ハイスクールD×D~地双龍と混血悪魔~   作:木の人

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84話

「アアアァァァァッ!!!」

 

 

 鬼の雄叫びが戦場に響き渡る。黒の鎧――いつも通りの鎧(影龍王の再生鎧)を纏った俺の目の前には妖力を纏った四季音妹が殴りかかってきている。鬼の怪力に加えて戦車に昇格しているからその破壊力はお察しだろう……喰らったら凄く痛いはずだ! 考えるまでも無く絶対に痛い! いくら不死身とはいえ痛いのはマジで勘弁してほしいから目の前に影人形を生み出して迫りくる拳を受け止める。

 

 

「――ゼハハハハハハハ! どうした四季音妹? 姉とお揃いの戦車に昇格してこの程度か? おいおいふざけんじゃねぇぞ! もっと気合入れろや!! 俺を殺したくねぇのか!!」

 

「殺す! 主様を殺す!! 伊吹と一緒に絶対にコロス!!」

 

 

 四季音妹の拳と影人形の拳がぶつかり合うと周囲に衝撃が広がり、いつもの様に吹き飛んでいく。もはや当たり前となったキマリス領が吹き飛ぶ光景とはいえ流石にそろそろ親父が気絶しそうだな……やめないけど。だってこの場所って地双龍の遊び場だしね! というよりも流石鬼……ルーン文字付加状態の影人形を若干後退させるとは恐ろしいな! でも「(エオロー)」と「(エイワズ)」を刻んだ影人形の拳の硬さには流石の鬼でも堪えたようだな……距離を取った四季音妹が殴った腕を若干庇うような仕草をしてるところを見ると衝撃で痺れたな。そりゃそうだ、なんせ北欧の防御魔術にルーン魔術、相棒の影によって影人形自体の防御力が格段に上がってるから当然と言えば当然だ……自画自賛だがこれを超えられるのは夜空か寧音レベルのパワーを持った奴ぐらいだろうね!

 

  雄叫びを上げながら四季音妹は全身から赤紫色のオーラを放出する。犬月が編み出したモード妖魔犬……いやこれは犬月専用の名称だから妖魔放出か。体中から放出されたオーラは見ただけで凄いと分かるぐらいの量と濃さだ……流石に四季音姉のように静かに放出や平家みたいにバランスが良く放出は出来てないか。いや、分かってたけどさ! 考えるのが苦手な四季音妹にそんな高等技術が出来るとは思ってなかったよ! でもさ……なんで初期の犬月以上のオーラを放出して安定してんの? 哀れ犬月、頑張れ犬月。四季音妹にすら負けるとは流石の俺でも思ってなかったわ!

 

 

「やっぱりイバラには私みたいに静かに放出は難しいかねぇ。この分だとスタミナの消費が激しくて長持ちしなさそうだ」

 

「そうなの。ごめんなさい。伊吹の様にちゃんとできてない。簡単だと思ったら難しい。だから限界まで頑張った。伊吹、怒ってる?」

 

「にしし! 怒ってるわけないさ! これはこれでイバラらしいから気にしないよ! それじゃあ私もそろそろ参加させてもらおうかねぇ~行くよノワール、殺しちゃっても恨まないでね」

 

 

 先ほどまで観戦していた四季音姉が赤紫色のオーラを静かに放出しながら四季音妹の傍までやってきた。前までなら何とも思わなかったけど……これって寧音譲りの才能だよな。あの人も派手に放出するよりも静かに放出して一気に爆発させるタイプだしさ。しっかし模擬線とは言え妖魔放出状態の鬼二人、しかも酒呑童子と茨木童子を相手にするって滅多に無い事だよな……俺としては最高だけども! いやぁ! 眷属にして本当に良かったわ!

