ハイスクールD×D~地双龍と混血悪魔~   作:木の人

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86話

「――さて、ノワール・キマリスくん。この場に呼ばれた理由は理解しているかな?」

 

「えーと魔王様。正直、思い当たることが多すぎてどの件で呼ばれたのかさっぱり分かりませんので教えていただければありがたいでーす」

 

 

 魔法使い達が駒王学園を襲撃した翌日、俺は冥界のルシファー領内にある高級ホテルに訪れていた。最上階にある豪華な一室には俺と魔王サーゼクス・ルシファー、女王のグレイフィア・ルキフグスとミニドラゴン化しているタンニーン様の四人……呼ばれた理由なんてどう考えても昨日の一件だろうなぁ。流石に魔法使い達の協会を襲撃して壊滅させたのは拙かったかね? でもあれぐらいしないと今後、同じような事を考える馬鹿共に理解させれないから必要だったと思うし俺は悪くない。だって最初に手を出してきたのは「魔法使い」だ。喧嘩を売ってきたのがはぐれ魔法使いだろうと真っ当な魔法使いだろうと関係無い……悪魔で邪龍な俺に喧嘩を売ってきたならぶっ殺す。巻き込まれた奴らは……ドンマイ!

 

 しっかしにこやかに笑っている魔王が怖い。その後ろに佇んでいる年増女王も怖い。そして何よりもミニドラゴン化してるのに威圧感がヤバいタンニーン様マジ怖い! そういえばこの人ってメフィストちゃんの女王だったっけ……主を襲われてイライラしてるだろうな! 殺し合いなら大賛成だからいつでもどうぞ!

 

 

「本当に身に覚えが無いのかい?」

 

「はい。だって好き勝手に生きてるから何が原因で魔王様やタンニーン様と対面しているのか全然分かりません! えーとあれですか? 魔王様に黙って鬼の頭領と殺し合いをしたことですか? それとも吸血鬼との会談の件? それじゃなかったら……冥府で大暴れした件? もしかして普段から行ってる夜空との殺し合い? それでも無いなら……すいません、マジでどれですか?」

 

「ノワール・キマリス。ふざけるのも良いが真面目な話だ……! クロムのような真似はやめろ」

 

「……はぁ、魔法使いをぶっ殺した事ですよね? 軽い冗談ですよ、冗談。しっかりと身に覚えがありますから安心してください。で? それが何かありました?」

 

 

 うわっ、タンニーン様がマジ切れ寸前だ。デスヨネー! 知ってました!

 

 

「ノワール・キマリスくん。キミは光龍妃と共に魔法使い達の協会を襲撃したね? しかもメフィストが運営する灰色の魔術師だけではなくそれ以外の場所もだ。どれも被害は尋常ではないものだよ……灰色の魔術師は立て直す事すら出来ないほど酷い状況で解体を余儀なくされ、理事をしていたメフィストも精神崩壊を起こして表舞台には出てこれない。黄金の夜明け団、薔薇十字団も同じだ……所属していた無関係な魔法使い達がキミ達二人によって虐殺されて組織として今後も続けていけるか分からない。何故、このような事をしたのか教えてもらえないだろうか?」

 

「何故って喧嘩を売られたからですけど? メフィストのジジイが発表したランキングを見て俺達と力試しがしたいって理由だけで喧嘩を売ってきた。本来なら力を恵んでもらう相手である悪魔を軽視しただけじゃなく、テロリストと手を組んでフェニックスの双子姫や一般人を誘拐……ほら、ここまでされたらぶっ殺すしかないでしょ? 関係あるとか無関係とかどうでも良いんですよ。魔法使いは魔法使いですし――悪魔に手を出しても殺されないなんて軽い気持ちで喧嘩を売ってきた奴らが悪い」

 

「……本気でそのような事を思っているのかい」

 

