ハイスクールD×D~地双龍と混血悪魔~   作:木の人

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66話

『第二試合もキマリスチームの勝利です! このまま連続勝利で終わるのか! それともバアルチームが巻き返すのか! まだまだ目が離せませんよぉ!』

 

『てかさっさとノワールとバアルの殺し合いを見せてくんない? そろそろ飽きてきたぁ! パフェおかわり!』

 

『いやーすいませんねーこの規格外系美少女のために出前までやってもらっちゃって……お、おい光龍妃? そろそろ満腹だろ? もうこの辺でやめとかねぇか?』

 

『まだ半分しか食ってないから無理!』

 

『おいキマリス!? いい加減こいつを止めろ! 俺の財布がヤバい! 聞いてるのか!? おい!』

 

 

 巨大モニターからアザゼルの声が響き渡る。見れば夜空の背後には試合中に食ってたと思われる皿やら丼やらが大量に積まれているな……量的に言えば普通の女ならば次の日の体重計を破壊したくなるぐらいのものだろう。どんだけ食ってんだよ? お前なぁ、うちの女性陣……あっ、平家と四季音姉妹を除くな! うちの女性陣なんて風呂上がりに体重計に乗っては絶望したり喜んだりと忙しいんだぞ? いくら食っても体形が変わらないからって食い過ぎだ。良いぞもっとやれ!

 

 

「王様ぁ! きちんと勝ってきましたよ」

 

「ただいまです。ふぅ、勝ててよかった……」

 

 

 アザゼルの声を無視して戻ってきた二人の方に視線を向ける。犬月の方は軽くダメージを受けたせいか傷とかがあるが水無瀬の方は問題ないようだ。映像でも直撃コースの攻撃を庇ってたしな……まっ、実戦なら兎も角、ゲームならこの程度のダメージは殆ど問題ねぇだろ。

 

 

「お疲れさん。よくやった、どうだった犬月? モード妖魔犬の劣化版、改良の余地ありか?」

 

「そっすね。速度特化とはいえ火力がかなり下がりますし……でもこれからっすよ! それよりも水無せんせーを誉めてあげてくださいよ! 王様の影人形と同じものを使えるようになってたんですし!」

 

「ん? あぁ、さっきのパチモンか? 色々と改善するところもあるが良いんじゃねぇの? 水無瀬、あとで手取り足取り影人形の使役方法を教えてやるから覚悟しておけよ」

 

「は、はい! 頑張ります! で、でも優しくしてください……ね?」

 

「――と言いながら心の底から喜んでる。流石だね」

 

「ち、違いますよ!?」

 

 

 年上美女からの優しくしてくださいね発言はグッとくるね! てか俺も夜空と同じでさっさと獅子王と戦いたい……流石に互いにダイスを振って出目の合計が「12」になるなんて滅多に無いはずだ。獅子王眷属の残りは騎士、僧侶、戦車、女王、兵士、王か……こっちはチョロイン(魔帝剣グラム)がリタイア扱いになってるとはいえ殆ど無傷だから互いの最低値は「3」か。仮にこのまま連勝していくと「6」「7」「8」と最低値がどんどん上がっていくか……元が神滅具だしいくら兵士の駒でも6~8ぐらいは使用しないと無理だろう。だから下手をすると俺が全力で殺し合えないから交渉してみるかねぇ! ダイスを振るのが面倒になってきたとかじゃないぞ? 誰に言ってんのってそれはお前だよ平家!