 

 

「はぁ? お前程度のパワーで死ぬわけねぇだろ。俺を殺したかったら寧音以上のパワーで来いよ! 真正面から受け止めてやっからさ!」

 

「言ったね? じゃあ遠慮なく行くよ。イバラ!」

 

「うん。頑張る!」

 

 

 目の前で仲良く並んでいた二人が消え、俺の左右から異常なほどの威圧感が迫ってくる。即座に影人形を左右に展開して拳を放つと――周囲を吹き飛ばすほどの衝撃と轟音が俺を包み込んだ。鼓膜が破けるんじゃないかと思えるほどの轟音と衝撃を放ったのは先ほどまで目の前に居た鬼達……右から襲い掛かってきた酒呑童子の拳を受け止めた影人形は半壊し動くたびに身体が崩れていき、左から襲い掛かってきた茨木童子の拳を受け止めた影人形は片腕だけヒビが入っている。ちっ、頭では理解してたが四季音姉の破壊力がヤバいな……! 防御力底上げ状態の影人形を半壊させるのかよ! ゼハハハハハハハハハ! あぁ、最高だ! 最高に良いなこれ!! これだよこれ……! 夜空のようにトンデモナイ破壊力で迫ってくれないと面白みがねぇんだよな!!

 

 自らが放った拳を受け止められた鬼二人は笑みを浮かべてラッシュを放ってきたので応戦する。影人形のラッシュタイムを放つと同時に四季音姉妹の妖「力」と魔「力」を奪い取るが火力が下がる気配は一切無い……それどころか逆に上がってねぇか? あぁ、そうかよ……! そういう事か!!

 

 

「――ゼハハハハハハ! やるようになったじゃねぇか水無瀬ちゃんよぉ!」

 

「当然です! 私はノワール君の僧侶ですから! 花恋! 祈里! 反転結界は発動してますからドンドン殴って!」

 

「にしし! 了解だよめぐみん!」

 

「先生。ありがとう。頑張る。もっとガンバルゥ!!!」

 

 

 四季音姉妹とのラッシュを捌きながら視線を下へと向けると黒のドレスを身に纏った水無瀬がいた。まさか寧音との殺し合いで利用した地面に映る俺の「影」を利用されるとはな……やっぱりこれって初見殺しだわ! でもまぁ、これはこれで楽しいから問題ねぇ!

 

 俺の意識が水無瀬に向いた一瞬を狙ってか四季音姉は半壊状態の影人形を裏拳で崩壊させ、一気に俺の眼前まで迫ってきた。その笑みは子供のように楽しそうだが放たれた一発は異常に重い……通常状態とはいえ俺の鎧にヒビを入れた上に衝撃を生身に直に叩き込んできやがったから体中の骨が酷い状態になりやがった。あぁ、いってぇなぁ……! なぁ、おい、マジでイテェからやり返すぞ!

 

 背中に生やしている影の翼を伸ばして四季音姉の腕を拘束する。もっともコイツ相手にこんな手を使っても一瞬で引き千切られるが――その一瞬があれば良い。動きが止まった僅か数秒にも満たない時間を狙って崩壊した影人形の拳だけを再生、そのまま胴体に拳を叩き込んで地面に落とす。でもダメージなんて殆ど無いだろうなぁ……戦車の防御力ってマジで高いし妖魔放出状態の四季音姉は俺並みに硬いからな。そう、まるで自分の胸のように壁なんだ……泣けるな! 実の親から永遠に小さいと言われた四季音花恋ちゃんマジで哀れ。ちなみに四季音妹の方も影人形のラッシュタイムを浴びせて同じように地面に叩き落しました! 流石にこの二人が相手でも苦戦なんかしてたら夜空に殺されるしね。

 

 

「……ノワール、今、なんか変な事を思わなかったかい?」

 

「鉄壁と絶壁って似てるよなとは思った」

 

「にしし! よしそこを動くな、今すぐ可愛い鬼さんの重い拳を叩き込んでやる」

 

「痛いからマジ勘弁。たくっ、いくら再生するって言っても全身の骨が粉砕されるのって痛いんだぜ? 加減ぐらいしろよ」

 

「それをやったら主様は怒る。全力を出さないともっと怒る」

 

