ハイスクールD×D~地双龍と混血悪魔~   作:木の人

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6話

「ノワール君、いい加減にしてください」

 

「うん? いきなりどうした? また転んだか?」

 

「今日はまだ5回しか転んでません。良いですかノワール君、確かに貴方は私の主で仕えるべき存在です。ですけどこの学園に通っている間は普通の学生なのも事実。いい加減、いい加減クラスの友達とご飯を食べなさい!」

 

「俺様、友達いない。今日、平家休み」

 

 

 昼休み、もはや恒例となった駒王学園保健室に俺はやってきていた。特に怪我や体調が悪いわけでもなく、単に昼飯を食いに来ただけだ。その事がいけないのか水無瀬は年上の先生オーラ全開で俺に注意をしてくるけど……別に良くね? 昼休みに保健室に遊びに来る暇人なんてこの学園にはいないんだし。あっ、俺は暇人じゃなくて友達いないだけだから当てはまらない。

 

「それに水無瀬も此処で飯食ってんだろ? 俺と同じじゃねぇか」

 

「ちーがーいーまーすぅ! 私は此処を治めている先生ですから許されてるだけです。ノワール君も瞬君とご飯食べればいいじゃないですか。同じクラスになったんでしょう?」

 

「あぁ、犬月なら――」

 

「うぃ~す、水無せんせーに王様ぁ? いるっすかぁ?」

 

 

 保健室の扉が開き、一人の男子生徒が入ってくる。珍しい白髪で少しだけ幼い顔、数日前に俺が兵士として眷属に加えた犬月瞬。そいつが駒王学園男子生徒の制服を身に纏い、弁当が入った袋と炭酸飲料の缶を手に持ちながら俺の真正面の席に座った。

 

 何故こいつが此処にいるかと言うと――普通に転入させた。勿論生徒会長とグレモリー先輩に紹介して正式な許可を貰ってだ。編入先は俺と同じクラス、つまり同学年ってことなんだが……年齢を聞いたら俺と同い年でビックリしたわ。てっきり平家と同じかと思ってたしな。まっ、これはこれで面白いし犬月自身も同学年に男で同じ兵士がいるから楽しくやっていけるだろ。

 

 

「遅かったな」

 

「いやぁ自販機探してたら迷っちゃって……うん? 水無せんせーってばなんでハトが豆鉄砲喰らったような顔してんの?」

 

「さっきまで俺は此処で食べずにクラスの子と食べなさいと説教してたからな。まさかお前まで此処にくるとは思わなかったんだろ」

 

「いやいやいや、昨日も一昨日も来てたっしょ。それにここ心霊探索同好会の部室なんでしょ? んじゃ問題ないじゃん」

 

「ほら、犬月もこう言ってるしもう諦めろ。それかいつもの不幸だって思っておけ」

 

「……うぅ~先生なのに! 先生なのに!! どうして注意しても聞いてくれないのぉ!」

 

「王様、水無せんせーを困らせたらだめだろ。不幸なんだしもうちょっと優しくしても良いんじゃねぇか? あの引きこもりと酒飲みは優しくしなくても良いと思うけどよぉ……あんにゃろぉ! 人の事を犬だのパシリだのと良いように使いやがってぇ……!」

 

「勝てないお前が悪い」

 

「そりゃねぇっすよ!!」

 

 

 眷属入りをしてからこいつ(犬月)は四季音と平家にパシリとして扱われている。片や酒やつまみを持ってこい、片や動けないからコンビニで菓子と飲み物買ってこい等と可哀想な扱いを受けている。本人もそれには不満で「じゃあ俺に勝ったら聞いてやるよぉ!」と喧嘩を吹っ掛けるが普通に負けて言う事を聞かざるを得ない状況になるというね。いや強いんだ、強いんだぞ? 昨日も俺の領地に侵入してきたはぐれ悪魔を俺と犬月、水無瀬の三人で討伐しに行った時なんて俺達の援護無しではぐれ悪魔をノーダメで殺せたし、夜には俺に戦いを挑んでくる向上心もある! でもパシリにしようとしてる奴らがそれよりも強いだけの話で……頑張れ犬月、負けるな犬月。

 

 

