88話
「えーというわけで俺、ノワール・キマリスはレイチェル・フェニックスと契約して使い魔になりましたんでよろしくお願いしまーす」
魔法使いの襲撃、及び魔法使い共を虐殺してから数日が経った今日、俺は駒王学園の生徒会室に訪れていた。理由なんて単純で凄くシンプルだ――フェニックスの双子姫、その片割れのレイチェル・フェニックスと契約した事を生徒会長に報告するためだしな。本当なら生徒会長達に報告する理由は無いんだが真面目なレイチェルがどうしてもと言ってきたので腋を見せてもらうという対価を貰って仕方なく……仕方なく! こうして意味のない報告をしているわけだ。いやぁ、最高だったわ! 使い魔最高! 対価として色々と要求できるからずっとこのままで良い気がするぐらい居心地が良いというか滅茶苦茶楽しい! でも残念な事が一つだけあるんだよな……だって、だって、だって!! 対価を貰う相手が夜空じゃないんだぞ!? 夜空の腋を見せろとか! 夜空の腋を舐めさせろとか! 夜空の腋の匂いくんかくんかさせろとか出来ないとかマジで最悪だ……自分で選んだ道だから諦めがつくとしてもかなり後悔が残るぞおい……! あっ、俺の契約相手となったレイチェルだがこの場には居ない。確か今日は冥界で放送される特番に出演だったっけか? 俺と契約した事でフェニックス家も忙しくなったようでその処理に追われてるようだ……なんかゴメンね!
まぁ、そんな大事なことはひとまず置いておいて生徒会室のソファーに座りながら副会長が淹れてくれたお茶を飲みつつ先ほどのセリフを言うとあの生徒会長が眼鏡を外して呆れ顔をし始めた。なんてレアな表情! ちょっと写真撮っても良いですか? それをセラフォルー様に売ればそこそこ稼げる気がするし。
「……冥界でも大騒ぎになっていたことですから知ってはいたものの……こうして直接言われるとなんて言葉を返せば良いか分からなくなりますね」
「普通におめでとーとかで良いと思いますよ? 犬月達だってマジすかー! とか知ってたとか言ってましたしね」
「それはキマリス君達が……その、特別なだけです。本来であれば最上級悪魔、しかも
「ですね。冥界の新聞やらニュースは俺とレイチェルの契約の話で持ち切りだから騒ぎになってると言えばなってますね。俺的にはたかが使い魔になった程度で騒ぎすぎだろとは思ってますけど……てか混血悪魔風情が王になるなんて~とか言ってたくせにいざ格下の使い魔になったらこれですよ。あいつらの手首は大丈夫かって心配になりますが……まぁ、大半の理由は王やらキマリス家次期当主やら最上級悪魔やらの地位は変わんないからでしょうけどね」
「キマリス君を冥界に縛り付けるための処置でしょう。それらが無くなれば今以上に自由に動き回ると思いますから……それにフェニックス家もキマリス君の意図を理解しているからこそ冥界全土に公表したと思いますよ」
デスヨネ。もし理解してなかったら俺の所に乗り込んできて今すぐ契約を解消しろとか言ってくるだろうし。それをしなかったのはフェニックス家が得るであろうメリットがデカすぎたからこそ俺の思惑通り、隠すことなく冥界全土に公表したはずだ……てか思い返してみてもフェニックス家が得たものってデカいな。まず俺達キマリス眷属をレイチェルの一存で好き勝手に動かせるのは大きいだろう。次に好き勝手に暴れる
今回の魔法使いによる襲撃事件はメフィストのジジイが発表したランキングが原因と言えば原因だがそれ以外にも理由はある……俺達悪魔が舐められてたことだ。ちょっかいを出しても死にはしない、ただの遊びの範疇程度に思われてたから
そんなわけで俺がレイチェルと契約した事によりフェニックス家そのものが危険からある程度は護られたと言っても良いだろう……なんせ何をしでかすか分からない頭のおかしい邪龍が飼われたなんて他の勢力からすれば悪夢だろうしさ! ゼハハハハハハハ! 別に気に入らないって理由とか敵討ちだって理由で襲ってきても良いんだけどね! だって思う存分殺せるしさ!
