ハイスクールD×D~地双龍と混血悪魔~   作:木の人

35 / 140
影龍王と赤龍帝
34話


「ごめんなさい。始業式だというのに呼び出してしまって……ご迷惑ではなかったですか?」

 

「特に急ぎの用事もなかったですし、生徒会長に呼び出されれば心霊探索同好会部長としては来ないとダメでしょ? なんて言っても「同好会から部活に昇級」になるかもしれないんですから」

 

 

 長かった夏休みが終わり、またつまらない日常の開始を告げる始業式当日の放課後、俺は生徒会長に呼び出されていた。別に俺は優秀で真面目だから学園で悪い事をした覚えはない……まぁ、先のゲームでアスタロト家次期当主を再起不能にした上で精神を完全破壊したのは悪い事になるかもしれない。でも俺的には何も間違った事はしていない、だって普通に戦っただけだしな。だから呼び出される理由なんて特に思い当たる事も……いや、うん。自分の教室に入った時にはもしかしたらとはちょっとだけ思っていたけどまさか本当に呼びだされるとは思わなかった。

 

 

「えぇ。夏休み中にも活動をしていたようですし生徒会宛に活動報告書も提出、部員も増えてきたのですからそれも視野に入れても何も問題はありません。ですが今回は別の要件で呼びましたのでそのお話は後日です」

 

「デスヨネ。なんせ適当に書いた活動報告書ですし。俺が呼ばれた理由は匙君の腕の件ですか?」

 

「……やはり分かりますか?」

 

「まぁ、クラスが一緒ですしいきなり変化があればなんとなく察しますよ。俺は兎も角、周りの一般人は中二病が発症したって認識してるみたいですから問題ないかと思いますけどね。もっとも……かなり弄られてましたけど」

 

「その元凶が何言ってんだぁ!? そもそも黒井が「なぁ、匙君? 静まれ……俺の右腕って感情込めて言ってくれない?」ってセリフが全ての始まりだろ!? あれが無かったら弄られなくて済んだんだよ!!」

 

 

 だって仕方ないじゃん。夏休み明けの初日、片腕に包帯巻いて教室に入って来たら誰だってそう思う。俺もうわぁ、生徒会長のしごきが凄すぎて頭がおかしくなったとか思ったぐらいだし。でも弄られた方がまだマシだと思うぜ? 俺がそのセリフを言わなかったら周りから陰で「匙の奴、中二病だぜ?」とか「うわぁ、きもぉい」とか言われていたに違いない。だから俺は助けてあげたと言ってもいいはずなのに何で文句を言われないとダメなのだろうか?

 

 

「ノリノリでやってた奴が何言ってんだ?」

 

「仕方ないだろ!? やらないと俺が中二病キャラにされかねなかったんだから!! というか黒井!? 俺の片腕どうなってんの!? アザゼル先生からは兵藤と戦った影響だろうとか言ってたんだけどマジか!?」

 

「匙。いくらクラスメートと言えども彼は――」

 

「別にいいですよ。その質問の答えだけどさ、多分その通りだと思うぞ? ドラゴンのオーラが前よりも高まってるし、グレモリーとシトリーのゲーム映像は見たけど赤龍帝の血を吸ったんだろ? だったら確実にそれが原因だ。相手は二天龍、それも最強のドラゴンの一角だから寝ている邪龍の意識を呼び起こすくらいは余裕で出来るだろ」

 

「……マジかよ、ヴリトラってあんまり良い伝説を残してないんだぜ? 目覚めたらどうなるとか分からないか? 先生も邪龍が宿る神器の事なら黒井の方が詳しいとか言ってたから会長に頼んで来てもらったんだよ……流石にこれ以上になると日常生活も苦しいしよ」

 

 

 匙君が包帯を外すと夏休み前までは何もなかった腕に黒い蛇のような痣と腕の一部に宝玉のようなものが現れていた。間違いなくヴリトラの意識が覚醒に向かっているな……邪龍特有のオーラが宝玉付近から微かに漏れているし痣の模様もヴリトラを象徴するものだ。黒邪の龍王(プリズン・ドラゴン)と称される五大龍王の一角、そして相棒と同じ邪龍と呼ばれるドラゴンがヴリトラだ。確か保有する能力も相棒と似たり寄ったりだった気がする。

