ハイスクールD×D~地双龍と混血悪魔~   作:木の人

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78話

「夜空ぁぁっ!!」

 

「ノワールゥゥッ!!」

 

 

 黒い影と山吹色の光が衝突し合う。

 

 冥界の下層に位置する冥府、生物すら生息できないほどの死の世界を俺と夜空はお構いなしに光と影で染め上げる。既に先ほどまで居た豪華な神殿は骸骨様が座っている玉座以外、俺達の攻防によって吹き飛んでいる……流石骸骨と言っても冥府の神様だ! 障壁を張って防ぎきるとかやるじゃねぇの! まっ、防ごうが巻き込まれて死のうが俺達はどうでも良いけどな。今は夜空とイチャイチャするので忙しいし! てか相変わらずの破壊力で恐れ入るよマジで! 何度再生しても吹き飛ばされて、何度生み出しても消滅させられて、何度攻撃を叩き込んでも回復されて振り出しに戻りやがる……だけど楽しい! あぁ、楽しい!!

 

 

『ゼハハハハハハ! さっきは邪魔が入ったが此処なら問題ねぇ! 思う存分破壊しようじゃねぇか宿主様ぁ!!』

 

「あぁ! 夜空との殺し合いついでに破壊しまくるぜ相棒!!」

 

 

 背中に生やしている影の翼を広げ、影の海を冥府全てに流す。建物も、俺達の遊びを邪魔しようとする死神共も、骸骨様も、魔王やアザゼルすら飲み込もうとする大量の影を生み出す。そしてそれを媒体に影人形を生み出して周囲全てに襲い掛かるように命令すると隠れている死神、趣味が悪い大鎌を握りしめて俺達へ向かって来ようとする死神、冥府から逃げようとしている死神、とりあえずその辺にいる死神を根こそぎ捕まえて力を根こそぎ奪いながらラッシュを放って殺害。邪魔なんだよテメェら……! あとうちの身内の身内(フェニックスの双子姫)に手を出したことをまだ根に持ってんだ! その報いを受けやがれってんだ!!

 

 上空に視線を向けると嬉しそうな声を上げている夜空が見える。自身に群がってくる虫を払う様に周囲に自分と同じ姿をした光人形を生み出して俺が使役する影人形にぶつけてくる。たった一瞬で無数に近い数が生み出され、それぞれが異常な光力が凝縮された存在だ! そんなもんと影人形がぶつかればどうなるかなんて簡単に予想できる。光人形の突進と影人形のラッシュタイムがぶつかり合うたびに周囲に衝撃が響き渡る……ちっ! やっぱりこれだけ大量に生み出すと防御力が低下してんのかってぐらい簡単に吹き飛ばされる! いや、違うな……! 夜空が生み出す光人形のパワーがデカすぎんのか!? もっともどっちでも良いけどな! 俺の実力不足ってのには変わりねぇんだしよ! ゼハハハハハハ! やっぱり最高だぜ夜空! さっさと俺の女王になりやがれってんだ!

 

 

「むっかつくぅ!! どんだけ硬いのさぁ!!」

 

「当たり前だろうが!! お前を受け入れるためにここまで防御力上げてんだからよ! その程度じゃまだまだ突破は出来ねぇぞ夜空ちゃん!!」

 

「あははははははは! うん! そうだよね……受け入れてくれんだもんね! だったらもっともっともーっと!! 私を受け入れてよノワール!!」

 

「……あぁ! ドンドンきやがれ! 受け止めてやる! たとえ世界が敵になっても俺はお前の味方で居続けてやる! お前は一人じゃねぇから安心しやがれぇっ!」

 

 

 山吹色の流星となった夜空が俺へと向かってくる。鎧で顔は隠れているが恐らく……いや絶対に笑っているだろう。心の底から、普通の女の子らしく笑ってるはずだ! もし違ったら……まだまだ俺の思いが届いてないって証拠か……頑張りがいがあるぜ!

