スーパーロボット大戦J ムーンデュエラーズ   作:YSK

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第02話 そこの名は火星

──光子力研究所/コントロールセンター──

 

 

 

「弓教授。連合君から引渡しの件で通信が入っています。どうされますか?」

 通信を受けたローリィが弓教授に振り返った。

 

 

「その件ならば彼等は我々の制止を振り切り『逃げた』と伝えてやりたまえ」

 

 先ほど教授は、海の方へ飛行体を一つ飛ばしていた。

 しばらく飛行すれば海に消えるそれを、軍は逃げたソレだと認識するだろう。

 

 

「しかし教授、あの機体、一体なんだったんでしょうね?」

 共にいた鉄也が疑問を口にする。

 

 命からがら逃げてきた彼女達とこの街で巻きこまれた紫雲統夜はともかく、彼女達を救った者が託したというあの機体は弓教授にとっても未知の物だった。

 鉄也とジュンに簡単に調べさせたが、わかったのは動かせるのはあの4人だけということだけだった。

 

 軍から逃がすためとはいえ、そんな未知の機体に彼等を乗せるというのは、歴戦の勇者である剣鉄也とて思わず心配してしまうほどである。

 機体が信用できないというのはそれほどのことなのだ。

 

「……」

 弓教授のメガネが鈍く光った。

 

 

「実は、君達に持ってきてもらったアシュアリー・クロイツェルの調査データの中に、気になるものが混じっていたんだ」

 

「気になるもの?」

 

「連合軍の極秘あつかいのデータだったのだが、アシュアリー襲撃の際、緊急出撃した連合軍機があった」

 

「それは、当然なのでは?」

 木星トカゲに襲撃されたという体をなすなら、それを救おうとする動きがあってしかるべきだ。

 

 連合の自作自演にしても、偽装にしても。

 

 

「うむ。しかし問題はそこではない。緊急出撃した連合軍のメビウス(ガンダムSEED)はその現場に向かう途中、原因不明の機体トラブルで行動不能におちいり、そのまま墜落してしまったそうなんだよ。それも発進した全機が」

 

「全機に機体トラブルですって!? そんなバカな。どれだけ整備兵がなまけていたとしても、そんなことは……!」

 弓教授の言葉に、鉄也も驚きを隠せない。

 

「そう。普通ならあり得ないことだ。続いて出撃した者達がアシュアリーの被害と共に調査したようだが、その原因は今だ究明されていない。もしそれが、人為的なものだとしたら……」

 

「……教授はそれを、アシュアリーを襲撃した者がやったとお考えで?」

 あの三人を逃した者は彼女達を逃がし単身残ったという。ならば、その襲撃者とその者との争いに鉢合わせしていたとしても不思議はない……

 

「それはわからない。だがもしそうだとしたら、それが何者がつくった兵器であっても、恐ろしいことになる気がするのだ。その中で、彼女達はあの機体を託された。これにはなんらかの意味がある。だからこそ、あの機体と彼女達を引き剥がすべきではないと思ったのだ」

 

「……」

 そういうことかと鉄也は納得した。

 

 弓教授の様々なコネを使えば、かなり不自由だが彼女達の命は保障できたかもしれない。

 しかし、あの機体は軍に接収され、どんなあつかいを受けるのかもわからない。彼女達が再び動かせるかさえも。

 

 そうなった時、その原因不明の不調が再び引き起こされれば、取り返しがつかないと考えたのだろう。

 

 

「わかりました。兜やさやかさんが連中と一緒に火星の人々を助けに行くと言い出したのを止めなかったのもそういう事情があったからですか」

 

 甲児とさやかを行かせたのも、火星の人を助けるためだけでなく、彼女達を守るという意味もあったのだろう。

 

 

「すまないね。しばらくは君達だけでやってもらうことになってしまうが」

 

「兜の分くらいは俺とグレートでカバーしてみせますよ」

 鉄也はそう、ニヒルに笑うのだった。

 

 

「……あとは、火星がどのような状況になっているかだね」

 

「かなり過酷な状況になっているかと……」

 

 火星はすでに木星トカゲに占領されたも同然の状況だ。

 たった一艦でそこへ乗りこむのだから、かなり厳しい戦いが待ち受けているに違いない。

 

 だが、鉄也は信じている。兜甲児ならば生きて帰ってくると。

 

