ハイスクールD×D~地双龍と混血悪魔~   作:木の人

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71話

「――あさ、かい」

 

 

 その日の目覚めは酷く憂鬱なものだった。気分良く寝られるように、そして問題無く起きられるように晩酌をしてから眠りについたはずなのにカーテンの隙間から見える光でついに()()になってしまったと思ってしまう。笑っちゃうね、天下の酒呑童子の私が親に会うために家に帰るってだけでこんな風になっちまうなんてさ。決して二日酔いなんかじゃ一切無い……鬼さんは酔わないんだ。

 

 

「……いぶ、き、おはよう」

 

「うん。おはよう、イバラ」

 

 

 一緒に寝ていたイバラも起きる時間だからかもぞもぞと眠そうな瞼をこすって起き上がる。あぁもう……寝癖が酷いったら。折角綺麗な金髪なのにこの子は手入れの手の字すら知らないんだからさ、自分の事はトコトン無頓着だから放っておいたら酷い事になるね。風呂に入った後だってバスタオルで乱暴に拭いてドライヤーで乾かさないで終わらせるし、起きた後も髪をとかさないしさ……私より、その、可愛いのにもったいない。

 

 イバラの顔を見つめていると私は不意に笑みが出てきた。毎日こうしてイバラの顔を見て嬉しくなってるだろうね……前までなら、ううん、ノワールと出会う前ならこんな風に一緒に寝たり漫画を読んだりテレビを見たりは出来なかったからね。私は酒呑童子、イバラは茨木童子。私達は互いに主従関係みたいなものが築かれているけど他からはそう思ってもらえなかった……気がする。イバラは自分で考えるのが苦手、いつも誰かに指示されないと自分が何をしていいのか分からない子だ。私は気にしてないけどやっぱり他の「鬼」からすれば異常なんだろうね。私の母様とイバラの母様が親友同士とはいえ家は違うし()()頭領だった私はかなり大事に扱われていた――と思う。だからこうして一緒の家で姉妹の様に過ごすなんて前までならあり得ない事さ。

 

 

「伊吹。嬉しそう。良い事、あった」

 

「なんでもないさ。でも、そうだねぇ……毎日イバラの顔が見れるのが嬉しいだけかもね」

 

「私も嬉しい。伊吹と一緒。凄く嬉しい。主様に感謝」

 

 

 本当にノワールには感謝しないとダメだね。こんな風に私達みたいな「鬼」を住まわせて……あまつさえ眷属にしちゃってるんだしさ。ただ……アイツが女にモテるのは気に入らないけど。めぐみんだってノワールの事が好きだししほりんも同じ、先のゲームで間接的に告白っぽい事をしてから猛アタックしてるのは……羨ましいと思う。私はその、酒を飲んで()()()()()でもしないと恥ずかしい。でもそれ以上にさおりんだよさおりん! いつもノワールの傍にいて全部分かってるような態度で好き好きってアピールしまくってるしさ! 鬼以上に肉食な覚妖怪って何なんだい……! ぐらむんはまだ分からないけど将来的にはさおりんと同格になるね。鬼さんの感は当たるんだ。

 

 何も分かってなさそうなイバラを見つめる。この子がノワールに恋愛感情を持ってるとは考え難い……考えたくもない。だってその、私よりも女らしいし胸も、ちょっと大きい。なんで私はここまで壁で体も小さいんだろうね……これでも百年は確実に生きてるのに成長している気がしない。ま、まぁ、アイツはそれでも構わずにむ、胸を揉んでくるけどさ……普通の男は女の胸とかを揉むのを躊躇うんじゃないのかい? 少なくとも少女漫画では手を繋ぐのも躊躇してるけどもしかしたら違う……?

 

 

「伊吹。眠い。それとも体調が悪い」

 

「にしし、なーんでもないよ。全く心配しすぎさ、早く顔とか洗ってご飯を食べようじゃないか」

 

「分かった。ご飯は美味しい。食べなきゃダメ」

 

「そうだよぉ? めぐみんが作るご飯は美味しいからね! にしし! ごっはーんごっはーん!」

 

 

 イバラを連れて洗面所まで向かうとしほりんが歯を磨いていた。私から見ても羨ましいぐらいに美少女だからその辺りのケアは怠らないみたい。でもアイツは変態だから汗の匂いとかも普通に喜んで嗅ぎそうだ。そもそも一回だけ風呂に入ってない光龍妃の腋の匂いを嗅ごうとしてたしね……流石の私も、そ、そこまで攻められないよ。恥ずかしいし……!