 

 

『ゼハハハハハ。心外だぜぇ? 黒蛇ちゃんと一緒にされるのは俺様、我慢ならねぇ!!』

 

 

 俺の心の声に反論するように手の甲から声を出し始めた。生徒会長や副会長、匙君達眷属は相棒の声にビックリしたような表情をしたけど俺はいつもの事だし何も驚くことはない。あっ! 匙君もヴリトラが目覚めたら俺や赤龍帝、ヴァーリや夜空のようにドラゴンと会話できるぜ! 友達いなくなっても大丈夫!!

 

 

「だって似てるだろ? ヴリトラって相手の力を吸ったり削ったり、挙句の果てには呪いを与えるってお前から教えてもらったんだぞ? 相棒だって力を奪うじゃねぇか?」

 

『全然ちげぇ!! 俺様のは有機無機関係なく存在の力を奪い取る捕食と称する能力だ! 黒蛇ちゃんは確かに他者と繋がって力を奪うか与える事が出来るがヤツの本質は呪いだ。解呪不可能なほど濃い呪いこそが黒蛇ちゃんの本質よぉ。懐かしいぜぇ、ヤツがまだ生きていた時なんて気に食わねぇ雑魚共を呪い殺してたしなぁ。もっともやんちゃの時期が終わったのかいきなり落ち着きやがったけどよぉ』

 

「ふーん。ぶっ殺した事とかあるのか?」

 

『どうだったかなぁ。生前の俺様はユニアと共に手当たり次第に喧嘩売ってたか覚えてねぇ。ゼハハハハハ! 小僧! ヴリトラが目覚めかけているなんざ今まで無かった事だ! これを機に復活させてみたらどうよぉ? 嫌と言っても無駄だぜぇ? 赤蜥蜴に収集癖野郎、そして俺様が傍に居る以上は嫌でも目覚めるだろうからなぁ!!』

 

「マジかぁぁぁぁっ!?」

 

 

 匙君が絶叫しながら崩れ落ちたけど……そこまで嫌か? ドラゴンの意識が目覚めたら良い事ばっかりだけどねぇ。封印系神器は封じられた存在の意識があるか無いかで強さが変化する性質がある。幸い俺の場合は発現とほぼ同時に相棒の存在を認識できたから今の強さを得られたと言っても良い。今以上に強くなりたいならヴリトラの意識は目覚めさせるべきだ……その方が生徒会長的にもありがたいと俺は思うよ? なんせヴリトラの能力は圧倒的な威力で攻めていくというよりも搦め手で攻めていくタイプで生徒会長の戦い方にはピッタリな存在だ。正直な所、あの赤龍帝を真正面から挑まないで「血を抜く」という搦め手で攻める事を思いついた頭の良さ、戦術家の才能には驚いたよ……もし俺達キマリス眷属と戦う事になったらどんな風に攻められるんだろうとちょっとだけワクワクした。そして最後の方に発動した赤龍帝の技に唖然とした。

 

 泣き崩れた匙君を励ましている女性陣二人、その内の片方は俺と同じクラスの……花、花、だ、誰だっけ……? 生徒会所属で美少女だからうちのクラスからも人気があった気がするけど名前が思い出せない。どうでも良いから忘れておこう。

 

 

「アザゼル先生もヴリトラの意識が近いうちに覚醒すると言っていましたが……宿主である匙は大丈夫でしょうか?」

 

「匙君次第ですね。俺や相棒、夜空やユニア、ヴァーリとアルビオン、ドラゴンを宿す俺達は互いの存在を認めて共に強くなっています。赤龍帝達も同じくね……だから匙君もヴリトラと力を合わせたら今以上に強くなれると思いますよ? 封印系神器の強みは封じられた存在と力を合わせる事が出来るという事ですからね」

 

「なるほど……アザゼル先生は残ったヴリトラ系神器を匙に移植する事も考えているようです。私はあまり詳しくはありませんが匙が強くなるのならばお受けしたいと考えています……キマリス君の意見を聞かせてもらっても良いですか?」

 

 