「それこそ当然でしょ? だって自分の身内や関係者が一気に安全になるんだから公表しないわけがない。見栄と権力しか取り柄が無い貴族達の反発もあるだろうが自分の身内を一気に護るならこの手しかない……いやー流石フェニックス家の当主様だなー話が分かるお方で助かったわー」
もっともレイチェルの実家に使い魔になりました! 今後もよろしくお願いします! と挨拶しに行ったらレイチェルの親父さんが号泣してたけどなんでだろーなー! 母親の方もレイチェル相手によくやりましたとか言ってたような気がするけどマジでなんなんだろーなー! 俺様、深く考えない! なんか面倒な事になりそうだからね!
「清々しいほどの棒読みですね。私は……キマリス君の考えが全く分かりません。やることも、考える事も私の想像を超えていく……同じ若手悪魔とは思えないぐらいです」
「好き勝手に生きてるだけですよ。そもそも生徒会長達が周りを気にしすぎなんじゃないですか? 悪魔なんだし好きなことしても良いと思いますよ? というわけで今後、俺の周りとフェニックス家に何かあったら魔法使いの奴ら以上の事になるので覚えておいてください……あぁ、そうだ。生徒会長?」
「……はい、なんでしょうか?」
「……いや、どーでも良い事なんだけどさ。襲われた生徒達は問題無い、で良いんだよな? いや水無瀬から報告は受けてるんだが一応念のためな。いやどーでも良いけどさ」
「え、えぇ。アザゼル先生が残してくれた装置と水無瀬先生、ロスヴァイセ先生達のおかげで後遺症やトラウマも無く……とはいきませんでした。魔法使い達に襲われた事で軽い男性恐怖症にかかった女子生徒がいますし大きな音に恐怖を抱いてしまった男子生徒なども居ますが……それ以外は問題無いと思います」
「――そっか。なら良いや。じゃあ、帰りますね? 匙君達に魔法使いとの契約を潰して悪かったって伝えておいてください」
それを言い残して生徒会室から出る。そのまま保健室で横になっていた平家を拾って家へと向かう。今日は生徒会長と話をするから遅くなるって言って先に帰らせたがまさか待ってるとはな……どこまで暇なんだよ。
「――ノワール、今日は家に帰りたくない」
いつもの様に自転車の荷台に座った平家が上目遣いで男が期待するセリフの中でも上位に食い込むであろうものを言い出した。いきなり何言ってんだお前……もしかしてアイツが原因か?
「とーぜん。いくら大物だとしても我が物顔で家に上がり込むのは我慢できない」
「だよな。ホント何考えてんだあのジジイ……いきなり家にやってきてタダ飯食ったり水無瀬達と話をしたり橘の歌声聞いたり犬月と戦ったり……言い出したらキリが無いが思い返しただけでもウザいな。別に殺しても良いんだがその場合は東の勢力と戦争になるしなぁ……俺的にはどうでも良いけどさ。むしろ殺し合いしたい」
「別に殺し合いをしないってノワールと約束をしてるわけじゃないし良いと思うよ。早く対処しないと恵達が寝取られるよ? 男に囲まれながらダブルピースしてるビデオが届いても私は知らない」
「俺的には興奮するから良いんじゃねぇの? それに奪われたら奪い返せば良いだけだしな」
「……ホントにそう思ってるからノワールって変態だよね」
「褒めんなよ」
お前に付き合わされてエロゲーをし続けたせいで色々と性癖が歪んでるんだから仕方ないだろ……てか、そもそも東の大妖怪ともあろう人物が勢力そのものが消滅するような選択をするわけないからその線は限りなく薄いはずだ……きっと、多分。まぁ、もっともらしい理由があるとすれば八坂の姫や鬼の頭領がいつもの事だから放っておけ的なことを言ってるからきっと大丈夫だろう! もしかしたら見た目がジジイなだけでソッチ方面はまだまだ現役の可能性も無くは無いから平家の言うような展開になるかもしれないけどさ――その時は妖怪勢力、京都妖怪だろうが鬼だろうが何だろうが全てを根こそぎ、一人残らず皆殺しにするだけだから何も問題無い。てか魔法使い共を虐殺してから今日まで何も起きてないから退屈なんだよなぁ……相棒が持っていた最後の能力である「苦痛」を鍛え上げる機会が全くないし! 最後に使ったのは確か夜空と殺し合いの時だっけか? アイツ、痛い痛いって言いながら高笑いしてたけどマジで人間なんですかねぇ? あの痛みに耐えきれずに廃人になったメフィストのジジイやら年増女王の兄か弟か身内君に謝った方が良いと思う。割とマジで。
そんな事を思いながら我が家へと到着。平家がうわぁみたいな顔をしてるから恐らく今日もやってきてるんだろう……本当に暇だな? 東の妖怪勢力は大丈夫なのかよ?