 

 

「ノワールゥッ!!」

 

「夜空ァッ!!」

 

 

 俺の拳と夜空の拳がぶつかり合い、周囲が衝撃によって吹き飛んでいく。相棒の影、北欧の防御魔術で底上げされてる防御力でさえ突破され、俺の片腕が夜空が纏う光によって消滅する……がそれは夜空も同じだ。殴った腕が曲がってはいけない方向に折れている。もっとも俺達にとってはいつもの光景だ。俺が腕を再生すれば夜空は腕を回復、お返しとばかりに互いを殴り合う。

 

 

「ノワール! なんで私を受け入れてくれんのさ!? こんな異常な私をなんでさ!! 聞かせてよノワール!!」

 

「んなもんお前に惚れてるからに決まってんだろうが!! お前に救われたあの日からずっとな! それにな! お前が異常だろうが何だろうが俺には関係ねぇんだよ!! そんなもんで嫌いになるわけねぇだろ!」

 

「おかしいよホント!! そんなこと言われたら……もっと好きになっちゃうじゃん!!」

 

「それの何がダメなんだよ! もっと俺を好きになれ! お前が過去に何があったとしても俺は気にしねぇしなんだって受け止めてやる!! だってお前はお前だろうが! 異常!? 規格外!? 俺にとっちゃお前は普通の女だ! どこにでもいる普通の女なんだよ! だから……だからもっと楽しめよ! 心の底から笑えって!! そして何度も言ってやる! 愛してるぜ夜空!!」

 

「馬鹿! バカバカバカぁ! こんなやり取りしても明日からは元通りじゃん! 共闘は今だけって言ったじゃん! マジになってんじゃねぇよ馬鹿ぁ!!」

 

「馬鹿って言うんじゃねぇよバーカ! そもそも俺は最初っからマジだ! 今日だけの俺達の共闘は……滅茶苦茶楽しかった! それが明日から元通りになっちまうならよ! なおさら今言わなきゃダメだろ悪魔的に!!」

 

 

 夜空の拳が俺の身体を貫き、俺の拳が夜空の顔を潰す。光が俺の上半身を吹き飛ばし、影が夜空の全身を殴り飛ばす。毎度お馴染みとなった俺を呼ぶ変な声に負けずに再生し前を見ると時間が巻き戻ったかのように五体満足完全回復状態の夜空が笑っていた……あぁ、それだ、それが見たかった!

 

 

「死ねぇ!」

 

「死んじゃえっ!」

 

 

 黒の軌跡と光の流星が再度、正面からぶつかる。腕が消滅や折れてもなお再生と回復を繰り返してノーガードで殴り合う。なんでこんなことを言ってるかなんて決まってんだろ……口から勝手に出たんだよ! 俺だってなんで言ってるか分かるわけねぇだろ! でもここまで来たら全部言ってやらぁ! 童貞舐めんな! 片思い舐めんな! お前に対する思いがどれだけ溜まってると思ってんだよ! あとついでにさ! どうせ俺が夜空に勝ったら今と同じような事を言うんだし今言っても同じだろ! タブンネ!

 

 夜空の拳が俺の顔面を捉える……口内が切れたり鼻が折れて血が出るが関係ない。お返しに夜空の顔面を殴ると同じように鼻が折れて血が出始める。でもやめない……骨が折れようが消滅しようがお構いなしに俺達は殴り合う。光が悪魔の俺を焦がし、影が人間の夜空を傷つける。互いに笑いながら何度も、何度も、何度も馬鹿の一つ覚えのように殴り合う。

 

 

「ノワールが私より強いのが気に入らない!!」

 

「お前が俺より強いのが気に入らねぇ!!」

 

「アンタを護るのは私なんだっていい加減気づきやがれぇ!!」

 

「テメェを護るのは俺だってことに気づけよ馬鹿野郎!!」

 

「それこそばっかじゃねぇの! 私の方が攻撃力あるんだからアンタの敵を葬れんじゃん!!」

 

「それだったら俺の方が防御力あるんだからお前を護るのに適してんだろうが!!」

 

「バーカバーカ!! 鬼程度に突破される防御力で私を護れるわけねーじゃん!!」

 

「だから馬鹿って言うんじゃねぇよバーカ! 俺程度を殺せねぇ攻撃力で敵を葬れるわけねぇーだろ!!」

 

 

