ハイスクールD×D~地双龍と混血悪魔~   作:木の人

96 / 140
95話

「いやはやすっげぇわ! こ~んな間近で邪龍同士の殺し合いが見れるとは思わなかったよ♪ でもおじちゃんとしてはもぉ~っと激しくしてほしかったかな! うひゃひゃひゃ! そっちの方が盛り上がるっしょ?」

 

「別にアンタを楽しませるつもりなんかないんだけどなぁ。んで? さっきからコソコソと隠れてた理由を一応聞かせてもらおうか?」

 

「んもぉ~分かってるくせにぃ♪ でも言っちゃう! ノワールきゅん、アポプスくん達を呼んでちょ♪ さっきからぜ~んぜん連絡に出てくんないのよ。だ・か・ら♪ お願い、呼んでくれない? 聖杯を返してもらわないとちょこっとだけ困るのよ」

 

「ヤダ、メンドイ、つーか俺、アイツらの連絡先知らねぇし無理だな。まっ、そもそも邪龍を飼いならそうとしてたんならそれは無理な話だぜ? 邪龍(おれたち)は自分のやりたい事をやって、気になった事にはトコトンのめり込んで、たとえその先に死が待っていても嗤って突き進むからな。一つ勉強になったんじゃねぇの?」

 

 

 俺の返答に目の前のリゼちゃんは「勉強になったよ」と胡散臭い笑みを浮かべながらうひゃひゃと笑い出した。自分の計画をアポプス達に潰されたって言うのに態度すら変わらねぇとはな……どうでも良いけど。というよりもリゼちゃんの背後にはいつの間にか現れていたらしいオーフィス――のそっくりちゃんことリリスが居るが俺達を興味深そうに見ている以外は特に戦闘態勢に入っている様子はない。その手にはどこかで買ってきたらしいお菓子が握られており、もぐもぐと食べている仕草が妙に可愛い……くっ! 此処に来てマスコットキャラアピールとはやるじゃねぇか! リゼちゃん……ちょっとその子をこっちにくれません? 四季音妹と一緒に眺めて癒されたい。きっと今頃は四季音姉と一緒になんやかんやで修行してるだろうけど多分必死に頑張ってるに違いない。

 

 そして俺とリゼちゃんの話についてこれないアザゼル達はどういう事だって表情で俺を見てくるのがちょっとだけウザい。別に何でもないんだけどなぁ……単に聖杯所有者だった奴が死にかけてるってだけだし。

 

 

「――まぁね。相変わらず分かんねぇ~連中だってのは今日のでよぉく分かった。これ使って蘇らせたは良いけどこっちの命令を聞いてるのか無視してんのか分かんないしさ~アポプス君やアジ・ダハーカくんのお陰で予定が台無しでひじょ~に困っております! 俺の予定じゃ最後の最後で裏切って愉悦したかったんだけどね」

 

 

 その手には光り輝く杯が浮かんでいる。どうやらあれが聖杯らしい……アザゼルたちの反応で本物だってのが良く分かるしな。

 

 

「そりゃ残念だ。で? 聖杯の所有者はどうなったんだよ? 死んだのか?」

 

「ノンノン♪ ちゃ~んと此処にいるよん!」

 

 

 リゼちゃんが若干吐き気を催す気持ち悪い笑みを浮かべ、魔法陣を操い何かをこの場に召喚した。派手さがないドレスを身に纏った美少女だ……なんとなく先輩の所に居るハーフ吸血鬼君やエル、エレ……名前忘れたけど大使だったかで来たなんとかちゃんって奴と似たような感じがするから召喚された女の子も吸血鬼なんだろう。まぁ、聖杯の所有者はどうなったと聞いてこの場に呼んだんだからまず間違いないだろうけどね。てか先輩達の表情が変わってるし。でもなんだろうな……気持ちわりぃ。意識を失っているからか宙に浮いたまま微動だにしてないけど周囲を悪霊やらなにやらが浮遊して何かを語り掛け続けてやがる……聖杯を使用しすぎた影響があれか。俺みたいに慣れてるなら兎も角、慣れてない奴なら心がドンドン壊れていくぞ? あとゴメンリゼちゃん! ちょっとパンツ見たいから向きを変えてくれません?