「――帰ってきやがったか。若い男女がこんな時間まで何してやがったんだぁ」
玄関から居間へと進むと椅子に座っている一人のジジイとお茶を出している橘の姿があった。橘は学校帰りだからか制服のままだがジジイの方は居間の雰囲気に合わない着物姿だ……毎回思うんだが後頭部が長いけど首とか痛くならねぇのかな? 絶対、頭部の重みで毎日首痛いわ~とか言ってると思う!
「別になんだって良いだろうが。てかまた来やがったのかよ……いい加減来るのやめてもらえませんかねぇ? いちいち相手にするのが面倒なんだよ。橘、俺にもお茶くれ」
「悪魔さん。
「まぁな。話って言ってもレイチェルの使い魔になりましたって報告だけだからそこまで話し込むことじゃねぇよ。あとお爺ちゃん言うのやめろ……調子に乗るから」
橘が淹れてくれたお茶は物凄く美味い。退魔の家系だからか本人がお茶好きなのかは知らないがなんか落ち着くんだよな……水無瀬も橘もなんでこんなに美味いお茶を淹れられるのか不思議だね。俺の返答に橘はそうですかとニッコリ笑いながら着替えるために自分の部屋に戻って言ったが……なんか怖い。ここ最近の橘の笑顔って可愛いけどなんか怖いんだよな……レイチェルの使い魔になった後もえへへと笑って祝福っぽいことをしてたけどなんか怖かったのは今でも覚えている。なんて言えばいいか分かんないんだけど兎に角、怖い。笑顔って元々は威圧云々ってのがあるけどまさしくそれだと思う!
「ただ単に嫉妬してるだけだよ。私もノワールと契約して対価を払いたいとか思ってる」
「ち、違います! た、ただその……ズルイと思っているだけです!」
それって結局は同じ事じゃないですか橘様!
「……そうか。おい平家、そういえば水無瀬もここ最近になって笑顔が怖くなってきたが……まさかそっちもそうか?」
「当然。何も思ってないのは祈里とグラムとパシリとお姫様ぐらい。それ以外は嫉妬の感情を大なり小なり抱いてるよ。とーぜん私は嫉妬力は眷属一を自負してる。ノワールの四肢を切断して部屋に監禁して永遠に自堕落に暮らして独り占めしたいぐらいに嫉妬してるから取扱注意だよ。勿論、恵も志保も花恋も同じような事を思ってるから注意が必要」
流石ノワール君依存率ナンバーワン。ヤンデレ風の笑みもお得意ですか……てかうちの
「勿論、デート希望。そして熱い夜を所望する」
「デートしてやるがエッチはダメだ。夜空抱いた後ならいつでも襲ってこい」
「……しょーがないからそれで妥協してあげる」
「……悪魔さん。平家さんだけじゃなくて私ともデートしてください!」
「お、おう。別にお前が良いならデートぐらいはするぞ? なんだかんだで頑張ってるしな」
デート出来ると分かったからかぱあぁと一気に笑顔になったけど……やっぱり可愛いなぁ!
