スーパーロボット大戦J ムーンデュエラーズ   作:YSK

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第03話 サイトロンの片鱗

──統夜──

 

 

 

 地球圏を離れてしばらく。

 ナデシコは順調に火星に向かっている。

 

 時折散発的に木星トカゲの攻撃はあるようだけど、ナデシコのディストーションフィールドを破れるような強さはなく、迎撃することなく通り過ぎてしまえるレベルのモノだけだった。

 

 それでも、この艦に乗っている限り火星での戦いは避けられない。なにもせずに死ぬのは俺だって嫌だから、せめて火星につくまで甲児達についていけるくらいにはなっておきたい。

 そう思い、三人に声をかけて特訓をしようと思い立った。

 

 

「あれ? メルアは?」

 

 

 来たのはカティアとテニアだけ。メルアの姿はなかった。

 

 

「部屋で泣いているわ。もう眠っていてくれているといいんだけど……」

 

「あ……っ」

 

 

 なぜ部屋から出てこないのか、その心当たりにすぐ気づいた。

 

 連合によるユニウス7の核攻撃。

 24万人もの民間人が犠牲になったあのニュースを聞き、あの日のショックを思い出してしまったのだろう。

 

 犠牲者に自分を重ね、悲しみがぶり返してしまった……

 

 

 そんな状況で、外に出る気力なんてあるわけがない。

 

 

「ごめんなさい。統夜君がこの状況をなんとかしようとしているのに、自分達のことばかりで。だから、私とテニアがつきあうわ。でも、今回メルアは休ませてあげて」

 

「アタシなら大丈夫だからさ!」

 

 

 そう言う二人の目の下にもクマがあった。

 

 火星に向かい、少しだけ彼女達も落ち着いたような気もしたけど、そんなことはなかったみたいだ。

 

 

「ああいけない。そういえばこれからガイさんにあのアニメ一緒に見るって約束させられていたんだ。思い出した」

 

 

「ええっ!? いきなりどういうことさ統夜! あのゲキなんとかってヤツにはまっちゃったの!? 統夜まであんなのになっちゃうのヤだよアタシ!」

 

 

 しまった。二人が絶対ついてこない言い訳として口にしたのだが、変な疑いをもたれてしまった。

 でも、下手に言い訳を変えると怪しまれる。

 

 ここはそれを貫き通すしかない!

 

 

「別にそうはならないさ。いいからお前達はメルアのところに行ってやれよ。俺は用事があるんだからさ!」

 

 

 そう言い、俺は逃げるようにそこから走り去った。

 

 

「もう、自分からやるって言ったくせにー!」

 

 

 テニアの声が俺の背中にぶつけられたが、心の中で謝るしかできなかった。

 

 

 格納庫のカドを曲がる。

 ちらりと二人を見ると、大人しく部屋に戻って行くのが見えた。

 

 

 これでひとまず、ひと安心。かな。

 

 ほっと胸をなでおろす。

 

 

「見てたぜ、むしろ部屋まで行って慰めてやりゃあいいのによ」

 

「甲児か。そんなことできるかよ。女の子の部屋に行くなんて」

 そもそもそういう状況で心の隙間につけこむようなマネはしたくないし。

 

「そうそう、せっかくのチャンスなんだからよ」

 

「豹馬まで」

 二人して覗き見かよ。

 

 ちなみにだけど、豹馬達コン・バトラーチームやナデシコの一部クルーには彼女達の事情は説明された。

 

 家族を謎の襲撃者に殺されたというのだから、同情が集まらないわけがない。

 だから、今の彼女達に余計なちょっかいはかけないだろう。

 

 つまり、この二人は俺のことをからかいに来たということになる。

 

 

 俺は呆れてため息をついた。

 

 

「というか、いいのか?」

 

「なにがだよ?」

「ああ」

 

 俺は、二人の背後を指差した。

 二人は疑問符を上げながら後ろを振り向く。

 

 

 そこには……

 

 

「甲児君~?」

「豹馬ぁ~?」

 

「やべえ、さやかさんだ」

「ちずるもいやがる! 逃げろー!」

 

 

 二人は凄い勢いで走って逃げて行った。

 

 

「三人とも早く笑顔になれるといいな!」

「お前に任せたぜ!」

 

 

 そんな言葉を残しつつ。

 

 

 

「……俺にできること。か」

 

 

 

 そんなこと、あるのだろうか?