「ちっくしょぉ~いいよなぁ、いっちぃ(兵藤一誠)げんちぃ(匙元士郎)はよ、優しい女子に囲まれて俺よりも駒消費多くて……俺なんて眷属入りしたってのに負けてばっかで……うぅぅ」

 

「泣くなめんどくさい。あいつ等が異常なだけだから気にしてたら損だぞ」

 

「それでも気にしちゃうんだって! 水無せんせーは分かってくれるよな!?」

 

「まぁ、気持ちは分かりますね。私もノワール君や花恋、早織のように強くは無いので……瞬君も辛くなったらいつでも言ってね。これでも養護教師で眷属としては先輩ですから何かあったら思いっきり頼ってください」

 

「……大天使水無せんせー、此処に降臨。俺、アンタのためなら喜んで犬になるっす! 何でも言ってくれっす!」

 

「こうしてまた大天使水無せんせー教に新たな仲間が増えましたっと」

 

「なんですかそれぇぇ!?」

 

 

 なにって駒王学園男子生徒で結成されてる派閥の一つだが? 歩くだけで転び、パンチラというサービスシーンを一日一回は必ず男子生徒に見られるドジ属性、養護教師という事で手当てをしてくれる姿が天使に見えるという事から結成されたらしい。初めて知った時は驚いたもんだよ。

 

 それはともかくとして目の前の犬月は同学年に兵士、つまりは赤龍帝と匙君を羨ましいと思っているらしい。気持ちは分からないでもない……犬月は兵士の駒消費二個、赤龍帝は駒消費八個、そして匙君は消費四個で犬月が一番下だからだ。でも仕方がないと思うんだがなぁ……なんせ神滅具持ちと神器持ちだし。それよりも匙君がこっち(ドラゴン)側だとは思わなかった。新しく眷属にしたこいつを紹介しに行った時に兵士という事で意気投合、駒消費の事でなんで俺より上なんだと犬月の疑問に答えるべく出現させた神器がドラゴンの魂が宿っている物だった。

 

 もっとも相棒曰く魂を複数に砕かれて別々の神器として封じられてるから目覚めることは無いだろうとの事だけど。でも身近に俺と同じ邪龍を宿している奴がいるなんて嬉しいね。

 

 

「あぁ~つか、王様にちょっと聞きたいことがあったんだよ」

 

「なんだ?」

 

「いや……今日いっちぃが休みらしくてなんでかなぁとグレモリー眷属のイケメン君に聞いたらはぐれ悪魔祓いに襲われて療養のために休んでるって言われたんだよ。だから――」

 

「ダメだ」

 

「まだなんも言ってねぇよ」

 

「そのはぐれ悪魔祓いを殺しに行こうぜ、だろ?」

 

「おう」

 

「じゃあダメ」

 

「何でだよ!? 悪魔祓いだぞ!? ついでにシスターもこの町にやってきててそいつらと一緒にいんだぜ!? ぶち殺さなかったらこっちがアブねぇだろ!!」

 

「はぁ……聞くがお前はそいつに襲われたか?」

 

「い、いや……襲われてねぇけどそれとこれとは別だろ!!」

 

「此処は俺の治めている領地じゃなくてグレモリー家が治めている領地、そんな所で被害にもあってない俺達が堕天使をぶち殺せば迷惑が掛かるだろ。だから我慢しろ」

 

「……じゃあ、そいつらが襲ってきても逃げろって言いてぇのか!? んな事できるわけねぇだろ!?」

 

「はぁ? 襲ってきたら殺せよ。見敵必殺、サーチアンドデストロイって言葉を知らねぇのか?」

 

「……はい?」

 

 

 アンタ一体何を言っているんだという表情になってるが俺は間違った事を言っただろうか? 襲ってきたなら殺せばいいだろ。なんで俺達が堕天使風情に逃げないといけないんだって話だ……格上ならいざ知らず、下級程度に逃げるわけねぇだろ。

 

 

「い、いや、アンタ今言っただろ!? 我慢しろって!? 言ってること滅茶苦茶じゃねぇか!?」

 

「そうか? 俺は被害にあってない今の状態では我慢しろと言ったと思うが?」

 

「……おぉ、そういえばそうだ。つまりあっちから喧嘩を売られたら殺していいんだな!!」

 