「おいおい、俺が居るってのにおめぇらだけの空間を作るたぁやるねぇ」
あれ? まだ居たの? 存在感無いから帰ったかと思ったぜ。
「ん? あぁ、まだ居たのか? あのさぁ、居るならもっと存在感出してくれない? 影が薄すぎているのかいないのか分かんねぇんだよ」
「カッカッカ。俺にそんな口をきけるガキは坊主ぐらいだ。八坂も寧音もテメェを気に入ってるようだがその理由がよーく分かる。妖怪が好む気質たぁ悪魔にしとくのはもったいねぇ。どうだ、俺の傘下に加わらねぇか? 俺の片腕の地位をやっても良いぜ?」
「は? ヤダ、無理、ありえねぇ。その体から匂う加齢臭を無くして土下座するなら一瞬だけ考えてやるが……うん、無理だな」
そもそもジジイの片腕とか嫌過ぎるしな。俺は夜空と殺し合ったり、夜空とイチャイチャ出来ればそれで満足なんだ……地位も名誉もいらねぇんだよ。
「俺の能力ですら惑わねぇとはな……常日頃から欲望中心の生活でも送ってんのかぁ?」
「悪魔相手に欲望だのって言われてもなぁ……まぁ、送ってんじゃねぇの? 特にこの覚妖怪のせいだけどな!」
「ノワールの性癖は私が育てた」
「腋好きは夜空のせいだがそれ以外はお前のせいだしなぁ。否定したくても否定できねぇ」
ドヤ顔し始めた平家に構いだしたのが気に入らないのか俺の隣に座った橘様がぷくーと頬を膨らませながら脇腹をツンツンし始めてきた。ちょっと可愛いな! 流石アイドル! ちょっとしたしぐさでも可愛いと思えるのが素敵! キャー! おっぱい揉ませてー! てか真面目な話……さっさと目の前にいるジジイは帰ってくれないかな? いい加減ウザい……毎回やってきてはタダ飯食ったり雑談したりと妖怪らしく好き放題しまくってるけどマジでそろそろ来ないでほしい。だって外にいるであろう見張りの視線がウザったい……殺すか。
「それをしたら戦争勃発だよ」
「知ってる。ジジイ、別に居座るのは勝手だが皿洗いぐらいはしてから帰りやがれ……あと好き勝手にやるのは勝手だが度が過ぎるとどうなるか分かってんだろうな?」
「おうおう、ガキには似合わねぇほど強烈な殺気を放ちやがる……知ってらぁ。魔法使いの奴らと同じ目に合わせるってんだろう? それぐれぇは長生きしてたら嫌でも理解出来てるってもんだ」
「だったら良い」
それを言い残して俺は四季音姉妹の部屋へと移動する。居間から出たタイミングでジジイは
「主様。お帰りなさい」
ノックもせずに部屋に入ると四季音妹がベッドに座り込みながら漫画を読んでいた。表紙を見た感じだと四季音姉が実家から持ってきたであろう少女漫画の類だ……鬼なんだからもっと違う奴を読んでも良いと思うんだがねぇ。
「おう、ただいま。四季音姉は?」
「伊吹。お風呂に行ってる。寧音様と特訓して汗をかいてた。主様に匂いを嗅がれたくないって言ってた。もう少し時間がかかると思う」
「ふーん。てかお前にしてはアイツと一緒に風呂に入らないなんて珍しいな?」
「帰ってくる前に家で入ってきた。伊吹は帰る時間ギリギリまで寧音様と戦ってた。母様と一緒にそれを見ていた。伊吹も寧音様も楽しそうだった」
酒呑童子同士の殺し合いとかちょっと見てみたいんだが……なんでそんな面白そうな事が会ったのに呼ばなかったんだよ! そこは俺も乱入して酒呑童子親子対俺って感じになるのが常識だろ!? 畜生……! レイチェルの腋に騙されて生徒会長のところに行ったのが間違いか……!!