 

 

 

──ナデシコ/ブリッジ──

 

 

 

 地球圏を出て二週間余り、ナデシコはいよいよ火星上空に到着した。

 

 火星の姿が大きくスクリーンに映し出されたことにより、乗組員は歓声をあげ、到着を喜ぶ。

 特に、火星へ戻ることを大きく望んでいたテンカワ・アキトの喜びはひとしおである。

 

 火星をテラフォーミングするため散布されたナノマシンがキラキラと光る。

 それは大気の状態を一定に保ち、有害な宇宙線を防ぐ役目を持ち、人類を火星の大地で生きられるようにしてくれているものだ。

 

 その恩恵を受ける者がいなくなった今でも、それは命じられたプログラムを正確に作動させている。

 

 

 その幻想的な光景に皆が感動している最中。

 

 

 ビーッ。ビーッ。

 警報が鳴り響いた。

 

 

 どかんッ!

 ナデシコのディストーションフィールドになにかがあたり、衝撃が伝わる。

 

 

「ルリちゃん、フィールドは?」

 

「作動中。被害ありません。でもこの攻撃、今までと違う。敵艦なおも増大中。機動兵器の離艦を確認。迎撃が必要」

 ユリカに問われたルリが状況を説明する。

 

 火星に到着し、ついに本格的なナデシコ攻撃がはじまったようだ。

 

 

「皆さん戦闘配置についてください。ルリちゃん、グラビティブラスト、スタンバイ! バンバン撃っちゃって! パイロットの皆さんは用意でき次第発進しちゃってください!」

 

 

 艦長の命令に、火星上空での戦闘がはじまった。

 

 

「よぉし、こっちもいくぜ! 目標は敵戦艦。フォーメーションヒガンバナ! 全機続けぇ!」

 援軍として遅れて合流した3機のエステバリスのリーダー、リョーコが叫んだ。

 

「ゆめがっあすをよんで~いる~っ! このガイ様が火星を取り戻す! いくぜっ、ガァァァイッ! スーパァァァナッパァァァァァーッ!!」

 

 しかし、そのフォーメーションに、自称ダイゴウジ・ガイがわりこむ。

 

 目標を派手に破壊し、どかーんと爆散させた。

 

 

「だぁーっ、このゲキガンバカ! てめぇ、いきなりなにしやがんだ!!」

 目標を奪われた彼女は怒りの声をあげる。

 

「ここは火星圏、冷たい真空の地獄。心持たぬ機械の虫どもを屠るとき、我が胸は興奮で満たされる。なぜ……。さあ見せてちょうだい。あなたたちの散り逝く様を」

 

「誰や、変なことつぶやいとんのは」

 

「もう、イズミちゃんいきなりハードボイルドなんだから」

 無差別通信を耳にした十三の問いに、最後のエステバリス3機の一人、ヒカルが答えた。

 

 

「緊張感のカケラもないわねぇ」

 

「バカばっか」

 

 それらの会話をブリッジで聞いていたミナトとルリが、小さくつぶやいた。

 

 

 どかーん。

 

 最後のバッタが倒され、戦闘は終了した。

 

 

「それでは皆さん、火星に降りますからナデシコに戻ってくださーい」

 

 

 艦長の号令で、出撃した全機がナデシコに戻る。

 

 

「ふう。今回もなんとかなったか」

「うん。なんとかなったね!」

 

 後ろに乗るテニアが統夜に答えを返した。

 

 あれからまたしばらくの時が立ち、彼女達も表面上は落ち着きを取り戻していた。

 

 

(でも、これから向かう火星もまた……)

 

 後ろで明るい声を出すテニアに視線を向け、統夜は思う。

 火星の状況はよいとは言えない。

 

 生き残りがいると思われる場所を巡る予定だが、そこに無残な姿となった者達が転がっていれば……

 

 

(……なるべく見せないようにする。くらいしか俺達に出来る手はないな)

 

 

 彼女達も覚悟はしているだろう。

 それでも、わざわざ見せに行く必要はない。

 

 それは、統夜だけでなく他の者達もわかっていることだ。

 このナデシコならば、そういう配慮もきっとしてくれるだろう。

 

 統夜は、そう思う。

 

 

 それがかなわないのは、別の事態。

 例えば……

 

 

 

 きいぃぃぃん……!

 

 

 

(……っ!?)

