ハイスクールD×D~地双龍と混血悪魔~   作:木の人

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72話

『宿主様』

 

「あぁ、分かってる」

 

『なら良いさ! さぁ、楽しもうぜぇ! あんなのと殺し合えるなんざ滅多にねぇしな!!』

 

 

 鬼達の頭領であり四季音姉の母親――寧音に連れられて俺は屋敷の外へと歩いている。前を歩いている女はウキウキワクワクしているのか足取りが軽い……見た目は四季音姉に似てるから成長したらきっとこんな感じになるんだろうね! ただマジで化け物だわ……デコピン一つで俺が後ろに吹っ飛ばされたしな! 音なんて鳴らず、衝撃なんて一切無かったにも拘わらず背後に吹き飛ばされた。周りに悟らせないほど小さな衝撃破って奴だろう……衝撃って言ってるのに衝撃自体が分からねぇとかどうなってんだよ!!

 

 しっかしあれだな……エロい。人妻の魅力って奴だろうか? 立ち振る舞いとかがグッとくる! 胸は夜空や四季音姉よりはあるけど水無瀬ほど大きいわけじゃない。きっと適度な大きさというのはきっとあんな感じだろうね! しかも和服なのにエロく改造してるのも良いと思います!

 

 

「かっかっか! これから殺し合うってのに余裕だねぇ? 見た目は若いが中身はおばさんさね、欲情するならもっと若い奴にした方が良いよ」

 

「あっ、俺ってその辺は気にしねぇから安心しろ。童貞じゃなかったら余裕で抱きに行ってるわ」

 

「なんだい? まだ未経験だってか? だったら筆下ろしのためにもあたしに勝ってみな。人妻のテクニックってのを味合わせてやるさね」

 

 

 人妻に筆下ろしをしてもらえるとかご褒美ですありがとうございます! そのセリフを言う表情とかがエロくて本当に四季音姉の母親なのか疑問になってきたね! なんでこの母親が居てあんなに少女趣味になるんだ……? でも残念ながら俺の童貞は夜空にあげる予定なのでそれが終わったらよろしくお願いしたいな! 人妻のテクニックとか物凄く興味があるしね! さてと……そろそろマジで集中しないと後ろに居る四季音姉に大事なものを潰されかねない。さっきから手をグーパーと握っては開いてを繰り返しながら目に光が無い状態で「潰す……だめ……既成事実……奪う」とか呟いて俺を見つめてるしな! お前ってヤンデレ属性あったっけ? 鬼が病んでるとかもうどうしようもないからマジでやめてくれない? 怖い。滅茶苦茶怖い。せめて……せめて四季音妹のようにしてほしい! 多分だがどっちが勝つのか分からなくて楽しみとか思ってるんだろう。かなりワクワクしてるね!

 

 でも一番の問題……というかこの騒動の()()をどうするかねぇ。現に今も俺の動きを、言動を、視線を、表情を、とりあえず目につくもの全てを観察しているっぽいからマジでどう対処したら良いんだろうな? 目の前の人妻鬼みたいに襲ってこない以上は俺から手を出すわけにもいかねぇし……良いか、これが終わってから考えるとすっか!

 

 

「――着いたよ。此処があたし達の戦場さ」

 

 

 歩くこと十数分、俺と人妻鬼は荒野に到着した。此処に来るまでは木々が生い茂った普通の山だったけどこの場所はまるで爆弾か何かで吹き飛ばしたように木々が散らばっているしクレーターも色んな所に出来ている。周りに見える光景の雰囲気は言ってしまえば地双龍の遊び場(キマリス領)と同じだ。暴力と暴力がぶつかり合って出来たような異常な光景……なるほどな、誰かは分からないが骨らしきものもあるから鬼専用の処刑場かなんかって感じか? 良い趣味だな!

