ハイスクールD×D~地双龍と混血悪魔~   作:木の人

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57話

『京都でそんな事が起きていたのね……朱乃から送られてきた写真に妖怪が写っているとは聞いていたけれど……もうっ、イッセーったら隠さないで教えてくれればよかったのに』

 

 

 目の前に映し出されているホログラム状の先輩は腕を組み、豊満なおっぱいを見せつけながらぷんぷん怒っている。いやぁ……デカいな。制服を着ているとはいえマジでデカいわ。その隣に映し出されている生徒会長の方を見れないぐらいマジでデカいな。

 

 

「その件に関しては俺からお前に伝えないように言っておいたんだ。下手に京都で事件が起きていると聞かされたらリアス、何がなんでもこっちに来ようとするだろ? そうなるとそっちの守りが手薄になるからな。いかに酒呑童子と覚妖怪が残っているとはいえ素直にお前たち二人の言う事を聞くとは思えん。なんせ王自身が自由すぎるしな……王が王なら眷属も眷属だよ。あいつらはキマリスだからこそ眷属にできたようなもんだ」

 

『確かに私とリアスでは四季音花恋さんには力で負け、平家早織さんには心を読まれて嫌悪されるでしょう。私も心が読める相手と知って普通に接することは難しいですし……こんな事をキマリス君の前で言うのは失礼ですけどね』

 

「別に良いですよ? 大半の連中は自分の本音を知られたくないでしょうし。でもあれはあれで便利ですよ? 何も言わなくても分かってくれるし今回だって傍にいないから加減がなぁ……あっ、即効でバレるでしょうけど今の発言は内緒でお願いします。知られるとマジで面倒なんで」

 

 

 俺の言葉にホログラム状の二人は苦笑の表情をした。だって恥ずかしいだろ……傍にお前(平家)がいないと加減できないとか指揮系統に問題あるとか! なんだかんだであいつのおかげでかなり楽してたんだなぁと今回の修学旅行でハッキリしたわ! やっぱり覚妖怪って最高だな!! 何も言わなくても心を勝手に読んで分かってくれるとかコミュ障の俺にとっては最高の種族だわ……絶対に言わないけど。絶対にバレるけど言わない!

 

 ちなみに東京にいる先輩と生徒会長と連絡を取っているのかというともうすぐ行われる予定である八坂姫救出作戦を伝えるためだ。英雄派を率いている曹操ちゃんとの一戦から数時間は経過してるがセラフォルー様経由の情報で禍の団と思われる集団が京都に集まってきているらしい……ついでに言うと誘拐された八坂姫も裏京都に戻ってはいないためまだ潜伏して何かをしようとしているとアザゼル、セラフォルー様の二人が情報を元に予想した。そこで京都の神々から龍脈の一本を借り受けた俺が霊操を使って調査した結果――八坂姫に尋常じゃないほどの霊力やら何やらが集まっていたので何かをされる前に助け出そうと襲撃を仕掛けることになった。

 

 そのため、流石に東京にいる二人に内緒で話を進めるわけにもいかないので何が起きているのかを説明してるというわけだ……今回の襲撃で眷属が死んだら大変だもん!

 

 

「覚妖怪に心を読まれても平気なのはお前さんぐらいだよ……たくっ、ただでさえ自由すぎるってのに魔帝剣なんつう厄介なもんまで手に入れやがって。そういや近くに無いがどこにやった? あんなもんその辺に置いておいて良い代物じゃねぇぞ?」

 

「あのチョロイン魔剣か? 流石に近くに置いておくと赤龍帝や匙君のドラゴンに反応して龍殺し(大好き)の呪いを放ってメンドクサイから地双龍の遊び場(キマリス領)に置いてきた。ちゃんと持ち主が分かるように『この魔剣は影龍王の物です。欲しい人は持って行っても良いですが死んでも責任は持ちません』って立札も立ててるから大丈夫だろ」

 

