ハイスクールD×D~地双龍と混血悪魔~   作:木の人

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90話

「久しいねぇ、影龍の。魔獣騒動後の宴会以来かい? そっちの噂は聞いてるよ。相変わらず派手にやってるみたいで安心したさね」

 

「派手というかいつも通りだけどな。なんか好き勝手にやってたら色々と騒がれてるだけだよ……あと、お久しぶりです。鬼の頭領、先の魔獣騒動ではお世話になりました」

 

「かっかっか! 別に頭を下げなくたっていいさね。こっちだって芹の件で迷惑かけたんだ。お相子、どっちもどっちって奴さ」

 

 

 使用人達に案内されて通された場所は前回来た時と同じ広間。そこで改造和服に身を包んだ鬼の頭領、寧音とその右腕である芹がにこやかに笑いながら俺達を待っていた。この場所に来るのが初めてな犬月や水無瀬、橘の三人はこの広間に来る間も周囲を見渡して驚いていたが平家とグラムは全く興味無いのか表情も変えずにいつも通りの様子だけどな……まぁ、グラムは兎も角、平家に関しては鬼達が言っていた「若様」というワードの方が気になってるんだろう。四季音姉、ドンマイ! ノワール君依存率ナンバーワンな覚妖怪が直々にお話しするらしいから頑張れ! マジで頑張れ! 多分だが周りの奴らの声を聞いて既に知っているだろうけどお前の口から聞きたいらしいから本当に頑張れ!

 

 さて……そんなどうでも良いことは置いておいてだ。見えねぇ……! 前に会った時と同じ改造和服だから太ももが丸見えで非常に素晴らしい! そしてそんな服装なのに胡坐をかいているからパンツが見えそうで凄く興奮します! だけど見えない……あとちょっと動いてくれれば見えそうなんだけど見えない! これが絶対領域か! 夜空で慣れていたけどやっぱり絶対領域って最高だな! マジでドキドキするし覗き込みたい!

 

 

「なんだいそんな顔をして? こんなおばさんのパンツが見たいってか?」

 

「見たいか見たくないかで言ったら見たいな! 凄く見たい! だってそんな恰好で胡坐されたら……童貞の男は覗きたくなるんだよ。というわけで見せてくれると凄く嬉しい!」

 

 

 背後から色んな視線が飛んできてるが無視だ無視! だって俺様、童貞だもの、人妻のパンツを見たいと言って何が悪い!

 

 

「相変わらず正直な男だねぇ! 今日はアンタが来るって言うから過激なのをつけてるがそれでも構わないかい? 見たら最後、お子様のパンツ程度じゃ勃たなくなるよ?」

 

 

 それほど凄いんですか! 見せてくださいお願いします!

 

 

「マジで!? え? そんなに過激なの履いてるのかよ……だったら余計に見た、みた、イヤダナージョウダンデスヨーダカラソノメヲヤメテクダサイオネガシマス」

 

 

 いつの間にか隣に座った四季音姉の威圧感がヤバいのでそろそろ真面目になろう。なんかコイツ……ドンドン病んできてないか? いつもの少女趣味っぷりはどこ行った? そしてその何かを潰す仕草はマジでやめてくれ! お前なぁ! 潰される痛みとか消し飛ばされる痛みとかを味わった事が無いから普通にそんな事をしてるが一回味わってみろ! 死ぬほど痛いんだぞ!? 主に規格外で腋が素晴らしい美少女が放つ光とかで毎回吹き飛ばされてるからもう慣れてるけどさ! 本当に痛いからやめてもらえませんかねぇ? あと犬月が男の大事な部分を抑えて顔を真っ青にしてブルブル震えてるから本当にやめようか!