 

 殺し合いを行う俺と人妻鬼はこの場所の中心に立ち、観戦する奴らは上空に四角形の結界らしきものの中に入って俺達を見下ろしている。四季音妹の母親が作った奴か……鬼でもあんな感じの術を使うんだな。

 

 

「此処は由緒正しき鬼達の遊び場さ。暇な奴ら、馬鹿な奴らは此処で発散するのが日常さね。ここら一帯を芹が妖術で覆ったから外に被害はいかないようになってる。かっかっか! さて小僧、準備は良いかい? 童貞らしく一回動いただけでイッたら笑いもんだよ?」

 

「それこそ心配無用だっての。俺様、イメトレ(オナニー)は得意中の得意だしな。逆に若い俺の攻めに耐えきれなかったら人妻として……ダメだ、言ってみてあれだがそれって最高だわ。とりあえず問題ねぇから安心しろ」

 

「なら良いさね! この石が落ちたら開始、異論はないね?」

 

「勿論だ。いつでも良いぞ」

 

『Ombra Dragon Balance Breaker!!!』

 

 

 普通の禁手化――黒の鎧を纏い目の前に居る鬼を見据える。かっかっか! と高笑いしながらゆらりゆらりとしている姿は素人が見たら隙だらけな立ち振る舞いだが……隙が見当たらない。気を抜いたらマジで死ぬだろうが()()()されてる状態で負けたらそれこそ精神的に死ぬ。てか負けたら夜空がブチ切れるから意地でも勝たないとダメだろうな! 負けねぇけど!

 

 人妻鬼が手に持った小石をコインを弾くように上空へと放る。それは重力に引かれてまっすぐ真下へと落ちて――周囲に轟音が走った。音の発生源は俺の目の前、起こした張本人は先ほど前離れた場所に居た人妻鬼。たった一歩、拳を握って接近してきたから影人形で応戦した結果がこれだ。鬼の拳と影人形の拳がぶつかり合い、周囲に衝撃が広がった……マジかよ! 俺の影人形が若干だけど後ろに下がった! ゼハハハハハ! 最高じゃねぇの!!

 

 

「――なんだい! 良い硬さじゃないの! これだけ硬いと突かれたら気持ち良いだろうねぇ!」

 

「だったら試してみるか?」

 

「かっかっか! 良いよ、やってみな!」

 

 

 影人形のラッシュタイムと人妻鬼のラッシュタイムがぶつかり合う。一発、また一発と拳がぶつかり合うたびに周囲の光景が吹き飛んでいく。やっべ、かなりのパワーだな……これで加減してるとか泣きたくなってきた! でも楽しくなってきたぁ!! ラッシュの速さ比べをしていると人妻鬼がニヤリと笑みを浮かべ、スプーンでアイスの表面をすくうように拳を放つと俺の影人形ごと地面が抉られた。

 

 

「なんだい! もう終わり――良いね! そういうのもあたしは好きさ!」

 

 

 飛散した影を媒体に新しい影人形を生み出して周囲ごと人妻鬼を殴る――が笑み一つを浮かべて放った拳でそれら全てが壊された。あぁ、確かに目の前に居る女は四季音姉の母親だよ……! 相手に合わせて強さを跳ね上げるメンドクサイ体質はそっくりだ!!

 

 

「影に触れると力が抜けるねぇ、ただのパワー馬鹿かと思ったら技術もあるときた。その年で良くここまで練り上げたもんさね」

 

「鬼の頭領に褒められると嬉しいね。まっ、アイツに褒められるほどじゃねぇけどな!」

 

「そりゃ残念だ。ほれ、一発行くよ」

 

 

 全身から影を生み出してこの戦場を黒に染める。影に触れたなら「捕食」の能力によって力を奪い取れる。つまり力を跳ね上げる人妻鬼の弱体化させられるわけだ……でも残念な事にそんな考えは暴力の前では無力らしい。「海水浴も良いねぇ」と軽い口調で放つ拳の衝撃で影の海が真っ二つに割れた。サイラオーグも同じことをやったが目の前の鬼のはそれ以上だ――影の海を割り、その衝撃を俺に叩きつけてきた。お陰で少し後ろに吹き飛ばされちまった! パワーを極めたらここまでなるとは恐れ入るよ……!

 

 

「――鬼の拳、たんと味わいな」

 

 

 俺の正面まで移動した人妻鬼は軽く後ろに引いた拳を俺の胴体に叩き込んだ。全身鎧、相棒の影、北欧の魔術で底上げされた防御力を簡単に突破した拳は俺の身体を貫いた……息が出来ない、足が動かない、痛みなんか一切ない……周りから見れば確実に即死と判断するほどのダメージに違いない。目の前に居る鬼も期待外れかとかもう終わりかと言いたそうな表情で拳を引き抜く。意識が遠のく……消える……俺の意識が消えていく――わけねぇんだよなぁ!!