 弓教授もうなずいた。

 

 

「もっとも、今の地球圏の状況を考えれば、火星に行くのも残るのもかわらないかもしれないがね……」

 

 

「それは、どういう?」

 

 

 無事帰るということを肯定した弓教授は、ポツリとつぶやいた。

 

 弓は感じていた。

 じき、この地球圏にも安全な場所など存在しなくなる。と……

 

 

 

──月面基地/ネルガル重工ドック──

 

 

 

 統夜達は甲児達と共に、月面にあるネルガル重工のドックにやってきた。

 

 

「……月」

 

 月に降り立ったフェステニアが、小さくつぶやいた。

 彼女達三人は、ある方向へ自然と視線をむける。

 

 それは、アシュアリー・クロイツェル社があった方向……

 

 

「……」

 それを見て、統夜も甲児達も彼女達へかける言葉は見つからなかった。

 

 全員気丈に振舞ってはいたが、やはり月に来ればあの時のことを思い出す。

 事情を知る彼等が、そこに声をかけられるわけがなかった。

 

 

 特に、父を不慮の事故という突然の理不尽で奪われた経験のある統夜は、その辛さがどれほどものか身をもって知っていた。

 頼る人が突然いなくなって、不安だけが残って。

 

 その上彼女達はその家族の葬儀さえできず、この地球圏を去らねばならない。

 

 

(……俺だったら、無理矢理連れてこられて、嫌だ嫌だと余裕もなく駄々をこねていただろうな)

 

 

 巻きこまれたのが統夜一人ならば、火星に行くことに文句ばかりを口にしていただろう。

 だが、巻きこまれたのは彼女達も同じ。それどころか、彼女達は巻きこまれただけでなく、家族を失ったというさらなる理不尽も味わっている。

 

 必死に不安と戦っているというのに、ここで統夜まで取り乱してはどうにもならない。

 

 家族を失った辛さも知っている彼は、彼女達よりほんの少しだけ余裕があり、それゆえ文句を言いたい気持ちをおさえることが出来ていた。

 

 

 彼女達の心の傷は、時間でしか解決することは出来ない。

 

 時間が経ち、ゆっくりと受け入れられるようになるまで、そっとしておくしかない。

 

 

 しかし、このまま声をかけずにいるのも悪いことを思い出すだけでいいことはない。

 

 だから統夜は甲児達に視線を送り、気を紛らわせられるよう声をかける。

 あえて、彼女達に聞こえるよう、甲児達に向かって。

 

 

「なあ甲児、マジンガーZが運ばれている横にある奴、あれ、なんだ?」

 

 

 三人にも興味をもたれるよう、そう聞いた。

 甲児は統夜の気遣いに気づいたのかそうでもないのか、それを見ると、おお。と小さく驚いた。

 

 

「あれ、コン・バトラーVじゃねえか。てことは、ああ、やっぱり。あそこに南原コネクションの連中がいるぜ」

 

「本当だわ。そういえばお父さまが、ネルガルはあちこちに協力を要請してるって言ってたわね」

 

 

 甲児の言った先を見ると、そこには五人組の男女がいた。

 

 

「南原コレクション?」

 

「なんですかそれ?」

 

 テニアとメルアが食いついてきた。

 

「お知り合い?」

 カティアが聞く。

 

 

「まあ、知り合いといえば知り合いかな」

 甲児がうなずいた。

 

「あら、さやかさん? 甲児君もいるのね」

 わいわい話していたのに気づいたのか、南原コレクションの連中と言われた五人組の紅一点が声をかけてきた。

 

 彼女の名は南原ちずる(コン・バトラーV)。

 コン・バトラーVの開発者、南原博士の孫娘で、コンバトラーの脚部となるバトルマシン4号、バトルマリンのパイロットである。

 

「やあちずるさん。相変わらず綺麗だなぁ」

 彼女を見て、甲児が少し鼻の下を伸ばした。

 

「そんなことを言ってると、さやかさんが怒るわよ」

 しかし軽くあしらわれてしまった。

 

 

「なんだ。お前達も行くのか? 弓教授もネルガルの資金提供に釣られた口かよ」

 

 そう言って会話に加わったのはコン・バトラーVのメインパイロット、葵豹馬だ。

 一応、彼がコン・バトラーのチームリーダーである。

 