 

 

 

 その瞬間、統夜の脳裏になにかが見えた。

 光が走り、どこかの風景が浮かぶ。

 

 

「っ!?」

 

「統夜!?」

 突然苦しみの声をあげた統夜に、テニアが驚く。

 

 

「い、いや。大丈夫だ。ちょっと考え事していただけだから」

 

「もう、ぼーっとしてたら危ないよ!」

 

「悪い」

 

 

(なんだ、今のは。ナデシコが……)

 

 

 突然脳裏に浮かんだそれ。

 だがそれは、統夜の知らない場所で、知らない出来事だった。

 

 まるで白昼夢。

 そんなものを見たなんて言って余計な心配をかけるわけにもいかない。

 

 そう思った統夜は、あえて誤魔化した。

 

 

 しかし、統夜は知らない。

 これが、サイトロンの秘められた力の一つであることを。

 

 

 統夜は、まだ、知らない……

 

 

 

──ナデシコ/ブリッジ──

 

 

 

 上空の敵を撃退したナデシコは、火星の大気圏内へ降下に成功した。

 軌道上からのスキャンでは、生き残っている植民都市は皆無であり、確認できた範囲ではシェルターも全てやられている有様だった。

 

「オリンポス山にあるネルガルの研究所ならば、地下深くの施設自体が一種のシェルターです。生存者がいるならそこが一番可能性がありますね」

 

 元ネルガルの火星支社の副支配人として火星に赴任していたことがあるというプロスペクターが、その位置を伝える。

 しかし、そこへ向かおうか。となったその時……

 

 

「あれ……? 艦長。なにか通信らしきものが入っています。ただ弱くてよく聞き取れません」

 

 通信士のメグミ・レイナードが微弱な通信を耳にした。

 

 

「ルリちゃん、お願い」

 ユリカがルリにお願いし、オモイカネがそれを増幅、音声のみを抽出しノイズを除去して再生した。

 

 

「地球軍の戦艦、聞こえますか? こちら外宇宙開発機構所属、エリザベス・グレブリー(レイズナー)。地球軍の戦艦、応答してください……」

 

 それは、外宇宙開発機構のノアル達が探しに来ていた“コズミックカルチャー・クラブ”の生徒達の生き残りとその引率者の声だった。

 生存者の発見に、ナデシコが沸きあがる。

 

 

 当初の目的地を変更し、ナデシコは彼等の救出へ向かった。

 

 

 

 しかし……

 

 

 

「生き残りはこれだけだって!?」

 ナデシコに現れた生存者を見て、ノアルは驚いた。

 

 生存者は子供をふくめたった6人。

 

 それ以外の体験教室の生徒も、火星支部の職員達は皆、命を失っていたのだ……

 

 

 さらに彼等から衝撃の事実を告げられる。

 

 

 木星トカゲの背後に、グラドス(レイズナー)という異星の侵略者がいるということを。

 

 今から二週間前、まだ多くの生存者がいたころ、それは現れた。

 スカルガンナーと呼ばれる人を探し出して殺すための機械。

 

 それが、火星の生存者を次々と狩りはじめたのだ。

 

 その中で、彼等を救ったのが、SPTと呼ばれる人型兵器を持った少年。アルバトロ・ナル・エイジ・アスカだった。

 

 彼はグラドスに地球が狙われていると言った。

 エイジはグラドス人とのハーフであり、地球の危機を知らせにグラドスを裏切りこの地にやってきたのである。

 

 最初彼等はエイジの言葉を信じなかったが、彼の命がけの行動により何度も命を救われたことにより、それを信じることになった。

 

 

「お願いです。グラドスが地球を狙っていることを地球に伝えてください。彼等は自分達の正体を隠し、無人機のみを投入し、地球人同士に争いを起こさせ、その上で疲弊しきった地球を侵略しようとしています。このことを一刻も早く地球に伝え、そしてグラドス軍に対して守りを固めるよう言ってください! 地球は今、狙われているんです!」

 

 エイジが、熱く語った。

 

 しかし、ナデシコのブリッジにいた者達は、それを聞き、表情を暗くする。

 

 

「もう手遅れです。そのせいかどうかは知りませんが、すでに地球圏は戦争状態にあります」

 ルリが残酷な事実を告げた。

 

 どういうことかという問いに、プラントと連合の戦争がはじまったと伝えられた。

 

 

「そんな……だって地球でも木星トカゲと戦っていたんでしょう? なのに、どうして……?」

 生き残りの一人。アンナが悲しそうにつぶやく。

 