「当たり前だ。堕天使も天使も悪魔祓いも、あとは水無瀬と平家と四季音に危害を加える奴はとりあえず殺しとけ。俺が許す。ついでに言うと俺の領地内だったらいくらでも殺しても良い」

 

「さっすが王様!! 影龍王って呼ばれるだけはあるっすわぁ!!」

 

『ゼハハハハハハ! そう褒めるな! 良い家来をもって俺様、気分が良い』

 

「……良いですか瞬君、貴方から喧嘩を売るような事はしないようにしてください。ノワール君は相手から襲ってきたら対処しても良いというだけですからね。そこを間違わないようにしてください」

 

「うっす! そんじゃぁ飯だぁ! 水無せんせーが作った弁当ならいくらでも食えそうだぜ!」

 

 

 納得のいく答えを聞けたからか、腹が減っていたからかは分からないが弁当にむしゃぶりつくように胃の中に流し込んでいく。

 

 事の発端は赤龍帝がとある民家に契約のために訪れた際にはぐれと思われる悪魔祓いに出会った事だ。その民家にいた住人は惨殺、赤龍帝もあと一歩救出が遅れていたら殺されていた可能性があるらしい。その時、敵対した悪魔祓いの傍にシスターが居たらしいけど……これまた赤龍帝が町で出会った女の子だそうだ。なんという偶然、何という不運と笑う事すら出来ねぇ現状だよなぁ。出会ったあの子はシスターで悪魔の敵でしたなんて赤龍帝も水無瀬以上の不幸属性持ちだなぁ――と言うのを王様会議的なものであの人達から聞かされた。とりあえず惨殺された家族の家に言って悪霊が住みつかない様に霊魂を操ったけど確かに酷い現状だったとしか言えない。犬月がキレるのもよく分かる。俺だってムカついたし。

 

 一般的にシスターは教会、天界陣営に所属している。しかし今回の子はその例から漏れているみたいだな……この駒王町に教会なんて外れにある古くて人が住んでいない所しかない。つまり彼女はその場所に引っ越してきたという事だけど……態々魔王の妹のあの人が治めるこの場所にやってくるか? 邪龍ほどじゃないが悪い事を考えてる奴がいるっぽいなぁ。どーしましょ。

 

 

「この事態をどうするかねぇ。あの規格外の耳に入って潰してくれれば万々歳なんだがそう簡単にはいかねぇよなぁ」

 

「あん? 規格外?」

 

「光龍妃と呼ばれる陽光の龍ユニアを宿した女の子ですよ。一応人間と思われるんですけど色々と規格外なのでそう呼ばれているんですよ」

 

「ほえぇ。強いんすか?」

 

「少なくとも俺が全力で殺し合っても引き分けで終わるぐらいには強い。あと他勢力の主神や神を相手にしても怪我を負う事なく逃げれるスペック持ち」

 

「……マジすか。どんな化けもんなんだよそいつ、ってあぁぁ!! 俺そいつの噂知ってますよ!? 冥界に何度も訪れて暴れまわってるとか何とか!!」

 

「すまん。それって俺と夜空が殺し合ってる時だわ」

 

「……やばい、俺の王様ちょっと色々とおかしい」

 

「失礼な奴だな。話を戻すがあいつが堕天使を殺してくれればこっちの被害は無い上、責任を持つことも無い。だけどあいつ今どこにいるんだ……ここ最近姿を見ないがまさか死んでねぇよな?」

 

「んなわけないじゃん。ちゃぁ~んと生きてるよぉだ」

 

 

 俺の背中に人肌の温度をした硬いなにかが乗っかってきた。その声は先ほどまで話していた規格外――片霧夜空。おいおいどっから現れた……ってこいつ転移できるから好きな場所に現れることができるんだった。俺の顔の真横でえへへと言いたそうな笑みを浮かべ、食いかけだった俺の弁当を強奪して自分の胃の中に流し込んだ。流れるような動作で人の弁当を取るなこの野郎、おっぱいの感触ありがとうございました! いつも通り壁でしたね!!