 

 

「……ノワールの場合は冗談に聞こえないんだよ。母様もあんまりノワールを誘惑するのはやめてよね! コイツはその、変態だし! 冗談と分かってても本気にするぐらい馬鹿だし! あと娘としても母親が年も考えずに若い男を誘惑とか恥ずかしいしさ!」

 

「何が恥ずかしいってぇ? 親の私からすれば未だに抱かれもせずに処女のままな娘の方が恥ずかしいよ。このバカ娘、いい加減さっさと襲いな。鬼なら無理やり押さえつけて子種を出させるぐらい出来なきゃ次期頭領としてやってけないよ」

 

「んな!? なな、こ、子種とか、む、無理やりするわけないじゃないか!! その……やっぱりお互いのムードってのが大事だと、思うしさ!! と、というか皆が居る前で襲うとかいうなぁ!」

 

「何か問題あんのかい? こっちとしてはさっさとそこにいる男を手に入れたいんだよ。それとも芹の娘に先を越されたいってか? かぁ~どこで育て方を間違えたかねぇ? 影龍の、うちのバカ娘は相も変わらず少女漫画を読んでんのかい?」

 

「おう。最近は四季音妹……あーとイバラも読んでるぜ。でもまぁ、内容はさっぱり分かってないみたいだけどな……てかさー! 此処に来るまでに総大将とか若様とか呼ばれまくったんだがどうなってんだよ? 総大将ってのは魔獣騒動で言われてたから分かるが若様ってマジでなんだよ……俺はいつの間にアンタの娘と結婚したんだ?」

 

「それこそ問題無いさね。アンタはいずれそこにいるバカ娘と結婚して身内になるんだから何も間違っちゃいないだろう? 先に言っておくが逃げようと思っても逃がしはしないよ? アンタのような鬼好みの男はそうはいないからねぇ! かっかっか! 強引だろうとなんだろうと全力で手に入れてやるさね! だがもしそこのバカ娘が小さすぎて嫌ならこのあたしと結婚しようかい? 人妻のテクニックを味合わせるっつぅ約束もまだだったしねぇ。どうだい影龍の? こんなおばさんで良かったら貰ってくれないかねぇ?」

 

 

 ヤバイ。俺を見つめてくる目がマジだ……獰猛な肉食獣の目をしていらっしゃいますよ!? うわぁ、どこで間違ったんだろう……どう考えても四季音姉を眷属にした時から間違ってますね! 知ってた! でもこれってどう反応すれば良いんだろうなぁ! 横を見れば「分かっているよね」と言いたそうな怖い目で見つめてくる少女趣味な鬼さんがいるし、背後からは「悪魔さん♪」とか「ノワール君」とか「私と結婚しよう」とか言葉を出さずとも視線で訴えかけてくる方々がいるしさ! マジでどうしよう……四季音妹とグラムだけが一応、無害と言えば無害だが母親の芹も寧音と同じっぽいんだよなぁ……鬼って怖い! あと犬月、助けろ。俺のパシリだろ? 何とかしろよ!

 

 

「母様……ホント、本当にいい加減にしてよ! 恥ずかしいんだよ! なんで娘の……その、兎に角! ノワールはダメだかんね! ノワールも本気にしたらぶん殴るよ!」

 

「なんだいつまらないねぇ。奪われそうになったら逆に奪い返すぐらいの勢いは見せなっての。本当にどこで育て方を間違ったのやらだ。芹、子育てっつぅのは大変だよ」

 

「当然ですよ。うふふ、お久しぶりです。貴方様のご活躍は鬼の里まで聞き届いております。長い道のりでお疲れではありませんか? もしよろしければ別室でお休みになられても構いませんよ? 勿論、ご一緒に……うふふ」

 

 

 今まであらあらうふふみたいな感じで鬼の頭領の隣で笑顔で立っていた四季音妹の母親が近づいてきて俺の傍に座り始めた。なんか……距離が近い。あとおっぱいデカい! 寧音が着ているような改造和服じゃなくて普通の和服だけど凄く自己主張していますね! うわぁ、良い匂い。これが……人妻! なんという魅惑の属性なんだろうか! 最高だな! とりあえず俺の隣にいる四季音姉のおっぱいを見て、芹のおっぱいを見る。ヤダ、何故か分からないけど涙が出そう! しかし母親がこれだと四季音妹も遺伝的な意味できっとこれぐらいには成長するはずだよな……ますます涙が出そうだ! 頑張れ四季音姉、負けるな四季音姉。

 

 そして別室に連れて行ってナニをするつもりですかねぇ? 怖い怖い!? マジで此処の人妻な鬼さんが怖い! なんでこんなに肉食なんですかというか手を握らないでください期待してしまいます!