 

 再び審判役の指示に従って台へと向かう。対面している獅子王の表情はさっきまでと変わっていない……アスタロト家次期当主とは全然違うな。

 

 

「――獅子王」

 

「なんだ?」

 

「ダイスを振るのが面倒になってきたからさ、こっから先は俺達が選んだ奴同士でやらねぇか? 最悪な事にあそこにいる規格外が飽きてきたっぽいしこのままだと泥沼になっちまう。だから提案だ、どうだ?」

 

「――なるほど、そういう事か。確かにこのまま俺達が負け続ければ出目の最低値が「7」からスタートになる。俺も影龍王殿も駒価値は共に「12」だ、互いに振り続けても出るかどうかは分からん。その提案は受けよう! いや受けるしかない! 審判役! 委員会よ! 影龍王殿の提案を認めていただけたい!」

 

『な、なんとぉ!! 影龍王! ノワール選手から提案が飛び出したぁ!! これに対し運営側はどう判断するのでしょうか!?』

 

 

 どう判断するかだと? んなの決まってるだろ――

 

 

『――ノワール・キマリス様の提案を認めます。次の試合より両「王」が選んだ者同士によるゲームを行います』

 

 

 審判役から俺の提案が受け入れられた事が告げられた。当然だ……この場には夜空が居る。さっきアイツはそろそろ飽きてきたと言ってたから仮に認めなかった場合、この場にいる観客が死ぬかもしれない。言ってしまえば人質だ……夜空なら俺と獅子王のゲーム中だとしても関係無く周りを殺すだろう。つまり夜空がこの場にいる限りは大抵の事は許可されるはずだ! 多分ネ!

 

 ダイスを振る必要が無くなったので台にいる理由も無いから自分の陣地へと戻る。初っ端から俺が出て蹂躙しても良いんだがそれだと上が五月蠅い……となればやることは一つか。獅子王眷属の兵士以外をぶっ倒して俺と獅子王のタイマンまで持っていく! ゼハハハハハ! だったら簡単だな!

 

 

「了解。志保、行こう」

 

「……え?」

 

「心を読んでいるお前しか分からねぇだろうが……平家が言ったが次の試合は平家と橘の二人だ。頑張ってこい」

 

「はい! 行ってきます!」

 

 

 遊びはここまでだ……俺と獅子王とのタイマンのためにここで勝って次に繋ぐ、負けてもそれはそれで問題無し。そのあとは鬼による蹂躙タイムだ! 橘には悪いが平家がいる限り負けはしないだろう。だって俺の騎士だしな!

 

 二人が魔法陣でバトルフィールドへと向かう。巨大モニターに映し出されたのは今度の舞台は荒れた神殿っぽい所だった。平家と橘と向かい合う様に現れたのは馬に跨った甲冑女と美少女……いや男だったはずだ。相棒が男の娘だ男の娘だぜと連呼し始めて五月蠅いがとりあえずあの二人が平家と橘の敵って事になる……他に現れる気配がないから互いに騎士と僧侶の戦いになり、戦車と女王は次以降か? 別に良いがうちの最大戦力の鬼姉妹を相手にどうする気かねぇ?

 

 

『おぉっと! キマリスチームからは影龍王に付き従う覚妖怪! 騎士の平家早織選手と冥界アイドルとしてデビューも望まれている歌姫! 僧侶の橘志保選手です! 対するバアルチームは青ざめた馬(ペイルホース)を従わせるフルーカス家出身! 騎士のベルーガ・フールカス選手と美少女にも見える美少年! 僧侶のミスティータ・サブノック選手です! 両者ともに騎士と僧侶を出場させてきたぁ!!』

 

『ノワール、本気で殺っても良いんだよね?』

 

「あぁ。遠慮なんかしなくて良いぞ? さっさと俺を獅子王と戦わせてくれ」

 

『りょーかい』

 

 

 平家は魔法陣を展開して龍刀「覚」を握りしめる。相手の騎士にはコキュートスに住んでいる魔物を従えているから実質3対2か……僧侶の方はデータが少なくて良く分からなかったが注意しないと負けるかもしれねぇぜ?

