──カティア──
地球圏に戻ってしばらく。ナデシコは中立都市、ヘリオポリスに入港し、修理を受けています。
当然、修理が終わるまでは航海は不可能だから、私達はひと時の休息を得ることが出来ました。
中立都市という決まりを守らぬ宇宙生物(ラダム)や木星トカゲがいるため、半舷上陸で全員が一度に休めるというわけではなかったけど、私達は火星に向かってから今まで張り詰めていた空気を解いて、統夜君達と一緒に羽を伸ばすことになったの。
「だからテニア、食べ物は両手でおさまる分にしろ……って、俺に持たせるな!」
「統夜さん統夜さん。これ、ちょっと持っていてください。あっちに別のクレープ屋さんが!」
「メルアまで! 食べるぞこれ!」
「ダメー!」
「だめですー!」
「まったく」
統夜君が呆れたように肩を落とした。
ひさしぶりの街ということで、色々食べ歩きをしながら歩いている私達。
テニアもメルアも、目につく食べ物甘い物に飛びつくから、すぐ両手が塞がってしまう。
その結果が、これである。
「ひさしぶりに安らげる時間なのだから、許してあげて」
注文したアイスを店主から受け取りながら、私は肩を落とした統夜君に声をかけた。
私はあそこまで羽目を外すつもりはないけど、気持ちはわかるから。
「……そうだな。俺達、帰ってきたんだもんな」
「ええ」
今までなかった、平和な時間。
これがほんのひと時の休息だとわかっていても、堪能しないわけにはいかないわ。
「あ、そうだ。これ、統夜君の分よ」
さっき受け取ったアイスを渡そうとするが、彼の両手が塞がっていることを思い出した。
しかし私の手にあるのはアイス。
早く食べなくては溶けてしまう。
どうする? どうする私! と考えた結果、少し慌てて行動したのは、これだった。
「じゃあ、はい」
統夜君にアイスをさしだし、食べさせてあげる。
いくら私の手も自分と統夜君のとで塞がっているとはいえ、あとで冷静に考えればこれはないと思う。
でも、その時はそれしか考えられなかったの!
「え? い……え?」
なぜか困惑する統夜君。
「早く食べないと溶けてしまうわ」
食べさせないといけないという使命感に駆られた私は、それ以外なにも考えられず、統夜君をじっと見つめる。
ほら、早くしないと溶けてしまうわ!
「そ、そうだな……」
統夜君が、私の手からアイスを食べた。
「あー、カティアが統夜にあーんしてるー!」
「っ!」
戻ってきたテニアに指摘され、はじめて気づいた。
確かにこれって……
頬がカーッと赤くなったのがわかった。
「べ、別にそういうつもりじゃ!」
「そ、そうだ。お前達が俺の両手を塞ぐのが悪いんだろ!」
「それはそれ、これはこれだよ! はぐっ」
「って、俺に持たせたまま食べるな!」
「統夜さん統夜さん。わたしもわたしも!」
「親鳥か俺は!」
テニアとメルアが統夜君に群がる。
「結局統夜君には私が食べさせるしかないじゃない」
「ホントだー」
「本当ですねー」
「いや、自分で持てよ……」
私達は、みんなで笑いあった。
あの日から、こんな時間がくるなんて思っても見なかった。
バカみたいな時間だったけど、とても有意義で、貴重な時間だったと思うわ……
──崩壊の大地──
彼女達がひと時の休息を得た中、ヘリオポリスはザフト軍の襲撃を受けることになった。
中立都市、とは名ばかりで、そこでは連合の新型機が秘密裏に開発されていたのだ。