 

 聖杯の所有者らしき女の子が登場した事に一番反応したのは先輩の後ろに隠れていたハーフ吸血鬼君だ。その表情と声はなんで、どうして、何があったって感じで驚きを隠せていないようだ。

 

 

「ヴァレリー!? なん、で……ヴァレリーに何をしたんだ!!」

 

「ん~何をしたかと聞かれたら答えてあげましょう! この子の中にある聖杯を抜いちゃったのさ♪」

 

「……!!」

 

「リゼヴィム……テメェ、神滅具を抜き出したってのか!!」

 

「そーでーす! いやはやビックリしたんだぜ? 長い歴史の中で幽世の聖杯は一人につき一個だった。でもでも~! なんとヴァレリーちゃんは三個で一セットという規格外の亜種だったのです! だったら一個ぐらい抜き出しても良いかなぁ~とか思ってたらアポプスくん達に先越されちった♪ いやはやこれじゃあ手出しができないってもんよ。俺が抜き出し、アポプスくん達も抜き出しと続けたせいで昏睡状態に陥ったのはどーでも良いがこれ以上は聖杯自体が次の所有者の下に行っちまうかもしれねぇしな」

 

「だろうな。いくら神滅具の亜種とはいえ聖杯自体が所有者の体から無くなれば転移する可能性があるしな。アジ・ダハーカもそれが分かってるから一個しか盗らなかったわけだし」

 

「その通り! だからアポプスくん達から返してもらわないと困るのよ。一個でも十分なんだが保険も兼ねてもっとくのも悪くねぇし? たった一つでも滅んだ邪龍を復活させたりなんだりいろいろ出来っからいざというときのために必要なのよ♪ あらあら~? どうしちゃったのかな皆さん、そんなおっかない顔してさ! 怒った? ムカついた? うひゃひゃひゃ! でも覚えとけって――これが悪魔のやり方さ」

 

 

 うわぁ、反論できねぇ。

 

 

「……キマリス。お前、知ってたな?」

 

「おう。ついさっきアジ・ダハーカから聖杯奪ってきたって言われたしな」

 

「……取り返そうと思わなかったのか」

 

「んなメンドクサイことするわけねぇだろ。そもそも俺の眷属でも無ければ身内でもねぇんだ……俺に無関係な奴が死にそうな程度で聖杯を取り返そうとか思わねぇよ。まっ、元士郎はガチギレしてたけどな」

 

「黒井……お前、それは本気で言ってるのか……!!」

 

 

 あら、一誠がガチギレしちゃったかぁ。てか先輩達も同じ感じなんだけど……え? これって俺が悪いの? いやいや待てって……だって聖杯絡みって俺には関係ないだろ? 俺の眷属やら身内だって言うならアジ・ダハーカと殺し合って奪い返すかもしれないがハーフ吸血鬼君は先輩の眷属で聖杯所有者の女の子は吸血鬼勢力……どっからどう見ても無関係だろ! つーか悪魔で邪龍なのに正義の味方っぽい事なんざ死んでもやりたくねぇっての。

 

 

「本気じゃなかったら言わねえっての。あのさ、何度も言ったかもしれないけど俺、悪魔で邪龍だぜ? なんで関係無い奴を助けないといけないんだよ。今回の件は先輩(グレモリー)絡みだろうが……そっちがやるなら兎も角、キマリスの俺が手助けだのなんだのするわけねぇだろ」

 

「っ!!!」

 

 

 俺の言葉にキレたのか一誠は鎧を纏って俺を殴りに来た。真っすぐ、怒りに満ちた軌道で向かってきたので影人形の拳で応戦し、別の影人形達でラッシュタイムを放って無力化……動かれるの面倒だから「苦痛」の能力も使用したけど大丈夫大丈夫! ただすごく痛いだけで死にはしないから! まっ、殴りかかってこないように影で拘束はさせてもらうけどね……うわぁ~周りの視線が凄く痛い。

 

 

「……はぁ。いい加減、理解しろって。これが悪魔だよ。お前が見てきた奴らは優しい顔しながら正義だの正しい事だのとか普通に言うが裏じゃエグイことやってんだよ。奴らは自分の目的があるから良い顔をしてるだけだ……むしろ俺みたいにやりたい事を隠すことなくやってる悪魔の方が珍しいんじゃねぇか?」

 

 

 フェニックス家とか特にそうだろうな……俺がレイチェルと契約しても特に何も言わずに受け入れ態勢なのは俺、いや相棒の力が手に入るからだ。まぁ、それ以外にもレイチェルの気持ちやら何やらが入ってるかもしれないがとりあえずそれは置いておこう。相棒の力が何もしなくてもレイチェルの一存で動かせるなら反対なんざするわけがない……これはグレモリー家も一緒だろうなぁ。だって赤龍帝の力が手に入るんだぜ? しかも一度死んでも体を新調して戻ってくるし周りにはドラゴンの力に引かれて色んな奴らが寄ってくる……どれもが普通だったら非常に難しいものばっかりだからかなり得をしてるはずだ。

 

 まぁ、そんなどうでも良いことは置いておいて俺が気に入らないのは――今更になって助け出したいとか虫が良すぎるだろ。もっとも悪魔だから仕方ないけどね!