 

 

『早織さん! あの、前を任せても良いですか!』

 

『うん。志保は狐の制御に専念してて。相手は私の読心と志保の破魔の霊力を消すつもりみたいだし』

 

『……覚妖怪特有の読心術か。こうして相対した瞬間より覚悟はしていたこと! 頼む!』

 

『任せて!! 二人の能力を封じよ! っ、うぅ……!!』

 

 

 試合開始と同時に美少年が持つ不気味な杖が輝きだした。平家の言葉から推測すると神器か何かだろう……封じるか、まさか相手の能力を封じる系の類かねぇ? でもだったらなんで使った本人が苦しそうに膝をついてるんだ? しかも鼻血とか色々と酷い感じになってるし! だ、大丈夫? さっさと動かないと狐に感電死させられるぞ?

 

 

『おっと!? ミスティータ選手の杖が光ったと思えば途端に膝をついたぁ!? アザゼル総督! これはどういう事でしょうか!?』

 

『あれは異能の棺(トリック・バニッシュ)と呼ばれる神器だろうな。あれの能力は一定時間だけ対象の能力を封じる事が出来るが使用者は全力を費やさないとダメだ。僧侶らしいサポート系神器って言えばいいか? 覚妖怪の言葉通り読心能力と破魔の霊力の二つを封じた結果、かなりの負荷がかかってあの状態になったみたいだな……無茶をするぜ』

 

 

 なるほど、ガチで能力を封じる系神器か……俺に使用されれば影人形は使えなくなるから少しだけパワーダウンするな。もっとも使用者があんな風になるって事は基本的にコンビで運用していかないとダメって感じか? 鍛え上げたらかなりの活躍をしそうじゃねぇの!

 

 

『……確かに封じられたみたい。でも志保には狐がいるよ? どうするの?』

 

『こうするまでだ』

 

 

 甲冑女が馬から降りる。やっぱりな……魔物を従えているならそれを武器にするのもルール上は問題ない。そもそも審判役からも言われてねぇしな! 俺としてもあんな提案をした以上は許可するしかねぇし!

 

 

『我がアルトブラウの脚は神速、本来であれば私と共に戦場を駆けるが今回は別だ。キマリス眷属の僧侶にダメージを与えるにはこうするしかない……私たち二人で戦うと主君に告げた以上は致し方ない』

 

『ふーん。どうでも良いけどね』

 

 

 騎士特有の速度で平家は甲冑女の背後に回るも得物の槍で刀を防がれる。そこからは騎士同士の高速戦闘が開始だ……さっきの犬月達の様に映像では馬と狐が戦っている姿しか映っていない。流石高位の魔物、あの気性が荒い狐相手によくやるよ――まぁ、長くは持たねぇけどな。

 

 

『キー君! えっと……きゃぁ!?』

 

『志保……ほい、よっと。やっぱり厳しいよね』

 

 

 狐が放つ雷撃を楽に躱した馬は真っすぐ橘へと突進していった。馬の速さは騎士並み、普通に当たれば大ダメージだろう……そこは俺の僧侶だ。俺達との殺し合いで目が慣れてるからか防御障壁を展開して直撃は防いだようだ。もっとも衝撃で後ろに飛ばされてるみたいだけどな……流石にあの速さで動き回る奴を相手に呑気に歌ってたら良い的だし破魔の霊力が封じてられなかったら問題無かったかもしれないが今は別、独立具現型神器の狐を使わないとダメージを与えられないひ弱な僧侶ちゃんになってる……てか平家の奴? なんで手を抜いてやがる? お前ならその程度の奴は簡単に倒せるだろ……?

 

 

『グルルルッ!』

 

 

 主が攻撃されたからか狐が唸り声を上げて雷を放出するも上空を駆ける馬には当たる気配はない。てかいつの間にかあの美少年ちゃんを背に乗っけてるし……回避と同時に拾いやがったな? 良いのかおい! お前って気に入らない奴だったら蹴り殺す馬だろう! 美少女に見える美少年だからか!? おっしそうだな! マジかぁ……あの馬って相棒と同じ男の娘好きかぁ!

