ハイスクールD×D~地双龍と混血悪魔~   作:木の人

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74話

 その日の朝は鬼の叫び声と突き飛ばされる痛みから始まった。

 

 

「……朝っぱらからうるせぇな、いきなり何叫びだしてんだよ……?」

 

「う、うううううるさい! の、ののノワールこそ私にな、なにっうぉ! してるのさぁ!?」

 

「何って……抱き枕代わり? 体格的にもかなりちょうど良かったしな。で? それが何か問題あるか?」

 

 

 折角良い夢を見てた……ような気がするのに寝てる奴をいきなり突き飛ばすなっての。見た感じ、どうやら目が覚めると自分が抱き枕のようにされているのを知ってビックリしたらしいな。その程度で取り乱すとか本当に乙女だなコイツ……平家だったら逆にすりすりとマーキングしてくるってのによ。ちなみに抱き心地良し! ぬくもり良し! ちょうど良い温度で俺的には毎日抱きしめて寝たいぐらいのものだったから今後もお願いしたいね! 平家相手でも良いんだがどうもなぁ……やっぱり抱き枕代わりにするならロリだね!

 

 

「あああるに決まってるでしょ!? き、昨日の夜は……その、色々と変だったからでし、仕方なかったというか役得というか……で、でもだ、きぃ枕代わりにして良いとは誰も言ってないんだよ!! て、ていうか……ううぅぅあああぁあっ! 恥ずかしい……!! 昨日の私は何してるのさぁ……!」

 

 

 一緒の布団で寝ていた少女趣味で処女な鬼は掛け布団に包まり、昨日の夜に自分が行った行為を思い出しては女が出してはいけない声を上げている。てか恥ずかしがるなら最初から俺の真似をするなよ? 俺はお前が可愛いと思ったからやっただけなんだからさ! 周りに鏡が無いがきっとかなりのキスマークが首や鎖骨付近に残ってるだろうな……だってずっと舌で舐めたり吸ったり匂いを嗅いでたしね。橘もそうだがなんで男の匂いを嗅ぎたがるんだ? 自分の体臭はよく分からんが普通は嗅ぎたいとは思わないとはずなんだけどなぁ? まぁ、とりあえず目の前で結構面白い事が起きてるから俺が眠ったらどうなるんだろうという好奇心で神器の奥底に意識を落として相棒と一緒に眺めてたけど色々と凄かった! あの乙女な四季音姉が完全に発情しきった顔になって狸寝入り中の俺の指を使ってオナニーし始めたからな! 流石鬼……男が隣で寝ているのに度胸あるね!

 

 

「ノワールの首とか鎖骨とかに……き、キス、して……舌で舐めて……! なんで、なんであんなことをしたんだろう……!! ううぅぅっ! 恥ずかしい……!! なにしてるんだろぉ……!」

 

「そりゃ、俺の指使ってオナニーしてたら恥ずかしいわな」

 

 

 先ほどまで唸り続けていた布団(四季音姉)が嘘のように一気に静かになった。心なしかガクガクブルブルと震えているような気がしないでもないが大丈夫か? そしてひょっこりと俺の顔を覗くように四季音姉の顔が布団から出てきたがその表情は完全に引きつっている……あっ、黙ってた方が良かったパターンか?

 

 

「……おき、てた、の」

 

「起きてたというより神器の奥底に意識を落として相棒と一緒に見物してた。お前、寝てる俺を道具代わりに使うんじゃねぇっての……ん? どうした?」

 

「――ころせぇぇぇっ! ころしてぇぇっ!! やだぁぁぁっ!! のわーるのばかぁぁぁっ!」

 

 

 再び掛け布団に包まって叫び始めた。いやいや……殺せって言われてもお前に死なれたら俺が困るからなんとしてでも生きててほしいんだけど? というよりもその程度なら既に平家が先にやってるから恥ずかしがる事なんてないぞ! なんせエッチ以外の事ならアイツが真っ先に行ってるからな! 指舐めから始まってノワール君のノワール君を握って上下運動させたりとかな! お陰で何度お世話になった事か……覚妖怪だから俺の弱点は丸分かりでかなり上手い。マジで処女かと思いたくなるぐらいな! まっ、流石にそれ以上はさせてないけどあいつ(平家)は不服そうなのがマジで怖い! 流石ノワール君依存率ナンバーワンの覚妖怪だ、性的な意味での肉食なら鬼以上とか頭おかしい。

 

 

「なんでそんな事が出来るのさ!? なんで何事も無く起きてるのさ!? 死ぬ……死んでやるぅ……こんな辱めを受けるぐらいなら死んでやるぅ……! 処女のまま死んでやるぅ……!!」

 

 

 そんな事は知らない鬼さんは布団の妖精となって泣き喚いている。うーん、一度、俺と平家とコイツの三人で一緒に寝てみるか? そうしたら普段アイツがどんな事をしてるか見せてもいいかもしれない……ダメだ……あまりの過激さに気絶する未来しか見えない。どこまで繊細なんだお前は! 普段の行動を思い返してみろ!