ガンダムと呼ばれる5機のモビルスーツ。その奪取を企んだザフトは、そのうちの4機の強奪に成功する。
しかし最後の一体。ストライクガンダムに偶然乗りこんだキラ・ヤマトは、まともに動かない機体のOSを書き換え、ザフト軍へ立ち向かった。
一方、修理途中のナデシコは襲撃のショックで出口が塞がれてしまっていた。
彼女達は脱出を優先させるため、ヘリオポリス内を通り反対側の港へ移動しようとするが、ザフトのモビルスーツに問答無用で襲われてしまう。
降りることを決めていた統夜達も、この場を生き延びるため、否応なしに機体へ乗ることとなる……
※パートナーは自由に乗せられるため、統夜のサポートとして誰を乗せているかで会話が多少変化します。
──カティア搭乗時──
カティア「いいの、統夜君?」
統夜「……いいんだ。今はこれで。戦いたいとは思わない。このままでいいとも思わない。だけど、今はこうするしかないから。お前達こそいいのか?」
カティア「私だって戦いたいなんて思ってない。でも、戦わなければ生き残れないわ。だから、統夜君がグランティードに乗ってくれる限り、私達はあなたと一緒にいて、あなたを守るわ」
──フェステニア搭乗時──
フェステニア「統夜、大丈夫? やるの? ホントにいいんだよね?」
統夜「……いいんだ。今はこれで、戦いたいとは思わない。このままでいいとも思わない。だけど、今はこうするしかないから。お前達こそいいのか?」
フェステニア「うん。統夜が一緒に戦ってくれるなら、アタシはそれでいい。生きるためなら、アタシはいくらだって戦ってやるんだ。あいつらもやっつける!」
──メルア搭乗時──
メルア「統夜さん……あの……」
統夜「……いいんだ。今はこれで。戦いたいとは思わない。このままでいいとも思わない。だけど、今はこうするしかないから。お前達こそいいのか?」
メルア「はい。わたし達は、統夜さんがグランティードに乗ってくれるかぎり、すべてを統夜さんに任せるって決めましたから。一緒に、戦いましょう」
──戦場/ヘリオポリス──
戦闘中、連合が秘密裏に建造させていた戦艦、アークエンジェルと合流し、ナデシコ一行はヘリオポリスからザフト軍を叩き出すことに成功する。
安心するのもつかの間。ザフトは拠点爆撃用の装備を持ち出し、ヘリオポリスを巻きこむ攻撃を仕掛けてきた。
二隻の戦艦はコロニーの外へ出てそれに対処するも、奮闘むなしくヘリオポリスは崩壊してしまうのだった……
──カティア──
戦後、ヘリオポリスから放り出されたシェルターの救命ポットをキラ君が拾ってきた。
どうやら推進装置が壊れ、避難できず浮いていたのを見つけたらしい。
軍艦であるアークエンジェルではあつかえないとナタルさんに断れたので、ナデシコで預かることになった。
その時、ポットを運んできたキラ君に統夜君が話しかけているのが見えた。
聞けば、彼も私達と同じように巻きこまれ、友達を守るためストライクに乗ることになったのだとか。
状況としては、私達より統夜君に近い。
だから統夜君も共感してか、彼のことを気にかけていた。
確かに見た限り、思い詰めやすいところがありそうだから、連合軍の方から正式なパイロットがきて戦わずに済むようになるまで気にかけた方がいいかもしれないわね。
でも、統夜君。いくら余裕が出てきたからって、キラ君だけじゃなく他の人のことを気にかけるのもほどほどにね?