「……アホか!! あんな魔剣を放置しておくお前の思考回路にビックリだ!! 普通はゼノヴィアのように亜空間に格納とかだろ! あぁくそ! おいリアス、ソーナ! こいつが東京に戻ったら説教してやれ! あの魔剣の最大出力を放ちやがって俺達が死にかけたんだ! 俺が許す!」

 

『ちょっとキマリス君、貴方いったい何をしたのよ?』

 

『……魔帝剣、今、魔帝剣と言いましたか?』

 

 

 おっ、流石生徒会長。あのチョロイン魔剣の事は知ってるのね。

 

 

「そうだ。魔剣の中でも最強の名を欲しいままにしている帝王、魔帝剣グラム。ゼノヴィアが持つデュランダルと似た性質を持っているが最大の特徴は龍殺しの呪いを有している事だ。過去、その所有者はグラムが放つ呪いに蝕まれ、廃人になった者が多いが……どういうわけか英雄派の中にいた現所有者から奪いやがってな。しかも最悪な事に俺達が飛ばされた異空間ごと破壊する出力を出してもご覧の通り、ピンピンしてやがる……普通なら死んでるんだがなぁ」

 

「寝取った結果がこれですよ。あとアザゼル、悪いがあれは全力じゃないぞ? 確かにテンション上がって異空間ごと斬ったけどさぁ、あの程度の出力しか出せないわけないだろ? 魔剣の帝王だろ? だったらせめて異空間を貫通して現実世界にまで影響を出すほどの出力が無いとおかしいだろ。やっぱりまだ弱いなぁ俺って! 頑張らないと!」

 

「頑張らなくていい……邪龍を宿してるからかキマリス自身の精神力が高いのか、どっちなんだろうなぁ」

 

 

 多分邪龍だからじゃないか? 俺の精神力なんて普通の混血悪魔程度だし。それはそうと遊び場に置いてきたチョロイン魔剣は大丈夫だろうか? 数時間前に放置しようと地面に突き刺したら吐き気を催すほど気持ち悪い龍殺しの呪いを放ってきやがったしなぁ。まぁ、ムカついたんでちょっと優しく(全力を出させて)したら大人しくなったし多分大丈夫だと思うが……後でもう一回ぐらい様子を見に行ってみるか。だがあれだな……あれって呼べば来そうだな? 平家に言ったらキレられるが俺の感覚的に似てるし! 特にチョロインっぷりがかなり似てる!

 

 

『……影龍王に最強の魔剣、これが味方なんですから恐ろしいですね。敵として間違われてもおかしくないですよ』

 

『そうね。敵じゃなくて本当に良かったわ……キマリス君、色々と言いたい事はあるけれどイッセー達の事をお願いね。私達は東京から向かえないから貴方に頼るしかないわ』

 

『はい。匙達の事をよろしくお願いします』

 

 

 いや、まぁ……唯一の王だから何とかするけど魔王の妹である二人から頭を下げられたらなんか変な感じがする。具体的に言うとこんなのが他の奴らに見られたら陰口言われかねないとかそんな感じで。俺は気にしないが橘とか犬月が怒るんだよなぁ、優しいからなんだろうけど。

 

 とりあえず任されたとでも言っておこうか。あと――おっぱいの差が凄いですね。本当に同い年ですか?

 

 

「えっと、はい。とりあえず敵によって死なせないようにしますよ。俺の手で死んだら……まぁ、諦めてください」

 

「お前さんなら普通にしかねないからやめろ。リアス、ソーナ、そろそろ通信を切るぞ。心配しなくてもお前さん達の眷属が一緒に戦うんだ、死にはしないさ。あいつらを信じて待ってろ」

 

 

 アザゼルの言葉を最後に通信が切れた。さてと……時間的に一般生徒は寝てるだろう。いや、男同士で誰が好き? だれとヤりたい? とか話して起きてるかもしれないが部屋からは出ないように術を使ったからホテルから外に出られる心配もない。流石ヴァルキリーちゃん! 魔法に関しては天才だね!!