 

 

「うん美味しいぃ! やっぱり料理できる人って天才だよねぇ!」

 

「……どっから現れたって何なんだよこいつ……! 震えが止まらねぇ……! こんな奴初めて見たぞ!?」

 

「ありゃ新顔じゃん。どったのこれ?」

 

「俺の新しい眷属。駒は兵士」

 

「へぇ~めっずらしぃ、うんじゃあ初対面だ。片霧夜空、至って普通の女子高生じゃないけど女の子だよぉ~よっろしくぅ! んでさ、何話してたん?」

 

「この町に居る堕天使をどうすっかなぁ、と言うお話」

 

「ぶっ殺せばいいじゃん。バカだなぁノワール、考えなくても良い事で悩んでないでちゃっちゃと殺せばいいよ」

 

「お前はどこにも所属してないからそう言えるがこっちは悪魔陣営、あっちは堕天使陣営。下手すると戦争になりかねないんだよ」

 

「なったら全部殺せばいいじゃん――ってね、流石に全勢力と殺しあったら無事じゃすまないし見ないふりがいっちばぁん! かな?」

 

「現状そうするしかないんだよ。なんなら代わりに堕天使殺してくれても良いぞ? あっ、シスターもいるらしいがそいつは攫ってここに連れてきてくれれば少し嬉しい」

 

「そんな事お安い御用だよぉ~と言いたいんだけどさ、今忙しいんだぁ。ヴァーリが戦えって五月蠅くて逃げてる最中なんだよ。もうっ! どうして私の居場所が分かるのかなぁ?」

 

 

 恐らく龍門か何かで探ってんじゃないだろうか? しかし白龍皇……暇ならこっちに来てくれてもいいんだけどなぁ。俺も暇だし戦いならいくらだって付き合ってやるよ。あと言わせてもらうと女の夜空を追い回すとかストーカーです本当にありがとうございました。本当に死んでくれませんかねぇ? あのイケメンだと罪にならないと思うけども……なんか考えたらイライラしてきた。堕天使殺しに行くか。

 

 

「まっいっか! それじゃノワール! ヴァーリと仲良く殺ってくるねぇ!!」

 

「……いつも思うんですけどもう少し言葉を選んでも良いんじゃないでしょうか?」

 

「まるで台風っすね――お、王様? なんか顔怖いっすよ?」

 

「大丈夫だ問題ない。ちょっとぱっかし誰かを殺したくてしょうがないだけなんだ……そうだ犬月、お前堕天使とはぐれ悪魔祓いを殺したいって言ってたよな? よし行くか? いや行くぞ」

 

「待って!! 分かったっす! 俺が悪かったっすからちょっと落ち着いてください!? 何でいきなり豹変してるんですか!? 嫉妬!? まさかの嫉妬!?」

 

「は、はぁ!? な、なんで俺が白龍皇に嫉妬しないといけねぇんだ! あの銀髪イケメン野郎一回死ねばいいのに!! マジで死ねばいいのに!! いやぁ俺様邪龍だから人殺したいなぁ~よし殺して発散させて来るか。はぐれ悪魔祓いだし誰にも迷惑掛からない上、相手の勢力を削れるから最高だな」

 

「やっぱ嫉妬!! 水無せんせー! 王様が嫉妬しておかしくなったぁ!?」

 

「どうして彼女なんですかなんで私じゃないんですか同じ年上だし胸も背も大きいしまだ成長してますし確かにドジというか不幸ですけどそれを受け入れてくれたはずじゃないですかやっぱり幼い子が良いんですか花恋みたいな子や早織のような子がいいんですね……ふふ、ふふふふふ」

 

「こっちも壊れてたぁ!? 正直言ってる事全部聞こえてるけどあえて言わないこの俺って空気読めてるぅ! じゃなくてどうすんだよこれ!? 何でこんな時にあの引きこもりがいねぇんだぁぁぁ!!」

 

『ゼハハハハ。俺様、空気が読める邪龍として定評がある。少し寝るぜ』

 

「寝るなぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 そんなこんなで昼休みが終わった。なんでか知らないが犬月は酷く疲れきっていてもう帰りてぇとか言ってたが残念な事にお前は病弱設定じゃないから早退はダメだ。諦めて授業受けろ。

 

 この後は特に何が起きることも無く無事に家に帰宅。玄関からリビングに上がるとワイシャツ姿の平家がソファーに横になりながら出迎えてくれた。開口一番で「変態」と言われたけどそれはお前のその格好の事か? 大変目の保養にはありがたいのでもう少しボタンを外してくださいお願いします、とでも言えばいいか? だから変態と言ってクッション投げるな。あぶねぇし。