 もっともな疑問だが、それでも戦争は起きてしまったのだ。

 

 

「……軍人の頭は鉄かジェラルミンで出来ているのよ!」

 生き残りの一人、シモーヌが怒りの声をあげる。

 

 

「従わなければすべて敵。コルベット准将みたいな人をみたら、否定できないわよねぇ」

 

「私達も攻撃されたものね……」

 

 ミナトとちずる(コン・バトラーV)がため息をついた。

 

 

 なにはともあれ、今ここから地球へ連絡する手段は帰還する以外に方法はない。

 

 

 ゆえに、他に生存者がいるという場所を探索し、速やかに火星を去ることが目標となった。

 

 

 エリザベス達は他に最後の生存者がいるというシェルターに向かう途中だった。

 

 ナデシコはその場所を確認するため、移動することとなる。

 

 

 

──統夜──

 

 

 

 ナデシコは、ユートピアコロニーというところがあった場所にある地下シェルターを目指し移動している。

 

 生存者が見つかった。という話は朗報だったが、その彼等の口から語られた火星の現状は凄惨たるものだった。

 正直、聞かなければよかったと後悔するほどに……

 

 隣にいるカティア、テニア、メルアの三人が顔を青くして肩を寄せ合っている。

 

 やはり、彼等の話を聞き、あの時のことを思い出してしまっていた。

 

 

 ある程度の覚悟はしていただろうが、実際に生存者からその事実を聞かされれば、ショックを受けないはずがない。

 

 ユニウス7のこともふくめ、まだ乗り越えられるほどの時間はたっていないのだから……

 

 

 生存者から喜びの声が聞けるだけじゃないと予測できなかった自分の不甲斐なさが情けなく思う。

 

 

 でも、今から向かう地下シェルターに多くの人達が生き残っていれば、彼女達の心象も、少しは変わってくるかもしれない。

 そんな小さな希望にさえ、すがりたいと思ってしまう。

 

 

『地下シェルターのある地点が見えてきました』

 

 艦内放送と共に、廊下や食堂に設置されたモニターにその場所が映し出される。

 

 

「っ!?」

 

 俺は、その場所に見覚えがあった。

 あの時見た白昼夢。

 

 ナデシコがあそこに着陸して、襲撃から身を守るためディストーションフィールドで地面を押しつぶす……

 

 そして……

 

 

 その光景と、まったく同じ場所だった……!

 

 

『これから、着陸しますので衝撃に……』

 

 

 俺はそれを思い出した瞬間、ブリッジへの直通通信に走った。

 

 ボタンを押し、緊急の通信を乞う。

 

 

 早く、早くつながれ!

 

 

「どうしたんですか?」

 

「着陸するの、待ってください!」

 つながった瞬間、俺はそう叫んでいた。

 

 通信の向こう側の驚きと、一緒に待っていた甲児達の驚きの声が聞こえる。

 

 

「ど、どういうことですか統夜君?」

 

 艦長が驚いた表情で俺に問いかけてきた。

 

 

「どうしてって……あ」

 言われて、はっとした。

 

 自分自身でも、なぜ言ったのかわからない。というような声をあげてしまった。

 

 

「す、すみません。根拠はありません。突然、嫌な予感がしたんです。着陸して、エンジンを止めると大勢の人が死ぬ未来が頭に……いや、俺なにを言ってるんですかね」

 

 白昼夢を見たからやめて欲しい。

 嫌な予感がするから……

 

 そんな理由を言っても笑われるだけのはずだが、俺は一応その理由まで言い切った。

 

 ああまで言い切ってしまったのだから、理由を言わなければおさまりもつかないからだ……

 

 

 しかし、俺の言葉を聞いた全員が呆れる。

 そりゃそうだ。

 

 俺だってなにを言っているんだと思う。

 

 

 

 でも……

 

 

 

「わかりました! では、着陸せずにブルーアース(外宇宙開発機構の使う小型船)に乗って確認に行きましょう!」

 

 艦長がぶい。と指を立てて即答した。

 

 

「えええぇぇぇ!?」

 

 みんなが驚いた。

 言った、俺でさえ。

 

 まさかみんな、嫌な予感がするというだけでそれを即答するとは思わなかったからだ。

 

 