 

 そして俺はアザゼルと一緒に教員が寝泊まりする部屋から外に出る。何やらアザゼルのポケットから赤龍帝の波動っぽいものが漏れ出してるけどなんだろうなぁ……あれか? また魔王様特権で何かしたとかか? うわぁ、死ねばいいのに。

 

 

「王様? 話し合いは終わったんすか?」

 

 

 アザゼルと共にホテルのロビーまで向かうと先に待っていたであろう集団が見えた。その中の一人が俺達に気が付いて近づいてきたが……うわお、すっごくやる気だな。流石俺の兵士、もうすぐ殺し合いになるからか遊び感覚は抜けてやがる! おかしいな……さっきまで部屋の片隅で体育座りしながら窓の外を眺めてたはずなんだがどうやって立て直した?

 

 

「おう。なんだ? 随分やる気だな、良い事でもあったか?」

 

「あるわけないでしょ……さっさと終わらせて普通の修学旅行を楽しみたいんすよ! 王様……お願いですから魔帝剣の一撃を放たないでください! あれ、しぬ、そうまとうみえた」

 

「無理」

 

「デスヨネ!! やっぱり頭おかしいってこの人!! せ、せめてタイマンの時だけにしてください! 水無せんせーとかガチで泣いてんすから!! げんちぃとかも俺と一緒でしばらく魂が抜けてたんだから本当にお願いしますぅ!」

 

「悪魔さん、志保、すんごく怖かったのでグラムさんを使うのは控えてほしいな♪」

 

「仕方ないなーしほりんに笑顔で言われちゃったら従うしかないよなー! 安心しろ、ヤバくなったら使うからそんな可愛い笑顔を向けないでくれよマイビショップちゃん! てかちょーこわい、なにこれ、すっげーこわい」

 

「それだけ怖かったという事です。ノワール君……帰ったらお説教です」

 

 

 なんでだよ……なに? 東京に帰ったら先輩方からも説教されて水無瀬からも説教されんのか? た、確かに巻き込みかけたのは事実だけど生きてるんだし良いだろ。むしろ殺さなかった俺を誉めて欲しい!はい! 違いますね俺が間違ってました本当にごめんなさい! だから橘様……破魔の霊力を込めた拳で軽いシャドーボクシングしないでください! アイドルがそんな事をしちゃだめです! 見ろよ!? 犬月なんて両手で顔を隠してるし離れた所にいる赤龍帝達なんて絶句してるんだぞ!! 本当にやめてください何でもしますから!

 

 

「良いぞ良いぞ! もっと言ってやれ! こいつはお前らの声じゃないと耳に入れねぇからな!」

 

「はい! 悪魔さん♪ 東京に帰ったら優しく、優しくお説教してあげますね♪」

 

「わーい、アイドルからの説教とかご褒美じゃねぇか……はぁ、帰ったらあのムキムキハゲは殴る」

 

 

 そんなやり取りをしつつアザゼルの一声で俺達キマリス眷属、赤龍帝達グレモリー眷属二年生組、匙君達シトリー眷属、あと転生天使は一斉にアザゼルを見る。遊ぶ時は遊ぶ、真面目になる時は真面目になる。これが大事なんだよ! 決して橘様が怖いとかそんなんじゃない。

 

 

「よし。キマリスから聞いてるとは思うが今から八坂姫を救出する作戦を開始する。場所は二条城、セラフォルーからの情報では禍の団と思われる連中がこっちに向かってるらしいが大部分は俺やセラフォルーが指揮する悪魔で対応する。お前らは二条城に集まってると思われる英雄派に集中すればいい」

 

「「「「「はい!!」」」」」

 

「気合十分で何よりだ。そんじゃ、それぞれの配置について説明する。これは俺とキマリスが話し合って決めたもんだ、文句があるならそこにいる影龍王に言ってくれ」

 