 

 しほりんに挨拶をして顔を洗って歯を磨く。普段から酔っぱらったふりをしてるとはいえアイツに寝起きの口臭とかは嗅がせたくない。本気で臭いとか言われたらもう立ち直れないかもしれないしね。なんだってこの私が男一人にここまでしないとダメなんだって話だ。でも恋敵(ライバル)は多いからこれも必要な事……少なくともさおりんに勝つには日ごろの努力が必要だろう。

 

 

「花恋さん、今日は早起きなんですね? あっ、そういえば今日でしたっけ……?」

 

「そうだよぉ~? お陰で憂鬱さ。もうさおりんみたいに引きこもりたいね」

 

「あはは……その、頑張ってください! 一緒には行けませんけど応援してます!」

 

「ありがとぉ~しほりんは良い子だよ。ノワールにも見習わせたいよ全くさ」

 

 

 少し動いただけで揺れる一部分(おっぱい)を目にすると軽く崩れ落ちそうになるけど鬼さんは強い子、将来は大きくなる予定の女の子だから耐えれるはずさ……! そもそもめぐみんもだけど何を食べたらここまで大きくなるのか教えてほしいね! イバラも殆ど年は変わらないはずだけど私よりもちょっと! ちょっとだけあるから同じ眷属として教えてくれても良いんだよ? これを揉んでるノワールを何度殴りたいと思った事か! あんなだらしない顔をして本当にムカつくよ! ち、ちっぱいにはちっぱいの良さってのがあるだろう!

 

 鏡に映るのは普段見る私の顔。外見も幼すぎて恋愛対象に見られることはまず無いだろう。私が契約とかで相手をする男は……例外だけどさ。前にノワールから見た目は美少女だって言われた時は嬉しかったけど次のセリフで死にたくなった……女として見れないとかそもそも最悪じゃないか! しかも抱くならイバラの方が良いとか言うし! 光龍妃が好きな癖になんで私を女として見ないのか不思議でしょうがないよ! 普段の行いが悪いとか絶対に違う。鬼さん悪くない。襲ってこないノワールが悪い。

 

 しほりんと一緒にイバラの寝癖を治したり自分の髪型が変じゃないかを確かめる。毎日顔を合わせるって言ってもこの辺りはちゃんとしないとね。あの馬鹿は大して気にしてないだろうけどさ……私が嫌なんだよ。

 

 

「あら、おはよう。ご飯はもうすぐ出来ますから座っててね」

 

「皆さんおはようございます」

 

「うーっす、今日は早いっすね」

 

 

 リビングに向かうとエプロン姿のめぐみんとお手伝い中らしいれいれい(レイチェル)とパシリが居た。これもいつもの光景だ。私達のご飯を作るのはめぐみんのお仕事……普段は転んだり痴漢されたりサービスシーン見せたりと不幸なのに台所と学校の保健室じゃ問題無いのは私の中でも謎だね。でもエプロン姿のめぐみんは……私から見ても家庭的な女性に見える。大人の色気ってのが存分に出してる若奥様、悔しいけど私は料理出来ないから素直に羨ましい。結構前にば、バレンタインデーなる日があった時にチョコレートをノワールに上げようと手作りしたらどういうわけか失敗した……あれは酷かった。あのさおりんですら「うわぁ」って表情だったもんね。それ以降は絶対に料理しないと心に誓ったね! どれだけ不器用なんだい私は……! 仕事だったら上手くやれるのにさ!