 

 

『当たらない……あの速度に対抗するには私がもっと速くならないと……!』

 

『志保』

 

『は、はい!』

 

『――負けて良いよ。邪魔だし』

 

 

 甲冑女の槍捌きを器用に流しながら平然と言いやがった。あの野郎……たくっ、だから嫌われるんだっての。見ろよ? あの橘が訳が分からない顔をしてお前を見てるぞ? あっ、馬に体当たりされた。うわぁ……あれは痛いだろうなぁ。

 

 

『……さ、おりさ、ん……?』

 

『助けないよ? 邪魔だし』

 

『なん……で、ですか……?』

 

『嫌いだから』

 

 

 放たれた槍の一突きを躱して一閃、甲冑女の手から弾き飛ばした平家は横になっている橘に近づいて行った。周囲を駆けている馬はその姿を見て好機と思ったのかすかさず突進してきたが何事も無いかのように躱して足の一本に斬撃を与える。その表情は楽しんでいるわけでもない、かといって飽きているわけでもない、ただ当たり前の様にやっているだけに見える。

 

 

『眷属になる前からノワールの周りでちょろちょろとしてて目障りだった。いきなり眷属になってノワールに可愛がられててイライラした。弱いのにノワールの傍にいるのがムカついていた。さっきだってノワールに言われないと気づかなかったぐらい弱いのにノワールの僧侶って顔してるのが本当にヤダ。ここで惨めに倒されると良いよ、その方が私は嬉しいし。ねぇ、志保? ノワールの眷属って称号はファッションじゃない。その重みを理解した方が良いよ』

 

 

 あれほど騒がしかった観客が静まり返っている。誰もが今の平家から目を離せないでいるからだ……アイツ、コミュ障だしなぁ~あんな風にしか言えねぇのは分かるがもっと言葉を選べっての。あと俺の眷属って自慢にすらならねぇからな? 一応言っておくけどさ!

 

 

『ノワールが好きなのは分かるよ? だって私も好きだもん。たとえこの思いが()()()()()()私はノワールが大好き。初めて会ったあの日から、初対面の私を受け入れてくれたあの日から、心を読んでも良いって言ってくれたあの日からずっとずっとずっと。強くなりたいと言って今の現状に甘んじてる限り私は志保を嫌い続ける。八つ当たりと思っても良いし理不尽だって怒っても良い。でも一回、どす黒い女の嫉妬を味わった方が良いよ。それが嫌なら早く負けてノワールから嫌われてね』

 

『……です』

 

『聞こえない』

 

『――嫌です!!』

 

 

 痛む体で必死に立ち上がった橘は大声で叫んだ。その表情も見たこと無いぐらい必死なものだ……てかお前ら、ゲーム中に何してんだよ? 敵さんが困ってるじゃん! あとどす黒い女の嫉妬云々を見せられたり聞かされている俺の身にもなってほしい。だから早く終わらせてくれよ? 後ろにいる水無瀬とかが心配そうな顔をしてるし四季音姉も珍しく同じ表情をしてるしね。犬月や四季音妹は眷属入りして間もないから分からないが水無瀬と四季音姉、平家の三人は今よりももっと前から一緒に居るからこそ互いに何を考えてるのかが分かる間柄だ。そんなわけで今の平家が何をしようとしてるのかも覚妖怪じゃない二人も分かるし俺も分かる……はぁ、損な役割だよなぁ? それ、俺がするべきもんだろうに?

 

 

『私は……悪魔さんが! ノワールさんが好きです!! 命を助けてくれたあの日から……ずっとずっと! 悪魔さんが眷属に誘ってくれたときは嬉しかった! 私も役に立てるんだって……でも悪魔さんの傍には早織さんが居ました……負けたくないって頑張ってもどんな時も必ず早織さんが傍に居ます! ずるいって何度も思いました! なんでって何度も思いました!!』

 

『知ってる』

 

『でも負けたくないんです! 叶わなくたっていい……なんて言いたくない! 私は……私は! 絶対に悪魔さんを振り向かせて見せます!! 何年かかっても、何十年かかっても必ず! だから負けません……負けたくありません! 私がどれだけ好きかって見てほしいから!』