 夜空の真上を取り、そのまま拳を叩き込んで地上へと落とす。そのままマウントを取って殴ろうとすると極大の光が放たれて俺の体が吹き飛ばされる。再生する瞬間を狙われて地面に倒されて逆にマウントを取られる……笑いながら凝縮された光を纏った拳を叩き込まれるがタダで殺されるつもりはねぇ……! 地面に爪を立て、一気に握ってそれを夜空にぶつける。殴り合いによって顔を覆う兜は無くなっているせいで目に砂や小石が入り、一瞬だけ拳の雨が止まる……その隙を狙って手を伸ばし、夜空の髪を掴んで頭突き。あまりの石頭っぷりに俺にもダメージが入ったが関係ない! ゼハハハハハハハハハハ! 楽しい楽しい楽しい!

 

 

「いったいなぁもう!! 女の子に頭突きかましてんじゃねぇよ!」

 

「女の子って言われたかったらマウント取るんじゃねぇよ! お前の腕力で殴られたらイテェだろうが!」

 

「はぁ!? 女の子はマウント取る生き物でしょーが!!」

 

「全世界の女の子に謝れ! そんなことするのはお前ぐらいだ!」

 

 

 頭突きを放った後、距離を取る。そのままお互いに向かい合い、既に数える事すら面倒になった再生と回復を行う。砂による目つぶしももう意味は無いだろう……そもそも夜空相手にそんな手が何度も通じるとは思えねぇしな。ホント、強い。底が見えねぇってのがかなり怖い……! まだまだ強くなるだろうしもっと可愛くなるだろう。あぁ、最高だ! これが俺のライバルなんだから俺は影龍王で本当に良かった! でもまだだ……まだ足りない。夜空を受け止めるにはまだ弱すぎるんだ……! もっと強く、もっと硬く、もっともっともっと! 夜空を好きにならなきゃダメなんだ!

 

 

「あぁ、クソ……気に入らねぇ!」

 

「ほんっとに気に入らない……!」

 

「お前を護るのは俺だ!」

 

「アンタを護るのは私!」

 

「なんで邪魔しやがる!?」

 

「なんで邪魔すんのさ!?」

 

「お前は黙って俺に護られてろ!!」

 

「ノワールこそ黙って私に護られてればいいじゃん!!」

 

 

 怒りを含んだ口調で呟く。俺はお前を受け止めたい……護りたい。だというのに目の前の女は俺より強くなろうとしやがる……気に入らねぇ。なんで俺が惚れた女に護られないといけねぇんだよ……! そう思うのは目の前の夜空も同じだろう。互いに護りたいけどどっちも譲らつもりはないから殺し合う……あぁ、他人からどっちでも良いだろって言われそうなくっだらない理由なんだろうが残念な事に俺達は本気なんだ。本気でどっちが護るかを決めるために殺し合う。まぁ、好きだからとか愛しているからだとかストレス発散だとか結構色んな理由もあるが半分以上はきっとこの理由だろう。そういえば昔のことだが冷蔵庫に残ったプリンをどっちが食うかやら昼飯何食うかやらで殺し合ったこともあったなぁ……それに比べればこの理由はマシな方だろう。

 

 既に周囲は俺の影と夜空の光で崩壊状態、冥府に住む死神も俺達の手によって殆ど殺されて残ってるのは運良く冥府から離れていた奴らと逃げきれた奴らぐらいか? まぁ、数えるぐらいしか残ってねぇとは思うけどね。なんせレイチェルを怖がらせたんだ……邪龍の身内に手を出して無事で済むとは思わねぇよな? つまりは自業自得って事で納得してくれよクソ骸骨様。もっとも今はどうでも良いけどな。マジでどうでも良い……!

 

 

「何が気に入らねぇんだよ!」

 

「そっちこそ何が気に入らないのさ!」

 

「俺はお前に護られたくねぇんだよ!」

 

「私だってアンタに護られたくないんだって!」

 

「俺が護ってやるって言ってんだろうが!!」

 

「私が護ってやるって言ってんじゃん!!」

 

「こんの……! 俺はお前が好きなんだよ!!」

 

「私だってアンタが大好きなんだって!!」

 

「だったら譲れよ! カッコつけさせろ!」

 

「そっちこそ譲ってよ! 私を頼ってくれても良いじゃん!!」

 

 

 俺は怨念すら飲み込むほどの呪いを、夜空は邪悪すら浄化するほどの気を鎧から放つ。冥府の地上が俺達によって汚染され、浄化され、死すら生ぬるいほどの何かを放つ地へと変えられていく。やっぱりダメだな……何を言っても目の前の女は聞きやしねぇ! 殺さねぇと理解しねぇんだったら殺してやる……! そして分からせてやる! 俺がどれだけお前に惚れてるか! どれだけ護りたいと思ってるかを!