 

 

「今日は大事な日だからね。早めに起きたりするさ」

 

「伊吹の母様と会う。怖い。私と伊吹よりも格上。まだ勝てない。だから怖い」

 

「……マジかよ。酒飲みより強いとか本気で化け物か、てかそんなのと王様を合わせて大丈夫なのかよ? あっ! せんせー! 皿用意できたっすよぉ!」

 

「流石のノワール君でも弁えているとは……思いますよ? ありがとう、瞬君」

 

 

 私だって不安だよ。あの馬鹿は私から見ても頭がおかしいからね。最悪……いや確実に戦争の一歩手前まで起きるだろう。そうなったら私とイバラも戦わないとダメだけど母様と戦うとなると分が悪い。理屈なんかじゃない……ノワールと同じく圧倒的な暴力を持った正真正銘の怪物。伊達に五百年以上も生きてないさ。恐らく今の魔王達と年は同じぐらいだろう。そんな存在と戦うとなったら今のノワールでも勝ち目は……無いと言いたいけど私も鈍ったもんさ。アイツならゼハハハハハって高笑いしながら母様に勝つんじゃないかとか思っちゃう。どうかしちゃったね、この私も!

 

 

「――たくっ、俺の部屋のセキュリティはどうなってんだよ?」

 

『ワがおウよ! 我ラを丁ねイに扱え!! 寝ていル我ラをねドこから落とすナ!!』

 

「テメェが潜り込んできたからだろうが? 嫌だったら平家の部屋で寝てろ」

 

「ノワール。私の部屋は玩具置き場じゃない」

 

『わレらは玩具デはなイ!! 聞イているノか! 我がオうよ!!』

 

 

 朝っぱらから元気だねぇ。いや……いつも通りかい? ノワールとさおりんとぐらむんは三人仲良くリビングにやってきたけど話の内容的に今回はぐらむんがノワールの部屋に忍び込んだみたいだね。前は確かしほりんだったねぇ……なんでそこまで肉食なんだい? アイドルなんだからもうちょっとは落ち着いたらいいと思うのは私だけかな? あと、そもそもぐらむんの部屋って無いから必然的にノワールかさおりんの部屋がぐらむんの部屋代わりになってるけどさ……羨ましいんだよね! 魔剣だから恋愛感情が無いとは思うけどさ、褐色肌だよ? 見た目は可愛い女の子だからノワールも嬉しいはずさ! 胸は私と同じぐらいだけども……! ここ最近はさおりんと一緒にえ、エロゲをしてるみたいだけど将来が大変だ。主にノワール争奪戦関係がさ!

 

 

「……」

 

「あん? 突っ立ってどうした? まさか寝てましたってか?」

 

「何でもない」

 

 

 むむっ、さおりんってば私の心を読んだね……気にしないけど恥ずかしいなぁもう!

 

 

「――い、おい」

 

「っ、な、なんだい!?」

 

 

 しまった……さおりんに集中してたから話しかけられたのに気が付かなかった!? へ、変な声とか出してないよね……?

 

 

「いやなんだって……今日だろ? お前の実家に行くの? 準備とか大丈夫なのかよ?」

 

「も、問題無いさぁ~いつでも良いに決まってるよ。ノワールこそ準備は出来てるのかい?」

 

「ただ会って話すだけだろ? 特に準備なんざいらねぇだろ。最悪殺し合いに発展したら戦えばいいだけだしな。おい水無瀬、お茶くれ」

 

「分かりました。あの、ノワール君……今回こそ穏便に行きましょう? 花恋と祈里の実家とはいえ三大勢力とは同盟を結んでいないんですからね!」

 

「善処しとく」

 

 

 めぐみんからお茶が入ったコップを受け取ったノワールだけど緊張のきの字すら知らないとばかりの様子だ。この性格は本当に羨ましいね、鬼達ですら頭領の母様と話す時は緊張するのにコイツときたら……まるで別の学校にいる不良相手に喧嘩をしにいくみたいに簡単に言ってるよ。まぁ、常日頃から光龍妃と殺し合ったりしてるから慣れてる……慣れてるって言えるのかね? 兎に角もう本当に何事も無く終わってほしいよ……!

 

 全員が揃ったからいつもの様に朝ごはんタイム。テレビのニュースを見ながらあぁでもないこうでもないと他愛ない話をしながらめぐみんお手製のご飯を食べる。美味しい……家庭的な女性って男受けしそうだもんね。私も……練習しようかな。ノワールを囲む面々を見ていると女として自信を無くすからさ……めぐみんとしほりんは問答無用で男受けしそうな見た目だし料理も出来るし巨乳だ。れいれいはお姫様だから料理とかは得意じゃないけどこっちも巨乳で美少女、ノワールは毎回鼻の下を伸ばしてガン見してるぐらいだ。ロリ巨乳って言うんだっけ……羨ましい、その大きさを少しだけ譲ってほしい。肩が凝る苦しみとか一度で良いから味わってみたいよ本当に! イバラとぐらむんは……保留。さて恐らく私の心を読んでるさおりんだけど正直羨ましいの一言だ。ノワールから一番に頼られてるし見た目だって可愛いし何でもできるし……うん。頑張ろう。