「当然だろ? 殺し合いで手を抜いたら許さねぇ。このまま続けても良いが他の奴らの休憩が終わったようだし交代だ……ホントになんで一緒に特訓しないとダメなんだよ」

 

 

 地面に降りて四季音姉妹と水無瀬と一緒に遠く離れた観戦席……と言う名の安全空間へと移動する。そこには休憩中の犬月と橘、グラムとグレモリー先輩とイケメン君、男の娘な吸血鬼君を除いたグレモリー眷属と転生天使、シトリー眷属とフェニックスの双子姫が待っていた。犬月達はいつもの光景のためお疲れ様ですと普段通りだが他の面々は表情が引きつっている……うわぁ、生徒会長がマジで絶句状態なんだけど! 珍しいから写真を撮ってもいいでしょうか?

 

 つーかこの安全空間なんだけどさ……アザゼルが発明したアイテムだけど耐久力低くないか? 所々にヒビが入ってるけど改良した方が良いと思うな!

 

 

「お疲れっす。あの、いつもと違っていっちぃ達が居るんで加減してください……このくうかん、こわれかけてた、しってたけど、こわかった」

 

「脆いこの空間が悪い」

 

「だねぇ~もっと硬くしないとダメだと鬼さんは思うよ」

 

「いつも通りに戦った。壊れるなら頑丈にするべき。伊吹も主様も私も悪くない」

 

 

 そうだそうだ! いつも通りに楽しく殺し合ってただけなのに文句言われる筋合いは一切無いぞ! そもそも俺VS四季音姉妹&水無瀬の戦いを見たいと言ったお前達……というか生徒会長が悪いと思います。つーか最初に言わなかったっけなぁ……何があっても自己責任だって。嫌々付き合ってやってるのにこれ以上譲歩しろとかマジで無理。だったら他の所に行ってくださいお願いします。

 

 戻ってきた俺の元へレイチェルが飲み物を持って近づいてきたのでそれを受け取る。なんだか滅茶苦茶嬉しそうだな……まぁ、ライバルらしい平家が家で引きこもってるし当然か。しっかし体操服姿のレイチェルとレイヴェルはヤバいね! おっぱいヤバい。これは一誠君も大喜び……だと思ったらなんか引いてるんだけど? えぇ……グレートレッドとオーフィスの力で作られた肉体になったんだから共感してくれてもよくないか? ワクワクしようぜ! 人型のドラゴンになったんだからそれぐらいはしても良いだろう!

 

 

「サンキューレイチェル、しっかし当面の問題は四季音妹の昇格のタイミングか。妖魔放出に関しては本人に任せるが昇格ぐらいは自由に出来るようになってもらわないと困る。戦車一択ってのも悪くは無いが選択肢は多い方が良いしな」

 

「頑張る。でも考えるの苦手。兵士の昇格は難しい。どうすれば良いか分からない。慣れてきたけどまだ難しい。どのタイミングで昇格すれば良いか分からない。でも頑張る。主様と伊吹のために頑張る」

 

「おう。お前の場合は言葉で教えるより実戦あるのみの方が分かりやすいだろうしな。だからいつでも付き合ってやるから何度でも向かってこいよ? 俺的には鬼を相手にするのは楽しいしな! つーか四季音姉……お前、防御極振り状態の影人形を半壊させるってどんなパワーしてんだ?」

 

「これでも鬼勢力の次期頭領だよ? あの程度なら余裕さ。でも完全に破壊できなかったのは悔しいねぇ、母様の元で修行でもした方が良いかい?」

 

「好きにしろ。俺としては親子で挑んできても良いぜ? そっちの方が面白そうだ!」

 

「……良いねぇ! にしし! 母様と一緒に戦うなんて滅多に出来ないんだ、なんせ母様の拳一つで大抵の鬼は沈んでたからね。でもノワール相手なら問題無いから楽しめそうだ! でもノワール? 母様に変な視線を向けたら潰すよ」

 

「向こうから迫ってきたらどうすんだ?」

 

「とりあえず潰すさ」

 

 

 俺の大事な部分を意地でも潰す気かお前は……やめてください! 再生すると言っても限度があります! きっと! 死ぬほど痛いだろうから本当にやめてくださいお願いします!