「良いぞ良いぞ! 反論大歓迎! お前らの好きなようにさせてやるから反対意見を待ってるぞ! ただし死んでも俺のせいにすんなよ? 自己責任で死ね」

 

「という事だ。文句を言ったら死ぬから諦めてくれ。まずオフェンスだがグレモリー眷属とイリナ、そしてキマリス、犬月、匙のメンバーだ。ただしアーシアはオフェンスじゃないから気をつけろ」

 

「……ちょ、ちょっと待ってくれ! アーシアが居なかったら回復はどうなるんだ!? 黒井と互角に戦える相手がいるってのにアーシア無しじゃ――」

 

「いや、イッセー君。その方が良いかもしれない」

 

「木場!?」

 

 

 おっ、イケメン君とデュランダル使い辺りは気づいたようだな。シスターちゃんの配置に関しては俺とアザゼルの意見が一致した部分だし気づいてもらわないと困るんだよ

 

 

「イッセー、今回の相手、英雄派には任意の場所へ転移させる能力……いや神滅具を持つ奴がいる。恐らく俺達が二条城に向かおうとすれば数時間前のように異空間に飛ばされるだろう。そうなった時、アーシアが孤立させられる恐れがある。だから今回は匙以外のシトリー眷属と残ったキマリス眷属と共にホテル周辺で待機してもらう」

 

「……あっ、そうか……そうだよな、アーシアを人質に取られるかもしれないんだもんな……で、でもそうなるともし大怪我したら――」

 

「死ぬな」

 

 

 俺の言葉がロビーに響く。当然だろ? だって回復役がいないんだし大ダメージを負ったら死ぬのは当たり前だ……そもそもこれはゲームでも遊びでもない実戦、殺し合いだ。というよりも回復役と言う存在自体がイレギュラー過ぎて困るんだよ……戦場でそんな事をしてたら自分が死ぬしな。俺達とのゲームからしばらく経ってはいるがシスターちゃんに守り系の術を覚えさせたりはしてないだろうし……いや覚えさせてるかもしれないがこの子の性格的に傷ついた相手を見たら自分よりも相手を優先しかねない。だからいない方が良いというのが俺の意見だ。

 

 あと、シスターちゃんを傷つけられてまた覇龍暴走とかなったらヤダし。

 

 

「ちなみに怖かったら橘達と一緒にホテルの周辺で待機していていいぞ? 遊びじゃないし。死にたい奴だけ俺と一緒に八坂姫救出作戦すればいいさ、あと、お前らの中で大ダメージを負ったとしても放置するからそのつもりでいろよ。アザゼル、続けてくれ」

 

「おう。キマリスも言ったがこの作戦から降りたい奴は降りても良い。強制じゃねぇしな。今回の作戦のために用意したフェニックスの涙もたった三つしかない。待ち受けるであろう英雄派の実力は未知数、しかも最悪な事に光龍妃も乱入するかもしれねぇ……あれの事だ、飽きたと言いつつキマリスの様子を見にひょこりとやってくるかもしれん……本当に厄介すぎておじさん、泣きたくなってきたぞ」

 

「夜空に関しては仕方ないだろ? 人間なんだし。はい、というわけで――降りる奴、いる?」

 

 

 周りを見渡してもどうやら降りる奴はいないようだ。おいおいこいつら頭大丈夫か? 絶対に死にますよとは言わないが死ぬかもしれないですよと言ってるような作戦に参加とか頭おかしい……うわぁ、降りろよ。俺が好き勝手に楽しめるから是非降りてくれよ!! とか思いながら隣にいる犬月を見るとやる気十分、いつでも死ねますよって感じで笑ってやがった。うん、知ってた! だって俺の兵士だし四季音とかの影響を受けてるだろうしなぁ!