 

『――ならどうするの?』

 

『――勝ちます。勝って、悪魔さんに喜んでほしいですから!』

 

『褒められるのは私。簡単には渡さないよ?』

 

『構いません! 私も譲る気はないです! 早織さん……私も早織さんが()()です。悪魔さんから理解されている早織さんが……悪魔さんの一番近くにいる早織さんが大嫌いです』

 

『嫌われてとーぜん、だって私は覚妖怪だもん』

 

 

 言いたい事は終わったとばかりに平家は橘から離れていく。うーん、女の嫉妬というか女心って怖いわ。あの橘ですら嫉妬の感情に支配されることがあるとはねぇ……本当に怖いわ! てかこの空気どうすんだよ? 周りから「おい、どう答えるんだ?」って感じの視線が飛んできてるんだけど? ここで夜空が好きですごめんなさいって言ったらどうなるんだろう……ちょっと怖いからやめておこう。

 

 

『……キー君、ごめんね? 聞きたくない事を聞かせちゃったよね……?』

 

 

 狐は首を横に振る。まるで最初から知っているぞ馬鹿者めって言ってる気がする。

 

 

『ずっと悩んでた……水無瀬先生も禁手に至って悪魔さんに褒められてるのに私には何もない……破魔の霊力に目覚めてもたったそれだけだよ……封じられたら歌うしか出来ない僧侶になっちゃった。でもね、それでも負けたくないの……キー君、一緒に戦ってくれる?』

 

 

 狐は首を縦に振った。いつでも行けるぜ馬鹿野郎って言ってる気がする。

 

 

『私は悪魔さんに見てほしい……歌う私を……戦う私を……! やろう! キー君!!』

 

『――宿主様』

 

「あぁ……至りやがった」

 

『――禁手化(バランスブレイク)!!』

 

 

 狐が行くぞ相棒と叫ぶように吠えるとその姿を雷へと変えて橘に落ちていった。バチバチと音を立てながら一歩、また一歩と光の中から現れたのは――獣人だった。

 

 頭には本来無いはずの狐耳、腰からは同じく狐の尻尾が二つ生えて服装も駒王学園の制服ではなく黒を基調とした脇をだした巫女装束っぽいものに変化している。脇下から見える横乳が素晴らしいですねありがとうございます! あと尻尾をもふもふしても良いでしょうか……やめよう、なんか水無瀬が笑ってるし説教されかねん。どうして俺の周りの女は心を読むことに長けてるんだ? かなり謎だぞおい。

 

 決意した表情と共に馬の前に立って高らかと宣言した。

 

 

『――黒に恋した(エレクトロ・アイドル)偶像雷狐が歌う舞台(・フォックス・オン・ザ・ステージ)。これが私の覚悟です……私はアイドルになります! 悪魔さんだけのアイドルになります! この恋は……絶対に叶えます!!』

 

『……はっ、お、おぉっとぉ!! 橘志保選手の姿が変わっています!! あれは……狐耳でしょうか? 尻尾もあります! なんという事でしょう!! ノワール選手を巡る恋模様を繰り広げた橘志保選手が禁手を使用しましたぁ!!』

 

『あれは雷電の狐の亜種禁手か!? しかも水無瀬恵の黒の僧侶が反す影時計と同じくキマリスの影響を強く受けてやがる! 畜生!! なんだって今年は亜種禁手に至る奴が多いんだ! 良いかキマリス!? ゲームが終わったらあの禁手を俺に調べさせろ! 影龍王の影響を受けた禁手なんて滅多にねぇからな!』

 

 

 絶対に嫌です。

 

 敵対している馬は橘の変化を見て危険と判断したのか即座に移動し始めて体当たりを仕掛ける。しかし先ほど平家に脚を切られたせいかさっきまでよりもちょっと遅い……でも速い部類だ。どうすると思っていると橘は拳に雷を集めて――地面を殴った。溜まった雷が地面へと流れて円形状に壁を作る。さて……真っすぐしか突進できない馬がいきなり現れた雷の壁を見たらどうするでしょうか? 答えは減速して躱そうとする。しかし減速の際に斬られた脚が痛んだのか速度を落としきれずに雷の壁へと激突……その衝撃で背に乗っていた美少年が地面へと落ちた。ほら、チャンスだぜ? さっさと決めろよ?