 

 

「お前に死なれたら俺が困るからそのまま生きててくれ。てかその程度なら平家が何度もしてるぞ? それも口では言えない事とかな。だから恥ずかしがる必要なんてないしお前にしてはかなり攻めてきたなって相棒と一緒に喜んでたんだからさ! がんばれがんばれ、百年ぐらい経てばお前の思いに応えるかもしれねぇからさ。少なくともそれまでは生きてろって」

 

「……このおんなたらしぃ」

 

「人聞きの悪い事を言うなっての……少なくとも昨日の夜にキスマークだけつけて手を出さなかった俺の理性を誉めろ。ヤるだけしか考えてない奴らよりはよっぽど良い男だぞ? 俺様、邪龍の中でも紳士と呼ばれるほど素晴らしい男だと思うから誉めてくれ」

 

「変態紳士の間違いじゃないのかい……! そ、それよりもき、き、着替えるから早く出ていけぇ!! 顔とか洗いたいなら洗面所は出てすぐの所にあるから!!」

 

 

 顔真っ赤の四季音姉に部屋から追い出されたので仕方なく洗面所へと向かう事にした。というよりも出てすぐの場所ってどこだよ……キマリス領にある実家まではいかないがこの屋敷も結構デカいからどこに何があるのかさっぱり分からねぇんだけど? 良いや、家政婦さんに聞けば分かるだろ。

 

 そこから少しだけ迷った末に見つけた家政婦さんに案内してもらい、無事に洗面所に到着した。良い鬼さんで良かったぁ! そこで顔を洗って歯を磨き、うわぁ、マジで大量にキスマーク残ってると絶句しつつ再び部屋へと戻ると現代風の服装に着替えた四季音姉が部屋の片隅で体育座りしながら唸っていた。俺と視線が合うと一気に顔が真っ赤になり、そのまま下を向いて顔を隠し始める……可愛い。普段から可愛い所もあるなとは思ってが今日は一段と可愛いな!

 

 

「なんだいなんだい? あたしの娘のくせに男に抱かれてもいないってか。情けないねぇ、アンタも鬼なら食べに行く度胸ぐらい見せな」

 

「うるさい! 元は……! 元はと言えば母様がノワールと一緒の部屋なんかにするからぁ!! 恥ずかしかったんだからね!!」

 

 

 時間は進んで俺は四季音姉妹と母親コンビと一緒に朝飯を食べている。目の前では鬼の頭領(寧音)次期頭領(四季音姉)が口喧嘩もどきを繰り広げている。「たかがキスマークで満足してるんじゃないよ」とか「これでも処女なんだから緊張して悪いかー!」とか時間帯に相応しくない内容だけど俺的には面白いからドンドン喧嘩してほしい!

 

 ちなみに席順は四季音姉、俺、四季音妹、向かい合う様に寧音、芹だ。出された食事も和食で魚は絶妙な焼き加減、白米は美味い、味噌汁も最高、大根おろしうめぇとかたくあん美味いとかもう……最高な朝食と言えるだろう。でも何か足りねぇんだよなぁ……? 水無瀬が作る飯で慣れてるからかねぇ。ちなみに隣ではもぐもぐと静かにご飯を食べている四季音妹がいるが……可愛い。ただひたすらご飯を食べてるだけなのになんか可愛い。これが癒し系……なのか?

 

 

「ほれみな、襲う度胸が無いからアンタを見ずに芹の娘に目を向けてるよ。ただでさえ色々と小さいんだからもうちょっと強気で行きな。あたしが旦那を落とした時なんてアンタに渡した香を使って強引に既成事実を作ったもんさ。なんで使わないかねぇ? その年で処女は恥ずかしいからさっさと捨てな」

 

「んなっ!? ま、まだ若いんだから処女でも良いじゃないか!! わ、私は母様みたいにび、ビッチじゃないし! にしし! 私は私なりに色々と……考えて、うん考えてるんだ! そ、それに……道具を使って、その、襲われるよりも雰囲気で来られた方が私は……嬉しいし! あと処女を簡単に捨てるより大事にしてた方が……お、男は嬉しい、と思うしさ!!」

 

「重いだけさね。それにね、あたしのどこがビッチだってぇ? こう見えても経験人数が一人の純情乙女さ。でもそうだねぇ? 近くに若くて良い男がいるからそろそろ増やしても良いかもしれないね」

 

「ノワールを誘惑するなぁ!! 年を考えろぉ!!」

 

 

 かっかっかと笑いながら俺を見る目が肉食動物のそれだったのは気のせいだろうか? マジでこの人妻何なんだよ……! これ、気を抜いたらマジで食われるんじゃないだろうか。

 

 

「伊吹、楽しそう。寧音様、もっと楽しそう。二人が仲が良い。凄く嬉しい。主様凄い。伊吹の姿、今までで見た事ない。楽しそうで嬉しそう」

 

「まぁ、確かに楽しそうだな。此処に来る前まではガチガチで緊張してたのに今では騒ぎっぱなしで喧しい。お前は相変わらず変わらなくて安心するよ」

 