 

 

「――お前らの覚悟、良く分かった! だから俺から言えるのは一つだけだ、死にそうになったら逃げろ。逃げるのは恥なんかじゃねぇ、それを忘れるな。あと、裏京都……と言って良いのか知らんが茨木童子がオフェンスに入る。何かあったらそいつを頼れ」

 

 

 茨木童子という名前が出た途端、匙君の表情が明るくなった。あぁ、そういえば俺と一緒に居たからあいつの強さを知ってるんだったな……これに関しては八坂姫が二条城にいると分かった段階で金髪ロリと京都妖怪に伝えて、茨木童子をこっちに連れて行くと交渉していたから何も問題ない。ただ……金髪ロリが自分も行くと言って五月蠅かったがげんこつして裏京都内から出ないように強く言っておいたから大丈夫だろう。

 

 というわけで作戦開始の時刻になったのでホテルから出ると茨木童子が声も出さず、静かに待っていた。相変わらず何を考えているか分からない奴だ……頼りになるけども。

 

 

「約束の時間。来た。九尾を助けに行く」

 

「おう。分断される恐れがあるから先に言っておくが向かってくる敵は皆殺しな。此処にいるメンツ以外は全て敵だ、遠慮する必要は一切ない! 情けをかけずにぶっ殺せ」

 

「分かった。それは得意。鬼は手加減が苦手」

 

「だろうな。というわけだ、頼りにしてるぜ? 茨木童子」

 

「任せて」

 

 

 俺達キマリス眷属、シスターちゃん抜きのグレモリー眷属、匙君、転生天使、茨木童子のメンバーで二条城を目指す。なんというかこのメンツ……軽く世界に喧嘩売れるぞ? だって影龍王()、赤龍帝、ヴリトラ、聖魔剣、デュランダル、妖魔犬(犬月)、茨木童子、天使、ヴァルキリー。なんでこんなメンバーが一か所に集まってんだ? 謎だな……!

 

 

「そういえば犬月、由良からなんて言われたんだ?」

 

 

 バスを待っていると匙君が犬月に先ほどの事が気になっていたのか聞き始めた。ナイスだ匙君! 俺も気になってたんだ! だってこれから殺し合いに向かう男に女が話しかけたんだぞ? 気にならないわけないでしょ悪魔的に!! まっ、悪魔だからどんなことを話してたなんて耳に入ってるけどね。匙君も顔が笑ってる辺り分かってて聞いてるのだろう……流石邪龍仲間! 気が合うじゃないの!

 

 

「うぇ? い、いやぁ……単に無理するなとかそんな感じだけど、げんちぃ? その王様みたいな変な笑みはなんすか? な、なんもなかったっすよ!?」

 

「そうかそうか! いや良いんだ何でもないから! まぁ、死ぬかもしれないって戦いの前でこんなことは言いたくないけど……ロキとフェンリルとの戦いみたいに血だらけになってまで戦おうとするなよ。友達が血まみれとか本当に嫌だしな」

 

「……うっす。俺も死にたくないしなにより! 何より彼女出来ないまま死ぬとかごめんだからな! ホントね……王様と一緒に暮らしてると何度も彼女欲しいとか思うんだよ……だってこの人! 酒飲みとか引きこもりとか水無せんせーとかしほりん相手に普通に下ネタ言うし! 普通におっぱい触ったりするからさ! 羨ましいんだよぉ……!」

 

「分かる……分かるぞ犬月!! 俺だって、俺だって彼女欲しいさ! 黒井も兵藤も羨ましいんだよぉ!!」

 

「俺もか!? ちょ、ちょっと待て匙! 犬月! 俺だって黒井のように欲望のままに何かをしてるわけじゃないぞ!? ぜ、ゼノヴィア……ロスヴァイセさん? そ、その目は何でしょうか? ちょ、ちょっと待てって!! 俺だって黒井みたいにしたいわー!!!」

 

 

 あのさぁ……その人を犯罪者呼ばわりしないでくれませんかねぇ? 俺だって好きでやってるに決まってるだろ? ただ四季音と平家のおっぱいを揉むなら夜空のおっぱいを揉みたい。水無瀬と橘と一緒に風呂入るなら夜空と一緒に入りたいわ! それになぁ……誘ってくるのは全部あっちだからな? 俺から揉んだりとかあんまりないからね!