「えぇ。だって俺は悪魔で邪龍ですよ? 好き勝手に生きて、ムカつく奴はぶっ殺して、邪魔するなら徹底的に破壊して、自分の欲望優先で行動する最低最悪な存在ですからね。半分は人間ですけどもう半分は悪魔、好き勝手にやりたい事をして何か問題でも? 魔法使いが喧嘩を売ってきたなら魔法使いをぶっ殺しても何も問題無いはずだ……むしろ感謝してほしいですね。誰もやらないから俺が代わりにやってあげたんですから。メフィストのジジイに関しては……ご愁傷様としか言えませんね」

 

 

 むしろ殺さなかっただけ感謝してほしい。まぁ、最初から殺さないつもりだったけどさ! だって生きててもらわないと困るからさ……ノワール・キマリスの周りに手を出したらこんな目にあいますと教えるためにもな。でも魔法使い狩りも最初は楽しかったけど最後の方は飽きてたんだよなぁ……俺達に挑もうという勇敢な魔法使いは一人もいなかったしさ。てか魔女の夜も襲撃したけど在籍しているらしい聖十字架が出てこなかったのにはイライラしたわ! 聖遺物の炎ってのを味わってみたかったのにさ! 夜空が言うにはテロリスト側に付いているらしいから今後、もしかしたら出会う機会があるかもしれないしその時まで楽しみにしておこう! ただ心残りがあるとすれば途中で母さんから連絡が入って止められた事か……あれさえ無ければもっと殺せたんだけどなぁ!

 

 

「それで? 俺はいったいどうなるのか教えてもらえませんか? やりたい事をやっただけで反省はしてないですけど罰を与えに来たんですよね? このウザったい最上級悪魔の称号の取り消し? それとも(キング)としての地位を剥奪? それでも別に構いませんよ。必要ないですし」

 

「必要ない、か。では聞かせてもらえないだろうか……何故必要ないのに眷属を増やしたんだい。その立場に拘らないのであれば悪魔の駒を返却しても問題無いはずだ」

 

「何故かぁ……まー良いか。理由なんて簡単ですよ――俺を殺せる可能性がある奴らだからです」

 

「……どういう意味かな?」

 

「犬月達……眷属の奴らにも言ったんですけど将来的に俺は世界に喧嘩を売ります。俺は悪魔だから永遠に近い寿命を持ってるけどアイツは……夜空は人間だ。長くても数十年もすれば寿命で死んじまう。もしかしたら俺がぶっ殺してるかもしれないからもっと早いかもしれない。そうなると俺はただ死ぬだけを待つ存在に成り果てるから「悪」になるしかない。俺が選んだ奴らとの楽しい殺し合いの末に死にたいんですよ! ゼハハハハハハハ! これが眷属を増やした理由ですよ。ほら、簡単でしょ?」

 

 

 魔獣騒動後のパーティーで犬月に言ったことは本気だ。夜空が居なくなったら退屈な日々が続く……アイツの笑顔が見られない、アイツの声が聞こえない、新しい光龍妃も夜空並みに強いとも限らない。あぁ、想像するだけでテンションがガタ落ちしちまう……! だから「今」が楽しいんだよ。最強の光龍妃として君臨している夜空との殺し合いが楽しい! 心の底から愛している夜空との日々が楽しい! 俺が生きる理由は夜空の笑顔が見たいからだ……それが無くなったら生きている理由すら無いのは当然だろう。

 

 

「あと勘違いしてるかもしれないから宣言しておきますけど……俺は夜空と楽しく過ごせればそれで良いんですよ。仲良く殺し合って、あーだこーだ言って世間話をして、夜空が引き起こす事件を楽しんで、夜空の笑顔を見れればそれで十分なんです。タンニーン様なら分かるでしょ? ドラゴンは単純なんですよ。好きな事には全力投球してその果てに死ぬとしても構わない! 俺は夜空が心の底から笑ってほしいから生きているだけだ、地位も名誉も欲しいわけじゃない……夜空が人間らしく、普通の女の子らしく笑ってくれればそれで満足出来るんだ! 俺達の生き方を、楽しみを、触れ合いを、語らいを邪魔するなら容赦はしない!!」