 

 

「……水無瀬先生」

 

「……なんでしょうか、志保ちゃん?」

 

「――鬼さんはライバルです! 志保、もっと頑張ります!」

 

「……その頑張りはどの方向に向けてなのか凄く興味がありますが……でも、その通りかもしれません。ノワール君がモテるのは知ってましたが、人妻まで守備範囲だったなんて……! うぅ、また、また……ラッキースケベイベントが遠のいていく……これが私の不幸なんですね……!」

 

 

 むしろそれを望んでいる女ってお前と平家ぐらいだぞ。あと水無瀬……これだけは言っておこう! 人妻が嫌いな男はいねぇよ!てかそもそも俺だって今はお断りしたいんだよ! 夜空を抱いてないし! まだ童貞だし! 夜空とイチャイチャしてからなら問題無いが今はダメだから本当にお断りしたいんだよ! だから助けてくださいお願いします!

 

 

「……あーと、あれだ、まだ若いし! 鍛えてるから全然余裕なんで大丈夫ですよ! はい! てかあの、距離が近くありません?」

 

「嫌でしたか?」

 

「いえむしろもっと近くに来ても――ハイ! ゴメンナサイ! ジョウダンデス!」

 

 

 やべぇ、四季音姉と平家の目が怖すぎるんですけど? 目の前にいる寧音や芹は凄く楽しそう笑みをしてるのが物凄く鬼らしいね! さてと……まぁ、そろそろお遊びは終わりにしとこうか。隠れて俺達を観察している奴らも相手してやらないと色々と面倒そうだ。はぁ……なんで鬼の里にいるんだろうなぁ? お前らが暮らす地域は別だろうが! 相手するの面倒なんだからさっさと帰ってくれません? 無理ですよね! 知ってます!

 

 

「……頭領。四季音姉弄りはこれぐらいにしてそろそろ今後の予定について話し合いたい。出来れば他の奴らは席を外させてもらえたらありがたい」

 

「構わないさ。芹、客人を部屋まで案内しな。持ってきた荷物類は既に運んでるから場所を教えるだけで良いよ」

 

「分かりました。では伊吹様、イバラ、他の皆さんも私に付いてきてください。お部屋までご案内します」

 

「ノワール」

 

「分かってる。お前は特訓の事だけ考えてろ」

 

「分かった」

 

 

 既に隠れている連中に気づいている平家に気にするなと伝えると既にどうでも良いという様子で返してきた。流石に気配を消しても覚妖怪の読心を防ぐことは出来ねぇか……いやそれ以前に東の大将の能力すら効かないって恐ろしいなおい。俺の……いや相棒の傍に居続けた影響かねぇ? まぁ、俺的にはどうでも良いけど。覚妖怪だろうが平家は平家だしな。

 

 芹の後を追う様に犬月達はこの部屋から出ていく。この場に居るのは俺と寧音と隠れている連中だけだ……はぁ、めんどくせぇ。なんだって鬼の里に来てまでテメェらの相手をしないといけないんだよ? こっちは寧音とか芹との殺し合いを楽しみにしてるんだから邪魔すんじゃねぇっての。

 

 

「気づいてたのかい」

 

「とーぜんだ。部屋に入ってすぐに分かるっての……居るんだろ――東の大将」

 

 

 俺の問いに答えるように空間が歪み始め、誰も居なかった場所に着物姿をした後頭部が長い爺さんが現れた。その表情は子供のように楽しそうな笑みをしているのがなんかムカつく……すっげぇ殺してぇ!