ちょっとした後悔をしつつ漫画を読んでいる同じようにベッドに座り、四季音妹を抱きかかえて膝の上に座らせる。なんでと言われたら我がキマリス眷属が誇るマスコットの反応を見て疲れを取りたかったからだ……いやね! マジでこの子可愛いのよ! 癒されるんだよ! こう、遠くから見守ってあげたいぐらいの可愛さだね! これが……癒し! 邪龍すら癒す茨木童子とか最強だと思うんだ! ちなみに二代目癒し系は四季音妹で初代癒し系は橘だ。初代様はその……癒し系から淫乱系にジョブチェンジしてしまったので癒し系枠に復帰はもう無理かもしれない。俺としては真剣に癒し系に戻ってほしいけども。
てか真面目な話、妹と言ってる奴に発育で負ける姉ってもうどうしようも無いと思うんだ。四季音妹のおっぱいを揉めば小さな山があるが四季音姉のおっぱいを揉めば……山すらない壁だ。俺様、涙が出そうだ!
「そりゃ手加減せずに殺し合えるんだ、楽しくないわけないだろ? てか真剣に読んでるがそれ面白いのか?」
「分からない。伊吹がおすすめと言ってたから読んでいる。でも登場人物の考えが分からない。なんで照れたりしている。分からない。主様は分かる?」
「んぁ? あー分かると言えば分かるが……説明するのがめんどくせぇから後で四季音姉にでも聞いてみろ。きっと熱く教えてくれるだろうぜ? あっ、そういえば鬼の頭領はなんて言ってた?」
「寧音様と母様。主様の申し出にノリノリだった。いつでも良いって笑いながら言っていた。今すぐ殺し合いたいとも言ってた。寧音様は凄く楽しそうだった。でも目が怖かった。狙った獲物は逃がさない目をしていた。母様も凄く楽しそうだった。だけど私にもうすぐ若いお父さんが出来ると言ってた。分からない。殺し合えばお父さんが出来る?」
うーん、あの人は自分の娘に何言ってんだろうなぁ! あの……人妻な鬼さん達ったら若い俺を襲う気満々じゃないですか……! ちょっと待ってくれませんかねぇ! 確かに俺は特訓相手が居なくて困ってます! 殺し合ってくださいって頼んだけどさ……性的に襲って良いとは一言も言ってないんですけど!? でも待てよ……人妻属性持ちの酒呑童子と茨木童子に逆レされるってなんというかご褒美ですよねありがとうございます! でも夜空を抱いてないのでもうしばらく待っててほしいんだがダメですか! せめて俺の童貞が無くなってからお願いします!
そんな事を思いながら四季音妹で癒されていると部屋の扉が開き、姉と言い張っている
「……ノワール。人の部屋で何してるんだい?」
俺達の姿を目にした途端、引きつった笑みを浮かべ、目の光を消しながらその言葉を言ってきた。うわぁ、なんか怖い。
「何って癒されてるだけだが? あっ、邪魔してるぞ」
「主様に抱きしめられてる。伊吹、お帰りなさい」
「た、ただいまイバラ。に、にしし! な、なな中々楽しそうな事をし、しているじゃないか……と、とりあえずイバラを離したらどうだい?」
普段と同じくにししと笑いながら光が宿ってない瞳で俺を見つめながら俺の背後に移動して抱き着いてきた。現在の状態を説明するなら酒呑童子、俺、茨木童子という怖い鬼さんと可愛い鬼さんのサンドイッチとなっております! 背後の四季音姉が怖いですね! マジで怖い!
「伊吹、怒ってる?」
「お、怒ってないさ! い、イバラもなんで拒否したりしないのさ! い、いくらなんでも無防備すぎるからもう少し警戒した方が良いよ!」
「分からない。主様に抱きしめられる。胸がポカポカするし安心する。でも息吹が言うなら拒否する。主様。離れてほしい」
背中から感じる威圧感がさらに増した。あれ? 俺、このまま絞め殺される?