「安心する。分からない。私は私。いつも通りでいるだけ。主様がいつも言っている。やりたいようにやる。だから私は変わらない。これが私だから」

 

「そうかい。だったらそのまま貫き通せ。誰も文句は言わねぇし、何か言ってくる奴らが居たなら逆に馬鹿にしてやれ。なんでお前は出来ないんだってな。好き勝手に生きて、好き勝手に何かやるなんざ鬼のお前が一番分かってるはずだ……俺は何も言わねぇから好きに生きろ。てかご飯粒ついてるぞ?」

 

「ご飯美味しい。でも先生が作るご飯も美味しい。ご飯は大事」

 

「もうっ、朝ごはんは逃げないから落ち着いて食べなさい。貴方様もおかわりはいかがですか?」

 

「んじゃ貰います。昨日は激しかったんで腹減りまくりだしね」

 

 

 何故か距離が近い四季音妹の母親の色気にドキドキしつつ朝飯を食べる。うーん、鬼ってマジで肉食だなおい……なんか隣で「イバラ、若いお父さんはどう思う」とか聞いてるのはスルーしておこう。此処で反応したらちょっと拙い気がする! 具体的に言うとヤンデレモードの四季音姉が普通に怖い。あれぇ……? 少女趣味な鬼さんはどこに行ったんだろうなー!

 

 

「小僧」

 

「あん?」

 

「先に伝えておくよ。あたしら「鬼」は蝙蝠達と同盟を組むことにした。これからは友好的な関係が築かれるってわけだね、なにせ今代は面白い奴が多いみたいじゃないか。乳龍帝ってのと獅子王ってのはアンタと同じくらい強いんだろう? だったらなおさら組まない手は無いさね」

 

「……随分簡単に決めるんだな? 今までは同盟なんて組まなかったってのによ」

 

「そりゃそうさ。奴らはあたしらと勝負をしてない。ただ同盟を組めとの一点張りさ、そんなのを受け入れるわけが無いだろう? 嘘が得意の蝙蝠に騙すのが得意の偽善者と烏。下手をするとあたしら鬼が良いように使われる恐れがあった……がアンタとの勝負であたしは負けたんだ。今までの考えを変える一手としては十分すぎる。かっかっか! これからはあたしらみたいな年寄りよりも若いのが作る時代さね。そのためなら同盟の一つや二つ、土台作りにしてやろうじゃないか」

 

 

 なんというか……大物過ぎるだろ。権力に執着したり魔王のくせに自分の妹を贔屓しているどこかの勢力にも見習ってほしいね!

 

 

「母様……本音は何なんだい?」

 

「強いのが居るなら戦ってみたいだけさ」

 

 

 台無しだよ!! その気持ちは分かるけども!!

 

 それから和気藹々と楽しい食事を楽しんだ俺達は里の外へ出る門の前まで移動する。この後、寧音と芹の二人は配下の鬼数名を連れて冥界へと向かうらしい。そもそもたった一晩でどうやって会談の話を進めたのか非常に興味があるんだが……? 鬼らしくアポなしの訪問とかかねぇ?

 

 

「迷惑かけたね、影龍の。あたしのバカ娘をよろしく頼むよ。そして今度来る時はガキの一人でも連れてきな。大宴会を開いてもてなしてやるさね」

 

「母様!? い、いいいったい何を言ってるのさ!」

 

「なに言ってんだいバカ娘。アンタは次期頭領だろう? 男と自分のガキを連れて来いって言ってるんだよ。ちょうどそこに良い男もいるしねぇ、必ず落としな。というよりも一発ヤれ。あたしの娘ならそれぐらいは簡単にしてもらわないと困るんだよ」

 

 

 その本人の目の前で必ず落とせとかヤれとか大胆すぎませんか?

 

 

「イバラ、貴方も頑張ってね。困った時はお母さんに相談しに来ても良いから……一人じゃ無理ならその時は親子で頑張りましょう」

 

 

 ゴメンナサイ、何を頑張るんですかねぇ?

 

 

「母様。楽しそう。寧音様も楽しそう。分かった。頑張る。何を頑張るか分からない。でも頑張る」

 

「頑張らなくていいよ! ほら帰るよノワール! イバラ!!」

 

「引っ張るなっての……えっと、世話になった。今度来るときはキマリス領の名産品でも持ってくる。そして頭領! 次はもっと楽しく殺し合おうぜ!!」

 

 

 そんなこんなで四季音姉に引っ張られて鬼の里から自宅へと帰る。帰り道も四季音姉が「全く母様も芹様も……年を考えた方が良いよ!」とか激おこ状態で地味に面白かったが対照的に四季音妹は「何を頑張るんだろう。分からない」と必死に考えている姿が地味に癒された。この子……デキル!

 

 そして転移で自宅へと戻ると平家達が出迎えてきた。うん、なんかこれだな! なんだかんだで此処が一番落ち着くわ。肉食系の獣しかいない檻の中から抜け出せたぐらいの安心感だ!