 

「……ノワール・キマリス。同じドラゴンとしてお前の言葉は良く分かる……しかし! お前はあまりにも邪龍に染まり過ぎている! クロムが唆したわけでもなく……別の者の言葉に従うわけでもない! お前自らが邪龍に近づいていることに俺は恐怖を感じる!」

 

『ゼハハハハハハハハ! 当然だろうが! 宿主様はなぁ! 俺様の真の理解者よ! 悪魔が好き勝手に生きて何が悪い? 邪龍が生き方を貫いて何が悪い? お前達が許可も無く踏み込んでくるから俺様達の逆鱗に触れるのだ! サーゼクス・ルシファーよ。貴様も俺様達と同じだろうが!! 魔王でありながら自分の身内だからという理由で他の奴ら以上に手助けをしているはずだ! だったら俺様達も好きにやっても良いはずだろぉ? ゼハハハハハハハ! 自分は良くて他人はダメと言っても良いぜぇ! 悪魔らしいからなぁ!』

 

「あとついでにこれも宣言しておきます。「今」は世界に喧嘩を売るつもりはない。夜空が生きてるからな! ただこれだけは言わせてください……正しい事をしたいなら天界勢力にでもさせておけばいい。俺達は悪魔……光り輝く舞台には立てない存在ですからね。俺達は悪魔らしく「悪」であるべきだ。別に和平に反対とかは無いですよ? ただここ最近のヒーローっぽい扱いに呆れてるだけですからね」

 

 

 これは俺の持論だけどね。昔から色々と言われ続けたからこんな風に考えるようになったけどさ、間違ってるとは思えないんだよ。だって悪魔ってそんな感じだろ? 人を騙して、人を唆して、人を操って、人を不幸にして、自分の欲望のままに動く生物なんだからさ。

 

 

「――いやいや、すっげぇ~わ! そんな考えをする若手悪魔がいるなんてぼくちん、思わなかったなぁ~!」

 

 

 部屋の扉が開き、見知らぬ男が入ってきた。銀髪で髭を生やした中年ぐらいの男だ……ガキかと思えるぐらい軽い口調で俺達に近づいてくるがなんかどっかで見たことあるな? てかヴァーリにそっくりじゃね? あっ! もしかして噂のリゼちゃん!? マジでー! なんでこんな場所に来てんだよ!? うわぁ、ヤバイ。すっげぇムカつくんだけど……! 放つ言葉にイライラというよりも夜空の言葉を借りるなら生理的に無理って感じだ。でも俺の意識は目の前に現れた男ではなく扉の外に向けられている……なんだこれ……? 何も無いはずなのに何かが居る感じがする! なんか初めての感覚でちょっとワクワクしてきた!

 

 その男の登場に表情を変えたのは俺だけではなく、目の前の席に座っている魔王様達も若干イライラしたようなものに変わっている。それを見たリゼちゃんらしいおっさんはさらにテンションを上げて笑い出す。

 

 

「うひゃひゃひゃひゃ! もうっ♪ サーゼクスくんったら恥ずかしがり屋さん! ひっさしぃ~? 結構会ってなかったからぼくちんのことを覚えてるかなぁ~? はい! ぜひぜひ名前を呼んでちょー!」

 

 

 うわぁ、ウザい。

 

 

「――リゼヴィム。何故、此処にいるのか教えてもらおうか」

 

「はい正解! ご褒美としてお菓子をあげちゃおう! なーんでってきまってるしょ~? 魔法使いの協会を襲撃した若手悪魔が居るって聞いてさ! ちょー会いたくなったわけよん♪ はっじめましてだよねー? おじちゃんはねーリゼヴィム・リヴァン・ルシファーっていうんだよ~よろしくねノワールきゅん!」

 

