ハイスクールD×D~地双龍と混血悪魔~   作:木の人

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93話

『しっかしよぉ! こうして勢揃いすんのは何千年ぶりだぁ? ゼハハハハハハ! 昔と一切変わってねぇじゃねぇか! 少しぐれぇはイメチェンの一つはしても良いんじゃねぇか?』

 

「おいおいクロム! 一番変わってんのはテメェとユニアとヴリトラだろうが! なんだよそのナリは? ちいせぇな! 昔のテメェらとは天と地の差があるじゃね――グハハハハハハ! 気の強ぇ女は嫌いじゃねぇぜ!!」

 

「……おいこら、誰が永遠の貧乳で成長する気配が一切無いロリ体型だって? 死にてぇの……? つか死ねよグレンデル」

 

 

 時刻は夜中、場所は森の中。目の前に広がる焚火で焼かれている魚を眺めている俺の背後では合法ロリ(夜空)が光をぶっ放したり大男と殴り合いやらを繰り広げている。やれやれ……日本から遠く離れたルーマニアまでやってきたってのに落ち着いて飯も食わせてくれねぇのかよ? つーか夜空……俺と匙君を拾って此処まで転移してきて疲れすらないとか相変わらず出鱈目過ぎるだろ! 流石常日頃から世界各地やら冥界やらを散歩感覚で行ったり来たりしてるだけはある……普通の奴なら疲れ切ってるはずだしなぁ。だって今俺達が居る場所ってルーマニアの奥地、吸血鬼達が住んでいる土地だけど少し離れた場所で美味そうに魚を食ってるアジ・ダハーカが作った結界の中だぜ? その辺にいる魔法使いだったら問答無用で弾き出されて死んでるはずなのにピンピンしてるしさ! でもまぁ、あの夜空でさえ自分で作った出口を弄られて着地失敗したことは普通に驚いた。俺としては良かったけどね! だって夜空に押し倒されるとか最高だったし! 匙君? あぁ、顔面から地面に落ちてたがどうでも良いわ。

 

 

「なんだよなんだよ! ちいせぇくせにクッソ威力があるじゃねぇかよ! ベオウルフとの殺し合いを思い出すぜ! グハハハハハハッ! テメェ本当に人間か?」

 

 

 夜空と楽しそうにイチャイチャもどきをしてるのは過去に滅んだ邪龍の一体、大罪の暴龍(クライム・フォース・ドラゴン)ことグレンデルだ。相棒曰く、本当の姿は巨人のようにデカい体に爪と翼、尻尾を持つドラゴンらしいんだが今は俺達と同じ人間のような姿になっている。2mは超えている身長に筋肉もりもりのガチムチ体型、深緑の色が混じった髪をオールバックにしているけど……うん、ガチの不良っていうかマフィアのボスとかしててもおかしくねぇわ。ちなみにこの姿になってる理由は燃費が良いとかではなく単に気分の問題だそうだ。

 

 

「とーぜんじゃん。この超絶美少女な夜空ちゃんが人間以外なわけねーし! てかホント、誰がエターナルロリだぁ!! ぜってぇ殺す!!」

 

 

 小さいとしか言ってないはずなのに夜空の耳にはエターナルロリやら永遠の貧乳やら成長する気配が一切ないロリ体型やらと都合が良い……のか分からんが変換されてるらしい。まぁ、昔っから自分の体形を気にしてたしなぁ……自分の発言でさえ俺が言ったように変換しやがるしな。でも夜空だから良いけどさ。

 

 というよりも夜空が操る光を浴びたり、人間以上の腕力で殴られたりしてるってのにピンピンしてるグレンデルに絶句だわ。生身の部分を龍鱗で覆っているとはいえなんで無事なわけ? いくら相棒より防御力が無いと言っても鱗の強度は高いとは聞いてた! でも夜空の光に耐えるとかちょっと意味分かんねぇ……流石邪龍! いや~夜空ちゃん? ちょっと変わってくれない? 俺も殺し合いたいんだけど!!