 

 

「カッカッカ。やっぱりテメェには俺の能力は効かねぇみてぇだなぁ。これでもひっさしぶりに全力を出してみたってのによぉ」

 

「うちの覚妖怪にすらバレる全力ってちょっとヤバいぞ? てか隠すんならもっと違和感なく隠せよ? 一部分だけ違和感が無いから丸分かりだっての」

 

「違和感が無いのが違和感ってかぁ? やれやれ、もうちっと真面目にやっとくべきか。寧音、わりぃな。こっちの我儘を聞いてもらってよ」

 

「良いさね。東の御大将には昔、世話になったからね。若輩者のあたしにとっちゃこれぐらいは苦にならないさ。さて影龍の、悪かったねぇ。(しもべ)を連れて来いって言った理由はこれさ」

 

「これさって言われても分かんねぇっての。何? 東の大将、ぬらりひょんともあろう人物がこんな弱小眷属を鍛えるってか?」

 

「厳密にはちげぇが概ねそんなもんだ。影龍王眷属って言えば妖怪の間じゃ有名だしなぁ。此処で恩を売っておくのも悪かねぇって思っただけよ。カッカッカ! なに、悪い様にはしねぇってのは約束してやらぁ。下手に手を出せばこっちの勢力が消されちまうしな」

 

 

 おいおいマジかよ……ぬらりひょんが率いる妖怪が犬月達を鍛える? うわぁ、裏がありそうで怖い。てか厳密には違うって言ってるから裏があることは確定じゃねぇか! 断りてぇ……! 断りてぇけどチャンスと言えばチャンスなのも事実だ。ぬらりひょんと言えば東の妖怪を率いているほどの大妖怪、配下の妖怪達は八坂の姫や寧音達には及ばなくても長生きしているから実戦経験も多いはずだ……だから経験がまだ浅い犬月達を鍛えるならこれ以上ない申し出だろう。裏があるのは気になるがまぁ、良いか。仮にこのジジイが犬月達に何かしたら東の勢力に喧嘩を売って殺せばいいし。

 

 でもあーだこーだ言ってもこの申し出を断る事なんて出来ないけどね。さっきの寧音の言葉から推測になるがぬらりひょん側からかなりの我儘を言われたんだろう……それを断ると寧音の顔が立たない。こっちの我儘を聞いてもらってるのに他の我儘を断るとか流石に出来ねぇよなぁ……これが仕事をしない魔王共だったら余裕でするけどね! はぁ……マジでめんどくせぇが仕方ない! いやー仕方ないよね! 俺の我儘も聞いてもらってるんだしこれぐらいは我慢しないとダメだよなー! 決して! 決して! ぬらりひょんとも殺し合ってみたいとかそんな不純な動機じゃないからな! あくまで寧音の顔を立てるだけだ! 誰に言ってるかと言われたら別の場所で心を読んでいるであろうお前に言っているんだよ平家!

 

 

「……はぁ。東の大将に言われたら断れるわけないだろ? こっちはただの混血悪魔が率いてる眷属だぜ? 文句はあれど受けるしか出来ねぇだろ。ただ先に言っておくが――あいつらに手を出したら戦争するからそれだけは覚えておけよ」

 

「肝に銘じておくぜ。カッカッカ! やっぱりテメェは悪魔にしとくのがもったいねぇ! 妖怪はテメェみたいな分かりやすい奴は大好きだしよぉ。寧音、しばらくは滞在させてもらうぜ。宿代ぐれぇは出すから安心しろや。久しぶりに鬼が作る酒っつうのを味わいてぇしよぉ」

 

「そうしてくれるとありがたいねぇ。鬼の世界でも不景気ってのがあるさね、ドンドン金を落としても文句は言わないよ。さて、影龍の。アンタの相手は私と芹、僕の相手はあたしの配下の鬼と東の御大将達がしてくれるよ。かっかっか! こっちは楽しみにしてたんだ! 人妻の欲求ってのは底が無いからねぇ! 気持ちよくしてやるさね!」