 

 そんなやり取りをしつつスポーツ飲料を飲みながら四季音妹を撫でていると何かを言いたそうな視線を向けてくる姉の姿があった。いやだって可愛いだろ? 自分の駒の特徴である昇格をどうすれば上手くなるかを必死に考えてるんだぞ? なんというか……和む。まさか癒し系枠になるとは思わなかったね! あと頭撫でると可愛い反応をしてくれるから余計にそう思うわ! 悔しかったらお前も同じことをして見せろ……その時は盛大に笑ってやるから。

 

 

「……犬月」

 

「ん? いっちぃどしたー?」

 

「あのさ、黒井って何時もこんな特訓をしてるのか……?」

 

「そうっすよ。今回は俺達が観戦してたから加減した……と思いたいけどきっとしてないね。うん。とりあえず何時もこんな感じっすよ? この前は俺と引きこもりとしほりんとグラムで挑んだけど影人形の防御を突破出来なくて返り討ち……ここ最近の王様って硬すぎんだよなぁ。殴っても逆にこっちが痛くなるし」

 

「マジかよ……その、怖くないのか?」

 

「全然。だって殺し合いってこんな感じっしょ? むしろ俺も王様と同じで加減されるとカチンってくるしね。てか……茨木童子! お前……お前……! なんで俺よりも多い量で制御できてんだよー! なにやった?! どうやった!? ちょっと戦って教えやがれ!」

 

「待て犬月、次は私との打ち合いだろう。約束を破る気か?」

 

「あ、いや……そーだった。悪い由良っち、んじゃ茨木童子! これが終わったらな! ぜってぇぶっ倒すからな!」

 

 

 俺達の戦いが終わって空いたフィールドに犬月とゆ、ゆ、シトリー眷属の戦車ちゃんが向かって行った。思った通り、四季音妹の妖魔放出を見て犬月がテンション上がってやがるな……気持ちは分かる。だって自分が使う技を別の奴が使い、しかも上位互換なら滅茶苦茶嬉しいだろう。だってまだまだ上に行けるって分かるしさ! 頑張れ犬月、負けるな犬月。あと……お前らさっさとくっ付けや。何回組手すれば気が済むんだよ……これで何回目だっけ? 軽く二桁ぐらいは行ってんじゃねぇかな……覚えてないからもしかしたら違うかもしれんが。

 

 

「パシリ。怒ってた。分からない。何か悪い事をした?」

 

「気にしないで良いぞ。とりあえずアイツとの殺し合いは妖魔放出を使っておけ」

 

「分かった。全力で倒す。頑張る」

 

 

 やっぱり可愛い。妹は最強属性だって言われる理由が分かるわ。

 

 

「……なんだい、私にはそんな事はしないのにイバラ相手にはするのかい……む、胸はこの際諦めても良いから身長、身長さえ伸びればきっと……!」

 

 

 嫉妬に狂う酒呑童子ちゃん(お姉ちゃん)可愛いです。

 

 

『我がオうよ! つギはわレらの出番だナ! わかるゾ! でゅラんだルとのたいけツだな! さぁ、使うがイイ!!』

 

「ヤダ、メンドイ」

 

『なゼだ! はオうの剣たるこのワれラを何故使わヌ!! 我がおウよ! 早くわレらをつかエ!!』

 

「使えって言われてもなぁ、俺達だけだったら問題無いが今回は邪魔……コホンコホン、一緒にトレーニングしたいって言う馬鹿な奴らが居るからお前を使ったりなんかしたら死人が出るぞ? 主にドラゴンを宿してる男二名辺りがな」

 

『ならバ問題なイだろう。我ラは龍ヲこロす(愛する)剣なのダからナ!』

 

「……それもそうか。よし! ちょっと鬱憤晴らすついでに一発デカいのやるか! 大丈夫大丈夫! 天龍と龍王だから死なない死なない!」

 