 

 

「――調理機器を壊さないように頑張らなきゃね」

 

「なっ!? な、なぁに言ってるのかなぁ~さおりんは! に、にししし!」

 

 

 この覚娘め! 人が気にしている事を遠慮なしに……! さおりんはやらないだけで実は料理できるとか知ってるからそんな事が言えるんだろうけどさ! 慣れてないんだから仕方がないじゃないか!

 

 ご飯を食べ終わってからイバラと一緒に着替えてノワールと共に里へと向かう。場所自体は私達が知ってるから転移で入口までは向かえるから問題無い。ノワール、私、イバラの三人で大江山に存在する鬼しか知らない専用の道を進んで里へと歩いていく。この場所自体は京都にある「裏京都」と同じような異空間に存在している……だから今まで人間達に知られる事なく過ごす事が出来ていた。鬼以外の存在がやってきたからか……または私とイバラが帰ってきたからか、いいやどっちもだね。離れた場所で監視役の鬼が付いてきている。ノワールもそれに気が付いているのがうざったいと言いたそうな表情になってるしさ……コイツ、あの漆黒の鎧になる力に目覚めてからさらに強くなってるしねぇ! ホント、面白い奴だよ!

 

 

「……此処か?」

 

「そうさ、私とイバラが住んでた場所――鬼の里さ」

 

 

 長い道のりを歩き、辿り着いたのは大きな門だ。そこには門番の鬼が二人立って私達を観察するように見ている。コイツらは私とイバラを追放したい派だったはずだから今すぐ帰れって思ってるだろうね。

 

 

「立ち去れ余所者。此処は貴様らが来るような場所ではない」

 

「貴方達もだ。伊吹さま、イバラさま。既に貴方達は此処に入る権利は無い」

 

「ふーん。でもさぁ、アンタらの頭領から此処に来るように言われたんだけど? まぁ、帰れって言うなら帰るが頭領自らが呼んだ客を追い返したらお前ら……どうなるんだろうなぁ? あと、うちの姉妹を変な目で見ないでもらえません? 死にたいなら別に良いけどさ」

 

 

 ノワールゥ! 初っ端から喧嘩腰とは予想通りだけど落ち着きなって!

 

 

「……寧音さまが呼んだだと?」

 

「その言葉、偽りではないだろうな?」

 

「主様の言葉。本当。寧音様から連絡があった。今日、此処に来るように言われた」

 

「そうさ、だから通してくれないかい? 私も母様との約束を破りたくないんだ。もし邪魔するって言うなら鬼らしく通してもらうだけさ」

 

「……分かった。しかし騒ぎは起こすな。用件が済み次第、さっさと帰るように」

 

 

 門番が門を開けて私達を中へと通した。そこに見える景色は前に来た時と変わらないものだ……昔の日本のように木製の建物が多く着物を着た遊女が歩いていたり、ガタイの良い男が大工仕事をしていたりと何かと騒がしい町だ。勿論、歩いている奴らは全員鬼だ。だからノワール? 遊女の鬼をガン見するのはやめときな。此処に来た目的は遊びに来たんじゃないだろう? 決して嫉妬しているわけじゃないさ。違うからね。

 

 

「すげぇな。辺りに居るのって全部鬼か?」

 

「そうさ。鬼の里だよ? それ以外の種族が居ると思ってるのかい? 昔の日本を元にして酒飲んだり祭りをしたり毎日騒いでるのさ」

 

「鬼は騒ぐのが好き。酒も好き。女も好き。だから遊ぶ場所が多い」

 

「なるほどだ。帰りに寄っていく――冗談だっての」

 

 

 なんだい? ただ目の前で掌を握っては開いてを繰り返しているだけだよ? にしし、おかしなノワールだねぇ。

 

 周りから珍しいという視線とまた帰ってきたのかという視線が私達を射抜いている。ドラゴンであり悪魔でもあるノワールような存在は珍しいからか周囲から奇異な目で見られている……若干、良い男みたいな視線も交じってるけどこれは気のせいだね。

