ハイスクールD×D~地双龍と混血悪魔~   作:木の人

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73話

「かっかっか! さぁさぁ! じゃんじゃん飲むよ!! 今日は大宴会さね!!」

 

 

 鬼の頭領、寧音の言葉が響き渡り、配下の鬼達は大喜びで雄たけびを上げる。先ほどまで殺し合いを行い、大怪我を負ったとは思えないほどの元気っぷりに呆れを通り越して尊敬の念すら出てきてる……鬼ってすげぇわ。そんな鬼の頭領を見てみると先ほどの戦いでボロボロになった服は既に脱いで模様が違う改造和服に着替えており、肌が露出している部分には包帯が巻かれているのが見える。左手にはかなりデカい(さかずき)を持って大喜びで酒を飲んでいるが……怪我人だよな? 少なくともグラムの斬撃を身に浴びた人物が見せて良い姿じゃない気がするぞ? まぁ、鬼だから頑丈なんだろうきっと! そんな事よりも酒を飲む寧音の姿で何よりも目に付くのは俺が切り落とした右腕だ……服の袖から本来あるはずの手が出ていない。大きく腕を振るうと肘から先が完全に無くなっているのが服の上からでも丸分かりだが隠そうともしないとは恐れ入るよ……自分よりも年下に腕を切り落とされたなんて恥も良いところだろうによ。

 

 

「ノワール、飲んでるかい?」

 

 

 部屋の片隅で鬼達から渡された(さかずき)に注がれた水を飲んでいると先ほどまで別の鬼達に囲まれていた四季音姉が近づいてきた。にししといつもの様に笑っているが先ほどまでは全くの別人だ……手当が終わった頭領、寧音の私室で今回の一件の全容を聞かされる前まではガチガチに緊張……いや違うな、娘だから血だらけになった母親を心配してたんだろう。でも流石に部屋に戻ってきた姿を見て呆れてたけどな! 誰だってそうだろう……酒瓶片手にかっかっか! と笑いながら入ってきたんだもんな! 流石の俺でもうわぁって思ったし!

 

 

「酒臭くてさっさと帰りたい。グラムと一緒に帰ればよかったぜ」

 

「にしし! 残念ながら今日は泊まり確定だよ。母様が決めたんだしね……諦めな」

 

「普段のお前らしくねぇな? いつもなら好きにしろとか言うだろ?」

 

「当然さ。此処じゃ私は「伊吹」だからね。座って良いかい?」

 

「勝手にしろ」

 

 

 慣れた動作で四季音姉は俺の膝の上に座った。今の服装は此処に来るまでに着ていたものではなく、母親と同じ改造和服だ。つまり下を向けば普通にちっぱいが見えます。素晴らしいですね!

 

 ちなみに今日は四季音姉が言った通り、此処に一泊することになっている。本当なら用済みになったグラムを送り返すときに一緒に帰ろうと思ったんだが鬼の頭領から良いから泊まって行けと言われたため仕方なく四季音姉妹の実家にお泊りだ! 既に水無瀬には「ごめん、頭領と殺し合いしたら気に入られたみたいで泊まっていくことになったわ」と連絡している……何故か驚かれることが無かったけどね! なんか声のトーン的に「デスヨネ」って感じだったから想像ぐらいはしていたんだろう。流石俺の僧侶! きっと今頃はノワール君が鬼と殺し合いしてましたと犬月達に報告してる事だろう……帰ったら何やってるんですかと怒られる気がする。主に橘とレイチェル辺りから。

 

 

「四季音妹は?」

 

「あそこさ。芹様と他の鬼達と仲良く飲んでるよ」

 

「……まさかあれだけの事で鬼達全員の意識が変わるとはなぁ。覚妖怪並みにちょろ過ぎないか?」

 

「それが鬼さ。強い奴なら大歓迎、それを連れてきた奴ならもっと大歓迎。妖怪だからね、単純なのさ。自慢じゃないけど母様は頭領になって芹様以外の奴から一度も怪我らしい怪我を負ってないんだ。あれだけ暴力と暴力がぶつかり合った殺し合いを見せられたら鬼としては感動ものだよ……ってどこ見てんのさ?」

 

「ちっぱい」

 