 

「こっちとしても新しい能力の特訓が出来るからありがたいさ。まぁ、死んだり廃人になったらゴメンとだけは言っておく。んじゃ、そろそろ始めたいんだが……相手は誰だ?」

 

「芹さ。珍しく一番手にさせてくれって五月蠅くてねぇ。気をつけな、影龍の。芹はあたしの右腕であり茨木童子、そんじょそこらの雑魚とは比べられないほど強いことは断言してやるさね。なんせあたしがいなかったら鬼の頭領は芹だったからねぇ。さっきまでののほほんっとした雰囲気に騙されて油断してると簡単に殺されるよ」

 

 

 ニヤリとした笑みを浮かべながら寧音から忠告を受けるが……マジかぁ! 鬼の頭領が直々に断言するほどの強さとかテンション上がってきたわ! 魔獣騒動での戦いを見てたからかなり強いのが分かってる……けど寧音がハッキリと頭領になれると断言するってことは本当にヤバいんだろうな! 滅茶苦茶楽しそうじゃねぇか!! 何回死ぬんだろうな! 何回殺されるんだろうな! ゼハハハハハハ! 鬼の里に来てよかったぁ!

 

 心の中で歓喜しつつ、寧音とぬらりひょんが何かを企んでいる表情を無視して芹が待っている場所へと向かう。場所はこの前、寧音と殺し合った荒野……確か鬼の遊び場だったか? 前と同じく色々と争った跡が残りまくっているがちょっとヤバいかもしれない……! 俺の目の前には身の丈以上ある大剣を携え、寧音が着ているような動きやすさ重視の改造和服に身を包んだ芹が待っていた。その表情はにこやかな笑みを浮かべているが瞳の奥からは先ほどまでとは比べ物にならないほどの殺意が感じられる……ゼハハハハハ! マジで面白れぇ! 面白すぎて笑みを浮かべちまうな! 芹から発せられる威圧感が尋常じゃねぇ! さっきまでのあらあらうふふみたいな感じの雰囲気はどこへ行ったのか教えてほしいぐらいだ! あと個人的に改造和服に身を包んでいるおかげで見えるおっぱいの大きさと美しい太ももが素晴らしいです! なんというかエロい! 流石人妻!

 

 

「お待ちしておりました。寧音に我儘を言い、貴方様のお相手を務めさせてもらえるようにしていただきました。こんなおばさんが相手でごめんなさいね」

 

「あっ! 俺は年とか全然気にしてないんで大丈夫です! こっちこそ待たせて悪かった……それじゃあ、殺るか」

 

「――えぇ。殺りましょう! 胸が熱く、心が躍る、そんな楽しい殺し合いを!」

 

 

 即座に通常の鎧を纏い、芹と向かい合う。相対するだけでもかなりの実力者だってのが伝わってくる……これが長生きしている妖怪、力の塊である鬼か! 寧音の忠告通り、さっきまでの空気のままでいると簡単に殺されかねない……それほどまでの威圧感だ。得物である大剣は叩き割ることを追求したように刃が太い……というよりも普通に使ったら鈍器に早変わりするだろう。仕方ねぇ! 偶には使ってやらねぇと五月蠅いから使ってやるかねぇ? ゼハハハハハ! 剣には剣をってな!

 

 

「楽しい殺し合いをご所望ならこっちも使ってやるよ! カモン! チョロイン!」

 

 

 魔法陣を展開してグラムを呼び出す。いきなり呼び出したというのにその表情は分かっていたと言わんばかりに嗤っていた。なんだよ……嬉しそうじゃねぇか?