「きゅんって呼ぶな吐き気がする。えっと、リゼちゃんって呼んでいい?」

 

「いいよいいよー! でさ~やるねぇキミ! 若いのに悪魔をよーく理解してる! 百点あげちゃう! 昨日はごめんねー? ユーグリットくんがちょーとやり方間違っちゃったみたいでさぁ~ゆるしてちょ♪」

 

「っ!」

 

 

 その名前が出た途端、年増女王の顔色が変わった。そういえば顔つきやら髪色やらが似てるような気がしないでもない……まさかのお兄様か弟様だったとか? やべぇ、普通に影人形二体のダブルラッシュタイムで原型が分からないぐらい潰しちゃったよ! うわー! ノワール君怒られちゃうわー! 殺しに来たらどうしよー! 全然問題無いわ! ドンドン来いよ! 俺様はすっげぇ嬉しいからさ!

 

 

「ユーグリット……あぁ、あの時の銀髪男か。別にもうぶっ殺したから気にしてないけど――死ねよ」

 

 

 影人形を生み出してリゼちゃんを殴ると何かが折れる音が響く――事は無かった。俺の影人形がリゼちゃんの体に触れた瞬間、まるで熱湯をかけられた雪のように溶けて消滅した……知ってはいたがこれが神器無効化能力か! マジで効かねぇのかよ……! でもなんとなく分かった。次は殴れる気がする! きっと! タブンネ!

 

 

「いきなり殴ってくるとはぼくちんショックだね! うひゃひゃひゃ! でも残念ながら神器に絡むものなら効かないよ~ん! でもすっげーわ。容赦なく殺しに来るとかマジ邪悪! ねぇねぇノワールきゅん、こっちに来ない? 好きな事を好きなだけ出来るよー?」

 

「生理的に無理だから遠慮させてもらうわ」

 

「うわー男にまで生理的に無理って言われちゃったよ。そんなに加齢臭するかなぁ~しょうがないにゃー今回は諦めるよん。でもでも今後も頑張ってちょ! 同じ悪魔として応援してるぜ! 悪魔は悪であるべきだ……まさにその通りだ。正義とか正しい事なんざ俺達には無関係! 好きな事を好きなだけやっても良いじゃんねー! サーゼクスくん達は頭が固いから色々と苦労してるんだよ~少しは柔軟になっても良いんじゃないのー?」

 

「……これでも柔軟な方だよ。さて、姿を消した貴方が彼にどんな用ですか?」

 

「もう警戒しなくても良いのにー! うちのマスコットガールが会いたがったみたいでさ~おっかしいんだよねーそんな感情はつけてないはずなのにさーでもでも良いか! どんなお姿かとーじょーさせようか! リリスたんかもーん!」

 

 

 リゼちゃんの声が響き渡ると扉から少女が入ってきた。黒髪ロングで黒のドレスを纏った少女……あれ? オーフィス、じゃないな。姿と雰囲気は似ているが別人だ。でもなんでオーフィスのそっくりちゃんがリゼちゃんと一緒に居るんだ?

 

 

「どうどう♪ うちのマスコットガールのリリスたん! 名前が必要だったからママンの名前と付けてみたんだーうひゃひゃ! マザコンって言われちゃったらどーしよー! さてさてサーゼクスくん、今回はノワールきゅんと話がしたかったから来ただけだよ。ほら、俺が居なくても冥界は回ってるだろ? 乳龍帝おっぱいドラゴンだったっけぇ~? あれちょーウケるからドンドンやってよ! ちゃんと円盤も買ってるしさ!」

 

「……悪魔の母、リリスの名をその少女に名付けて何をするつもりだ。内容によっては――」

 

「今ここで殺すってぇ? おいおい待ってよ~これでもぼくちん、吸血鬼側からVIP扱いされてんだぜ? 別に殺し合っても良いけどさぁ~この子、オーフィスの力を持ってるからコテンパンにやられるのはそっちだぜ?」

 

 

 なるほどな……オーフィスに似ているわけだ。底が無い……! 仮に挑んでも勝てるかどうかすら分からねぇからもしかしたらとは思ったがマジかー! やべぇ、殺し合いたい!