 

 

「お帰りっす王様! 水無せんせーから鬼と殺し合ったって聞いて冷や冷やしてましたけど……なんか無事そうっすね?」

 

「いや無事じゃねぇぞ? なんか……人妻にロックオンされた」

 

「……どういう事っすか?」

 

「さぁな。エロエロで肉食系な人妻に気に入られてヤバかった。でも鬼との殺し合いは楽しかったぜ? あそこまで強いとは思わなかったわ! 流石鬼の頭領、暴力ってのはあんなのを言うんだって実感したよ。水無瀬、お茶くれ」

 

「分かりました。ノワール君、今度からはもっと落ち着いて話し合いをしてください。即殺し合いは色々とダメです。ノワール君らしいとはいえ一度は話し合いをしてください……あと、狙われたという話と首筋の痕の件も詳しくお願いします」

 

 

 なんだろう……水無瀬の笑顔が怖い。あれぇ? 此処って俺の家だよな? 別空間に作られた偽物とかじゃないよな! 別に気になってはいませんが保護者代わりとして知っておかないといけませんからとかもっともらしい理由付けてかなり気になってるじゃねぇか!! まさかの水無瀬ヤンデレモードか? ありだね! てかそれ以外もなんか怖い……特に橘様! その笑顔、素敵ですね! 目に光が宿ってませんけども新しい笑顔か何かですか? 流石アイドル! ヤンデレ風の笑顔とか流行を先取りしすぎですよ!! 見ろよ犬月の表情を!? ガクガクブルブルと自分の顔を手で隠してるんだぞ! 本当に怖いんで落ち着いてください何でもしますから!

 

 

「花恋」

 

「んぅ~ん? なぁんだぁ~い?」

 

「ずるい」

 

「な、なにがぁ~? も、もしかしてぇ~いっしょぉにぃおとまりぃしたことかぁい?」

 

「……」

 

「……にししぃ~へんなさおりぃ~んだねぇ~!」

 

 

 あそこはあそこで女の戦いが繰り広げられてる気がするがスルーしておこう。どうせ私の時は言われたからつけたのに四季音姉には自分からするんだ……とか思ってんだろう。うわ、頷いたよあの子。それに関しては可愛すぎて我慢できませんでした! うわぁ、ノワール君ってばちょろすぎぃ~な感じで結構ヤバかったんだぞ? 夜空に惚れてなかったら普通に襲ってたね! 初体験してたね! それぐらいヤバかった! だからそんな顔しなくて良いぞ? お前には絶対に欲情しないしな!!

 

 とか思ってたらケツを蹴られる。この野郎……! 遠慮無しかよ!

 

 

「てぇなおい!! なにすんだよ!!」

 

「悪い虫がついてた」

 

「せめて俺の方を見てから言えっての……とりあえず四季音姉妹は一応、鬼勢力として認められたっぽい。ついでに三大勢力とも同盟を結ぶそうだ。いやぁ、頑張ったな! 俺様、滅茶苦茶頑張ったと思う!」

 

「……まさか鬼と戦って同盟を結ぶまで交友を深めてくるなんて……さ、流石キマリス様ですわ! で、ですけども……ひ、人妻にロックオンをされたという件のお話がまだでしてよ? ささっ! 今日はお暇でしょうからゆっくり……ゆっくりとお聞かせ願いたいですわね!」

 

「悪魔さん♪ 志保、一緒にお話ししたいです♪ その唇のような痕の事とか色々と……です」

 

「しほりんこわいしほりんこわいしほりんこわい――アッ! オレ! ベンキョーシナキャ! オウサマ! サヨウナラって離してっすぅ!? なんで逃がしてくれないんすかぁ!! 自分が蒔いた種でしょ!? 俺関係ないでしょ!?」

 

「お前……俺の兵士だろ? 一蓮托生、死ぬ時はまずお前からだ。安心しろ……アイドル橘志保がヤンデレモードで迫ってくるんだぞ? ファンなら興奮物だろ!!」

 

「……ありっすね。じゃなくてマジで離してー!! まだ彼女作ってないのに死にたくなーい!!」

 

 

 逃げようとしている犬月を影人形で捕まえつつ、水無瀬が出してくれたお茶を飲む。うん、美味い。鬼の里での水とか飯とかは美味かったけどやっぱり水無瀬が淹れたお茶とか飯の方が俺は好きだな。これって胃袋を掴まれてたりする……? まぁ、水無瀬なら良いや。むしろ夜空が居なかったら嫁にしたい。

 

 

「……」

 

「さおりぃ~ん? どうしたぁ?」

 

「何でもない。ノワール、久しぶりに料理をしたくなったからお昼ご飯を作ってあげるよ。何が食べたい? 私ならいつでもウェルカム」

 

「お前以外なら何でも良い」

 

「ならてきとーに作る。恵、今日は休んでていいよ」

 

「さ、早織……? あのですね! 料理は私の専門と言いますかノワール君に女子力アピール出来るチャンスなので出来ればご遠慮してほしいなーって思うんですよ……そ、それにですね! 普段料理しない子が包丁とかを持つと危ないですし、大人数のご飯を作るのも慣れてないと大変ですから! いつもの様に私が作りますから早織はゲームをしててください」

 

「ヤダ」

 