 ヴリトラ系神器って言うと……確か匙君が持つ黒い龍脈(アブソーブション・ライン)邪龍の黒炎(ブレイズ・ブラック・フレア)漆黒の領域(デリート・フィールド)龍の牢獄(シャドウ・プリズン)の四種類だったか? 相棒が言うにはそれぞれがヴリトラの能力の一部らしいけど……邪龍ってやっぱ頭おかしいわ。神器四つに魂を分けられても赤龍帝に触れただけで意識が活性化するとかホント化けもん。伝承とかでも邪龍は討伐か滅ぼさないといけないぐらい頭がおかしい奴らだって言われてるしねぇ――その中でも常識人な俺はかなりマシな方だろうな!

 

 しっかし移植ねぇ……あんまり他人の神器を譲渡するとかはお勧めしないんだよな。なんせそれをすると神器自体のスペックがかなり下がるし最悪の場合、元々持っていた能力が消滅する可能性もある。いくらヴリトラの魂が宿った神器同士と言ってもそれは同じだろう……運よく全神器を問題なく移植、無事にヴリトラの意識が目覚めたとしても匙君自身の意識が消えるかもしれない。それどころか匙君の体を媒体に復活か? その辺は神器コレクターらしいアザゼルも分かってるとは思うけど……今のままだと確実に暴走するな。

 

 

「あくまで俺の意見って事で良いなら」

 

「お願いします」

 

「……まぁ、正直な所、俺も神器には詳しいってわけじゃないですが危険だとは思いますよ? 他者から譲渡された神器は本来の性能を発揮しにくい傾向があります。しかも移植する神器が匙君の神器と同じヴリトラ系神器、下手をするとヴリトラが覚醒したのと同時に匙君の意識が持っていかれるかもしれません。邪龍ってのは同族のドラゴンでさえ敬遠され、滅ぼしても魂さえ無事なら何度も復活する化物ですから」

 

 

 だから地双龍と呼ばれた相棒とユニアは神器に封印された。この二体と肩を並べる存在だった邪龍の筆頭格三体は討伐されたらしいけど……邪龍だから復活してそうだよなぁ。かなりの年月が経ってるし。

 

 

「……やっぱり、そうだよなぁ」

 

「匙君、怖いのは分かるがお前の気合次第でヴリトラを手懐ける事も可能かもしれない。だから今の現状ではやってみないと分からないが俺の答えだ。でも匙君なら大丈夫だろ? 格上の赤龍帝に気合で勝ったんだから邪龍の意識ぐらいは楽勝だって! 燃えたぜ、お前の決意。必ず先生になってくれよ」

 

「気合っていうか……あの時は無我夢中だったっていうか、な、なんか照れるな……ありがとよ!」

 

 

 ぶっちゃけると俺の中での好感度は赤龍帝よりも匙君の方が高いんだよ。ゲームの映像を見たけど禁手無しで赤龍帝相手に俺は先生になるという強い気持ち、意志だけで勝った。ホントその映像を見た時はテンション上がったぜ……今までの冥界だったらあり得ない事だったからかなり応援したくなった。マジでシトリー家が学校建てたいってなったら全力で援助しよう。混血悪魔の身としては支援しないといけないぐらいマジで大切な案件だ。

 

 余談になるが赤龍帝と匙君のガチバトルを見ていた犬月は――泣いていた。俺も同じ舞台で戦いたいと本気で大泣きしていた。

 

 

「そんなわけで大した事が言えなくてすいません。でも匙君をさらに強くしたいなら賭けても良いと思いますよ? 強い思い、強い決意は神器を変えます。それは禁手と呼ばれる出発点へと至る大事な感情ですからね」

 

「……えぇ。ありがとうキマリス君、貴方に相談してよかったわ。私達シトリー眷属はリアスに負けましたがこのまま立ち止まるわけにはいきません。私自身の目標のために前へと進みます。キマリス君、ありがとう。それと遅くなりましたがアスタロト家とのゲームに勝利、おめでとうございます」

 

「あぁ、えっと……ありがとうございます? 正直、相手が雑魚すぎて特に面白みも無かったと思いますけど?」

 

「いえ。映像だけでも圧倒的なまでの力の差を感じさせられました……願うなら正面から戦いたくはありません」

 

「そうそう。てか黒井……強すぎだろ! 会長がお前達のゲームの映像見て絶句してたんだぜ!? そんな会長なんて見るの初めてだったわ! なんなんだよ影法師とか影人形とか!! タイマンであんなのを大量に生み出されたら戦うこっちが困るって!?」

 

「そうか? 映像でも言ってたと思うけど影法師(ドッペルゲンガー)は俺とほぼ同じ実力だから倒すのは案外簡単だぜ?」

 

「どこがだよ!!」

 

 

 だって俺と同じ実力を持つ影人形が複数生み出されるって言っても()じゃないんだし倒せるでしょ?