「……これだけ周りの目があるのによくやるよ。さ、流石に見るな恥ずかしい……二人きりなら良いけどさ……って揉もうとするな!!」

 

 

 盃を持っていない方の手を四季音姉のちっぱいに移動させると手を掴まれてガンッと床に押し付けられた。いやだってさ……和服ってこう、まさぐりたくなるじゃん? 現在進行形でそれがしたいだけだから素直に揉ませろ! 俺としては人妻おっぱいを揉みたいけどね! だって……エロいじゃん。なにあれ? 包帯が巻かれた太ももとかなんかエロイんですけど人妻だからか? うーん……素晴らしいね! でも出来れば夜空の太ももが見たい。てか普通に夜空のおっぱいを揉みたい。

 

 そんな風に思いながらこの宴会場で一番目立つ場所で酒を飲んでいる鬼の頭領を見ていると顎を掴まれた。そのまま強引に視界を下げられると若干目に光が宿ってない四季音姉が見える……ナニコレ怖い。マジでお前ってヤンデレ属性持ってたか? そんなのは平家と橘だけにしろっての。

 

 

「アンタ、私の母様をどんな目で見てるのさ……まさかあの冗談を本気にしてるわけじゃないよね……?」

 

「んなわけあるか。俺の童貞は夜空に奪ってもらわないとダメだから断る気満々だっての。だからそんな目をするなマジで怖い。ロリがヤンデレとか誰得だよ?」

 

 

 俺としては問題無いけどな!

 

 

「や、ヤンデレじゃないさ!! ただこれは……の、ノワールが母様に惚れたら、困るからだよ! うんそう! こ、この私がさおりんみたいに病む性格をしてるわけが無いだろう? にしし! ほ、ほら! ノワールが飲んでるのはただの水でしょ! だったらもっと飲む飲む!」

 

 

 この野郎……お茶とかなら兎も角、水で宴会の気分を味わえとか無理があるだろ。てかマジで酒臭い……右を見ても鬼が酒を飲んでるし左を見ても鬼が酒を飲んでる。むしろ酒以外飲んでいる奴なんて俺ぐらいだ。本当は俺だって酒を飲みたかったけど年齢的な意味でダメらしく水を与えられたけどさ、邪龍だぜ? 飲んでも良いんじゃないだろうかと思わなくもない! まぁ、即効で酔っ払って何をするか分かんないから飲まないけどさ。

 

 水を注ぎなおして一口、なんだかんだ言っても此処の水は美味い。東京の水がどれほど不味いかと分からせてくれるほど上質なものだ。こんな山奥だから湧き水かなんかがあるのかねぇ? てかそんな事よりも周りの鬼達がニヤニヤしてるのがムカつくのは俺だけか? あらあら奥さん、あの子達ったらイチャついてますよとか今日はお楽しみですねとか言いたそうな感じだ……殺してやろうか? 何が悲しくてこんな羞恥プレイを受けないとダメなんだよ! そもそも一番高笑いしている母親! お前の娘だろう!? 止めろよ! てか旦那さんどこに居るんだよ!? 貴方の娘さんが大観衆の前で大変な事になってますよ! あっ、でもこの言い方だと俺が悪い事になるな……やっぱり来ないでくださいお願いします!

 

 

「……なぁ」

 

「ん~なんだぁ~い?」

 

「……幸せそうだな」

 

「だねぇ」

 

 

 俺と四季音姉の視線の先には四季音妹とその母親が仲良く酒を飲んでいる。今回の一件は四季音妹――イバラを心配した母親、芹の気持ちを汲んだ頭領が起こした事に過ぎない。四季音妹は自分で考えるのが苦手な奴だ……そんな奴がいきなり悪魔になりましたと聞かされたら真っ先に騙されたとか思ってもおかしくは無い。四季音姉妹揃って里に帰ってきた時も茨木童子の名を継ぐ立場であり、酒呑童子に右腕として庇う事も話を聞く事も出来なかったらしい。当然だな……そんな事をすれば「鬼」としての立場が危うくなる。例外を許してしまえば色々と面倒毎に巻き込まれる恐れがある……まっ、鬼なら大抵の事は武力で解決出来そうだけどな。だから心配で心配で夜も眠れず、このままだと倒れかねないと判断した四季音姉の母親、寧音が一芝居を打つことにした――それが先の殺し合いだ。

 

 二人を眷属にした元凶である俺と二人を一緒にこの里まで呼び、配下の者達の前で俺の目的を話させて下種ならその場で殺して三大勢力と戦争という名目で捕虜として自分たちの手元に置く。もし違ったのであれば自分と戦って俺の力を他の鬼達に見せて納得させる……なんというか究極の二択って感じだ! 俺は楽しかったから文句は無いけどね!