 ちなみにだが、コン・バトラーVは異星からの侵略者に対抗するため作られており、異星人の手先かもしれない木星トカゲの調査に参加するのも当然と言えるだろう。

 

 

「違うわよ。お父さまは断るつもりだったもの。あたしと甲児君がついて行くって言ったの。火星の人達は気になるし、それに付き添いみたいなものよ。あの子達の」

 

「よろしく」

「よろしく」

 

 カティアと統夜が挨拶を返し、四人で小さくお辞儀をする。

 

 

「なんや、見かけん顔やな。軍の奴のわけあらへんし、またどこぞの研究所でなんかつくりよったんか」

 

 統夜達を見て、コン・バトラーチームのサブリーダーであり、2号機であるバトルクラッシャーのパイロットでもある浪速十三が口を開いた。

 関西弁を操る凄腕のスナイパーでもある。

 

 他にコン・バトラーチームは西川大作と北小介という天才少年。それと合体補助のロペットというロボットがいる。

 

「色々事情があるのさ、こっちも。それについてはあとで説明するぜ」

 甲児がくちばしを挟んだ。

 

 コン・バトラーチームのことは甲児も信頼しているが、どこで誰が聞き耳を立てているかわからない。

 ゆえに、地球圏を出るまでは彼等にも詳しい説明をするつもりはなかった。

 

 

「ま、これから一緒なんだ。よろしく頼むぜ。俺たちは先に来て一度戦闘に参加したんだが、ナデシコって戦艦はすごいぜ。木星トカゲをまとめて吹き飛ばしちまった」

 

「はい。あのディストーションフィールドというのも……」

 深くは考えない豹馬は甲児の言葉で納得し、天才少年小介はその時見たナデシコの武装の凄さを説明しようとする。

 

 

「うおぉっ! こいつはあの有名な“鉄の城”マジンガーZ! くぅ、まさかこんな所でお目にかかれるとは、感動だぁ!」

 

 

 しかし全てを口にする前に、そんな歓喜の叫びが飛びこんできた。

 

 

「な、なんだ!?」

 甲児が驚きの声をあげる。

 

 統夜達も声はあげなかったが、びっくりしてその声が上がった方を見た。

 

 

 そこには、マジンガーZを見て目をキラキラ輝かせる青年がいた。

 

 その男を見て、コン・バトラーチームはため息をつく。

 

 

「またあいつか。ナデシコのパイロットなんだけどさ、コン・バトラーやマジンガーのことをよく知っているみたいで、なんだかえらく喜んでいるんだよな」

 豹馬が呆れながら甲児達に説明する。

 

 

「ヤマダはん。もうちょい静かにしてぇな。やかましゅうてかなわんで」

 

「ダイゴウジ・ガイ!」

 

 十三にヤマダと呼ばれた青年が大きな声で反論する。

 

 

「名前が二つあるんですか?」(メルア)

 

「いや、ヤマダ・ジロウって名前や」

 

 

「だから、それは仮の名前だと言っただろう! ダイゴウジ・ガイは魂の名前、真実の名前なのだ!」

 

 拳を突き上げ、彼は力説した。

 つまるところ、ダイゴウジ・ガイというのは自称で言っているだけである。

 

 

「……なんか面白い人だね」

 

 

 テニアが笑った。

 釣られて、カティアとメルアも笑う。

 

 少し沈んでいた彼女達を笑顔にしたのだから、彼はたいしたものだ。

 統夜達はソレを見て心の奥でそう思ったそうな。

 

 

((……すっごく変なヤツだけど))

 

 統夜も甲児もそう思った。

 

 

「ったく、ずいぶんとにぎやかだな。おいアキ、ここはネルガルのドックじゃなくてハイスクールらしい」

 

「ちょっとノアル。あなたたち、ちょっといい? 私達今日からナデシコに乗艦する予定なんだけど、艦長さんはどこかしら?」

 

 

 最後に現れたのは、外宇宙開発機構という組織からやってきたノアルとアキ(テッカマンブレード)であった。

 彼等は外宇宙開発機構が主催した火星体験教室、“コズミックカルチャー・クラブ”の3期生達の安全を確認するため、この計画に参加してきたのである。

 

 

 

 こうして、ナデシコと共に火星へ向かう精鋭達が顔をそろえたのであった。

 

 

 