「でも、統夜君の言うことも一理あると思うんです。ここは敵の勢力圏内ですから、いつ襲われるかもわかりません。着陸しちゃって襲われれば、ディストーションフィールドで地下シェルターを押し潰しかねません。用心はしてしかるべきだと思いますから、ここはそれでいきます!」

 

 

「……いやでも、一応スジが通っているかもしれないな」

 ノアルさんが、説明を聞いて確かにとうなずいた。

 

「可能性はゼロではありませんからね。確かに」

 コン・バトラーチームの小介もうなずいている。

 

「生存者に喜んで、ちと油断していたかもしれねーな」

 リョーコさんも。

 

 どうやら、艦長の考えも間違ってはいないらしい。

 

 

 艦長などナデシコを動かすのに必要な人員は残し、甲児達一部のパイロットが地下シェルターにいる人達を確認に向かった。

 

 生存者は、百名あまりいた。

 ここ以外のシェルターは、ネルガルの施設もふくめ、2週間前から投入された敵の新型対人兵器、スカルガンナーによって掃射され、残っているのは彼等だけだという。

 

 これが、火星最後の生き残り。

 

 

 正直に言えば、少ない。

 

 でも……

 

 

「でもよかった、まだ生きている人がいた! みんな、俺達は助けに来たんだ! みんな無事に地球へ帰ろう!」

 

 火星出身のアキトさんは、それでもまだ生き残りがいたことを喜んだ。

 

 

 そうだよ。ゼロじゃなかったんだ。それを今は、喜ぶべきだ。

 

 

 

 だというのに……

 

 

 

「私達は、その艦には乗らないわ」

 

 代表としてやってきた、イネス・フレサンジュ(ナデシコ)という医者が言った。

 

 

「そんな、どういうことなんですか?」

 出迎えた艦長が困惑する。

 

「言った通りよ。この艦では木星トカゲ……さっきの話じゃグラドス軍だったかしらね。とにかく彼等には勝てない。そんな艦に乗る気にはなれないということよ」

 

「私達、ちゃーんと木星トカゲさん達に勝ってここまで来てるんですけど」

「信じてくれないのか、俺達を!」

 

 艦長とアキトさんが食ってかかる。

 当然だ。ナデシコは彼等を助けるために来たのだから。

 

 命を、かけて。

 

 

「なにもわかってないわね。そっちの混血って坊やなら、あのチューリップのことわかってるでしょう。あのチューリップと無人兵器が、なにを意味するのか」

 

「いえ……あれはここに来て初めて見ました。グラドス星では見たことがない。レイズナーのコンピュータにも登録されていない。僕にもよくわからないんです」

 

「おやおや。我々の敵、グラドス人との混血と言えど、軍人でなければその程度ってわけか。ますます一緒に行く気は起きないわ」

 

 言われたエイジが申し訳ないとしょんぼりしたのにあわせ、このイネスという女の人は畳み掛けた。

 

 

「なんてこと言いやがる!」

 エイジと一緒に火星を生き抜いてきたデビッドが声を荒げた。

 

「そうだぜ。黙って聞いてりゃ好き放題いいやがって!」

 豹馬も言い方に頭から湯気を出す。

 

 

「待て待て。残りたいってんならいいじゃないか。俺達はそれについても強制は出来ない。あとで他の生き残りにも確認して、乗りたい奴だけ乗せて帰ればいい。それでいいだろ?」

 

 事態を見守っていたノアルさんがそう提案する。

 

「ノアル、そういうわけには……」

 同僚のアキさんがいさめようとするが、頭に血が上った豹馬達はそれでいいと賛同するに……

 

 

 ビーッ! ビーッ!

 

 

 突如警報が鳴り響いた。

 

「っ!」

 皆、スクリーンへ視線を移す。

 

 

「敵襲。大型戦艦5、小型戦艦30」

 

 そこには、木星トカゲが映し出されていた。

 

 

「あ、当たっちゃった」

「ウソだろ……」

 俺の嫌な予感と艦長の用心が的中した形になり、それを見たナデシコのクルーが驚きの声をあげる。

 

 

「応戦します。ルリちゃん、グラビティブラスト、スタンバイ、パイロットの皆さんは総員戦闘配置にお願いします!」

 

 艦長が指示を出した。

 その瞬間、みんな驚いている暇などないと、意識が切り替わった。

 

「ナデシコはこのままディストーションフィールドを張ってシェルターの盾になります。皆さん、なにがなんでもここを守ってください!」

 

「ああ!」

「任せろよ!」

 