「……この子もノワール君に似てきましたね。いいえ、元からでした……うぅ! 私の唯一のアピールポイントが……!」

 

 

 流石俺依存率ナンバーワン。四季音姉が珍しく攻めた事と俺が水無瀬の飯が良いと思ったから対抗心を燃やしだしたってか? マジでちょろいなアイツ。でも偶には平家が作る飯も食ってみたいしこれはこれで有りだな! さてと……問題は橘とレイチェルか。グラムはどうせ俺か平家の部屋で引きこもってるだろうし無視で良いからここをどうにかしないと明日を迎えれないかもしれない! 犬月が! 俺は再生能力あるからたとえ刺されたり監禁されたり破魔の霊力叩き込まれても生きていけるから全然大丈夫! むしろドンと来い!

 

 そんな……いつも通りの楽しいやり取りを行う俺だったが――事件はその数時間後に突然起きた。

 

 

「――おいおい、なんでこんな風になってんだ?」

 

 

 俺の視線の先には漆黒のローブを身に纏い、趣味が悪い大鎌を持った奴らと神器所有者らしいやつらに囲まれているデュランダルと魔法使いちゃん、そしてレイヴェルの姿。あの礼儀正しいレイチェルがノックもしないで俺の部屋に飛び込んできた時は何事かと思ったが確かにこれは焦っても無理はねぇな……なんせ自分の姉が良く分からん連中に襲われてるんだしよ。俺が見た感じ、神器所有者は恐らく禍の団の構成員だろうな……そんで趣味が悪い鎌を持った奴らは冥府の死神ってところかねぇ? 何だってあんな奴らに襲われてんだ? てかそもそもなんで囲まれてるんだよ……こっちは面倒事が終わってようやく一息入れられるってのに邪魔しやがって!

 

 

「お姉様!!」

 

 

 俺の背中にしがみ付いているレイチェルが叫ぶとその場にいる全ての視線が俺へと集中する。心なしか三人を囲んでいる奴らの顔に焦りが見えている気がする……あれー? なんかさっきまで犯す気満々って感じだったじゃないですかー! たかが()()程度が増えも恐れるわけないよねー!!

 

 

「っ、レイチェル……キマリスさま!!」

 

「影龍王! 来てくれたんだな……!」

 

「まぁな。レイチェルがお姉様がお姉様がって五月蠅くてな……かといって無視も出来ねぇからこうしてきてやったよ。とりあえずまた面倒毎に巻き込まれてんなぁおい。で? 冥府側の連中もなんだってこいつらを襲う? 三大勢力とは和平を結んでたんじゃねぇのかよ?」

 

 

 既に俺は禁手化状態、背負っているレイチェルに当たらないように影の翼を奴らに見せつけるように広げて上空に浮かぶ。俺の問いに神器所有者共は、冥府の死神共は何も言わない……当然だ、此処で何かを言えば敵に情報を渡す事になる。流石に雑魚とはいえその辺は弁えてるみたいで嬉しいね! でもまぁ、関係無いんだよなもう。

 

 

「――平家」

 

「うん。そこの一番地味な大鎌を持った奴が死神のリーダー、そしてあそこの派手な奴が英雄派……此処にいる集団だけどこの中で一番偉いよ」

 

「了解」

 

『Shadow Labyrinth!!!』

 

 

 影の翼に隠れるように俺の背後にいた平家に確認を取った後、影の檻を発動。転移とかで逃げられたら困るからね! 地上にいる敵さんも逃げられない事に焦っているのか怒号が飛び交っている……ざまぁ! さてと分かってるよな? 邪龍の()()に手を出したんだから死ぬ覚悟ぐらいは出来てるよな。こっちは鬼とのやり取りで結構テンション上がってたのにくだらねぇ事を起こしやがって……テンションガタ落ちだ。その八つ当たりもかねて派手に行かせてもらうぞ。

 

 

『ShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShadeShade!!!』

 

 

 宝玉から音声を鳴り響かせて影の翼をさらに広げ、海へと変える。周囲全てを飲み込むように広がっていく影の海から逃れようと空を飛べる面々は宙に浮くが……逃がすわけねぇだろ? ドボンッと空へと昇るように無数の影人形達が生贄を求めて生まれていく。周囲に叫び声が響き渡る……助けてくれと、死にたくないと、ハーデス様と無様な命乞いが俺へと向けられる。正直、どうでも良い。手を出したのはそっちで俺の機嫌をほぼ無関係だが損ねたのもそっちだ。黙って死ね。

 

 

「わ、我らに手を出してどうなると思っている!! 我ら死神と戦争を起こしたいのか!」

 

「さぁ? でもまぁ、ムカつくから殺しといた方が今後のためだってのは今分かった。んじゃさようなら」

 

 

 平家に教えられたリーダー格は四肢を切断、身動き取れない状態でサンドバッグにして完全に沈黙させて残った連中は影の海に飲み込んで雑巾を絞るようにねじる。気持ち悪い音が内部から聞こえて赤い液体が大量に地面に落ちていくが俺には関係ない事だ……若干フェニックスの双子姫と魔法使いちゃんが吐きそうな顔をしてるけど俺は悪くないと思います!