 

 常識人ことイケメン君や多分むっつりな転生天使から変な視線を浴びつつバスを待っていると――全身に変な感覚があった。それは数時間前に曹操ちゃんと戦ったフィールドに転移させられた時と同じ感覚……やっぱり転移させてきたか。当然だな、それをやらない理由は無い。

 

 

「……分断されたか」

 

『そのようだぜぇ? この空間は京都を模した偽もんよ、好き勝手に暴れても問題ねぇぞ宿主様!』

 

「知ってる。とりあえず――皆殺しだな」

 

 

 周りを見渡すとどうやら京都の街並みが見える。どの辺かと言われたら分からないが空を飛べば二条城ぐらいは見えるだろう……さて、そんな俺達を囲むように配置されているのは異空間で犬月達が戦っていたモンスターもどきだ。見た目は気持ち悪く、まさに怪物と表現するにはちょうどいい見た目をしている。恐らく悪魔と一般人に言ったら信じるだろうなぁ……だって気持ち悪いし。

 

 俺達を取り囲んでいるモンスターもどきは百以上はいるだろう……普通なら影人形大量生成で皆殺しをしていくところだがちょうど異空間だし数時間前に手に入れたチョロイン魔剣の練習台にでもなってもらおうかな!!

 

 

「――グラム」

 

 

 その名を呼んだ瞬間、異空間にも拘らず目の前に剣が降ってきた。この場を支配するほどの濃厚な呪いを放つ一本の剣――魔帝剣グラム。誰も居ない更地に放置されていたのが気に入らないのか俺を殺すとばかりに呪いを放ってきている。おいおい、あそこってお前が大好きな龍のオーラが大気中に舞ってる最高の保管庫だぞ? なんで怒ってんだこいつ? てか呼んだらマジで来やがったよ……! ここって異空間だよな? なんで来た――あぁ、そうか。そういう事ね、あ、ありがとうって言っておくぞ!

 

 即座に禁手化、鎧を纏って剣を持つと持った腕に呪いが侵食していく。腕の中をムカデか何かが這っているような気持ち悪い感覚……はいはい、ちゃんと使ってやるから喜ぶんじゃねぇよ。

 

 

「相棒、もう一回聞くけどここは本当に異空間なんだな?」

 

『そうだぜぇ! だから遠慮なんざ必要ねぇ!! やっちまえ!!』

 

「了解!」

 

 

 龍のオーラを高めるとそれに呼応するように呪いの濃度が上がる。全身を掻き毟りたくなるほどの気持ち悪い感覚に襲われるがもう慣れた。曹操ちゃん達と戦ったフィールドを壊す出力じゃなく、目の前を更地にする程度で十分だ……もっと鋭く、もっと濃く、もっともっともっと! 目の前のモンスターもどきも俺達の異変に気が付いたのか歪な口を開き、光を放とうとしてくる。しかし残念だったなぁ! その程度の光なんざ俺に向けても怖くねぇんだよ!!

 

 たった一振り、目の前にチョロイン魔剣を振り下ろすとその先にある光景全てが切り刻まれた。百はいたであろう異形はこの魔剣によって切り刻まれ絶命した……真横とか後ろにいた奴らは影を伸ばして拘束、圧縮しながら力を奪って殺害! しっかし使いにくいなこれ? 力を抑えようとすれば反対反対って五月蠅いしさぁ! 俺としても力を抑えるとか死んでもやりたくねぇんだよ! でもなぁ! 橘様が怖いからやるしかねぇんだよ!! アイドルスマイルが怖いんだよ!!