 

 

「――ゼハハハハハ!!」

 

『Undead!!』

 

 

 即座に貫かれた傷を()()、高笑いと共に人妻鬼の顔面を全力で殴る。不意を突いたからか、あるいは分かっていて受けたのか分からないが殴られた衝撃で吹っ飛ばされるがすぐに立ち上がる。なんだよ? なんで生きてるって顔は? おいおい……偶には外の情報を仕入れた方が良いぞ? 噂で聞いてねぇのかよ……今代の影龍王は()()()なんだぜ?

 

 

「まずは一死だ! ゼハハハハハハハハハハ! あぁ、マジで殺されたわ! 確実に意識を刈り取る良い一撃だった! 流石鬼……四季音姉の母親なだけはあるな! ほらほらどうしたぁ? たった一回殺しただけじゃねぇか! 俺の残機はまだまだ余裕で残りっぱなしだぜ? 勿論全部無くしてくれるよなぁ!」

 

「……かっかっか! 悪いねぇ、再生するとは聞いてたがまさかそこまでとは思わなかったよ。なんだいなんだい……! 楽しめそうじゃないか! 久しぶりに体が熱くなってきたよ! ならその残機ってのを全部貰おうか!」

 

 

 俺は高笑いしながら無数の影人形を生み出して接近する鬼を迎え撃つ。先ほどまでとは違い、全身に妖力を纏わせた拳は影人形程度では止まることなく、全てを破壊ながら俺の目の前までやってきた。その表情は笑っていた。高揚感を味わっているような笑みだ。楽しいと! まだ倒れるなと! 暴力的なまでの破壊力を持った拳を放ってくる。

 

 俺も生み出した影を纏わせた拳で応戦すると衝撃が広がって周囲が吹き飛んだ。俺の拳が痺れるほどのパワーだが一発だけでは終わらない……倒れないなら殴る、再生するなら殴る、死なないなら死ぬまで殴る。やってる事なんて簡単だ。サイラオーグとの戦いの様にまどろっこしい事なんてしないで正面から殴り合い! 馬鹿の一つ覚えの様に俺と鬼は殴り合う! 俺の拳を叩き込むが倒れない。鬼の拳が叩き込まれると俺の首が折れて即再生。そのお返しに一発殴ると鬼は笑みを浮かべて俺を殴ってくる。殴る、再生、殴る、再生、ただひたすらそれの繰り返しだ。何回死んだ? 何回殺された? そんな事はどうでも良いとばかりに俺達は高笑いしながら殴り合う。

 

 

「――してやられたね」

 

 

 それが永遠に続くと思っていると先ほどまで楽しんでいた鬼が表情を変えて俺から距離を取った。あらら……バレたか。もう少し力を奪いたかったけど仕方ねぇか……てかマジで何回死んだんだ? 多分だけど二桁は確実に死んでるね!

 

 

「んあ? いきなり距離を取ってどうしたんだよ? まだ俺は死んでねぇぞ? ほらほら、さっさと殴り合おうぜぇ! 楽しい楽しい殴り合いをさ!」

 

「そうはいかないさ、こんな事をされたらね!!」

 

 

 目の前の鬼は自分の真下を殴ると自分の()に繋がっている黒色の細い糸のようなものが衝撃によって宙に浮いた……それらが伸びている先は俺の影だ。ゼハハハハハハ! 俺が何の策も無しに殴り合うわけねぇだろ? 不死身なのを利用してせこい事をさせてもらったけど気づくの早いな……予想じゃもっとかかると思ってたんだけどな!