「待てえぇぇっ!! ちょ、く、黒井ぃぃ!! おま、お前! なに放とうとしてんだぁ!?」

 

「え? 影龍破だけど?」

 

「それりゅうごろしぃ!! 俺も兵藤も死ぬからやめて!」

 

 

 むむっ、匙君に土下座されちゃったら放つわけにはいかないな。でもさーこれぐらいは許してくれないかな? だって本当ならこの三眷属合同トレーニングを断りたかったんだよ? なんでこっちの情報を他の眷属に教えないとダメなんだよって話だしさ。ついでに言うと友達ですらない連中と一緒に特訓とかしたくないんだよなぁ。それだというのに生徒会長め……魔王特権というチートを使いやがって! セラフォルー様から依頼されたら受けるしかないだろ悪魔的に! あとついでに何故か一誠君のお家に住み始めた黒猫ちゃんからも頼まれちゃったからしょうがないねー! だって腋を見せながらお願いされたら断るなんて選択肢は存在しないだろ? いやぁ、貴方様の腋は最高で素晴らしいものでしたありがとうございます。

 

 ちなみに頼んできたのがもう一人のシスコン魔王だったら即効で拒否ってました。俺を最上級悪魔にした罪は重い……滅茶苦茶めんどくさいんだからなこの称号! 死ねばいいのに。

 

 

「――んで? 何時まで観察してる気だ?」

 

 

 チラリととある男……の背後にいる女に視線を向ける。灰色の髪をした体格の良い男の後ろに隠れている中学生ぐらいの女。どくろの仮面を被り、服装も冥府の死神のような恰好だが何と驚くべきことに本当に死神らしい。ただ純粋な死神じゃなくて人間とのハーフらしいけどな……それは置いておいてなんでこの子に警戒されているかと言うと――魔獣騒動時に夜空と一緒に冥府で暴れた際に親父さんをぶっ殺してたみたい。それを生徒会長から聞かされた時はちょっとだけ驚いたけど俺と夜空の殺し合いに入ってきた方が悪いから特に気にしてない。そもそも悪魔で邪龍だから恨まれるのも仕事の内だしな!

 

 しかしこのハーフ死神ちゃん、仮面を取ったらそれはもう美少女なんだよね! しかも体格通りのロリ娘! そして俺への恨み持ちとか最高じゃねぇか! 狙うつもりは全く無いけど。ちなみにシトリー眷属になった理由というか経緯は俺と夜空が暴れ回ってる時に親父さんを含めた死神達によって冥府から脱出、そのまま逃げ続けていたら生徒会長と出会ってそのまま保護されたようだ。その恩を返すため……いや復讐のためかねぇ? その辺りは分からないが生徒会長の空いていた騎士として転生したそうだ。

 

 余談だがこの三眷属合同トレーニング開始時に紹介された際、四季音姉妹を除いた面々から酷い視線を向けられたのは言うまでもない。いや、だって……最初に襲ってきたのは死神だし……夜空との殺し合いが楽しかったんだもん。

 

 

《影龍王が隙を見せるまでですぜ。いつか必ず……その魂をあっしの鎌で刈り取ります》

 

「おーそれは楽しみだ。いやぁ最高だな! 俺を殺しに来てくれる奴がドンドン増えてるぜ! 別にいつでも襲い掛かってきても良いが死ぬ覚悟だけはしておけよ? 生徒会長の眷属でも俺には関係無いからな。あとついでに言っておくが――俺を殺せないからって身内に手を出してみろ、楽に死ねると思うなよ」

 

 

 邪龍スマイルでハーフ死神ちゃんを見つめると大男の後ろに隠れてしまった。なんというか……子供を虐めているみたいで楽しくないな。てか大男くんもさり気なく庇ってるし……イケメンですね!