 甲児と豹馬が同時に胸を叩いた。

 

 

 あの大群からシェルターを守りきれなければ、ナデシコがこの火星に来た意味がなくなってしまう。

 

 それゆえ、パイロット達の気合も十分だった。

 

 

「俺達もいかないと! ……?」

 

 声をかけ、格納庫へ行こうとしたが、三人から返事が帰ってこなかった。

 

 振り返ると、三人はスクリーンを見て固まってしまっていた。

 

 

「お、おい」

 

 声をかけるが、反応がない。

 三人とも青い顔で、身を寄せ合いながら歯をカチカチとぶつけあわせている……

 

 三人とも、茫然自失として俺の声も聞こえていない。

 

 

 理由はすぐにわかった。

 木星トカゲにシェルターが襲われ、生き残った人達が全滅してしまうと思ったら、またあの日のことがフラッシュバックしてしまったのだ。

 

 まだたった二週間。しかも火星に来て、同じことが繰り返されてきたと何度も思い出させられている。

 

 

 そこでまた、同じ絶望的な状況に陥れば、彼女達の心に限界が来てもおかしくはない……

 

 

「統夜、お前はいい。ここは俺達に任せろ!」

「ああ。ここは俺達、コン・バトラーVの出番だ!」

 

「そうだぜ。この状況で全てを守る、まさに格好のシチュエーションじゃねーか!」

 

 甲児が、豹馬が、ガイが、俺に声をかけブリッジを出て行った。

 

 彼等は彼女達の事情を、境遇を知っている。

 だからこそ、無理に戦えなんて言わず、むしろシェルターの人達と同じように守ろうとしている。

 

 

 頼もしい。

 

 

 俺は、彼等にこの願いを託した……!

 

 

 

 ナデシコからグラビティブラストが飛び、コン・バトラーのヨーヨーが、マジンガーZのロケットパンチがバッタやカトンボと呼ばれる木星トカゲ達を次々と落としていく。

 

 エイジとデビッド、ロアンの乗るSPTもバッタを倒し、エステバリスの連携が決まる。

 

 次々と木星トカゲ達は撃墜されて行く。

 

 

 それでも、敵の物量は圧倒的だった。

 

 討ちもらした敵の砲門が火を噴き、シェルターの盾となったナデシコのディストーションフィールドを揺らす。

 

 

 その衝撃は、ナデシコ本体を揺らすほどだった。

 

 

 

 倒しても倒しても、数が減っていないように見える……

 

 

 

「くそっ、落としても落としてもきりがねぇ。どれだけ……」

 甲児が悪態をつく。

 

 圧倒的な物量の前に防戦一方であった。

 

 

「チューリップよりさらに増援。数は20」

 ルリちゃんがさらに告げる。

 

 

「なんだよあれ! なんであんなに入ってるんだ!」

 チューリップと呼ばれる母艦から次々と吐き出されるのを見て、俺は思わず叫んでしまった。

 

 大型艦まで出てくる。

 

 どう考えても、あの数はあの大きさにおさまるはずがない。

 

 

「入っているんじゃない。出てくるのよ。とぎれることなく、次から次へと。チューリップは母艦じゃない。たぶん空間跳躍のためのゲートなの。あのたくさんの敵兵器は、どこか別の所から送り込まれてくるのよ。いかにあなたたちが強くても、あの数には勝てないわ。今すぐシェルターを見捨てて逃げるのをオススメするわ」

 

 イネス・フレサンジュが冷静に解説した。

 

 だが、彼女の絶望的な宣言に、聞いてはいけないはずの三人は体を震わせる。

 

 

 それは、彼女達に言ってはいけない言葉。

 また同じことを繰り返せという、絶望の宣告!!

 

 

「うそ……」

 メルアが。

 

「またなの? ヤダ。もうヤダよ……」

 テニアが。

 

「……そんな」

 カティアが、絶望のあまり、表情を歪めた……!

 

 

 それを聞き、俺の心は沸騰した。

 彼女達の表情を見て、この現状を知って、もういてもたってもいられなくなった。

 

 

「ふざっ、けるな!」

 

 俺はその瞬間、その場から駆け出していた。

 

 

 なにが逃げろだ。

 なにが見捨てろだ。

 

 そんなことが出来ないから、俺達はここに来たんだろうが!