 

 

「いやはや、僕ですら操るのに苦労したグラムをこうもあっさり使いこなされると自信無くすね。これも宿ったドラゴンの差なのかな?」

 

 

 建物、地面、空間すら切り刻んだこの場所に新しい声が響き渡った。白髪頭で複数の剣を腰に付けているこのチョロイン魔剣の元所有者。名前は……なんでしたっけ?

 

 

「はぁ? この程度、やろうと思えば誰だって出来るさ。自分に宿るドラゴンのせいにしてんじゃねぇよ雑魚が。んで? 寝取られたこの魔剣を取返しにでも来たのか?」

 

「そうかもしれないね。たった一言、剣を交えずに取られたんだからそれぐらいは許してほしいね。さて名乗ろうか、僕はジークフリート。その魔剣の所有者だった男だ。影龍王、悪いけど一戦付き合ってもらうよ」

 

 

 片方にはこのチョロイン魔剣のように呪いを放っている剣、もう片方には光の刀身の剣、そして()()に呪いを放つ剣を握りしめて俺に剣先を向けた。三本……なるほど、あの形状からすると龍の手(トゥワイス・クリティカル)か。籠手の形じゃなくて亜種タイプは初めて見たぞ……てかさぁ! 寝取った俺も俺だけど奪い返しに来ないでくれない? メンドクサイからさ!!

 

 

「正気か? お前程度に苦戦する俺じゃねぇぞ?」

 

「だろうね。でも剣士として……戦わずに自慢の剣を奪われた屈辱は忘れられない。付き合ってもらうよ、影龍王」

 

「剣士ってめんどくせぇなおい。はいはい、遊んでやるよ――雑魚」

 

「そうこなくっちゃね――禁手化!!」

 

 

 白髪男の背中に腕が生える。元々生えていた龍の手に加えて新たに三本、自身の腕を合わせて計六本の腕というトンデモない姿になりやがった。うっわ、気持ち悪いな。

 

 新しく生えた腕で腰に帯剣していた剣を引き抜いて握りしめる。また魔剣か……何本持ってんだこいつ?

 

 

「バルムンク、ダインスレイブ、ノートゥング、ディルヴィング、そして光の剣二本。本当ならグラムが入るんだけどキミに取られちゃったから光の剣で代用する羽目になった。これが僕の禁手――阿修羅と魔龍の宴(カオスエッジ・アスラ・レヴィッジ)さ」

 

「へー、すごいねーかっこいいねー。で? そんだけ? 曹操ちゃんみたいに不気味な印象とか夜空やヴァーリのように威圧的な印象とか無いの? まっ、雑魚に期待しても無意味だけど……はい、剣を奪った罰として初手はくれてやる。さっさとかかって来いよ」

 

「――なら、遠慮なく!!」

 

 

 背中の腕に埋め込まれた宝玉が輝いて白髪男の力が跳ね上がった。確か龍の手の能力は赤龍帝の籠手の下位互換、一定時間だけ倍加だったな……となると一定時間、八倍になるとかそんな感じか? どうでも良いしさっさと終わらせて曹操ちゃんの所に行こうかねぇ。

 

 魔剣四本と光の剣を握った男が人間とは思えない速度で俺に接近して剣を振るってきた。それを影人形を生み出して真剣白羽取りすると今度は別の腕が振り下ろされたので生み出した影人形の背中から腕を生やして真剣白羽取り……そしてまた別の腕が振り下ろされ――るわけもなく魔剣一本と光の剣を捨てて後方に下がった。その辺の対応は出来てるってわけか……しっかし弱いなぁこいつ! なんでグラムなんて魔剣を持ってたんだ? てかジークフリートって昔の英雄の名前じゃなかったっけ? 魔剣じゃなくて聖剣持てよ!

 

 

「……今の、全力で斬りかかったんだけどな」

 

「そうなの? 遅すぎてあくびが出たんだが? ほい、返すわ」

 

 

 影人形が白羽取りしていた魔剣と光剣を放り投げる。ちなみに今の攻撃だが白羽取りしなくてもよかったです! 普通に影人形のラッシュを叩き込めました!