 

 

「……そんな、こと、はねぇ!!」

 

「なんで言い切れる? そんな事は無いとかお前が勝手に思ってるだけだろうが。それじゃあ逆に聞くけど俺が間違ってると思ってるのはなんでだ? そんなの誰が決めた? お前や周りの奴らだろ。周りが俺は間違ってる、頭がおかしい、危険だとか言ってるからそれが正しいって思ってるだけだろうが。ゼハハハハハハ! 馬鹿かお前? お前らにとってはおかしくても俺にとってはこれが普通なんだよ。やりたい事をやって、好き勝手に生きて、嫌なことは嫌だと言って何が悪い? 答えてみろよ、その答え次第じゃあの子を助けてやっても良いぜ」

 

「……っ、そんなの、そんなの……!!」

 

「一誠、文句を言いたい気持ちは分かるが何を言っても無駄だ。自分を貫き通してる奴ほど説得が難しいものはねぇからな。キマリス、前にも言っただろうが偶には俺達を信用しろっての……光龍妃以外は敵だとか思ってるとこの先辛いぞ?」

 

「知ってる。たった数十年で夜空は寿命で死んじまうからな……それが来ちまったら俺は壊れるだろうぜ」

 

「う~ん、()()()が絡んでるから長生きすんじゃねぇかなぁ~俺も分からんけどね♪ うひゃひゃひゃ! いやぁ~良い光景が見れて僕ちん満足! そのお礼にサーゼクスの妹ちゃん! そしてヴァレリーちゃんの幼馴染くん! キミ達にチャンスを上げよう!」

 

 

 俺達のやり取りを聞いていたリゼちゃんが何かを思いついたのか先輩とハーフ吸血鬼を見ながらそんな事を言い出した。俺としてはどうでも良いが今、気になる事を言わなかったか……?

 

 

「……何かしら?」

 

「そんな怒った顔しないの♪ 可愛い顔が台無しだぜ? なぁ~に難しくはないよん、ただこっちの質問に答えてくればいいだけさ!」

 

「質問ですって……?」

 

「そうそう♪ では聞きます! なんで今更ヴァレリーちゃんを助けようと思ったんですか?」

 

 

 あっ、これって答えるの難しい奴じゃねぇか……アザゼルも拳を握りしめてリゼちゃんを睨んでるからこの質問の意図に気づいたって感じだな。うわぁ~流石大悪魔……何がチャンスだよ! そんなもんどこにもねぇだろうが!

 

 

「どういう意味かしら?」

 

「そのままの意味よ~なんでヴァレリーちゃんを助けたいと思ったのか気になっただけさ♪ だって大切だったんでしょ? それなのに今の今まで無視してたじゃない! どーして?」

 

「そ、それは……僕が神器を操れなくて……封印されてたから……」

 

「でも何か月も前に解けてたよね? なんですぐに助けに来なかったの? ぶっちゃけその時って俺も自堕落な生活してたから今よりも何倍も楽に助けれたはずだぜ?」

 

「それは……だって、ヴァレリーは……」

 

「ヴァレリーちゃんは幸せに暮らしてましたとか言わないよね~? そんな事は無理だってキミだって知ってるでしょ? だって同じ混血なんだしさ♪ うひゃひゃひゃひゃひゃ!! しょうがねぇから代わりに答えてやるよ! お前はこの子の事なんてどうでも良かったんでしょ? 本当に大切なら眷属になる代わりにヴァレリーちゃんを助けてくれって言えたよね? 封印されてたとしても解けた瞬間にサーゼクスくんに言えたっしょ♪ なんでしなかったか――そ・れ・は! 大事に思ってるなんて言葉がうそっぱちだからさ!」

 

「違う!! ヴァレリーは僕の大切な人だ! 彼女が居なかったら今の僕は居ない……んだ! だからそんな事は無い!!」

 