 

 

「大丈夫、ちゃんと狙って投げてるから」

 

「クッションは投げてはいけないと水無瀬に教わらなかったか?」

 

「……言われてない気がする。それよりそこの犬っころはどうし、あぁ、お疲れ」

 

「ハハハハハ、疲れたマジ疲れたチョー疲れた」

 

「ノワールも恵も嫉妬の感情に飲まれたらめんどくさいからスルーした方が良いよ」

 

「そういうのはもっと早く言ってくれないですかねぇ!! あと――誰が犬っころだごらぁぁ!?」

 

「アンタ以外に誰がいる。ほらお座り、お手、お代わり、――(ピー)

 

 

 からかうのは良いが女子がその言葉を言うのはやめた方が良いと思うぞ? お前って容姿はアイドル級だし病弱……設定とはいえなんかお姫さまっぽいなと言う理由で同学年やらに幻のお姫様って呼ばれてるんだからその言葉を言ってる所を見られたら幻滅される……あぁ、どうでもいいと。流石だな。

 

 

「――んで、なんで王様のアンタが買い出ししてるんすか?」

 

「唐突に甘い物が食いたくなったからに決まってんだろ」

 

 

 深夜、水無瀬が作った晩飯を食べ終えた後、唐突に甘い物、具体的に言うならシュークリームが食いたくなったから犬月を連れて出歩いている。隣であいつら今に見てろと文句を言っている男は俺が買い物に出かけると聞いた引きこもりからついでにコンビニ限定コラボ品買ってきてと命令(物理)にてパシられた。俺じゃなくて犬月に言う事ほどあの引きこもりは後輩を顎で使うようになってしまった……あれ? これ元からじゃね? 少なくともこいつを迎える前は俺がパシられてたような気がする。き、気のせいか。

 

 

「気持ちは分かりますよ? テレビで美味そうなもんが出てるのを見たら唐突に食いたくなりますけどそういうのって眷属に買ってこさせるんじゃないんですか?」

 

「自分の目で見て美味そうなの買った方が良いだろ。パシられてるお前が可哀想だからなんか奢ってやる、好きなの買え」

 

「マジすか。太っ腹っすね」

 

「なんかお前見てて可哀想になってきてるからな、これぐらいは無いとやっていけないだろ?」

 

「当たり前っすよ。酒飲みと引きこもりにはパシリにされ……文句言えば物理が飛んでくる。鬼はともかくあの引きこもりなんであんなに強いんすか? 接近しようと思ったら離れられて遠距離攻撃、運よく接近しようものなら殆ど攻撃躱されてレイピアで突きくらうし……もしかして王様があそこまで強くしたんすか?」

 

「いや、あいつは元から天才肌なんだよ。俺が教えなくても自分でなんとかするのがあいつだ、四季音よりは弱くても隠れて訓練してるから強いのは当たり前だ。とりあえずお前の目標は本気の四季音と戦っても倒れない事、それが出来たら四季音を倒せ。まっ、お前が強くなればなるほどあいつも強くなるからな。頑張れ頑張れ」

 

「なんすかそのチート性能」

 

「それが鬼だ」

 

「鬼こえぇ――あん? 血の匂い……あいつらからか?」

 

 

 犬月が頭に犬耳を生やして何かの匂いを感じ取ったらしい。そして遠くにいる集団の方に視線を向けたので俺も同じ場所を見ると明らかに普通とは思えない格好とした集団がそこにいた。この時間に出歩くのもおかしいが何よりその格好が――神父服、それが一人なら仕事帰りかとか思いたくもなるがそれが集団でいるとなると話は変わる。

 

 数は十数人、その殆どが怪我をしていて血を流しているそうだ。流石犬妖怪の血が入っているだけあるな、俺は血の匂いとは感じないが犬月はこの距離でも嗅ぎ分けたようだ。

 

 

「――王様」

 

「殺すか」

 

「うっす!!」

 

 

 乱入されるのを防ぐためにこの辺り一帯に結界を張る。と言っても複雑なモノじゃなく外に音や声、人がやってこないようにする簡単なものだ。外からも中からも脆い単純で簡単な結界、今回はそれでも問題は無いのも事実。物の破損は魔力で直せばいいだけだしな。

 

 