 

 

「ついでにねーノワールきゅんを助けに来たんだー♪ 影の龍にはむかーし世話になったしー? 将来有望な悪魔を消すわけにはいかないもんねー! でもでもサーゼクスくんはノワールきゅんを処刑とか出来ないよねー! だってその子、妖怪勢力から大人気だもん♪ 言われちゃってるんでしょー? その子がいるなら和平を結んでも良いとかさ! うひょひょひょひょ! 妖怪の心を掴んだのはおっぱいドラゴンでも魔王でも無ければ好き勝手に生きてる悪魔ちゃんなのでしたー! ここで処刑なんてしたらどーおもわれるんだろーなー!」

 

「……」

 

「えっ? なんか初耳なんだけど?」

 

『いや当然だろうなぁ! 妖怪は俺様達と同じで好き勝手に生きる存在だ! 鬼の頭領も言ってただろぉ? 何もしないで和平と言われて素直に応じれないってな! ゼハハハハハハハハ! 宿主様は妖怪にモテるから当然と言えば当然の結果よぉ! 何時の時代も妖怪を手懐けるのは強者だしな! そんで久しいじゃねぇの! 俺様とユニアと殺し合った時に逃げ出した小物魔王が宿主様を助けるってか?』

 

「小物って言われちゃったよ! 実際そのとーりだから反論できねぇや♪ べっつにただ助けるのがおもしれーと思っただけよ。ここで好感度上げておけば一緒にあばれられっかなーとかは思ってないよー? んじゃ! お披露目も終わったし帰るよん♪ ぼくちんもいそがしーからね!」

 

 

 それを言い残してリゼちゃんとリリスたんと呼ばれた少女は転移でどこかへと消えていった。吸血鬼側からVIP扱いとか言ってたが……なるほど。聖杯か! てことは噂の邪龍復活もリゼちゃんの仕業かねぇ? やっぱりついていけばよかったか……いや生理的に無理だったからこれで良いや。俺は夜空と楽しく生きられれば問題無いし。

 

 

「……えっと、なんか色々と台無し感がありますけど結局俺はどうなるんですかねぇ?」

 

「……いや、保留という事にしておくよ。リゼヴィムが言った通り、キミの存在は妖怪勢力にとっても珍しいみたいだからね。和平の交渉も進んでいる中でキミを処刑すれば折角の機会を不意にしてしまう恐れがある……タンニーン、申し訳ないが――」

 

「分かっている。同じドラゴンだ、気に入らない奴が居れば殺すことはなにもおかしくは無い……! それが邪龍ならばなおさらな! だが……! ノワール・キマリス、クロム! 俺はこの件を忘れんぞ……!!」

 

『ゼハハハハハハハハ! 良いぜ! 逆鱗状態のテメェと殺し合うのも悪くねぇ! 怒りを溜めて俺様達に向かって来いよ! 正面からぶっ殺してやるからよぉ!』

 

「まぁ、そんなわけで殺し合いを楽しみにしていますよ。あとそこにいる女王様? アンタの兄か弟か身内か分かんねぇけどユーグリットって奴は俺がぶっ殺したから仇を討ちたいなら殺しに来いよ。楽しみにしてるからさ!」

 

 

 そんなわけで帰って良い雰囲気になったので転移で自宅へと戻る。リビングには犬月達が心配そうな表情で待っていたけど……別にそこまで心配しなくても良いぞ? ただ俺がやりたい事をやっただけだしな。

 

 

「おかえり、処刑されずに済んで良かったね」

 

「おう、ただいま。なーんか色々あって保留になったんだよ……処刑するって言ってくれれば魔王と殺し合う口実に出来たのにさ」

 