 

 

『私は歌って殴るしか出来ません! でも悪魔さんを魅了するアイドルになります! だから、見ててね悪魔さん♪ 今日からずっと魅了しちゃうから!』

 

 

 作り出された雷の防壁の中で橘は歌いだす。それは自然体で引き込まれるような偶像(アイドル)の姿……その歌声に反応するように周囲に無数の狐が生み出されていく。バチバチと音を鳴らしている雷で出来た狐達は橘が腕を前に出す動作をすると一斉に横たわっている美少年へと攻撃した。馬も助け出せば自分も巻き添えを喰らう判断したのか即座に距離を取る動作をする……よし、良くやったよ。本当にな。

 

 

『サイラオーグ・バアル選手の僧侶一名、リタイア』

 

『……ん、封印が解けたみたい。それじゃあもう手を抜かなくても良いかな』

 

『……やはりか。手合わせをして本気ではない事は分かっていた! 全てはキマリス殿の僧侶を禁手に至らせるための時間稼ぎだったわけか!!』

 

『違うよ? 惨めに負ける志保が見たかっただけ。禁手は予想外、わーどーしよー』

 

『……分からぬ! 貴殿の考えが全くと言って良いほど分からない! しかしせめて一人だけでも倒す! アルトブラウ! 共に戦場を駆けようぞ!』

 

 

 単独行動をしていた馬に甲冑女が跨る。これで2対2のイーブン……だが相手が悪かったな? お前の相手は平家だぜ? 心を読む覚妖怪で俺にぞっこんな自慢の騎士だぞ? 弱いわけねぇんだよなぁ!

 

 

『二体が一体に変わっただけだし問題無し。舐めない方が良いよ? 私、ノワールのためならもっともっと強くなるタイプだから――妖魔放出』

 

 

 突如、平家から()()色のオーラが放出される。その色はまるで隣にいる犬月が扱うモード妖魔犬と同じ色合いのものでそれを放つ平家を見て周りも驚いているし敵も驚いている。だってそうだろ? 先ほど見たものと全く同じものが使用されたんだぜ? 驚かないわけがないさ。

 

 

『それは……モード妖魔犬!? 何故それを!?』

 

『難しくないし。だってあれの原理って魔力と妖力の融合だもん。悪魔としての魔力と覚妖怪としての妖力を融合させれば行けるし私みたいに妖怪ベースの悪魔なら誰だって出来るよ。それにあのパシリに出来て私に出来ない理由は無い』

 

 

 その言葉を言い終えた瞬間、平家の姿が消えて馬の胴体が斬られた。いや正確には乗っている甲冑女を狙ったようだが馬が身を挺して庇いやがったか……流石高位の魔物、主人よりも反応速度が良いねぇ。そこからは騎士同士による高速戦闘が再度始まり、剣と槍がぶつかる音だけが鳴り響いている。流石の橘もあの速度で行われている戦闘に介入は……うん? なんだこの違和感……? 見ているのは分かるが何を見てやがる?