 

 

「もうヤダ意味分かんねぇ……帰りてぇ……なんで俺、此処に居るんだ……あぁ、そっか、夢か。夢だな……そうに決まってる……右を見ても左を見ても邪龍しかいないとかあり得ねぇ……夢だ夢。目が覚めればきっといつもの部屋だそうに決まってるいや絶対にそうだ!! 帰りてぇぇぇぇぇぇっ!!!! お願いだから帰してください! なんで拉致されたのかいまだに分かんねぇんだが!? というよりもなんで誰も止めないわけ!? 殴り合ってんだぞ!? 光が放って、はなってぇぇぇ!? キタ!? こっちに飛んできた! 地面溶けてる!! かいちょぉぉ!! かいちょぉぉぉ! 助けてくださぁぁい!!!」

 

「慌てすぎだろ? ただ殴り合ったり光が飛んできてるだけじゃねぇか……ほれ、焼き魚でも食って落ち着けよ。中々美味いぞ?」

 

「あっ、サンキュー。うん、確かに塩加減が絶妙だな……じゃなくてぇぇ!! なんで落ち着いてんの!? なんで何事も無いかのように焼き魚を食ったりジュース飲んでんの!? 馬鹿だろお前! いや、違った馬鹿だった! ヴ、ヴリトラ……もう、ダメだ……俺、会長と出来ちゃった結婚できずに死ぬんだ……せめて死ぬなら会長の膝の上で死にたかった……」

 

『……我が分身よ。強く生きろ』

 

 

 なんだか隣にいる匙君がこの世に絶望したような表情で体育座りし始めたけど大丈夫かな? 一応、足元の影から出てきたヴリトラが慰めてるけど夜空とグレンデルの喧嘩の音が響くたびに目の光がドンドン無くなってるが気のせいだな! だってこんなに楽しい同窓会が楽しめないとか邪龍として恥ずかしいと思うしさ!

 

 

「おいおい、ウルセェぞ。飯の時ぐらいは静かに出来ねぇのか?」

「無理無理」

「アイツらにそんなこと考える事なんて出来ねぇ出来ねぇ」

 

 

 魔法で宙に浮かせた焼き魚を食べながらケラケラと笑っているのはこの空間を作り出した張本人、アジ・ダハーカだ。魔法使いが着るような偉そうなローブを纏った黒髪のイケメン、ただし両手はデフォルメされたドラゴンっぽいぬいぐるみという若干引くような感じになっている……腹話術の真似事か? 確かに3本の首があったけど人間に変化してまでそれを意識するとは思わなかったね!

 

 

《これが我らだろう。自分の都合を優先し、他人の事情など無視する。ヴリトラの宿主はこの手の状況には慣れていないようですがその点、クロムの宿主は流石だ。動揺すらしないとはこの手の状況には慣れているらしい》

 

「常日頃から夜空と殺し合ってるしなぁ。今更この程度で驚くわけねぇっての……アポプス、そっちにあるリンゴくれ」

 

《どうぞ》

 

「サンキュー」

 

「……なんで馴染んでるんだよぉぉっ!!」

 

『今更であろう。しかし、クロムから聞かされていたとはいえ本当に蘇っていたとはな……まさか再び貴様らを目にし、言葉を交わすとは思わなかった』

 

《それはこちらも同じだ、ヴリトラ。既に滅ぼされた私達がこのように集まり、言葉を交わすなど本来ではありえない。しかしこの状況に関しては聖書の神に感謝を示しても良いかもしれない。あの聖杯があったからこそ私達は蘇る事が出来たのだから》

 

「お、おでは、ち、ちちちがうけど、な! それよりもも、もっど食いてぇよ! く、くろ、クロムぅ! ご、ごれぐっても良いがぁ……?」

 

「ん? 別に良いぞ。そもそも同窓会に参加するのに手ぶらで来たらあれかって感じで持ってきただけだし。ニーズヘッグ、お前も夜空に負けずによく食うなぁ?」

 

「ぎ、ギヒヒ! お、俺、俺! 食うの好きなんだ! おめぇ、良い奴だなぁ……こ、こんなに優しくされたの、は、はじめでだぁ……」

 

 

 怯えるように丸くなりながら手に持っているキマリス領産の果物に嚙り付いているのは外法の死龍(アビス・レイジ・ドラゴン)と呼ばれているニーズヘッグ。本来は黒の鱗を持つ蛇のような姿らしいがコイツもアジ・ダハーカやグレンデル、アポプスと同じように人間体になっている……がイケメンじゃない。デ、ふ、ふくよかな体型で髪もぼさぼさ、ついでに口臭がヤバい。世界中の女性達が口を揃えてキモイとか言って笑う事は間違いないだろう……も、もっと違う姿になれなかったのか? 流石の俺でも出会い頭に夜空からくせぇって言われて蹴られたところを見たら虐める事なんて出来るわけがありません! ただし夜空に近づいて変な事をしたら問答無用でぶっ殺すんでそのつもりでいろよ?