 

 

「……上手く行ったもんだな」

 

 

 周りに聞こえないようにその結果がこれだ。寧音の思惑通りに周りの鬼達はすっかり「俺が相手だったなら負けても仕方がない」という感じの思考に至ったようで追放追放と言っていた奴らが一気に掌返しを行った。今では「よくあんな強い奴を連れてきてくれたな!」と二人を「鬼」の仲間として認識してるらしい……なんというチョロインっぷりなんだろうか! グラム並みにちょろいぞ!

 

 

「芹様はイバラを大切に思ってるからねぇ。だからこそ母様は動いた……周りに悟られないようにね。イバラは芹様にとってたった一人の娘、ノワールに騙されて悪魔にされたと思って今日まで大変だっただろうね」

 

「他人事のように言ってるがお前も元凶みたいなもんだろ?」

 

「うっ、それは……分かってるよ。ごめんね……庇ってもらっちゃってさ」

 

「別に気にしてねぇよ。でも悪いと思ってるんなら……あーなんだ、アイツ、大事にしてやれ」

 

「……にしし、それは言われなくても分かってるさ。イバラは私の妹だ、見捨てるわけがないさ」

 

 

 まるで当然だと言いたそうな表情で四季音姉は笑った。血が繋がってないのにあいつらは本当の姉妹の様に仲が良いから俺が言わなくても問題無いだろう……さてと、そろそろ()()に乗るかね。ついでに周りが酒臭くて新鮮な空気を吸いたいし。

 

 

「――で? 何の用だ?」

 

 

 四季音姉に酒の匂いで酔いそうだと言って宴会場から出てしばらく歩いた後、隠れている奴に向かって話しかける。あの場所から外に出た時から探偵の様に後をつけてきたしな……俺としてはこんな面倒な事はしたくなかったから普通に話しかけてくれても良かったんだけどね。でもあの人からすればあんなに人……いや鬼が居る場では話し難い事なんだろう。なんとなくそんな感じがするし。

 

 俺の言葉に答えるように物陰から姿を現したのは四季音妹の母親だ。時刻は既に夜、月明かりに照らされる金髪は見惚れそうになるほど綺麗なものだった……胸もデカいし四季音妹に似てるから将来的にはアイツもこんな感じになるんだろう。四季音姉……哀れに思えて泣きそうになってくるぞ? 妹に発育で負けるって姉としてどうなんだよ?

 

 

「お気づきでしたか」

 

「そりゃね。あんなに熱い視線を向けられたら気づかない男はいないですよ。男ってのは美人の視線には敏感なんでね」

 

「うふふ、これでも寧音と同じぐらい生きているんですが……男性に美人と言われると嬉しいですね。少し、お話をしても良いかしら?」

 

「良いですよ。そのためにこんな人外れた場所まで来たんですからね」

 

「ありがとうございます」

 

 

 二人揃ってデカい木の下に寄りかかるように座る。上を見上げると雲一つなく、周囲を照らす月が良く見える……確かに鬼達が宴会をしたがる理由も分かるかもしれない。此処まで綺麗に見えれば酒を飲みたくなってもおかしくないな……俺だって一杯やりたいぐらいだし。隣に座った四季音妹の母親――芹は何処から出したか分からないが徳利を取り出して盃に液体を注いで差し出してくる……それって酒じゃないですよね? とりあえず受け取って一度盃を見た後、芹を見るとただの水ですよと笑顔で言われた。可愛い。

 

 

「此処は月が良く見えますから一杯するのに最適です。飲みながらお話ししましょう」

 

「俺は水ですけどね。で? 話の内容は一応察してますけどなんで俺と話したかったんですか?」

 