 

 

《――そこまでにしておけ、邪龍共よ》

 

 

 俺と夜空の間に舞い降りてきたのは司祭服を着た骸骨。その声には怒気を含んでおり、イライラしているのが子供でも分かるぐらいだ……何キレてんだよ? たかがテメェの部下を殺した程度だろうが。そもそも最初にちょっかい掛けてきたのはそっちなんだから文句を言う資格ねぇぞ?

 

 

《バケモノ共め。この冥府をこれほど荒らして何がしたい? コウモリとカラスの首領と共に聞いていればどちらが護るか決めるためだけにこの冥府を荒らしたというのか? 下らん。そのような事を言い合いたいのであればこの場から出ていくが良い。我が冥府は遊び場ではない》

 

「はぁ? 勝手に乱入してくんじゃねぇよ。取り込み中だってのが見えねぇのか?」

 

「今大事な話してんだけど? そーいえばさっきも邪魔しようとしてたよね……そんなに死にたいの?」

 

《ファファファ、殺せるものならば殺してみろ。邪龍如きに冥府の神である私が殺せるとは思えんが――》

 

 

 骸骨様が言葉を言い終える前に俺は魔力を放出して一気に接近、胴体に拳を叩き込む。勿論、夜空も冷徹な視線で光を生み出して骸骨様の半身を吹き飛ばす……普通であればさっきのプル、プルーなんとかって奴のように即死するだろう。しかし目の前にいる骸骨様は違った……吹き飛ばされた部分から霧のような何かが集まりだして再生し始めた。しかもファファファと笑いながら体から漏れ出した霧を俺の腕に纏わせると――骨になった。籠手の部分が溶け、肉があった腕が一瞬で骨にされた……流石冥府の神、やることがえげつねぇな!

 

 即座に距離を取り、骨になった腕を再生させて元に戻す。なるほど、冥府の神をやってるだけはあるな……俺、いや相棒と同じ不死ってわけかよ。

 

 

《話は最後まで聞くものだ馬鹿者め。授業料として貴様の生命力を頂いたぞ。この私が鎌を使わねば奪い取れぬと思ったか、無知とは恐ろしい。私は神、この冥府を治める存在だ。この世界も私の一部、死を司る神がこの場で死ぬわけが無かろう》

 

「……つまり冥府にいるテメェは死なねぇって言いたいのかよ?」

 

《どうとでも思うが良い》

 

 

 骸骨様と話をしていると横から光が飛んできて俺を癒す。多分、奪われた生命力を元に戻してくれたんだろう……だってダメージ一つ無いし体が滅茶苦茶軽くなったしな。しかし冥府にいる間は無敵とかふざけてんじゃねぇの? でもまぁ、冥府を治める神が簡単に死んだらそれはそれで問題か。なんせこの冥府自体が人間界にとって必要不可欠な場所の一つ……そこを支配している奴が弱かったら他勢力から攻められる恐れがある。まっ、死なねぇなら死ぬまで殺すだけだがな。

 

 

「あんがとよ」

 

「どういたしまして。でもノワールと同じく死なないってめんどくさい」

 

「だな。不死身の恐ろしさは俺が一番良く知ってるしよ……ビビったか?」

 

「この私がビビると思う?」

 

「全然。むしろ逆に喜んでるだろ?」

 

「大正解! あはははははははは! 冥府の神様が死ぬところが見れるなんてすっげぇラッキーじゃん! ノワール、神殺しでもしよっか!」

 

「……だな。俺達の邪魔をしたんだ、それ相応の報いを受けてもらわねぇと困るしな」

 

 

 骸骨様と殺し合う事になってもやることは変わらねぇ……俺が防いで夜空が攻撃、それが地双龍の戦い方だ。そもそもさっきの感じだと俺以外が奴に殴りかかれそうにない。仮の夜空が接近戦を仕掛けた場合、生命力を奪われて骨にされちまう……不死身な俺だからこそ近づける!