 

 

『くっ! アルトブロウの脚をもってしても追いきれないのか……!』

 

『その脚は斬られてるししょーがない。それに今の私は捕らえたいならもっと速くならないと無理』

 

 

 流れる動作で馬の脚二本を斬る。的確に脚の腱を狙いやがったな……てかそもそもタイマンで心を読む覚妖怪を能力なしでどうやって倒せって言うんだ? 確かに平家も速くなった、それは間違いない。でも手を抜いてあの速さだしなぁ……今だって相手の心を読んで先読み、対処してるにすぎねぇから相手も速くなったと勘違いしてるしね。というよりも平家が使った妖魔放出は犬月の妖魔犬の上位互換だしな……可哀想だけど! ver2になった妖魔犬は速度特化に対して妖魔放出は身体能力向上に特化しているし量と質も犬月が操るモノよりもはるかに上だ。その辺は才能の差って奴だな……もっとも隣にいる犬月は負けられねぇって感じで見てるけどさ。

 

 

『アルトブロウ!? まだだ! まだ私が!!』

 

『ううん、これで終わり』

 

 

 接近していた平家が即座に後退する。うん? なんでだ?

 

 その疑問はすぐに解消された……甲冑女と馬がいる地点に極大の雷が落ちたからだ。それを放った奴は平家でも甲冑女でも馬でもない――橘だ。なるほどな、ただ見ていたのは着弾地点を確かめるため、しっかりと二人の姿が見えていたってわけか。しかもあの雷……まさかとは思うがあれ入りか?

 

 

『――破魔の雷。キー君の雷と私の破魔の霊力を混ぜました。悪魔の身体には大ダメージです』

 

『……まさ、か、まさか……!!』

 

『うん。大正解――疲れたくないし本気出すわけないよ』

 

『……無念』

 

 

 甲冑女と馬は光に包まれて消えていった。別に浄化されたとかそんなんじゃなくてリタイア判定を受けただけだ……しっかし橘が禁手に至りやがったか。しかも弱点だった攻撃面も解消されて前衛に出ても問題無いときたよ! きゃーどうしましょー!

 

 

「ただいま。ノワール、頑張ったから誉めて褒めて」

 

「……え、えっと、えっとえと!? その、その……私、も頑張ったの、で褒めて、ください」

 

 

 ヤバイ、平家よりも可愛い件について。流石アイドル! 赤面顔も良いしさっきまでの発言が恥ずかしいのかもじもじしているところもすっげぇ可愛い! 褒めて褒めてと頭を押し付けてくる平家を水無瀬の胸へと流して橘の前に立つ。なんというか今にでも湯気が出そうなぐらい真っ赤だけど大丈夫か? 心配ないぞーなにもきいてないからさーうんうん女の嫉妬って怖いよねーって感じだから気にしないで良いよー!

 

 何かを期待している顔をしているので頭を撫でると幸せそうに抱き着いてきた。うーんおっぱいの感触が凄いですねってそういえば今も禁手化中ですよねっていうかバチバチと静電気っぽいのが当たって痛いんですがどうなんですかねこれって? あの狐の意思か? それとも橘の意思か? どっちでも良いが静電気痛いから早く戻ってくれ! なんかスンスンと俺の匂いを嗅いでるっぽいけどマジで戻れ!! これが……アイドル!

 

 あと解説席がある場所から殺気が飛んできてますが嫉妬ですか? おうおう嫉妬か? 良いぞもっと来て良いぞ! なんならそのままナイフを突き刺してきても俺は何も問題ない!

 

 

「そのまま感電死すればいいよ」

 

 

 元はと言えばお前の発言が原因だろうが……まぁ、なんだ、悪いな。あんな役をさせてよ。

 

 

「気にしない。覚妖怪だし嫌われるのは慣れてる」

 

「そーかい、あー平家?」

 

「何? 今は恵のおっぱい枕を堪能してるんだけど?」

 

「百年ぐらい経ったらお前の思いも叶うんじゃね? 俺が生きてたらだけど」

 

 

 パチパチと瞬きをしてるところを見ると驚いてるらしい。なんというか抱き着いている橘がぷーと頬を膨らませてるのが可愛いが無視だ無視! さっさとゲームを進めようか!!