 

 そんな事を思いながら美味そうに果物を食べるニーズヘッグを見ていると体に重みを感じた……俺の頬にもちもちすべすべと素晴らしい感触があるから夜空が肩に座ったんだろう……舐めたい。凄く舐めたい……腋を舐めたいけど太ももでも良い! てか殺し合いが終わったのか?

 

 

「むっかつくぅ!! マジで死ねよテメェ! この夜空ちゃんを絶対成長しない貧相な体とか言いやがって本気で許せねぇ! こーろしたーいー!! ちょっとノワール! なに無視してんのさ! ひっさしぶりに共闘してグレンデル殺そうよ!」

 

「アホか……んな事したらこの空間がぶっ壊れるわ。飯食ってからならグレンデル殺すの手伝ってやるよ」

 

「グハハハハハハ! 良いぜ! ホ〇のクロムにビッチのユニア! 久しぶりにテメェらと殺し合うのも悪くねぇ! おい、ラードゥン! テメェは邪魔すんじゃねぇぞ! もし割り込んできやがったらぶっ殺すからな!」

 

「それは無理な話ですよグレンデル。私も貴方も邪龍、目の前で楽しい戦いが繰り広げられて我慢できると思っているのですか?」

 

「そりゃお前、無理ってもんよ」

 

「えぇ。ですので私の答えは分かっているでしょう?」

 

「そんじゃぁテメェもクロムもユニアもぶっ殺しだなぁ!!」

 

 

 グレンデルと話しているのは邪龍の一体、宝樹の護封龍(インソムニアック・ドラゴン)のラードゥン。相棒が言うにはドラゴンの形をした巨大な木の姿をしているみたいだが……えー、周りにいる奴らと一緒で人間の姿になっています! そこそこ長い茶髪で骨に皮がくっ付いているようなガリガリ体型、ぶっちゃけるとミイラ寸前ですと言われたら問答無用で納得できる姿だ。ちなみに女らしい……もう少し肉食った方が良いと思うぞ? 夜空並みに食えとは言わないが流石に触れただけで骨が折れそうな見た目はダメだろう……!

 

 グハハハハハと高笑いしているグレンデルとフフフフフと静かに笑っているラードゥン、仲が良いのか悪いのか分からないが笑いをやめた途端――腕や体をドラゴンのものに変えていきなり殺し合いを始めやがった。その様子を見ていた俺達はというと……良いぞ良いぞと永遠のちっぱいが焼き魚片手にテンションを上げ、もうヤだ帰りたい引きこもりたいと巻き込まれただけのクラスメートがガチ泣きし、俺とアポプスとアジ・ダハーカはそれ取って、あれくれなどと普通に飯を食ってました。ニーズヘッグ? あぁ、なんか巻き込まれて遠くに吹っ飛んだがきっと生きてるだろう。だって邪龍だし。あと約一名ほど無言で菓子食ってるけどいい加減会話に参加してくれませんかねぇ?

 

 

『おいアポプス、アジ・ダハーカ。八岐大蛇はどうしたんだよぉ? ヤツも復活してるんじゃねぇのか? 久しぶりにヤツの毒を味わってみてぇってのに不在とはどういうことだぁ?』

 

『えぇ。復活しているならば久しぶりにお話をしてみたかったですね。あぁ……懐かしい……多くの口で、牙で、毒でこの身を犯されたあの時を! クフフフフフフ! 流石に死ぬまでには至りませんでしたが中々楽しめましたよ』

 

「そらそーだ。てめーが毒程度で死ぬわけがねーだろ。呪いやら毒やら何でもかんでも()()してただろうが」

「お転婆ビッチ!」

「貰い手が居ない行き遅れ!」

 