 

 

「……あまり私の眷属を虐めないでもらいたいですね」

 

「虐めてないでーす。遊んでるだけでーす。これぐらいは許してもらえません? 三眷属合同で特訓とか本気で断りたかったんですからね」

 

「リアスがルーマニアに行った今、この町には私とキマリス君しか眷属を指揮する人が居ません。各々の特徴を把握しておきたかったんです……あと、人工神器と戦場の空気に慣れるためにキマリス君達の存在が必要でしたから」

 

 

 生徒会長が言う様に現在、グレモリー先輩はイケメン君、男の娘な吸血鬼君を引き連れて吸血鬼達が住む場所へと向かっているのでこの町にいる王は俺と生徒会長しかいない。アザゼルも吸血鬼……カーミラと話をしに行くとかで同じように不在だ。もっともカーミラ派の大使としてきたえ、エレなんとかさんとの約束のおかげでかなり楽に話が進むだろうとは言ってたけどね……まぁ、頑張ってくればいいんじゃないかな! 俺達は全くと言って良いほど関係無いからどうでもいいし!

 

 

「そりゃまた便利屋家業が捗りますね。犬月達がやる気出てるので文句はあまり言いませんけど……見た感じ、神器のように派手なパワーを出すよりも使い勝手優先っぽいっすね」

 

「えぇ。アザゼル先生が言うには応用性に特化させているそうです。ただ……長時間の運用は出来ないという弱点がありますけどね」

 

「当然でしょ。聖書の神が作った玩具と同じものを作り出すなんて何十年何百年もかかっていいでしょうし。まぁ、頑張ってくださいとしか言えませんけどね」

 

 

 そんなこんなで楽しいのか楽しくないのか分からない合同トレーニングも終わって数日後、俺は平日だというのに学園には行かずにある人物と一緒にとある場所へと向かっていた。本当ならば蛇女の仕事なんだが復興作業で人手が足りないため止む無く俺が出張ることになりやがった……別に嫌じゃないから文句は無いけど仕事しろよ。

 

 

「ごめんね、ノワール。いつもならミアが一緒にきてくれるんだけど忙しいみたいなのよ」

 

「気にすんな。学校に行っても暇だったし合法的にサボれるんならいくらでも付き合って……イテェなおい」

 

「ダメよ。学生って長いようで短いんだから色んな思い出を残さないと後で後悔するの。もうっ、聞いてるの?」

 

「はいはい聞いてますよー冗談ですよー楽しい学校生活を送ってますよー」

 

 

 手を繋いで歩いている人物は俺が大好きな片霧夜空ちゃん――だったら嬉しいが残念なことに我が弱点ことお母様です。俺達が向かっている場所は母さんが通院している病院だ……と言っても病気になったとかではなく足が不自由だからリハビリのために通っているだけだ。別に人間界の病院に通わなくても冥界の病院でも良いだろうと思いたくもなるが残念な事に母さんは普通に人間だ……ただでさえ純血悪魔の妻ってことで陰口を言われてるってのにそんな場所に行ったら何されるか分からん。もっとも俺の名前というか相棒の異名がデカくなってきたからその辺は改善されてるとは思うけどね。

 

 母さんの手を握って歩く速度に合わせてゆっくりと歩いていく。駅から病院までは少しばかり距離があるからタクシーを使えばいいのに俺と一緒に歩きたいという我儘……要望を言いやがったから仕方なく! 仕方なく付き合ってるだけだ! あぁ、クソが……ただでさえ片足があまり動かないのにこの距離を歩くから疲れがたまってきてるじゃねぇか……! 仕方ねぇなぁ!

 

 

「……背負ってやるから身体預けろ」

 

「ノワール……それじゃあ、お願いしようかしら。お、重いって言ったら怒るわよ!」

 

「アホ。流石の俺でも重いと言ってまーたあの地獄のダイエットに付き合わされるのはご免だっつの」

 

 

 並んで歩くのをやめて母さんを背負う。年齢に不釣り合いなほどの素晴らしいおっぱいの感触が背中に広がっているが無視だ無視。つーか軽いな……ちゃんと飯食ってんのか? 太るからって理由で食べてないんだったら本気で説教するぞ?