あなただって、一人で背負いすぎるきらいがあるのだから。
──宇宙空間──
修理の拠点を失ったナデシコは、アークエンジェルと共に月を目指すことになった。
その道中、一行はデブリの中からプラントの脱出ポットを発見し、プラント最高評議会議長の娘、ラクス・クラインを思いがけず救出してしまう。
彼女は追悼慰霊式典のための視察に来ていたのだが、乗っていた船が木星トカゲの攻撃を受け、轟沈する前に彼女だけ脱出させられたのだ。
友軍から通信が入る。
第8艦隊から派遣された先遣隊がアークエンジェルの補充要員を乗せた艦と一緒に合流のため近くに来ているのだという。
しかしその先遣隊はザフト軍に襲撃を受けてしまう。
救援に駆けつけようと向かうが、隊をわけたザフト軍にアークエンジェル達も襲撃され、その壊滅に間に合わなかった。
さらにアークエンジェルはミラージュコロイドと呼ばれる迷彩機能によって姿を消したブリッツガンダムに艦橋をおさえられてしまう。
絶体絶命となったその時、ナタルが先ほど救出したラクスを人質にして事なきを得た。
だが、そのやり方にナデシコに乗っていた甲児達は反発。
やり方を嫌ったキラに協力し、ラクスを連れ出し彼女をザフトに返してしまった。
人質を取り返し、キラ達を襲おうとするザフトだったが、ラクスの一言でザフトは撤収する。
しかし人質の受け渡し場所に指定されたところはエイリアンの出現地帯であり、ザフトが逃げ出した直後それらが出現した。
エイリアンとの戦闘中、以前ソレと戦っている際回収した男(Dボウイ)が目を覚まし、テッカマンブレードに変身してエイリアン。ラダム獣と戦いだした。
その最中、ブレードによく似た姿を持つエイリアンの仲間、テッカマンダガーが姿を現し戦線に加わり、戦いはさらなる混乱を極めることになる。
統夜達はブレードと協力しダガーをなんとか退けたものの、さらにこの戦闘をかぎつけた木星トカゲに周囲を包囲されてしまう。
追い詰められた結果、ナデシコとアークエンジェルは大気圏に突入するはめとなり、意図せずアフリカへ降下することとなった。
──地球/アフリカ──
アフリカの大地に立ち、改めて地球の惨状を目の当たりにした統夜達は息を呑んだ。
火星に向かう前に見た地球とはまったく違う、変わり果てた姿となっていたからだ。
プラントとの戦争によって引き起こされた破壊や、ニュートロンジャマーキャンセラーによって引き起こされたエネルギー不足と電波障害による街の変遷。
それだけでなく、大地に根を張り増え続けたラダム樹の森の光景が、ここは地球とは別の世界ではないかと錯覚させた。
統夜達の落下したアフリカは現在ザフトの勢力圏内。
他にも木星トカゲやラダムなど、火星から帰ってきたばかりのナデシコとしてはもう少し情報が欲しいところだった。
情報収集のため周囲をうかがっていたルリは、近くで戦闘が行われていることを察知する。
木星トカゲと正体不明の機動兵器の戦い。
こちらに火の粉が飛んできてはたまらないと、偵察を出すことになった。
統夜と甲児とアキト。そして引率にリョーコ(ナデシコ)とムウ(ガンダムSEED)で偵察に向かう。
それはきっと、運命の導きだったのだろう。
そこで統夜は、あの日彼女達の乗る機体を追ってやってきた正体不明の未確認機と再び邂逅するのだった……
──砂漠──
「チッ、しつこいヤツ等だな、まったく」
ジュア=ムは倒しても倒しても襲い来る木星トカゲのバッタを相手に悪態をついた。
完全無人機であるがゆえ、どれだけ倒しても相手は恐れず怯えもしない。
どれだけ倒されようと、ただただ命令されるままこちらを攻撃してくるだけだ。
「さらに6体現われました。きりがありません準騎士様」
共に調査にやってきた従士もうんざりしたようにジュア=ムへ告げた。
自分にそんなことを言ってもしかたがないだろうとジュア=ムは思ったが、しかりつけても状況は変わらない。
「ジュア=ム、なにをやっている。我々が調査のために出たことを忘れたのか」
