたアスタロトさんじゃないですか? まじでどうする? なぁ、どうするぅ? このままだと本当に負けちゃうぜ?」
「……まだゲームは始まったばかり。何も問題は無いですよ?」
「もう中盤なんですけどぉ? ぶっちゃけもう終了まで見えてるんだがまだ始まったばっかなの? 震えた声で言われても説得力が無いが……そういう事にしといてやるよ。どうせ俺達の勝利は変わらねぇんだしな」
再びアスタロト家次期当主を煽りながらダイスを振る。モニターには俺が「6」でアスタロト側が「5」の目を出していたが……おいマジで仕事しろよ。俺が出れねぇとかマジで勘弁。ホント使えねぇなこの似非優男……いいや、普通に四季音出して即効で終わらせてもらうとすっかねぇ。
「四季音。一瞬で終わらせて来い」
「うぃ~おっさけぇのみたいしぃはやめにおわらせるぅ」
「……この酒飲みの実力だとマジで一瞬で終わりそうっすね。次の試合の準備をしといた方が良いっすか?」
「だな。普通に一分もかからねぇだろうぜ」
バトルフィールドに視線を向けると俺達は四季音一人、あっちは女三人だ。相手の駒の組み合わせを考えたいところだが――意味は無いか。
試合が開始しても四季音はまるでかかってこいと言いたそうな表情で酒を飲んでいる。この部分だけを見ただけなら隙だらけで舐めているのかと文句を言う奴も良そうだがそれは正しい。なんせ今のあいつは本気で舐めきってるし、ぶっちゃけると雑魚だから手を抜いてやろうと本気で思ってるに違いない。普通だったら警戒して距離を取ったり散開して隙を作ると言った行動をとるべきなんだが敵さんは先ほどから連敗中、王の機嫌も悪いだろうから何が何でも勝利したいという気持ちの方が強いはずだ……だからあんな風に一カ所に固まって文句を言い出すんだよなぁ。バカじゃねぇの?
『……あなた! 私達を舐めていますの!』
『うぃ~? うんうんなめてるぅ』
『くっ……いくら鬼と言えどもこの女王の私を――』
『飽きた』
その言葉の先は聞こえなかった。いや、聞こえるはずが無かった。文句を言い出した敵三名の真上に一瞬で移動して拳を叩き込む……たった一発、音すら遅れてくるほど早く打ち出されたそれは地響きを引き起こして巨大なクレーターを作り出した。戦車としての馬鹿力に加えて連日ドラゴンとの殺し合いをしてたからかなりパワーアップしてるな……あの一撃を受けて立ち上がる奴なんていないし俺達もうん、知ってた! みたいな感想しか出ない。それだけ四季音花恋と言う化け物を止めるのは難しいんだよ……止めれるのってほんの一握りの奴ぐらいだしな。
『ディオドラ・アスタロト様の女王一名、兵士二名、リタイア』
冷静な審判役の声が聞こえてこの試合は終了。分かりきっていた事だがマジでワンパンで終わらせるとは……流石俺の戦車。そのまま俺達の場所に戻ってきた顔は飽きたという感想しかない表情だったけど気持ちは分かる。だって敵が雑魚だし。むしろお前を楽しませてくれる相手が居たらそれはそれで驚きだよ……さてこれで相手の残りは王と戦車、騎士、兵士が一人ずつに僧侶が二人か。俺の駒価値が12だから下手をすると俺が出場できない可能性が非常に高い上、眷属が戦う姿を黙って見ているという拷問に近い事を味わう羽目になる。できればそれだけは阻止したい! 俺だって戦いたいしなにより早く帰りたいから煽ってでも俺を出場させてくれるように交渉すっか……よしそうしよう!
「あのさぁ、交渉したいんだが話を聞いてくれねぇか?」
「……交渉?」
「おう。正直さ……お前ら雑魚すぎてこっちはもうやる気ねぇんだよ。ホント弱すぎ、やる気あんの? もうさっさと帰りたいから次の試合で決着付けようぜ? 勿論タダでとかは言わねぇよ。俺一人と残ったそっちの奴ら全員出場。つまり俺一人でお前ら全員と戦ってやるって事だ。お前も気づいてんじゃねぇの? このままいくと負けるってさ……だからこれを引き受けた方が良いんじゃない? もしかしたら俺達に逆転勝利もあり得るかもしれない。別に断ってくれてもいいんだぜぇ――そん時は混血悪魔にビビったチキン野郎って判断するだけだしな」
「――随分自信があるようだね。良いだろう、その挑発に乗ってあげようじゃないか。審判! 次の試合は彼の言う通りにしてもらいたい! アスタトロ家次期当主、ディオドラ・アスタロトは彼の申し出を受け入れたいと思う!」
数分間の無言の時間が流れる。大方、上の方に確認を取っているんだろうが……結果は分かりきってるからさっさとしあいさせてくれねぇかな? 上の奴らは是が非でも俺を負けさせたいだろうしこの申し出を受けざるを得ない。このままだとアスタロト側が確実に負けるからな――そして、俺の申し出はどうやら受け入れられたようで次の試合が実質の最終戦でこれの勝者が今回のゲームの勝利者となる。やったぜ!