「……謝罪をしたかったんです。私の我儘でこのような事に巻き込んでしまった貴方様に……ですから改めて言わせていただきます。本当にごめんなさい」

 

「……謝罪なら四季音姉……伊吹の母親の部屋で聞きましたからもう良いですよ。それにアンタの我儘のおかげであんな怪物と殺しあえたんだ。逆に俺が感謝したいな! まだ強くなれる……もっと上に向かえるって分かっただけで満足してるんだ。だから頭を上げてもらっても良いか? 全然気にしてないし母親ならとーぜんの事なんだしよ」

 

 

 母親ってのはどんな時だって自分の子供が大切……らしいからな。まぁ、俺の母さんが前に言ってたことだから違うかもしれねぇけども。というよりも俺みたいな好き勝手に生きてる邪龍の眷属になったらどう考えても心配するに決まってるから謝られる理由なんて全然無い。むしろ今の言葉通り、逆に感謝してるしな! 一応、鬼の頭領に勝利した……でも本気だったかと聞かれたら微妙だろう。俺も漆黒の鎧を使ってないし相手だって鈍った体だったんだ、もし仮に鍛錬を怠らずに俺と戦ってたら普通に漆黒の鎧を使ってたな! マジで化け物だわ……四季音姉が将来的にあんな感じになると思うと今からワクワクしてる!

 

 

「……くすっ」

 

「ん? 今の笑うところじゃねーぞ?」

 

「ごめんなさい。イバラの言った通りだったから……あの子と話して色々と教えてくれたわ。本気で戦っても勝てないぐらい強いとか伊吹と一緒に居させてくれてたとか……ノワール・キマリスさま、あの子……イバラの事をどう思いますか?」

 

 

 これはどう答えれば良いんだ? 異性としてか四季音妹という存在としてか……どっちでも良いか。

 

 

「どうって……将来はかなり強くなるだろーなーって思えるぐらい面白い奴? もし異性としてって言うなら童貞捨てたら抱きに行きたいぐらい美少女だな。もしアイツの生き方……というか性格的な意味だったんならどーでもいい。考えるのが苦手でもちゃんと生きてるしアイツの意思で四季音姉の傍に居るんだ、それに文句を言う権利は俺には無いしね。だから……まぁ、あれだな、アイツが毎日楽しく生きてるなら俺はそれで良い」

 

 

 四季音妹を眷属にしてから今日まで一緒に過ごしてたが俺から見ても楽しく生きてると思う。四季音姉と一緒に酒を飲んで、漫画を読んで、テレビを見て、風呂に入って、飯を食べて、特訓して……嫌な顔じゃなくて本気で楽しそうな顔をして過ごしている。そもそも考えるのが苦手ってだけで馬鹿にするわけがないんだよね! だって俺の周りを見てみろって話だ……規格外系美少女(夜空)不幸体質保険医(水無瀬)淫乱アイドル()チョロ甘覚妖怪(平家)パシリ(犬月)チョロイン魔剣(グラム)少女趣味な酒呑童子(四季音姉)という素晴らしい面々が居るんだぞ? その程度なんざ全然問題ねぇんだよ! 今考えてもなんだよこれ……エロゲ出せるぞ? 配役としては年上枠が水無瀬、同学年枠が橘、後輩枠が平家、親友枠が犬月、転校生枠がグラムでロリ枠が四季音姉だな! 夜空? あぁ、開始時から傍にいるのに全キャラ攻略しないとルートが発生しない隠しヒロイン枠だな! そしてトゥルーエンド決定だろうどう考えても!

 

 そんなどうでも良い事を考えていると隣に座る人妻は再び笑い出した。うーん、鬼の考える事は良く分からん。今の返答で笑う要素があったかねぇ?