 

 

「着いたよ。此処が私の……いや鬼の里を支配する頭領が住む屋敷さ」

 

 

 目の前にあるのは古い時代にあるような大きな屋敷。池だってあるし宴会用の敷地だってあるこの里の中でもかなりの面積を誇る場所だ。私達の来訪を既に知っているからか早く中に入ってこいとばかりに扉が勝手に開いた。母様らしいね……中には多分、イバラの母様もいるだろう。はぁ……ノワールが何をしでかすか分からないから本当にドキドキするよ。

 

 こんな状況だというのに隣にいるノワールは普段と変わらない様子で歩いている。もう少し緊張というものをしてくれても良いんじゃないかい? 鋼の心臓過ぎるよ!

 

 

「――やっと来たかい。このバカ娘」

 

「……これでも、早く来た方だよ。母様」

 

 

 屋敷の中央、金髪の美女とガタイの良い男達を従えている一人の鬼が待っていた。私と同じ桜色の髪で動きやすいように和服を改造したのだろう、年も考えないで色気を前面に出している格好をしているのは私の母様――酒呑童子であり鬼達の頭領。普段は吸わないくせにキセルなんて持ってカッコつけちゃってさ、威圧しているように見せたいのだろうけどノワールはビビらないよ? 恐らく私の母様を見て……なんで私を見るのさ? またなんで母様を見た? おいこら、何を考えてる?

 

 

「……四季音姉」

 

「なんだい?」

 

「母親?」

 

「そうだよ。見た目に騙されちゃいけないよ? あれでも五百年は軽く生きてるんだ」

 

「マジか……見た目的に二十代だけどその辺は悪魔と一緒かよ。まぁ、あれだ! ドンマイ!」

 

 

 待てこら。なんで私の両肩に手を置いてそんな哀れみな視線で見てくるのさ! まさかアンタ!? この状況で私と母様の胸を見比べてたってか!? 馬鹿じゃないの! なんでそんなにフリーダムなのさ! あとドンマイってどういう事さ! 成長しないってか!? このまま小さいままだって言いたいのかこいつは!!

 

 

「かっかっか! 面白いねぇ! こんな状況なら普通は馬鹿な事なんてしないさね。それに関しちゃあたしの娘だ、そのまま成長なんざしないさね。永遠にろりっ娘よ」

 

「否定しろ!! 良いのかそれで!! 実の娘でしょ!?」

 

「良いも悪いもあたしの家系はみんな小さいさね。アンタだけデカくなるわけないだろう」

 

「聞きたくなかった!! こらノワール……いい加減その哀れみの視線はやめな、潰すよ?」

 

「それはマジ勘弁。えー色々とお騒がせしましたがこいつ……えっと、伊吹? まぁ、良いか。コイツらの王をしてるノワール・キマリスだ。今回はお呼ばれしましたのでこうしてやってきた次第です」

 

「知ってるよ。最強の影龍王ってんだろう? 外の噂で耳に入っているさね。あたしは此処の鬼達を束ねてる寧音(ねね)ってんだ。そこのバカ娘の母親でもあるよ。こっちが(せり)、イバラの母親さ」

 

 

 親指を向けて紹介しているのはイバラの母親、芹様だ。イバラと同じく金髪で腰元まで伸びてるけど手入れは欠かしていないのか凄く綺麗だ。そして一番目につくのは和服の上からでも分かる巨乳だ……イバラも成長したらあの大きさになると思ったら嫉妬の感情が出てくるね。私なんて……母様と同じく小さいってのにさ! しかも今後も成長しないと断言されたしさ! 崩れ落ちたい……今すぐ泣きたいよ。

 

 

「さて呼んだのは簡単さ。アンタの目的を知りたい。教えてくれないかい? うちのバカ娘と芹の娘を手に入れて何をしようっての?」

 

「特に無いけど?」

 

 

 よくそんなセリフを簡単に言えるね!? 馬鹿じゃないの!?

 

 

「鬼を手籠めにしておいて何もないってか? 蝙蝠は平気で嘘をつくからねぇ、信用できないのさ。今だってそうさ、殺し合いには若い奴だけ送り込んで年取った奴らは安全な場所で見てるだけ。あたしらにも言えるがそんな奴らに鬼を利用されたくないのさ。もう一回聞くよ――どうする気だい?」

 

 

 くぅ、かなりの殺気だね……母様は本気でノワールの真意を確かめたがってる。返答次第じゃ即戦闘だよ……!