 

 

「影龍王、酒呑童子、妖魔犬、覚妖怪、歌姫、黒姫……それぞれが私達以上の実力者です。今の私達では勝ち目は薄いですが――いつか必ず勝ちます。貴方に、貴方達に勝たせていただきます」

 

 

 良い眼だ、真っ直ぐで……本気で俺達に勝つ気でいる。なんというか新鮮だな……今までは上に居るアイツ等を、夜空やヴァーリしか見てなかったけど偶には下から追いかけてくる奴を気にするのも悪くねぇかもな。

 

 

「――へぇ、それじゃあその時は徹底的に潰してあげるんでアスタロト家次期当主のようにはならないでくださいね? もしそんな事になったら魔王様がガチギレするんで」

 

「勿論です。それと……リアスとのゲームを楽しみにしています。どうやらリアスも貴方に勝つ気でいるようですし案外、良い勝負になるのでは?」

 

「さぁ? 赤龍帝に聖魔剣、デュランダルが居ようと俺達は俺達の戦いをするだけです。向かってくるなら潰す、逃げるなら追い付いてぶっ殺す。ただそれだけですよ……あの、ところでさっき言ってた歌姫とか黒姫ってなんですか?」

 

「あら? 先のゲームを見ていた方が橘志保さん、水無瀬先生をそう呼んでいるんですよ?」

 

 

 生徒会長から聞いた話によると俺達と似非優男達との戦い、グレモリー先輩と生徒会長の試合、サイラオーグ・バアルとゼファードル・グラシャラボラスの試合は冥界全土で放送されていたらしい。俺達の試合を見ていた偉い方々や一般悪魔達が美女、美少女の水無瀬と橘の戦い方が印象に残っているようでそう呼んでるみたいだ……さらっと流したけど犬月も妖魔犬で通ってるんだな? まぁ、あれだけ大声で叫べば印象に残るか。

 

 まぁ、でも仕方ないか。なんせ音楽も無い状態にも関わらず笑顔で歌って踊っておっぱいを揺らしたんだから男性悪魔のハートを掴んでも違和感はない。おかしいな……まさか本当に冥界アイドルになるかもしれないとはねぇ……水無瀬は水無瀬で最初の白衣姿からいきなりの黒いドレス姿にチェンジ、オセロのようにいっきに印象が変わった事が原因だろう。仕方ないね、禁手中の水無瀬ってエロいし男性悪魔のハートを掴んでもおかしくはない……マジでどういうことなの。

 

 ところで平家に何か異名らしきものは無いの? アイツ自身はどうでも良いとか思うだろうが見た目だったらお姫様級だぞ? 中身は残念だけどな!

 

 

「マジすか……」

 

「その反応……まさか知らなかったのですか?」

 

「まぁ、はい。俺達は普通に戦っただけなんでそんな風に呼ばれてたとかは初耳ですよ。そもそも俺達は評価とかあんまり気にしてないですし」

 

「それはそれでどうなんだよ……次のリアス先輩と黒井のゲームはかなり注目されてるっぽいぞ? 黒井も影龍王で有名人だし、リアス先輩も会長と同じで有名人。そのせいなのか俺達はゲームが無いんだってさ。ラッキーと思うべきか残念と思うべきか……はぁ」

 

「マジかぁ。まさかあのシスコン魔王か? うちの妹を有名にするにはこれしかないって感じで当て馬にする気じゃねぇだろうな? もしゲームのルールがこっちに不利な条件だったらとりあえず殺す。遠慮なく殺しても誰も文句言わねぇだろ。どう思います?」

 