──統夜──

 

 

 

 搬入が終わった俺達は、ナデシコのクルーと顔をあわせのためそのブリッジに通された。

 

 

「というわけで、以上が当ナデシコの主だったクルーです。南原コレクションのみなさん、光子力研究所のみなさん、外宇宙開発機構のみなさんは、ナデシコに乗艦の間、ネルガルの契約社員に準じたあつかいとなります。規約については目を通していただいていると思いますが……」

 

「やれやれ、嫌な予感が的中しやがった。プロスペクターさん、ネルガルってのはいったいなにを考えている。マジンガーやコン・バトラーの連中はいいが、ナデシコのクルーは素人ばかりじゃないか。しかもパイロットは1名コック兼任だ。これで本当に木星トカゲとやりあうつもりなのか」

 

 ナデシコの人事を担当したというプロスペクターさんの言葉に、外部から招かれた中で唯一大人だった外宇宙開発機構のノアルさんが呆れている。

 

 でも、それは確かにその通りだ。

 

 

 外部から来た俺達を見ても子供ばかりで不安になるというのに、ナデシコの乗務員も個性的な人達ばかりだったのだから。

 元声優で通信士のメグミさん、元社長秘書の操舵士ミナトさん。なにより、オペレーターは小学生くらいの女の子だ。こればかりはコン・バトラーチームを見ていた俺達も驚いた。

 

 

 こんなメンバーなのだから、呆れるのも無理はないだろう。

 

 

「あらぁ、でもあたし達、もう実戦も経験済みなのよ。大丈夫よね、ルリちゃん?」

 

「ええ。たぶんだけど」

 

 ノアルさんの言葉に、ミナトさんが反論する。同意したのはオペレーターの小学生。ホシノ・ルリが同意した。

 

 

「その通り。すべて優秀なスタッフです。連合軍にも引けは取りません。それに艦長は連合大学の総合戦略シュミレーションで無敗を誇った逸材です。先の戦闘でも……」

 

 

「あの、さっきから気になっていたんですが、その艦長さんは……?」

 

 ノアルさんの同僚、アキさんが悪いと感じながらも、プロスペクターさんの言葉をさえぎった。

 

「そうそう。オレ達もまだ会ってないぜ」

 甲児もきょろきょろとブリッジを見回す。

 

 言われたプロスペクターさんはバツが悪そうな表情を浮かべた。

 ブリッジにはさっき紹介された人達以外に艦長っぽい格好をしたフクベという人もいるけど、彼は艦長ではないらしい。

 

 

「はあ、それがその……」

 

 

「すみませ~ん。遅れちゃいましたぁっ!」

 

 

 その時、女の人がブリッジに勢いよく飛びこんできた。

 

 二十歳くらいの綺麗な人だ。

 

 

 ノアルさんが口笛を吹き、こんな美人秘書官がいるなんて羨ましいと言っていた。

 

 女性陣がなに言ってんだコイツという視線を向けたけど、それに対してなにかを口にする前にさらに衝撃的な発言がその飛びこんできた女の人から発せられた。

 

 

「私が艦長のミスマル・ユリカで~す! ぶいっ!」

 

 

 場にいた全員が固まった。

 艦長と名乗った女の人は、したり顔でこの行動に満足しているように見えた。

 

 

 ノアルさんがなんの冗談だと聞いたが、冗談ではなかった。

 最初軽口を叩いていたノアルさんが頭を抱えている。それくらい非常識のようだ。

 

 

 ルリちゃんがつぶやいた「バカ」という言葉がとても印象に残る。

 確かに、その通りだ。

 

 悪いと思いつつ同意してしまった。

 

 

 大丈夫なのか、この艦……?