 

 

『我がおウよ! ヨんだナ! ワれらをよンだな! 敵はおニ! 相手にとッて不足はナし! みせテやロウ! 我ラの力ヲ!!』

 

 

 歓喜の声を上げたグラムはそのまま剣の姿へと変わる。それを握りしめると醜悪な呪いが俺の腕へと纏わりつき、体の方へと流れ込んできた……ゼハハハハハ! 楽しそうじゃねぇかグラムぅ! なんだよなんだよ! 俺と同じで楽し過ぎてテンション上がってんじゃねぇか! なんで分かってたとかは聞かねぇでやるから思う存分! 俺を呪ってこい! その全てを受け止めてやるからよぉ!!

 

 

「魔剣グラム……これほどの呪いを受け止めるなんてやはり貴方様はお強いですね――では、参ります!」

 

 

 芹が大剣を握りしめて一歩、前へと出た。たった一歩と言えど鬼の脚力は悪魔とは比べられないほどの力があるから一瞬で俺の前へとやってこれる。身の丈以上はある大剣を鬼の腕力で振るってきたのでグラムを強く握りしめて応戦すると俺達の周囲が衝撃で吹き飛んだ……げぇ!? なんだよ……! このパワー!!

 

 

「あぁ、受け止められるなんて寧音以来……嬉しいですわ! こんな、こんな若い子に受け止められるなんて!!」

 

「ゼハハハハハハ! 残念だがこの程度を受け止めきれねぇと夜空に勝てないんでなぁ! 大剣ごと切り刻んでやらぁ!」

 

「では魔剣ごと貴方様を叩き割って見せましょう! 鬼の攻めは激しいとその身に刻んでもらいます!」

 

「だったら若い男の攻めは激しいってその体に叩き込んでやるよ! せりぃ!!」

 

 

 グラムの刃で受けていた大剣を弾き、影人形を生成してラッシュを放つが力任せに腕を振るい、周囲の地形ごと影人形を吹き飛ばされる。その勢いのまま芹は笑みを浮かべたまま再度俺へと接近して大剣を振り下ろしてくる……ルーンと北欧の魔術、相棒の影で防御力を底上げしてるって言うのに簡単に叩き割りやがったよこの人! でもなぁ! まだまだ硬くなるんだよぉ! 一回壊した程度で良い気になってんじゃねぇ!

 

 迫りくる極太の刃を影人形で白羽取り。受け止めた衝撃で俺の真下の地面が抉れるが関係ない! 動きが止まった一瞬を狙って別の影人形を生成して大剣を握りしめている腕を殴る……ゼハハハハ! まず一発! さてとこれで第一段階はクリアだ……感じさせてやるよ! 影龍王が与える痛みってのをなぁ!

 

 

「また受け止められた……それに腕も殴られた……あぁ、なんて素敵なんでしょう! 楽しい! タノシイィ!」

 

 

 芹は白羽取りをしている影人形を殴り、歓喜に染まった表情のまま大剣を振るうべく体勢を整える――が俺の鎧からとある音声が鳴り響くとその表情を歪ませる……流石の鬼でも痛いよなぁ!

 

 

「ゼハハハハハハ! 悪いがさっき与えた一発で発動条件は満たしてんだよ! ほら、耐えれるもんなら耐えてみろよ!」

 

『PainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPainPain!!!』

 

「くっ、ぁ、ぁああああぁああ!?!?」

 

 

 先ほど影人形でダメージを与えた腕が痛むのか芹は勢いを止めた。痛いよな? でもこれが聖書の神によって封じられていた相棒の力――苦痛と称される能力だ! たとえ鬼でも得物を振るう腕に強烈な痛みが走れば歩みを止めるか……この力の恐ろしい所は「俺がダメージを与えれば」良いだけで相手の動きを制限できることだ。生前の相棒はこの力で素早い相手の動きを止め、身動きが出来ない状態で自分が生み出す影に触れさせて力を奪い取っていた。誰だって痛いのは嫌だろう、誰だって苦しいのは嫌だろう、誰だって痛みから逃れたいと思うだろう。助けてくれと頭を下げてくる相手を相棒は嗤いながら殺して楽しんでいた……流石邪龍。でもこうして考えるとドМの奴らが良く言う痛いの大好きとか意味が分からない……真の痛みってのはそんなことすら考えられないと思うしさ! あっ、俺は相手が夜空だったらいつでもウェルカムです! ドンドン来て良いぞ!