背後に突然騎士の反応が現われた。
いわゆる空間転移でジュア=ムの上司である騎士のアル=ヴァンが現われたのだ。
「アル=ヴァン様。しかしこいつらが……」
「余計なことをしている時間はない。やるなら一気に叩くぞ。ラースエイレムを使う。それを殲滅し、引き上げるぞ」
「了解であります!」
「残りは6機。サイトロンサイティング終了。オルゴン・エクストラクター出力上昇。ラースエイレム駆動開始」
アル=ヴァンの乗る機体。
ラフトクランズから光が放たれた。
刹那、6機のバッタは動きを止める。
「止まりやがったか。無人機どもめ」
「……ステイシス確認。ジュア=ム、始末しろ」
「ハッ! お前達、かかるぞ」
「はっ!」
ジュア=ムと二人の従士は動かなくなったバッタにむかい攻撃を仕掛けた。
「あそこか。さぁて。グラドスの無人兵器と戦っているのはどこのどいつなんだ?」
偵察にやってきた甲児達がその場に到着し、バッタを殲滅するジュア=ム達を見つけた。
ジュア=ム達の乗る機体は連合の物でもなければザフトのものでもない。
見たことのない機体だった。
「それより、なんでか知らないが、バッタども全然動いてないみたいだぜ」
リョーコが一方的な戦いになっているそれを見て、首をひねった。
最後の一体に攻撃が刺さり、バッタ達が一斉に爆発した。
「……む? 発見されたか。となれば、逃がすわけにはいかん。ジュア=ム、いいな?」
「アル=ヴァン様。あれは……」
ジュア=ムが偵察に現われた機体の中に、統夜の乗るグランティードを見つけた。
「あの時逃がした機体か。まだ無事だったとはな。見るに、相当実戦を重ねてきたようだ」
「も、申し訳ありません。自分のミスで……」
満足に動かせない娘達だけなら木星トカゲに破壊されるだろうとたかをくくったジュア=ムの判断ミスであった。
「いや、いい。これで確実に捕獲できるのだ。あの方がなんのために命をとしてまであれを残したのかはわからぬが、それはこれから確認させてもらうとしよう。他は全て始末する」
「ハッ!」
アル=ヴァンが、先のバッタを停止させたのと同じく『ラースエイレム』を駆動させようとする。
同時に、統夜とそのパートナーの乗る機体がなにかを感じ取り、反応した。
ナニカが、ゆっくりと動き出す……
「統夜、どうした?」
統夜達の異変を感じた甲児が声をかける。
「わからない。けど、多分あれは俺達を攻撃してくる……」
「あの連中は敵だっていうのか?」
引率できていたムウが聞く。
「そうか! どこかで見たことあると思ったら、あの時学校に出たヤツと同じだ!」
甲児がジュア=ムの乗るヴォルレントを見て思い出した。
それが、カティア達を追って学校近くまでやってきた正体不明機だったことを!
「なんだって!? あいつらが……」
学校で彼女達と出会った時は空など見ている暇などなかった統夜が納得の声をあげる。
「許せよ、この場に居合わせたお前達が不運だったのだ。せめて苦しみも恐怖もなく終わらせてやろう」
サイティングが終了し、『ラースエイレム』が駆動する。
アル=ヴァンの乗るラフトクランズが一瞬輝いた。
統夜の目が、その光に眩む。
「うっ、なんだ、今のは……」
視界を取り戻すと、正体不明の機体がこちらに攻撃を仕掛けてくるところだった。
「来る!? みんな、来るぞ! 甲児!」
「……」
「アキトさん!」
「……」
「リョーコさん! ムウさん!」
「……」
「……」
だが、統夜の声に誰も返事を返さなかった。
それどころか、彼等の機体はピクリとも動かない。
「なんだ……? みんな動きが止まっている!? くそっ、いったいどうしたんだ! なんなんだよこれは!」
パートナーのモニターに、今まで見たことのないデータが表示され、ついにナニカが起動した。
「勝手に動く? ……そう、そうだったのね。これが彼等のやっていることなら、私達にはそれを止める力がある。だからあの人は……統夜君、私に任せて。なんとかできると思う。エクストラクターの出力を限界まであげるわ!」(カティア搭乗時)