「いやいや……シャレにならない事を言うのはやめてくださいよ。王様と光龍妃が魔法使いの本拠地を襲撃したって聞いて焦ったんすからね!? ホント、あたまおかしい……いくらガチギレしてたって言ってもやり過ぎ、やりすぎっすよぉ……! 死んじゃったら俺は誰を殺せばいいんすか! 俺が殺すまで生きててほしいんでほんとお願いします!」

 

「……瞬君、あの、後半に言ったことは間違ってますからね……? いえ、私達の中では普通ですけど……の、ノワール君! お義母さんからお説教されてるでしょうからあまり言いませんけど勝手に死ぬようなことをしないでください……お願いします」

 

「そうです! 悪魔さんが死んじゃったら……メロメロに出来ないじゃないですか!」

 

「……志保さんがキマリス様に似てしまった……これがキマリス眷属なのは分かりますけどやっぱりおかしいですわ……!」

 

 

 うん、俺もそう思う。でもまぁ、悪魔だし良いんじゃないかな?

 

 

「別に俺達だからな問題無いだろ。あーそうだ、レイチェル? ちょっとこの後、時間あるか?」

 

「わ、私ですか……? えぇ、勿論ありますけれどな、何か?」

 

「ちょっと頼みたい事があってな。出来ればレイヴェルも交えて話したいんだが……」

 

「お姉様も? 分かりましたわ! 少しお待ちくださいませ!」

 

 

 レイチェルは携帯でレイヴェルに連絡し、俺が用事があると伝えると問題無いと返答があった事を伝えてきた。良かった……まぁ、別に後でも良いんだが出来れば早い方が良いしな。てか平家……なんだよその顔は? 気に入らないのか……って頷くの早いわ! 仕方ないだろ!? メフィストのジジイに宣言しちゃったんだしさ! あと――今までの頑張りを不意にした謝罪と今後、同じ目に合わないためにも必要なんだよ。

 

 俺はレイチェルと共に一誠君のお家へと転移する。目の前にはレイヴェルと一誠君達が居たがちょっと話があるから席を外してほしいとお願いすると快く引き受けてくれた。心なしか何か言いたそうな感じだったけど気のせいだね! 多分、魔法使いの協会を襲撃した件だろうからスルー安定だろう。

 

 

「そ、それでキマリスさま。私とレイチェルにご用件があるとのことですけど……?」

 

 

 やや緊張した表情で俺に話しかけてくる。うん、デカい。部屋着だから余計におっぱいが目立ってるね! 流石姉妹……ここまで遺伝子が一緒とは思わなかったよ! 俺で年下とか平家とか夜空とか四季音姉とか泣けばいいと思う。

 

 

「いきなり悪いな。別に後でも良かったんだが早い方が俺的には助かるからさ」

 

「はぁ……レイチェルからは何も聞いてはいませんけど話したい事があるとは聞いていますわ。どのような要件でしょうか?」

 

「……あーなんだ、今回の一件って俺が原因でもあるしさ、なんだかんだで普通に接してくれるのはありがたいからさ……えーと、あれだ、うん。俺と契約してくれないか」

 

「――はい?」

 

「――へっ?」

 

 

 二人共キョトンと何を言っているのか分からないような表情になっているが仕方ないと思う。いきなり話があると言われて会ってみれば契約をしてくれだもんな! 誰だって同じ表情になるわ! でも仕方ないんだよ……無関係なのに俺宛に来た魔法使いの契約を必死に厳選していたレイチェル、同じように一誠君宛にきた魔法使いの契約を手伝っていたレイヴェル。色々と話を聞いていたからこそ今回の一件は……二人の頑張りを無かった事にしちまった。だからその罪滅ぼしというか、あれだ、知り合いがまた変な事に巻き込まれるのを阻止したい。使い魔にでも何でもなってやるさ! ただ夜空が相手じゃないのがあれだけどね!