 

 

 一人格納庫へ走る。

 

 

「お、おい! お前一人でどうすんだ!」

 ウリバタケさんがとめたけど、そんなの従っていられるわけがない。

 

 一人じゃ動かせないのはわかっている。

 でも、だからってあそこでただ見ているなんて出来なかった!

 

 この状況で見ているだけだなんて、そんなことできるわけないじゃないか!

 

 

「動け、動け!」

 シートに座り、念じ、レバーを動かす。

 

 でも、今の俺の祈りは届かない。

 俺一人の想いだけでは、この機体は答えてくれなかった……!

 

「動け。またあいつらに辛い思いをさせたいってのかよ。動け。動けって言ってんだろ!」

 

 今動かなくて、お前になんの意味があるんだ!

 拳を握り、感情のまま、近くのパネルへ拳を……

 

 

「統夜さん!!」

 

 

「っ!」

 俺を呼ぶ声に、手が止まる。

 

 

「わたしが、わたしが乗ります!」

 

 コックピットに飛びこんできたのは、メルアだった。

 

 

 人一倍ユニウス7の虐殺にショックを受けて、一番泣き虫だった彼女が、勇気を振り絞ってやってきたのだ。

 

 

「もう、嫌なんです! なにも出来ずに、ただ見ているだけなのは。ただ逃げ惑うだけなのは。わたしは助けたい。地下のシェルターの人達を、テニアちゃんを、カティアちゃんを! だから……!」

 

 

 少女は震えていた。

 瞳には涙もたまっている。

 

 怖くて怖くてたまらないのだろう。

 

 それでも……

 

 

 それでも彼女はやってきた!

 

 

「わかった。行こう、メルア!」

「はい!」

 

 

 俺はそれを見て大きくうなずく。

 俺もこの時、彼女から貰ったんだ。勇気を。

 

 

 俺達二人がそろった時、コックピット内が力強く輝いた。

 

 

「艦長!」

 

「はい!」

 

「俺がとびこみます。チューリップまでの進路を開いてください!」

 

 

「わかりました。ルリちゃん、グラビティブラストの準備を!」

「はい」

 

 

「行くぞ!」

「行きましょう!」

 

 

 グラビティブラストの放射と同時に、俺とメルアは弾丸のように加速してナデシコを飛び出した。

 

 

 ナデシコから放たれた重力波は木星トカゲの群れに大きな穴を開いた。

 

 

 敵を吐き出し続けるチューリップまでの道。

 俺達はそこを通り、一気にチューリップへ肉薄する。

 

 

 突然現れた敵の増援。

 だが、木星トカゲ達もその接近を防ごうと、進路を塞ごうとする。

 

 しかし……

 

 

「ロケットパンチ!」

「ゲキガンフレアー!」

「ビックブラスト!」

 

 それらは仲間の援護によって次々と阻まれた。

 

 

 完全に開けたその穴に、俺達はフルスロットルで飛びこんだ!

 

 

「いけ、統夜!」

「行け!」

 

「熱血だー!」

 

 

「統夜さん!」

「ああ!」

 

 俺達の意志に呼応し、それが起動したのがわかった。

 オルゴンモードと呼ばれる、高出力モード。

 

 それが、今、発動する!

 ※これにより、前半機に最強武器が追加されます。

 

 

 肩が変形し、背に緑色に輝くマントが現れ、巨大なランスが生まれた。

 

 更なる突進力が生まれ、俺達は翠に輝くの流星と化す。

 

 

「テンペストランサー!」

 

 

 俺達はそれによって生じる力を、目の前にあるチューリップへ叩きつけた。

 

 

「おおおおおお!」

「いっけぇぇ!」

 

 その理不尽なまでの突撃力は、チューリップの強力なフィールドと装甲さえやすやすと突き破り、その巨体を刺し貫いた!!

 

 

 

 カッ!!

 

 巨大な爆発が、場に響く。

 

 

 

 こうしてチューリップは破壊され、これ以上この場に木星トカゲがあふれることはなくなった!

 

 

「あとはこいつ等を全て叩き落すだけだ! みんな、気合入れろ!」

 リョーコさんの激励が飛ぶ。

 

「おおー!」

「まかせろ!」

 

 甲児達がそれに元気よく返し、俺達の反撃がはじまった……!