「……と、兎に角! 貴方は今も昔も注目されている存在ですから言動や行動には注意を、と言っても無駄ですね」

 

 

 畜生流された! とりあえず生徒会長? そんなの無理無理。俺が礼儀正しく品行方正になったら平家か水無瀬辺りから心配されるしな。しっかし俺と先輩だけゲームで他はお休みねぇ……別に良いんだけど俺を嫌う老害共が何かしそうで怖いな。邪魔するなら邪魔しても構わねぇ。だってそんな事をされても勝つからな……でももし、もし仮に犬月達や母さんにまでその手が及んだら――上層部を確実に消す。徹底的に潰して邪魔する者は全てを殺してでも消滅させる。嫌な目に合うのは俺だけで十分だ。

 

 この後は他愛ない話をして俺は生徒会室から出て、家へと帰る。リビングには部屋着に着替えた犬月達が他愛ない会話をしながらグレモリーとシトリーのゲーム映像を見ていた……真面目だねぇ。俺の眷属にしておくのは勿体ねぇや。

 

 

「おかえり。早く着替えて枕になって」

 

「王を枕代わりにする眷属とかお前ぐらいだぞ? 水無瀬、コーヒー淹れといてくれ」

 

「はい」

 

 

 自室に戻って着替えてからリビングに戻る。そして平家が寝そべるソファーに座ると宣言通り、俺の膝を枕にしてスマホを弄り始めた……サイズがあってないシャツだから乳首見えてるけど役得としてガン見しておこう。相変わらずのピンク色で俺は嬉しいぜ!

 

 

「オカズにしたいならもっと見せても良いよ」

 

「ここ最近は夜空の全裸で間に合ってるしなぁ。コーヒーあんがと」

 

「どういたしまして。シトリー様から呼ばれていましたけど何かあったんですか?」

 

「なんでも匙君の神器に眠るヴリトラが目覚めそうなんでどうしたらいいんですかと相談された。アザゼルも邪龍が宿る神器は俺に聞けとか言ってたんだと」

 

「……あぁ、げんちぃってば腕に包帯巻いてましたね。王様が弄ってましたけどあれ、ガチでヤバかったんすね? なんとなく邪気というか王様に似たものを感じましたけど大丈夫なんすか?」

 

「今の所はな。まぁ、赤龍帝にファーブニル、そして俺と言うドラゴンが近くに居るんだし眠っていた意識が目覚めてもおかしくねぇ。アザゼルが残ったヴリトラ系神器を匙君に移植も考えてるらしいが……その辺は匙君の意志次第だな」

 

 

 水無瀬が淹れたコーヒーを飲みながらスクリーンに映っている映像を見るとちょうど俺が密かに燃え、犬月が男泣きした赤龍帝と匙君のガチバトルの場面だった。匙君は神器のラインを自分の心臓と赤龍帝に繋げながらひたすら殴る、殴る、殴る。映像越しからでも強い意志が感じるほどの強い一撃だ……良いねぇ、真っ直ぐで羨ましい。

 

 

「兵藤さんは悪魔さんと違って禁手に時間が掛かるんですね?」

 

「そういやそうっすね。王様や光龍妃、白龍皇は一瞬だったのに……いっちぃの力が弱いだけ?」

 

「禁手に至って間もないからってのもあるが……相棒曰く、前の赤龍帝も鎧を纏うまでは時間が掛かったらしい。俺や夜空、ヴァーリはある意味例外って言っても良い。赤龍帝を狙うなら禁手化する数分間だ、もし出会ったら絶対に逃がすな――と言っても今回はスルーして良いぞ」

 

「へ?」

 

「の、ノワール君……あの、兵藤君は赤龍帝で、一番先に倒さないとダメだと思うんですけど?」

 

「強いからこそ放置するんだよ。誰だって赤龍帝と聞けば警戒するし意識が集中する、相手もそれが分かってるはずだもん。ノワールはあえて放置して周りから殺していこうって考えなんだよ」

 

「そう言う事だ。あとな……俺が赤龍帝に負けると思いますか?」

 

「ないっすね」

 

「ない」

 

「まけたらぁ~それはそれでおかしいぃっておもうぅ~」

 

「……ごめんなさい兵藤君」

 