 

 

「アンタ、さいしょっからこれが狙いだったんだろう? あれだけ人形を生み出す能力を持っていながらあたしと殴り合う事を選ぶわけがない。最初の違和感はここさね、そして次がアンタの鎧が硬くなっていったという事。ダメージを抑えるためかと思ったがどうも違う……あたしの拳の威力が下がったから鎧が硬くなったと錯覚してたってわけだろう? ホント、ズル賢い男さね」

 

 

 その通り。影に触れたら「力」を奪うのが相棒の力の一つだ。知っている奴からすれば意地でも触れないように行動するだろう……だったらどうやって相手にバレないように「力」を奪うかにたどり着く。いかに違和感なく影に触れさせるか、そう考えたら答えは一つだ。人も悪魔も妖怪も天使も堕天使も……生きているなら確実に出来てしまう()を使えばいい。吹き飛ばされた影人形の影を使って瓦礫などの障害物の下から根を張るように俺と鬼の影に繋ぐ。上空に浮かんでいる太陽の光で生まれる自分の影は誰も違和感を持たないだろう……だからこそそれを利用した! まっ、こんなのは初見殺しみたいなもんだから二回目以降は効かないだろうな。

 

 

「気づかれるとは思ったがこうも早いとは思わなかったよ。俺の影は変幻自在、ここまでクレーターやら木々、骨が放置されてるからこそ生まれる隙間を使ってアンタの影と繋げたけど……もうちょっと演技力を高めないとダメかね?」

 

「いんや、外で調子に乗ってる奴らなら気づいた時にはもう手遅れさね。人妻は感が良いって事を覚えておきな。男が浮気してるだの別の女が近づいているだのって余裕でお見通しだからね」

 

「そりゃ怖い。さてと――そろそろ手加減はやめてくれないか? こっちは不死身の再生能力を見せたんだ。今度はそっちの番だぜ?」

 

 

 さっさと本気の鬼と殺し合いたい! なんせ目に見える妖力は四季音姉以下……舐められている。ここまでやっても格下だって思われてるのが我慢ならねぇ! 負けるなら圧倒的な実力差を味わってから負けたいのが本音だ! でも負けないけどね!

 

 

「かっかっか! 良いのかい? このまま持久戦に持ち込めばアンタの勝ちさ、こっちは力を結構奪われたみたいだしね」

 

「アホ。折角の殺し合い! しかも楽しい楽しい鬼との殺し合いだ! 全力で来いよ? こっちはそれを待ってんだ。そもそもその程度奪ったぐらいで弱体化するわけねぇだろ? アンタの娘と何度殺し合ってると思ってる? 鬼の怖さは俺が一番よく知ってんだよ。勿論、アイツらの良いところもな」

 

「――そうかい。なら遠慮なく相手してあげようじゃないか」

 

 

 その言葉と共に目の前の鬼の妖力が膨れ上がり、小さく減少した。その妖力の濃さは四季音姉を簡単に超えている! 纏う妖力が少ないからと言って弱いわけじゃない……逆だ。今日まで生きていて高まった妖力をここまで小さく、それでいて濃く放出できるもんなのかと思いたくなる! これが正真正銘、本気の頭領の力とはねぇ! 正直……楽しくてしょうがねぇ!! 歓喜の感情が俺を支配する、殺したいと俺の本能が叫んでいる、ゼハハハハハハハハハハハハッ! さいっこう!!

 

 鎧の下で笑みを浮かべながら受けたダメージを「再生」する。これこそ相棒……影の龍クロムが持つとされる不死身の再生力だ。影龍王の漆黒鎧・覇龍融合に目覚めた影響で一部分しか引き出せなかった「再生」能力は完全に引き出されて通常の鎧でも使用できるようになった。あらゆるダメージを、傷を、死すら治すトンデモナイ能力! 今までは欠損してなければ発動しなかったが今では小さなダメージから大きなダメージまで俺が望めば即再生する! だからサイラオーグとの戦いで態々フェニックスの涙を飲む必要なんて無かったんだが個人的に相手に一時の希望を与えてそのまま絶望に叩き落したかったからわざと使ったんだよね! だけど便利になった分、文句を言いたい部分もある……再生する事を教えるように宝玉から鳴り響く『Undead!!』という音声だ。マジでやめてくれません? あっ! こいつ今再生してるってバレちゃうからさ!

 

 

「このあたしが殴っても死なない男……あぁもうっ! 良い! 全力を出せるなんて何百年ぶりだろうね! 喜びな、これを使うのは芹以来さ」

 

 

 妖術か何かで呼び出したであろう武器を肩で背負う。それは釘バットをそのままデカくしたようなものだ……まさか鬼に金棒ってか? そのまんまじゃねぇか!