『……アジ・ダハーカ。私の力が完全に解き放たれた時があなたの最後となりますと宣言しておきましょう』

 

「おーおー、楽しみにしてるぜ。だがよ? なんでテメェらが封印されてんだ? ドライグにアルビオンと殺し合ってたならまだ分かるが聖書の神程度なら楽に殺せただろ?」

 

『ゼハハハハハハハ! なんでって決まってんだろうが! その方が面白れぇからだよ! 他に理由があるかぁ?』

 

《無いですね》

 

「ねぇな」

「ねぇな! ねぇな!」

「単純が一番!」

 

 

 まぁ、その理由が半分でもう半分が真に誰かを護りたいって思ったからだけどな。確か夜空……というよりもユニアの場合は誰かを愛するとかだっけ? いやー即効で解決できませんかね! ほら! 俺の女王になればきっと一発で能力が発現すると思うんだよ! というわけでそろそろエッチしませんか? って聞いてねぇし……飯食う事に全力を出してやがるよ。いつも通りとはいえ俺の頭に食いかけ落とすなっての!

 

 

《あぁ、八岐大蛇ならば少々厄介な事になっていますね。リゼヴィム王子が面白がって天叢雲剣に魂の半分を植え付け、残った半分を弱小な魔法使いが操る聖遺物に埋め込みました。そのため意識が戻っているのかどうかすら分かりません》

 

「どんな状況だよそれ……それってもしかしてあれか? 匙君が持つヴリトラ系神器と同じ感じになってると考えても良いか……? でも天叢雲剣って確か聖剣だった気がするがなんだってそんなもんに埋め込んでんだよ」

 

「その聖遺物って紫炎祭主による磔台のことぉ? 何それすっげー!! あの神滅具ってそんなこと出来んの! どんな感じか見てみたいんだけど! でもさぁ、しょーじき生の八岐大蛇にも会ってみたいんだけどぉ! ノワールノワール! どうすれば良いと思うぅ?」

 

「どうすれば良いって言われてもなぁ……その魔法使いと殺し合えば見せてくれるんじゃねぇの? んで見終わったら神滅具から解放して生の八岐大蛇を見れば良いだろ。なんだったらまた魔法使い狩りするか?」

 

「うーん、それはそれで面白そうだけどさぁ~なーんか物足りないんだよね! だって所有者をぶっ殺したら別の宿主に転移すんじゃん? 解放つっても流石にこの女神級の可愛さを持つ夜空ちゃんでも出来ねーっての! 転移されたら探すのめんどーじゃん! でもみたいぃ!!」

 

 

 何やらテンションを上げているところを大変申し訳ないが……太ももの感触が最高な件について。個人的には腋が一番最高なんだけど太ももも悪くは無いんだよ……常日頃から腋見せたり太もも見せたり誘ってるんじゃないかって思うぐらいだ。正直に言うと舐めたいです。凄く、舐めたいです!

 

 

「頭の上で暴れんなっての……あーあれだ、いっそのこと半分に分かれてる魂をどっちか一つにすれば良いんじゃねぇの? そうすればヴリトラみたいに復活するだろ。多分、きっと」

 

「――そっか。そうすれば良いんだ……なんかそれおもしろそぉ!! にひひ! さっすがノワールゥ! 面白そうな事を思いつくじゃん!」

 

 

 どうやらこの提案は夜空的にも楽しめるものと判断されたらしい……なんて言うか夜空が笑っているところを見ると凄く安心するな。つまらなさそうにしているコイツを見るのは嫌だ……だからたとえ世界を敵に回しても、犬月達と殺し合う事になったとしても俺は夜空を楽しませ続ける。まっ、惚れた弱みって奴かねぇ? ゼハハハハハハ! てか自分で言ってみたけど結構面白い事になりそうでちょっとワクワクしてきた! だって紫炎祭主による磔台(インシネレート・アンセム)は俺達悪魔を燃やす炎を操る神滅具だ……それが邪龍となって現れるとか滅茶苦茶面白れぇに決まってる!

 

 あと前回の魔法使い狩りの時に出会えなかったから会ってみたいって言うのもある。聖十字架が放つ炎と相棒の影、どっちが上か確かめてみたい!