「え? アタシなにもしてないのに、なんで動くの? ……そっか。そういうことなんだ。わかったよ統夜。あの人がこれを守れって言った意味。みんなとまったのがあいつらのせいなら、グランティードには、アタシ達にはソレを止める力がある。統夜、出力を限界まであげるよ! 止められるはずなんだ。アタシ達なら!」(テニア搭乗時)
「え? わたし、なにもしてない。なのに……そうか。そうなんですね。だからあの人はわたし達にグランティードを……統夜さん。甲児さん達が動かないのがあの人達のせいなら、わたし達にはそれをやめさせることができます。だから、エクストラクターの出力を臨界まであげますよ!」(メルア搭乗時)
「なんだって!?」
突然言い出したパートナーに、驚きを隠せない統夜。
だが、サイトロンシステムの特性を考えれば、ソレの使い方が頭の中に入ってきたとしても不思議はない。
さらに彼女は指示を出す。
統夜にむかい、ラフトクランズ。『ラースエイレム』を駆動させているアル=ヴァンの機体へ意識を集中しろと。
統夜は無言で意識をそこに向ける。
直後……
ナニカが、開放された感覚が二人を襲う。
グランティードから見えないなにかが放出され、アル=ヴァンのラフトクランズが小さく揺れた。
「なに? なんだ、今のは……?」
アル=ヴァンが違和感を覚える。
「待て、ジュア=ム。ステイシスが確認できん。どういうことだ、これは」
動き出したジュア=ム達を制止する。
「こっちにくる!? あいつらやっぱりやる気かよ」
「どうするんだ大尉」
「どうするったって、やらなきゃ逃げることもできんでしょうよ」
「来る!?」
甲児とリョーコ、そしてムウ、アキトがジュア=ムの突撃に反応して声をあげた。
それはあの止まっていた間のことはなかったかのようだ。
「みんな!」
動き出した皆を見て、ソレが成功したのだと統夜は確信する。
動き出した甲児達を見て、ジュア=ム達は思わず足を止めた。
「バカな! あいつらなんで動く! アル=ヴァン様、どういうことです?」
「やはりか。どうやらラースエイレムが正常動作していないようだな。古い機体だ。調整が完全でないのかもしれん。戻ったら確認しなければな」
「なら、どうしますか?」
「あの程度の数なら我々の敵ではない。戦って叩くだけのこと。だが油断はするなよ。お前達の機体も大切なことにはかわらない」
「ハッ!」
「了解であります、騎士様」
ジュア=ムと従士がアル=ヴァンの言葉に従い、統夜達5機に襲い掛かった。
従士がアキトとリョーコに迫り、翻弄する。
「速い!」
「いかせるかよ!」
統夜を目指すヴォルレントに向かい、マジンガーZがロケットパンチを放った。
しかし、それは空を切る。
「かわした!?」
甲児はそれを追おうとするが、別の従士が間に入った。
「行ったぞ統夜。気をつけろ。こいつら手ごわい!」
「くそっ」
統夜は迫るヴォルレントへ反撃しようとした。
だが、この時技量はジュアムの方が上だった。
どごんと、痛烈な一撃が統夜とその機体を襲う。
「うわあぁぁぁ!」
「コイツで終わりだ!」
ジュア=ムがさらに、追撃を加えようとした。
だが……
ひゅるるるるる。
どどーん。
統夜とジュア=ムの間に砲撃が撃ちこまれた。
さらにマジンガーやエステバリスを助けるように、従士達にむけても砲撃が飛ぶ。
突然の砲火にさらされたジュア=ム達は、アル=ヴァンのそばへとおし戻された。
「……ジュア=ム、退くぞ」
「アル=ヴァン様!? あの程度、我等だけでも!」
「この砲撃は威嚇だ。これ以上戦えば彼等の仲間だけでなく先の奴等や他の敵も集まってくるだろう。我等の目的はあくまで調査。ここで無理をすることはない。元はといえば、『ラースエイレム』が動かなかったことが原因だ。早急に原因を調べる必要もあるしな」
「ではあの機体も放っておくというんですか!?」
「君の報告どおり、さして強力とも言えんようだ。いずれ機会もあろう。今は退くぞ」
「……はっ」