 

 

「さてと……初手はくれてやったんだ、今度はこっちの番な? 言っておくけど――加減しないからな」

 

 

 遊んでいる理由も無くなったのでさっさと終わらせる事にした。あのまま影人形を数百数千と生み出してタコ殴りをしてもよかったが剣士には剣で対処してあげようじゃないか……ついでに言わせてもらうとこのチョロイン魔剣からも殺らせろとかそんな感じで言ってきてるし。そもそもさぁ! 俺に霊操があるから分かるけど他の奴らは分からないからな? だから俺を認めたんだろうけどさ。

 

 先ほどと同じように龍のオーラを高めると呼応するように呪いが跳ね上がる。さっきの一撃は加減したが今度はちょっと出力上げるぞ? 死にたくなかったら逃げ切って見せな!

 

 

『ゼハハハハハハ!! 二条城まで最短ルート形成と行くかぁ!!』

 

「っ、なんで……なんでその龍殺しの呪いを受けて平気なんだ! 何故だ……何故、なぜだぁぁ!!」

 

 

 逃げきれないと判断したのか魔剣を握りしめて突進してきた。おぉ、意外だ。てっきり逃げるとばっかり思ってたしな――うん、死ね。

 

 高められた呪いを解き放つように振り下ろす。目の前の光景全てに斬撃が走り、地面が抉れ、空間に亀裂が入る。当然突進してきた男も()()に巻き込まれないように全力で魔剣を振るうが無理だよ。お前程度で何とかなるならこの魔剣は最強とは言われない。

 

 

『――ゼハハハハハハハハッ! 消し飛んだぜ! あの程度の斬撃で綺麗さっぱりだ!』

 

 

 相棒の声が響き渡る。うん! 目の前の光景が悲惨になってるね! そういえば赤龍帝達も別の場所に飛ばされてるんだよな……巻き込まれてたらごめんね! グラムを握りしめたまま白髪男がいたであろう場所に向かうと大量の血と肉の破片らしきものが散らばっていた。あぁ、まだ残ってたか……やっぱり加減難しいな。俺的には肉片すら残さない一撃のつもりだったんだけどなぁ……良いか。なんとなく使い方は分かったしタイマン以外なら使ってもいいかもしれねぇ。

 

 そんな事を思っていると衝撃で散らばっていたであろう魔剣四本がいきなり目の前に突き刺さった。えっ? まさかとは思うけど……また? またチョロインか? なんなんだよ魔剣ってのは!! 覚妖怪以上にチョロすぎるぞ!!

 

 

「……相棒」

 

『ほれ、呼んでるぜぇ? 主様ぁってな!! 俺様も嬉しいぜ!! 歴代でも魔剣に惚れられた奴はいねぇからな!! 計五本の魔剣所有者となった影龍王! さいっこうじゃねぇか!!! ゼハハハハハハハハハッ!! ユニアに自慢できるぜ!!』

 

「俺としてはいらないんだがなぁ……仕方ねぇ、後でキマリス領のイベントかなんかの景品にでもするか」

 

 

 影人形に魔剣四本を持たせながら二条城を目指す。とりあえず……平家がこいつらを見たら吐くんじゃねぇかな?




名称 魔帝剣グラム
魔剣の中でも帝王と称されるほどの業物であり、最強の魔剣とも言われている。
全てを切り刻める破壊力と龍を殺せる力を宿している。
本来は英雄派の幹部、ジークフリートが保有していたがノワールが修学旅行で訪れた京都で一戦交えた際にどういうわけか魔帝剣グラムに認められ所有者となった。
ノワールからの呼び名は「チョロイン魔剣」

名称 バルムンク、ダインスレイブ、ノートゥング、ディルヴィング
伝説の魔剣。
チョロインその2、3、4、5

魔帝剣グラムの一撃のイメージは犬夜叉の鉄砕牙が放つ風の傷、叢雲牙が放つ獄龍破。

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