 

 音声を鳴り響かせながらグラムを強く握り、痛みに悶える芹へと影龍破を放つ。醜悪な呪いの波動が地面を切り刻みながら芹へと向かって行く――が雄叫びを上げ、その身から異常な妖力を放出しながらながら大剣を振るった芹により影龍破はその勢いを止められた。はぁ? おいおいマジで……? 最大出力じゃなかったとはいえたった一振りで粉砕とかちょっと意味が分かんねぇ! 苦痛の能力を使ってるから巨大なハンマーで腕を潰されるぐらいの痛みが走ってるはずだぞ……あぁ、なるほどね! これが鬼か!

 

 

「アァ、アァ、ァァアアアアッ!! タノシイィ! タノシイワ! 寧音との戦いが羨ましかった! 味わってみたかった! 貴方様……ごめんなさいね。はしたない姿を見せますけど――タノシマセテモラウワネ」

 

 

 周囲を焦がすほどの妖力を垂れ流しながら俺を見つてくる芹は嗤っていた。

 

 

 

 

 

 

「かっかっか! 久しぶりに見たねぇ! 芹があの状態になるなんてよっぽどさね!」

 

 

 パンパンと自分の膝を叩きながら爆笑しているのは鬼の頭領であり酒飲みの実の母親だ。桜色の髪に直視するのがちょっと出来ないぐらい太ももを露出させながら笑ってるからチラチラとパンツが見えそうで見えない状態が続いている……王様じゃないけどこれは見ますね! 見ちゃいますね! これが酒飲みの親って嘘じゃねぇかな? だって若すぎだろ……いや俺達の世界じゃ見た目と年が違う事はよくあるとはいえここまで性格が違うと親子なのかどうか疑いが出てくる。

 

 まぁ、それはそれとして現在進行形で俺達の目の前で行われている殺し合いが酷い件について。茨木童子の母親と王様が殺し合うってのを聞いた時はやっぱりかとは思ったけど……あの、周囲に轟音と地響きが鳴り響いてるんすけど大丈夫っすかね? 山とか崩壊しそうですけどその辺とかマジで大丈夫っすか!?

 

 

「あんな母様は見た事が無い。初めて見た。笑ってる。楽しそうに笑っている」

 

「私も初めて見たよ……いつも落ち着いてるからちょっと驚いてる。母様? ちょっと説明してくれないかい?」

 

「あぁ、そういえばあたしが頭領になってからはあの姿を見せて無かったねぇ。説明も何もあれが芹の本性さね。人一倍……いや鬼一倍かい? 昔っから自分の全力を叩き込める戦いを欲してたのさ。でもあたしが頭領になって生まれ持った欲を封じ、さらに娘が生まれてからは完全に心の奥底まで封印してたんだがねぇ……どうも我慢できなくなったようだね。かっかっか! 我慢は毒ともいうし影龍のには悪いけど最後まで付き合ってもらおうか! あの状態になった芹はそう簡単には潰れないしねぇ!」

 

 

 デショウネ! だって俺達の視線の先で歓喜の声を上げながら大剣を振るってる茨木童子の母親と同じように高笑いしている王様がぶつかり合ってるし! 王様も楽しんでんなぁ……俺だったら最初の一撃で終わってるってのにうちの王様は簡単に受け止めるんだもんな。勝てねぇ……勝てねぇけどきっと追いついてやる! そんで楽しかったって言わせたい! そのためにもっと強くならねぇとな!