「でも遊んでたよね~段ボールヴァンパイア神だっけ? うんうん、遊んでるねぇ! 大事な女の子がこーんな目に合ってるのにキミってば――」

 

《――ダマレ》

 

 

 リゼちゃんの言葉を遮るようにハーフ吸血鬼君は言葉を呟いた。全身から黒い何か……いや、影か? なんかそんなものを放出しながら殺意に満ちた眼でリゼちゃんを睨み付ける。声も先ほどまでの弱弱しい感じではなくドスのきいたものだ……なんだありゃ? もしかして犬月が言ってた謎の力って奴かねぇ。まぁ、どんな力だろうと関係ねぇ――ヤバイ、あれはヤバい。鳥肌が立つぐらい俺の中の何かがヤバいと叫んでやがる……ゼハハハハハハハッ!! 最高じゃねぇか! 元士郎の禁手に続いてハーフ吸血鬼の本気とか最高に運が良いじゃねぇかよ!! おい夜空! どっかで見てるだろうけど言っておくぞ! 今すぐ来い! 面白いものが見れるぜ!!

 

 俺がテンションを上げているとハーフ吸血鬼()()()ものは影……いや闇と表現できる腕でリゼちゃんへ伸ばし始める。その光景に先輩達は驚いているがリゼちゃんだけはいつもと変わらずうひゃひゃと自分の片腕を闇の腕へと伸ばす。

 

 

《ナニ!!》

 

「残念残念ざーんねん!! それが神器の力だってのは調べがついてるんだよーん♪ 俺には神器は効きませーん! ひゃひゃひゃ! どんな気持ち? どんな気持ち? ねぇねぇどんな気持ち?」

 

 

 凄くウザいから殴りたくなってきた。

 

 

『ほう、バロールか』

 

 

 俺の手の甲から声が響いた。バロールって確かケルト神話の魔神だっけか……? は? いや待てって……確かバロールって滅ぼされたはずじゃねぇか?

 

 

『俺様も出会った当初から違和感を感じててなぁ! あのクロウを操った魔神の気配があの男の娘からするからよぉ、気になってしょうがなかったぜ! これが恋かって思うほどになぁ!! だが違ったみてぇだ! なるほどなぁ、バロールなら気になってもしょうがねぇぜ! ゼハハハハハハハハハ!』

 

《――クロムか。相変わらず耳障りな声だ。もし本来の体があったならその体を操って殺していたよ》

 

『言うじゃねぇか! ルーの奴に殺された分際でよぉ! 確かにテメェの力なら今の宿主様も簡単に殺されるだろうな。だがよぉ! なんだってその男の娘に宿ってんだぁ? まさか俺様に抱かれたかったからとか言わねぇよな!』

 

《そんなわけがない。これに関しては良く分からないな。キミ達に対する強い怒りでまた表に出れたけど何故ギャスパー・ウラディに宿ったのか僕自身も理解してない。ただこれだけは言える……たとえ時間がかかったとしても僕たちは必ず彼女を助けていた。それだけは強く言わせてもらうよ》

 

『そうかよ。だがその姿もそろそろ限界だろ? また話でもしようや、同じケルト出身だ。積もる話もあるだろ?』

 

《どうだろうね……また僕が表に出たらキミ達を殺すかもしれない。いや、確実に殺すよ》

 

『ゼハハハハハハハハ! それで良いんだよ! テメェが大人しく話をするなんざ見たくねぇしな!! 宿主様!』

 

「――あいよ」

 

 

 言われなくたって相棒の頼みぐらい理解してるよ。

 

 即座に影を生み出してリゼちゃんへと伸ばす。いきなりの行動に戸惑いを見せた連中もいるがそれは無視だ……気にするだけ損だしな。相手のリゼちゃんはその場から動かず、笑いながら俺が生み出した影に触れる。そこから先は同じだ……触れた箇所から最初から無かったかのように消えていく。リゼちゃんが持つ神器無効化能力のせいだろうな……! ちっ! 本当に神器相手だったら無双できる能力だなおい!

 

 まぁ、神器()()だがな。

 

 

「――ちっ!」

 

 

 突風が突如として発生した。何故ならリゼちゃんの背後に突如として夜空が現れて渾身の蹴りを放ったからだ……もっともそれはリリスによって阻まれたけどな。てか流石オーフィスのそっくりちゃん! あの蹴りを受けても腕が折れてすらいねぇとはな! 俺だったら普通に折れてます。あとタイミングが良すぎるところを見ると本当にどっかで見てやがったな?