アル=ヴァンの決定に、ジュア=ムは素直に従った。
(……しかし、あの機体のパイロット、逃げ出した娘達だけではない? サイトロンの適性を持つ人間が他に乗っているというのか? いや、まさかな)
違和感を感じつつも、アル=ヴァンはオルゴン・クラウドを発動させ、この場から消え去った。
空間跳躍したのだ。
「消えた!?」
「まさか、空間転移したってのか?」
ふっと消え去った正体不明の敵を見て、アキトとリョーコが驚きの声をあげる。
「おいおい、なんだよそれは、そんなもん聞いたこともないぜ」
ムウもどこか呆れたようにつぶやいた。
「最初に見た時もそうだったぜ」
唖然とするアキト達に、甲児はかつてのことを思い出す。
あの日も同じように、光に包まれ消えてしまった。
(あれがあいつ等の家族を殺した奴等か。それにしても、さっきのはなんだったんだ。みんな覚えてないみたいだけど……)
止まっていたのを認識していない甲児達を見て、統夜はその疑問を浮かべた。
「やれやれ、どうもやっかいな敵らしいなあれは。それにしても助かったな。あの援護をしてくれたのは一体なんだったんだ?」
援護が来たのはナデシコ達がいる方ではない。
つまり、正体不明の存在が助けてくれた。ということである。
ムウがそちらの方へ視線を向けると、見たことのない機体が姿を現した。
「さてと。とりあえず助けちゃったけど、ホントによかったんだろうね、カガリ」
「ああ。あいつらがナデシコとアークエンジェルの連中なのは間違いない。斥候がその2艦を確認しているんだ」
現われた機体(ダンクーガ)のパイロットが、カガリと呼ばれた女の子に声をかけた。
彼等を助けた機体はダンクーガ(超獣機神ダンクーガ)と呼ばれる“ミスリル(フルメタルパニック)”に所属する獣戦機隊だと語った。
もう一人の少女、カガリ(ガンダムSEED)はザフトと戦うレジスタンスの支援に当たっていたが、残念なことにレジスタンスはすでに壊滅。
どうにかしてこのアフリカから脱出することを望んでいた。
ゆえに彼等はアークエンジェルとナデシコに力を貸し、アフリカから脱出しようと考えていたのである。
──襲撃──
直後、慌てたようにナデシコが現われた。
先の戦闘をかぎつけたのか、ラダム獣が宇宙から降ってきていたのだ。
傷ついた機体のまま統夜達はラダムを迎撃する。
戦闘をかぎつけたのはラダムだけではなかった。
突然地面の下からデスアーミー(機動武闘伝Gガンダム)とその親玉、デビルガンダムまでもが現われたのだ。
一定のダメージを与えると、デビルガンダムは地面に潜り逃げ出してしまう。
この時デビルガンダムを追って現われたドモンとレインも、この後仲間に加わわることになる。
戦闘終了後、ダンクーガに乗る獣戦機隊からアフリカの情報を手に入れ、今度の行動を決めることになった。
アフリカはザフトの勢力圏内であり、木星トカゲを吐き出すチューリップなども無数にあるため、無策で突破するのは容易ではない。
であるから、ナデシコの艦長、ユリカはある作戦を立てた。
それは、ナデシコが囮となりザフト軍の目をひきつけ、地中海方面から内陸部を通り東アジアへ向かう。というものだった。
アークエンジェルはその隙に、手薄となった紅海側からインド洋へ抜けるのだ。
二艦が一緒に動けばザフトも戦力を結集してくるので、別れて移動すればいいという考えだ。
囮となるナデシコは大きなリスクがあるが、ナデシコ単艦ならばなんとかなるという目算もあった。
しかし、アークエンジェルの戦力はムウとキラのみ。万一敵の襲撃があった場合心もとない。
そう心配の声が出るが、ユリカにはそれにもちゃんと考えがあった。
アークエンジェルがインド洋を通って太平洋へ抜けるのなら、オーブ近海(オセアニアのあたり)も通る。
そしてナデシコには現在、ヘリオポリスで救助したオーブの国民が乗っている。
その人達をアークエンジェルによってオーブに送ってもらい、その代わり外宇宙開発機構(テッカマンブレード)の面々とエイジ達(レイズナー)を同行させるのである。