 

 

「……本当にイバラの言った通りね。あの子も自分の事を気にしないでいるって言ってたから……母親としては嬉しいわ。他の鬼達は茨木童子として生まれたあの子が一人じゃ何もできないと分かって遠巻きに蔑んでたから……今回の一件での様子、寧音との戦い、先ほどの言葉でノワール・キマリスさま、貴方を信じたいと思います。今後もあの子をよろしくお願いします」

 

「まぁ、はい。てか別に会えなくわけじゃないんだしさ、会いたくなったら会いに来れば良いだろ? 今回だって俺はアンタ達の頭領の腕を切り落としたんだ。それらしい理由で俺達の前にやってきても誰も文句は言わないさ。それに……俺はアンタとも戦ってみたいしね」

 

「あらそうなの? でも私は寧音のように強くは無いからがっかりさせちゃうかもね。でも……そうね、機会があれば私とも戦ってほしいわ。寧音があんなに楽しそうに戦ってるのを見たら私も体が熱くなっちゃったもの」

 

 

 なんで人妻ってのはこんなにエロい感じに言うんだろうね! てか実際問題……この人は強いな。あの頭領にまともなダメージを与えたのもあのデカい金棒を最後に使ったのもこの人……弱いわけがない!

 

 

「だったら今ここで殺ります? 俺は別に良いですよ?」

 

「ダメよ。今は宴会中……それに此処で私まで戦ったら寧音に怒られるわ。自分だって楽しんでたくせに我慢も出来ないのかいってね。今日までずっと鬼達の頭領として生きてきたから正面からぶつかってくる男は久しぶりだったと思うから本当に楽しかったと思うわ。狙われたわね、油断してると襲われちゃうから気を付けてね」

 

「いやいや……旦那が居るのにそんなことするわけないだろ? てか酔ってます?」

 

「鬼は酔わないのよ。それにね、寧音の旦那はもういないわ」

 

 

 おっとここで衝撃な真実が登場したぞ……あの、それって俺が聞いて良い話か? 四季音姉も何も言ってなかった……いやあの態度はそういう事かよ。旦那が居ないから若い俺に迫っても特に問題無いと思い、焦ってたってわけね……先に言えよ!? うわー帰りてー! 肉食系元人妻と同じ家に泊まるとかちょっと遠慮したい……! 夜空! 頼むから俺の童貞をさっさと奪え! それなら特に問題無いから!!

 

 内心で地味に焦りつつ話を聞くと三大勢力が戦争を行って時に乱入してきた二天龍の強さを目の当たりにして狂ったように戦う事を主張していた四季音姉の旦那と崩壊寸前まで追い込まれた三大勢力を見て種の存続に関わると判断した四季音姉の母親が対立、どちらが「鬼」としての判断か決めるために殺し合いをして――四季音姉の母親が旦那を殺したそうだ。なんというか……鬼の世界ってすげぇな。

 

 

「元々寧音の旦那は鬼こそ世界を支配するのが相応しいと主張していたから二天龍と戦うというよりも疲弊した三大勢力を潰す事だけを考えてたんだと思うわ。それに気づいていたからこそ寧音は「鬼」の在り方を変えないために自分の旦那をその手で殺した……周りの鬼達も彼より寧音の言い分に賛成してたから旦那を殺したとしても頭領になれた。あの時ほど寧音が泣いた事は無いわ。今は……もうふっきれたみたいだけどね」

 

「……まぁ、分からないなら殺してでも止めないと勢力がヤバくなりますからね。仮に参戦していたら今頃三大勢力と小競り合い、無関係な連中が死んでいったでしょうし。他人事なんでこれぐらいしか言えませんけどね……ちなみにアンタの方はどうなんだよ? まさか同じように居ないって言わないよな?」

 

「その通りよ。イバラを産んで、それにがっかりして出ていったわ……なんで距離を取るの? 食べたりしないから安心して」

 

「一応信じるが寝込みを襲ってきたら問答無用で殺すからな……まだ童貞なんだよ。惚れてる女とエッチしてからならいつでもウェルカムだが今はマジで勘弁してください」

 

「寧音なら関係ないと言って襲いに行きそうね」

 

「やめてくれ……これほど明日が早く来いって思った事は無いんだから。まぁ、とりあえず話を戻すがアンタの娘は任せろ……とは言わないが好き勝手にさせるさ。なんせ俺は最低最悪で、自分勝手で、自己中で、自己満足の塊で、他人の事なんか微塵も考えていない邪龍ですから。ゼハハハハ! たかがあの程度、受け入れずに何が影龍王だって話だから心配するなとは言わない、ただアイツを信じてろ。俺は信じるなよ? 普通に何事も無く殺すような男だしな」

 

 