 

 

「……うん。あの姿を見ると祈里が娘だって良く分かるね。似すぎだよ」

 

「分からない。母様と私はあまり似てない。私は考えるのが苦手、母様は得意。だから似てない」

 

「性格は似てないけど根っこは似てるんだよ。妖力の気質もそっくりだしね。まぁ、これは花恋も同じだけど」

 

「にしし! そりゃぁ母様の娘だしね、さてと! ノワールが楽しんでるのに私達が黙って見てるわけにはいかないね! さぁ、母様……この間の続きといこうじゃないか! あと、ノワールを誘惑したからちょっと殴らせてくれないかい?」

 

「ハッ! 良い男が目の前に居て抱きにもいかず、抱かれてもいないバカ娘が言うじゃないかい。良いさね、次期頭領として教えたい事が山ほどあるんだ。言われなくたって付き合ってやるさね。イバラ、アンタもバカ娘と一緒に鍛えてやるからこっちに来な」

 

「分かった。伊吹と一緒に頑張る。寧音様を倒す!」

 

「言うじゃないかい! かっかっか! 場所を変えるよ、由緒正しい場所で二人纏めて相手してやるよ」

 

 

 酒飲みの母親は酒飲みと茨木童子を連れてこの場所から去って行く。さてと……俺もそろそろ始めるとするか! 百人組手ならぬ百人喧嘩! 酒飲みの母親の配下達と朝から晩まで喧嘩するだけ! どこまで強くなるかなんて自分次第だ……諦めねぇし逃げもしねぇ! 王様を殺すためなら痛いのだって我慢してやらぁ!

 

 

「パシリも花恋も祈里もやる気満々。しゃーない、ノワールの能力のせいで気持ち悪いけどがんばろーっと。恵、志保、先に行ってるね」

 

「えぇ。でも早織……相手はぬらりひょん様なんですから、その、あまり失礼なことはしないようにお願いしますね……! 下手をすると大変な事になりますから! 特にノワール君がノリノリで戦争とか始めちゃいますから!」

 

「善処する」

 

 

 そういや引きこもりの特訓相手ってあのぬらりひょんだったっけ……東の妖怪を束ねてる大妖怪が直々に鍛えるってすげぇよな。王様の兵士になってからはびっくりすることが多くて困る……けどその分楽しいから問題無し! 引きこもりに負けてられるか! 水無せんせーとしほりんは妖術を学ぶんだったっけか? 絶対に似合うと思う! うん! 王様もきっと同じことを言うだろうなぁ……基本的に楽しかったらそれで良い人だしさ。

 

 再び王様達へと視線を向ける。無数の影人形を相手に身の丈以上の大剣を振るい、周囲諸共なぎ倒していく茨木童子の母親と悪の親玉みたいな高笑いを上げている王様が楽しそうに殺し合っている。確か新しく発現した能力って王様が与える痛みが倍増するんだったっけ……さっきからダメージを受けて能力も発動してるはずなのに怯むどころかさらに勢いを増すって頭おかしい……俺なら死んでる。余裕で死んでる! だって

引きこもり曰く「痛覚が無くなった奴ですら痛みを感じさせれる」とか言ってたしなぁ……マジで頭おかしい。流石邪龍! 邪悪すぎて敵にしか見えません!

 

 

「犬月さん! 頑張ってください! 志保、応援してます♪」

 

「うっす! しほりんや水無せんせーも頑張ってくださいよ! 犬月瞬! 全力で男を磨いてきます!」

 

「はい。瞬君も頑張ってくださいね」

 

 

 よし! 我がキマリス眷属が誇る二大天使の声援もあったから気合十分! いつでもOKだ! 何回倒れるかなぁ! 何回地べたを這いずることになるかなぁ! 何回鬼の力で叩きのめされるんだと考えるだけでワクワクしてくる……何度だって立ち上がってやる! 何度だって挑んでやる! 俺が誇れるのは諦めの悪さだけだしな! 鬼相手だって怯まずに向かってやる!

 

 

「……王様、絶対に強くなりますからね。もっと、もっともっと強くなって楽しませて見せますよ」

 

 

 それが俺が出来る唯一の恩返しだからな!




鬼とぬらりひょんによる強化合宿が始まります。

観覧ありがとうございました!

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