 

 

 こうなればあとは、スーパーロボット達の独壇場である。

 

 

 どぉん。と最後のバッタが撃墜された。

 

 皆が、地下シェルターを振り返る。

 

 

 ナデシコの下にあるそれは、ほぼ完璧な形を保ち、ひと目で無事であることが確認できた。

 

 シェルターからは人が飛び出し、自分達の無事を示すようぴょんぴょん飛び跳ねる子供さえいる。

 転んで怪我をした者はいるかもしれないが、死者は、いない……!

 

 

 俺達は、最後に残された百人あまりの命を救いことが出来た。

 

 出来たんだ……!

 

 

「よかった。本当に、よかった……」

 シェルターにいる人達の無事な姿を見て、後部座席のメルアが声を上げた。

 

 

 あの日出来なかったことが出来て、その頬には涙が伝っている。

 

 

「メルア!」

「メルアぁ!」

 格納庫に戻った俺達を、カティアとテニアが出迎えてくれた。

 

 先に出たメルアに抱きつき、ひっしと抱き合う。

 三人はその無事を確かめ、そして俺の方を見た。

 

 

「統夜、ありがとう」

「あなたのおかげで、私達はまたあの悪夢に苦しめられずにすんだわ」

「はい。統夜さんのおかげです!」

 

 三人が一斉に俺に感謝の言葉を投げかける。

 

 

 俺はなぜだか恥ずかしくなって、あさっての方を向いてしまった。

 

 

「い、いや、俺だけの力じゃないよ。みんなと、そしてメルアの協力があったからだ」

「そんなことありません! わたしが行けたのも、いつもカティアちゃんとテニアちゃんが励ましてくれて、統夜さんが見守ってくれたからです! みんなが、いてくれたから!」

 

 

「いや、それならなおさら俺だけの……」

 

 

「いいや、そもそもお前のあの予感がなけりゃそれ以前の問題だったじゃねえか!」

 

 ばん! と勢いよく甲児に背中を叩かれた。

 

 

「そうだぜ。あの勘がなけりゃ俺達が戦うことさえ出来なかったじゃないか!」

 

 豹馬も同じく背中を!

 

 

「そうやそうや!」

 

 十三まで!

 

 

「あのタイミングでとびだしてくるたぁ、お前もわかっているじゃねえか。これこそが、俺の求めていた熱血だぁぁ!」

 

 あんたのそれはなんか違くないか!?

 

 

 なぜだか次から次へと背中を勢いよく叩かれた。

 なにがしたいんだあんたらは!

 

 

 

 ──そうしてもみくちゃにされる統夜を見て、カティア、メルア、フェステニアは思う。

 

 

(ありがとう統夜)

(ありがとうございます統夜さん)

(ありがとう統夜君)

 

 

 ──あなたのおかげで、私達はあの日から続いた悪夢を乗り越えられそうだよ──

 

 

 

「あはは」

「くすくす」

「ふふっ」

 いつの間にか、三人はそれを見て笑っていた。

 

 なんなんだよ。ったく。

 

 

「でも、本当に不思議ね。なんであんなことを?」

 カティアがもっともな疑問を口にする。

 

「わからない。突然頭に浮かんだんだ」

 そうとしか答えようがない。

 

 突然幻を見た。

 

 本当に、それだけだ。

 

「不思議なことがあるものね」

「いいじゃん。みんな助かったんだから!」

 

 テニアが笑う。

 その笑顔は、今まで見たことのない天真爛漫な笑顔だった。

 

 それに釣られたのか、二人も笑う。

 二人の笑顔もまた、今まで見たことのない、ほんわかして、綺麗な笑顔だ。

 

 きっとこの笑顔が、彼女達の本当の笑顔なんだろう。

 

 

「おおい、盛り上がっている暇はないぞ。敵はいつまたやってくるかはわからない。さっさと乗りたい奴を収容し、とっととここからオサラバするんだからな」

 

 ノアルさんがそう告げ、ブリッジの方へ戻っていった。

 

 

 確かに、まだまだ本当の意味で助かったわけじゃない。

 俺達は、少しだけ冷静に戻った。

 

 

 

 地下シェルターで改めて命が助かった者達は考えを改めたのか、今度は素直にナデシコへ乗りこんだらしい。

 

 こうして、百余名の生存者を、ナデシコは救い出すことに成功したのである……

 

 

 だが、地下シェルターを守るため盾となったナデシコ自身もボロボロだった。

 

 

 特にエンジンがひどいらしく、どうにかして修理しなければ、大気圏の離脱もままならないという。

 

 一難去ってまた一難とは、まさにこのことである。

 

 

 

 第3話終わり

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