 

 

「ありがとリリスたん! さっすが俺のボディーガード! そしておっひさぁ~光龍妃ちゃん! もしかしておじちゃんに会いたくなったのかなぁ?」

 

「ウッザ、キモイんだよ!」

 

 

 ゾクゾクする声色と表情で夜空は光を生み出す。ゼロ距離から放たれた圧倒的な光ですらリゼちゃんに触れただけで消滅する……夜空レベルですら無力化とは恐れ入るよ。でもまぁ、なんとなく神器無効化能力の事が分かってきた。そうか、リゼちゃんに触れるまでは確実に存在してるんだな。

 

 

「あぁ、もう!! むっかつくぅ!! でもいっか、ノワール」

 

「サンキュー夜空。お陰で支配権は奪えた」

 

 

 俺の腕の中には先ほどまでリゼちゃんの傍に居た吸血鬼ちゃんが居る。お姫様抱っこ状態なのは完全に俺の趣味だからこの際は置いておこう……いや置いといてください。というよりも夜空、なんだその殺気は……? 嫉妬か? おうおう嫉妬か夜空ちゃん! お前の目の前で別の女をお姫様抱っこしてるのを見て嫉妬してるのかい? いやぁ~モテるって辛いわぁ! マジ辛いわぁ! 何時でもウェルカムだから来て良いんだぜ? お姫様抱っこどころか腋ペロペロしてあげるからさ!

 

 

「死ね」

 

 

 問答無用で蹴りを叩き込まないでください。吸血鬼ちゃんが居るんですよ!

 

 

「……ノワールきゅん、一応聞くけど何してるのかな?」

 

「え? お姫様抱っこ」

 

「うん知ってるぅ! おっかしいなぁ~一応盗られないように軽い結界張ってたのにね。あっ、もしかしてさっきの攻撃で壊れちゃった? うっそー! リゼヴィムおじちゃんったらドジだねぇ♪」

 

「それもあるな。夜空の攻撃で結界破壊、その隙を突いてコイツの近くをうろついている悪霊を支配して俺のところまで移動させる……欠伸が出るぐらい簡単だったぜ? 流石に舐めすぎだろ……混血とはいえキマリスだぜ? 悪霊を従えた存在の前に浮遊霊だの悪霊だのを放置とか奪ってくださいって言ってるようなもんだ。あっ、先輩! 俺からのプレゼントなんで受け取ってください!」

 

「……もう、なんて言えばいいか分からないわね」

 

 

 吸血鬼ちゃんを手渡された先輩の表情は何が何やらって感じで困惑している。だろうね! だってさっきまで言ってたこととやってる事が違うんだし。まぁ、今回に関しては相棒からの頼みって事でやるしかなかったんだよなぁ! でもまさか夜空が乗ってくるとは思わなかったよ……もしかしてユニアか?

 

 そんな事を考えているといつもの様に夜空が俺の背中に抱き着いてきた。軽く首絞めも入ってる所を見るとかなりイライラしてるらしい……あれ? このまま絞殺される? 何それご褒美ですか!

 

 

『なんだよユニア! テメェが人助けなんざ珍しいじゃねぇの!』

 

『クロムこそ珍しいですね。たかが吸血鬼を助けたいと思うなんて今まで無かった事でしょう』

 

『そりゃお前決まってんだろ! 俺が大好きな男の娘にプレゼントするためだっての!! こうして好感度上げて一気に抱く! これこそ王道だろうがよぉ!! テメェこそなんだって手助けしやがったんだぁ?』

 

『いえ、古い友人が居ましたので恩でも売っておこうかと。クフフフフフフ』

 

《クロムにブリ、いや今はユニアだったね。珍しいことがあるものだ……でも覚えておけ。僕は今から眠りにつくが次は殺す。精々、高笑いしながら待っているといいさ》

 

『楽しみにしてるぜ! 逆に殺されても文句言うんじゃねぇぞ!』

 

『……感謝しますよ。バロール』

 

 

 最後の言葉を残してバロールことハーフ吸血鬼君は元の姿に戻った。空中に浮いている状態から意識を失ったせいか地面に落下し始めたのでイケメン君が一瞬でキャッチした……うーん、あの構図だけ見るとイケメン騎士とお姫様だよなぁ。中身は男と男だけど。

 

 

「……はぁ。あぁ、もう頭が痛い。今代の地双龍は何を考えてんのかサッパリだ。そう思うだろ、ヴァーリ」

 

「――なんだ、気づいていたのかアザゼル」

 

 

 上空から白い鎧を纏ったヴァーリが下りてきた。先ほどまで姿を消す魔法を使っていたんだろうがえーと、普通に龍のオーラとかで気づいてました! というよりもなんで混ざってこないんだろうなぁとか思ってた!