 

 

「軽すぎじゃねぇか? ちゃんと飯食ってるのかよ」

 

「食べてるわよぉ。毎日おいしい料理のせいでお腹周りが大変なのよ? でもノワールに軽いって言われてお母さん嬉しいわ。背中もこんなに大きくなって……月日が経つのは早いわね」

 

「もうすぐ高校三年になるんだぞ? 月日が経ってて当然だろうが。悪魔の俺からすれば大して時間が経って無いようにも感じるけどな」

 

「私は人間だから「まだ十年」が「もう十年」と思っちゃうのよ。はぁ、年々体力が落ちてきてるし年は取りたくないわ」

 

「……お婆ちゃんに一直線ってか、ってぇなおい! 冗談だ冗談! はいはい、お母様はまだお美しいですよーだ」

 

「もうっ、ネギ君に似ないでそんな事ばっかり言うんだもの。罰として息子成分の補充をさせて頂戴……こうして背負われるのは中々無いんだもの」

 

「もうすきにしろよぉ」

 

 

 そんなわけで母さんを背負って歩くこと十数分。やっと目的の病院へとたどり着きました! はぁ……ヤバイ、背中に感じる感触がヤバい、ヤダーノワールくんってばマザコーン! マジでこれ四十代のおっぱいの感触なのか? 年齢詐称とかしてません?

 

 まぁ、そんなどうでも良い事は置いておいて受付を済ませて俺は待合所で待機、母さんは顔なじみの主治医やらなにやらと一緒に別の場所へ向かって行った。一応念のため母さんの影に影人形を仕込んで何かあっても俺が気付けるようにはしたが……気にし過ぎか? いや、今までの俺の行いを思い出してみればこれ以上の対策をしても許される気がする。だって嫌われ者のノワール君の弱点だしね。

 

 そんな事を思いながら自販機で買ったジュースを飲んだり、スマホで適当なサイトを見たりと数十分待っていると――事件が起きやがった。何が起きたかなんて言いたくはない……! あぁ、クソが……対策しててもやりやがるかぁ……!!

 

 

「――上等だよクソ野郎。何処のどいつだ、俺に喧嘩売りやがったのは……!」

 

 

 周りに聞こえないように静かに呟く。どこの誰かは知らないが俺の弱点を攫って行きやがった……! 影人形を母さんの影に仕込んでて本当に良かったぜ……! でもその瞬間を察する事が出来たけど止めることまでは出来なかったのがムカつくな……! 誰だよ、誰が転移させやがった……? 周りに気づかれることも無くただの人間である母さんだけを転移させ、影に仕込んだ影人形を機能停止させると言う芸当を同時に行ったやつは何処のどいつだ……!!

 

 

《――その質問に答えよう。我らだ》

 

 

 男の声がした。つい数分前にこの待合室にやってきた男だ……褐色肌で今時の若者が着るような服装のイケメンが俺に話しかけてきた。へぇ、面白いじゃねぇか。隠れもしないで態々殺されに来るなんてな。

 

 

《待った。ここで争う気は無い、場所を変えたい。良いかい? ()()()

 

『あぁ、良いぜぇ。久しぶりに話そうじゃねぇか――アポプス』

 

 

 アポプスと呼ばれた男と一緒に病院から出る。試しに母さんの事を看護婦やら受付に聞いてみたが……そもそも今日は来院していないとか言いやがったのには驚いた。この場所にいる全ての人間の記憶を書き換えたとでもいう気かよ……! でも最高な事にイラついてはいるが頭は冷静だ。弱点(母さん)が攫われたってのにこの態度はどうなんだって自分でも思うが――今すぐにでも世界を滅ぼしたい気分だから仕方が無いんだよ。

 

 

《驚いた。かの人間は大事な存在では無かったのか? 酷く冷静、いや逆鱗寸前か》

 

「さぁな。どうでも良いだろそんな事は。で? 邪龍の筆頭格様が俺に何の用だ」

 