「……ノワール。私に黙ってイバラに手を出したら殺すかんね」
「はいはい分かってますよ……ん? お前と一緒だったら手を出してもいいのか?」
「にしし。さぁ、どうだろうね」
「……おい、なんか怖いぞ? まぁ、良いや。で? 四季音妹から聞いたが鬼の頭領は承諾したって事で良いんだよな?」
「当然さ。ノワール相手なら母様も芹様も手加減しなくても良いからね。魔獣騒動から戦争らしい戦争が起きてないから母様も全盛期並みにまで体を戻したいとか言ってたしさ……もうちょっと年を考えても良いと思うんだよね……なんで娘が惚れてる相手を襲おうとか普通に言えるのさ……!!」
「何か言ったか?」
「な、何でもないさ! そ、それとノワールが新しく会得した能力を味わってみたいと言ってたよ。だからおもいっきりやりな」
流石鬼。苦痛の能力を味わってみたいとか馬鹿だと思う……でも受けてくれるならありがたい。なんせ相棒が生前持っていた「苦痛」の能力を鍛えるには四季音以上の相手、欲を言えば夜空並みの存在が必要不可欠だしな。なんせ「苦痛」の能力は俺が与える痛みが倍増していく……与えれば与えるだけ受ける痛みが跳ね上がるから大抵の奴らは耐えきれずに発狂してしまう。これに関しては魔法使い共に使用し続けたから嫌でも理解してるからこそ鬼の頭領達に頼み込んだんだが……まさかマジで了承してくれるとはねぇ。確かにあの人達なら耐えきれるだろう……夜空だって高笑いしてたんだから余裕余裕! でも壊れたらまぁ……ドンマイとしか言えないね!
「そりゃまたありがたいことで。てかいい加減、あのジジイを何とかしろよ? 次期頭領だろ? 文句言えば一発解決とかにならねぇのか?」
「ならないね。私なんかの言葉で解決するなら東の大将なんてしてないさ。母様なら別かもしれないけどね……でも滅多に無い事だよ? あのぬらりひょんが直々に見定めるなんてさ」
若干、楽しそうな四季音姉の口から放たれたぬらりひょんという名前こそ先ほどまで話していたジジイの正体だ。東の妖怪勢力を束ねる大将にして八坂の姫、寧音と並ぶ大妖怪の一人……なんだがさっきまでの姿を見る限りだと胡散臭いジジイにしか見えないんだよなぁ。でも強い。本気で強い……気配が分からないとか本気で困るからやめてもらえませんかねぇ? 気軽にオナニー出来ないじゃねぇか!! 思春期の男が楽しみにしている一時を邪魔しないでくださいお願いします!
「俺としては相手をするのがめんどくさいけどな……それで日程は?」
「いつでも良いみたいだよ。にしし! 母様と殺し合えるなんて滅多に無い機会だから楽しんできなよ! だけどもし……もし母様と変な事をしたら――本気で殺すからね」
やべぇ、声色からしてマジだ。なんで俺の眷属になった奴らの半分がヤンデレ属性持ちなんだよ!? 邪龍だからか! 邪龍だからだな! マジかぁ、邪龍の近くによって来るのってヤンデレ体質持ちかぁ……! 良いぞドンドン来い!
「はいはい、分かってるっての……たくっ、嫉妬するならもっと可愛くやれよ」
「んな!? し、しし嫉妬なんかしてないっての! こ、これはノワールが変態だからちゃんと釘を刺しておかないと困るからで嫉妬なんかじゃないさ!」
「伊吹。取り乱してる。珍しい。凄く珍しい」
「いやそうでもねぇぞ? この前デートした時なんて――はいはい分かった。言わねぇから力を弱めろ……俺を絞め殺すつもりか?」
「私なりの愛情表現さ。喜んで受けなよ」
まぁ、性癖が歪みまくってるからヤンデレだろうが嫉妬だろうが独占欲だろうが殺意だろうが喜んで受け入れるけどさ……でも背中に抱き着くならもうちょっとおっぱいを大きくしてくれても良いと思うんだ。夜空はそのままでも良いけど。
とりあえず寧音や芹という強敵と殺し合えるのは素直に嬉しいから楽しみだなぁ! 本当に滅茶苦茶楽しみだ! あぁ、本気で殺し合える相手って本当に大切だよな……だから夜空、暇だったらいつでも殺しに来て良いんだぜ? 俺様、ドキドキしながら待ってるからさ!
今回より「影龍王とぬらりひょん」編が始まります。
きっとすぐ終わるはず……です!
観覧ありがとうございました。