 

 

「何年お前の親をしてたと思ってやがる? お前の気配なんざ簡単に分かるんだよ。それよりもお前……何があった?」

 

「何も無かったさ。いや、あったな。だがそれは後だ。さて、久しぶりだなリゼヴィム」

 

「おっひさぁ~ヴァーリきゅん! うーん♪ 今代の二天龍と地双龍が勢揃いとはすっげーもん見ちゃったよ! うひゃひゃひゃひゃひゃ! なんだよ、良い殺気じゃねぇか。少しは強くなったのかよ?」

 

「試してみるか?」

 

「あーはいはい、やってみろよ。どーせ俺には効きませんけどねー!」

 

「――そうか」

 

 

 ヴァーリは一瞬でリゼちゃんの懐に入り拳を叩き込む動作をした。攻撃されるというのにリゼちゃんは呑気に鼻をほじくっていたが……ヴァーリの拳が心臓を貫こうとした瞬間、その手を掴んだ。

 

 

『Reflect!!』

 

 

 ヴァーリの背から生えている光翼から音声が鳴り響いた。リゼちゃんに触れられたことで先ほどまで纏っていた白い鎧は籠手の部分を残して消滅するが……ヴァーリは不敵に笑い、リゼちゃんは表情を崩している。そりゃそうだ……! 神器の力を無効化する能力を持っているのにヴァーリの禁手、白龍皇の鎧の籠手の部分が消えてねぇんだからな! ゼハハハハハハハ! マジか! マジで? 嘘だろ……! さっきの音声といい何をしやがったヴァーリ!? あれか!? 曹操ちゃんが言ってた亜種禁手の力か! おいおい……なんで俺の前に出てこなかったんだよ! かなり楽しく殺し合えそうじゃねぇか!!

 

 

「……おいおい嘘だろ。なにこれ? なんで消えねぇんだよ!!」

 

「流石のお前でも戸惑いを見せたか……ハハッ! 中々愉快だな!」

 

 

 魔力の波動を放ち、ヴァーリはリゼヴィムから距離を取る。そして即座に鎧を纏い始める……前に見た鎧と同じに見えるが所々の形状が若干だが変わっており、籠手の部分は鏡のように反射するほど美しい純白へと変化している。

 

 

「教えてやろうかリゼヴィム。これこそアルビオンが生前保有していた能力――反射だ。曹操のお陰でサマエルの毒を受けた際、お前を殺すまで死にたくないと思ったみたいでね。気が付けば禁手が亜種化していたのさ……もっともそれのお陰でアルビオンが持つ能力を引き出せたんだけどね。宿している存在の力を禁手として引き出すのは影龍王が既に行い、光龍妃と兵藤一誠は共に未知なる力に目覚めているのだから白龍皇である俺が同じことをしてもおかしくは無いだろう?」

 

「……嘘だ、嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ!! 俺の神器無効化は神器能力者には最強の能力なんだよ! 反射だ!? ふざけ――」

 

『Reflect!!』

 

 

 取り乱したリゼちゃんの顔面をヴァーリが殴る。勿論、神器無効化能力を受けたはずなのに籠手の部分は健在だからダメージは高いだろう……そもそも高速で移動した上で殴られたらそれだけで痛いだろうけどね! てかそもそも何してんだ……反射、反射……え? いや、え? あのヴァーリ? お前まさかマジで反射してんの?