「おうおうおうぅ!! こんなところでなぁ~にしてんだ神父様よぉ!!」

 

「な、なんだ……!? ちぃ! 悪魔だと!? 結界を張ったのはお前達か!?」

 

「大正解。なんでこんな時間にぞろぞろと逃げる様に出歩いてるのかは知らないが……怪我を負っているところを見ると悪魔に喧嘩を売って返り討ちにあったって所か。バカだろお前ら、この場所を誰が治めてるかくらい把握しとけよ」

 

「つっても逃がさねぇけどな。喧嘩売ったって事は殺される覚悟があるって事だ――死ねよクソ神父!!」

 

「ええい!! 相手は二人だ!! やれ! 殺せ!!」

 

「雑魚には負けねぇんだよぉ!! 昇格(プロモーション)!! 騎士(ナイト)!!」

 

 

 隣にいた犬月が持ち前の速度、いやそれ以上のもので一気に集団に接近した。先ほどの殺すぞという俺の言葉でこの場所が俺にとって敵の陣地であると察したからこそ兵士の持ち味である昇格を使用したんだろう。あまりの速さに神父様は反応しきれず、あいつの爪と握力によって二人ほど首が飛んだり潰れたりして絶命。仲間の死に戸惑いつつも懐から銃と光の剣を取り出して応戦しようとしている――が無意味だろう。

 

 爪を自らの掌に抉りこませ、その血を妖力を使い斬撃として飛ばして一気に殺害したんだから。

 

 

「俺の援護いるか?」

 

「見て分かんないっすか!? いらねぇよアンタの助けなんか!!」

 

「そうか。なら頑張れ、ただし一人は残しておけよ」

 

「おう!!」

 

 

 僅か数秒で数十人の内、半分が死亡か。中々良いタイムじゃないか? だが残念な事に四季音なら最初の一撃で全員殺してるけど……それは言わない方が良いか。

 

 

「あ、あいつだ!! あいつなら!!」

 

「おっと! お前らの相手は俺だろうがぁ!!」

 

 

 暇そうな顔と態度を取っている俺に銃を向けた一人が犬月によって頭を握りつぶされる。いつの間にか騎士から戦車(ルーク)に変更してるっぽいな。この数日間、俺との喧嘩でその辺を徹底的に叩き込んだからそれぐらいはしてもらわないと困る。兵士の特権は自由自在に王以外の駒全てに成れる万能性、どのタイミングでどの駒に成れば優位に立てるかを教え込んでよかったよ。

 

 結局目の前の神父様は笑う犬月によって一人を除いて惨殺されましたっと。はいご苦労様、適当に四肢の骨折って逃げれないようにしてくれれば後はもうやめて良いぞ……おぉ、言わなくてもやってくれたよこのワンちゃん。やっべぇ、こいつパシリ能力たけぇなおい。

 

 

「王様、今なんか変な事思いませんでした?」

 

「パシリ能力たけぇな、とは思った」

 

「うぐぅ! アンタまでそういうか!?」

 

「事実だし良いだろ。おまたせ、話聞かせておらうか?」

 

「うぅ……ぁ、た、すけぇ……! たすけてくれぇぇ……!」

 

「助かるかどうかはお前次第だ。この中に偶然、フェニックスの涙という万能薬が入ってる。もし俺の質問に答えてくれたらそれを飲ませてやる。勿論危害は加えないしどこにでも好きに逃げろ」

 

 

 上着のポケットを軽く叩いて両手両足の骨が折れて今にも死にそうな神父様を見下ろす。犬月はそんなの持ってましたっけと言いたそうな顔をしてるけど少し黙ってろ。勿論嘘に決まってんだろ? あんな高価なものを持ち歩くほど金持ちじゃねぇよ。

 

 

「無言は肯定と受け取るぞ。じゃあ聞くがお前ら、誰を襲った? もしくは襲われた?」

 

「し、知らない!? 金髪の男に、白髪のガキ! そ、それから赤い籠手の男! れ、レイナーレ様が悪魔と呼んだ!! お、お前らの仲間だろ!?」

 

「レイナーレ、レイナーレねぇ……知ってる?」

 

「いんや。ただの下級っしょ? 俺も下級だけどそんな奴の名前なんて聞いたこともねぇから末端の末端じゃないんすか?」

 