 

 

「……やはり凄いな、顔色を変えずにここまで出来るとはね」

 

「殺し合いをしてるんだ。それぐらいは出来るさ、んで? 何があった?」

 

 

 デュランダル使いに聞いてみると中級悪魔昇格試験を終えた瞬間に英雄派によって異空間に転移させられて曹操ちゃんと殺し合ったらしい。禁手状態の曹操ちゃんを相手に先輩達が総出で戦ったようだがテクニック重視の戦法と能力によって敗北、一緒に転移させられたオーフィスも冥府の奥底に封印されていたサマエルによって力の大部分を奪われて弱体化とやられっぱなしだったそうだ。ていうかサマエルってあのサマエル? 最強の龍殺しの化け物を呼びやがったのかよ……うわぁ、死んでなきゃ良いけど。まっ、今も異空間から脱出するために一誠達は戦ってるんなら大丈夫だろうきっと! この三人が先に脱出してきたのは魔王達に英雄派の襲撃と冥府の神ハーデスの企みを伝えるため……戦闘が苦手なレイヴェルを連れてきたのは俺を此処に呼ぶためだそうだ。確かに妹の近くに居る俺を呼べば少なくとも魔王に伝えるという命令を果たせるだろうね! 利用されたのがムカつくけど。

 

 

「……仕方ねぇな」

 

 

 通信用の魔法陣でとある人に連絡をする。俺が魔王と話すには色々と手続きがいるが近くには直通出来る人がいるしそっちに任せようか!

 

 

『――キマリス君? 珍しいですね、貴方から連絡をしてくるなんて……何かありましたか?』

 

「すいませんねー生徒会長。色々と忙しいのに……まぁ、その通りです。今から言う事を魔王様に伝えてください」

 

 

 通信用の魔法陣には生徒会長の姿がホログラムのように映っている。先ほどデュランダル使いから聞いたことをそっくりそのまま伝えると一緒で表情を変えて眼鏡をくぃっと上にあげて整え始めた。なんかそれカッコいいですね!

 

 

『分かりました。お姉様にはすぐ伝えてきます。キマリス君、申し訳ないですがゼノヴィアさん達をお願いします』

 

「分かってますよ。とりあえずレイヴェルだけは俺の家に連れていきますよ。レイチェルもいますし全世界の中で一番安全かもしれませんしね。あとフェニックス家の姫様に襲い掛かった奴らの主犯格を捕らえたんでそっちもお願いします。」

 

 

 定期的に規格外の夜空がやってくる場所に襲撃を仕掛ける馬鹿はいないだろうしな!

 

 生徒会長宛にボロボロの状態で捕らえた二人を転送、きゃっと言う可愛い悲鳴を聞こえたのを確認して連絡を切る。そしてレイヴェルの方を向くとレイチェルの手を握っていた……微かに震えているところを見るとよほど怖かったんだろう。いくらライザーの眷属としてゲームに出ていたと言っても殆ど戦闘らしいことはした事ないだろうし当たり前か。

 

 

「話を聞いてたとは思うがしばらくは俺の家で二人仲良く待機しててくれ。安心しろ、流石の英雄派も俺の家までは襲ってこないさ。むしろそんな事をしたら……どうなるか分からねぇしな」

 

「確かに影龍王さんのお家を襲撃したら禍の団自体が崩壊しかねませんし一番安全だと思いますね。えっと私は別の場所で戦っているお兄様たちの方へ向かいます。助けていただきありがとうございました!」

 

 

 魔法使いちゃんはお辞儀をしてから転移魔法でどこかへと消えていった。てかなんであの子も襲われてたんだ? 同じ禍の団だろう?

 

 それを見届けるとデュランダル使いから教会に向かわないといけない事を聞かされたがそっちは勝手にやってくれ……俺は便利屋でもなければ護衛でもねぇんだしさ。てか曹操ちゃんに壊されたって言ってもデュランダル自体は無事なんだしそれで良くないか? そんなわけで断ろうとすると双子姫からお願いしますという視線で見つめられてしまう……しょーがねぇなー!!

 

 

「……はぁ、仕方ねぇ。連れて行ってやるから案内――」

 

 

 その時だ、冥界中に巨大な何かが落ちてきたような地響きが広がったのは。流石に気になったので上空に飛んでみると――そこには怪物がいた。

 

 巨大な人型、クモのような足の奴、四足歩行……兎に角、今まで見た事ないような怪物達が冥界のあちこちに現れている。おいおいなんだよあれ……! デカいなんてもんじゃねぇぞおい! この冥界で何が起きてるってんだ!?