 

 

《聖遺物か聖剣を邪龍に……何やら面白そうな提案だ。確かにたかが人間が邪龍を道具に使うのは耐えられない。では仮にわかれた魂を一つにするとして聖遺物と聖剣、どちらにしようか》

 

「どう考えても聖遺物だろ。聖剣が本体とか八岐大蛇が泣くぜ?」

 

『ゼハハハハハハ! 俺様も神滅具に一票だ! 封印されてるからこそ分かるが聖書の神が作り出したこの玩具はかなり面白れぇ構造になってるしよぉ! 紫炎祭主による磔台ってのは独立具現型だからなぁ! 八岐大蛇の本体になるには十分だろうぜ!』

 

『聖遺物の炎と魂を汚染する毒……なんて、なんて心が躍る内容でしょうか! あぁ! 体があれば殺し合ってみたいところです! クフフフフフフ! ノワール・キマリス、相変わらず思考が私達寄りですね。もし私に肉体が戻る機会があれば一晩どうでしょ――冗談ですよ、夜空。えぇ、冗談です』

 

「……ならいーけど」

 

 

 嫉妬! 嫉妬かい夜空ちゃん! おうおう嫉妬なのか!? いやーモテるって大変だなぁ!

 

 

「んだよ! 何楽しそうなことを話してんだ! 俺様も混ぜろ混ぜろ! グハハハハハハハ! ラードゥン! 一時休戦だ!」

 

「えぇ。しかしグレンデル、いかに貴方の剛腕でも私の障壁は突破出来ない事を理解してください。私が操る障壁はグレンデルはおろかクロムの影すら超えると自負していますし。それとクロム、いくら私がグレンデルと殺し合っていたとはいえ無視はしないでもらえますか? 折角、こうして復活したのですから色々と楽しみたいんですよ。昔のようにね」

 

『残念だがラードゥンちゃんよぉ! 俺様、封印されちまってもう相手できねぇのよ! それと昔と違って随分強気になったじゃねぇか? 俺様が与えた痛みに悶えていたのはどこの誰だぁ? それに俺様の防御力を超えただぁ? ゼハハハハハハハハハッ! 枯れ木の分際で言うようになったじゃねぇか! だった今すぐどっちが上か試してみようぜ! 宿主様! これはラードゥンからの挑戦状だ! 当然受けるよなぁ!!』

 

「当然だろうが! なんか初対面の奴に俺の防御力が下だって言われるのはムカつくしな! 復活した所を悪いがもう一回死ねよ!」

 

「フフフフフ! 良いでしょう! 今の貴方の実力を見てみたかった! 勝負と行きましょうかクロム、そしてその宿主よ!」

 

「……あのさぁ、この私を無視して楽しいことしようとすんじゃねぇよ。混ぜろよ! この私を無視するとか許さないぞぉ!! じゃ~タッグで勝負だぁ! にひひ! 面白くなってきたぁ!!

 

「良いなそれ! んじゃ俺と夜空がチームでえーとラードゥンとグレンデルで良いな? なんか俺も混ぜろって顔してるし。よっしゃ! というわけでさっさと死ねよテメェら!」

 

「うっほ! 良い殺気じゃねぇかよ! グハハハハハハハ! クロムよぉ! テメェの宿主を気に入っちまったぜ! 簡単につぶれたりするんじゃねぇぞ!」

 

 

 

 

 

 

 俺、匙元士郎の目の前では異常な光景が繰り広げられていた。巨人のような体格で雄々しい翼と尻尾を生やしたドラゴンと巨大な枯れ木のような体のドラゴンが黒井達を全力で殺し合っているからだ……黒井と光龍妃……確か片霧夜空って名前だったな、その二人が山吹色の鎧と黒の鎧を纏って正面から二体のドラゴンと戦っている。巨人のドラゴン、グレンデルが拳を放てば黒井が影を生み出して防ぎ、片霧夜空が光で攻撃する……対する二体のドラゴンも枯れ木のドラゴン、ラードゥンが障壁のようなものを張って攻撃を防ぎ、グレンデルが殴りに行く。俺の目にはどっちも似たような戦法で戦っているように見える……凄い。凄いとしか言いようがない……笑いながら、殺気を放ちながら、確実に相手を殺そうという気迫を放ちながら戦えることが凄い。

 

 俺も今よりも強くなって会長を護りたいと思っている。でも……同時期に悪魔になった兵藤は一歩どころか百歩、千歩ぐらい先に行き、黒井はそれよりもはるか先にいる。勝てない。どう考えても勝ち目なんて一切無いと教えられるような光景だ……黒井みたいに楽しかったら何でもして良いとかは思いたくないけどせめて禁手には至りたいというのが本音だ。ドラゴンを宿している存在の中で俺だけが一番下なんだ……! 悔しい! 悔しくて涙が出る!