 

 

「だから無いって言ってんだろ。まぁ、トップの魔王自らが自分の妹に肩入れして贔屓してるような奴らだから信用が無いのは無理ねぇけどさぁ……特に利用とかはしてねぇぞ? こいつらだって今を楽しんで生きてるしな。あーでも特訓の相手として利用してるって言えばしてるのか……どう思うよ?」

 

「私に振るな馬鹿……母様、こいつは――」

 

「アンタに聞いてない。少し黙りなバカ娘」

 

 

 やっぱりおっかないね……私の母様は! この殺気を前にしてのほほんとしてるノワールは異常だよ。ただ光龍妃の殺気の方がちょっとだけ怖いと思えるから私も気が楽だけどね。

 

 

「そもそもあたしの娘どころか芹の娘も手に入れておいて何もないってのは通じないさね。芹、ちょっとばっかし暴言を言うが許しな。芹の娘は騙しやすいさ、言われないと動けないからね。そんな奴を唆して悪魔にして何が狙いだい? それにね、あたしの娘はこの里の次期頭領になるはずだったんだ。それを悪魔にした時点であたしらに喧嘩売ったのと同じ事さ。何度も同じことを聞く趣味はないから最後だよ? どうする気だい」

 

「……だーかーらーなにもねぇって言ってんだろうが。年取って物分かりが悪くなったのか? 四季音姉、あぁ、アンタの娘の方な? 元々はコイツから喧嘩売られたから倒しただけ、眷属にしたのもあれだけ強いんだから欲しくなって当然だろ? 俺様は悪魔だしな。悪魔になる事もコイツは断らなかったし同意の上、四季音妹の方も同じく喧嘩売られたからぶっ倒しただけだ。まぁ、こっちも俺から眷属になれって言ったけどね。酒呑童子が居たら茨木童子も欲しくなるのが悪魔ってもんだし。はい、満足?」

 

 

 嘘だ。イバラを悪魔にしようって言ったのは私だ……イバラも私と一緒に居たいからという理由と私の言葉だけで悪魔になったようなもの。だから全ての元凶は私だ……ノワールの眷属になって、一緒に居たいからってだけでイバラも悪魔にして……だというのにコイツは全部の責任を自分で負おうとしてる。普段はメンドクサイとか嫌だとか言ってるくせにこんな時だけ自分を犠牲にするんだ。馬鹿だよ……ホントさ!

 

 

「……そうかい。なら、戦争するか」

 

 

 拙い……! 母様は本気だ!!

 

 

「別に良いぞ? そもそもこんな()()に付き合わされた俺の身にもなれ。そんなに殺されたいって言うなら今すぐ殺してやるぞ?」

 

「かっかっか! 十数年しか生きてないガキが言うじゃないか。ならその腕前を見せてもらおうかねぇ? 殺れ」

 

 

 近くに居た鬼達が一斉にノワールに襲い掛かる。あの面々は母様が従えている中でも結構強い奴らだ……全員が生半可な奴らじゃ太刀打ちできない実力者揃い。でも――届かないよ。

 

 ノワールの正面には影人形が現れる。数人の鬼が自慢の拳を叩き込もうと殴りかかるが届く前に影人形のラッシュを浴びて母様の方へと吹き飛ばされる。あれの速さは一級品、しかも漆黒の鎧になれるようになってからさらに速くなってるときたもんだ! 硬さも、速さも、正確性も! 一回り以上に強化されてるんだから恐ろしいね。音からして確実に骨の何本かはあの一瞬でへし折ったね……頑丈な鬼の骨を折るとか本当に化け物だ。

 

 その光景を見た母様は今まで見たこと無いぐらいに大笑いをした。この辺りは私の親なだけあるね、きっと面白いと思ったんだろう。そして笑い終わったと共に軽く拳を前に突き出してデコピンをするように指を弾く――するとノワールが背後の壁に吹き飛んでいった。音も無く、衝撃なんて一切無いのにノワールがダメージを受けた事に私は驚く――事なんて無かった。あれが母様だからだ。伊達や酔狂で鬼の頭領を名乗ってないからね。