 

 

 

──統夜──

 

 

 

 全員の紹介も終わり、いざ出発。となったところでまさかの事態が起きた。

 

 連合軍がナデシコを接収しに来たのだ。

 いつのまにかネルガルのドックは囲まれ、進路も塞がれている。

 

 どうやら連合軍としても、木星トカゲと確実に戦え、プラントの独断的な行動を抑制できる兵器は放っておけなかったようだ。

 

 この艦が接収されたら俺達はなんのために火星に行く決断をしたのかわからない。

 

 

「この艦が捕まっちゃったら、アタシ達もまずいよね……」

 

 テニアがぽつりと不安を口にした。

 軍に捕まってしまったら、一体どうなるのか。俺も彼女達も、その不安は拭えない。

 

 

「まいったぜ。まさかこんな展開になるとはなぁ」(甲児)

 

「あの艦長さん、どうするつもりかしら」(さやか)

 

「さぁなぁ。あんまりあてになりそうにないぜ」(豹馬)

 

「連合艦隊の司令官は実のお父さまということだものね」(ちずる)

 

「なんやつまらんことになりよったなぁ」(十三)

 

 

 甲児達も、どうなるのかあのユリカという女艦長とその父、連合宇宙軍第3艦隊提督ミスマル・コウイチロウ提督とのやり取りを見守るしか出来ない。

 

 どうなるのか、と息をのむと、あの艦長は俺達の予想を超える決断を下した。

 

 

 警告を無視してナデシコを火星に向けて発進させたのだ。

 ディストーションフィールドと呼ばれる重力波のバリアを張り、連合軍艦隊の隙間を縫って進んでいく。

 

 それは、俺達はおろかあの甲児達まで無茶苦茶だと評する行動だった。

 

 

 でも、みんなどこか待ち望んでいた顔をしていた。というのは俺の心の中にしまっておこう。

 

 

 月のドックを飛び出し、包囲していた宇宙第3艦隊を振り切ったけど、月軌道にいる防衛艦隊には捕捉されてしまった。

 

 

「総員、戦闘配置。パイロットの皆さん、出撃の用意をしてください!」

 

 

 今回は流石に逃げ切れない。相判断した

 艦内に、そう艦長の言葉が響き渡った。

 

 

「戦艦ナデシコに告ぐ、こちらコルベット准将(テッカマンブレード)だ。我々地球連合軍は出来るだけ紳士的にことを収めようとした。だがそうもいかんようだな。ネルガルがどうあってもナデシコの提供を拒むというなら、こちらにも考えがある。わしの合図一つで攻撃が開始される。これが最後通告だ。艦を停止し、ナデシコを引き渡せ!」

 

「私達は火星の人達を助けに行くんです。通してくれるとユリカ感激!」

 

 ……なぜか、コックピット内にブリッジの会話が流れてきた。

 誰かがわざとやったのかミスなのかはわからない。

 

「火星だと!? ふざけるな! そんなことは認められん!」

 艦長の言い方にバカにされたと思ったのか、コルベットと名乗った偉い人の怒鳴り声が響く。

 

 

「じゃあ、無理矢理通ります!」

 

「おのれ、これではっきりしたな。ナデシコは敵だ! 全機攻撃を開始せよ。我々のものにならぬなら撃沈してかまわん!」

 

 

「……っ!」

 さすがに耳を疑った。

 

 戦艦とはいえ民間の艦を撃沈するなんて思ってもいなかったからだ。

 

 

「なんて奴だよ。本気で撃沈命令だすなんてな。統夜、やれるか?」

 甲児が俺に声をかけてきた。

 

「やりたくないって言えば攻撃されないならやらないさ。でも、やらなきゃ撃沈されるんだろ。俺だって死にたくない。やれっていうならやってやるさ」

 

「そうか。周りには俺達がいるからな。いざとなったら頼っていいぜ」

 

 鉄の城をかるあの有名なマジンガーZのパイロットが隣にいる。それだけで少しだけ安心できた。

 

 

「サイトロン活性化確認。エクストラクター起動完了。統夜君、宇宙は地上と違って周囲のどこからでも攻撃が来るわ。それだけは注意して。あとは私がフォローするから」

 サブシートの後部座席に座り、起動を進めていたカティアがそう言った。

 

「ああ」

 

 

「それではみなさん、発進してください!」

 艦長から号令がかかった。

 

 

「よっしゃぁ! いくぜぇっ!」

 

 いの一番に勢いよく飛び出して行ったのは、あの自称ダイゴウジ・ガイ。

 

「さあ博士、研究所のバリアを開けてくれ! コック……いやテンカワ、俺に続けっ!」

 テンカワとはもう一人のエステバリスのパイロット。テンカワ・アキトさんのことだ。

 

 にしてもあの人、緊張感なさすぎる……

 

 

「……博士て誰や」

 十三も呆れている。

 

 

「なんだか光子力研究所にいるみたいだわ……」

 

 

 さやかさんの言葉で、なぜか他の人達の視線が俺の方に集まった。

 

 ちょっと待て。俺まであれと同じような目で見るな!