うきうきしながらバトルフィールドに移動すると優男と残った眷属が全員転移してきた。此処に来る前に平家達から「早く終わらせてね」「王様、帰る準備しとくっす」「悪魔さん……頑張って下さい! 志保、応援してます!」「おさけぇほしぃ~」「ノワール君。あの、帰る準備をしておきますね……」という素晴らしいお言葉を頂いた。ちょっと待ってほしい……応援してくれてるのって橘だけじゃねえか? 何で他が酒だの帰る準備しとくって言葉なんだよ! せめて応援してくれよ!! 王の試合だぞ!? 楽勝とはいえ応援してくださいお願いします!!
「先に言っておくよキマリス家次期当主……いや、薄汚いドラゴン」
「はぁ?」
「僕はアスタロト家次期当主、そして魔王の血筋だ。眷属の実力差はあっても僕がキミに、混血悪魔に負けるはずはない! 見せてあげるよ――僕の本気の力をねぇ!」
審判役からの試合開始の合図が聞こえると同時に目の前にいる似非優男が放つ魔力が異質な物へと変化しやがった……この感じ、どこかで感じた事がある気がするが――どうでもいいか。
膨れ上がった魔力を見せつける様に似非優男と傍に居る二人の眷属は魔力の弾幕を放つ。さっき感じた魔力量と異質さを考えると似非優男の方はかなりの威力があるだろう……でもな、所詮その程度だ。
「アハハハハハハ! 防げるものなら防いでみろぉ!!」
「――
目の前に影人形を生成して俺に当たる部分だけをラッシュタイムで叩き落す。防げるものなら防いでみろ? 鎧を纏わなくても余裕ですが何か? 拳の速さ、精密性は修業前よりも格段に上がってるし俺自身もキマリスの血、つまり霊操の力を一から鍛え治したんだ――その程度の弾幕で俺に傷を付けれると思うなよ?
速く、強く、そして正確に魔力弾を叩き落していく。今までのようにラッシュタイム中に影人形の拳が吹き飛ぶなんて事は無い……相棒の力の本質を理解したからな。今まで俺は霊子と相棒が生み出した影を混ぜ合わせた影人形を生み出してきたがそれは正解であり間違いでもあった……なんせ神器の力ばっかり集中して俺に流れている血の力、霊操の方を疎かにしていたんだしな。確かに霊体生成と霊体操作に極振りしたとはいえまだ未熟だったって事を悟った時は死にてぇとすら思った。でも相棒の力の本質に気が付いて霊操をさらに鍛え上げた事で俺の影人形は次のステージに進むことができた――その結果がこれだ!
「な、何故突破できない!! これほどの質量ならばその人形は吹き飛ぶはずだ!!」
「今まではな。この俺が試合までの間、遊んでいるとでも思ったか? 残念ながら俺は力に貪欲でなぁ、薄汚いドラゴンだからもっともっともっと強くなりてぇのよ。だから鍛え上げた。今の影人形を壊したいなら夜空かヴァーリぐらいの威力でも出しな」
俺の言葉に怒ったのかさらに弾幕の濃さを上げやがった……流石に隣に居る奴らまでは上がらなかったが今までだったら影人形は突破されて俺もダメージは免れなかっただろう。でも相棒の力の本質に気が付いた今だったら話は別だ――この程度なら簡単に防ぎきれる。
影人形はチラッと俺を見た後、叫ぶような動作をしてさらに拳を放つ。今よりも速く、先ほどよりも速く、音すら遅れるほどの速度でラッシュを放つ。魔力弾に触れ続けているその拳にヒビすら入らず、欠けもせず、傷すらつかない。何故なら相棒が生み出す影は剣でも槍でも斧でも銃でもない――盾だ。いかなるものも遮断する絶対的な盾。これに気が付いた今の俺と影人形だったらこれ以上の攻撃すら防ぎきれる!