 

 影と光を放出する俺達を見て骸骨様は不敵に笑いだす。まるで俺達に興味無いと言わんばかりの声を出す。

 

 

《血気盛んでなによりだ、邪龍共よ。これ以上、私が支配するこの世界を荒らされたくはない。取引をしようではないか》

 

「――あ?」

 

「とりひきー?」

 

《そうだ。そこの娘すら知らぬ真実、それを教えてやろう。それを対価としてこの場を去るが良い》

 

 

 夜空すら知らない真実だと……? まさかこのコイツは夜空が異常な理由を知ってるってのか? 隣を見ると先ほどまで高密度に放出していた光を鎮めた夜空が何かを言いたそうな様子で骸骨様を見ていた。俺は俺と出会う前の夜空の事は殆ど知らない。知ってる事なんて生まれながらに禁手に至ってたとかホームレスになってたとかそんな感じだ……夜空自身も自分の事を話したがらねぇしな。俺としても昔に何があったとか両親は今どうしてる思った事はあるが殆どどうでも良い、だって夜空は夜空だしな。言いたくないなら聞かないし話したいなら聞いてやる。ただそれだけで済む……というのに目の前の骸骨様は何を言い出す気だ? 夜空すら知らない秘密だぁ? いい加減にしろよ。知らなくて当然だろうが! どんだけ夜空が自分の体質で悩んで……悩んでるよな? 多分悩んでるってのに教えてやるから帰れ? うーん、殺すか。

 

 

「夜空」

 

「なにさ」

 

「どうする?」

 

「……ノワール」

 

「あん?」

 

「アンタはさ、私が何なのか知りたい?」

 

「どーでも良い。だってお前はお前だろ? 過去に何があろうと、お前が何だろうと関係ない。ただちょっとだけ身体能力が凄い一人の女だろうが。そんなもんは世界中探せばいくらでもいるっての……まぁ、お前が聞きたいって言うなら聞いても良いぞ」

 

「……やっぱさ、アンタって馬鹿でしょ」

 

「誰がバカだ、紳士と呼べ」

 

「呼ぶわけねーじゃん。でも……そうだよね、どーでも良いよね! やっぱりノワールで良かった! んなわけでさー! 言わなくて良いよぉ? 今更秘密を教えてあげまーすとか言われても私はどーでも良いし! ノワールと話して、楽しんで、殺し合って、そして死ねれば満足だしさ。それにね――」

 

 

 周囲を焦がすほどの光を放出しながら夜空は一歩、また一歩と前に出る。

 

 

「自分が何なのかは自分で決めるって親殺した時から決めてんの。だから邪魔。ウザいから消えろ」

 

《ファファファ、二度と無いチャンスだぞ? それでも構わんと言うのか》

 

「何度も言わせんな。私は私、ただの普通の女の子な光龍妃で十分。自分が異常だって事は私が一番知ってるし! んなもんを気にしてる時間があるなら楽しいことした方が一番良い! どーせ数十年したら寿命で死ぬんだしさ、今を楽しんでなんか文句ある? ノワール!」

 

「ん?」

 

「私は人間だよ、ただの人間から生まれた女。その親からは気色悪いってだけで捨てられたからさ、生きてくためにそいつら殺した。ただそんだけ! どうどう? 驚いた?」

 

「……あー、悪いがちょっとだけ予想してたからあんまり驚かねぇな。何年一緒に殺し合ってると思う? 今更、自分の親を殺してましたとかで驚くわけねぇだろ! だって他人の親だしお前を理解しようとしない奴なら死んで当然だろ。あっ! でも俺の母さんに手を出したらマジでキレるからな? そこだけは言っておくぞ!」

 

「んなのさー! 言われなくたって知ってるっての! つーわけでぇ! 取引しないから邪魔しないでくんない? まださぁ! ノワールの盾と私の矛、どっちが上か決めてないんだし!」

 

「悪いな骸骨様。取引したいなら違う奴とやってくれ。俺達は俺達がしたい事をして楽しみたいだけだ。そこに対価だのなんだのって邪魔すんなら……殺すぞ」

 

《……ッッ!》

 

 

 あれあれぇ? まさかその程度で俺達が従うと思ったぁ? 残念でしたぁ! 無理に決まってんだろ。過去が何であれ、今を楽しんでる俺達には関係ないんだよ。まぁ、気にならないのかって言われたら微妙だが夜空と殺し合いが優先だし今はどうでも良い。うん! どーでも良いな! 夜空が気になるって言うなら聞いてやらない事も無いが本人がどうでも良いって言うなら俺もどうでも良い!