 盃に注がれた水を一気に飲んで月を見る。うん、綺麗だな。本当に……今度は夜空と一緒にこんな風に飲みたいもんだ。

 

 

 

 

 

 

「――よし」

 

 

 とある部屋の前で私は覚悟を決めた。イバラと一緒に風呂に入った際には念入りに何度も体を洗ったし歯も磨いたから大丈夫……きっと大丈夫だろう。何も分かってなさそうなイバラからは不思議に思われたけど私としては一世一代に近い覚悟と準備だと思う……そもそも母様のせいなんだよ! 部屋が無いからお前たちは一緒の部屋ねって馬鹿じゃないのかな? 普通に有り余ってるじゃないか! まさか実の母からヤれというお達しに近い事を言われるとは思わなかったよ。

 

 近くにイバラはいない。今日は芹様と親子仲良く一緒に寝るようだから当然と言えば当然だ。私としても母様と一緒の部屋の方が物凄くありがたかったけどね。でも……ノワールの所に夜這いしに行くかもしれないからこれはこれで有り……だと思う。私的にはかなり恥ずかしいけども。いくらノワール相手にか、体を押し付けたりろりぼでぇとか言ったりしてもまだ、まだ処女なんだから恥ずかしいに決まってる! 大丈夫……ノワールの事だ、特に何事も無く爆睡するだろうから少しだけ気が楽だね。ムカつくけど。

 

 

「そもそも母様が変な事を言うからこんなに緊張してるんだよ……! そもそもなんでこんなものも渡してくるのさ……!」

 

 

 手に握られているのは先ほど母様から渡されたお香。特になんてことはないデザインだがその匂いを嗅げば一気に発情するというトンデモない代物だ。その効力は効果絶大、里の中にあるその手の店で頻繁に使われている由緒正しき鬼が作ったお香……たとえドラゴンであってもや、ヤりたくなるみたい。渡されたは良いけど絶対に使うもんか! そ、そういうのはもっとこう、ムードというか雰囲気というか……ノワールが自分の意思で襲ってきてくれないとダメだろう……? でもさおりんなら問答無用で使うね! あの子は肉食系覚妖怪だからさ! でも……ノワールの初めての相手が私なら、ちょっと……ううん、かなり嬉しいからい、一回だけ使ってみても……何を思ってるんだい私は!!

 

 変な思考に走りそうな自分の頭を覚ますために一度、息を整える。覚悟完了だよ! いざ! 部屋の中へ!

 

 

「の、ノワール、ま、待たせたね」

 

 

 よし普通に言えた……! なんだってこの私がこんなセリフを言うだけで緊張しないといけないのさ!

 

 

「ん? 別に待っちゃいねぇけどな。てか此処、マジで景色良いな? 次来る時は夜空でも誘ってみるか」

 

 

 この男……全然視線をこっちに向けてこないんだけどなんで? ふ、普段と違って浴衣を着てるというのにその感想すら言わないとはね……! コイツと過ごしてて嫌というほど理解してるけどそれはそれ、これはこれだ。偶には光龍妃に向ける感情を私に向けてくれても良いだろう……! こっちは部屋の中に入るだけで緊張で吐きそうになったって言うのにさ……!!

 

 部屋の中を見渡してみると外の光景を一望出来る窓と柵、一つしかない布団、テーブル、そして私と同じ様に浴衣姿のノワール。普段あまり見ない格好だから同にも目が離せなくなるね。テーブルに肘をついて空を見ている姿は……うん、カッコいい。特に首筋が……あそこをさおりんが何度も舐めてるとか羨ましいね。あと母様……なんで布団が一つしかないんですか? ヤれと言う事ですか? 親って普通は娘の初体験とか一番気にしてくれんじゃないのかな……? というよりも本当にこっちを見ないからそろそろ私の本気を見せようじゃないか……! 少女趣味少女趣味と小ばかにしてきた態度も今日で終わりだよ……! にしし!