 

 

「……っ、ノワール。ちょっとヤバいかも」

 

「あん? 確かにやべぇな……! ゼハハハハ! 楽しすぎてテンション上がってきた!」

 

「喜んでるところ悪いけど正体不明のデカい化け物が一体、キマリス領に向かってる。しかも見た感じ、小型のモンスターを作り出してるね。このままだと蹂躙されるよ」

 

「――ぁ?」

 

 

 端末で何かの報道を見ている平家の言葉を聞いた瞬間、スーッとテンションが落ちていくのが自分でも分かる。確かにここから見ただけでもデカい奴らがあちこちにいるなってのは分かったがキマリス領に向かってる……? へぇ、そうなのか。別にキマリス領がどうなろうと俺には関係ないし常日頃から夜空と好き勝手にやってるから滅ぼされようが住民が殺されようが知った事じゃねぇ……てか進行方向にキマリス領があるのが悪い。キマリス家次期当主ってのも元々は上の奴らが勝手に押し付けたようなもんだ……当主の座なんざには興味ねぇ。好き勝手に生きて、好き勝手に夜空と殺し合えればそれで……! それで……!!

 

 

「ノワール」

 

「……」

 

 

 んな目で見なくたって分かってるさ。ふざけんなよこの野郎。どこの誰がやったかなんざ知らねぇけど普段から好き勝手にやってる俺への罰のつもりか? 残念ながらこの程度じゃ罰にはならねぇんだよ! むしろ逆にご褒美だ馬鹿野郎!!

 

 

「レイチェル、二人で家に帰ってろ。そこが一番安全だ。デュランダル、お前は一人で行け……ちょっと用事を思い出した」

 

「……あぁ。そうさせてもらうよ影龍王。気を付けてくれ……なんて意味は無いね。あとで駆け付ける……必ずね」

 

「キマリス様! 私も行きます! キマリス領に向かわれるのであれば……私も、一緒に行かせてもらいますわ」

 

「おいおい……死ぬぞ?」

 

「死にませんわ。私は……フェニックスですから! この世の誰よりも不死身に近い存在ですわ! 姫と呼ばれていても戦う事は出来ます! 見くびらないでほしいですわね!」

 

「レイチェル……私もご一緒しますわ! イッセーさま達が戦っていた時も私は……見ているしか出来ませんでしたわ。もう一人で終わるまで待つ事は出来ません! そして何よりも……フェニックスの双子姫が逃げる事なんて出来ませんもの!」

 

「……物好きだなおい。死んでも責任は取らねぇから勝手にしろ。平家」

 

「全員キマリス領に集めて住民を避難させるように言ってるよ。勿論お義母さんもね」

 

 

 流石俺の騎士、俺が命令するよりも先に行動を起こすとはね。やっぱり俺にはお前が必要だわ……本当にな。これからも頼むぜ? 居なくなったりされたらマジで困るからな!

 

 双子姫と共にキマリス領へと転移しようとすると通信用の魔法陣が展開されて先輩の声が響き渡った。なんでも龍門を開くために力を貸してほしいとの事だったが残念な事に今は忙しいので構ってられない……丁重にお断りして強引に通信を切る。龍門なら匙君やファーブニル、タンニーン様で足りるだろうしな。てかさぁ! キマリス領がどうなろうが俺には関係ないんだよ……そこに住む住民がどうなろうと関係、関係なんざあるに決まってる! あぁくそ! 柄じゃねぇけど守ってやろうじゃねぇか! こんな混血悪魔に文句も言わずに住んでてくれる奴ら、母さんを見捨てられるかってんだ!

 

 

「――悪い、待たせたな」

 

 

 キマリス領にある俺の実家へと転移すると犬月を始めとしたキマリス眷属、鬼の頭領と茨木童子を始めとした鬼集団、八坂の姫を始めとした京都妖怪集団という数えるのが面倒になるぐらいの大群が待っていた。おいおい……なんで居るわけ? ほんの数分前に異常事態が発生したんですが準備早くないですか!? てかなんで八坂の姫が此処に居るんだよ……! 実家の場所なんて教えた事ねぇぞ!! 何で知ってんだよ!?

 

 

「かっかっか! さっきぶりだねぇ。蝙蝠の親玉に会おうって時に何やら面白い事が起きてるじゃないかい。バカ娘にこの場所を聞いて若い奴らを集めといたよ。でもまさか九尾の姉さんまで此処に来るとは思わなかったけどねぇ」

 

「ほっほっほ! わらわも冥界に用があったのでのぉ。いきなり現れた物の怪共を見て影龍王が動くと思っただけの事じゃ。これだけの妖力が一か所に集まればどこへ向かえばいいかなぞ丸分かりよのぉ。それに九重が一緒に戦いたいと言っておったのでなぁ? こうして集めたわけじゃ。わらわの呼びかけに応じてくれた妖怪達には感謝しないといかんのぉ」

 

「影龍王! 戦うのじゃな! そうだと思って此処で待っておったのじゃ!」

 

 

 鬼の頭領、茨木童子、八坂の姫、九重、そして集められた鬼と妖怪達が俺を見つめてくる。うわぁ、何も言ってないのにもう準備できてるよこの人達……! 馬鹿じゃねぇの? なんで戦う事前提で集まってんだよ! その通りだよこの野郎!! 良く分かってんじゃねぇか!!