 

 

「残念だったな、骸骨ジジイ。何を知ってるか知らねぇがそんなもんで今代の地双龍が止まるわけねぇっての。なんせ三大勢力ですらコイツらを完全に御しきれねぇんだ、光龍妃の秘密程度でお前に従うわけねぇんだよ」

 

「ハーデスさま。まさかとは思いますがこの場にサマエルを呼び出すつもりではないでしょうね? 影龍王を恐れているとはいえ、それは魔王として見過ごせません。各勢力の代表として貴方を止めましょう」

 

《コウモリ……カラス……! この屈辱はいずれ返させてもらおう》

 

 

 かなりの怒気を含んだ口調で俺達にその言葉を言い放ったハーデスは姿を消した。ゼハハハハハ! ざまぁ! マジざまぁ! さてと……邪魔が入ったが続きでもしようか! 此処でやめるなんて言わねぇよな夜空ちゃんよぉ!!

 

 

「……くくく、ふははははははは! あの骸骨ジジイのあの顔! あの声! 見たかよサーゼクス! 調子乗ってた冥府神様がはるか年下のカップルに負けたぜ! こりゃあ良いもんが見れた!」

 

「ふふふ、そうだね。少し物足りないが良しとしよう……しかし冥府のダメージは計り知れないな」

 

「あぁ。死神共の殆どは死に、プルートすら殺されてこの惨状だ。ハーデスが生きている限り死神は生まれ続けると言ってもしばらくは……いや数年以上は大人しくせざるを得ないだろう。よくやったキマリス、光龍妃。イチャつきはその辺にして帰るぞ。どうやら冥界の方も落ち着いたらしい……英雄派の幹部勢も倒された。リーダーの曹操の姿は無いがそれでも十分すぎる……ん? おいおい、なんでそんなに影と光を放出してんだ? まさかとは思うが……まだしたりないってか!?」

 

「うん」

 

「あったりまえじゃん」

 

「だって俺の盾が上か」

 

「私の矛が上か」

 

「「決まってないもん!」」

 

 

 アザゼルの唖然とした表情を無視して夜空と向かい合う。邪魔が入ったがこれだけは決めねぇと気が済まない! だから付き合ってくれよ……言っておくが加減はしねぇしする気はねぇぞ!!

 

 

「我、目覚めるは――万物の理を自らの大欲で染める影龍王なり――獰悪の亡者と怨恨の呪いを制して覇道へ至る――我、魂魄統べる影龍の覇王と成りて――」

 

「我、目覚めるは――八百万の理を自らの大欲で染める光龍妃なり――絶対の真理と無限の自由を求めて覇道を駆ける――我、闇黒を射止める耀龍の女王と成りて――」

 

「……全く、お似合いのカップルだよお前らは。どうするサーゼクス?」

 

「見届けよう。それが私達の仕事だ」

 

「独り身には厳しい仕事だぜ……たくよ」

 

「――汝を漆黒の回廊と永劫の玉座へと誘おう!!」

 

「――汝を金色の夢想と運命の舞台へと誘おう!!」

 

 

 さぁ、もっと楽しもうか!