 

 

「格下相手なら拳だけで十分さ。でもアンタはそれでも死ななそうだからね、使うよ。鬼には金棒って世界共通の言葉だろう? だから――簡単には死なないでくれよ」

 

 

 獣のような笑みを浮かべた鬼が俺の真横にするりと入り込み、その得物を振るった。そこから何が起きたかなんて俺には分からない……気が付いたら遠く離れた結界の壁に叩きつけられていた。身に纏う鎧は意味をなさないように完全に壊され、殆どの骨は折れて変な方向に曲がったりしている……正直、意識を手放したらどれだけ楽なんだろうって感じだ……! たった一振りで自慢の防御力を突き破って死亡寸前まで追い込まれた……ぜは、ゼハハハハハハハハハ!! 最高だ……! これが鬼! ドラゴンとは違う力の塊か!! 強い! 鬼を従える頭領ってのはここまで強いとはなぁ!! でもまだだ……まだ届かねぇ……アイツに、夜空には全然届かねぇ!! ここで負けたらアイツは夜空よりも強いって事になっちまう……ふざけんな! アイツより強い奴がいてたまるか……! 俺の中で夜空が一番強くねぇとダメなんだ……!! 負けるかよこのクソ野郎がぁぁぁっ!

 

 

「――ゼハハハハハハハハハ!! まだまだ死なねぇぞ! こんな、こんな楽しい楽しい殺し合いを終わらせるわけねぇだろうが!!」

 

 

 残っている鎧の部分に埋め込まれた宝玉から音声が鳴り、全身に影が集まってありとあらゆるダメージが無くなっていく。こうして普通に使ってるけどさ……生きていた相棒の恐ろしさはヤバいな! どれだけ攻撃しても、どれだけ殺しても、どれだけ戦っても復活するんだもんな……悪魔の中でもフェニックス家が一応同じような部類に入るが俺から言わせればあんなのは格下だ……! 相棒の恐ろしさは再生能力だけじゃない!! 異常なまでの精神力! 憧れるな……本当に!!

 

 

「今のでも死なないとは化け物だね。これで殴って笑いながら立ち上がった奴なんて数えるぐらいしかいないさ。誇っていい。そんじゃ、続きをしようか! 死なないでくれよ? まだまだこの熱さは引きそうにないんでね!」

 

「あったりまえだ……簡単に死ねたら最強の影龍王なんて名乗るわけねぇだろ! 悪いがこっちも使わせてもらうぞ……? 誇れよ、雑魚散らし以外には使わないって決めてたんだぜ?」

 

 

 魔法陣を展開してとある()を呼び出す。光の中から現れたのは綺麗な黒髪をした褐色肌の女……いきなり呼ばれたから驚いている――わけでもないらしい。むしろ逆だ……喜んでいる!

 

 

『――呼んダか? 我ラを! ツかうカ! ワれらヲ!!』

 

「おう……使ってやるから剣になれ。言っておくが相手が怖くて力を出せませんでしたとか言いやがったらマジで壊すからな……!」

 

『ソれはアりえぬ!! わレらはうれシいノダ! 我が王ガ我らをつカう! ようやク剣としテ使われルことに喜びヲカんじてイる! 見せヨう! 我らがちかラを! 我が名はグラム! 魔剣のテいおウなり!!』

 

 

 一瞬で剣の姿になったグラムを握ると歓喜の声を上げるように俺の体を呪ってくる。持っている手からムカデ、ミミズ、クモみたいな虫の類が体の中を這いずる感触が全身に広がっていく……嬉しくて嬉しくてもう泣きそうなんだろう。遠慮無しに「龍」である俺を呪ってくる! あぁ、気持ち悪いが心地良い呪いじゃねぇか……グラムとチョロイン四本が一つになった新しいグラム! 呪いの濃さなんて前以上で本当に最悪だ! でもそれが良い!!