「もらったぁっ!!」
弾幕に集中して無防備だと判断したのか女の一人が真横から飛び込んできた。一撃を入れるべく自らの拳を引き、それを放つ――がそれは叶わない。
「――あぁぁぁっ!?」
伸ばされた女の腕を別の影人形が白羽撮りのように拳で挟んでいる。ここで相棒の影の本質である絶対的な盾の防御力を思い出そうか? 盾って事は硬いんだよ。目の前の弾幕すら防ぎきるほどにな……それに勢いよく挟まれたらどうなる? はい答えは普通に腕が折れます。防御力ってのは時として最強の攻撃力にもなるってよく言うがまさにその通りだ――じゃあ死んでくれる?
影人形Bは折れたであろう腕を離して女の顎下からアッパーのように腕を突き上げる。そして宙に浮いた女の体を拳で思いっ切り挟んでそこからラッシュタイム。ふぅ、まずは一人目撃破っと。
『ディオドラ・アスタロト様の戦車一名、リタイア』
「……別の人形、だと! そんな――ぶふぁっ!?」
「ディオドラ様!? ひっ、うわぁぁぁっ!?」
足元から二つの影を伸ばしてそれを媒体に影人形Cと影人形Dを生成。まずは軽く似非優男の顔面を横から殴って後ろに吹き飛ばしてから残った奴らを一発ずつ殴って一カ所に集める。そこから影人形二体で挟み込んでダブルラッシュタイム。自分でやった事だけどさぁ……エグイな。影人形のラッシュタイムって俺の拳よりは弱いけどそれでもかなりの威力はあるしそんなものに挟まれながら前後からの拳の連打を受けたら全身の骨が普通に折れるだろう……これがゲームでよかったね! これが実戦だったら死んでたよ!!
『ディオドラ・アスタロト様の僧侶二名、リタイア』
「これで三体目……あん? 何してんのアンタ?」
「い、いたぁいぃ……よくもぉ……よくも僕の顔をぉ!!」
「ただ殴っただけでだろうが。まさか一度も殴られなかったってオチか? マジかよ……俺なんて昔から規格外の拳やら蹴りやら光やらを浴びて四肢切断や体の半分が吹き飛んだりしてたんだぞ? 軽めに殴ったんだからそこまで痛くねぇだろ?」
「僕の顔を……この、この混血風情がぁ!!」
顔を抑えながら似非優男は再び魔力を放ってくるが最初に生み出した影人形、つまり影人形Aのラッシュタイムで防ぎながらB、C、Dの三体を動かして一発ずつ似非優男を殴る。顔面に一発、突き出された腕に二発叩き込んだ……あらら~折れちゃったね。手首から先が変な方向に曲がってるし二の腕もまた同じように曲がっている。すっげぇ折れ方だな……キモッ。
「僕の腕がぁ!? な、なんでだぁ! 動かせるのは一体だけじゃないのか!!」
「はぁ? 別に複数体生み出せるし動かせるぞ? てか一回だけ老害共を抑える時に複数体生み出して見せただろ? まさか忘れてたとかか? それはお前のミスで俺は全然悪くないな」
背後、真横から向かってくる女達を影人形で捕らえる。このままラッシュタイムで止めを刺しても良いがちょっとだけ確認したい事があるから俺も切り札を使うとしよう。なんせ夜空相手に使うわけにはいかなかったし実戦でどの程度まで使えるのか試しとかないと今後に響く。実験台よろしくな!
「さて処刑タイムの始まりだ。禁手化。さて、誇って良いぜ? これを使うのは夜空以外だとお前が初めてだ――我は影、影龍の求めに応じ、無限に生まれ出る影なり」
禁手化した後、俺の背後に影人形を移動させると体を構築していた霊子と影が分裂し俺の体に纏わりつく。
「我に従いし魂よ、嗤え、叫べ、幾重の感情を我が身へと宿せ」
纏わりつくそれは以前のように無数の手や獣を模した影が漏れ出す事は無い。黒い膜のような影、それが生まれ変わった影人形の姿。
「生命の分身たる影よ、霊よ、我が声、我が命令に応え新たな衣と成りて生まれ変わらん」
周囲の霊子と影が混じり合う黒い膜を纏うこの姿こそ俺の新たな切り札――
「なん、なんだよそれ……!!」
「特訓の成果? まぁ、どうでもいいだろ」
捕えている女二人に両手を伸ばして影を生み出し、それを女の体に纏わりつかせて締め上げる……相手が美女だからなんかエロい事してるようにも感じるけどそんな事は無い。至って普通に
能力発動の音声が鳴り続けると影で捕えている女達がどんどん干乾びていく。名付けるなら干物女? とりあえず気持ち悪いの一言だ。流石にこれ以上は死ぬと判断されたのか干物となった女達は転移されて撃破判定を喰らう。さて――お待ちかねの処刑タイムの開始だぜ?