 

 

『我が分身よ』

 

 

 足元の影から蛇が現れている。ヴリトラ、俺が持つ黒い龍脈、邪龍の黒炎、漆黒の領域、龍の牢獄に封印された邪龍……と言っても黒井達のように頭はおかしくないけどな。

 

 

『確かに我が分身は弱いだろう。ドライグよりも、アルビオンよりも、クロムよりも、ユニアよりも格段に弱い。それは否定せずに伝えておこう。しかしだ、先の魔獣騒動で見せた感情は我も驚いた……あれほど純粋な怒り、誰かを護りたいという強き思い、かつての我では味わえなかったものだ』

 

 

 もしかしてヘラクレスって奴との戦いの事を言ってるのか……でも、あんなのただの偶然だ。援軍で来た会長がアイツに傷つけられそうになったのを見たら頭にキタだけ……純粋というよりも私情が乗りまくった不純な怒りだよ。

 

 

『それの何が悪い』

 

「……え?」

 

『奴らを見るが良い。ただ楽しいから、目の前にいる奴と殺し合ってみたいから、暇だから、我が分身からすれば頭がおかしいと言える理由で殺し合っている。我が分身よ、先の思いは誰かから言われた事か? 違うはずだ、我が分身が心の奥底から望んだ事だろう。それで良い、アジ・ダハーカの言葉を借りるなら邪龍は単純が一番……だ。我としては奴らと一緒にはされたくは無いがな』

 

「ひでぇ言い草だなヴリトラよ。テメェだって昔は好き勝手に暴れてたじゃねぇか?」

「殺しも楽しんでたな!」

「色んな奴を呪ってたくせに何言ってんだ!」

 

『我とてやんちゃをしていた時期ぐらいはある。しかし良いのか? 既に滅んだ貴様らが復活するのは異常だ。仮にグレンデルとラードゥンがこの場で死んだらどうするつもりだ?』

 

「んなもんまた復活させるに決まってるだろ。勿論、コイツでな」

 

 

 黒いローブを着た男、アジ・ダハーカの手の近くにはいつの間にか杯のようなものが浮かんでいた。見ただけで神々しいと表現できる代物だ……つまりあれが聖杯ってやつなんだろう。ん? あ、あれ……確か会長から吸血鬼側に聖杯があるって聞いてたけどな、なんで此処にあるんだ……?

 

 

『……! 聖杯か! 何故それを貴様が持っている!』

 

《吸血鬼の姫が保有していた神滅具が亜種の類でした。リゼヴィム王子もその異常性に随分と喜んでいましてね。世界に十五しか存在しない神滅具が亜種、それも生命を司る聖杯が三つでセットですから当然と言えば当然でしょう。では何故此処に一つあるという理由を教えましょう――取り出しました》

 

 

 ……は?

 

 

「まーなんつーの? リゼ公に対する嫌がらせって奴だ。あの野郎、俺達が自分に従ってると勘違いしてやがるからな、それがムカついたんで宿主から一個取り出したんだよ。リゼ公も同じことをしただろうから今頃、聖杯の所有者は昏睡状態かもしれねぇけどそれは俺達には関係無いことだ」

「つーかざまぁ!」

「ざまぁみろ!」

 

《リゼヴィム王子が一つ、我らが一つ、残った一つは所有者の下にある。しかしそれも時間の問題だろう。欲深い吸血鬼が最後の一つを取り出した時、所有者は死ぬ。そうすれば抜き出された聖杯はどうなるか……次の所有者へ三つ全てが転移するのか、そのままなのかはその時になってみなければ分からない。ならば確認してみるのも面白い》

 

「……だよ、それ」

 

「どうしたヴリトラ? そんなにプルプル震えてトイレでも行きたいのか?」

 

「――なんだよそれ!!」

 

 

 座り込んでいた体を起こし、立ち上がる。なんだよそれ……! ただの嫌がらせで聖杯を、神滅具を宿していた奴を死ぬかもしれない状態にしたってのか! ふざけんな! なんで笑ってられるんだよ! なんで無関係だって声で話せるんだよ!! そして何よりムカつくのは……兵藤達の思いすら踏みにじった事だ!