 俺は確かに光子力研究所からきたことになっているけど、甲児達とは実質関係ないんだ!

 

 

「おいなにやってんだ。さっさと出ろーっ!」

 整備班の班長、ウリバタケさんに怒られてしまった。

 

 

「……くそっ」

 なんか納得いかない。

 

 そう思いながら、俺とカティアはナデシコから発艦した。

 

 

 

 最初こそは連合軍とだったが、この戦闘をかぎつけたのか、木星トカゲまで乱入してきた。

 連合軍、木星トカゲ、俺達と入り乱れての戦闘の途中、ナデシコのエステバリス3機が援軍として合流し、俺たちはなんとか連合軍も木星トカゲも追い払うことが出来た。

 

 

「敵残存兵器なし。連合軍に追撃の様子もありません」

 ナデシコのオペレーターから現状の報告が伝えられる。

 

「皆さんを回収します。回収後そのまま進路を火星に向けてください。地球圏を脱出します!」

 

 

「……はぁ、はあ。終わった、か」

「ええ。もう終わったわ」

 

 俺のつぶやきに、カティアが答えを返す。

 彼女も戦闘の緊張からか、少しだけ疲れているように見えた。

 

 当然だろう。彼女だって俺と同じく元々素人なんだから……

 

 

「初めての宇宙だってのにやればできるじゃないか。こんだけやれりゃ上等だぜ」

 

 マジンガーZが俺達の背中を押し、ナデシコへ向けてくれた。

 

「そうかな?」

「ありがとう、甲児君」

 

「そうだぜ。へへへ」

 甲児、カティアに鼻を伸ばしていると後ろから来ているさやかさんになに言われるかわかったもんじゃないぞ。

 

 

 ……ただ、よくやった。とは言われたけど、俺はがむしゃらに戦っただけでなにをどうしたのかもよく覚えていない。

 こんな素人が反射的にどうしたい。と思っただけで訓練を受けた人達と互角以上に戦えるのだから、この機体は本当に凄いものなんだろう。

 

 問題は、俺とあの三人でしか動かせない。ということだけど……

 

 

「おい、少年少女!」

 

 格納庫に戻ると、あのヤマダ、いや、ダイゴウジ・ガイに声をかけられた。

 

 なぜかものすごく興奮しているように見える。

 カティアが思わず俺の背中に隠れるほどに。

 

 

「いいか、色々事情があるようだが、巻きこまれてロボットに乗るなんてのはな、王道なんだ。なんだかんだ言いながらも仲間達と共に戦ううちに一人前のパイロットに成長していく。そういうもんだ! そう、『熱血ロボ! ゲキ・ガンガー3』のようにな!」

 

(ゲキ・ガンガー3? なんだそれ)

 

 

「つまりお前達は恵まれているんだ。わかったか! だが、見せ場でこの俺より目立つ死に方はするな。」

 

「あなたは、死ぬために生きているんですか?」

 俺の背中から顔を出したカティアが聞く。

 

 

「格好よけりゃなんでもいい! 正義をつらぬく男には、ふさわしい生きざまと死にざまってもんがあるのさ!」

 

 

 一方的に言いたいことを言い、わっはっはと笑いながら去っていった。

 

 

「な、なにが言いたかったんだあの人?」

「さ、さあ……」

 

 

 なんだかよくわからなかったが、とにかく気に入られたのか気にかけてもらえたのかはわかった。

 それがよいことなのか悪いことなのかはわからないけど……

 

 

 

 そう思っていたら次の日、コック兼エステバリスのパイロット、アキトさんと一緒にガイさんの部屋に引っ張っていかれた。

 

 そこでさっき言っていたゲキ・ガンガー3のビデオを見せられるハメになった。

 

 

 ゲキ・ガンガーってアニメのことだったのかよ!