 

 

「粋がるんじゃないよ小僧。神から与えられた玩具で調子に乗ってもあたしに取っちゃ怖くもなんと――」

 

 

 轟音が周囲に響き渡った。何処からと言われたら母様が座っていた場所からだ。嘘でしょ……なんで影人形が母様の()()から現れたんだい!? いつ送り込んだ!? まさか……さっき襲ってきた鬼達を殴った時に影の中に忍び込ませた!? 変幻自在で他者の影の中に入れれるけどあの短時間でやってのけるとかどこまで馬鹿なんだい!! いやそもそもあの母様を殴った事に私はビックリだよ!! 芹様もイバラも驚いてるしさ! にしし! やっぱり面白いねぇノワールは!

 

 背後の壁に飛ばされたノワールの目の前には影人形が立っている。つまりダメージ自体は防いでいたってわけか……光龍妃と戦ってたからこその危機察知能力ってわけかい。

 

 

「――調子に乗ってるだぁ? ゼハハハハハハ! それはそっちの事じゃねぇの? 鬼の頭領って立場で鍛錬を怠ってるんじゃねぇかよ! たかが十数年生きた程度のガキが使う式に攻撃されてんじゃねぇよバーカ!」

 

「……殴られるなんて久しぶりだねぇ。これが噂に聞く影人形って奴かい? 鬼の骨を折る打撃力とは恐ろしいもんだね。生憎あたしには効かないけどさ。どうした小僧? それで終わりってわけじゃないよね?」

 

「そっちこそ四季音姉を生んでから男に相手された事ねぇだろ? 相手してやるよ! ただし俺ってしつこいからぶっ倒れないでくれよ?」

 

「かっかっか! このあたしにそんな事を言う奴が居るとは面白い奴さね! 良いとも、相手してもらおうじゃないか。ただし小僧、アンタが負けたらあたし達鬼勢力は三大勢力に喧嘩を売るよ。問題無いね?」

 

「どうでも。そもそも三大勢力が滅ぼうが俺には関係ねぇしな。俺は好き勝手に生きて、好き勝手に死んでいくことを信条としてるんでね! 好きにしろよ」

 

「――ますます気に入った! かっかっか! 真っすぐな男は好きさね! ならあたしに勝てたら抱かせてやろう。それぐらいの褒美は上げないとねぇ?」

 

「マジか!? うっしゃ! テンション上がってきたわ! 鬼は嘘つかねぇよな?」

 

「そうさ。鬼は嘘はつかないよ――付いてきな、良い場所がある」

 

 

 一触即発な空気のまま、母様とノワールは場所を移動する。

 

 これは……どっちを応援したらいいのだろうか? 母様を応援したらノワールが負けて光龍妃がブチギレる上に三大勢力との戦争。ノワールを応援したら母様と……こ、子作り決定……! 鬼は嘘をつかないから必ずするだろうね。ちょっと待ちなよ……惚れてる男が自分の親とそ、そのシてる所を見たらもうさおりんのように引きこもるよ? 出来ればノワールには勝ってほしい、でも母様とはシてほしくない。うぅ……!

 

 

「伊吹。大丈夫。顔色悪い」

 

「……悪くなるよ、流石にね。イバラはあんまり変わってないね?」

 

「うん。主様。いつも通り。楽しそうだった。伊吹の母様。もっと楽しそうだった。私も楽しみ。どっちが勝つか凄く楽しみ」

 

「そっか……ねぇ、イバラ? 此処に来るまでの私の心配ってどうしたらいいんだろうね?」

 

「分からない。ごめんなさい。でもいつも通り。主様は変わらない」

 

 

 そうだよね……あのノワールが態度を変えるわけがない。どんな時でも、どんな場所でも、どんな相手でも自分の好きなように、やりたいようにやるんだ。今回もそうだったってだけ。

 

 ホント……馬鹿だよね、ノワールってさ。




ノワール → ノワール
犬月瞬 → パシリ
水無瀬恵 → めぐみん
平家早織 → さおりん
橘志保 → しほりん
レイチェル → れいれい
四季音祈里 →イバラ
グラム → ぐらむん

以上、四季音花恋の呼び方一覧です。
観覧ありがとうございました!
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