「く、来るなぁっ!!」
似非優男は前方に障壁を張るけど俺はそれに触れて「影に触れた存在の力を奪う」能力を発動。強固に作った障壁なんだろうけどたった数秒でガラスのように壊れ始める。相棒の影の本質に気が付いたのと同時に能力の応用にも気が付いた……存在の力を奪い取るって事は有機無機関係なく奪い取る。だったらその力を別の考えで奪えないかと歴代の思念を染め上げた際に思いついた。その結果がさっきの干物女と障壁破壊だ。
干物女の場合は生命「力」、障壁の場合は防御「力」を奪い取る。今までは大雑把に力を奪ってやる! みたいな考えだったけどこうして考えてみれば色々と面白い使い方が出来そうだ。もっとも頻繁に使うのは威「力」を奪うか魔「力」を奪うとかだろうけどな。
「嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だぁ!! 僕は純血悪魔だぞ! オーフィスの蛇も使った! これからアガレスやバアルにグレモリーにシトリーに勝つ予定なんだ! そんな僕が混血悪魔風情に負けるはずが無いんだぁ!!」
魔力を練り上げて一発の魔力弾を放ってくる。かなりの高威力っぽいが所詮それまでだ……その程度なんて夜空の光に比べたらつまようじみたいなもんだよ……だから簡単に防いでやる。俺の背後に影を伸ばしてそれを具現化する。今までの影人形のように全身黒タイツみたいな姿ではなく今の俺の姿、影龍王の再生鎧を身に纏った影人形だ。生み出したそれを前方へ移動させて放たれた魔力弾目掛けて拳を放つと――何という事でしょう! 僅か一発で粉砕できました! さっすが俺の
「そんなぁ……なんだよ、なんなんだよそれはぁ!!」
「
「――へ?」
「つまり俺が二人いるって考えればいいさ」
ビビりまくって地面に座り込む似非優男の頭を掴んで宙に浮かす。よほど怖いのか涙を流しては鼻水も出しっぱなし……良い男が台無しだ。とりあえず確かめたい事があるから影を纏わりつかせて……あぁ、くっそ……やっぱりさっきのセリフ通りかよ! こいつの腹の中、いや魂の部分に触れてみたがとんでもないものが有りやがる……オーフィスの蛇。どこかで感じた異質さだとは思ったが三大勢力の会談時に襲撃してきた褐色女が放つ魔力質に似てやがる。そういえばさっきこいつはオーフィスの蛇と自白したから間違いなく禍の団の関係者……この試合は色んな奴が見てるから後で色々と尋問されるだろうねぇ。
というより……オーフィスの蛇って奴に触れて力を軽く奪ったせいで吐きそう……気持ちわりぃ。さっさと終わらせっかなぁ!
「ま、待てよ! 謝る! 薄汚いドラゴンとか混血風情とか言った事は謝るよ!! 土下座もするしなんなら僕の女たちを全員くれてやる!! 処女じゃないが全員美女だ! 具合も良い! どうだ!? い、痛くしないでぇ……! 負けで良い! 負けで良いからぁ!!」
「……ウゼェ。お前の女もいらねぇしテメェが使った蛇のせいで体調は最悪だ。だから、うん。めんどくせぇから俺は手を出さない」
「ほ、ホント――」
影法師をもう一体生み出して挟むように殴る。そしてそのままラッシュタイムを放ち全身の骨と言う骨を砕いてこの気持ち悪さを発散。喜んだようだけど俺はちゃんと言ったぜ?
「――俺はな」
『ディオドラ・アスタロト様。リタイア』
誰も
禁手 黒衣の僧侶が反す影時計《ブラック・ビショップ・シャドークロック》
形状 所有者は影のように黒いドレスを身に纏い、手元に影で作られた中身が液体時計を作り出す。
能力「影に触れた存在の性質を逆転させる」
所有者 水無瀬恵
名称 影龍王の再生鎧ver影人形融合2《シェイド・グローブ・アンデッドメイル・イン・シャドールフュージョン・セカンド》
形状 影のように黒い膜を全身に纏う。
これにてアスタロト戦終了です。
水無瀬恵の禁手は亜種でノワールと殺し合った事で変異したイレギュラー的存在です。ぶちゃけますとノワールの影響をかなり受けてます。
そしてノワールが編み出した影人形融合の強化体は物理ダメほぼ無効、自分と同じ実力を持った影人形「影法師《ドッペルゲンガー》」を生成、出力等は強化前以上です。能力の応用や影による絶対防御を覚えたりと一人だけ次元が違います……これでも勝てない規格外とは一体……!