「俺も聞いたことねぇからそうかもな。それじゃあ次はどこから逃げてきた? 外れの教会?」

 

「そうだ! ほ、他の奴は殺された!? た、頼む助けてくれえぇ!!」

 

 

 つまり赤龍帝達が襲撃して神父達を惨殺したって事か? んな馬鹿と言うか面白そうなことをする奴らじゃなさそうだったけどなぁ。特に王のあの人はそんなこと絶対にしない。真面目だもん。となると要因は別にあるかな……はいそうですよねぇー、シスターですよねー。まさか助けに向かうために教会に突撃とか胸が熱くなるような事してくれるじゃないか。

 

 

「なんでも癒す聖女ねぇ。つまりてめぇら――同胞を売ったって事か。堕天使に、その神器っぽい能力を持つシスターを渡しておこぼれ頂戴ってか? どうせ後で犯すつもりだったんだろうが胸糞わりぃな、シスターが死んでも涙なんて流さねぇがこれが人間、神父様のやる事かよ」

 

「神父も所詮男で人間だ。堕天使だって元は天使だぞ? 欲望を持ったから墜ちただけだしそんな事を思ってもおかしくないだろ。はいご苦労様、もう痛いの嫌だろうから一気に治してやるよ」

 

「へ、へへへ! あ、ありが――」

 

 

 魔力の波動で目の前の神父を塵も残さず吹き飛ばす。俺様、悪魔で邪龍だから嘘つきなんだ。でももう痛い思いをしなくなったじゃねぇか――死ねばきっと生まれ変われるさ。タブンネ。

 

 周囲の死体も影人形で一カ所に集めてから魔力で吹き飛ばす。血とか破損個所を消してから犬月に教会にピクニックもとい散歩に行こうかと言ったら首を縦に振ってご機嫌になった。歩いていくのがめんどくさかったから転移で教会入り口まで飛ぶと丁度窓から飛び出してくる人影が見えた――映画みたいな逃げ方しやがって、カッコいいなおい。

 

 

「おんやぁ~? ここにもあ・く・まちゅぅあ~んがいらっしゃったんでっすかぁ? やっべやべやっべぇ~よどうしましょ! 俺っちさっきまで華麗に逃げれると思ってたのに回り込むとか流石悪魔汚いなマジ汚い。死んでくれませんかねぇ~!」

 

 

 おかしな言動と態度を取りながら懐から銃を取り出して発砲。それらは目にも止まらぬ速さで俺達の身体に迫るけど――遅い。

 

 影人形のラッシュで全ての弾丸を弾く。犬月も弾くことを信じていたのか、または分かっていたのかは分からないが持ち前の速度で目の前の神父……ぽい白髪男に接近。自慢の爪を片腕に突き立てて握りしめる……あっ、あれ折れたわ。ボキっと折れたわ。

 

 

「いってぇぇ~!? 痛い痛い暴力反対なんですよぇ!! 死ねこのくそ悪魔!! じゃっちめぇん――とぉ!?!」

 

 

 ウザいから影人形の拳を顔面半分に叩き込んだ。音的に潰れただろうなぁ……うお! 殴られた勢いを利用して光の剣で捕まれた自分の腕を切断、そのまま閃光玉使って逃げていきやがったよ。逃げ足早いなあいつ……どうすっかな、このまま放っておいたらなんかめんどくさいから探すか。

 

 

「いや探しても無理っすね」

 

「あん?」

 

「この周囲からあいつの血の匂いが無くなってます。多分誰かが転移か何かで移動させたんでしょうね……何のためか知らないっすけど」

 

「すると逃げられたってわけか……しばらくこいつ(シャドール)を水無瀬の影の中に入れておくか」

 

「んな事できんのかよ? 王様すっげぇな」

 

「伊達に混血悪魔出身の王、影龍王は名乗ってないさ」

 

 

 家に帰ったら事情を説明して水無瀬の影の中に影人形を仕込んで護衛させておこう。自分で生み出す疑似生命体ながらなんという便利性、と言いたいけど常時魔力使う羽目になるからあまり使いたくは無いんだよな。疲れるし、凄く疲れるし、水無瀬の行動全て丸分かりだし。それはともかくとして他は……いらないか、平家は覚妖怪だから悪意とかには敏感だしさっきの奴の実力なら普通に対処できる。四季音? あの鬼に護衛とか必要かと言われたらいらないと答える自信はある。多分ワンパンで普通に終わる。