ナデシコの目的地は東アジア(日本)であるため、オーブの国民もそこで降ろされてもこの情勢下でいつオーブにいけるかわからないというのもあるからだ。
二手に別れる場合、その方が効率がよいと面々を説得し、ナデシコとアークエンジェルは二手に別れることとなった。
──ナデシコ/食堂──
二手に別れることが決定し、ナデシコからアークエンジェルに乗り換える人達がいる中、ナデシコに乗ったままとなる統夜や甲児達は食堂で休んでいた。
そこに、ナデシコの会計も務めるプロスペクターがやってくる。
「ああ、皆さんこちらでしたか」
「どうしたんですか?」
一番近くにいたコン・バトラーチームのちずるが聞く。
「獣戦機隊の皆さんやカッシュさん達はナデシコに同行することになりました。こちらの戦力はだいぶ整っていますので、できればもう少し軍に恩を売っておいた方が後々のためになると思いましてね」
「悪いけどオレ達は研究所に帰るのを優先するぜ」
「俺達もだ」
甲児と豹馬がはっきりきっぱりと言い切った。
無事火星から戻ったとはいえ、研究所を発ってもう8ヶ月以上もたっているのだ。
この現状での日本の現状も気になる。ゆえに、これ以上寄り道はしていられないのである。
「わかっています。ですから、ここは統夜さんにお願いしたいと」
「俺が……?」
プロスペクターの提案に、驚きの表情と共に自分を指差した。
「ちょっと待ってくれよプロスペクターさん。統夜はもう……」
「はい。降りると決めたのはわかっています。ですが、今はまだ戦力が必要な時ですから。あくまでお願いになりますが、いかがですか?」
「……」
統夜は共に戦うことになる三人へ視線を向ける。
あの機体は統夜一人で動かせるものではない。ゆえに、彼女達の意見も聞かねばならないのは当然のことであった。
しかし、彼女達の意思を確認する前に発せられた統夜の一言に、全員が驚くこととなる。
「三人とも、俺、降りるのをやめようと思うんだ」
「ええっ!?」
「っ!」
「それって!」
「お前達さえよければ、俺と一緒に戦って欲しいんだ。俺のわがままで振り回してばかりだけど……」
「いいえ、そんなことはありません!」
「そうだよ。統夜が乗るって言うなら大歓迎だよ!」
「あなたが決めたのなら、私達も従うわ。統夜君。一緒に戦いましょう」
驚きの中、三人も大きくうなずく。
「わかった。プロスペクターさん……」
──ルート選択/アークエンジェルに乗艦する──
「いいのかよ」
アークエンジェルに乗ると快諾した統夜に、甲児も驚きを隠せない。
「ああ。考えたんだ。俺になにができるのかって。俺が乗ることで、誰かの助けになるのなら、力を貸そうと思う」
統夜は力強くうなずいた。
その瞳に、迷いはない。
「そうか。今のお前なら心配ないな。一緒に研究所に戻れないのが残念だぜ」
「ちゃんと帰るから、大丈夫だ。俺達の帰り、待っていてくれよ」
「ああ」
そう言い、甲児と統夜は拳をぶつけ合わせた。
「そうですか。行ってくれますか。ではラミアス大尉には話を通しておきます。ボーナスも期待しておいてください。よろしくお願いしますよ」
こうして統夜達は、アークエンジェルと共にオーブへ目指すことになった。
──ルート選択/ナデシコに残る──
「……俺は、こっちに残らせてください。どうせ戦うなら、俺はみんなと一緒に戦いたい」
「へへっ、嬉しいこと言ってくれるじゃねえか」
統夜の背中を甲児がバンバンと叩く。
共に戦うことを決めてくれたのだから、嬉しさもひとしおなのだ。
「そうですか。わかりました。しかたありませんな。出発は明日の予定です。皆さんよく休んでおいてください」
こうして、統夜はナデシコと共に東アジアを目指す。
──ナデシコ/居住区/通路──
ルート選択も決まり、統夜は自室へ戻るため通路を歩いていた。
「統夜君!」
「お前達か。どうしたんだ?」
統夜の背中に声をかけたのは、カティア。
さらにその後ろにはテニアとメルアもいる。