 

 

「なんで笑ってられるんだ! なんで何事も無いかのように振舞えるんだよ! 聖杯を宿していた奴が何したってんだ! お前らを復活させてくれたんだろ!? なのになんでそんな事が出来るんだよ!」

 

《自らの目的のためですが?》

 

「それしか言いようがねぇな」

 

「……!!」

 

『怒る気持ちは分かる。だがこれが邪龍だ、己の欲望に、生き方に、考えこそが全てなのだ。そこに善悪など関係無い。ただあるのは自分が満足するかどうかだけ。ドライグやアルビオンのようなドラゴンとは根本的から違うのだ』

 

 

 だろうな……兵藤だって目の前で同じことを言われたら殴りかかるはずだ。ふざけんなよ! 吸血鬼だろうとそいつの人生を滅茶苦茶にしてまでかなえたい目的って何なんだよ!!

 

 

「……渡せ! それを、渡せ!!」

 

「嫌だ、と言ったらどうする?」

「どうするどうする?」

「殺る? 殺っちゃう?」

 

「あぁ! 殺し合いでも何でもやってやる! 呪ってやるよ……! ヴリトラの炎でお前達を!!」

 

 

 アジ・ダハーカとアポプスの二人を睨み付けながら龍王変化(ヴリトラ・プロモーション)を行おうとしたその時、後ろから黒井達の声がした。

 

 

「匙君匙君、なんかテンション上がってるところ悪いが無駄死にするぞ?」

 

「つーか相手にすらならねぇんじゃね? まー止めはしねーけどさ」

 

 

 先ほどまで戦っていたはずの黒井達が呆れた様子で戻ってきた。多分だけどさっきの俺の声が気になって一時中断したんだろう……止めてくれるのはありがたいけど止まるわけにはいかないんだよ!

 

 

「黒井……分かってる! 戦ったって負けるってのは俺が一番知ってるさ! でもな……怒らなきゃダメだろ! 兵藤達がルーマニアに来てるのは聖杯を持った奴に会うためだ! それを……それを!」

 

「……あー、別に匙君がタイマンで殺し合うってのは個人の自由だから止めはしないけど……で? なんで怒んなきゃいけないわけ? 別に問題ないだろ? つーか喉乾いた……アジ・ダハーカ、飲み物取ってくれ」

 

「問題、あるに決まってるだろ! 関係無い奴が死ぬかもしれない状況になってるんだぞ!」

 

「でも他人だろ? そりゃ、仮に身内に手を出されたんならアジ・ダハーカ殺すけどぶっちゃけ赤の他人だしなぁ。死のうが生きようが俺には関係無いんだよ。あっ! 殺し合うなら見学してても良いか? 応援するぜ匙君! 頑張れ頑張れ。もし死んだら墓参りぐらいは行ってやるよ」

 

「私は行かないから適当に頑張ればー? てかー! しょーもない事で戦いを止めん無し! ビックリしたじゃん! いきなり大声出すから何かなぁ~って思えばくっそどうでも良いことだったとかマジ死ねよ。ヴリトラ、そんなに死にたいなら殺してやっから相手してやるよ」

 

 

 ……あぁ、そうだった。俺とは考え方が違うんだ……黒井も片霧夜空も、後ろにいる邪龍達も、目の前にいる邪龍達も本気で他人だからって思ってる。悔しい……! 女の子の殺気一つで両膝を地面について怯えている自分が悔しい……!なんで俺はこんなに弱いんだよ……! 自分の言いたい事すら簡単にねじ伏せられるなんて最悪じゃねぇか!! くっそ……クソ、クソ! くっそぉぉ!!