 

 

 

 

 

 

「ゲオルグは倒され、レオナルド再起不能。助けようにも帝釈天が身柄を拘束か……この時を狙っていたと考えても良いな」

 

 

 学ラン服に漢服のいで立ちの男は槍を手に、静かに呟いた。傍に近づいてくる銀髪碧眼の男を警戒してか槍を手に彼を見る。

 

 

「そう思わないかい、ヴァーリ」

 

「フフっ、そうかもしれないな。曹操」

 

 

 英雄派を率いる者、曹操と現白龍皇、ヴァーリ・ルシファーが人知れずに向かい合う。その場に舞うのは殺気の嵐。互いに敵として認識しているからこそ行われるやり取りだが男たちは静かに笑い合う。

 

 

「全く、ドラゴンに手を出すとこうなるとは思わなかった。ヘラクレスはヴリトラの呪いで死に、ジャンヌは戦意を取り戻したグレモリー眷属に敗北、ゲオルグは停止世界の邪眼を持つ吸血鬼に敗北後、天帝に捕まった。ジークフリートは京都で影龍王に殺されて、レオナルドも天帝に捕まっている……無事なのは俺ぐらいか。さてヴァーリ、異空間での仕返しにでも来たか? 禍の団の裏切り者としてお前達を襲った俺達に怒りを抱いているのだろう?」

 

「怒り、か。確かにその感情は今も抱いているさ。仕返しという点は当たっているがそれだけではない」

 

「……なに?」

 

「俺のライバル、兵藤一誠が消滅する可能性があった。分かるか曹操? 俺は白龍皇、そして兵藤一誠は赤龍帝。互いに戦う宿命を持った存在同士だ、決着すら付いていないというのにライバルを殺されかけて俺はイラついているんだよ。柄にもなくね。彼が死から復活したとしてもこのやり場のない怒りをどこかにぶつけたいんだ……影龍王や光龍妃が相手でも良かったんだが彼らは冥府で楽しんでいるようでね、そのため残っているのはお前だけなんだよ、曹操」

 

「なるほどな……死んだと聞かされていたが蘇ったか。恐ろしいな、シャルバが持っていたサマエルの毒を受けていなかったのか……それとも受けた上で蘇ったのか。どうやらまだ死ぬことは出来そうにないが逃がしてはくれないんだろう?」

 

「あぁ。お前でないとダメなんだよ。これの試運転にはね」

 

 

 ヴァーリは不敵な笑みを浮かべながら鎧を纏う。光すら反射するような純白の龍を模した全身鎧、背には光翼を広げ、対峙している曹操を威圧する。それを見た曹操は若干表情を引きつらせながら槍を構え、力を解き放つ。京都にて影龍王、ノワール・キマリスと戦った時に見せた禁手――極夜なる天輪聖王の輝廻槍。背には神々しい輪後光と周囲に球体を浮遊させる。

 

 

「……おかしいな。俺の目には今まで見せた鎧と若干異なる部分があるように見えるんだが見間違いか? いや、若干だが形状が変わっているな。何をしたか教えてほしいね」

 

「お前のおかげだよ、曹操。サマエルの毒に受けた俺は初めて死と直面し、アルビオン共々、酷く苦しむことになった。だからこそ変わったというべきか……俺とアルビオンが心の底から死を跳ね除けたいと願った影響か、それとも別の要因かは知らん。だが神器というのは所有者の思いによって変異するのならば可能性はいくらでもある。分かるだろう? 異形を恐れるお前ならな」

 

「――亜種化。光龍妃と同じく後天的に亜種化させたとでもいうつもりか? 今代の二天龍と地双龍は異常だな」

 

「影龍王は神により封じられた能力を引き出し、光龍妃は後天的に禁手を亜種化させた。ならば白龍皇である俺が出来ないとは言えないだろう? 負けず嫌いなんだよ、俺はね」

 

「これは……厄介だな」

 

「ドラゴンを怒らせない方が良い。その気になれば暴力で世界を滅ぼせるんだ、それをしないのは――俺も、影龍王も、光龍妃も、そして兵藤一誠も、今を楽しんでいるからだ。それを邪魔するというのであれば容赦はしないぞ」

 

『ヴァーリ、分かっているだろうが発現した力は不完全だ。気を抜けば死ぬぞ。聖槍の一撃は悪魔であるお前を簡単に滅ぼせるからな』

 

「分かっているさ。だが、それを跳ね返してこそ白龍皇だろう?」

 

『あぁ、そうだな。見せつけよう! 私とお前の力を!』

 

「……これは生き残るのが難しいか。いや、跳ね除けてこそ英雄か!」

 

 

 その日、聖槍に選ばれた人間と白き龍皇を宿す明けの明星(ルシファー)が衝突した。




観覧ありがとうございました。

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