「悪魔さんが負ける所が……想像できません」

 

 

 流石俺の眷属、圧倒的なまでに信頼しているなんて泣かせてくれるじゃねぇの。というよりさ……大ダメージ受けても再生するから実質不死身なんだよね。そもそも再生能力持ちに対する撃破判定って謎なんだよ……ライザー・フェニックスもプロ戦では上半身が吹き飛んでも再生して戦闘続行してたしな。だから俺が王をやってる限り負けは無い、なんせ普通に再生しますから! まっ、夜空並みの威力を受けたら微妙だけどな。でも恐らくだが次の試合の審判役は最強の女王ことグレイフィアさんだろう……贔屓で謎判定されたらどうしよう。

 

 

「流石に審判役が贔屓するわけない。したらそれはそれで問題」

 

「だよな。とりあえずこの映像だけで判断は出来ねぇけど……水無瀬、お前は猫又に出会ったら反転結界の中に閉じ込めておけ。性質反転は周囲の気、仙術を練られないようにしろ」

 

「は、はい!」

 

「そっすね……仙術ってのは喰らうだけでこっちの動きが制限されますし。いくら雑魚とはいえ打ち合うのは勘弁だわ」

 

 

 映像からはイケメン君がデュランダルを使ったり聖剣使いがアスカロンを使ったりする場面もあるから俺達とのゲームでもそれを使ってくるだろう。他にも対処するべき人物もいるんだけど……ぶっちゃけ雷光と言う名の普通の雷をドヤ顔で放つ姫島先輩は雑魚だし、吸血鬼は聞いた話だとこのゲーム中は神器使用不可だったらしいから詳しいデータが分からない。もっとも神器が目を媒体にしてるから潰せばその試合中は普通の吸血鬼になるからこっちも一応問題なし。先輩? ぶっ殺せば試合終了だから何も問題なし。

 

 

「とりあえず先に言っておくが――シスターちゃんは確実に潰せ。どんなルールかは分からねぇけど居るだけでこっちが与えたダメージが無くなるから初っ端から潰しに行くぞ」

 

「倒せなくても恵の反転結界なら回復をダメージに逆転できる。でもいない方が良い」

 

「にししぃ~だねぇ。ん、ぷはぁ、潰すんなら私がやっても良いよ? 拳振るえば一瞬だしさ」

 

「……なんか、アーシアちゃんがボコられると考えるとすっげえ微妙なんすけど。あの子、良い子っすよ? か、軽くえいって感じにしません?」

 

「そ、そうです! 私の、と、友達です! や、優しくしましょう!」

 

「ヤダ」

 

「無理」

 

「ざんね~ん」

 

 

 俺、平家、四季音の順で拒否する言葉を言うと犬月と橘は崩れ落ちた。水無瀬は……呆れている。仕方ねぇだろ? 回復役ってのは狙われるのも仕事の一つ、放って置けばこっちが不利になるんだしな。でも回復役なら水無瀬も出来るんだよな……性質変化させずにダメージを与える魔力を逆転させれば理論上は回復の魔力になる。言ってしまえば水無瀬が存在する限り、俺達全員が回復役になれるわけだ。

 

 橘の歌の支援と破魔の霊力による接近戦、犬月の妖魔犬と諦めの悪さ、平家の剣術と先読み、頼れる俺達の酒呑童子こと四季音の馬鹿力、そして水無瀬の反転結界……あれ? 負ける要素が一つも見当たらない。勝ったわ、マジで勝ったわ。どんなルールか知らねぇけど普通に勝ったわ。

 

 

「ごめんアーシアちゃん……マジでうちの王様がごめん!」

 

「アーシアさん……ごめんなさい」

 

「なんで敵に謝ってんの?」

 

「友達だから」

 

「……あっそ」

 

 

 まぁ、犬月や橘、グレモリー先輩達には悪いけどルール次第では一発目からシスター狙いに行くから怒らないでくれ……勝利の世界は非情で卑怯だってことを思い知らせてやるからそれで許してくれ。




今回から「体育館裏のホーリー」編開始です。
未だにレーティングゲームでの再生能力持ちの撃破判定の基準が分かりません。

観覧ありがとうございました!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。