 

 相棒は誰かを護る感情が知りたいというだけで封印された。だったら俺も同じように二人を危険から遠ざけるために使い魔になっても許されるはずだ……誰にも文句は言わせない。俺がしたいからするだけだ。なんせ影龍王ノワール・キマリスの名は結構デカいみたいだしな! 今回の一件で俺の周りに手を出したらどうなるかを知らしめたしまぁ、俺が使い魔になったら多分大丈夫だろう。相棒も美少女姉妹に使役されるのも悪くねぇ! でも男の娘じゃないのが残念だとか言ってるし!

 

 

「あ、あのキマリス様……契約って、言いましたか?」

 

「おう。聞こえなかったんならもう一度言うぞ? 俺と契約してください」

 

「……ま、待ってくださいキマリスさま! それが、どのような意味を持つか……分かっているのでしょうか!?」

 

「当然だろ? 流石の俺でも夜空以外にこんな冗談は言わねぇよ……対価が気になるなら好き勝手にさせてくれれば良い。物とかは興味無いしな」

 

「い、いえ! そのような事を気にしているのではありませんわ! キマリスさま! そんな事をすればどうなるか分かっているはずです! なのになんで……?」

 

「そ、そうですわ! 私達と契約なんかしたら……今の立場が危うくなりますわ! 最上級悪魔が自分よりも下の悪魔の使い魔になるなんて知られればどうなるか……!」

 

「別に周りの評価なんざ興味無いんだ。それに今更だろ? どれだけ好き勝手に生きてきたと思ってる? これぐらいは普通だよ……きっと他の奴らもあぁ、またおかしくなったかって思うさ」

 

 

 そもそも邪龍だからな! 好き勝手に生きて何が悪い! でも流石に真面目筆頭の二人ははい分かりましたってならないか……デスヨネ!!

 

 

「……キマリス様」

 

「ん?」

 

「後悔は、しないんでしょうか……?」

 

「レイチェル!?」

 

「――当然だ。今まで一緒に過ごしてきたんなら分かるだろ? これが俺だ」

 

「……そうですわよね。お姉様、私は……お受けしたいと思います。お姉様も分かっているでしょう……? キマリス様は私達のために契約を申し出てくれていると。なら、それを受けなければフェニックスの双子姫の名折れですわ!」

 

「レイチェル……そうですわね。キマリスさまは変わったお方ですもの! ですけど……私はお断りさせていただきますわ」

 

「お姉様!?」

 

「だって私はイッセーさまのマネージャーですもの。謂わば使い魔のようなもの……使い魔が使い魔の契約をするのも変ですし、私よりもレイチェルと契約した方が良いですわ。キマリスさま、お心遣い、感謝します。妹をこれからもよろしくお願いしますわ」

 

「俺としては二人と契約した方がありがたいんだが……まぁ、良いか。じゃあ、レイチェル。俺と契約してくれるか?」

 

「――はい、勿論ですわ」

 

 

 その場で契約のための魔法陣を展開する。黒い光を周囲に巻き散らしながら俺は魔法陣の中で高らかに嗤う。

 

 

「ただの混血悪魔、ノワール・キマリス。好き勝手に生きて、好き勝手に死んでいく邪龍だが今後ともよろしくな、レイチェル」

 

 

 悪いな夜空……俺の契約童貞はお前にしたかったが今回だけ許してくれ。どんな時も、どんな場合も俺はお前一筋だからさ! もし文句があったら……殺しに来い! 喜んで受けて立つから!




これで「影龍王と魔法使い」編の終了です。
今回の被害は以下の通り。
・灰色の魔術師・・・所属魔法使いの大半が死亡、メフィスト・フェレスが精神崩壊を起こしたため解体。
・黄金の夜明け団・・・所属魔法使いの大半が死亡。
・薔薇の十字団・・・所属魔法使いの大半が死亡。
・魔女の夜・・・所属魔法使いの一部が死亡。
・その他魔法使いの協会・・・以下同文。

そしてフェニックス家の大勝利。

観覧ありがとうございました!

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