 

 

「……魔剣かい。しかもグラムと言ったか? 人の姿になれるなんて聞いたこと無いけどねぇ」

 

「俺のチョロインは他とは違うんだよ。タイマンで使うなんて殆ど初めてだから死ぬなよ……鬼!」

 

「かっかっか! 面白い男さね! 良いよ、受けてやろう。来な、小僧!!」

 

 

 鬼が金棒を振り下ろすのと同時に俺もグラムを握り、大きく前方へと振り下ろす。衝撃破と呪いの波動が正面からぶつかり合うと周囲の光景が先ほど異常に吹き飛んでいく……まだまだテメェの力はこんなもんじゃねぇだろ? 呪いたかったら呪え! 嬉しかったらもっと嗤え!! 受け入れてやるしお前を俺の「剣」として使ってやる!! あるがままに、思うままに、グラムという剣を使ってやる!!

 

 互いにまっすぐ相手へと向かい、得物を振るう。鬼の力で振るわれた金棒はグラムとぶつかっても壊れる事も無く……逆に俺の両手が痺れる結果となった。何で出来てんだよこの金棒! 硬すぎじゃねぇか!!

 

 

「そんな棒きれ! へし折ってやるさね!」

 

「うちのチョロインはそう簡単に折れねぇんだよ! 逆にそっちの棒を斬ってやらぁ!」

 

 

 金棒、拳、蹴り、身軽な体を使いながら放ってくる攻撃を影人形とグラムで防ぎながら何度もぶつかり合う。拳が飛んで来たら影人形の拳で防ぎ、金棒が振るわれたらグラムで受け、蹴りが飛んで来たら体で受ける。骨が折れても即再生、倒れる事も死ぬことも無くただひたすら目の前の鬼と楽しく殺し合う!

 

 

「一発デカいのいくぜぇ! 影龍破ッ!」

 

 

 距離を取ってグラムの力を引き上げる。感激のあまりに泣いてるんじゃないかってぐらい尋常じゃないほどの呪いのオーラが刀身に纏わりつき、それを振り下ろして前方へと放つ。影龍が放つ波動だから影龍破……安直な技名だが無いよりはマシだろう!

 

 目の前の鬼は迫りくる波動に対してかっかっかと笑いながら金棒を握り、バッターのような構えをする。笑みを浮かべて金棒を横に振り、波動を野球ボールのようにおもいっきり弾き返した。マジかよ……野球やってるんじゃねぇんだぞ!?

 

 

「かぁ~! ヒットとはねぇ。ホームランにはならなかったか」

 

「……マジで馬鹿げてやがる。マジかよ」

 

「あたしは野球も好きでねぇ、偶に里の鬼共とやってるのさ。かっかっか! 今日まで全てホームランしか打てなかったけど初めて出来なかったよ。トンデモナイ威力さね」

 

 

 そりゃそうだろ……鬼の力でバットを振れば余裕で世界一周ホームランだろうが。弾き返された波動は別の方角へと向かい、地上の全てを抉り続けて消えていった。もうちょっと威力を高めた方が良いか……まだまだ使いこなせてねぇな。

 

 

「グラム、聞いてるな? 俺はお前を剣として使ってやる。だからお前も遠慮なんかいらねぇ……お前達という存在を俺に教えてこい。受け止めてやる。お前は俺の剣だ、魔剣の帝王なんて言う名前は捨てろ。今日からお前は覇王が使う剣――覇王剣グラムだ。分かったらさっさと力を吐き出しやがれ!!」

 

 

 グラムから異常なまでの呪いが放たれて俺の体を染めていく。怒り、悲しみ、妬み、苦しみ、嬉しい、楽しい、ありとあらゆる呪い(感情)が俺の中を巡っていく。胃の辺りから込み上げてくるものを吐き出すとそれは血だった……吐血とか久しぶりすぎて嬉しいわ! まだまだ教えろ! お前を! お前達を!!

 

 

「龍殺しの呪い、それを持つ魔剣を龍が使うとはね。呆れを通り越して逆に褒めたいぐらいさ。来な、打ち返してやるよ」

 

「……やってみろ! ゼハハハハハハハハハ!」

 

 

 高笑いしながらグラムを前方へと振るう。高まり続けた呪いのオーラは龍のような形となって目の前の鬼へと向かって行く。地面を削り、空間を削り、全てを切り刻みながら進んでいく。鬼も静かに息を整え、金棒を構えて――振る。打ち返すために俺が放った波動に近づいたせいで体中が切り刻まれていくが泣き声なんて出さずに妖力を放出する。獣のような声を上げ、鬼という力の全てを絞りだすように金棒を振るい、波動を俺へと向かって跳ね返した。

 

 

「……」

 

 

 敵へと放った波動は今では俺を殺すために向かってくる。そうか……ありがとうよ。打ち返してくれて!