 

 

 

──ナデシコ/ブリッジ──

 

 

 

 あれからしばらく。

 連合軍の追撃もなく、ナデシコは火星に向かい順調に航海を続けていた。

 

 そのナデシコに、月経由でネルガルの光通信が届けられた。

 

 

「ネルガルの光通信を受信。ルリちゃん、デコードお願い」

 通信士のメグミが受け取った通信をオペレーターのルリへ回す。

 

 

「オモイカネ、デコードしてメインスクリーンにデータ表示」

 ルリの指示でナデシコのメインコンピュータ、オモイカネが受け取ったデータをスクリーンへ映し出した。

 

「うそ……」

「むう、ついにはじまってしまったか」

 

 スクリーンを見たメグミ、フクベが驚きの声をあげる。

 

 

 それは、独立を望むプラントに対し、地球連合軍は農業プラント“ユニウス7”に対し核攻撃を実行したという情報だった。

 

 その攻撃により、ユニウス7は崩壊し、民間人約24万人が犠牲となった。

 

 プラント最高評議会は即時報復を決定。

 ザフト軍を展開し、月と地球にニュートロンジャマーを投下。

 その力により地上では深刻なエネルギー問題が発生し、その後ザフトは月へと侵攻する。

 

 エンディミオンクレーターのグリィマルディ戦線においてザフト軍のモビルスーツ隊によって連合宇宙艦隊第4艦隊は全滅した……

 

 

「つまり、プラントと連合が全面戦争に入った。ということです」

 

 情報を見たたルリが、簡潔にことをまとめた。

 

「どおりで軍がナデシコを力ずくでもナデシコを奪取しようとしたわけです。開戦前に地球圏を出ることができたのは幸いでしたね」

 情報を見たプロスペクターがほっと胸をなでおろす。

 

「幸いって、それだけですか?」

 流石の艦長。ユリカも、その発言には驚いた。

 

「遅れていたら我々もザフト軍の攻撃を受けていたでしょうから」

 

「でも……」

 

「艦長。我々が戻ったところでなにもできんよ。それよりもプラントと連合が開戦したとなれば、我々の役割はますます重要となる。地球圏では火星のことなど考えている余裕などなくなるからな」

 フクベがたしなめる。

 

「あ、そうですね」

 

 自分達の使命の重さに改めて気づいたユリカは、ぐっと拳を握った。

 

 

「でも、気になります」

 データを見ていたルリがぽつりとつぶやいた。

 

「ルリちゃんなにが?」

 

「これだけ大規模な戦闘が発生したのに、グリィマルディ戦線には木星トカゲの関与が見られません。いつもならすぐに集まってきてどちらも攻撃してくるはずなのに」

 

「うーん。巻きこまれたくなくて様子を見ていたとか? トカゲさん達にはどっちも敵だから、数が減った方がいいに決まっているし」

 ユリカがほぼ即答する。

 これでも戦術主席なのだ。

 

「でもそれって、木星トカゲに高度な戦術的判断ができるってことですよね? そのことを前提にすると、敵が制宙権を確保しているはずの火星まで様子見程度で本格的な攻撃はないと考えられますが、艦長はどう思います?」

 

「むむっ、ルリちゃん鋭い。子供なのに」

 

「私、少女です」

 

 ユリカの感心の言葉に、ルリはなぜかそう返した。

 

 

「……でもぉ、たまたまかもしれないわよ」

 話を聞いていた操舵士、ミナトが会話に加わってきた。

 

 

「ええ、その可能性もあります」

 

 

「う~ん。あ、そうだ。ところでニュートロンジャマーってなに?」

 少し考えたユリカは、別の疑問にいきあたった。

 

 

「なんでもザフトの新兵器で、効果範囲内の核分裂を抑制し、電波障害を引き起こすものだそうです。詳しい原理は不明。もっぱら核兵器を無効化するものですが、兵糧攻めという意味もあるみたいです」

 

 

「そっかぁ。じゃ、すくなくともお互い核ミサイルをどばどば~と撃ち合うことはないんだ」

 

「まあ、せめてもの救いですかな」

 ルリの情報に、ユリカとプロスペクターがどこか安心した声をあげた。

 

 

「あの、それでこの情報って、艦のネットワークに流しちゃっていいんですか?」

 

 

「秘密にしておけるようなことではありません。しかたがありまんが、公表しておきましょう」

 

 

 

 こうして、プラントと連合の戦争がはじまった。

 

 それは、弓教授が懸念していたことが実現してしまったということである。

 

 

 このニュースを聞き、彼等は知ることとなる。

 これで地球圏にさえ、安全と言える場所はなくなってしまったのだ。と……

 

 

 

 第2話終わり

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