「聞かせて。さっき言ったことの意味を」
さっきは勢いでうなずいてしまったが、なぜ降りるのをやめるにいたったのか。なぜ、再び戦おうと思ったのか。その理由がなんなのか、聞きに来たのだ。
「……俺さ、ずっとこんなことはもうやめたいと思ってたよ。死にたくないと思ってた。お前達がもういいと言ってくれたおかげで、素直にやめると口に出来た。でもさ、そうして前の生活に戻ったところで、俺は前と同じように暮らせるのかなって考えたんだ」
「……」
彼女達は、統夜の言葉に静かに耳を傾ける。
「そうしたら、無理だって思えたんだ。火星でグラドスと戦って、フクベ提督やガイさんが死んだ。地球圏に戻ってきて、ザフトの奴等がヘリオポリスを破壊するのも見た。アキトさんの悩み。キラの苦悩を見て、それから今の地球のひどい状況を思い知らされた。こんな状況を見せられて、前みたいに普通でいいなんて暮らせるわけがない」
統夜は自分の手を握り、それをじっと見つめた。
「こんなひどい状況の中で、俺になにが出来るのか。本当に俺に出来ることがなにかあるのか。こんな状況の中で、誰かを助ける力が俺にあるのなら、俺も、甲児や豹馬達みたいに戦わなきゃいけないんじゃないかって、そう思ったんだ」
「統夜さん……」
「だから、俺も覚悟を決めたんだ。逃げずに、戦おうって。そうすれば、お前達も堂々とここにいられるしな」
拳から、三人に視線を向け、統夜は笑った。
「だから、力を貸してくれ。お前達がいないと、俺は戦えないからさ」
「もちろんだよ! 統夜がやる気になれば、あの人との約束だってちゃんと守れるから!」
「はい。統夜さん、よろしくお願いします」
「ありがとう。統夜君」
「感謝されるようなことじゃないさ。それに、俺は、いや、俺達は戦わなくちゃいけないんだ。俺達しか動かせない、あの機体が必ず必要になる時が来るから」
どこか確信めいたように、統夜は遠くを見た。
「なにか、見えたの?」
「わからない。お前達があの時なにかを動かしたように、俺にもなにかが見えたのかもしれない。あの時みたいに……」
あの時。
火星においてナデシコが生存者を殺してしまう幻が見えたように、統夜はまた、なにか予感めいたものが見えたのかもしれない。
統夜達はうっすらと気づいていた。
あの時見た白昼夢は、サイトロンが見せたあり得た未来だと……
「それより統夜さん。もう一つ聞きたいことがあるんです」
メルアがいつものほんわかした表情を引き締め、なにか決意をこめたような目で統夜を見る。
「ん? なに?」
「テニアちゃんから聞いたんですけど、綺麗な女の子の夢を見たってお話、どういうことなんですか?」
「え? テニア。どういうこと?」
「今朝さ、元気がないからどうしたのかって聞いたら統夜のヤツ知らない女の子が出たって夢を見たって嬉しそうに言うんだよ。心配して損したって話!」
「統夜君、どういうこと?」
「どういうことって、ただの夢だよそれ! それに嬉しそうって言いがかりだ! アレを見た後は頭が重く感じるんだよ! 大体元気がないから声かけたんだろ。そこから嬉しそうっておかしいだろ!」
「ふぅん」
「そうなんですかぁ」
「なんでお前等までいきなり不機嫌になるんだー!」
……こうして統夜達は、宿命の戦いに身を投じることを決めた。
彼等のこの決断。
それが、人類の未来を大きく左右することになると、まだ自覚せずに……
──????──
「問題はないだと?」
アル=ヴァンがその結果を聞き、驚きの声をあげた。
「はい、騎士様。すべて正常に作動しております。念のためデータをフー=ルー様とグ=ランドン様の機体のものと比較いたしましたが、差異はありませんでした」
調査を担当した従士が改めて答えを返す。
「しかし、確かにあの時ステイシスフィールドは発生しなかったのだ。どういうことだ」
「申し訳ありません。我々にはわかりかねます」
(まさか、あの機体……あの方がしようとしたことは、それだったというのか……? だが……)
第5話終わり