 

 

「――やめろ」

 

 

 たった一言、声が響いた。威厳がある声色が響いただけで周囲の雰囲気がガラリと変わった。

 

 声の主は黒コートを着た男、金と黒が入り混じった髪で両目も同じく金と黒のオッドアイ。さっきから黒井が持ってきたお菓子を無言で食べていたけど……迫力が違う。あの黒井達が小さく見えるぐらい黒コートの男から放たれる威圧感が凄い!

 

 

『ゼハハハハハハハハッ! おうおう! 無心で菓子食ってた奴がいきなり邪魔するってのかぁ?』

 

「食してみれば案外美味かったのでな。追加で貰いたいところだ。クロム、ユニア、グレンデル、ラードゥン、この場は同窓会、という物なのだろう? ならば静かにしろ。争うならば外でやるが良い。勿論、俺が相手しても構わん」

 

『……ちっ! 仕方ねぇ、今回だけだぜ』

 

『えぇ。今、貴方と殺し合うのは得策ではありませんしね。いかに夜空と言えどもノワール・キマリスとの決着前に死にかねません』

 

『宿主様は俺様のおかげで不死身だがそっちはちょっとつえぇ人間だしなぁ。こんなことでこれからの楽しみを潰されたくねぇ! ゼハハハハハハ! なぁ、クロウ……! テメェ、どこまで鍛えやがった!!』

 

「どこまでと問われれば俺も分からん。お前のように封印されたわけでも、討伐されたわけでもないからな。今日までこの身を鍛え続けていたからどこまで届くのかは未知数だ」

 

『……だろうな。だったら教えてやるよクロウ! テメェは……ムカつくことに天龍や双龍を超えてやがる! 本当にムカつくけどなぁ!!』

 

「そうか。ならばそういう事だ」

 

 

 静かに、淡々と会話を続ける男が俺の目にはカッコよく見えた。この場所にいるってことは同じ邪龍なんだろうけど……性格が違い過ぎる。ヴリトラと同じように常識人なんてかなり驚いている。

 

 

「ぶ、ヴリトラ……あの人、いやあのドラゴンって……?」

 

『クロウ・クルワッハ。邪龍の筆頭格と呼ばれ、戦いを司るドラゴンだ。奴は昔からむやみに暴れるようなことはしていない。この中では話が通じる存在だろうな』

 

「クロウ、クルワッハ……」

 

「呼んだか?」

 

 

 先ほどまで離れた場所に居たのに一瞬で目の前まで来られたから軽く声が出ちまった。すげぇ……これが邪龍の筆頭格か。怖いような、憧れるような、なんか言葉に出来ない魅力がある。

 

 

「あ、いや、その……」

 

『我が分身に代わり礼を言うぞ。あのままでは我が分身が殺されていたからな』

 

「気にするな。食事の邪魔をされて苛立っただけのことだ。ヴリトラ、いやそれを宿しているお前に言わせてもらいたい事がある――その考えは間違ってはいない」

 

「……え?」

 

「ドラゴンの考えは千差万別、殺ししか考えれない者もいれば魔法にしか興味がない者もいる。だからお前の考えは間違ってはいない。胸を張れ、堂々としろ。邪龍ならばその考えを貫き通せ。俺はその行く末を見てみたい」

 

『相変わらずだ、お前は』

 

『カッコつけやがってよぉ! おいクロウ! 必ず俺様と宿主様がテメェを殺してやるよぉ! だから待ってやがれ!』

 

「あぁ。待っていよう。時にクロム」

 

『なんだよ! くっだらねぇ事だったらぶっ殺すぞ!』

 

「下らなくはない。この菓子はまだあるか?」

 

 

 どうやらポテチが気に入ったらしい……さっきまでのカッコよさはどこに行ったんだ!? で、でも……そうか、間違ってないか……嬉しいな。凄く、嬉しい……!

 

 涙が出そうになるのを我慢しながらクロウ・クルワッハへと顔を向け、ありがとうございましたと言おうとした瞬間――突然アジ・ダハーカが笑い出した。いきなりの事で俺も黒井もビックリしたけどその理由を聞いて頭の中が真っ白になった。

 

 ――だって、ルーマニアに邪龍が現れて暴れてるなんて嘘みたいだもんな。




今更ではありますが毎回誤字などご指摘、ありがとうございます!
観覧ありがとうございました!

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