 

 

「今日は月が綺麗だからね、夜の空を一望できるこの部屋は私も好きなんだよ。そ、そうだノワール……母様からい、良い匂いがするって言われてお、おおお香を貰ったんだよ! た、試しに使ってみても良いかい?」

 

「媚薬とかじゃねぇなら使って良いぞ」

 

 

 ノワールの一言で私はお香を手に固まってしまった。な、ななな!? なんで……なんで分かったんだい!? 普通ならどんな匂いなんだとか言うはずなのにピンポイントで媚薬と言ったよこの男! チラリとノワールの顔を見る。ニヤついている。自分の顔がドンドン赤くなるのが余裕で分かるね……は、恥ずかしい……! これから一晩一緒に居る女が、そんなものを持ってるとかさ! お、襲ってくださいって宣言しているようなものじゃないか!! いやぁ……かえるぅ……! おへやにかえるぅ!! いばらぁ!!

 

 

「な、ち、が、な、な!?」

 

「やっぱりそれだったか。お前の母さんが一緒の部屋だって言った時からなんとなくヤれって言ってるよなとは思ってたがマジかぁ……てかなんで使おうとしてんだよ? 襲ってほしいのか?」

 

「ち、がっ! こ、れぇ! 違うかんね!!! な、なんで襲ってほしいとか言わないといけないのさ!! べ、別に……そんなんじゃ、ないからね! む、むむむしろ襲ってきたらつ、潰すから覚悟しなよ!!」

 

「おーこわいこわいーそうですよねー少女趣味な鬼さんはそんな事してほしいわけないよねー」

 

 

 清々しいほどの棒読みが本当にムカつく……! 昔からそうなんだよこの男は! 私の気持ちも、めぐみんの気持ちも、さおりんの気持ちも、しほりんの気持ちも分かった上でスルーしてるんだ……光龍妃が好きだから気づかないようにしてる。なんでさ……私じゃないんだろうね。最初に会ったのが私だったなら今頃は恋人同士になれたかもしれないのに……違うね、無理だ。昔から考えて悩んでこうだったらいいと何度も思っても光龍妃とノワールは惹かれ合うって結論に至る。男と女、光と影、対となる存在だからこそ惹かれ合ってしまう……これが男同士なら今の二天龍のような関係になるだろうけど二人は男と女……結婚して子供を産んで幸せな家庭を築くだろう。どう考えても二人揃って色んな所に喧嘩を売りに行くのが予想出来るけどね。

 

 だから私は「嘘」をつく。本当は好きなのに違うって、ただの冗談だって、へらへらと笑って誤魔化す。辛いね……叶わない恋ってさ。

 

 そして時間は過ぎていき、私もノワールも布団に入る。悪魔だから夜はむしろ活動時間なんだけどなんというか起きている理由が無い。というよりも色々と恥ずかしいから早く眠って朝になってほしいというのが本音だ。一緒の布団で惚れている男と寝ているとかドキドキするに決まっている! 何度も漫画で見たシーンをこうして自分が行うとは思わなかったよ! 結構前にもした気がするけどあれはノワールが疲れて早々に寝てたから特に恥ずかしいとは思わなかったから別! むしろ……匂いとかを嗅げたし役得だった。

 

 

「……なぁ」

 

 

 ビクッと体が震えた。まさか話しかけられるとは思わなかったからだ。な、何を言われるのか全然思い当たらない……! あくまで普通に……普通に対応しよう!

 

 

「なんだい?」

 

「……お前の母親、強いな」

 

「……当然だろう。母様は鬼の頭領だ、弱かったらあそこまで慕われたりはしないよ」

 

「だよな……なぁ、四季音。あの戦いはお前から見て……俺の勝ちか?」

 

 

 声のトーン的にかなり気にしてるね。本当にノワールらしい……鬼は「嘘」は嫌い。だから正直に言おうじゃないか。

 

 

「――負けだね。ノワールの負けだよ」

 

「……」

 

「でもね、母様の負けでもある。ノワールは本気を出されずに母様に勝って、母様は十数年しか生きてない男に片腕を切り落とされた。だからどっちも勝って、どっちも負けたのさ。ノワール……もっと強くなりな。私の王様だろう? 弱いままなら私が光龍妃を倒しちゃうよ?」

 

「……お前、励ますの滅茶苦茶下手だな」

 

「んなっ!? い、いきなり何言うのさ! 下手って何!? 私は正直に言った――」

 

 

 ガバッと隣で横になっていたノワールが覆い被さってきた。私の顔の横にはノワールの手があるから逃げる事が出来ず、両足の間にノワールの足があるからさらに逃げられない。真っすぐ天井を見ようとすればノワールの顔があって……え? え? 夢……? 夢……なのかな? なんで私、押し倒されてるの?