 

 

「んじゃ四季音姉妹、さっさと行ってこい」

 

「了解。伊吹、行こう」

 

「んぅ~うん」

 

 

 普段通りの四季音妹とどこか様子がおかしい四季音姉は魔法陣へと向かって行き、バトルフィールドへと転移されていった。今度のフィールドは古い町並みが並んだ場所らしい。到着した四季音姉妹と向かい合う様に現れたのは金髪ポニーテールの美女と大柄な怪物面をした男、残った女王と戦車を投入してきやがったところを見ると俺が四季音姉妹を選択するのが分かってたっぽいな。

 

 

『第四試合はキマリスチームから唯一の中級悪魔にして酒呑童子! 戦車の四季音花恋選手と同じく鬼にして茨木童子! 兵士の四季音祈里選手! まさかまさかの鬼の二大巨頭が揃って出場です!! 対するバアルチームからは番外の悪魔、アバドン家出身の女王! クイーシャ・アバドン選手と元七十二柱、バラム家出身のガンドマ・バラム選手です!』

 

 

 番外の悪魔(エクストラ・デーモン)、俺のような元七十二柱の悪魔とは別の上級悪魔の家柄に与えられる呼び名。今回の審判役のグレイフィア様も同じ番外の悪魔出身だったはずだ……アバドン家は自由自在に「穴」を広げてなんでも吸い込んでは吐き出す能力を持ってる。つまり俺みたいな物理系じゃないと結構苦労するタイプだが……四季音姉なら余裕だろう。

 

 

『やはり来ましたか……酒呑童子と茨木童子、分かっていたとはいえこの目で揃うのを見るとは思いませんでした』

 

『うぃ~? ノワールは分かりやすい性格をしてるからねぇ。イバラ』

 

『伊吹、呼んだ。何』

 

『この試合は私一人で殺るからそこで待ってな。なぁに、一分もかからないさ』

 

『分かった。待つ。伊吹は負けない。伊吹、怒ってる。分からない。何故。分からない』

 

『イバラも女心が分かればねぇ~にしし――妖魔放出』

 

 

 試合開始の言葉と同時に四季音姉から赤紫のオーラが放出された。その量は犬月、平家のモノとは比べられないほど少なく、そして薄い。そろそろ犬月は本気で泣いて良いと思う……だって自分の技が仲間に使用されてるに加えて()()()()とかもう泣いて良いと思う!

 

 

『……先ほど見たものと同じですね。しかし騎士のものと比べると少ないようですがまさかそれが限界ですか?』

 

『――弱いね』

 

『……なんですって?』

 

『派手さが無いから弱く見える、なんて弱い存在が言うセリフさ。教えといてあげる、真に恐ろしいのは派手に巻き散らすモノより――』

 

 

 四季音姉が腕を引く。その動作をしたことで金髪美女は空間を歪ませて(ホール)を広げるが無理だよ……その程度じゃ四季音姉は止まらねぇさ。

 

 

『――静かに放つ方が恐ろしいってことをさ』

 

 

 金髪美女と怪物面の真上を取った四季音姉はハンマーを振り下ろすように拳を叩き込んだ。先ほどまで静かすぎるほど低かった魔力と妖力が打撃の瞬間だけ一気に膨れ上がり威力を跳ね上げる……犬月が速度特化、平家が身体能力特化なら四季音姉は威力特化だな。本当に犬月は泣いても良いと思う。

 

 

『ふぅ、悪いねぇイバラ。出番を取っちゃってさ』

 

『構わない。伊吹が活躍する。私は嬉しい。気にしていない』

 

『にしし! そうかいそうかい! さてとだ……ノワール、後はアンタだけだよ? 決めちゃいな』

 

 

 フィールドを覆う壁に亀裂を入れて町を崩壊させた四季音姉が煽ってきやがった。

 

 分かってるさ……ここで俺が負けたら色々と拙いしな! なによりも……解説役の席に座ってる規格外がワクワク顔になってるから頑張るさ! そんでこれだけは言わせてくれ……嫉妬か? おうおう嫉妬か? 大観衆の前で告白もどきをした平家達に嫉妬かおい! さっすが少女趣味な鬼さんだ! 格が違うネ!




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