 

 教会の入り口で立っていると中から魔力が放たれた感覚があった。うげぇ……これあの人の魔力じゃないか? 死んだな。マジで死んだ、塵一つ残らないで死んだ。かわいそぉ~っと思っておこう。

 

 

「……今の、まさか紅髪(べにがみ)滅殺姫(ルイン・プリンセス)のものか?」

 

「そっ。なんでも滅ぼすとてつもない性能の魔力。正直禁手化してない状態で相手はしたくない」

 

「その口ぶり……バランスブレイクてのになってたら対処できるって聞こえるんですけども?」

 

「おう。触れたものが滅ぶんなら片っ端から生み出していけば消えないだろ?」

 

「いや理論上ってか確かにその通りっすけど……もう良い、考えると頭いてぇ」

 

「すぐ慣れるさ」

 

「慣れたくねぇ」

 

 

 そんな事を話していると教会の中から赤龍帝、その主のグレモリー先輩が現れた。さらにその後ろからは他の眷属もぞろぞろと……という事は終わったって事かな?

 

 

「あら……キマリス君、こんなところで何をしているのかしら?」

 

「散歩?」

 

「逆に聞かれても困るのだけれど、もしかして堕天使と神父達に用事だったかしら?」

 

「いや全然。甘い物食いたくなってこいつと歩いてたら神父の集団を見つけたんでとりあえず一人を残して他は殺して、そして残った一人から情報聞いてまた殺してからじゃあ他も殺そうかという結論に至り此処に来ただけですよ」

 

「……それってただ殺しに来ただけって事よね?」

 

「簡単に言うとそうなります。ただ残念な事にさっき逃げてきた白髪神父を殺し損ねたのが気がかりですね。もしかしたら他の仲間がいたかもしれないですしもうしばらくは様子見をした方が良いかと。ところでさっき先輩の魔力を感じたんですけどもう終わりました?」

 

「えぇ。此処を根城にしていた堕天使は私が滅したわ。でも他に仲間ねぇ……ソーナにも伝えてしばらくは見回りをした方が良いかもしれないわね。その時は貴方も手伝ってちょうだい、嫌とは言わせないわよ?」

 

「断ったら他の上級悪魔から何を言われるか分かんないでちゃんとやりますよ」

 

「話し終わったっすか? うっすいっちぃ!! 無事だったか――あん? 何でシスターいんだよ? まだ生き残りいんじゃねぇか」

 

「いやいやいや?! アーシアには指一本触れるなよ!? マジで触れるな!! 怪我させるな!! てか犬耳出てる!? 男の犬耳とか誰も得しねぇよ! なんで女の子じゃないんだよ!!!」

 

「はぁ!? 男が犬耳でも良いだろうがぁ!! つかマジで何でシスター庇ってんだよ!? そいつ敵だろう――ごほぉ?!」

 

 

 五月蠅いしご近所迷惑だから腹パンで宙に浮かせてからの影人形による拳ラッシュで静かにさせる。気絶したっぽいが転移で帰れば良いだけだし問題ないな。ただ目の前にいる眷属の方々には引かれたけど。

 

 

「うちの駄犬がスイマセン」

 

「いえ、普通の反応よ。この件についてはまた後で説明するわね」

 

「お願いします。そこのシスターちゃん、うちの馬鹿が怖がらせて悪かった。それじゃあシュークリーム食いたいんで帰りますね」

 

 

 絶賛気絶中の犬月の足を持って転移、仕方ないからシュークリームは明日にしてやろう。

 

 帰ってきた俺と気絶している犬月の姿を見ても水無瀬以外は慌てずにおかえりと言ってきた。お、おう! ただいま!! なんていうか犬月を大事に思ってるのは水無瀬だけのようである……頑張れ犬月、負けるな犬月。とりあえず――死んでないよな?




影人形(シャドール)
形状:丸みを帯びた一つ目の人型。イメージはバーローの人気キャラである全身黒タイツ。
能力:攻防一体かつ変幻自在、他人の影の中にも入れる万能性。ラッシュタイムのイメージはオラオラドラララ無駄無駄ァ。

観覧ありがとうございました!


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