 

 

「たくっ、気の早い連中だことで……犬月、母さんは?」

 

「へへっ! とっくの昔に人間界の自宅の方に転移済みっすよ! 王様の親父さんやししょー達が傍にいるんで大丈夫だと思います!」

 

「そうか……サンキュー。さてとだ、えー、なんでか知らないがおもいっきり準備が整ってるっぽいんでさっさと向かおうと思いまーす! 逃げたい奴は勝手に逃げろ。誰も文句は言わねぇ。戦争したい奴だけついて来い」

 

 

 一歩、また一歩と全員が開けた道を歩くと後ろからぞろぞろと付いてくる音が聞こえた。振り向きはしないが俺の横には平家と四季音姉が……さらにその後ろには水無瀬と橘、犬月に四季音妹、グラム、双子姫と続いているだろう。さらにそれに続くように鬼達が、京都妖怪達が続いて歩き始める……かっかっか! と高笑いしながら、ほっほっほ! と張り合う様に声を出しながらただの混血悪魔である俺に付いてくる。目指すは名も分からないデカい怪物……戦う理由なんて決まってる。ただ喧嘩を売られたから買うだけだ。冥界の危機だとかそんなもんはどうでも良い……此処に、この場所に、母さんが住んでいる家に向かってくるなら殺すだけだ。

 

 笑いが堪えきれず、笑みを浮かべる。戦争自体は初めてだがこんな風に楽しいんだな……きっと相棒が生きていた時もこんな感情を味わっていたんだろう。羨ましいな全くよぉ!

 

 

「――良いかお前ら! 建物を壊すななんてことは言わねぇ! そんなもんはまた作ればいいんだ! 日ごろの鬱憤を晴らすようにぶっ壊せ! 住民が居たら助けろなんて言わねぇ! 邪魔だったら遠くに放り投げておけ! 今から行われるのは良く分かんねぇデカい奴との戦争だ! 久しぶりの戦争と喜ぶ奴もいれば初めての戦争だってワクワクする奴もいるだろう! 俺だってそうだ! 今もワクワクしてる! あんなデカい奴と殺し合えるんだって思うと滅茶苦茶楽しい!! 死ぬのが怖かったら笑え! 狂ったように嗤え! 臆するな! ビビるな! 楽しめ!! 死ぬ最後の一瞬まで楽しさを忘れるな!! 俺達は正義の味方でもヒーローでもない……ただ自分が楽しむためにアイツと殺し合うだけだ!! 文句を言われても気にするな! これが俺達だと逆に笑ってやれ!! 俺が許す! 此処には鬼と妖怪と悪魔がいる。同盟なんて結んでない奴らだっている。邪魔だったらそいつらを殺してでも先に進め! 好き勝手に戦って、好き勝手に楽しもうじゃねぇか! 妖怪らしく! 悪魔らしく! 鬼らしく! 邪龍の俺が許すって言うんだから好きにやれ!!」

 

 

 返答なんて返ってこない。でも笑っているのは分かる。それで良い……好き勝手にやるのが俺達だからな!

 

 

「さぁ、派手に楽しもうじゃねぇか野郎どもぉ!!」

 

 

 

 

 

 

 冥界に突如現れた怪物、それらは各都市部へ向かい進撃していた。予兆すらなく、突如現れたために冥界に住む悪魔達は驚き、困惑し、逃げ惑った。報道陣も事の重大さを知らせるためにカメラを持ち、各地を飛び回るが――その中で一人のカメラマンは奇妙な集団を目にする。

 

 場所はキマリス領。地双龍の片割れ、影龍王と呼ばれる存在を宿した神滅具を保有する混血悪魔が生まれた場所。そんな場所で逃げる事もせず、真っすぐ向かってくる怪物へ近づく集団を彼は目にした。

 

 先頭を歩くのは黒の鎧を纏う少年、その背後には黒髪の美少女と桜色の髪をした小柄な美少女、そして白髪の少年や黒髪の美女、緑髪の美少女と言った面々が続くように歩いている。しかしそれだけならばなぜ逃げないのかと疑問に思うだけだろう……問題はその後ろだ。鬼が、狐が、天狗が、妖怪達が楽しそうな笑みを浮かべて少年の後ろを歩いている。その中には元七十二柱フェニックス家の姫君の姿すらあるためカメラマンはその手に持つカメラを落としかけるほどの衝撃だった。その数も十を超え、百を超えている。たった一人の少年にそれら全てが従っているような錯覚を見せるほどの歩みをカメラマンは冥界中に見せつけるべくカメラを向けた。

 

 その集団の誰もが不満ではなく楽しく笑っている。死ぬかもしれない状況になる恐れもあるというのにそれすら楽しんでいるような笑みを全員が浮かべている。

 

 たった一人の少年に付き従う無数の集団。それを目にした魔王の一人、アジュカ・ベルゼブブは小さく呟いた。

 

 

 ――まるで百鬼夜行のようだと。




「影龍王と酒呑童子」編が終了です。
今回は四季音姉妹……というより四季音花恋回だったと思います。
普段は酔っぱらっている彼女ですが素は全くの別です。

さて次回は……「補習授業のヒーローズ」編ですが多分すぐ終わるはず……! きっと!

観覧ありがとうございました!

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