 

 

「……あぁ、この手でお前を殴れる日が来るとは思わなかったよ。本当に俺は白龍皇で良かった、アルビオンには感謝しきれないほどにね」

 

『それはお互い様だヴァーリ。お前が居たから私はさらなる高みへと昇れるのだ。私とお前は一心同体、二人で一人なのだ。さてリゼヴィム・リヴァン・ルシファー。改めて名乗らせてもらおうか。我が名はアルビオン、白龍皇と称されし白き龍なり! かつて貴様がヴァーリに対して行った行為を私は今でも覚えているぞ』

 

「……そりゃ光栄なこって」

 

『あぁ、誇るが良い。二天龍と呼ばれた私の力を受けるのだからな。覚えておくが良い、我が力である「反射」ならば貴様の神器無効化など意味をなさないという事を!』

 

「確かに貴様の力は神器使いからすれば無敵だろう。しかしだ、アルビオンの力ならそれすら反射する……この白龍皇(ディバァイン)の反射(・ディバイディング)(リフレクトメイル)ならな。この意味が分かるか?」

 

「……ふざけんなよ、俺の神器無効化を受けないように反射したってか! んなもん認められるわけねぇだろ!! 神器の力に俺が、俺の神器無効化が突破されるわけが――」

 

 

 その言葉の先は続かない。何故なら再びヴァーリに殴られたからだ……いやぁ、笑えるわ! 散々神器相手には無敵だって言ってた男が神器使いに殴られるとか滑稽すぎるだろ!! 夜空とか爆笑してるぞ! 指さしながらぷぎゃーって感じで大爆笑中だ! ちなみにアザゼルも良い笑顔でリゼちゃんを見て笑ってる所を見るとかなり嫌いなんだろう……だろうな! だって生理的に受け付けない奴だもん!

 

 というよりも地味に羨ましい件について。俺も普通の霊体を作って殴れば良いだけだがどうにかして相棒の力込みで殴ってみたい……いや、まぁ……俺の考えが間違ってなければ行けそうな気がするんだけどなぁ。俺の影人形は相棒の影と霊体が混ざってるから普通に殴れば消えるのは間違いない、でも今は拳付近とかにルーンやら防御魔術やらで覆ってるから尋常じゃないほど早く殴ればルーンとかの部分が当たって殴れそうな気がするんだよね! だってリゼちゃんに触れるまでは存在してるわけだし。でも今やるわけにはいかない……何故ならもし失敗したら夜空にダッサとか言われちゃうしね!

 

 

「……っぅ!!!! また、突破……!!!!」

 

「いい加減学んだらどうだ。俺はお前を殴れる、ほら……次を防がなければ死ぬぞ? 後ろにいるオーフィスの力とやらに護ってもらえばいい」

 

 

 あっ、そう言えば居たな。

 

 

「――リリスたん。なんで、護らないのかな?」

 

「リゼヴィム、神器の力相手には無敵と言ってた。相手は神器使い、だから無敵と判断して見ていた」

 

「……ちっ、感情を薄くしてたせいってか。これは仕方ないか~うん、ヴァーリきゅん。負けだよ、大負けだ。今日は引くことにするよん♪ それじゃあ諸君! また会おう!!」

 

 

 それを言い残してリゼちゃんはリリスと一緒にこの場から消えた。完全に逃げましたね……うわぁ、一気に小物になったんだけど?

 

 

「――アルビオン」

 

『あぁ。私の力は奴に通じる。だがまだだ……まだ不完全だ。聖書の神により封じられた力を完全に開放しなければ対策されるだろう。本来であれば籠手の部分だけではなく、全身が残るはずだからな。私が鍛え上げた能力だ、その程度は造作もない。だからこそ私はしなければならないのだ……!聞こえているかドライグ』

 

『……あぁ、聞こえているともアルビオン』

 

『無様な姿だな』

 

『言うな。相棒は悪魔の世界を知らなさすぎるだけさ。いずれ理解することになる』

 

『そうか……ドライグ、今日まで色々とあったが、そのだな、時間がある時で良い……話さないか』

 

『……良い、のか? お前は俺を恨んでいるのだろう……? ま、まさか恨み言をぶつけるためか!! 言っておくが乳だの尻だのは俺は関係無いぞ!! 』

 

『し、尻! ケツ! はぁはぁ……く、くるちぃ……! い、いや違う!! 違うのだ!! かの三蔵法師に言われたのだよ……互いに話をするべきだとな! 文句など山ほどある、あぁ! あるとも!! だが今は話そうではないかドライグ! 昔の様にな……私達にとってそれは必要な事だろう!』

 

『……アルビオン!!!』

 

『――これはどちらが攻めでどちらが受けなのでしょうか。昔からアルビオンが受けと思っていましたが……まさかこれは! 逆転! あぁ、素晴らしい!!』

 

 

 ユニアさん! ちょっと今良いシーンだからちょっと黙ってようか!