 

 

「――あたしの金棒に亀裂が入るとはね。恐ろしい子供さね」

 

 

 声が聞こえる。でも聞こえにくい……視界も半分見えない……腕は動くが足の感触は無い……酷いありさまだろうな……呪いが俺を蝕んでいやがる……ゼハハハハハハハ! まだまだ、終わってねぇぞ鬼さんよぉ!!

 

 土煙の中で残る意識を振り絞り、影人形を生み出してグラムを鬼へと投げつける。当然そんな事をしても不意打ちにもならず金棒で弾かれるが俺の狙いは()()じゃない。

 

 

「アンタの力は分かった。でも終わりさね、あたしの勝ちだ」

 

 

 近づいてきた女はひび割れた金棒を振り下ろそうとしてくる――でもなぁ、忘れちゃったか? 俺様、不死身なんだぜ!!

 

 

『Undead!!』

 

「……っ! まさか!!」

 

 

 俺の視界に映るのは鬼の()()だ。なんでとかどうしてとか聞くなよ? 滅茶苦茶簡単だからさぁ!!

 

 

「――らぁっ!!」

 

 

 手に持ったグラムで鬼の片腕を切り落とし、そのまま周囲の空間ごと切り刻む。ようやく分かった……こいつは何でも切り刻む! 空間だろうが事象だろうが関係なくな! 互いに全身を呪いの刃で切り刻まれるが最後に立っているのは――不死身の俺だ!

 

 

「……鈍ったもんさね……あんな手に、引っかかるとは……」

 

「良かったよ……アンタが鈍った体で居てくれて……そうじゃなかったらヤバかった。ゼハハハハハ、死ね」

 

 

 呪いのオーラが刀身から放出されていないにも関わらず周囲の空間が切り刻まれていく。楽しかった! 物凄く楽しかった! 次もこうして殺し合いたいぐらいに楽しかった!! でも俺の邪魔をするならだれだろうと殺す。俺と夜空の決着を妨げる奴はたとえ魔王や神でさえ殺す!!!

 

 そのままグラムを瀕死様態の鬼に向かって振り下ろ――

 

 

「――お待ちください」

 

 

 ――す前に声が聞こえた。声の主は四季音妹の母親、そいつは宙に浮かんで観戦していた四季音姉妹以外の鬼達と共にその場に座り、頭を下げ始める。あの鬼が、力の塊とさえ言える鬼達が自分達よりも年下であろう俺に頭を下げている事態にはぁ? と思ってしまった。いやいや待て待て……そんな事をするような奴らじゃないだろ? むしろ逆に負けてやがるぜダラしねぇとか言わないとダメだろ! まぁ、でも……最初っからこのつもりだったんだろうから文句は言わないよ。なんせここまで全部茶番だしな。

 

 

「……芹」

 

「申し訳ありません。ですが寧音様を死なせるわけにはいきません。そのためならば鬼の誇りなど捨てましょう……全ては私がいけないのですから」

 

「母様。どうして。分からない。私は分からない」

 

 

 どうやら四季音妹はこの状況を理解できていないらしい。そりゃそうだ……分かってたら呆れるだろうしな。四季音姉は既に察してるらしいが言葉には出さないようだ……当然だな。

 

 

「……おい」

 

「……なんだい」

 

「満足かよ?」

 

「――そうさね。付き合ってもらって悪かったね」

 

 

 ()()を果たしたからか倒れている鬼は静かに笑みを浮かべ始めた。

 

 巻き込まれた俺の身にもなってほしいね……あの話し合いの場も、この殺し合いも全てはこの時のための芝居だからな。まさか誰も思わないだろう――ただ単に娘が心配だった親心で呼び出して殺し合ったなんてさ。本当に……鬼は自由過ぎて困る! 楽しかったけどね!




観覧ありがとうございました!

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