《なに、下らない作戦に従わざるを得なくなって我らもうんざりしているのだ。だから少しばかり仕返しをしようと思ってね。それに久しぶりの現世、懐かしい友に会いに来たかったとも言えるかな》

 

『ゼハハハハハハハハハッ! あぁ、俺様も会いたかったぜ。久しぶりじゃねぇのアポプスよぉ! なんで生き返ってやがるとは聞かねぇでおいてやるよ。宿主様、少しばかりコイツと話をさせろや……()も久しぶりにキレてるんでな。アポプス、言えよ。どこの馬鹿がこんな馬鹿な事をやりがったんだぁ?』

 

《……蘇ってみるものだ。そうか、珍しい。ならば答えないといけないか。下等な魔法使いと狂った悪魔がくだらない催しをしようとしただけのこと。我らは反対だったがな。そんな事をするよりも正面からぶつかった方が我ら邪龍らしいというのにこの仕事だ。泣けてくる》

 

『泣けばいいだろう。その怒りを他所にぶつけるのが俺達だろうが。そうか……魔法使いと悪魔か。ゼハハハハハハハハハハハハ! あぁ、久しぶりだぁ! ゼハハハハハハハハハ!!!!』

 

 

 相棒、そうかよ……お前も怒ってくれるんだな? 流れ込んでくる……相棒の怒りが、俺の怒りと混じり合ってくる。ありがとう、相棒。

 

 

《我ら邪龍は暴れる事はしてもこのような手はあまり使わん。アジ・ダハーカもこの仕事以外は関与する気は無い。これは言わなくても分かっているだろうからこれ以上は言わないが、これから楽しくなるぞ。クロム》

 

『あぁ、テメェと久しぶりに話せてよかったぜ。アポプス、今日の俺は機嫌が良いから見逃してやるが――次はねぇぞ。その体に痛みを与えてやったのが誰だと思ってやがる? 忘れたわけじゃねぇだろうな』

 

《勿論だ。現世に蘇った身だ、久しぶりに味わってみたいものだよ。あぁ、珍しく逆鱗に至ろうとしているクロムを見れた礼として教えよう。かの駒王学園、そこを襲撃している。勿論、あれを囲っている結界は破壊させてもらった》

 

「そうかよ。で? それがどうしたんだよ」

 

《何も無いさ。ただ、本当に珍しい事なのでね。クロムが逆鱗に至るなど滅多に無い状況だから興奮してしまったと言っておこう。では帰らせてもらうよ、話せてよかった。また暴れよう》

 

『おうよ。また暴れようぜ、アポプス』

 

 

 それを言い残してアポプスと呼ばれた男は姿を消した。討伐された邪龍にして筆頭格の一体か……やけに人間染みてたが今はどうでも良い。魔法使いと狂った悪魔か、上等だ。今までの仕返しと思ってやった事だろうが覚悟は出来てるってことで良いな。タノシイナァ。

 

 笑みを浮かべながらスマホを取り出して平家に連絡すると駒王学園が襲撃されたと聞かされた。どうやら先ほどの言葉は嘘ではなく本当に襲撃してたとはね。こんな事なら平家を学園に行かせておけばよかったがたらればの話をしても仕方がない。てかもうどうでも良い。フェニックスの双子姫が攫われたようだが俺には関係ない。母さんのついでに助ければいいだけの事だ。平家に母さんが攫われたと伝えると一瞬だけ無音になり、イライラしている口調へと変化した。あぁ、お前もか。奇遇だな……俺も今、同じ気分を味わってんだよ。

 

 

『――どうするの?』

 

「全員を集めろ」

 

『分かった。ねぇ、ノワール……怒ってる?』

 

「んなわけねぇだろ。今の俺の気分を教えてやるからよーく聞けよ」

 

 

 今の気分はそうだなぁ。

 

 

「――魔法使いを皆殺しに出来る事にワクワクしてる」

 

 

 この世から魔法使い全てを消してやるから覚悟しておけよ。




観覧ありがとうございました!

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