 

 まぁ、そんな事がありつつ無事に目的の人物を取り戻せたっぽいし俺も十分に楽しめたからアザゼル達に別れを告げて夜空と一緒に犬月達の元へと戻る。なんか転移する前に「いや待て逃げるな!! 最後まで手伝えキマリス! あと色々と話聞かせろ!!」とか聞こえたような気がするけど気のせいだねー! うん! だって普通に殺し合っただけですしー! 俺は関係無いですしー! いやぁ~でも楽しかった! うん! すっげぇ楽しかった!! もう体が火照って仕方ねぇわ……よし今日は犬月達全員と殺し合おうかねぇ? 何処まで強くなったから確かめたいしさ!

 

 と、呑気に思っていましたが現実は甘くありませんでした。

 

 

「よう! やっと戻ってきやがったか!!」

 

 

 鬼の里、四季音姉妹の家へと戻ってきた俺の目に飛び込んできたのは何故か酒を飲んでいるグレンデルとラードゥンの姿だった。あ、あれぇ……? なんで居るの? なんか近くに居る犬月から助けてください的な視線が飛んできたがちょっと整理させろ。なんで居るの? 何で酒飲んでるの? いやそれよりもニーズヘッグはどこ行った!?

 

 

「おい、なんで居るんだよ?」

 

「んなの決まってんだろうが!! 殺ろうぜ? さっきの続きをよぉ!! 逃げるなんざ許さねぇぞ!!」

 

「……お前ら、リゼちゃんと組んでるんじゃねぇのかよ?」

 

「んぁ? んなわけねぇだろ。確かに面白そうだったから一緒に居たがあんなのと手を組むぐらいなら死んだ方がマシってな! それにヤツの傍に居るよりもユニアん所に居た方が面白そうなんでな!! アポプス達と同じく裏切った!! グハハハハハハハハハハハ!! やっぱりよぉ、殺したいから殺して、戦いたいから戦う方が俺達らしいだろ?」

 

「……夜空、説明頼む」

 

「ん~説明って言っても困るんだけどぉ! なんか知んねーけどノワールとヴリトラが殺し合ってるの見ながら話してたら私についてくとか言いだしてさー! ウゼェからいつもの遊び場で殺し合ったけど死なねぇし! 何度も何度も一生成長しないロリボディとか言うし本当に殺してぇ!」

 

 

 説明になってねぇよ。

 

 

「代わりに私が説明しましょう。簡単に言いますとリゼヴィムの所に居るよりもユニアのようにやりたい事をやる方が性に合っているので裏切りました。此処にいる理由はグレンデルが続きがしたいと五月蠅かったのでクロムが戻ってくるのを待っていたからです。勿論、私も続きがしたかったですけどね。折角の二度目の生ですから彼女と同じように世界を回って自分がやりたい事をしても罰は当たらないでしょう? あぁ、時間があればそちらに遊びに行きますよ」

 

「そういうこった!! 俺達の体もアポプスとユニアが聖杯やらなにやらで元に戻してくれたしな! それよりもだクロム!! いい加減早く殺し合おうぜ!! さっきから我慢してんだよ!!! もし逃げるってんならこの里ぶっ壊すぞ!!」

 

「……俺が断る以前にやってるだろうが」

 

 

 視線を横に逸らすと遠くから煙が複数上がっていた。恐らく夜空がここに置いてった後で暴れたんだろう……なんせ四季音姉がガチでキレてる上、犬月達もボロボロだしな。はぁ、仕方ねぇなぁもう!

 

 

「良いぜ、殺るか! 俺も色々とテンション上がってるんでなぁ!!! ゼハハハハハハハ!! 死んでも恨むなよグレンデル!!」

 

「グハハハハハハハ! それはこっちのセリフだクロム!!!」

 

「――ノワール、殺し合うのは勝手だけど外でやってくれないかい? じゃないと、潰すよ」

 

「了解。流石に此処で暴れるわけねぇだろ? ちゃんと移動するさ……ついて来いグレンデル!」

 

 

 それからアザゼル達に駒王学園へと呼び戻されるまで俺は……グレンデル達と殺し合っていた。




ドライグ→倍加、譲渡、透過、燚焱の炎火
アルビオン→半減、吸収、反射、減少

原作を読んで思いましたがアルビオンの減少以外の能力をフルに使ってた全盛期二天龍相手に三大勢力はどうやって勝ったんだろう……防ごうとしても倍加を使ったドライグが透過で突破、攻撃してもアルビオンが反射やら半減で防がれるし……勝ち目が殆ど無い気がする。




▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。