 

 

「な、ななな、なに、なにを……!」

 

 

 ダメだ、思考が追い付かない。いつの間にか私は眠りについて願望を夢として見てたりしてるの!? でも胸がドキドキしてるし夢じゃない気がする……と思っていたら目の前にあるノワールの顔がドンドン近づいてくる。まさか……き、キスされ、る? 嘘だろう……? あのノワールが私にキスしようと顔を近づけてくる? と、とりあえず今の私に出来るのは突き飛ばさないように受け入れる体勢を維持するだけ……めぐみんとさおりんと一緒に見たえ、えっちぃ本にはそんな感じに書いていた気がする……!

 

 

「――ぷ、あはははは」

 

「……へ?」

 

「ホントお前、普段とは全然違うな? マジで焦って目をつぶるとか乙女すぎるだろ」

 

 

 よし殺そう。こんな冗談をされたら殺しても許されるはずだ。

 

 

「ノワール、覚悟はできてるよね?」

 

「待て待て……最後までさせろっての。まぁ、嫌なら殴っても良いけどさ」

 

 

 そのままノワールは私の顔――ではなく首筋に顔を近づけてキスをしてきた。ひ、ぅ、舐められてる……!? 吸われて、る……!? 痕をつけたいからか何度も私の首筋にキスをしてくる……待って待って待って!? 何が起きてるのさ!? なんでノワールが私に……き、キスマークをつけようとしてるの!? そもそもなんでこんなに気持ちいいのさ……! さおりん、毎回こんなのを経験してるとか凄いと思う!

 

 痕をつけ終わったのかノワールはそのまま私の隣で横になる。この男……! あんなことをしておいてその先には進まないとかどんな理性をしてるんだい……! ネットとか本では男の理性は本能に勝てないとか書いてるのにこの男は……!! 文句を言いたいけどキスマークを付けられるのは嬉しい。だからノワールの浴衣を掴んで睨むしか出来ない。絶対に今の私って顔赤いよね? むしろ赤くなかったらおかしい。

 

 

「……いきなり、なにするのさ」

 

「……まぁ、可愛いなって思ったからつい、な。自分でもまさかここまでチョロイとは思わなかったわ……ホント、お前が眷属で良かったよ。お前の言う通りだ……勝ったけど負けた。まだ全然弱い……楽しかったのは事実だ、あんな茶番に巻き込まれてイライラしてたけど全部吹き飛ばすぐらいに楽しかった。でも漆黒の鎧に目覚めても俺はまだ弱い……夜空に近づいたと思っても全然届いてない。鈍った体じゃなくてホントの本気で戦いたかった……ムカつく。あの程度で満足したとか思っちまう俺の頭のバカさ加減に飽き飽きする。次は絶対に本気出させた上で勝つ……四季音、どうせ平家にはバレるが弱音を吐いた事、黙っておけよ? さっきのは口止め料ってことで受け取っておけ」

 

「キスマークが口止め料って聞いた事ないよ。でも……受け取っちゃう私もチョロイ鬼さんだね。ノワール、母様は強いよ。これからもっと強くなる……だけど勝ちな。勝って、強くなって、楽しかったって高笑いしな。私に勝った男ならそれぐらいはしてもらわないと困るよ」

 

 

 そのままノワールに抱き着いて鎖骨の辺りにキスをする。舌で舐めて、匂いを嗅いで、痕が残るように吸って……恐らく一番至福の時間じゃないかと思えるぐらい念入りに行う。ごめんね光龍妃……普段からノワールと良い雰囲気になってるんだからこれぐらいは許してもらうよ。というよりも私は鬼だからね、欲しくなったらこうして奪いに行く女だから油断してると私が奪っちゃうよ。

 

 

「……帰ったらさおりんにどんな顔されるかねぇ」

 

 

 でも偶には私だって強気になることも有るって分からせるチャンスかもね。ただ、今は……このチャンスを楽しむとしようか! 恥ずかしいけどね……!




観覧ありがとうございました!

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